説明

耐光ポリエステル繊維

【課題】屋外で日光により長時間の紫外線暴露下においても良好な耐光性を有するポリエステル繊維を提供すること。
【解決手段】ポリエステル100重量部に対して有機系紫外線吸収剤を0.3重量部以上とともに、黒色顔料または緑色顔料を共に含有し、単糸繊度が5dtex以上で構成され、引張り破断伸度20%以下に配向されていることを特徴とする耐光ポリエステル繊維。
【効果】本発明の繊維は特に屋外用途の産業資材等の分野での利用が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は良好な耐光性を示すポリエステル繊維に関するものである。
詳述すれば、土木ネット、遮水カバー材等屋外で使用する産業資材分野に適した耐光性に優れたポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、十分な強度と適度な柔軟性を有するとともに、熱セット性も良好であり広範な用途に適合し、衣料用、産業資材用に広く使用されている。また、他の汎用合成繊維に比べて、良好な耐光堅牢性を有していることも利点のひとつに上げられている。しかしながら、ポリエステル繊維であっても、日光、特に紫外線の影響による強度低下は大きく、土木ネット、遮水カバーなどの防水シートや自動車用ホロなど屋外で使用される用途では、高度の要求にはこたえられていない。
【0003】
これまでにも、ポリエステル繊維の耐光堅牢度をさらに向上させる試みは種種なされてきた。特開平8−188921には、紫外線吸収剤を使用して耐光堅牢度を向上させる方法が提案されているが、これらの添加物は一般に熱分解しやすく、高温での製造過程で性能が低下するなどの影響で、屋外での厳しい環境下に耐えうるような十分な性能には至っていない。
【0004】
また、特開平11−269720には、原着された繊維に耐光性及び耐久性があることが述べられているが、それは単に日光を遮蔽する事実を述べているのみであり、紫外線に対する耐光強度保持性能に関して、十分な検証がされているものではなく、実際には極めて限定した条件でなければ、原着による十分な紫外線遮蔽効果は得ることができない。
【特許文献1】特開平8−188921号公報
【特許文献2】特開平11−269720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、屋外などで長時間の紫外線暴露下においても強度低下の少ない、良好な耐光強度保持性を有するポリエステル繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に対し、ポリエステル繊維が暴露される紫外線に対して、それを吸収する剤の効果と、それを遮蔽する顔料の効果を検証し、また暴露表面積の影響からの繊維の構成および繊維分子の配向特性を鋭意検討した結果、各条件を個別に選定することによって、それぞれの機能を重複することなく引き出すことができ、屋外での使用に耐える良好な耐光強度保持性能を有する耐光ポリエステル繊維を見出し本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリエステル繊維100重量%中に、有機系紫外線吸収剤を0.3重量%以上とともに、黒色顔料又は緑色顔料を含有し、単糸繊度5dtex以上で構成され、かつ引張り破断伸度が20%以下に配向されたポリエステル繊維が、屋外での使用に耐える良好な耐光強度保持性能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、暴露される紫外線に対して、その表面積を減らし、かつ顔料による遮
蔽効果と吸収剤による吸収効果の相互効果とともに、繊維高分子の配向を進めることにより、屋外使用可能な耐光強度保持性能を得ることができる。具体的には、強エネルギー型キセノンフェードメータによる試験機内温度63℃、試験機内湿度50%で96時間全光照射後の強度保持率が70%以上の優れた耐光ポリエステル繊維を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
紫外線吸収剤は、紫外線領域の光波長を吸収し、無害な熱エネルギーに変換することにより、ポリマーの物性低下を抑制する効果があるが、ポリエステル繊維のような有機系合成繊維の場合には無機系紫外線吸収剤は、溶融混合時に粒子同士が凝集しやすいため多量使用が難しく、性能を安定させることが困難である。有機系の紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物などが挙げられ、数多く市販されており、添加する方法としては、ポリエステルポリマーに直接練り込む溶融混練方法や紡糸時のマスターバッチ方法、さらに繊維化形成後に含浸する方法がある。一般的に有機系の紫外線吸収剤は昇華または揮発しやすいため、溶融混練法の場合には、できるだけ耐熱性の高い紫外線吸収剤が好ましい。
【0010】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2−(5−メチルー2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールが挙げられ、大日精化製のハイステーブという商品名のものも知られている。
【0011】
トリアジン系化合物の主なものとして、2−(4,6−ジフェニール1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘルシル)オキシ]―フェノールが挙げられ、チバスペシャリチィケミカルズのチヌビンという商品名のものも知られている。
【0012】
ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジヒドロキシベゾフェノン等が挙げられる。
【0013】
本発明では、上記の有機紫外線吸収剤をポリエステル繊維100重量%に対して、0.3重量%以上添加する必要があり、0.5〜10重量%の範囲で添加するすることが好ましい。0.3重量%より少ないと十分な効果が得られず、太陽光に暴露された際ポリマー劣化が顕著となる。また、10重量%を超えると、紫外線吸収剤が繊維自体に悪影響を及ぼし強度などの繊維性能が低下し、また大きな性能向上を得ることもできない。
【0014】
本発明に用いる黒色顔料は、カーボンブラック、黒色有機顔料、黒色焼成顔料、黒色酸化鉄など、紫外線の遮蔽能を有し、その粒子を繊維中に混合できるものであれば使用できるが、粒子の均一性と粒子径及び熱安定性からカーボンブラックが好ましい。添加量としては、可視光を十分に遮蔽する程度の着色量であれば、その効果は得られるが、ポリエステル繊維100重量%に対して黒色顔料を1重量%以上添加することが好ましい。添加量がこれより少ないと紫外線の遮蔽効果が小さくなるので効果が不安定になる。
【0015】
本発明に用いる緑色顔料は、紫外線の遮蔽能を有し、その粒子を繊維中に混合できるものであれば無機顔料、有機顔料のどちらも用いることができる。添加量としては、ポリエステル繊維100重量%に対して緑色顔料を5重量%以上添加することが好ましい。添加量がこれより少ないと紫外線の遮蔽効果が小さくなるので効果が不安定になる。
【0016】
本発明に用いる黒色顔料および緑色顔料は、その粒子が通常平均粒径5μm以下が好ましく、さらに好ましくは1μm以下のものを用いる。また、黒色顔料と緑色顔料を混合して使用してもよい。
【0017】
ポリエステル繊維に上記有機系紫外線吸収剤及びカーボンブラック又は緑顔料を含有さ
せる方法には、重合時添加、溶融混練、マスターバッチ混合があるが、ポリマー内にとりこまれていれば含有方法は特に限定されない。
【0018】
本発明のポリエステル繊維は単糸繊度が5dtex以上である必要がある。5dtex未満の場合は、繊維総表面積が大きくなり、耐光性が悪くなる結果となる。
【0019】
本発明のポリエステル繊維は引張り破断伸度が20%以下である必要があり、好ましくは15%以下である。破断伸度が20%を超える場合は耐光劣化の強度保持率が悪くなる。破断伸度を抑えて強く延伸することにより分子の配向性が上がり強度及び強度保持率が向上する。
【0020】
顔料はポリエステル樹脂に添加したマスターバッチを作製したものと、顔料を含有しないベースポリマーを混合して公知の溶融紡糸する方法により繊維化できる。
【実施例】
【0021】
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各測定値は、次の方法に従って測定したものである。
【0022】
耐光性は強度保持率測定にて、各条件は下記の通りである。
【0023】
(1)紫外線照射にはスガ試験機社製強エネルギーキセノンフェードメータを使用し、試験機内に試料としてフィラメントを装着し、照度150W/m、試験機内温度63℃、試験機内湿度50%で96時間全光照射した。
【0024】
(2)引張り破断強度は、JIS−L−1013に準じ、島津製作所製、AGS−1KNGオートグラフ引張り試験機を用い、試料糸長10cm、引張り速度10cm/minの条件で試料が伸長破断したときの強度を求めた。また、伸長破断したときの伸びを伸度(%)とした。
【0025】
(3)照射前後の破断強度の比を強度保持率(%)とした。
【0026】
紡糸は、所定のポリエステル樹脂をエクストルーダー型溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度275℃〜290℃、巻取り速度1500m/minにて行った。続いて、延伸倍率3.3〜3.6倍、延伸速度800m/min、85℃のローラーヒータで延伸し、155℃のプレートヒータで熱セットして120dtex/24fの延伸糸を得た。
【0027】
〔実施例1〕
ポリエステルチップ44重量部に、有機系紫外線吸収剤マスターバッチ(大日精化ハイステーブP−UV−111、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤 官能基成分2.5重量%)を24重量部と緑色顔料マスターバッチ(グリーンOPM-4A1934顔料22重量%)を32重量部、押出機前で混合し、溶融紡糸を行った。引き続いて延伸工程にて延伸し、120dtex/24fのポリエステルフィラメントを得た。有機系紫外線吸収剤及び顔料の繊維中組成(重量%)を表1に示す。
このポリエステルフィラメントの破断強度は4.20cN/dtex、破断伸度は15.0%であった。また、強エネルギーキセノンフェードメーター耐光試験を行ったところ、96時間照射後の破断強度は3.09cN/dtexとなり、破断強度保持率は73.6%であった。
【0028】
〔実施例2〕
繊維中の顔料組成(重量%)が、黒色顔料(カーボンブラック)2.0重量%となるように、黒色顔料マスターバッチを混合する以外は、実施例1と同様にして紡
糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表1に示す。
【0029】
〔実施例3〕
繊維中の有機系紫外線吸収剤の組成(重量%)が、0.3重量%となるように、有機系紫外線吸収剤マスターバッチを混合する以外は、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表1に示す。
【0030】
<破断伸度変化による耐光性評価>
〔比較例1〕
延伸工程での延伸倍率を変更して、破断伸度を36.8%とした以外は、実施例1同様の組成で紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表1に示す。
【0031】
<レギュラー糸との耐光性比較>
〔比較例2〕
紫外線吸収剤及び顔料を添加せずに、実施例1と同様の紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表2に示す。
【0032】
<顔料の添加有無による耐光性評価>
〔比較例3〕
繊維中の有機系紫外線吸収剤の組成(重量%)が、1.0重量%となるように、有機系紫外線吸収剤マスターバッチを混合し、顔料は添加せずに、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表2に示す。
【0033】
<紫外線吸収剤の有無による耐光性評価>
〔比較例4〕
繊維中の顔料組成(重量%)が、黒色顔料(カーボンブラック)2.0重量%となるように、黒色顔料マスターバッチを混合し、有機系紫外線吸収剤は添加せずに、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表2に示す。
【0034】
<単糸繊度の違いによる耐光性評価>
〔比較例5〕
繊維中の有機系紫外線吸収剤の組成(重量%)が、0.3重量%となるように、有機系紫外線吸収剤マスターバッチを混合し、ポリエステルフィラメントの単糸繊度が3.0dtexとなるように144dtex/48fとした以外は、実施例2と同様にして紡糸、延伸を行い、ポリエステルフィラメントの評価を行った。結果を表2に示す。
【0035】
促進暴露試験と自然界での直射日光暴露の相関をとるのは困難であるが、従来はキセノンフェードメータ48時間は日本で最も過酷と言われている宮古島で6ヶ月に相当するという見解もあり、今回の促進暴露試験のキセノンフェードメータ96時間は1年間に相当する。また、キセノンフェードメータ48時間での強度保持率は低下途中であったのに対し、96時間での強度保持率はほぼ低下後の安定した領域である。この意味でキセノンフェードメータ96時間の強度保持率70%以上は、非常に耐光性良好と言える。一方一般的に糸の破断強度は産業資材分野で3.0cN/dtex以上、好ましくは4.0cN/dtex以上必要と言われているが、強度保持率70%以上は初期強度4.0cN/dtexのものが暴露後の破断強度がほぼ3.0cN/dtexを意味し、強度保持率70%未満とは大差であると言える。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上の結果から、ポリエステル100重量%に有機系紫外線吸収剤を0.3重量%以上とともに、黒色顔料または緑色顔料を含有し、単糸繊度5dtex以上で構成され、引張
り破断伸度が20%以下に配向されたポリエステル繊維は耐光性が良好であり、屋外で使用される防水シートなどの産業資材分野の用途で使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維100重量%中に、有機系紫外線吸収剤を0.3重量%以上とともに、黒色顔料または緑色顔料を含有し、単糸繊度5dtex以上で構成され、かつ引張り破断伸度が20%以下に配向されていることを特徴とする耐光ポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル繊維100重量%中に含有される黒色顔料が、2重量%以上である請求項1に記載の耐光ポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステル繊維100重量%中に含有される緑色顔料が、5重量%以上である請求項1に記載の耐光ポリエステル繊維。
【請求項4】
ポリエステル繊維中に含有される黒色顔料が、カーボンブラックである請求項1に記載の耐光ポリエステル繊維。


【公開番号】特開2008−88607(P2008−88607A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272444(P2006−272444)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】