説明

耐久性及び透光性の高い積層膜材

【課題】採光性と耐久性にすぐれ、スポーツ用施設などの建造物に有用な積層膜材の提供。
【解決手段】基布と、フッ素含有樹脂外面層との間に、イソシアネート化合物及び/又はカップリング剤化合物を含む架橋剤により架橋されたフッ素含有バインダー樹脂と、1万以上の平均分子量と、100nm以下の平均粒子径を有する高分子量紫外線吸収剤微粒子、及び/又は100nm以下の平均粒子径を有する酸化チタン微粒子を含む耐候性向上剤とを含む接着樹層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐久性及び透光性の高い積層膜材に関するものである。更に詳しく述べるならば、本発明は、耐水性、防汚性、採光性(可視光線透過性)、耐候性にすぐれ、従って耐久性が高く、テニスコート、ゴルフ練習場、野球場及びプールなどのスポーツ用施設、展示及びイベント用会場、並びに倉庫などの建造物に好適な積層膜材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、屋根部分を膜材料により構成したテニスコート、ゴルフ練習場、野球場、及びプール等のスポーツ用施設、展示・イベント会場及び倉庫等の建造物が増加してきている。これら膜材料を使用した膜構造物は、屋根部が軽量化され、縫製(接合)も容易であるので、大スパン構造の利用が可能であり、また、屋根部分の施工に要する工期を短縮することが可能である等の特徴を有している。更に、膜材料を屋根部分に使用するもう一つの目的として、膜材料の優れた採光性を利用し、例えば昼間における照明用エネルギーを節約したり、自然光を取り入れた快適な環境を創造する試みが為されている。このような膜材料としては、ポリエステル繊維布帛、ガラス繊維布帛等による繊維基布上に、塩化ビニル樹脂層、シリコン樹脂層、又は四フッ化エチレン樹脂層等を積層したものが知られている。しかし、これらの採光性、透明性を向上させると、繊維基布の紫外線による耐候性劣化、及び湿気等水分による耐水性劣化が顕著となり、長期の使用に耐え得るものではなかった。
【0003】
これら欠点を改良する方法として、例えば、特開平4−182185号(特許文献1)には、透明性を維持する手段として、最外層の塩化ビニル樹脂フィルムに有機系紫外線吸収剤を添加する方法が記載されている。しかし、この方法では、長期の屋外使用により、有機系紫外線吸収剤が経時的にブルーム或いは揮発して、紫外線遮蔽能が低下し、フィルム層表面の劣化、及び繊維基布強度の低下を引き起こし、透明性のみならず、膜材としての強度も著しく低下するという問題を有していた。
【0004】
また、特開平7−304924号(特許文献2)には、ガラス繊維基布上に形成される四フッ化エチレン樹脂層中にシランカップリング処理した酸化チタン超徴粉末を添加して耐候性を付与する方法が開示されている。しかし、この方法では、優れた耐候性は付与できるけれども、酸化チタン粒子を添加することにより、透光性、透明性の低下は不可避であり、また、酸化チタン粒子によるガラス繊維の摩耗損傷が発生し、繊維基布の強度が低下するという欠点を有していた。
【0005】
また、特開平9−25348号(特許文献3)には、繊維基布上に貼着されるフッ素樹脂フィルム中に分子量1000以下の低分子量アクリレート系紫外線吸収剤を添加した膜材料が開示されている。この方法では透明性は保持できるけれども、紫外線吸収剤が経時的にブルームし、長期の屋外使用においては、紫外線吸収能が低下し、繊維基材の強度低下を招いてしまうという欠点を有していた。
【特許文献1】特開平4−182185号公報
【特許文献2】特開平7−304924号公報
【特許文献3】特開平9−25348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可視光線透過性(採光性)、耐候性、防汚性、耐水性においてすぐれていて、かつ実用上十分な機械的強度を長期間にわたって維持することが可能な、耐久性及び透光性の高い積層膜材を提供しようとするものである。
また、本発明は、テニスコート、ゴルフ練習場、野球場、プール、その他のスポーツ用施設、展示及びイベント用会場、並びに倉庫などのように、採光性、耐水性及び長期耐候性を必要とする建造物に有用な、耐久性及び透光性の高い積層膜材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材は、繊維布帛からなる基布と、この基布の少なくとも1面上に形成された接着樹脂層と、この接着樹脂層を介して前記基布に接着されている少なくとも1層のフッ素含有樹脂外面層とを含み、
前記接着樹脂層が、前記基布上に形成された接着樹脂下層と、この接着樹脂下層と前記フッ素含有樹脂外面層との間に形成された接着樹脂上層とからなり、
前記接着樹脂下層が、イソシアネート化合物及びカップリング剤化合物から選ばれた少なくとも1種を含む架橋剤により、架橋されたフッ素含有バインダー樹脂と、1万以上の平均分子量と、100nm以下の平均粒径を有する微粒子状高分子量紫外線吸収剤を含む耐候性向上剤とを含み、
前記接着樹脂上層が、平均粒径が100nm以下の微粒子酸化チタンと、イソシアネート化合物及びシランカップリング剤化合物から選ばれた少なくとも1種の架橋剤により架橋されたフッ素含有バインダー樹脂とを含み、
全体として、15%以上の可視光線透過率を有する、ことを特徴とするものである。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記基布用繊維布帛が、経糸及び緯糸がそれぞれ、糸間間隔を空けて互に平行に配置されている粗目織物から選ばれることが好ましい。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記微粒子状高分子量紫外線吸収剤が、2−ヒドロキシベンゾフェノン化合物及び2−ヒドロキシベンゾトリアゾール化合物から選ばれた少なくとも1種の紫外線吸収性モノマーと、この紫外線吸収性モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材に用いられる前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、フロロアルキルビニルエーテル、及びエチレンから選ばれた少なくとも2種の共重合体の少なくとも1種を含むフッ素含有共重合体樹脂を含むことが好ましい。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記フッ素含有樹脂外面層用フッ素含有共重合体樹脂が四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体を含むことが好ましい。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記フッ素含有樹脂外面層の可視光線透過率が70%以上であることが好ましい。
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記フッ素含有樹脂外面層が90%以上の可視光線透過率を有し、実質的に透明であることが好ましい。 本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材において、前記接着樹脂層用フッ素含有バインダー樹脂が、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン3元共重合体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層膜材は耐久性及び透光性に優れ、長期の屋外使用においても、水劣化及び気候劣化が少なく、高い防汚性、採光性、強度保持性を有し、従って、各種スポーツ用施設、展示場、イベント会場及び倉庫などの建造物に有用なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材の1実施態様を図1に示す。
図1の積層膜材において、繊維布帛からなる基布1の片面上に、接着樹脂下層2が形成接合されており、その上に接着樹脂上層4が形成接合されており、さらにその上に、フッ素含有樹脂外面層3が形成接合されている。
【0010】
本発明の積層膜材に用いられる基布は、天然繊維、例えば木綿、麻など、無機繊維、例えばガラス繊維など、再生繊維、例えばビスコースレーヨン、キュプラなど、半合成繊維、例えば、ジ−及びトリアセテート繊維など、及び合成繊維、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、及びポリオレフィン繊維などから選ばれた少なくとも1種からなる布帛から選ぶことができる。これらの布帛の中でも、高い柔軟性が求められる場合は、ポリエステル繊維布帛を用いることが好ましく、また、高い膜材強度、耐久性が求められる場合にはガラス繊維布帛を用いることが好ましい。
【0011】
布帛中の繊維は、短繊維紡績糸、長繊維糸条、スプリットヤーン、テープヤーンなどのいずれの形状のものでもよい。また基布組織は織物、編物、不織布またはこれらの複合体のいずれであってもよいが、少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸及び緯糸を含む糸条により構成された粗目状の編織物、及び非粗目状編織物に構成されていることが好ましく、特には、採光性、透明性、透視性の点から、粗目状編織物であることが好ましい。粗目状編織物の織製組織としては、20〜95%の可視光線透過率を有すメッシュ状の織組織、例えば、平織り、バスケット織り、又は模しゃ織り等が好ましい。基布の可視光線透過率が20%未満になるとその上にフッ素含有樹脂層が積層されると、得られる積層膜材は有効な透光性を示すことができず、また可視光線透過率が95%をこえると、得られる基布は、膜材の強度を実用可能な程度に維持することができない。基布布帛の織組織は、積層膜材の目的、用途、所望の可視光線透過率に応じ適宜選択できるが、
【0012】
このような織組織としては、本発明の積層膜材の所望可視光線透過率が15〜35%の場合、例えば202.5Texのガラスフィラメント糸を使用し、経糸、緯糸の糸密度を15〜20本/25.4mmとすることが好ましい。また、ポリエステル繊維として、例えば750Dのフィラメント糸を使用する際は、経糸、緯糸の糸密度は15〜20本/25.4mmが好ましい。また、本発明の積層膜材の所望可視光線透過率が35%以上の場合、例えば202.5Texのガラスフィラメント糸を使用した場合、経糸、緯糸の糸密度は3〜15本/25.4mmが好ましい。また、例えば750Dのポリエステルフィラメント糸を使用する際は、経糸、緯糸の糸密度は5〜15本/25.4mmが好ましい。
【0013】
本発明の積層膜材に用いられるフッ素含有樹脂としては、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、フロロアルキルビニルエーテル及びエチレンからなる群から選ばれた2種以上のモノマーからなる共重合体樹脂が好ましく使用できる。特には、透明性、柔軟性、高周波縫製性、加工性の点から、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンとの三元共重合体樹脂を用いることが好ましい。テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製「THV200G」、「THV400G」、及び「THV500G」などがある。また、フッ素含有樹脂中には、積層膜材の目的、用途に応じ、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、滑剤、着色剤等を適宜添加できるが、採光性の点から、各種添加剤を添加した後のフッ素樹脂層の可視光線透過率は70%以上であることが好ましい。更に、可視光線透過率が90%以上の実質的に透明なフィルムを使用することが、透視性、採光性の面から望ましい。
【0014】
本発明の積層膜材においては、基布とフッ素含有樹脂外面層の間に、接着樹脂層が設けられる。接着樹脂層は、基布とフッ素含有樹脂外面層とを接着する目的で形成されるが、更に基布に含まれる繊維束への吸水現象、紫外線吸収剤の揮散、移行による耐水性の劣化の防止と、また接着樹脂層による透光性の低下を引き起こすことなく、また基布そのものの紫外線による耐光劣化を防止するためにも有効である。接着樹脂層は、基布上に形成された接着樹脂下層と、この接着樹脂下層と、前記フッ素含有樹脂外面層との間に形成された接着樹脂上層とからなるものである。
【0015】
本発明の接着樹脂層に含まれる微粒子状高分子量紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン構造、および/又は2−ヒドロキシベンゾトリアゾール構造を紫外線吸収性骨格として含むものであって、上記紫外線吸収性構造を有する化合物と、これと共重合し得るモノマーとの共重合体が用いられる。
紫外線吸収骨格となる2−ベンゾフェノン化合物としては、例えば2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メタクリロイルオキシエトキシベンゾフェノン及び2−ヒドロキシ−4−(2−アクリロイルオキシ)エトキシベンゾフェノンなどを用いることが好ましく、また2−ベンゾトリアゾール化合物としては、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタアクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタアクリロイルオキシエチル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(アクリロイルオキシエチル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタアクリロイルオキシプロピル)フェニル]−5−クロロベンゾトリアゾール、及び2−[2′−ヒドロキシ−5′−(メタアクリロオキシメチル)フェニル]ベンゾトリアゾールなどを用いることが好ましい。
【0016】
上記紫外線吸収性構造を有する化合物と共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸及びそのアルキルエステル類、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸ブチルなど、ビニルエーテル類、例えばメチルビニルエーテル、及びエチルビニルエーテルなど、アクリロニトリル、並びにスチレンなどが挙げられ、これらの少なくとも1種を用いることが出来る。
【0017】
紫外線吸収剤共重合体中に占める紫外線吸収骨格化合物成分の割合は、30〜70重量%であることが好ましい。この重合比が30重量%未満では、得られる共重合体の紫外線吸収能力が不十分になり、繊維基布の劣化を防止することができないことがある。またその重合比が70重量%を越えると得られる共重合体とフッ素含有樹脂との相溶性が不十分になり、共重合体のブリード現象が顕著となることがある。また、高分子量紫外線吸収剤共重合体の分子量は、紫外線吸収剤の揮発及び経時的ブリード現象を防止するためには、1万以上であることが必要である。それが1万未満ではブリード現象が顕著となり、繊維基布の耐候性及び耐水性が不十分になる。また、紫外線吸収剤共重合体の分子量を大きくするに伴い、その粒子の平均粒径は大きくなるが、可視光線透過率の低下を防止する点から、その平均粒径を100nm以下とすることが必要である。平均粒径が100nmより大きくなると、光散乱に伴う可視光線透過率の低下を生起する。
【0018】
このような要件を満たす高分子量紫外線吸収剤共重合体としては、前記2−ヒドロキシベンゾフェノン化合物、および/又は2−ヒドロキシベンゾトリアゾール化合物と共重合性モノマーとを重合反応させる際に、ジビニルベンゼン、トリメタクリル酸アリルなどのように分子内に2個以上の2重結合を有する架橋性モノマー、或いはグリシジルメタクリレート、メタクリル酸アミドなどのように自己縮合性の官能基を有する架橋性モノマーを併用し、これらを乳化重合して得られる水性エマルジョン型紫外線吸収剤を用いることが、高分子量で且つ平均粒径100nm以下の紫外線吸収剤粒子を得る上で好ましく、また水性バインダー樹脂への分散性が高いという点からも好ましい。このような高分子量紫外線吸収剤としては、例えば「ULS−383MG」(一方社油脂工業(株)製)を用いることができる。
【0019】
高分子紫外線吸収剤の添加量は、接着樹脂層の合計固形分重量に対し、1〜30重量%であることが好ましい。その添加量が1重量%未満では紫外線遮蔽能が不十分になることがあり、30重量%をこえると得られる接着樹脂層の繊維基布との接着性が不十分になり、かつ透光率の低下が顕著となることがある。
【0020】
微粒子酸化チタンとしては、塩素法及び硫酸法の何れの製法で得られるものであってもよく、またその結晶構造も、ルチル型及びアナターゼ型の何れであってもよい。その平均粒径は、可視光線透過率の点から100nm以下であることが必要であり、50nm以下であることが好ましい。平均粒径が100nmを越えると、得られる接着樹脂層の透光率が不十分になり、また、特にガラス繊維を基布に用いる場合には、酸化チタンによるガラス繊維の損傷が促進され、基布強度の耐久性が低下する。特に、高分子量紫外線吸収剤と併用することにより、得られる接着樹脂層と繊維基布との接着性を損なうことなく、更に紫外線遮蔽能を向上させることができる。
【0021】
微粒子酸化チタンの添加量は、接着樹脂上層の合計固形分重量に対し、0.1〜15重量%であることが好ましい。それが0.1重量%未満では紫外線遮蔽能が不十分になることがあり、またそれが15重量%をこえると、得られる接着樹脂層の可視光線透光率が不十分になり、特にガラス繊維を基布に使用する場合に、ガラス繊維の強度そのものの低下を招いてしまうことがある。
【0022】
本発明の接着樹脂層には、繊維基布との接着性を向上させ、かつ耐水性を改良するために、フッ素含有バインダー樹脂の架橋剤としてイソシアネート化合物及びカップリング剤から選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられる。
本発明に用いられるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及びジルコアルミニウム系カップリング剤から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0023】
シラン系カップリング剤としては、アミノシラン類、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、及びN−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシランなど;エポキシシラン類、例えば、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、及びβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなど;ビニルシラン類、例えば、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シランなど;メルカプトシラン類、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなど、が挙げられる。
【0024】
チタン系カップリング剤としては、アルコキシチタン類、例えば、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン及びテトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタンなど;チタンアシレート類、例えば、トリ−n−ブトキシチタンステアレート及びイソプロポキシチタントリステアレートなどが挙げられる。
【0025】
ジルコニウム系カップリング剤としては、例えば、テトラブチルジルコネート、テトラ(トリエタノールアミン)ジルコネート、およびテトライソプロピルジルコネートなどが挙げられる。
またアルミニウム系カップリング剤としては、例えば、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートが挙げられる。
さらに、ジルコアルミニウム系カップリング剤としては、テトラプロピルジルコアルミネートが挙げられる。
【0026】
これらカップリング剤の中で、耐水性、耐候性の観点から、特にγ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシシランを用いることが好ましい。
【0027】
フッ素含有バインダー樹脂の架橋剤として用いられるイソシアネート化合物としては、脂肪族ジイソシアネート類、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネートなど;脂環式ジイソシアネート類、例えば、イソホロンジイソシアネート及び水素添加トリレンジイソシアネートなど;芳香族ジイソシアネート類、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート及びキシレンジイソシアネートなど;イソシアヌレート類、例えば、トリス(ヘキサメチレンイソシアネート)イソシアヌレート、及びトリス(3−イソシアネートメチルベンジル)イソシアヌレートなど、から選ばれた少なくとも1種、または、これら化合物のイソシアネート基末端をフェノール類、オキシム類、アルコール類、ラクタム類などから選ばれたブロック化剤でブロックしたブロックイソシアネート類;および前記化合物のイソシアネート基の一部にエチレングリコールなどのような親水性単量体が付加された変性イソシアネートを用いることが好ましい。エマルジョン系樹脂液に添加して用いられるときには、分散性、耐水性、基布への接着性の観点から、特に、ブロックイソシアネート、および脂肪族イソシアネートのイソシアネート基の1個にエチレングリコールなど親水性単量体が付加された変性部分三量化イソシアヌレートを用いることが好ましい。
【0028】
カップリング剤及びイソシアネートの添加量は、接着樹脂層の合計固形分重量に対し、0.5〜30重量%であることが好ましい。その添加量が0.5%未満では得られる接着樹脂層と繊維基布との接着性、及びその耐水性が不十分になることがあり、またそれが30重量%をこえると、得られる積層膜材の柔軟性が不十分になることがある。
【0029】
本発明の接着樹脂層に含まれるバインダー樹脂としては、フッ素含有樹脂が用いられる。これはフッ素含有樹脂外面層との接着性にすぐれ、かつ耐水性、耐候性の点から好適であり、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、トリフルオロ塩化エチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテルから選ばれた1種の単量体の重合体、又は2種以上の単量体の共重合体の溶液分散タイプ、或いは水分散タイプが好ましく使用できる。特に、柔軟性、高周波縫製性、耐久性の点から、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂の水分散液を用いることが好ましい。このような樹脂としては、例えば、ディスパージョンタイプの住友スリーエム株式会社製「THV350C」を用いることができる。
【0030】
フッ素含有バインダー樹脂には、必要によりアクリル系樹脂、及びポリウレタン樹脂の1種以上が併用されてもよい。本発明において、接着樹脂層は上・下2層からなる本発明の複合膜体において、ガラス繊維を基布として用いているので、酸化チタンによる繊維の損傷を避ける目的から、1層目に高分子量紫外線吸収剤と、イソシアネート化合物及びカップリング剤から選ばれた少なくとも1種の化合物及びバインダー樹脂からなる接着樹脂下層を設け、更にその上に、微粒子酸化チタンと、イソシアネート化合物及びカップリング剤から選ばれた少なくとも1種の化合物及びバインダー樹脂からなる接着上層を設けることにより、得られる積層膜材の耐久性を向上させることができる。
【0031】
本発明の積層膜材は、繊維基布とその少なくとも一面側に積層されたフッ素含有樹脂外面層を有し、前記繊維基布とフッ素含有樹脂外面層の間に接着樹脂上・下層が形成された積層体である。
その製造方法として、接着樹脂層は、グラビアロールコーティング、ドクターブレードコーティング、リバースロールコーティング、ディップコーティング等の方法により形成することができる。また、フッ素含有樹脂外面層は、カレンダー成型法、Tダイによる押し出し成型法等の方法により形成されたフッ素含有樹脂フィルムを熱圧着等の方法で接着樹脂層上に積層して形成される。
前記方法で製造された積層膜材の可視光線透過率は、この膜材により構成される建造物内部の採光性及び暖房効率性の面から、15%以上であり、好ましくは20%以上である。
【実施例】
【0032】
本発明を下記実施例により更に具体的に説明する。各実施例において製品の性能評価に用いられた測定方法は下記の通りである。
【0033】
(1)可視光線透過率
JIS K−7105に準拠して全光線透過率を測定した。
(2)耐候性
メタルウェザー超促進耐候試験機(大日本プラスチック(株)製)を使用し、下記試験条件で紫外線照射した後の引張強度及び接着力の保持率を測定し評価した。
紫外線強度;50(mW/cm2
L時(ライト);温度60℃、湿度39%、設定時間 4時間
D時(結露);温度60℃、湿度90%以上、設定時間 4時間
L時及びD時の合計時間 8時間
を1サイクルとして、合計15サイクル(120時間)を1単位の試験時間とし、合計10単位1200時間の照射を行った。
【0034】
(3)耐水性試験
40℃の温水に1週間浸漬した後の引張強度及び接着力の保持率を評価した。
(4)耐屈曲性試験
JIS K−5400に準拠して、引張強度の保持率を評価した。
【0035】
参考例1
基布として、ガラス繊維糸条(繊維太さ:DEヤーン、織糸太さ:337.5Tex/2)を経糸及び緯糸として使用した布帛(模しゃ織り、目付け:270g/m2 、密度:経糸4本/25.4mm、緯糸5本/25.4mm)を使用した。この基布の可視光線透過率は70%であった。この基布を下記組成の接着樹脂下層形成用樹脂液中にディッピングし、絞り、乾燥、固化して、基布の表面に接着樹脂下層を形成した。さらにその上に下記組成の接着樹脂上層形成溶樹脂液を用いて、接着樹脂上層を形成した。
(接着樹脂下層用樹脂液組成)
フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン 100重量部
(住友スリーエム(株)製;商標:THV−350C、ディスパージョン、固形分50 %)
エマルジョン型高分子量紫外線吸収剤 40重量部
(一方社油脂工業(株)製;商標:ULS−383MG、分子量100万以上
平均粒径70nm、固形分30%)
シランカップリング剤 3重量部
(β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)
この樹脂液の成分の固形分重量含有量は、樹脂バインダーが76.9重量%、高分子量紫外線吸収剤が18.5重量%、カップリング剤が4.6重量%であり、塗布量は125g/m2 であった。また、接着樹脂層形成後の可視光線透過率は62%であった。
【0036】
フッ素含有樹脂外面層に用いるフッ素含有樹脂としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体樹脂(住友スリーエム(株)製;商標:THV−400G)を用い、これに加工助剤としてアマイド系滑剤0.5重量部を配合し、得られた樹脂組成物をカレンダー成型法により混練・圧延し、厚さ0.20mmのフィルムを作製した。このフィルムの可視光線透過率は85%であった。このフィルムを前記繊維基布の両面に形成された接着樹脂層に、それぞれ170℃で2分間熱圧着し、前記接着樹脂層を架橋するとともに、それを介して、フッ素含有樹脂フィルムを基布に接着した。本発明の積層膜材を得た。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表1及び表3に示す。
【0037】
参考例2
参考例1と同様にして積層膜材を作製し、試験を行った。但し、接着樹脂下層の組成に、更に平均粒径が30nmの微粒子酸化チタン(チタン工業(株)製STT−4)5重量部を追加した。この時の配合固形成分量は、樹脂バインダーが71.4重量%、高分子量紫外線吸収剤が17.1重量%、微粒子酸化チタンが7.1重量%、カップリング剤が4.3重量%であった。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表1と表3に示す。
【0038】
実施例1
参考例1と同様にして積層膜材を作製し、試験を行った。但し、接着樹脂下層を下記組成の樹脂液から形成し、さらにその上に下記組成の追加樹脂液から接着樹脂上層を形成した。
(接着樹脂下層用樹脂液)
フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン 100重量部
(住友スリーエム(株)製;THV−350C、ディスパージョン、固形分50%)
エマルジョン型高分子量紫外線吸収剤 40重量部
(一方社油脂工業(株)製;ULS−383MG、分子量100万以上
平均粒径70nm、固形分30%)
カップリング剤 3重量部
(β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)
【0039】
(接着樹脂上層用樹脂液)
フッ化ビニリデン−4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン 100重量部
(住友スリーエム(株)製;THV−350C、ディスパージョン、固形分50%)
微粒子酸化チタン 5重量部
(石原産業(株)製;TTO−55、1次粒子径35nm)
カップリング剤 3重量部
(β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン)
【0040】
この時の配合固形成分量は、接着樹脂下層では、樹脂バインダーが76.9重量%、高分子紫外線吸収剤が18.5重量%、カップリング剤が4.6重量%であり、その塗布量は80g/m2 であった。接着樹脂上層では、樹脂バインダーが86.2重量%、微粒子酸化チタンが8.6重量%、カップリング剤が5.2重量%であり、その塗布量は30g/m2 であった。この積層膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表1と表3に示す。
【0041】
比較例1
参考例2と同様にして膜材を作製し、試験を行った。但し、接着樹脂下層を設けず、フッ素含有樹脂フィルムを直接繊維性基布の両面に積層して外面層を形成した。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0042】
比較例2
参考例2と同様にして膜材を作製し試験を行った。但し、接着樹脂下層の高分子紫外線吸収剤を、低分子量の紫外線吸収剤(城北化学(株)製;分子量225.3、平均粒径10nm以下) に変更した。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0043】
比較例3
参考例2と同様にして膜材を作製し試験を行った。但し、接着樹脂下層の高分子紫外線吸収剤として粒子径の大きな高分子量紫外線吸収剤(一方社油脂工業(株)製;ULS−383MG、分子量100万以上、平均粒径200nm、固形分30%)を用いた。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0044】
比較例4
参考例2と同様にして膜材を作製し試験を行った。但し、接着樹脂下層の微粒子酸化チタンとして、1次粒子径300nmの酸化チタンを用いた。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0045】
比較例5
参考例2と同様にして膜材を作製し試験を行った。但し、フッ素含有樹脂外面層用フィルム中に、平均粒径300nmの酸化チタン5重量部を含有させた。得られたフィルムの光線透過率は45%であった。このフィルムを接着樹脂層を介することなく、直接に繊維基布の両面に積層した。この膜材の組成及び試験結果をそれぞれ表2と表3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の耐久性及び透光性の高い積層膜材は、長期の屋外使用においても、水劣化、気候劣化が少なく、防汚性、採光性、強度保持性に優れており、従ってテニスコート、ゴルフ練習場、野球場、プール等のスポーツ用施設、展示場、イベント会場及び倉庫等の建造物に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の耐久性の高い積層膜材の一例の積層構造を示す断面説明図。
【符号の説明】
【0051】
1 基布
2 接着樹脂下層
3 フッ素含有樹脂外面層
4 接着樹脂上層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維布帛からなる基布と、この基布の少なくとも1面上に形成された接着樹脂層と、この接着樹脂層を介して前記基布に接着されている少なくとも1層のフッ素含有樹脂外面層とを含み、
前記接着樹脂層が、前記基布上に形成された接着樹脂下層と、この接着樹脂下層と、前記フッ素含有樹脂外面層との間に形成された接着樹脂上層からなり、
前記接着樹脂下層が、イソシアネート化合物及びカップリング剤化合物から選ばれた少なくとも1種を含む架橋剤により、架橋されたフッ素含有バインダー樹脂と、1万以上の平均分子量と、100nm以下の平均粒径を有する微粒子状高分子量紫外線吸収剤を含む耐候性向上剤とを含み、
前記接着樹脂上層が、平均粒径が100nm以下の微粒子酸化チタンと、イソシアネート化合物及びシランカップリング剤化合物から選ばれた少なくとも1種の架橋剤により架橋されたフッ素含有バインダー樹脂とを含み、
全体として、15%以上の可視光線透過率を有する、ことを特徴とする耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項2】
前記基布用繊維布帛が、経糸及び緯糸がそれぞれ、糸間間隔を空けて互に平行に配置されている粗目織物から選ばれる、請求項1に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項3】
前記微粒子状高分子量紫外線吸収剤が、2−ヒドロキシベンゾフェノン化合物及び2−ヒドロキシベンゾトリアゾール化合物から選ばれた少なくとも1種の紫外線吸収性モノマーと、この紫外線吸収性モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項4】
前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、フロロアルキルビニルエーテル、及びエチレンから選ばれた少なくとも2種の共重合体の少なくとも1種を含むフッ素含有共重合体樹脂を含む、請求項1に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項5】
前記フッ素含有樹脂外面層用フッ素含有共重合体樹脂が四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体である、請求項4に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項6】
前記フッ素含有樹脂外面層の可視光線透過率が70%以上である、請求項1,4及び5のいずれか1項に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項7】
前記フッ素含有樹脂外面層が90%以上の可視光線透過率を有し、実質的に透明である、請求項1及び4〜6項のいずれか1項に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。
【請求項8】
前記接着樹脂層用フッ素含有バインダー樹脂が、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン3元共重合体である、請求項1に記載の耐久性及び透光性の高い積層膜材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−321238(P2006−321238A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195886(P2006−195886)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【分割の表示】特願2000−43557(P2000−43557)の分割
【原出願日】平成12年2月16日(2000.2.16)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】