説明

置換銀メッキ浴

【課題】 置換銀メッキにおいて、光沢のある銀白色の美麗な銀メッキ皮膜を得る。
【解決手段】 可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、オルトリン酸、縮合リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれたリン酸類の少なくとも一種を含有し、且つ、当該リン酸類の含有量が0.5モル/L以上である置換銀メッキ浴である。特定のリン酸類を所定以上の濃度で含有することで、銀皮膜が黒変したり、色調むらが発生するのを防止でき、光沢のある銀白色の美麗な銀皮膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換銀メッキ浴に関して、光沢のある銀白色の美麗な銀皮膜が得られるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や自動車部品などの工業メッキ分野では、ハンダ付け性に優れる見地からスズ又はスズ合金メッキが汎用されているが、ホイスカー発生の問題がある。
銀メッキはホイスカー発生の問題がスズより少なく、ハンダ付け性も良好である。そこで、置換銀メッキ浴の従来技術を挙げると、次の通りである。
【0003】
(1)特許文献1
密着性、耐食性などの皮膜物性の向上などを目的として(段落33)、分子内に2個のモノスルフィド基を有する含イオウ有機化合物と、次亜リン酸、亜リン酸等の次亜リン酸化合物、ホルマリン等のアルデヒド化合物、ヒドラジン、セミカルバジド等のヒドラジン誘導体、アスコルビン酸などの還元剤とを含有する無電解銀メッキ浴が開示されている(請求項1〜4)。
上記含イオウ化合物は機能的には銀の錯化剤であり(段落10)、構造的には水酸基、カルボキシル基などを有し、2個のモノスルフィド基の間に2〜8個のメチレン基を有する化合物である(請求項2)。含イオウ化合物の具体例としては、1,2−ビス(2−ヒドロキシエチルチオ)エタン(HOCH2CH2−S−CH2CH2−S−CH2CH2OH)などが挙げられる(段落18)。
【0004】
(2)特許文献2
緻密性、密着性などの外観に優れた皮膜の形成などを目的として(段落7、29)、分子内に2個のモノスルフィド基を有する含イオウ有機化合物を含有し、pHを7以下とする置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1)。浴には、密着性を損なうことなく、析出速度を向上する(厚付けする)見地から、チオ尿素類(1〜150g/L)を含有でき(請求項5、段落20〜22)、また、pH緩衝剤として、リン酸、トリポリリン酸、ホウ酸、酢酸などの塩を含有できること(段落23)が記載されている。
【0005】
(3)特許文献3
チオ尿素類(C=S結合をもつ含イオウ化合物)とヨウ素化合物を含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項5〜6)。
また、ピロリン酸類とチオ尿素類(C=S結合をもつ含イオウ化合物)とヨウ素化合物を含有する置換スズ−銀合金メッキ浴が開示されている(請求項8〜9)。
【0006】
(4)特許文献4
皮膜外観の向上などを目的として、1個のモノ又はジスルフィド結合と、1個以上の水酸基とを分子内に有する脂肪族スルフィド系化合物を錯化剤に含有する無電解銀メッキ浴が開示されている(請求項1)。脂肪族スルフィド系化合物は、ビス(トリエチレングリコール)チオエーテル(H−(OCH2CH2)3−S−(CH2CH2O)3−H)、ビス(ドデカエチレングリコール)チオエーテル(H−(OCH2CH2)12−S−(CH2CH2O)12−H)などである(段落15)。
当該浴には、チオ尿素類を含有でき(請求項3、段落25)、また、還元剤として次亜リン酸、亜リン酸などを含有できること(段落27)が記載されている。
【0007】
(5)特許文献5
チオグリコール酸、チオジグリコール酸、チオリンゴ酸、チオ尿素などの含イオウ化合物を安定剤として、また、次亜リン酸塩、ロッセル塩、ヒドラジン、ギ酸塩などを還元剤として含有する繊維用の無電解銀メッキ浴が開示されている(請求項1)。
【0008】
(6)特許文献6
銀、スズを含む合金の無電解メッキ浴が開示され(請求項23〜24)、当該メッキ浴には、還元剤としてリン含有化合物(次亜リン酸類)、チオール類、チオ尿素類、窒素含有化合物、ホウ素含有化合物などを含有でき(請求項3、5)、また、安定化剤として含イオウ化合物(メルカプトカルボン酸、チオジカルボン酸等)、チオ尿素類、含ヨウ素化合物、ポリアルキレングリコール、アゾール類などを含有できること(請求項6〜9)が記載されている。
【0009】
(7)特許文献7
スズ又はスズ合金上に銀皮膜を形成することを目的として(請求項1)、酸根又は銀の錯化剤として、(A)硝酸イオンなどの無機酸イオン、(C)酢酸イオン、(D)スルホン酸イオン、(E)チオ尿素類、(H)チオカルボン酸又はチオスルホン酸などを含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1)。
さらに、当該銀メッキ浴には、置換溶出したスズの沈殿を防止するためのスズの錯化剤として、(a)脂肪族ジカルボン酸、(d)環状エステル化合物、(f)脂肪族メルカプトカルボン酸、(g)アミンカルボン酸、(i)縮合リン酸などを含有できることが記載されている(請求項2)。
【0010】
(8)特許文献8
緩衝剤として水酸化アルカリ、リン酸水素2カリウムなどのアルカリ塩20〜100g/Lと、チオ尿素誘導体又はチオサリチル酸、チオールなどの環状イオウ化合物0.1〜10g/Lとを含有するシアン系の置換銀メッキ浴が開示されている(請求項9〜10)。
【0011】
【特許文献1】特開2000−8174号公報
【特許文献2】特開2000−309875号公報
【特許文献3】特開2002−266077号公報
【特許文献4】特開2002−356783号公報
【特許文献5】特開2005−105386号公報
【特許文献6】特開2003−268558号公報
【特許文献7】特開平10−130855号公報
【特許文献8】特開平5−195238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
銀メッキ皮膜は美麗で光沢のある銀白色の皮膜を理想とするが、可溶性銀塩とチオ尿素を基本組成とする置換銀浴を用いてメッキを行うと、黒色の粗い粒子状を呈したり、或は、チオ尿素中のイオウ元素の吸着が原因と推定されるメッキむらが発生するという弊害があり、この皮膜の外観不良はハンダ付け性にも悪影響を及ぼす恐れがある。
上記特許文献1〜8においても、光沢性のある銀白色のメッキ皮膜を得るという点では、いまだ満足できる水準ではない。
特に、初期浴から銀白色のメッキ皮膜が得られれても、建浴から時間を置いた後の浴(経時浴)では、置換反応により素地金属が溶出などして初期の浴組成にはない余剰成分が混入して来るため、初期浴から得られるものと同様の銀白色の皮膜を獲得することは難しい。
【0013】
本発明は、置換銀メッキにおいて、初期浴のみならず、経時浴にあっても銀白色の美麗な銀メッキ皮膜を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記特許文献1、4〜6などには、浴への添加成分として酸化防止機能を有する次亜リン酸類又は亜リン酸類が開示されている。
本発明者らは、これら次亜リン酸などと同様にリン酸類に属しながら、しかし、種類の異なるオルトリン酸、或は、ピロリン酸、ポリリン酸などの縮合リン酸又はこれらの塩よりなる群から選ばれた特定のリン酸類に着目し、可溶性銀塩と銀の錯化剤を基本組成とする置換銀浴において、当該特定のリン酸類を含有し、且つ、これら特定のリン酸類を所定濃度以上で含有すると、銀の皮膜外観を有効に改善できること、特に、初期浴から得られる皮膜外観だけではなく、経時浴から得られる皮膜外観についても概ね優れることを突き止め、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明1は、可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
オルトリン酸、縮合リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれたリン酸類の少なくとも一種を含有し、且つ、当該リン酸類の含有量が0.5モル/L以上であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0016】
本発明2は、上記本発明1において、含イオウ化合物がチオ尿素類、チオグリコール、チオジグリール、システイン、メチオニンの少なくとも一種であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0017】
本発明3は、上記本発明1又は2において、リン酸類がオルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸又はこれらの塩の少なくとも一種であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0018】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、さらに、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤の少なくとも一種を含有することを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0019】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、置換銀メッキ浴が、42アロイ、ニッケル、鉄及び銅から選ばれた素地表面に銀メッキ皮膜を形成するための浴であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【発明の効果】
【0020】
銀塩と銀の錯化剤を基本組成とする従来の置換銀メッキ浴では、得られる銀皮膜が粗い粒子状となって黒変したり、色調むらが発生する弊害があった。
本発明では、上記基本組成のメッキ浴にオルトリン酸、縮合リン酸及びこれらの塩より選ばれた特定のリン酸類を含有し、且つ、これら特定のリン酸類を所定濃度以上で含有することにより、従来の銀皮膜の弊害を解消して、均質で光沢のある銀白色の美麗な銀皮膜を得ることができる。
しかも、本発明の置換銀浴では、初期浴のみならず、経時浴においても初期浴から得られるものと同様の銀白色、或はそれに近い銀皮膜を得ることができ、皮膜の経時安定性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを基本組成とするメッキ浴に、オルトリン酸、縮合リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれた特定のリン酸類を含有し、且つ、当該リン酸類の含有量を0.5モル/L以上とした置換銀メッキ浴である。
【0022】
本発明の置換銀メッキ浴に含有する可溶性銀塩は、浴中でAg+を生成する可溶性の塩類であれば任意のものが使用でき、特段の制約はなく、難溶性塩をも排除するものではない。
可溶性銀塩としては、硫酸銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、硝酸銀、有機スルホン酸銀、ホウフッ化銀、クエン酸銀、酒石酸銀、グルコン酸銀、スルファミン酸銀、シュウ酸銀、酸化銀などの可溶性塩が使用できる。銀塩の好ましい具体例としては、メタンスルホン酸銀、エタンスルホン酸銀、酢酸銀、乳酸銀、クエン酸銀などが挙げられる。
メッキ浴に対する当該可溶性銀塩の金属換算の含有量は0.0001〜1モル/Lであり、好ましくは0.001〜0.5モル/Lである。
【0023】
本発明の置換銀メッキ浴では、浴中の銀イオンを安定化するために錯化剤を含有する。当該錯化剤はチオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる。これらの含イオウ化合物は夫々を単用又は併用でき、或は、異種を複用(例えば、チオ尿素とスルフィド類とを複用)できる。
含イオウ化合物のメッキ浴に対する含有量は0.0001〜5モル/Lであり、0.03〜2モル/Lである。
【0024】
上記チオ尿素類はチオ尿素及びチオ誘導体である。チオ尿素誘導体には、1,3―ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素(例えば、1,3―ジエチルチオ尿素)、1,3―ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3―ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド、S−メチルイソチオ尿素硫酸塩、トリブチルチオ尿素、塩酸ベンジルイソチオ尿素、1,3−ジブチルチオ尿素、1−ナフチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1−フェニルチオ尿素、1−メチルチオ尿素等が挙げられる。
【0025】
上記メルカプタン類には、システイン、N−アセチルシステイン、チオグリコール、メルカプトコハク酸、メルカプトイソ酪酸、メルカプト酢酸(チオグリコール酸)、ジメルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、2,3−ジメルカプトコハク酸、メルカプトアニリン、メルカプトピリジンなどが挙げられる。
【0026】
上記スルフィド類には、メチオニン、エチオニン、シスチン、チオジグリコール酸、チオジグリコール、2,2′−チオビス(エチルアミン)、チオジプロピオン酸、チオジエタンスルホン酸、チオジプロパノール、3,3′−チオビス(プロピルアミン)、チオジ酪酸、チオジプロパンスルホン酸、ビス(ウンデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(ドデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(ペンタデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(トリエチレングリコール)チオエーテル、4,7,10−トリチアトリデカン−1,2,12,13−テトラオール、6,9,12−トリチア−3,15−ジオキサヘプタデカン−1,17−ジオール、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジオール、4,7−ジチアデカン−1,10−ジオール、3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジオール、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジアミン、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジカルボン酸、4,7,10−トリチアトリデカン−1,13−ジスルホン酸ジナトリウム、3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジスルホン酸、4,7,10,13−テトラチアヘキサデカン−1,16−ジスルホン酸、1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタンなどが挙げられる。
含イオウ化合物にあっては、光沢のある銀白色のメッキ皮膜をより効果的に得る見地から、メチオニン、エチオニン、シスチン、チオジグリコール酸、チオジグリコールなどのスルフィド類、システイン、N−アセチルシステイン、チオグリコール、メルカプトコハク酸、メルカプトイソ酪酸、メルカプト酢酸(チオグリコール酸)などのメルカプタン類が好ましい。
【0027】
本発明の置換銀メッキ浴は有機酸、無機酸、或はその塩をベース酸とすることを基本にするが、可溶性銀塩、錯化剤を水に溶解させて建浴しても良い。
有機酸としては、排水処理が比較的容易なアルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、芳香族スルホン酸等の有機スルホン酸、或は、脂肪族カルボン酸などが好ましい。
無機酸としては、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等が挙げられる。
上記の酸(又は塩)は単用又は併用でき、その含有量は0.1〜300g/Lであり、好ましくは20〜120g/Lである。
【0028】
本発明の置換銀メッキ浴には、オルトリン酸(正リン酸)、縮合リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれた特定のリン酸類を含有することが必要である。
縮合リン酸はピロリン酸、トリポリリン酸、ポリリン酸(縮合度がトリポリリン酸より大きいもの)、連鎖状或は環状のメタリン酸などをいう。
これらのリン酸塩は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、アミン、スルホネートなどの各種塩をいう。
上記特定のリン酸類では、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸及びこれらの塩が好ましい(本発明3参照)。
上記特定のリン酸類は単用又は併用でき、その含有量は0.5モル/L以上であり、好ましくは0.5〜10モル/L、より好ましくは0.5〜5モル/Lである。含有量が0.5モル/Lより少ないと、銀メッキ皮膜に銀白色の美麗な外観を付与することが困難になり、黒変し易くなる。
【0029】
本発明の置換銀メッキ浴には、上述の成分以外に、目的に応じて公知の界面活性剤、pH調整剤、緩衝剤などの各種添加剤を含有できることはいうまでもない。
上記界面活性剤は、析出する銀皮膜の緻密性、平滑性、密着性などの補助的改善を目的として含有され、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤、或はアニオン系界面活性剤を単用又は併用できる(本発明4参照)。
その含有量は0.01〜100g/L、好ましくは0.1〜50g/Lである。
【0030】
当該ノニオン系界面活性剤の具体例としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、(ポリ)C1〜C25アルキルフェノール、(ポリ)アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
【0031】
上記エチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を付加縮合させるC1〜C20アルカノールとしては、メタノール、エタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、エイコサノール、オレイルアルコール、ドコサノールなどが挙げられる。同じく上記ビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールFなどが挙げられる。上記(ポリ)C1〜C25アルキルフェノールとしては、モノ、ジ、若しくはトリアルキル置換フェノール、例えば、p−メチルフェノール、p−ブチルフェノール、p−イソオクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ヘキシルフェノール、2,4−ジブチルフェノール、2,4,6−トリブチルフェノール、ジノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、p−ラウリルフェノール、p−ステアリルフェノールなどが挙げられる。上記アリールアルキルフェノールとしては、2−フェニルイソプロピルフェノール、クミルフェノール、(モノ、ジ又はトリ)スチレン化フェノール、(モノ、ジ又はトリ)ベンジルフェノールなどが挙げられる。上記C1〜C25アルキルナフトールのアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルなどが挙げられ、ナフタレン核の任意の位置にあって良い。上記ポリアルキレングリコールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン・コポリマーなどが挙げられる。
【0032】
上記C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)は、下記の一般式(a)で表されるものである。
Ra・Rb・(MO)P=O …(a)
(式(a)中、Ra及びRbは同一又は異なるC1〜C25アルキル、但し、一方がHであっても良い。MはH又はアルカリ金属を示す。)
【0033】
上記ソルビタンエステルとしては、モノ、ジ又はトリエステル化した1,4−、1,5−又は3,6−ソルビタン、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタン混合脂肪酸エステルなどが挙げられる。上記C1〜C22脂肪族アミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの飽和及び不飽和脂肪酸アミンなどが挙げられる。上記C1〜C22脂肪族アミドとしては、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸などのアミドが挙げられる。
【0034】
更に、上記ノニオン系界面活性剤としては、
1N(R2)2→O
(上式中、R1はC5〜C25アルキル又はRCONHR3(R3はC1〜C5アルキレンを示す)、R2は同一又は異なるC1〜C5アルキルを示す。)などで示されるアミンオキシドを用いることができる。
【0035】
上記カチオン系界面活性剤としては、下記の一般式(b)で表される第4級アンモニウム塩
(R1・R2・R3・R4N)+・X- …(b)
(式(b)中、Xはハロゲン、ヒドロキシ、C1〜C5アルカンスルホン酸又は硫酸、R1、R2、R3及びR4は同一又は異なるC1〜C20アルキル、アリール又はベンジルを示す。)或は、下記の一般式(c)で表されるピリジニウム塩などが挙げられる。
6−(C54N−R5)+・X- …(c)
(式(c)中、C54Nはピリジン環、Xはハロゲン、ヒドロキシ、C1〜C5アルカンスルホン酸又は硫酸、R5はC1〜C20アルキル、R6はH又はC1〜C10アルキルを示す。)
【0036】
塩の形態のカチオン系界面活性剤の例としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
【0037】
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、{(モノ、ジ、トリ)アルキル}ナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。アルキル硫酸塩としては、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレン(EO5)ノニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(EO15)ドデシルエーテル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレン(EO15)ノニルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、{(モノ、ジ、トリ)アルキル}ナフタレンスルホン酸塩としては、ナフタレンスルホン酸塩、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などが挙げられる。
【0038】
上記両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。また、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化、或はスルホン酸化付加物も使用できる。
【0039】
代表的なカルボキシベタイン、或はイミダゾリンベタインは、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ミリスチルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−ウンデシル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−オクチル−1−カルボキシメチル−1−カルボキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられ、硫酸化及びスルホン酸化付加物としてはエトキシル化アルキルアミンの硫酸付加物、スルホン酸化ラウリル酸誘導体ナトリウム塩などが挙げられる。
【0040】
上記スルホベタインとしては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアンモニウム−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、N−ココイルメチルタウリンナトリウム、N−パルミトイルメチルタウリンナトリウムなどが挙げられる。アミノカルボン酸としては、ジオクチルアミノエチルグリシン、N−ラウリルアミノプロピオン酸、オクチルジ(アミノエチル)グリシンナトリウム塩などが挙げられる。
【0041】
上記pH調整剤としては、塩酸、硫酸等の各種の酸、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の各種の塩基などが挙げられる。
上記緩衝剤としては、ホウ酸類、ホスフィン酸やホスホン酸、シュウ酸、コハク酸などのジカルボン酸類、乳酸、酒石酸などのオキシカルボン酸類など塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。また、本発明で添加する特定のリン酸類により当該緩衝剤を兼用することもできる。
【0042】
本発明の置換銀メッキは、基本的に、被メッキ物をメッキ液に通常1秒〜30分間浸漬し、所望の膜厚までメッキ皮膜を析出させることにより行う。PHは8.0以下が好ましく、浴の撹拌は必要に応じて行う場合もある。また、浴温は10〜80℃程度であり、メッキ時間は膜厚に依存して決定される。
本発明の置換銀メッキ浴を適用する被メッキ物(即ち、素地表面)は任意であり特に制限はないが、本発明5に示すように、42アロイ、ニッケル、鉄又は銅から選ぶことが好ましい。従って、プリント回路板、半導体集積回路、フィルムキャリア、抵抗、可変抵抗、コンデンサー、フィルター、インダクター、サーミスター、水晶振動子、スイッチ、リード線などの電子部品に銀皮膜を形成する場合、本発明の置換銀メッキ浴は好適である。 但し、本発明の置換銀メッキ浴を42アロイ、ニッケル、鉄の素地表面に適用すると、他の素地を選択した場合に比べて、得られる銀皮膜をより美麗な銀白色の色調へと促進できる。従って、本発明の置換銀メッキ浴を適用すべき素地表面としては、42アロイ、ニッケル、鉄がより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の置換銀メッキ浴の実施例、当該メッキ浴から得られた銀皮膜の外観評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0044】
《置換銀メッキ浴の実施例》
実施例1〜13のうち、実施例1〜4、6、8〜10、13は特定のリン酸類にオルトリン酸又はその塩を使用した例、その他の実施例は縮合リン酸又はその塩を使用した例である。実施例1〜6、9〜10、13は含イオウ化合物としてメルカプタン類を使用した例、実施例8、11は同じくスルフィド類を使用した例、実施例7、12は同じくチオ尿素を使用した例である。実施例1〜3はメルカプタン類の濃度を一定にしてリン酸塩の濃度を変化させた例である。実施例3〜4は逆にリン酸塩の濃度を一定にしてメルカプタン類の濃度を変化させた例である。
一方、比較例1〜5のうち、比較例1は含イオウ化合物のみを含み、特定のリン酸類を含まないブランク例である。比較例2〜3はリン酸類のみを含み、含イオウ化合物を含まないブランク例である。比較例4〜5は含イオウ化合物とリン酸類の両方を含むが、リン酸類の濃度が0.5モル/Lより少ない例である。
【0045】
(1)実施例1
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
リン酸2水素ナトリウム 0.50モル/L
チオグリコール 0.30モル/L
【0046】
(2)実施例2
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
リン酸2水素ナトリウム 1.00モル/L
チオグリコール 0.30モル/L
【0047】
(3)実施例3
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
リン酸2水素ナトリウム 2.00モル/L
チオグリコール 0.30モル/L
【0048】
(4)実施例4
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
リン酸2水素ナトリウム 2.00モル/L
チオグリコール 1.00モル/L
【0049】
(5)実施例5
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
ピロリン酸2水素2ナトリウム 1.00モル/L
システイン 0.10モル/L
【0050】
(6)実施例6
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸 2.00モル/L
システイン 0.50モル/L
【0051】
(7)実施例7
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
メタリン酸 0.50モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
【0052】
(8)実施例8
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
リン酸 2.00モル/L
メチオニン 0.30モル/L
【0053】
(9)実施例9
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸 1.00モル/L
チオグリコール酸 0.30モル/L
【0054】
(10)実施例10
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸 1.00モル/L
2−メルカプトベンゾチアゾール 0.30モル/L
ポリオキシエチレンアルキルエーテル
−硫酸エステル塩(EO10モル) 10.0g/L
【0055】
(11)実施例11
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
ピロリン酸2水素2ナトリウム 1.00モル/L
チオジグリコール 0.30モル/L
ジブチル−β−ナフトールポリエトキシレート(EO8モル)10.0g/L
【0056】
(12)実施例12
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
ピロリン酸2水素2ナトリウム 1.00モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド 10g/L
【0057】
(13)実施例13
硝酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸2水素ナトリウム 1.00モル/L
システイン 0.30モル/L
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO10モル) 10.0g/L
【0058】
(14)比較例1
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオグリコール 0.30モル/L
【0059】
(15)比較例2
硝酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸2水素ナトリウム 0.50モル/L
【0060】
(16)比較例3
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸 0.50モル/L
【0061】
(17)比較例4
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
ピロリン酸 0.40モル/L
チオグリコール 0.30モル/L
【0062】
(18)比較例5
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
リン酸 0.30モル/L
システイン 0.20モル/L
【0063】
《置換銀メッキによる皮膜外観評価試験例》
そこで、上記実施例1〜13及び比較例1〜5の各置換銀メッキ浴について、25mm×25mmの形状で42アロイ製の試験板をメッキ温度50℃、30秒の条件で浸漬することにより、試験板表面に置換銀メッキを施し、下記の試験評価(a)〜(c)を行った。
(a)初期浴から得られるメッキ皮膜の外観評価試験
建浴直後の銀浴(初期浴)から得られるメッキ皮膜の外観を夫々目視観察して、当該皮膜外観の優劣を下記の基準で評価した。
○:光沢のある銀白色を呈した。
×:黒色を呈し、或は色調むらが生じた。
【0064】
(b)皮膜外観の経時安定性評価試験
初期浴と、建浴から時間を置いた後の銀浴(経時浴)とから得られる各メッキ皮膜の外観を対比観察して、メッキ浴の経時変化に伴う皮膜外観の安定性(皮膜外観の経時安定性という)の優劣を下記の基準により評価した。
尚、上記経時浴は、建浴からの時間の経過に伴って置換反応により素地金属が溶解するなどして、初期組成にない余剰成分が混入した状態の浴をいう。
○:経時浴から得られたメッキ皮膜の外観が初期浴から得られた皮膜外観に比べて変化がなかった。
△:経時浴から得られたメッキ皮膜の外観が初期浴から得られた皮膜外観に比べて、銀白色から少し黒味を帯びた銀色に変化した。
【0065】
(c)皮膜外観の総合評価
上記メッキ皮膜(初期浴から得られる皮膜)の外観試験(a)と、皮膜外観の経時安定性試験(b)との結果を下記の基準により総合的に評価した。
○:初期浴から得られる皮膜外観に優れるとともに、皮膜外観の経時安定性にも優れる。
△:初期浴から得られる皮膜外観には優れるが、皮膜外観の経時安定性は少し後退した。
×:初期浴から得られる皮膜外観に劣る。
但し、上記初期浴から得られる皮膜外観の評価が×である例については、当然ながら経時浴での評価が初期浴以上になることはまず考えられないことに鑑みて、皮膜外観の経時安定性試験は行わず、従って、総合評価も×とした。
【0066】
下表はその試験結果である。
初期浴の皮膜外観 経時安定性 総合評価
実施例1 ○ ○ ○
実施例2 ○ ○ ○
実施例3 ○ ○ ○
実施例4 ○ ○ ○
実施例5 ○ ○ ○
実施例6 ○ ○ ○
実施例7 ○ △ △
実施例8 ○ ○ ○
実施例9 ○ ○ ○
実施例10 ○ ○ ○
実施例11 ○ ○ ○
実施例12 ○ △ △
実施例13 ○ ○ ○
比較例1 × −− ×
比較例2 × −− ×
比較例3 × −− ×
比較例4 × −− ×
比較例5 × −− ×
【0067】
上表により初期浴での皮膜外観を検討すると、含イオウ化合物のみを含み、特定のリン酸類を含まない比較例1では、皮膜外観の評価は劣っていた。特定のリン酸類のみを含み、含イオウ化合物を含まない比較例2〜3でも、同様に皮膜外観の評価は劣った。
これに対して、実施例1〜13ではいずれも光沢のある美麗な銀白色のメッキ皮膜が得られ、皮膜外観に優れることが認められた。従って、光沢のある銀白色のメッキ皮膜を得るためには、銀の錯化剤である含イオウ化合物と特定のリン酸類を共存させる必要があることが確認できた。
また、比較例4〜5は本発明と同様に含イオウ化合物と特定のリン酸類との両成分を含むが、リン酸類の濃度が0.30〜0.40モル/Lであり、皮膜外観の評価は劣った。従って、比較例4〜5を実施例に対比すると、銀皮膜の外観を向上するには、リン酸類を含イオウ化合物と共存させるだけでは十分でなく、リン酸類の濃度を0.50モル/L以上に増大させる必要があることが確認できた。
【0068】
実施例1〜3はメルカプタン類(チオグリコール)の濃度を一定にしてリン酸塩(リン酸2水素ナトリウム)の濃度を0.50〜2.00モル/Lに変化させた例であるが、初期浴での皮膜外観の評価はいずれも優れていたことから、リン酸類の濃度は0.50モル/L以上であれば、光沢のある銀白色のメッキ皮膜が得られることが分かる。
一方、実施例3〜4は逆にリン酸塩(リン酸2水素ナトリウム)の濃度を一定にしてメルカプタン類(チオグリコール)の濃度を0.30〜1.00モル/Lに変化させた例であり、また、実施例5ではメルカプタン類(システイン)の濃度は0.10モル/Lであることから、光沢のある銀白色のメッキ皮膜を得るためには、含イオウ化合物の濃度はリン酸類の濃度水準で含む必要はなく、少なくても良いことが分かる。
【0069】
実施例は初期浴での皮膜外観に優れるだけではなく、概ね、経時浴から得られるスズ皮膜も初期浴での皮膜と変わらず光沢のある銀白色であり、皮膜の経時安定性の面でも優れることが分かった。
この点を詳述すると、含イオウ化合物にメルカプタン類やスルフィド類を使用した実施例1〜6、8〜11、13では、初期浴での皮膜外観に優れるだけではなく、皮膜の経時安定性にも優れる。但し、含イオウ化合物にチオ尿素を使用した実施例7と12では、銀イオンへの錯化効果に優れることでメッキ浴自体の安定性は良好であったが、経時浴から得られる銀皮膜は少し黒みを帯びた銀色を呈した。
従って、実施例1〜13を初期浴での皮膜外観と皮膜の経時安定性との両面で総合的に評価すると、含イオウ化合物と特定のリン酸類を共存させる条件下で、当該含イオウ化合物にメルカプタン類やスルフィド類を選択した場合にはこの総合評価に優れ、その一方で、含イオウ化合物にチオ尿素類を選択した場合には、総合評価が多少後退することが分かった。
他方、経時浴での皮膜外観の評価は初期浴での評価以上になることはまず考えられないため、初期浴での皮膜外観の評価に劣る比較例1〜5では経時浴での評価は行わず、従って、比較例1〜5の総合評価は低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
オルトリン酸、縮合リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれたリン酸類の少なくとも一種を含有し、且つ、当該リン酸類の含有量が0.5モル/L以上であることを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項2】
含イオウ化合物がチオ尿素類、チオグリコール、チオジグリール、システイン、メチオニンの少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項3】
リン酸類がオルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸又はこれらの塩の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項4】
さらに、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項5】
置換銀メッキ浴が、42アロイ、ニッケル、鉄及び銅から選ばれた素地表面に銀メッキ皮膜を形成するための浴であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の置換銀メッキ浴。