説明

耐力壁に適する石膏系建材

【課題】石膏系建材が有する、防耐火性、施工性、寸法安定性、経済性及び居住性等の優れた性能を保持しつつ、有害な揮発性物質を発生させることなく、耐力壁用の面材としての面内剪断剛性(面内強度)を向上させた石膏系建材、特に、表面硬度を高めた内装用の石膏系建材を提供する。
【解決手段】形状が板状体を成す芯材1が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維2’と澱粉とが配合されて形成されている耐力壁に適する石膏系建材C。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の壁面に用いられる内装用の面材に関し、詳しくは、内装用の面材としての強度、特に面内剪断剛性(以下、面内強度という)を向上させた耐力壁に適する石膏系建材に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国は、山岳地帯が大半を占め平野部が少なく、政治・経済・交通手段等における利便性から、建築物は平野部に集中している。
また、我が国は、世界でも有数の地震国であるが、建築物の耐震構造や工法等の開発が進められ、オフィスやホテル等の建築物はそれぞれ高層化されている。
【0003】
また、戸建て住宅においても、近年では、建設省から木造3階建てが認められ、特に、都市部において、木造3階建て住宅が急激に増加する傾向にある。この木造3階建ての住宅においては、該住宅の耐震性を向上させる手段として、住宅を構成する壁を耐力壁にすることが図られており、これに適する内装用の面材の開発が進められている。また、この耐震性の内装用面材の開発においては、平成7年の阪神淡路大震災を経験して以来、特に、防耐火性を伴うことの重要性が再認識され、木造3階建て住宅にあっては、耐震性と防耐火性に対する要求がますます高まる一方であり、その面材の開発は人々の関心の的になっている。
尚、耐力壁の強度を向上させる内装用の面材は、木造3階建て住宅への使用に限らず、高層建築物においても、その使用は、耐震構造上、有用であることは勿論である。
【0004】
一方、石膏系建材、特に石膏ボードは、防耐火性に優れた建材であることがよく知られており、さらに、石膏ボードは、他の性状として、寸法安定性、施工性、経済性及び居住性等の優れた性能を合わせ持つので、建築物の内装用面材として、一般住宅やオフィス等のビルの内装下地材として広く使われている。
また、石膏ボードの内装用の面材としての強度は、耐力壁に使用する面材としての強度を表す壁倍率が、木造住宅の枠組み工法では「1.5」、軸組工法では「1.0」と、建設省からそれぞれ認定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−083611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、より大きな強度を必要とする木造3階建て住宅等では、石膏ボードに認定された前記の壁倍率(面材の面内強度が大きいほど大)では不足で、さらなる大きな壁倍率、すなわち、大きな面内強度を有する石膏系建材が求められている。また、一般に、石膏系建材は表面硬度が低く、これを使用した壁面は物等が当って傷がつき易いといった欠点があった。
【0007】
その点、従来から使用されている建材の一つに、構造用合板がある。この構造用合板は、石膏系建材と比べ、強度的な面では耐力壁に適した面材ではあるが、防耐火性に劣るという致命的な欠陥を有し、これと共に、この構造用合板には、製造に使用される接着剤に起因する目の痛みや頭痛を誘発する揮発性物質が存在し、住環境上、問題になっている。
【0008】
また、石膏系を除く他の無機質系建材においても、耐力壁を構成する面材として開発され市販されているものがないことはないが(例えば、ダイライト)、面材の価格や多額の内装仕上げ費用を要するという問題があり、市場の要求に充分に応えているとは言い難いのが現状である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、石膏系建材が有する、防耐火性、施工性、寸法安定性、経済性及び居住性等の優れた性能を保持しつつ、有害な揮発性物質を発生させることなく、耐力壁用の面材としての面内強度を向上させた石膏系建材、特に、表面硬度を高めた内装用の石膏系建材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、形状が板状体を成す芯材が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成されていることを特徴とする耐力壁に適する石膏系建材(A)を提供する。
【0011】
また、本発明は、形状が板状体を成す芯材が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成され、且つ該芯材の表裏面に石膏ボード用原紙またはガラス繊維製部材が接着されていることを特徴とする耐力壁に適する石膏系建材(B)を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、形状が板状体を成す芯材が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成され、且つ該芯材の表裏面下の少なくとも一方にガラス繊維製部材が埋設されていることを特徴とする耐力壁に適する石膏系建材(C)を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、石膏系建材が有する、防耐火性、施工性、寸法安定性、経済性及び居住性等の優れた性能を保持しつつ、有害な揮発性物質を発生させることなく、耐力壁用の面材としての面内強度の向上した石膏系建材、特に、表面硬度を高めた内装用の石膏系建材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】芯材からなる石膏系建材の横断面図。
【図2】芯材の表裏面のそれぞれに石膏ボード用原紙が接着された石膏系建材の横断面図。
【図3】芯材の表裏面下のそれぞれにガラス繊維製部材が埋設された横断の一部を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
上記第1発明の耐力壁に適する石膏系建材Aは、図1にその横断を図解的に示すように、形状が板状体を成す芯材1が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成されている。
また、第2発明の耐力壁に適する石膏系建材Bは、図2にその横断を図解的に示すように、形状が板状体を成す芯材1が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成され、且つ該芯材1の表裏面に石膏ボード用原紙2またはガラス繊維製部材(図示されていない)が接着されている。尚、ガラス繊維製部材とはガラス繊維を織った布状のもの及びネット状のガラス繊維不織布等を云う。
【0016】
さらに、第3発明の耐力壁に適する石膏系建材Cは、図3にその横断の一部を図解的に示すように、形状が板状体を成す芯材1が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成され、且つ該芯材1の表裏面下の少なくとも一方(図では芯材1の表裏面下のそれぞれ)に、ガラス繊維製部材2’が埋設されている。
【0017】
上記の石膏系建材Aとは、芯材1が上記配合で形成された板状体の表裏面に、石膏ボード用原紙やガラス繊維製部材等を積層しない、または芯材中に埋設しない単なる石膏板を云い、その比重は0.6〜1.3、好ましくは0.8〜1.1である。
【0018】
また、上記の石膏系建材Bとは、両面石膏ボード用原紙張繊維混入硬質石膏板及びガラス繊維製部材積層石膏板等を云い、
(1)両面石膏ボード用原紙張繊維混入硬質石膏板は、芯材1が上記の配合で形成された板状体の表裏面に石膏ボード用原紙2が接着した構造を成し、その比重は0.6〜1.3、好ましくは0.8〜1.1であり、
(2)ガラス繊維製部材積層石膏板は、芯材1が上記の配合で形成された板状体の表裏面にガラス繊維製部材が接着した構造を成し、その比重は0.6〜1.3、好ましくは0.8〜1.1である。
【0019】
また、石膏系建材Cとは、形状が板状体を成す芯材1が上記の配合で形成され、この芯材の表裏面下の少なくとも一方(図では両方)にガラス繊維製部材2’が埋設された構造の、いわゆるガラス繊維製部材入り石膏板を云い、その比重は0.6〜1.3であり、好ましくは0.8〜1.1である。そして、そのガラス繊維製部材の埋設位置は特に限定されないが、表層の石膏層の厚みが少なくとも約0.5mmになるように埋設すると、石膏系建材Cの表面は石膏層で覆われた美麗なものとなる。
尚、上記石膏系建材A、B及びCのそれぞれの比重は、各面材の面内強度を向上させるうえで、上記記載のそれぞれの範囲内に納めることが肝要である。
【0020】
また、上記石膏系建材A、B及びCの各製造は、石膏系建材Bにおいては、公知の石膏ボード製造用の設備を用いて行うことができ、石膏系建材Bは、それぞれ配合される上記物質(ただし、石膏にあっては焼石膏を使用する)に、水を添加し混合して得られる石膏スラリーを、上下の前記石膏ボード用原紙2またはガラス繊維製部材の間に流し込み、上下にロールを配した成型機で所定の厚さと幅の板状に連続成形して搬送し、硬化後に粗切断し、次いで、乾燥工程に導き乾燥後に製品寸法に切断して得られる。その点、芯材のみでなる石膏系建材Aとガラス繊維製部材入り石膏板の石膏系建材Cの各製造は、成型機を石膏系建材Bの製造における成型機と異にするが、他は石膏系建材Bの製造と同様である。それに使用する成型機として、特公昭63−65482号公報に開示された上下に配した成型ベルトを用いる設備を例示できる。
【0021】
さらに、上記石膏系建材A、B及びCのそれぞれの軽量化を図るために、公知の泡剤や発泡させたシラスバルーン及びパーライト等の軽量骨材を適宜必要に応じて配合させることができる。
【0022】
また、上記石膏系建材A、B及びCの強度を補強するために、古紙やその他のパルプ繊維を配合させることや、他の性状を向上させるために行う配合は公知の石膏ボードと同様に手当てすることができる。
【0023】
また、上記それぞれ配合されるガラス繊維は、石膏系建材の面内強度を向上させ、その配合量は、石膏100重量部当りあたり0.3〜5重量部であり、好ましくは0.5〜3重量部である。尚、0.3重量部未満では石膏系建材の面内強度の向上は少なく、5重量部を越えると、芯材中におけるガラス繊維の分散状態が悪くなるばかりでなく、焼石膏等との混練中に、トラブルが発生し連続して石膏系建材を生産することができなくなるからである。そして、石膏系建材の面内強度を好ましく向上させ、且つ連続して生産するためには、配合されるガラス繊維の形状は、径が5〜25μm、長さが1/8〜2インチであり、好ましくは、径が7〜13μm、長さが1/8〜1インチである。尚、ガラス繊維の分散性をよくするために、予め該繊維の表面を焼石膏で覆っておくことができる。
【0024】
さらに、上記配合される澱粉は、石膏系建材A、B及びCのそれぞれの面内強度が向上するのを助長するばかりでなく、ガラス繊維の存在によるその働きと相まって、石膏系建材の面内強度をさらに向上させる。その澱粉の配合量は、石膏100重量部当り、0.3〜5重量部であり、好ましくは0.5〜3重量部である。そして、配合する澱粉の種類は特に限定されず、また、その酸処理(澱粉のα化)の有無を問わず使用できるが、エーテル化澱粉を使用することが、面内強度を向上させる上で好都合である。尚、相乗効果が得られる好適な澱粉とガラス繊維の配合比は約1:1(重量比)である。
【0025】
また、石膏系建材A、B及びCのそれぞれの表面硬度を向上させるために、公知の酢酸ビニル系樹脂を配合できる。その配合量は、石膏100重量部当り0.1〜5重量部であり、好ましくは0.3〜2重量部である。尚、0.1重量部未満では効果がなく、5重量部を越えると経済的でないからである。
【0026】
また、石膏系建材A、B及びCのそれぞれの防水性を向上させるために、パラフィン系またはシリコン系等の公知の防水剤を使用できる。その配合量は、石膏100重量部当り0.1〜5重量部であり、好ましくは0.3〜3.5重量部である。特に防水剤が配合された石膏系建材A、B及びCは、台所、洗面所及び風呂場等の水回りの耐力壁を構成する面材として使用すると、該石膏系建材がはっ水性を発揮するので、吸湿による面内強度が低下せず、特に、水回り用の好適な材料となる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
I.石膏系建材Bの石膏ボードについて、
(例1〜6)
常用されている石膏ボードの製造設備を用い、図2に示される石膏ボードBを構成する芯材1が、下記の表1に示される配合になるように、焼石膏に、径及び長さのそれぞれが9μm及び1/4インチである日本電気硝子社製のガラス繊維(商品名E−CHOP)及び日本コーンスターチ社製の澱粉(商品名ナガラB)を添加し水と混合して石膏スラリーを得、米坪220g/m2の石膏ボード用原紙2を用いて、常法により、厚さ12.5mm、幅910mm及び長さ1820mmの比重が1である6種類の石膏ボードBを得た。尚、例6が本発明に相当し、他は比較例である。
【0028】

【0029】
II.石膏系建材Cのガラス繊維製部材入り石膏板について、
(例7〜13)
常用されている石膏ボードの製造設備における成型機の代わりに、前記特公昭63−65482号公報に開示された上下に配した成型ベルトを用い、図3に示されるガラス繊維製部材入り石膏板Cを構成する芯材1が、下記の表2に示される配合になるように、例1〜6と同様にして石膏スラリーを得、ガラス繊維製部材としてオリベスト社製のガラスメッシュ2’を用いて、常法により、厚さ12.5mm、幅910mm及び長さ1820mmの比重が1である6種類のガラス繊維製部材入り石膏板Cを得た。尚、焼石膏に配合するガラス繊維及び澱粉は例2〜6のときと同様のものを使用し、また、酢酸ビニル系樹脂はクラリアントポリマー社製の商品名モビニールを使用した。尚、例12及び例13が本発明に相当し、他は比較例である。
【0030】

【0031】
III.各石膏系建材の評価(面内強度と表面硬度)
(a)例1〜6で得られた各石膏ボード
・面内強度
石膏系建材の面内強度の評価として、一般に、釘側面抵抗値が採用されていることから、例1〜6で得られたそれぞれの石膏ボードについて、気乾条件で釘側面抵抗を測定した。その測定方法は、ASTM D1037に定める方法に準じて行った。測定結果を表3に示す。
・表面硬度
石膏ボードの表層が石膏ボード用原紙であることから、省略した。
【0032】

【0033】
(b)例7〜13で得られた各ガラス繊維製部材入り石膏板
・面内強度
例7〜13で得られたそれぞれのガラス繊維製部材入り石膏板について、上記(a)と同様にして釘側面抵抗を測定した。
・表面硬度
各石膏系建材の表面性の評価として、JIS A6904「せっこうプラスター」に定める硬度試験に準じて行った。
測定結果を表4に示す。
【0034】

【0035】
尚、例1〜13で得られたそれぞれの石膏ボードとガラス繊維製部材入り石膏板の石膏系建材は、いずれも有害な揮発性物質の発生はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、石膏系建材が有する、防耐火性、施工性、寸法安定性、経済性及び居住性等の優れた性能を保持しつつ、有害な揮発性物質を発生させることなく、耐力壁用の面材としての面内強度の向上した石膏系建材、特に、表面硬度を高めた内装用の石膏系建材が得られる。
【符号の説明】
【0037】
A:芯材からなる石膏系建材
B:芯材の表裏面のそれぞれに石膏ボード用原紙が接着された石膏系建材
C:芯材の表裏面下のそれぞれにガラス繊維製部材が埋設された石膏系建材
1:芯材
2:石膏ボード用原紙
2’:ガラス繊維製部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状が板状体を成す芯材が、石膏を主体とし、該石膏にガラス繊維と澱粉とが配合されて形成されていることを特徴とする耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項2】
形状が板状体を成す芯材が、石膏を主体とし、該石膏にその長さが1/8〜1/4インチの範囲にあるガラス繊維と澱粉とが配合されて形成され、且つ該芯材の表裏面に石膏ボード用原紙が接着されていることを特徴とする耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項3】
芯材が、さらに、酢酸ビニル系樹脂が配合されて形成されている請求項1又は2に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項4】
芯材が、さらに、酢酸ビニル樹脂と防水剤とが配合されて形成されている請求項1又は2に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項5】
ガラス繊維の配合量が、石膏100重量部当たり、0.3〜5重量部である請求項1〜4の何れか1項に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項6】
ガラス繊維の長さが、1/8〜2インチの範囲にある請求項1に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項7】
澱粉の配合量が、石膏100重量部当たり、0.3〜5重量部である請求項1〜6の何れか1項に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項8】
澱粉が、エーテル化澱粉である請求項1〜7の何れか1項に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項9】
酢酸ビニル系樹脂の配合量が、石膏100重量部当たり、0.1〜5重量部である請求項1〜8の何れか1項に記載の耐力壁に適する石膏系建材。
【請求項10】
防水剤の配合量が、石膏100重量部当たり0.1〜5重量部である請求項1〜9の何れか1項に記載の耐力壁に適する石膏系建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−299460(P2009−299460A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163670(P2009−163670)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【分割の表示】特願2000−256244(P2000−256244)の分割
【原出願日】平成12年8月25日(2000.8.25)
【出願人】(000160359)吉野石膏株式会社 (48)
【Fターム(参考)】