説明

耐傷性、および耐金型汚染性に優れる熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐傷性、機械的特性、および連続成形時の耐金型汚染性に優れる熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)と、メタクリル酸メチル単量体70〜99.5質量%およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体0.5〜30質量%を共重合してなる共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂組成物(D)において、共重合体(C)の含有量が30〜90質量%であり、鉄化合物の含有量が鉄元素として1.5ppm未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐傷性、機械的特性、および連続成形時の耐金型汚染性に優れる熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スチレン系樹脂は、良好な成形加工性と機械的特性バランスを有し、電気絶縁性に優れていることから、電気・電子機器分野、OA機器分野など、広範な分野で用いられている。製品化の際、樹脂を成形して得られた成形品を、例えば組み立てラインまで輸送する際、細かな擦過傷を防止する目的で柔らかい不織布等で一つずつ梱包する場合があり、多大な手間とコストが必要であった。また、樹脂製品に様々な意匠を付与したり、使用時の製品の傷付きを防止する目的で、製品に全塗装、あるいは部分塗装を施す場合がある。しかしながら、塗装処理は塗装不良による生産の歩留まり低下を生じやすいという問題点がある。また近年のVOC排出抑制の流れから、できるだけ塗装処理を施すことなく、鮮やかな色、あるいは深みのある色に着色したり、金属調やパール調の外観を持たせる等、意匠性を付与しやすく、且つ傷のつきにくい樹脂が望まれていた。
【0003】
一方、スチレン系樹脂は、スチレンとアクリロニトリル、メチルメタクリレートなどの単量体を共重合することで、メチルメタクリレート系樹脂との優れた相容性が得られることから、様々な目的でこれらのアロイが提案されている。例えば、スチレン系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂を混合して透明性を保持しながら耐傷性を向上する方法が挙げられる(例えば特許文献1、2参照)が、これらは耐衝撃性が十分でないという問題があった。そこで、ゴム成分を導入することで、耐傷性と耐衝撃性などのバランス(例えば特許文献3参照)、透明性と耐衝撃性などのバランス(例えば特許文献4、5参照)、透明性、耐傷性と耐衝撃性などのバランス(例えば特許文献6参照)を向上する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの樹脂を深みのある色、例えば黒色に着色したものを射出成形して製品を得た場合、ウェルド部に揮発分由来の曇りが生じる場合がある。この曇りは、例えば高速ヒートサイクル成形法などを用いてウェルド部の凹凸を解消して平滑になったとしても成形品表面に残ってしまうため、高い意匠性を求める用途においては頻繁に金型表面の洗浄を求められるなど、連続生産性に劣るものであった。
この曇りは、樹脂組成物中に含有される未反応の単量体、および二量体、三量体、およびこれらから誘導される分子量が1000未満のオリゴマー成分によるものであることが多い。一般的に、これらの成分を低減する方法として、熱分解型重合開始剤の替わりにレドックス系の開始剤を使用するなどの重合条件の制御、さらには、溶融混練の際に押出機内部を減圧し、ベント口からこれらの成分を揮発成分として除去する方法等が挙げられる。しかしながら、たとえ成形に至るまでの工程で樹脂組成物に含有されるこれらの成分を低減できたとしても、成形機シリンダー内での高温下での滞留、および金型充填中のせん断発熱などにより樹脂成分の分解が生じてしまうため、連続成形を行った際、金型表面、特にウェルド付近にこれらの分解物が累積して曇りなどの外観不良の原因となっていた。
【特許文献1】特開昭58−194939号公報
【特許文献2】特開平7−228740号公報
【特許文献3】特開平11−1600号公報
【特許文献4】特開平8−73685号公報
【特許文献5】特開2001−226547号公報
【特許文献6】特開2006−265407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、耐傷性、耐衝撃性に優れ、且つ頻繁に金型洗浄を行うことなく外観の優れた成形品を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、メタクリル酸メチル成分がある範囲にある共重合体を特定量含有し、且つ樹脂組成物に含有される鉄化合物が鉄元素として特定値未満である熱可塑性樹脂組成物とすることにより、課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、
[1]ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)と、メタクリル酸メチル単量体70〜99.5質量%およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体0.5〜30質量%を共重合してなる共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂組成物(D)において、共重合体(C)の含有量が30〜90質量%であり、鉄化合物の含有量が鉄元素として1.5ppm未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
【0007】
[2]熱可塑性樹脂組成物中における沸点200℃未満の成分の総量が2500ppm未満であることを特徴とする上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物、
[3]熱可塑性樹脂組成物中におけるオリゴマー成分の総量が10000ppm未満であることを特徴とする上記1、2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
[4]全光線透過率が70%以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
[5]上記1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする成形品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、耐傷性と機械的特性とのバランスに優れ、頻繁に金型洗浄を行うことなく成形品外観に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明におけるグラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム、およびこれらの水素添加物、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴム等が挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で特に好ましいのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴムである。
【0010】
グラフト共重合体(A)、および共重合体(B)における芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンが挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で特に好ましいのは、スチレン、およびα−メチルスチレンである。
グラフト共重合体(A)、および共重合体(B)における芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステルや同様な置換体のメタクリル酸エステル、さらに、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類やN−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体等が挙げられ、この中で特に好ましいのは、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、N−フェニルマレイミド、グリシジルメタクリレートである。
【0011】
共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することができる。この中で好ましいのは、スチレン、アクリル酸メチルである。
【0012】
本発明において、グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の体積平均粒子径は、耐衝撃性等の機械的強度、成形加工性、成形品外観のバランスから、好ましくは0.1〜1.2μm、より好ましくは0.15〜0.8μm、さらに好ましくは0.15〜0.6μm、特に好ましくは0.2〜0.4μmである。
また、グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、好ましくは10〜150質量%、より好ましくは20〜110質量%、さらに好ましくは25〜60質量%である。グラフト率をこの範囲にすることで、耐衝撃性に優れ、成形加工性の良好な組成物を得ることができる。尚、グラフト率とは、ゴム質重合体にグラフト共重合した単量体の、ゴム質重合体に対する重量割合として定義される。その測定法は、重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分と不溶分とに分離する。この時、アセトンに溶解する成分は重合反応した共重合体のうちグラフト反応しなかった成分(非グラフト成分)であり、アセトン不溶分はゴム質重合体、およびゴム質重合体にグラフト反応した成分(グラフト成分)である。アセトン不溶分の重量からゴム質重合体の重量を差し引いた値がグラフト成分の重量として定義されるので、これらの値からグラフト率を求めることができる。
【0013】
グラフト共重合体(A)を製造する方法として、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、懸濁塊状重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することができる。このうち、乳化重合にて製造する際には、レドックス開始剤・触媒系、あるいは熱分解型の開始剤を用いる方法が挙げられるが、レドックス開始剤・触媒系は、グラフト率の制御が容易であるため、得られた樹脂組成物は機械的強度に優れるという利点があり、さらに、最終重合率が上がりやすいために組成物中の未反応の単量体、およびオリゴマー量を低く抑えることができるため、より好ましい。
共重合体(B)の還元粘度(ηsp/c)は0.3〜1.0dl/gが好ましく、より好ましくは0.35〜1.0dl/g、さらに好ましくは0.4〜0.9dl/gである。これがこの範囲にあると耐傷性と耐衝撃性のバランスに優れた組成物を得ることができる。還元粘度は、共重合体(B)0.50gを2−ブタノン100mlにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
【0014】
共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体の含有量は70〜99.5質量%、好ましくは75〜99.5質量%以上、さらに好ましくは80〜98.5質量%以上、特に好ましくは85〜98.5質量%、最も好ましくは90〜98.5質量%以上である。 これがこの範囲にあると、耐傷性、および成形品外観、特にウェルド部の外観に優れた成形品を得ることができる。
共重合体(C)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物(D)の30〜90質量%、好ましくは40〜85質量%、さらに好ましくは40〜80質量%、特に好ましくは40〜75質量%、最も好ましくは40〜70質量%である。これがこの範囲にあると、耐傷性、および成形品外観、特にウェルド部の外観に優れた成形品を得ることができる。
【0015】
また、共重合体(C)の還元粘度は0.18〜1.0ml/gが好ましく、より好ましくは0.20〜1.0ml/g、さらに好ましくは0.22〜0.9ml/g、特に好ましくは0.25〜0.9ml/gである。これがこの範囲にあると、耐衝撃性と成形性のバランスに優れた組成物を得ることができる。還元粘度は、共重合体(B)と同様に共重合体(C)0.50gを2−ブタノン100mlにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
尚、共重合体(B)と共重合体(C)は同一であっても良い。
共重合体(B)、および共重合体(C)は、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、懸濁塊状重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することができる。
【0016】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物中に含有される鉄化合物としては、例えばグラフト共重合体(A)、共重合体(B)、共重合体(C)を製造する際に使用した水中に微量に含まれていたものや共重合に用いられた触媒などの残留物、着色剤や添加剤成分として添加されるもの、あるいはこれらを溶融混練してペレット化する際のストランド冷却水に含有されるもの、輸送配管(SUS材)由来などが挙げられる。
熱可塑性樹脂組成物(D)における鉄化合物の含有量は、鉄元素として1.5ppm未満、好ましくは1.3ppm未満、さらに好ましくは1.1ppm未満、特に好ましくは1.0pp未満、最も好ましくは0.8ppm未満である。これがこの範囲にあると、成形機シリンダー内での高温下での滞留、および金型充填中のせん断発熱などによる樹脂の熱分解を抑制することができるため、頻繁に金型洗浄を行うことなくウェルド部の外観に優れた成形品を得ることができる。
【0017】
熱可塑性樹脂組成物中の鉄元素の含有量は、クリーンルーム内で熱可塑性樹脂(D)0.25gをテフロン(登録商標)製分解容器に精秤し、硫酸および硝酸を加えてマイクロウェーブ分解装置で加圧酸分解した後、この分解液を25mlに定容して測定溶液とし、これをICP質量分析装置にてコバルトを内部標準に用いて絶対検量線法にて測定することにより得られる。尚、鉄の測定はプラズマガスのアルゴンに起因する干渉を受けるため、水素ガスをリアクションガスに用いる。
熱可塑性樹脂組成物中の鉄化合物の含有量を低減する方法として、例えば共重合時に使用する水あるいは溶融混練後押出機から出たストランドを冷却する水として脱イオン水を使用する方法、共重合時に鉄化合物触媒を使用しない重合法を採用する方法、鉄化合物触媒を使用する場合にはできるだけ使用量を低減した処方を用いる方法、水溶性の鉄化合物触媒を用いた場合には重合後の水洗に脱イオン水を用いて水洗を充分に行う方法、水洗後の脱水率をできるだけ上げる方法などが挙げられる。
【0018】
このうち、重合後の水洗を充分に行う方法は、大量の水が必要であることから、工業的には困難であり、また効果が不十分であることが多いため、脱水率をできるだけ上げる方法がより好ましい。脱水率を上げる方法として、遠心分離機、ベルトプレス機、スクリュープレス機による脱水が挙げられ、このうち、工業的にはベルトプレス機、およびスクリュープレス機による脱水が大量な処理が可能で、且つ脱水率も高いため好ましい。
これらは二種以上を組み合わせて用いることにより、より効果的に組成物中の鉄化合物の含有量を低減することができる。
熱可塑性樹脂組成物中における沸点200℃未満の成分の総量は、2500ppm未満であることが好ましく、さらに好ましくは2000ppm未満、特に好ましくは1500ppm未満、最も好ましくは1200ppm未満である。これがこの範囲にあれば、ウェルド部の外観に優れた成形品を得ることができる。尚、本願では、沸点とは一気圧下における値を言い、熱可塑性樹脂組成物中に含有される沸点200℃未満の成分としては、例えば、未反応の単量体成分、重合の際に用いられた溶媒、着色に用いられた染顔料、染顔料の分散処理剤、滑剤などの添加剤が挙げられる。
【0019】
これらの含有量は、熱可塑性樹脂組成物のペレットをジメチルホルムアミドに溶解した後、不溶分を沈降分離し、上澄み液をガスクロマトグラフィーを用いて測定することにより得られる。
熱可塑性樹脂組成物中における沸点200℃未満の成分の含有量を低減する方法として、例えば(1)グラフト共重合体(A)、共重合体(B)、もしくは共重合体(C)を製造する際にモノマー転化率を高くする方法、(2)これらの重合終了後に余熱・減圧下フラッシングにて溶媒あるいは未反応の単量体成分を脱揮する方法、(3)熱可塑性樹脂組成物を加熱混練する際に、ベント付き押出機にて減圧下で脱揮する方法、などが挙げられる。
【0020】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物中におけるオリゴマー成分の総量は、好ましくは10000ppm未満、さらに好ましくは8000ppm未満、特に好ましくは7000ppm、最も好ましくは5000ppm未満である。これがこの範囲にあると、ウェルド部の外観に優れた成形品を得ることができる。
熱可塑性樹脂組成物中におけるオリゴマー成分量を10000ppm未満にする方法として、例えば(1)グラフト共重合体(A)、もしくは共重合体(B)を乳化重合法にて製造する場合にはレドックス開始剤・触媒系を用いる方法、(2)共重合体(B)、もしくは共重合体(C)を溶液重合法あるいは塊状重合法にて製造する場合には重合開始剤を用いる方法、がそれぞれ挙げられるが、これらを二種以上組み合わせて用いることにより、より効果的に組成物中のオリゴマーの含有量を低減することができる。
【0021】
本発明の樹脂組成物の2.5mm厚平板・23℃における全光線透過率は70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上である。また、ヘイズは30未満が好ましく、より好ましくは25未満、さらに好ましくは20未満である。これらがこの範囲にあると、鮮やかな色や深みのある色への着色も可能となり、意匠性に優れた成形品を得ることができる。
本発明におけるグラフト共重合体(A)/共重合体(B)/共重合体(C)からなる組成物の混合方法に特に制限は無いが、公知の溶融混合法を用いることができる。具体的には、ミキシングロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等のバッチ式混練機、単軸押出機、2軸押出機、等の連続式混練機が挙げられる。尚、溶融混合の際に、混練機内部を減圧し、ベント口から低沸点成分を除去すると、よりウェルド部の外観に優れた成形品を得ることが出来る。
【0022】
本発明の成形には、一般に熱可塑性樹脂の成形に用いられている公知の方法、例えば射出成形、押出成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形、プレス成形等の方法を用いることができる。
特に射出成形においては、樹脂が金型キャビティに充填される直前のキャビティ表面温度は好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。これがこの範囲であると、キャビティ表面への転写性が向上し、さらに意匠性に優れた成形品を得ることができる。一般に、キャビティ表面温度を高くすると冷却までの時間が長くなるため、成形サイクルが長くなるという問題があったが、キャビティ表面を短時間で加熱冷却するヒートサイクル成形法を用いることで、意匠性の向上と生産性を両立することができる。
【0023】
本発明において、その目的に応じて公知の添加剤、例えば、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸、およびその金属塩、高級脂肪酸アミド類等)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフル、あるいは部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフル、あるいは部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することができる。
【0024】
また、意匠性を付与する目的で、公知の着色剤、例えば無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を添加することができる。
無機顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。
有機顔料としては、例えばアゾレーキ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、ジアリリド顔料、縮合アゾ顔料等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、等のフタロシアニン系顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジンバイオレット等の縮合多環系顔料などが挙げられる。
【0025】
メタリック顔料としては、例えばリン片状のアルミのメタリック顔料、ウェルド外観を改良するために使用されている球状のアルミ顔料、パール調メタリック顔料用のマイカ粉、その他ガラス等の無機物の多面体粒子に金属をメッキやスパッタリングで被覆したものなどが含まれる。
染料としては、例えばニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン/ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン/インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン/オキシケトン染料、アントラキノン染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、等が挙げられる。
これらの着色剤は、単体、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。また、実施例における評価は以下の方法に従って行った。
(1)ノッチ付シャルピー衝撃強さ
ISO179に準じて、評価した。
(2)曲げ弾性率
ISO178に準じて、評価した。
(3)メルトボリュームフローレート
ISO1133に準じて、220℃、荷重98Nで評価した。
(4)全光線透過率、ヘイズ
射出成形機を用いて、シリンダー温度=240℃、金型温度=60℃にて5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。この平板を用いて、ASTM D1003に準じて評価した。
【0027】
(5)鉛筆硬度
(4)と同様にして平板を作成し、JIS K5400 鉛筆ひっかき値に準じて評価した。(鉛筆:JIS S6006規定、重り:1.0kg、試験片と鉛筆の芯の角度45°)
鉛筆硬度は、2B、B、HB、F、H、2H、3Hの順に硬くなり、傷付きにくくなる。鉛筆硬度がBよりも硬いものを合格とした。
(6)ウェルド部外観
射出成形機(東芝機械(株)製、IS130FB)を用いて、下記条件にて射出成形を連続して行った。尚、射出圧力はショートショット圧力に5%を加算して設定した。
屋根型金型:3点ゲート
ゲートサイズ:0.7mmφ(断面積0.385mm
成形機シリンダー温度:270℃
金型温度:80℃
射出時間:15秒
冷却時間:30秒
射出速度:30%
ウェルド部の外観は、200ショット目にウェルド付近の金型表面を目視観察して判定した。
○・・・ウェルド部、ゲート付近の曇りが殆ど目立たない。
△・・・ウェルド部、ゲート付近の曇りがうっすらと観察される。
×・・・ウェルド部、ゲート付近の曇りがはっきりと観察される。
【0028】
[参考例1]ポリブタジエンゴムラテックスの製造
ブタジエンモノマー950質量部、アクリロニトリル50質量部、脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)135質量部、オレイン酸カリウム3.0質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.2質量部、および水酸化カリウム0.18質量部を撹拌機の付いた耐圧容器に収納して、温度を70℃に上げ、重合を開始した。重合時間15時間で日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計「nanotrac150」にて測定した体積平均粒子径80nm、固形分40質量%のポリブタジエンラテックスを得た。これに乳化剤〔化1〕をラテックスの固形分100質量部に対して0.1質量部加え、5分間攪拌後、酢酸0.65質量部を添加した。ついで、水酸化カリウム0.65質量部を加えて安定なラテックスを得た。このラテックスは、体積平均粒子径が250nmの粒子径分布を持ったラテックスであり、コアギュラムを副成せず、固形分37質量%の高濃度凝集ラテックスであった。350nm以上の粒子径のラテックスの質量分率は11質量%であった。
【0029】
【化1】

【0030】
[参考例2]グラフト共重合体(A−1)の製造
参考例1で製造したポリブタジエンゴムラテックス135質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、および脱イオン水(鉄濃度:0.02ppm未満)15質量部を加え、気相部を窒素置換し、これに脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.06質量部、硫酸第一鉄0.0008質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.02質量部を溶解してなる水溶液を加えた後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル10質量部、スチレンを40質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.4質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、および脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.035質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後にクメンハイドロパーオキシド0.02質量部を加えた後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0031】
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A−1)を得た。
該共重合体の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル9.7質量%、ブタジエン51.3質量%、スチレン39.0質量%であった。またグラフト率は46質量%、非グラフト成分(アセトン可溶分)の還元粘度(0.50g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.31dl/gであった。
【0032】
[参考例3]グラフト共重合体(A−2)の製造
参考例1で製造したポリブタジエンゴムラテックス122質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、および脱イオン水23質量部を加え、気相部を窒素置換した後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル11質量部、スチレンを44質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.5質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、および脱イオン水50質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2質量部、硫酸第一鉄0.004質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.04質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後にクメンハイドロパーオキシド0.02質量部を加えた後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0033】
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A−2)を得た。
該共重合体の組成比は、組成解析の結果、アクリロニトリル10.9質量%、ブタジエン45.5質量%、スチレン43.6質量%であった。またグラフト率は40質量%、非グラフト成分の還元粘度は0.33dl/gであった。
【0034】
[参考例4]グラフト共重合体(A−3)の製造
参考例3で製造したABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように工程内循環水(鉄濃度:4.5ppm)を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A−3)を得た。
【0035】
[参考例5]グラフト共重合体(A−4)の製造
参考例1で製造したポリブタジエンゴムラテックス135質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、および脱イオン水15質量部を加え、気相部を窒素置換し、これに脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15質量部、硫酸第一鉄0.015質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.03質量部を溶解してなる水溶液を加えた後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル10質量部、スチレンを40質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.4質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、および脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.035質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後にクメンハイドロパーオキシド0.02質量部を加えた後、さらに1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0036】
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、遠心脱水機にて固液分離を行った。この時の含水率は30質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A−4)を得た。
該共重合体の組成比は、組成解析の結果、アクリロニトリル9.7質量%、ブタジエン51.3質量%、スチレン39.0質量%であった。またグラフト率は50質量%、非グラフト成分の還元粘度は0.33dl/gであった。
【0037】
[参考例6]グラフト共重合体(A−5)の製造
参考例1のポリブタジエンゴムラテックス135質量部に、脱イオン水65質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.1質量部、硫酸第二鉄0.002質量部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3質量部を加え、気相部を窒素置換した後、60℃に昇温した。その後、アクリロニトリル3質量部、スチレンを12質量部、メタクリル酸メチル35質量部、クメンハイドロパーオキシド0.2質量部よりなる単量体混合液を3時間にわたり添加した。添加終了後2時間、反応槽を60℃に制御しながら重合反応を完結させた。
【0038】
このようにして得られたMBSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体(A−5)を得た。
該グラフト共重合体の組成比は、組成分析の結果、アクリロニトリル2.9質量%、ブタジエン50.8質量%、スチレン11.8質量%、メタクリル酸メチル34.5質量%であった。またグラフト率は52質量%、非グラフト成分の還元粘度は0.67dl/gであった。
【0039】
[参考例7]共重合体(B−1)の製造
アクリロニトリル13質量部、スチレン52質量部、トルエン35質量部、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.05質量部となるように調整した以外は、特許第3664576号公報実施例1に記載の方法にて共重合体(B−1)のペレットを得た。
該共重合体の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル20.8質量%、スチレン79.2質量%であった。また、還元粘度は0.75dl/gであった。
【0040】
[参考例8]共重合体(B−2)の製造
重合開始剤の量と反応温度を変えた以外は、参考例5と同様にして共重合体(B−2)のペレットを得た。
該共重合体の組成は、アクリロニトリル20.2質量%、スチレン79.8質量%、還元粘度は0.67であった。
【0041】
[参考例9]共重合体(C−1)の製造
メタクリル酸メチル68.6質量部、アクリル酸メチル1.4質量部、エチルベンゼン30質量部からなる単量体混合物に、1,1−ジ−t−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン0.015質量部、およびn−オクチルメルカプタン0.15質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度135℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、260℃、10mmHgの高真空に保たれた揮発分除去装置へ導入し、未反応単量体、および溶媒を脱揮回収し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送した。ここで、押出機に接続した添加剤投口からラウリン酸とステアリルアルコールを90℃で溶融した状態で定量的に供給して、共重合体(C−1)のペレットを得た。この共重合体の還元粘度は、0.35dl/gであり、プロトンNMR法を用いて組成分析したところ、メタクリル酸メチル単位/アクリル酸メチル単位=98.0/2.0(重量比)の結果を得た。さらに、樹脂組成物中のラウリン酸とステアリルアルコールを定量したところ、樹脂組成物100質量部当たり、それぞれ0.03および0.1質量部との結果を得た。
【0042】
[参考例10]共重合体(C−2)の製造
メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、エチルベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、およびn−オクチルメルカプタンの量を変化させた以外は参考例7と同様に共重合体(C−2)を得た。この共重合体の還元粘度は、0.32dl/gであり、組成分析の結果、メタクリル酸メチル単位/アクリル酸メチル単位=90.1/9.9(重量比)であった。
【0043】
[参考例11]共重合体(C−3)の製造
メタクリル酸メチル62.4質量部、スチレン17.6質量部、エチルベンゼン20質量部からなる単量体混合物に、t−ドデシルメルカプタン0.25質量部を添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度115℃、平均滞留時間2時間で重合した以外は参考例7と同様に共重合体(C−3)を得た。この共重合体の還元粘度は0.61dl/gであり、組成分析の結果、メタクリル酸メチル単位/スチレン単位=73/27であった。
【0044】
[参考例12]共重合体(C−4)の製造
窒素置換した反応器に、脱イオン水130質量部、および過硫酸カリウム0.3質量部を仕込んだ後、攪拌しながら65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10質量部、スチレン30質量部、メタクリル酸メチル60質量部、およびターシャリードデシルメルカプタン0.35質量部からなる混合モノマー溶液、および不均化ロジン酸カリウム2質量部を含む水溶液を各々4時間に亘って連続添加し、その後2時間反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。このようにして得られたラテックスを参考例2と同様に塩析・脱水を行った後、乾燥させて共重合体(C−4)を得た。該共重合体の組成は、組成分析の結果、メタクリル酸メチル単位/アクリロニトリル単位/スチレン単位=60.0/10.0/30.0であった。また、この共重合体の還元粘度は0.42dl/gであった。
【0045】
[実施例1]
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A−1)22.5質量部、共重合体(B−1)27.5質量部、共重合体(C−1)50質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(鉄濃度:0.3ppm未満)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った後、ストランドカッターにて切断してペレットを得、ウェルド部外観以外の各特性の評価を行った。その結果を表1に示す。
また、グラフト共重合体(A−1)22.5質量部、共重合体(B−1)27.5質量部、共重合体(C−1)50質量部、およびカーボンブラック#2600(三菱化学製、平均粒子径=13nm、窒素吸着比表面積=370m/g、揮発分=1.8%)0.3質量部を混合した後、同様に混練して、黒色のペレットを得た。
【0046】
この黒色ペレット2.0gをジメチルホルムアミド20mlに溶解して得られた溶液をガスクロマトグラフィー装置に注入し、下記条件にて沸点200℃未満の成分の定量を行ったところ、その総量は850ppmであった。ここで、沸点200℃未満の成分とは、アクリロニトリル、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、4−ビニルシクロヘキセン、エチルベンゼン、トルエンである。
装置:GC−14A(島津製作所製)
カラム:G−100(化学物質評価研究機構製、40m×膜厚1.0mm)
キャリアーガス:He(25ml/min)
カラム温度:50℃×6min−(10℃/min昇温)−120℃
−(20℃/min昇温)−250℃×10min
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
検出器:FID
【0047】
また、黒色ペレット2.0gを2−ブタノン10mlに溶解した後、メタノール9mlを加えて、遠心分離機にかけてポリマー成分を沈殿させる。その上澄み液をディスポーザブルフィルター(0.2μm)にて濾過した溶液を下記条件にてオリゴマー(分子量が1000未満の成分)の定量を行ったところ、3600ppmであった。
装置:GC−14A(島津製作所製)
カラム:G−100(化学物質評価研究機構製、40m×膜厚1.0mm)
キャリアーガス:He(25ml/min)
カラム温度:120℃×1min−(12℃/min)−250℃
−250℃×20min
インジェクション温度:250℃
検出器温度:250℃
検出器:FID
また、この黒色ペレット中の鉄化合物の含有量は、二度測定を行った結果、鉄元素換算で平均0.25ppmであった。
この黒色ペレットを使用して、ウェルド部外観の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2〜4、実施例6〜7]
表1の配合比で混合した以外は実施例1と同様の手順にて樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例5]
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A−2)25質量部、共重合体(B−1)25質量部、共重合体(C−1)50質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(徐濁水、鉄濃度:3.2ppm)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った以外は実施例1と同様の手順にて樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A−1)22.5質量部、共重合体(B−1)27.5質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度8kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(徐濁水、鉄濃度:3.2ppm)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った後、ストランドカッターにて切断してペレットを得た。
該ペレットを充分に乾燥し、該ペレット50質量部と共重合体(C−1)50質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(徐濁水、鉄濃度:3.2ppm)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った後、ストランドカッターにて切断して樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A−2)25質量部、共重合体(B−1)25質量部、共重合体(C−1)50質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(徐濁水、鉄濃度:3.2ppm)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った後、ストランドカッターにて切断してペレットを得た以外は実施例1と同様の手順にて樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0052】
[比較例3]
充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A−3)25質量部、共重合体(B−1)25質量部、共重合体(C−1)50質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM−30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hr、ダイ前のベント口から50mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行いながら混練した。ダイ先端から出たストランドは、冷却用水(徐濁水、鉄濃度:1.7ppm)を張ったストランドバス中を通して冷却を行った後、ストランドカッターにて切断してペレットを得た以外は実施例1と同様の手順にて樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0053】
[比較例4〜6]
表2の配合比で混合した以外は実施例1と同様の手順にて樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜6は、機械的物性と鉛筆硬度のバランス、および透明性を有していることから鮮やかな色や深みのある色への着色も可能であり、また連続成形した後もウェルド付近の曇りのない優れた外観を持つ成形品を得ることができる。実施例7および8は透明性には劣るものの、充分に優れた外観を持つ成形品を得ることができる。
一方、比較例1〜4は鉄化合物の含有量が範囲外であるため、成形前のペレット中におけるモノマー量、および分子量が1000未満の量が範囲内であるにも関わらず、連続成形後のウェルド付近に曇りが発生して成形品外観の劣ったものとなる。比較例5は、共重合体(C)におけるメタクリル酸メチル単量体の含有量が範囲外であるために鉛筆硬度の劣ったものとなり、比較例6は、共重合体(C)の含有量が範囲外であるため、やはり鉛筆硬度の劣ったものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の組成物を用いることで、耐傷性、機械的特性、金型洗浄を頻繁に行うことなく優れた外観を持つ成形品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、芳香族ビニル系単量体およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体を共重合してなる共重合体(B)と、メタクリル酸メチル単量体70〜99.5質量%およびこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体0.5〜30質量%を共重合してなる共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂組成物(D)において、共重合体(C)の含有量が30〜90質量%であり、鉄化合物の含有量が鉄元素として1.5ppm未満であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物中における沸点200℃未満の成分の総量が2500ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂組成物中におけるオリゴマー成分の総量が10000ppm未満であることを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
全光線透過率が70%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2009−144008(P2009−144008A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321279(P2007−321279)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】