説明

耐スクラッチ性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品

【課題】耐スクラッチ性、耐衝撃性、着色性、光沢度、および射出成形性のような物性バランスが優れる耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂10〜20質量%;(B)ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂30〜50質量%;および(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂40〜60質量%、を含む熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐スクラッチ性に優れた樹脂組成物およびこれを用いた成形品に関する。より詳細には、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、耐スクラッチ性、耐衝撃性、着色性、光沢度および射出成形性などの優れた物性バランスを有する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体樹脂(以下、ABS樹脂)は、耐衝撃性,加工性、機械的強度、熱変形温度、および光沢度が良好である。そのため、ABS樹脂は、電気製品または電子製品、オフィスオートメーション(OA)機器などの製品に幅広く用いられている。しかしながら、LCD、PDP TV、オーディオなどの電子製品のハウジングの製造に用いられるABS樹脂は、射出成形の結果または使用中に、スクラッチが発生する傾向にある。さらに、ABS樹脂に所望のカラーを付与するのは難しく、そのため商品価値が低下する。
【0003】
この問題を回避するために、ABS樹脂成形品の表面をウレタンまたは耐UVもしくは耐スクラッチ性のアクリルでコーティングする。しかしながら、これらのコーティング方法は、後処理工程を必要とするため、製造工程が複雑となって欠陥率が高くなり、生産性が低下する。また、これらのコーティング方法は、環境汚染の問題を生じさせる。したがって、改良された光沢度および耐衝撃性を有し、射出成形工程を用いて容易に成形することができる耐スクラッチ性樹脂が要求されている。
【0004】
ウレタンコーティングを必要としない耐スクラッチ性物質としては、着色性および光沢度に優れたPMMA樹脂、アクリル樹脂などがある。しかしながら、PMMA樹脂は耐衝撃性が低く、成形性が不十分であるため、射出成形が難しいという欠点を有する。したがって、この物質は、主に押出シートとして成形された後、成形品に付着される。しかしながら、この方法は後処理工程のために、高コストおよび高欠陥率をもたらす。
【0005】
PMMA樹脂以外の耐スクラッチ性物質として、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(「g−MABS」または「透明ABS樹脂」ともいう)を用いることができる。この透明ABS樹脂は、着色性、光沢度、および耐衝撃性が良好である反面、R−硬度(R-hardness)および屈曲弾性率(flexural modulus)のようなスクラッチ物性は不十分である。したがって、この物質は成形工程の間に、撓みまたは屈曲が生じうる。
【0006】
また、ABS/PMMAアロイは、良好な耐衝撃性は有するが、着色性が低く、耐スクラッチ性が不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐スクラッチ性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、耐スクラッチ性、耐衝撃性、着色性、光沢度および射出成形性などの物性のバランスが優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、耐スクラッチ性、耐衝撃性、着色性、光沢度および射出成形性などの物性バランスが優れた熱可塑性樹脂組成物から製造される成形品を提供することである。
【0010】
本発明の前記およびその他の目的は、下記の開示および添付された特許請求の範囲により達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂10〜20質量%;(B)ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂30〜50質量%;および(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂40〜60質量%、を含む耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0012】
前記(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂は、ゴム状重合体10〜60質量%、芳香族ビニル単量体20〜80質量%、および前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体5〜45質量%を含む。
【0013】
前記(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂としては、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−スチレン(MSAN)樹脂が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、酸化防止剤、滑剤、衝撃補強剤、光安定剤、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、抗菌剤、離型剤、可塑性および帯電防止剤からなる群から選択される添加剤を1種以上含むことができる。
【0015】
また、本発明は前記熱可塑性樹脂組成物から製造された成形品を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐スクラッチ性の優れた熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、耐スクラッチ性、耐衝撃性、着色性、光沢度および射出成形性などの物性バランスの優れた熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。本発明の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物を、以下、単に「熱可塑性樹脂組成物」と称する場合もある。
【0019】
(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂
本発明の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物は、ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)を10〜20質量%含む。
【0020】
本発明で用いられるゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)は、コア−シェル構造を有する。
【0021】
本発明で用いられるゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)としては、平均粒子径(体積換算)が0.001〜100μmが好ましく、0.015〜10μmがより好ましく、0.05〜5μmがさらに好ましく、0.1〜1μmが特に好ましく、0.28〜0.35μmがもっとも好ましい。また、本発明で用いられるゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)としては、ゲル含有量が75〜85質量%であるのが好ましい。
【0022】
前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)は、ゴム質重合体、芳香族ビニル単量体、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体、および選択的にゴム質重合体に加工性および耐熱性を付与する単量体を加えて共に重合させることにより製造されることができる。
【0023】
好ましい実施形態としては、ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)は、ゴム状重合体10〜60質量%、芳香族ビニル単量体20〜80質量%、および前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体5〜45質量%を含む。
【0024】
本発明の一実施形態において、コア−シェル構造のコアは、ゴム質重合体を含む。また、コア−シェル構造のシェルは、芳香族ビニル単量体および芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体を含む。
【0025】
前記グラフト共重合体樹脂の製造に好適なゴム質重合体としては、特に制限されないが、ポリブタジエン、ポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)などのようなジエンゴム;ジエンゴムを水素添加した飽和ゴム;イソプレンゴム;クロロプレンゴム;ポリブチルアクリル酸などのようなアクリルゴム;およびエチレン−プロピレン−ジエン単量体三元共重合体(EPDM)およびこれらの混合物が挙げられる。これらのうち、特にジエン系ゴムが好ましく、ブタジエン系ゴムがより好ましい。
【0026】
本発明で用いられるゴム質重合体としては、平均粒子径(体積換算)が0.01〜1μmが好ましく、0.1〜0.8μmがより好ましく、0.2〜0.5μmがさらに好ましく、0.28〜0.35μmが特に好ましい。また、本発明で用いられるゴム質重合体としては、ゲル含有量が60〜90質量%であるのが好ましく、65〜89質量%であるのがより好ましく、70〜88質量%であるのがさらに好ましく、75〜85質量%であるのが特に好ましい。
【0027】
前記芳香族ビニル単量体としては、ゴム質重合体上でグラフト重合可能であれば特に制限されないが、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンおよびこれらの混合物などが挙げられる。これらうち、スチレンが最も好ましい。これらは単独または2種以上の混合物で用いることができる。
【0028】
前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂は、芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体を1種以上導入することができる。前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体としては、特に制限されないが、アクリロニトリルのようなシアン化ビニル、エタクリロニトリルおよびメタクリロニトリルのような不飽和ニトリル化合物などが挙げられる。これらは単独または2種以上の混合物で用いることができる。
【0029】
前記加工性および耐熱性を付与するための単量体の例としては、特に制限されないが、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドおよびこれらの混合物などが挙げられる。
【0030】
前記ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂の製造方法を、一例を挙げて説明する。
【0031】
(1)第1の段階は、平均粒子径(体積換算)が0.28〜0.35μm、ゲル含有量が75〜85質量%のゴム質重合体ラテックス50〜70質量部、スチレン65〜85質量%およびアクリロニトリル35〜15質量%からなるグラフト単量体混合物50〜30質量部のうち10〜40質量%、分子量調節剤、還元剤、イオン交換水、乳化剤および重合開始剤を反応器に投入し、攪拌しながら昇温させる。第1のグラフト共重合体ラテックスの重合転換率が90〜96%に至るように第1段階の重合を終了する。
【0032】
(2)第2の段階は、前記第1のグラフト共重合体ラテックスに、残量のグラフト単量体混合物(スチレン65〜85質量%およびアクリロニトリル35〜15質量%からなるグラフト単量体混合物)90〜60質量%および分子量調節剤を混合することによる第2の混合物を調製することを含む。したがって、前記第2の混合物と重合開始剤とを2〜5時間連続的に反応器に投入して、第2のグラフト共重合体ラテックスを製造する。
【0033】
以上のようにして得られたゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂を、以下、「g−ABS樹脂」と称する場合もある。
【0034】
これらそれぞれに対する詳細な技術の内容は韓国公開特許第2003−56087号公報に明示されており、その内容が全体として本明細書に含まれる。
【0035】
本発明で用いられうる分子量調節剤としては、連鎖移動剤、たとえば、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、四塩化炭素、チオグリコール類、ジテルペン、γ−テルピネン類などを用いることができる。
【0036】
本発明で用いられうる乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを用いることができる。これらのうち、アニオン性界面活性剤が好適に用いられる。たとえば、アルカリ金属塩、スルホン酸塩、炭素数10以上の長鎖脂肪酸塩、ロジン酸塩などを用いることが好ましく、これらの塩のなかでもカリウム塩、ナトリウム塩がさらに好ましい。また、乳化剤は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明で用いられうる重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、パラメンタンヒドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物;過硫酸カリウムなどの無機過酸化物;前記過酸化物と還元剤(硫酸第一鉄など)とを組み合わせたレドックス系触媒などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(B)ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)
本発明の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物は、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)(B)を30〜50質量%含む。ポリメチルメタクリレート樹脂(B)の量が50質量%を超過する場合、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する。また、ポリメチルメタクリレート樹脂(B)の量が30質量%未満である場合、熱可塑性樹脂組成物が優れた耐スクラッチ性を有することができない。
【0039】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物にポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)(B)を添加することにより、鉛筆硬度で示される耐スクラッチ性が優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0040】
本発明で用いられるポリメチルメタクリレート樹脂(B)としては、重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜500,000がより好ましく、3,000〜200,000がさらに好ましく、5,000〜100,000が特に好ましい。
【0041】
ポリメチルメタクリレート樹脂(B)は、アクリル系樹脂としてメチルメタクリレート(MMA)を重合することにより製造される。ポリメチルメタクリレート樹脂(B)は、本発明が属する技術の分野で通常の知識を有する者に、公知の方法で、容易に製造されうる。
【0042】
本発明の一実施形態において、前記ポリメチルメタクリレート樹脂(B)の製造方法は、脱イオン水、架橋剤、乳化剤、重合開始剤、メチルメタクリレートモノマー、メタクリル酸を反応器に投入して、攪拌しながら昇温させた後、触媒等を投入して重合させることにより行われる。なお、触媒としては、重合反応を促進することのできる触媒ならば、特に制限されず用いることができる。
【0043】
本発明で用いられうる架橋剤としては、たとえば、有機過酸化物、フェノール樹脂、硫黄、硫黄化合物、p−キノン、p−キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸などがある。これらの中でも、有機過酸化物、フェノール樹脂が好ましい。なお、これらの架橋剤は、1種単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0044】
なお、乳化剤および重合開始剤は、上述したため省略する。
【0045】
(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂
本発明の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂を40〜60質量%含む。
【0046】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂(C)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物、芳香族ビニル化合物、およびシアン化ビニル化合物を共重合することにより製造される。
【0047】
好ましくは、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂(C)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル5〜50質量%、芳香族ビニル化合物30〜80質量%、およびシアン化ビニル化合物10〜40質量%を含むことができる。
【0048】
より好ましくは、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは10〜30質量%、もっとも好ましくは15〜20質量%で含まれることができる。製造された(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂は、透明樹脂であるのが好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂の重量平均分子量は、好ましくは100,000〜200,000、より好ましくは120,000〜160,000である。
【0050】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキルは、C1〜C4であるのが好ましく、メチル、エチルがより好ましい。たとえば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0051】
さらに、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、特に制限されないが、酸化防止剤、滑剤、衝撃補強剤、光安定剤、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、抗菌剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤などのような一つ以上の添加剤を含むことができる。前記酸化防止剤は、ヒンダドフェノール系酸化防止剤またはホスファイト系酸化防止剤を用いることができる。前記滑剤は、ステアリン酸アミド系滑剤または金属ステアレート系滑剤が用いられることができる。
【0052】
g−ABS樹脂を含む本発明に係る耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物は、既存の耐スクラッチ性樹脂に比べて、優れた射出成形性(injection molding property)およびアイゾッド衝撃強度(Izod impact strength)を有する。かつ、本発明の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物として、着色性(dyeability)、光沢度(high gloss)、耐スクラッチ性(scratch resistance)のような物性バランス(property balance)が良好である。
【0053】
また、本発明に係る耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物は、UVコーティング工程、アクリル系樹脂フィルムの付着工程のような後処理工程なしに、良好な物性バランスを有することができる。
【0054】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の構成要素の添加、溶融混練を通じて行われる射出成形により製造されうる。
【0055】
本発明は下記の実施例によってさらに容易に理解されうる。下記の実施例は本発明の例示のためのものであり、添付された特許請求の範囲により定義される保護範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0056】
本発明の実施例および比較例で用いた成分は次のようである。
【0057】
(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂
本発明の実施例および比較例のゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂(A)は、上述した方法に従い、製造した。平均粒子直径が0.3μmのポリブタジエンゴムラテックス58質量部と、アクリロニトリル35質量%およびスチレン65質量%よりなるグラフト単量体混合物42質量部とを含む乳化グラフト重合により製造された平均粒子直径が300μmのコア−シェルg−ABS共重合体樹脂を用いた。
【0058】
(B)ポリメチルメタクリレート樹脂
メチルメタクリレート単量体88質量部およびメタクリル酸12質量部を含む重量平均分子量(Mw)85,000のポリメチルメタクリレート(PMMA)を実施例および比較例で用いた。
【0059】
(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれたスチレン系共重合体樹脂
メチルメタクリレート単量体20質量部、アクリロニトリル単量体20質量部、およびスチレン単量体70質量部を含む重量平均分子量(Mw)が80,000のM−SAN共重合体樹脂を実施例および比較例で用いた。
【0060】
(D)MS樹脂
(d1)新日本製鐵株式会社製のメチルメタクリレートの含量が30質量%のメチルメタクリレート−スチレン樹脂(MS−300)を用いた。
【0061】
(d2)新日本製鐵株式会社製のメチルメタクリレートの含量が20質量%のメチルメタクリレート−スチレン樹脂(MS−320XL)を用いた。
【0062】
(実施例1)
上記のように製造されたg−ABS11質量%、PMMA35質量%、およびMSAN54質量%を含み、酸化防止剤としてIrganox1076(Ciba)0.3質量部、滑剤としてエチレンビス−ステアリン酸アミド0.4質量部、安定剤としてステアリン酸マグネシウム0.3質量部、およびカーボンブラック0.3質量部を投入して、通常の二軸スクリュー押出機を用いてペレットを製造した後、射出機を用いて物性測定用試片と厚さ2.2mm、横10mm、縦6mmの物性測定用試片を製造した。
【0063】
(実施例2〜4および比較例1〜3)
下記表1の組成および含量を用いたことを除いては前記実施例1と同様な製造方法で試片を製造した。
【0064】
【表1】

【0065】
前記実施例および比較例で製造された物性測定用試片の物性は下記の方法により測定され、その結果は下記表2に示す。
【0066】
(1)ノッチアイゾッド衝撃強度:ASTM D−256を基準に測定した(1/8インチ、kgf・cm/cm)。
【0067】
(2)流動性:メルトフローインデックス(MI)を、ISO1103に準拠して220℃で10kgの試片の流動性を測定した(g/10分)。
【0068】
(3)R−硬度:ロックウェル硬度をASTM D785に準拠して測定した。
【0069】
(4)屈曲弾性率と引張強度:屈曲弾性率はASTM D790(kgf/cm)により測定され、引張強度はASTM D638(kgf/cm)により測定される。
【0070】
(5)鉛筆硬度:JIS K5401に基づいて23℃で3mm(厚さ)x10mm(長さ)x10mm(幅)のサイズを有する試片の表面に500gの荷重を5回かけて、引っかきの程度を目視で判定した。スクラッチが2以上観察されると、1段階低い硬度の鉛筆で前記試験を繰り返した。その結果は4B〜7Hに分類された。
【0071】
(6)着色性:分光測光器を用いてΔLとΔbとを測定して評価した。この時、ABS樹脂を用いた比較例4を標準として、ΔLがマイナスであると、試片が標準より明るいことを意味する。Δbは黄/青の値として差を定義する。Δbがマイナスであると、試片はより青く、これは良好な着色性を意味する。
【0072】
(7)光沢度:ASTM D523に準拠して測定した。
【0073】
(8)射出成形性:射出成形性は、「◎:非常に優れる、○:優れる、△:普通、×:悪い」として評価した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、PMMAを用いた比較例1は、鉛筆硬度およびR−硬度などのようなスクラッチ特性、光沢度、着色性が優れるとしても、耐衝撃性および射出成形性が劣ることがわかる。メチルメタクリレートの含量が40%以下で含有されたMS樹脂が用いられた比較例2および3は、耐衝撃性は確保したが、R−硬度、鉛筆硬度などのスクラッチ性の確保が難しく、着色性が低下したことがわかる。
【0076】
本発明の単純な変形ないし変更は、この分野の通常の知識を有する者により容易に実施でき、このような変形や変更はみんな本発明の領域に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂10〜20質量%;(B)ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂30〜50質量%;および(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂40〜60質量%、を含む、耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)ゴム変性スチレン系グラフト共重合体樹脂は、ゴム状重合体10〜60質量%、芳香族ビニル単量体20〜80質量%、および前記芳香族ビニル単量体と共重合可能な単量体5〜45質量%を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ゴム状重合体は、ジエンゴム、ジエンゴムに水素を添加した飽和ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、エチレン/プロピレン/ジエン単量体三元共重合体(EPDM)、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記芳香族ビニル単量体は、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレン、およびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体は、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミド、およびこれらの2以上の混合物からなる群より選択される、請求項2〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物5〜50質量%、芳香族ビニル化合物30〜80質量%、およびシアン化ビニル化合物10〜40質量%を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記(C)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを5〜50質量%含むスチレン系共重合体樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを10〜30質量%含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
酸化防止剤、滑剤、衝撃補強剤、光安定剤、染料、顔料、難燃剤、充填剤、安定剤、抗菌剤、離型剤、可塑剤および帯電防止剤からなる群より選択される添加剤をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の耐スクラッチ性熱可塑性樹脂組成物により製造された成形品。

【公開番号】特開2011−132528(P2011−132528A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288491(P2010−288491)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】