説明

耐凍害軽量コンクリート

【課題】軽量コンクリートは、軽量粗骨材に含まれている水の凍結融解の繰り返しにより軽量粗骨材のポップアウトやコンクリートのひび割れにより劣化する。
【解決手段】ポリビニールアルコール繊維は繊維径100〜200μm、繊維長5〜30mmのポリビニールアルコール繊維をコンクリートに0.10〜0.20容積%混入する。ポリビニールアルコール繊維を混入しない供試体では凍結融解サイクル数250回において相対動弾性係数が80%を下回ったが、配合した供試体ではサイクル数300回においても相対動弾性係数の低下はほとんど認められない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐凍害軽量コンクリートに関し、さらに詳しくは、人工軽量骨材等を用いたコンクリート製品の凍結融解抵抗性を向上させる技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、経年劣化した鋼橋RC床板打換えに、幅員拡張や活荷重増加による断面増加に伴って上部工の重量が増加する。この重量の増加を小さくするため、掛け替え部に軽量コンクリートを適用することは非常に有効な手段の一つと考えられる。
【0003】
しかし、軽量コンクリートは、一般に、軽量粗骨材の吸水率が大きいため、軽量粗骨材中に含有する水分が、環境温度の低いときは膨張し、軽量粗骨材の周囲にひび割れを生じさせ、結果的にポップアウトを引き起こすため、一般に、耐凍害性が低いことが知られている。従って、寒冷地で使用する場合に大きな問題となる場合がある。
【0004】
この問題を解決するために、軽量粗骨材の低吸水率化を図る技術、独立気泡を有する軽量骨材の開発、あるいは軽量骨材自体の表面にコーティングを施して吸水を防止する技術などが提案されている。しかし、このような品質を向上させた軽量粗骨材においても、同一バッチにおけるコンクリート中の品質のばらつき等に起因する耐凍害性の低下が懸念される。このため、良質で、かつ、ばらつきの小さい軽量粗骨材の選定方法や耐凍害性低下を抑制するためのコンクリートの補強方法が必要となる。
【0005】
このような課題を解決する技術として、コンクリート中に鋼短繊維を混入したコンクリートが知られている。しかし、この技術では、鋼繊維の腐食により、美観上問題が生じたり、長期耐久性が劣るという問題があった。
【0006】
また、1000℃以上の耐火性能及び耐熱性能を保つコンクリートとして、絶乾状態又は半分程度まで吸水させた軽量骨材を用い、ポリビニールアルコール系繊維等を用いた水硬性複合物(コンクリート)がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この技術は高温におけるコンクリートの爆裂防止に関する技術である。
【特許文献1】特開2004−292257号公報(第2−5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
軽量粗骨材を使用した軽量コンクリートは、軽量粗骨材に含まれている水の凍結融解の繰り返しにより軽量粗骨材のポップアウトやコンクリートのひび割れにより劣化するという問題がある。
【0009】
本発明はこのような問題を解決し、耐凍害軽量コンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリビニールアルコール繊維(以下PVA繊維という)を混入したことを特徴とする耐凍害軽量コンクリートである。
【0011】
本発明の作用は、軽量コンクリートの凍結融解による膨張収縮に対して、ポリビニールアルコール系繊維を混入することによってコンクリートの靭性が向上し、コンクリートにひび割れ等の発生を抑制することである。この場合、前記PVA繊維は繊維径100〜200μm、繊維長5〜30mm、混入量がコンクリート体積の0.10〜0.20%とすると好適である。
【0012】
PVA繊維の径を100〜200μmとしたのは、100μm未満では繊維のからまりや凝集を生じやすく補強効果が少なく、200μmを越えると繊維のコンクリートとの付着性が不十分となり、凍結防止の効果が小さくなるからである。
【0013】
また、PVA繊維の長さを5〜30mmとしたのは、5mm未満のような短繊維ではコンクリートの結合力を高める効果が少なく、一方、30mmを越えると、コンクリート中への分散性が劣るので30mm以下とした。
【0014】
またPVA繊維の混入量はコンクリート体積の0.10〜0.20%とするのがよい。0.10%より少ないと結合材としての付着の効果が不足し、0.20%を上廻って添加してもコンクリートの靱性向上効果が飽和するので、この範囲内とするのがよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、通常の人工軽量粗骨材を用い、混練、製造した軽量コンクリートにおける耐凍害性が大幅に向上し、寒冷地等における軽量コンクリートの使用に著しく貢献するという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、耐凍害性を向上させるために、PVA繊維を混入して軽量コンクリートを補強する。PVA繊維は繊維径100〜200μm、繊維長10〜20mmの繊維とし、この繊維をコンクリート体積の0.10〜0.2%を混入することが望ましい。
【0017】
本発明を実施するための最良の形態について、試験を行ったので以下説明する。
【0018】
良質で、かつ、ばらつきの小さい軽量粗骨材を選別するために軽量粗骨材の破砕試験を行い、破砕試験後の吸水率試験結果を得た。この試験により選別した軽量粗骨材を用いてPVA繊維で補強したコンクリートを製造し、その凍結融解試験を行った。
【0019】
なお、プレキャスト部材として用いることを想定して、製品と同一の軽量コンクリートについて蒸気養生の有無を実験要因として取り上げた。
(A)軽量粗骨材の基礎物性試験について
(A−1)基礎物性試験
4種類の軽量粗骨材について、密度、吸水率、浮粒率、破砕試験および破砕試験後の吸水率試験を実施した。
【0020】
密度及び吸水率試験は、JIS A 1100に準拠して実施した。
【0021】
浮粒率試験は、JIS A 1143に準拠して行った。まず、試料を24時間乾燥させ、約2リットルの質量を計り、十分大きなポリエチレン製のバケツに入れ、よく攪拌した。注水してから10分後、水に浮いている粒を採取し、採取した粒を24時間乾燥した後に質量を計量して浮粒率を算定した。
【0022】
軽量粗骨材の破砕試験は、BS812に準拠して行った。プランジャーを毎分40kNで載荷し、400kNまで加えた後に除荷した。その後に2.5mmふるいを用いてこれを通過する質量を求め、破砕値を算出した。破砕試験後の吸水率試験の試料は2.5mmふるいに残留したものを用いて実施した。
(A−2)基礎物性試験結果
軽量粗骨材の試験結果を表1に示す。
【0023】
表乾密度は軽量粗骨材A,BおよびCはほぼ等しく、軽量粗骨材Dはこれらより小さかった。破砕試験前の吸水率は軽量粗骨材Dが一番小さく、AおよびCはそれより大きかった。軽量粗骨材の密度は1.0g/cm以上であることから、浮粒率の大きい軽量粗骨材ほど同一ロッドでの不良骨材の混入量が多く含むものと考えられる。この試験では軽量粗骨材Aの浮粒率が最も小さく、Cの浮粒率が最も大きかった。
【0024】
破砕試験後の吸水率は破砕により粒子表面にひび割れ等の損傷を受けた軽量粗骨材の試験結果であり、試験前の吸水率との差が小さい場合にはポップアウトやコンクリートのひび割れ発生による劣化に対して有利であると考えられる。
【0025】
以上の観点から、試験結果が良好な軽量粗骨材Aを用いた場合についてコンクリートの圧縮強度、ヤング係数および凍結融解試験をそれぞれ実施した。また、比較のため、品質のばらつきがあると考えられる軽量粗骨材Dを用いた場合について圧縮強度と凍結融解試験を実施した。
【0026】
【表1】

【0027】
(B)硬化コンクリートの試験
(B−1)使用材料および配合
表2に使用材料及び配合表を示す。
【0028】
結合材βには早強ポルトランドセメントH(密度3.14g/cm,比表面積4480cm/g)と高炉スラグ微粉末BFS(密度2.88g/cm,比表面積6220cm/g)を、繊維PVAには、繊維径100μm,繊維長12mm,密度1.30g/cmのPVA繊維をそれぞれ使用した。前述の表1と同じ品質の軽量粗骨材A,Dを使用した。なお、空気量測定に必要な骨材修正係数は軽量粗骨材Aでは2.2%、軽量粗骨材Dでは0.3%であった。
【0029】
配合Aは軽量粗骨材Aを使用した軽量コンクリート、配合A−PVAと配合D−PVAは、それぞれ軽量粗骨材AとDを使用したPVA繊維補強軽量コンクリートである。各配合の単位容積質量は1880kg/mとした。PVA繊維の混入量はコンクリート1mあたり1.95kg(0.15容積%)とした。軽量粗骨材Dは絶乾状態として使用し、単位水量に30分吸水率0.39%にあたる水量1kg/mを補正水として加えた。
【0030】
【表2】

【0031】
(B−2)供試体種別および養生方法
供試体種別と養生方法を表3に示す。供試体寸法は、圧縮強度試験とヤング係数試験ではφ100×200mmとし、凍結融解試験では100×100×400mmとした。各試験の供試体本数は3本とした。供試体の養生方法を以下の2種類とした。
【0032】
1)室内でコンクリート打設後、材齢1日まで室内養生し、その後脱型し、所定の試験材齢まで水中養生した供試体(水中養生)
2)コンクリート打設後、蒸気養生を行い、その後脱型し、所定の試験材齢まで水中養生した供試体(蒸気+水中養生)
【0033】
【表3】

【0034】
(B−3)圧縮強度とヤング係数試験および凍結融解試験
圧縮強度とヤング係数試験は、それぞれ、JIS A 1108及びJIS A 1149に準拠して実施した。
【0035】
凍結融解試験は水中凍結融解試験方法であるJIS A 1148[A法]に準拠し、材齢14日から実施した。試験の終了は300サイクルとし、それまでに相対動弾性係数が60%となった場合や破断した場合は、そのサイクルで終了とした。
(C)試験結果
(C−1)圧縮強度およびヤング係数
コンクリートの材齢と圧縮強度の関係を図2に、軽量粗骨材Aを用いたコンクリートの圧縮強度とヤング係数の関係を図3にそれぞれ示す。図中A、A−PUA等は表2に示す配合名を示すものである。
【0036】
凍結融解試験開始材齢での圧縮強度は、配合Aで63N/mm、配合A−PVAでは蒸気養生の実施有無によらず約65N/mmとなり、配合D−PVAで蒸気養生した供試体は70N/mmであった。配合A−PVAで蒸気養生を実施した圧縮強度は材齢1日で約45N/mmとなっていることから、導入時強度35N/mm、設計基準強度50N/mmのプレテンション部材にも十分適用することができる。
【0037】
ヤング係数は圧縮強度60N/mmにおいて24kN/mmを超える結果となった。ヤング係数E(kN/mm)と圧縮強度σ(N/mm)と単位容積質量γ(g/cm)との関係について、下記式(1)の関数関係が提案されている。(日本建築学会:鉄筋コンクリート構造計算基準・同解説)
E=33.5x(γ/2.4)×(σ/60)1/3……(1)
図3にはγを1.88g/cmとした場合の計算結果もあわせて示した。ヤング係数の実験結果は上記式(1)を用いて算出したヤング係数より大きくなり、この試験で使用した軽量粗骨材Aの場合には上記式(1)の約1.17倍となった。
(C−2)凍結融解試験結果
表3に繊維補強の有無による凍結融解試験における劣化状況を併せて示した。PVA繊維補強を実施していない供試体はポップアウトに起因すると思われる剥落部分が多く発生し、かつ、破断している。PVA繊維補強を行った供試体はほとんど劣化を生じない結果となった。
【0038】
図1にサイクル数に伴う相対動弾性係数の変化を供試体3本の平均値として示す。配合Aと配合A−PVAの蒸気養生を実施しない供試体とを比較すると、配合Aはサイクル数250回において相対動弾性係数が80%を下回る結果となったのに対して、配合A−PVAはサイクル数300回においても相対動弾性係数の低下はほとんど認められない結果を示した。
【0039】
相対的に良質な軽量粗骨材を選別した場合においても水中凍結融解試験の場合にはコンクリートの劣化が認められたが、PVA繊維で補強することにより凍結融解抵抗性の向上が認められた。配合Aではわずかに混入した品質の劣る軽量粗骨材粒子の寸法の大きいポップアウト発生後に、そこに残留した軽量粗骨材粒子の吸水と凍結融解による膨張収縮の繰り返しによりモルタル部のひび割れが急激に発生し、破断した。
【0040】
これに対して、配合A−PVAはPVA繊維を混入することにより、ポップアウトの発生数が少なく、ポップアウトが発生した場合でも寸法が小さく、繊維を混入しない場合と比較してひび割れ幅をかなり抑制することができ、結果として相対動弾性係数の低下を小さくすることができたと考えられる。
【0041】
蒸気養生を実施した供試体においても、相対動弾性係数の低下がほとんど認められない結果となり、蒸気養生による耐凍結融解抵抗性の低下は認められなかった。軽量粗骨材の物性試験で軽量粗骨材個々の品質にばらつきがあると考えられた配合D−PVAについては、PVAを混入した場合においてもサイクル数232回で破断する結果となった。
【0042】
凍結融解作用によるコンクリートの劣化を防止するためには、繊維補強するのみならず、軽量粗骨材粒子個々の品質のばらつきが小さい軽量粗骨材を選定する必要があると考えられる。このために、浮粒率試験や破砕試験後の吸水率試験は有効である。
【0043】
PVA繊維補強軽量コンクリートの凍結融解抵抗性試験、破砕試験後の吸水率試験および圧縮強度試験から以下のことが明らかになった。
(1)良質で、かつ、ばらつきの小さい軽量コンクリートをPVA繊維で補強することにより、水中養生および蒸気養生において、サイクル数300回においても相対動弾性係数の低下が認められず、凍結融解抵抗性の向上が認められた。
(2)しかし、軽量粗骨材粒子個々の品質のばらつきが耐凍害性に与える影響が大きく、品質のばらつきが大きい場合には、PVA繊維補強してもコンクリートの劣化が認められた。
(3)軽量粗骨材粒子個々の品質のばらつきを判定する試験として、浮粒率試験、破砕試験および破砕試験前後における吸水率の差が有効な手法であることが認められた。
(4)本試験で実施した配合A−PVAは力学的には導入時強度35N/mm、設計基準強度50N/mmとする工場製作のプレテンション部材にも適用することができる。
(5)ヤング係数は単位容積質量と圧縮強度の関数で示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】サイクル数に伴う相対動弾性係数の変化を示すグラフである。
【図2】材料と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図3】圧縮強度とヤング係数との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニールアルコール繊維を混入したことを特徴とする耐凍害軽量コンクリート。
【請求項2】
前記ポリビニールアルコール繊維は繊維径100〜200μm、繊維長5〜30mm、混入量がコンクリート体積の0.10〜0.20%であることを特徴とする請求項1記載の耐凍害軽量コンクリート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230806(P2007−230806A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52489(P2006−52489)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年10月20日 社団法人プレストレストコンクリート技術協会発行の「第14回プレストレストコンクリートの発展に関するシンポジウム論文集」に発表
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】