説明

翼パネル、航空機の主翼

【課題】ピーニング法において翼パネルを湾曲形成するときの成形性を向上させることのできる翼パネルおよび航空機の主翼を提供することを目的とする。
【解決手段】ストリンガ部材20においては、ベース部21が形成され、その断面方向の中立軸位置Nが、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cよりも翼パネル11側に位置するようにした。ストリンガ部材20の先端部のフランジ部23付近に金属球を打ち付けることによりピーニングすると、フランジ部23付近に生じる引張歪は、中立軸位置Nを中心としたモーメント長を長く確保した状態で作用し、その結果、これにバランスしようとしてベース部21および翼パネル11に生じる圧縮歪は、中立軸位置Nを中心としたモーメント長に反比例することから、翼パネル11を小さな曲率で変形させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼パネルおよび航空機の主翼に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の主翼は、骨格をなすフレーム材に、主翼の外表面を形成する翼パネルが取り付けられることで形成されている。そして、翼パネルは、3次元形状に湾曲形成されている。具体的には、例えばエンジンが主翼下に取り付けられるような機体において、主翼の上面を形成する翼パネルは、主翼の外表面側が翼長方向に凸となるよう湾曲形成され、主翼の下面を形成する翼パネルは、主翼の外表面側が翼長方向に凹となる(上方に凸となる)よう湾曲形成されている。
【0003】
このような翼パネルを湾曲成形するには、ピーニング法(Peen forming)をはじめとして、様々な手法が用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。
このうち、ピーニング法は、翼パネルや翼パネルに一体に設けられた部材の一方の側から金属球を打ち付けることで、金属球が衝突した部分の表面が伸ばされ、表面が伸ばされていない他方の側との周長差により、翼パネルを湾曲形成させる。
【0004】
例えば、主翼の上面を形成する翼パネルにおいては、主翼の外表面となる側にストリンガに沿って金属球を打ち付ける。すると、主翼の外表面側が翼長方向に伸ばされる。一方、主翼の内表面側は金属球の衝突により伸ばされていない。その結果、翼パネルにおいて、伸ばされた外表面側と伸ばされていない内表面側の周長差により、主翼の外表面側が翼長方向に凸となるよう湾曲形成される。
【0005】
図5に示すように、主翼の下面を形成する翼パネル1においては、主翼の内表面となる側に、主翼の翼長方向に連続するリブ状のストリンガ部材2が取り付けられている。ストリンガ部材2の先端部2a付近に金属球を打ち付けることにより、ストリンガ部材2は、翼パネル1に固定された基部2b側に対し、先端部2a側が伸びる。その結果、翼パネル1が、主翼の内表面側(ストリンガ部材2が設けられた側)が翼長方向に凸となるよう湾曲形成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山田 毅他 「コンチネンタルビジネスジェット主翼インテグラルスキンのショットピーン成形技術開発」 三菱重工技報 Vol.39 No.1(2002) p.36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、小型機の主翼をピーニング法により形成する場合、主翼の曲率が小さい。特に、エンジンが主翼下に取り付けられるような機体の場合、主翼の下面を形成する翼パネルにおいて、エンジンとのクリアランスを確保するためにエンジン周囲で翼長方向に上方に凸となるよう湾曲形成された部分において曲率が小さい。
このような場合に、従来のストリンガ部材2の先端部2a付近にピーニングを行っていたのみでは、翼パネル1が十分に湾曲せず、成形に時間がかかる等の問題が生じ、成形性の向上が望まれている。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、ピーニング法において翼パネルを湾曲形成するときの成形性を向上させることのできる翼パネルおよび航空機の主翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的のもと、本発明の翼パネルは、翼の外表面を形成する翼パネル本体と、翼の内側に面する内表面に一体に形成され、翼の翼長方向に連続するリブと、を備え、リブは、翼パネル本体側の基端部における厚さが拡大された拡径部が形成され、翼長方向に直交する断面における当該リブの中立軸位置が、リブの翼パネル本体からの高さ方向の中心よりも翼パネル本体側に位置するよう形成されていることを特徴とする。
このようなリブの先端部に金属球を打ちつけてピーニング加工を施すことで、翼パネル本体が湾曲形成される。このとき、リブの中立軸位置が、リブの翼パネル本体からの高さ方向の中心よりも翼パネル本体側に位置することで、金属球が衝突することによってリブの先端部に生じる引張方向の歪によるモーメントが、リブの基端部側に対して大きく作用する。
【0009】
拡径部は、いかなる形状としても良いが、例えば、翼パネル本体の表面に沿って形成されたプレート状とすることができる。
その場合、先端部側におけるリブの厚さよりも、リブの立ち上がり方向における拡径部の厚さを大きく形成することもできる。
【0010】
また、リブは、当該リブの先端部から基端部に向けて、その厚さが漸次増大するよう形成され、これによって基端部側に拡径部が形成される構成とすることもできる。
【0011】
このようなリブは、翼パネル本体と同じ金属母材から削り出して形成される。
【0012】
また、本発明は、翼の外表面が、上記したような翼パネルにより形成されていることを特徴とする航空機の主翼とすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リブの先端部に金属球を打ちつけてピーニング加工を施すことで、翼パネル本体が湾曲形成される。このとき、リブの中立軸位置が、リブの翼パネル本体からの高さ方向の中心よりも翼パネル本体側に位置することで、金属球が衝突することによってリブの先端部に生じる引張方向の歪によるモーメントが、リブの基端部側に対して大きく作用する。その結果、翼パネルを湾曲形成するときの成形性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の形態における主翼を構成する翼パネルを示す斜視図である。
【図2】翼パネルに設けたストリンガ部材を示す断面図である。
【図3】ストリンガ部材の他の例を示す断面図である。
【図4】ストリンガ部材のさらに他の例を示す断面図である。
【図5】従来のストリンガ部材を備えた翼パネルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における航空機の主翼10の下面を構成する翼パネル11を示す斜視図である。
この図1に示すように、主翼10は、その下面側が、翼表面を形成する翼パネル11と、主翼10内に設けられたストリンガ部材(リブ)20とを備えている。
なお、本実施形態において、主翼10は、その下面側が1枚の翼パネル11によって形成されているが、これに限るものではなく、2枚以上の翼パネル11を組み合わせても良い。
【0016】
ストリンガ部材20は、主翼10の翼長方向に沿って連続して設けられており、複数本が互いに平行に複数本設けられている。
【0017】
図2に示すように、ストリンガ部材20は、翼パネル11の内表面11aに直交する方向に立ち上がり、主翼10の翼長方向に沿って連続するリブ状に形成されている。
このストリンガ部材20は、翼パネル11の内表面11aに沿った板状のベース部21と、ベース部21から翼パネル11の内表面11aに直交する方向に立ち上がるウェブ部22と、ウェブ部22の先端部において、ウェブ部22に直交する方向に折曲したフランジ部23とが一体に形成されている。
【0018】
ここで、例えば、ベース部21、ウェブ部22、フランジ部23は、その板厚T1、T2、T3を共通とすることができる。
このようなストリンガ部材20においては、ベース部21が形成されているため、その断面方向の中立軸位置Nは、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cよりも翼パネル11側に位置する。
なお、ストリンガ部材20は、翼パネル11とともに、同一の金属母材から削り出し加工により形成される。
【0019】
このような構成のストリンガ部材20を有した翼パネル11は、ストリンガ部材20のウェブ部22の先端部のフランジ部23付近に金属球を打ち付けることによりピーニングされる。金属球が衝突することにより、フランジ部23付近が、その連続する方向(翼長方向)に伸びる方向に変形する。これにより、翼パネル11が、ストリンガ部材20を有した側である内表面11a側が翼長方向に凸となるように湾曲変形する。
このとき、ストリンガ部材20の中立軸位置Nは、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cよりも翼パネル11側に位置しているため、フランジ部23は、中立軸位置Nから遠く離れている。すると、金属球が衝突することによりフランジ部23付近に生じた引張歪にバランスしようとして、ベース部21および翼パネル11に生じる圧縮歪は、中立軸位置Nを中心としたモーメント長に反比例してベース部21および翼パネル11に作用するので、従来よりも成形性を向上させることができる。その結果、翼パネル11を小さな曲率であっても効率よく変形させることができる。
【0020】
なお、上記実施形態では、ベース部21を形成することにより、ストリンガ部材20の中立軸位置Nを、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cよりも翼パネル11側に位置するようにしたが、これに限るものではない。
例えば、図3(a)に示すように、フランジ部23を形成せず、ストリンガ部材20をウェブ部22とベース部21とからなる構成とすることもできる。
また、ウェブ部22とベース部21の厚さを互いに異なるようにしても良い。その場合、ストリンガ部材20の中立軸位置Nを、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cよりもより一層、翼パネル11側に位置させるため、ベース部21の厚さT1を、ウェブ部22の厚さT2よりも大きくしても良い。
さらに、ストリンガ部材20の中立軸位置Nを、ウェブ部22の高さ方向の中心位置Cから翼パネル11側にさらに離すため、図3(b)に示すように、ベース部21の幅をより大きくしても良い。
また、図4(a)〜(c)に示すように、ウェブ部22を、ベース部21側から離れるに従い、その断面積が漸次小さくなるような形状とすることができる。図4(a)の例では、ウェブ部22が、翼パネル11側から離れる方向に行くに従いその幅が漸次小さくなるようにしている。図4(b)に示すように二次曲線的に変位するようにしても良いし、図4(c)に示すように、階段状とすることもできる。
【0021】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、適宜組み合わせたり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0022】
10…主翼、11…翼パネル、11a…内表面、20…ストリンガ部材(リブ)、21…ベース部、22…ウェブ部、23…フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼の外表面を形成する翼パネル本体と、
前記翼の内側に面する内表面に一体に形成され、前記翼の翼長方向に連続するリブと、を備え、
前記リブは、前記翼パネル本体側の基端部における厚さが拡大された拡径部が形成され、前記翼長方向に直交する断面における当該リブの中立軸位置が、前記リブの前記翼パネル本体からの高さ方向の中心よりも前記翼パネル本体側に位置するよう形成されていることを特徴とする翼パネル。
【請求項2】
前記リブの先端部にピーニング加工を施すことで、前記翼パネル本体が湾曲形成されることを特徴とする請求項1に記載の翼パネル。
【請求項3】
前記拡径部は、前記翼パネル本体の表面に沿って形成されたプレート状であることを特徴とする請求項1または2に記載の翼パネル。
【請求項4】
先端部側における前記リブの厚さよりも、前記リブの立ち上がり方向における前記拡径部の厚さが大きく形成されていることを特徴とする請求項3に記載の翼パネル。
【請求項5】
前記リブは、当該リブの先端部から前記基端部に向けて、その厚さが漸次増大するよう形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の翼パネル。
【請求項6】
前記リブは、前記翼パネル本体と同じ金属母材から削り出して形成されることを特徴とする請求項1または5のいずれか一項に記載の翼パネル。
【請求項7】
翼の外表面が、請求項1から6のいずれか一項に記載の翼パネルにより形成されていることを特徴とする航空機の主翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−171453(P2012−171453A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34417(P2011−34417)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)