説明

義歯サーベイヤー

【課題】局部床義歯を固定するために支台歯C、C`、C”に掛け止めされるクラスプ35を製作する際に、支台歯C、C`、C”における豊隆点からのアンダーカットの傾斜等を数値として客観的に把握することができ、局部床義歯を、再現性を持って効率的に製作することができる。
【解決手段】3本の検知針27c、29c、31cから選択された2本の検知針27c、29c、31cの内、一方の検知針を、局部床義歯を固定するクラスプ35が掛け止めされる一方の支台歯”に位置した状態で、他方の検知針を、他方の支台歯側の豊隆点に当接した際における検知アームの揺動角度を角度測定部材33により数値として記録可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の歯列の欠損部を充足する局部(部分)床義歯を製作する際に、歯列を型取りした口腔内歯列型に基づいて支台歯に掛け止めされるクラスプを決定するのに使用する義歯サーベイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
局部床義歯を製作するのにあたり、口腔内歯列型に基づいて義歯の着脱方向を決定した後に、支台歯に掛け止めされるクラスプを決定することは、歯科技工上、重要な要素になる。従来は、義歯サーベイヤーのサーベイヤー台上に固定された口腔内歯列型により、各歯牙の植立状態を検討して局部床義歯の装着方向を決定した後、サーベイヤー台を傾動しながらアナライジングロッドと称する検知針を、クラスプが掛け止めされる支台歯の側面における豊隆点に当て、豊隆点より下方のアンダーカットの傾斜角度や湾曲度、支台歯の傾き等を確認してクラスプの形状、湾曲を決定して製作している。
【0003】
しかし、従来においては、専ら、義歯製作者の経験や勘に基づいて支台歯におけるアンダーカットの傾斜角度や湾曲度等を確認していた。このため、これらを客観的データである数値として把握することが困難で、クラスプの製作効率が悪かった。特に、口腔内歯列型にあっては、局部床義歯の製作時に破壊されて使用不能になるため、局部床義歯の固定が悪く、クラスプ等を再度、製作したり、クラスプの傾斜を調整するには、再度、口腔内歯列型を製作して支台歯におけるアンダーカットの傾斜や湾曲の具合を測定しなければならず、クラスプを含む局部床義歯の製作効率が極めて悪かった。
【特許文献1】特開平9−289994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、局部床義歯を固定するためのクラスプを製作する際に、支台歯におけるアンダーカットの傾斜角度や湾曲度を数値として把握することができず、局部床義歯の製作効率が悪い点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、口腔内歯列型が固定されるサーベイヤー台と、サーベイヤー台の平面と直交する垂直方向に軸線を有した支持軸に、水平方向へ揺動可能に支持された揺動アームと、該揺動アームの先端部に設けられ、垂直方向に軸線を有した支持部材と、支持部材の下部にて任意の方向へ揺動可能に軸支される軸受部材に、同一平面状で放射方向へ延出するように取付けられる少なくとも3本の検知アームと、各検知アームの先端部にて、検知アームの延出方向と直交する方向に軸線を有してそれぞれ取付けられる検知針と、支持部材の下部に軸線周りへ回転可能に支持され、支持部材に対する検知アームの揺動角度を測定する角度測定部材とを備え、3本の検知針から選択された2本の検知針の内、一方の検知針を、局部床義歯を固定するクラスプが掛け止めされる一方の支台歯に位置した状態で、他方の検知針を、他方の支台歯側の豊隆点に当接した際における検知アームの揺動角度を角度測定部材により数値として記録可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、局部床義歯を固定するために支台歯に掛け止めされるクラスプを製作する際に、支台歯における豊隆点からのアンダーカットの傾斜等を数値として客観的に把握することができ、局部床義歯を効率的に製作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、3本の検知針から選択された2本の検知針の内、一方の検知針を、局部床義歯を固定するクラスプが掛け止めされる一方の支台歯に位置した状態で、他方の検知針を、他方の支台歯側の豊隆点に当接した際における検知アームの揺動角度を角度測定部材により数値として記録可能にしたことを最良の形態とする。
【実施例】
【0008】
以下に実施形態を示す図に従って本発明を説明する。
図1及び図2において、義歯サーベイヤー1のサーベイヤー台3には、局部床義歯を製作するために、患者の口腔内を石膏等で型取った口腔内歯列型5を固定するため、垂直方向に軸線を有した3本の固定軸7が固定される。その内、サーベイヤー台3の奥側に位置する2本の固定軸7は、水平方向へ口腔内歯列型5の横幅より狭い間隔をおいて固定される。また、サーベイヤー台3の前方に位置する残りの固定軸7の上部には、水平方向に軸線を有し、他の2本の固定軸7間の中間部に向かって螺進可能な固定ネジ9がネジ止めされる。そしてサーベイヤー台3上に載置された口腔内歯列型5は、奥側が2本の固定軸7に押し当てられた状態で螺進する固定ネジ9により挟持されて固定される。
【0009】
上記サーベイヤー台3には、垂直方向に軸線を有した支持軸11が設けられ、該支持軸11の上部には、水平方向へ延び、揺動アームの一部を構成する第1揺動アーム13の基端部が回動可能に支持される。また、第1揺動アーム13の先端部には、同じく水平方向に延び、揺動アームの一部を構成する第2揺動アーム15の基端部が回動可能に軸支される。更に、第2揺動アーム15の先端部には、垂直方向に軸線を有した支持部材としての支持ロッド17が軸線方向へ移動可能に支持される。
【0010】
上記第1揺動アーム13の基端部は、支持軸11に対して固定ネジ19により、また第2揺動アーム15の基端部は、第1揺動アーム13の先端部に対して固定ネジ21により、更に支持ロッド17は、第2揺動アーム15の先端部に対して固定ネジ23によりそれぞれ固定可能に構成される。
【0011】
上記支持ロッド17の軸線下部に設けられた軸支ボール17a(図2に一点鎖線で示す)には、軸受部材としてのボール軸受25が支持され、該ボール軸受25には、3本の検知アーム27、29、31が軸線周りに対して等間隔で放射方向へ延出するように取付けられる。各検知アーム27、29、31は、ボール軸受25に対し、基端部がボール軸受25の中心軸線と直交する水平方向へ揺動可能に支持されて水平方向へ延出する第1アーム27a、29a、31aと、これら第1アーム27a、29a、31aの先端部に基端部が揺動可能に支持され、第1アーム27a、29a、31aと一致する水平方向へ延出する第2アーム27b、29b、31bとから構成される。
【0012】
これら検知アーム27、29、31は、軸支ボール17aに対してボール軸受25が揺動されることにより、これら検知アーム27,29,31により想定される水平面を任意の角度に傾斜させる。
【0013】
各第2アーム27b、29b、31bの先端部には、互いに軸線が一致する第1乃至第3検知針27c、29c、31cが、上下方向へ位置調整可能に取付けられる。これら各検知針27c、29c、31cは、通常は、第2アーム27b、29b、31bの先端から下方への長さが一致するように調整される。
【0014】
支持ロッド17の下部には、角度測定部材33が取付けられる。角度測定部材33は、支持ロッド17に対して回転可能に支持される取付けリング33aと、該取付けリング33aに固定され、角度測定中心点が軸支ボール17aの中心で、かつ各検知アーム27、29、31の中心軸線に一致して目盛が配列された角度目盛板33bとから構成される。
【0015】
次に、上記のように構成された義歯サーベイヤー1による口腔内歯列型における支台歯の測定作用を説明する。
【0016】
先ず、サーベイヤー台3上に載置された口腔内歯列型5を2本の固定軸7に押し当てた状態で、残りの固定軸7に設けられた固定ネジ9をネジ締めして固定させる。そして口腔内歯列型5を観察して局部床義歯の着脱方向及びクラスプ(図示せず)が掛け止めされる支台歯を決定した後、支持軸11に対して第1揺動アーム13及び該第1揺動アーム13に対して第2揺動アーム15をそれぞれ揺動して支持ロッド17を、口腔内歯列型5における正中線上の中心に位置させる。そして上記状態にて、固定ネジ19、21をネジ締めして第1及び第2揺動アーム13,15の屈曲状態を保つ。(図3参照)
【0017】
今、口腔内歯列型5が上顎で、その歯列の右第1〜4歯と左第1〜5歯、左第7、8歯が健善な歯、右第5〜8歯と左第6歯が欠損歯で、右第5〜8歯と左第6の歯からなる局部床義歯を口腔内へ固定するクラスプ部位としての支台歯を、右第4歯C、左第5歯C′及び左第7歯C″とする。クラスプは、例えばCo-Cr合金、Pt-Au合金等の金属材料で、支台歯C、C`、C”を囲むように取り付けられて局部床義歯を固定する部材で、支台歯C、C`、C”の周囲に掛け止められる左右の腕部と支台歯の上端に掛けられるレストから構成される。
【0018】
上記クラスプを製作する際には、支台歯C、C`、C”の相互間隔、支台歯C、C`、C”の傾き、支台歯C、C`、C”の側面における豊隆点からのアンダーカットの傾斜状態や湾曲状態を測定する必要がある。
【0019】
上記した支台歯C、C′、C″に関する客観的データを測定する際に、先ず、クラスプが掛け止めされる、例えば2本の支台歯C、C″間の間隔を測定するには、各支台歯C、C″側に位置する検知アーム27、29を、支持ロッド17の軸線と直交する水平方向に保った状態で、第1及び第2アーム27a・27b、29a・29bをそれぞれ屈曲して各検知針27c、29cをそれぞれの支台歯C、C”の側面上方に位置させる。
【0020】
この状態で、固定ネジ23を緩めて支持ロッド17を、各検知針27c、29cが選択された支台歯C、C″の上面に当接する位置へ下降させた後、固定ネジ23をネジ締めして支持ロッド17を固定させる。そして検知針27c、29c間を、図示しない定規により測定して支台歯C、C”の間隔を求める。(図4参照)
【0021】
次に、支台歯におけるアンダーカットの傾斜を測定するには、先ず、支台歯C、C”側に位置する第1及び第2アーム27a・27b、29a・29bを屈曲し、それぞれの検知針27c、29cが、軸支ボール17aの中心を通る対角位置で、それぞれの支台歯C、C”の側面に位置させる。また、上記状態にて、支持ロッド17に対して角度測定部材33を回転操作し、角度目盛板33bの平面を検知針27c、29cを結ぶ仮想線に一致させる。
【0022】
次に、固定ネジ23を緩めて支持ロッド17を、例えば着脱の際の基準になる支台歯C側に位置する検知針29cの先端が、相対する支台歯C”の上部に位置するように下方へ移動させた後に、固定ネジ23をネジ締めして固定させる。
【0023】
該状態にて第1及び第2アーム29a・29bを屈曲させながら軸支ボール17aに対してボール軸受25を揺動して検知針27cの先端が、支台歯C側面における豊隆点に当接するように検知アーム27、29を揺動して傾斜させる。このとき、上記したように各検知針27c、29cは、これらを結ぶ仮想線が軸支ボール17aの中心に一致している。また、各検知針27c、29cを結ぶ仮想線を通過する垂直面と角度目盛板33bの平面が一致している。
【0024】
そして義歯製作者は、支台歯C側面における豊隆点を印記した後に、角度目盛板33bの目盛により傾動した検知アーム27,29の揺動角度を読み取って数値として記録する。これにより支台歯Cにおける豊隆点からのアンダーカットの傾斜状態を数値として把握する。(図5参照)
【0025】
義歯製作者は、支台歯C側面においてサンプリングされた複数の豊隆点に対し、上記作業に従って検知針27cの先端を各豊隆点に当接して印記すると共に各豊隆点からのアンダーカットの傾斜状態を角度目盛板33bから数値として読み取って記録して把握する。
【0026】
そして義歯製作者は、サンプリングされた支台歯Cにおける各豊隆点からのアンダーカットの傾斜状態に関する数値に基づいてクラスプにおける各腕部の傾斜状態及び湾曲状態を決定してクラスプを製作する。
【0027】
また、各支台歯C、C′、C″の正中線に対する傾斜角度を測定するには、義歯製作者は、支持ロッド17に対し、角度目盛板33bの平面が、測定しようとする支台歯C、C′、C″側に位置する検知アーム27、29、31の中心軸線と直交するように位置調整する。
【0028】
次に、義歯製作者は、例えば支台歯Cの傾斜を測定する際には、軸支ボール17aに対してボール軸受25を、検知針27cの軸線が支台歯Cの傾斜に一致するように揺動させた後、角度目盛板33bにより検知針27cの傾きを読み取って数値として記録する。(図6参照)
【0029】
本実施例は、支持ロッド17に設けられた角度測定部材33により支台歯C、C′、C″側面の豊隆点からアンダーカットの傾斜状態を客観的な数値として把握することができるため、従来、専ら、義歯製作者の経験と勘に依存していたクラスプの製作を、測定された数値に基づいて製作することができる。また、数値として記録することができるため、局部床義歯を製作する際の再現性に優れ、製作を効率化することができる。
【0030】
上記説明は、検知アームの傾動角度を角度目盛板の目盛により読み取って記録可能にする構成としたが、角度板の同心位置に所要の角度を設けて多数の孔を形成すると共に角度0度位置に一致する孔の両側に発光部材及び受光部材を配置し、検知アームの傾動角度を光学的に読み取って数値表示する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】義歯サーベイヤーの概略を示す斜視図である。
【図2】支持部材に対する検知アームの支持状態を示す略体斜視図である。
【図3】サーベイヤー台に口腔内歯列型を固定した状態を示す説明図である。
【図4】支台歯の間隔測定作用を示す説明図である。
【図5】支台歯側面の豊隆点からのアンダーカットの測定状態を示す説明図である。
【図6】支台歯の傾斜状態を測定する作用を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 義歯サーベイヤー
3 サーベイヤー台
5 口腔内歯列型
11 支持軸
13 揺動アームの一部を構成する第1揺動アーム
15 揺動アームの一部を構成する第2揺動アーム
17 支持部材としての支持ロッド
17a 軸支ボール
25 ボール軸受
27、29、31 検知アーム
27c、29c、31c 検知針
33 角度測定部材
33b 角度目盛板
C、C`、C” 支台歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内歯列型が固定されるサーベイヤー台と、
サーベイヤー台の平面と直交する垂直方向に軸線を有した支持軸に、水平方向へ揺動可能に支持された揺動アームと、
該揺動アームの先端部に設けられ、垂直方向に軸線を有した支持部材と、
支持部材の下部にて任意の方向へ揺動可能に軸支される軸受部材に、同一平面状で放射方向へ延出するように取付けられる少なくとも3本の検知アームと、
各検知アームの先端部にて、検知アームの延出方向と直交する方向に軸線を有してそれぞれ取付けられる検知針と、
支持部材の下部に軸線周りへ回転可能に支持され、支持部材に対する検知アームの揺動角度を測定する角度測定部材と、
を備え、
3本の検知針から選択された2本の検知針の内、一方を検知針を、局部床義歯を固定するクラスプが掛け止めされる一方の支台歯に位置した状態で、他方の検知針を、他方の支台歯側の豊隆点に当接した際における検知アームの揺動角度を角度測定部材により数値して記録可能にした義歯サーベイヤー。
【請求項2】
請求項1の揺動アームは、少なくとも2本の揺動アームを揺動可能に連結し、揺動アームの屈曲により支持軸からの距離を可変可能にした義歯サーベイヤー。
【請求項3】
請求項1の各検知アームは、少なくとも2本のアームを揺動可能に連結し、アームの屈曲により支持部材からの距離を可変可能にした義歯サーベイヤー。
【請求項4】
請求項1の検知アームは、支持部材の下部に設けられた軸支ボールと、該軸支ボールに揺動可能に支持されるボール軸受とにより任意の角度で揺動可能とした義歯サーベイヤー。
【請求項5】
請求項1の角度測定部材は、角度測定基準点が検知アームの中心軸線に一致する角度目盛板を有した義歯サーベイヤー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−228842(P2008−228842A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69707(P2007−69707)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(307009942)
【Fターム(参考)】