説明

耐収縮性微多孔膜および電池用セパレータ

【課題】 表面層の厚みを増加させることなく熱収縮を抑制した耐収縮性微多孔膜および電池用セパレータを提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン系樹脂製多孔質膜からなる基材と、耐熱性樹脂と、セラミックスと、粘土鉱物とを含有する表面層とが積層された構造とする。粘土鉱物は、有機修飾剤で変性された層状ケイ酸塩からなり、アスペクト比が15以上であり、単層もしくは2〜4層が積層された状態まで剥離された状態で表面層中に分散されていることが好ましい。また、粘土鉱物が極性基およびアルキル鎖を有することが好ましく、表面層に分散前の粘土鉱物の層間距離が0.9nm以上1.4nm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱絶縁層が形成された耐収縮性微多孔膜に関し、さらに詳細には、ポリオレフィン樹脂等からなる基材と、耐熱性樹脂に無機粒子と粘土鉱物とを含有させてなる表面層とを備える耐収縮性微多孔膜および電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノート型パーソナルコンピューターなどの携帯情報電子機器の普及に伴い、これらの機器の高性能化、小型化および軽量化が図られている。これらの機器の電源には、使い捨ての一次電池や繰り返し使用できる二次電池が用いられているが、高性能化、小型化、軽量化、経済性などの総合的なバランスの良さから、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が伸びている。また、これらの機器では、更なる高性能化や小型化などが進められており、リチウムイオン二次電池に関しても、高エネルギー密度化が要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、その高容量化に伴ってエネルギー密度も増加するため、電池過熱時や内部短絡時において、大きなエネルギーが放出された場合の信頼性向上に対する要請も極めて大きくなっている。このため、このような試験に対する高い信頼性と、高容量化を両立させたリチウムイオン二次電池が強く求められている。
【0004】
一般的なリチウムイオン二次電池は、リチウム複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な材料を含む負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備えている。そして、正極と負極とがセパレータを介在して積層されるか、もしくは積層後に巻回されて柱状の巻回電極を構成したものである。セパレータは、正極と負極との間を電気的に絶縁する役目と非水電解液を保持する役目を持つ。このようなリチウムイオン二次電池のセパレータとしては、ポリオレフィン微多孔膜を使用するのが一般的である。
【0005】
ポリオレフィン微多孔膜は優れた電気絶縁性、イオン透過性を示すことから、上記リチウムイオン二次電池やコンデンサー等におけるセパレータとして広く利用されている。リチウムイオン二次電池は高い出力密度、容量密度を持つ反面、電解液に有機溶媒を用いているために、短絡や過充電などの異常事態に伴う発熱によって電解液が分解し、最悪の場合には発火に至ることがある。このような事態を防ぐため、リチウムイオン二次電池にはいくつかの安全機能が組み込まれており、その中の一つに、セパレータのシャットダウン機能がある。
【0006】
セパレータのシャットダウン機能とは、電池が異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞して電解液中のイオン伝導を抑制し、電気化学反応の進行をストップさせる機能のことである。一般にシャットダウン温度が低いほど安全性が高いとされ、ポリエチレンがセパレータの成分として用いられている理由の一つに適度なシャットダウン温度を持つという点が挙げられる。しかし、高いエネルギーを有する電池においては、シャットダウンにより電気化学反応の進行をストップさせても電池内の温度が上昇し続け、その結果、セパレータが熱収縮して破膜し、両極が短絡するという問題がある。
【0007】
このような問題を解決するために、下記特許文献1のように、セパレータと電極の間に軟化温度が120℃以上の有機微粒子、無機微粒子、有機繊維、無機繊維等の耐熱材料を含有する耐熱性の表面層を形成する方法が提案されている。この方法によれば、シャットダウン温度を超えて温度が上昇し続けてセパレータが破膜しても、上記微粒子、繊維を含む表面層が絶縁層として存在するために両極の短絡を防止できる。
【0008】
また、特許文献2のように、耐熱性の高い樹脂材料の強度を向上させたセパレータが提案されている。特許文献2では、耐熱性樹脂であるポリフッ化ビニリデンに対して変性層状ケイ酸塩を混合してセパレータとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3756815号公報
【特許文献2】特開2004−9012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高容量電池においては異常発熱時の発熱量が大きく、いったん異常発熱が発生すると、表面に耐熱材料が含有された表面層が形成されたセパレータでは、表面層を保持することができない程度まで破膜するという問題がある。また、セパレータが表面層を引き連れて熱収縮してしまい、異常発熱時の両極の短絡が防止できないという問題も生じる。
【0011】
この異常発熱時の短絡の問題自体は、微多孔膜の材料として融点の高いポリオレフィンを用いることにより、微多孔膜の耐熱性が向上するので解決できる。しかしながら、セパレータには、シャットダウン温度において膜が熱溶融して多孔が閉塞する、いわゆるシャットダウン機能が求められる。特許文献1のように、セパレータに用いる微多孔膜の材料として融点の高いポリオレフィンを使用すると、シャットダウン温度が高くなり過ぎたり、シャットダウンが起こらないため、電池の安全性を維持することができなくなってしまう。
【0012】
短絡の問題は、シャットダウン機能を有するポリオレフィン微多孔膜を基材として用いて、ポリオレフィン微多孔膜上に積層する耐熱性の表面層の厚さを増加させることでも解決できる。しかし、表面層の厚さを増加させると、電池内でセパレータが占有する体積が増加するため、電池の高容量化という観点では不利である。また、表面層の厚さを増加させると、透気度が増加する傾向がみられる。透気度が増加すると、電池性能の低下が生じるため好ましくない。
【0013】
また、特許文献2のセパレータは、変性層状ケイ酸塩の混合によりポリフッ化ビニリデン自身の強度を向上することができてはいるものの、ポリオレフィンと同等の強度を得られるとは言い難い。
【0014】
この発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、表面層の厚みを増加させることなく熱収縮を抑制した耐収縮性微多孔膜および電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題点を解消するために、この発明の耐収縮性微多孔膜および電池用セパレータは、多孔質膜からなる基材と、
上記基材の少なくとも一方の面に形成され、耐熱性樹脂と、セラミックスと、粘土鉱物とを含有する表面層と
からなることを特徴とする。
【0016】
この発明の耐収縮性微多孔膜は、表面層に多数の層が積層することで構成された層状構造を持つ粘土鉱物を分散させている。これにより、表面層の耐熱性樹脂の強度および軟化点を向上させるとともに、表面層のセラミックスと基材を構成する樹脂との密着性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、基材と表面層とが積層された微多孔膜において、粘土鉱物の添加により表面層自体の機械特性および耐熱性を向上させ、また、表面層と基材との密着性が高くなり、基材が収縮しにくくなる。したがって、基材におけるシャットダウン機能を維持したまま、微多孔膜全体として収縮性を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の耐収縮性微多孔膜の一構成例を示す断面図である。
【図2】この発明の耐収縮性微多孔膜の表面層における耐熱性樹脂および有機修飾剤で表面が修飾された粘土鉱物の様子を示す模式図である。
【図3】変性層状ケイ酸塩を添加した多孔質樹脂膜表面のTEM像である。
【図4】変性層状ケイ酸塩を添加した多孔質樹脂膜表面のTEM像である。
【図5】変性層状ケイ酸塩を添加した多孔質樹脂膜表面のTEM像である。
【図6】この発明の耐収縮性微多孔膜の表面層における層剥離型の粘土鉱物の分散状態を示す模式図および粘土鉱物のX線回折法による評価結果のグラフである。
【図7】この発明の耐収縮性微多孔膜の表面層における層間挿入型の粘土鉱物の分散状態を示す模式図および粘土鉱物のX線回折法による評価結果のグラフである。
【図8】粘土鉱物を分散させた樹脂膜の熱機械分析装置による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態とする)について説明する。なお、説明は以下のように行う。
1.第1の実施の形態(この発明の耐収縮性微多孔膜の例)
2.他の実施の形態
【0020】
1.第1の実施の形態
第1の実施の形態における耐収縮性微多孔膜は、耐熱性樹脂と無機材料とともに、ナノオーダーサイズの粘土鉱物を添加した表面層を基材層の少なくとも一方の面に形成したものである。この耐収縮性微多孔膜は、電池のセパレータ用途に限らず、一般的な耐熱性樹脂フィルム用途にも用いることができる。以下、この発明の耐収縮性微多孔膜について詳細に説明する。
【0021】
(1−1)耐収縮性微多孔膜の構造
第1の実施の形態における耐収縮性微多孔膜は、図1に示すように、強度に優れる微多孔膜からなる基材層2と、基材層2の少なくとも一方の面に形成され、耐熱性、耐収縮性に優れる表面層3とを備える。耐収縮性微多孔膜1を電池用途、すなわちセパレータとして用いる場合、耐収縮性微多孔膜1は電池内において正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。なお、以下、耐収縮性微多孔膜1をセパレータとして用いる場合について説明するが、耐収縮性微多孔膜1はセパレータ用途に限られたものではない。
【0022】
[基材層]
基材層2は、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を有する絶縁性の薄膜から構成される樹脂製多孔質膜である。このような樹脂材料としては、例えばポリプロピレンまたはポリエチレンなどのポリオレフィン系の合成樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂またはナイロン樹脂等を用いることが好ましい。特に、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレン、もしくはそれらの低分子量ワックス分、またはポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が溶融温度が適当で、入手が容易なので好適に用いられる。また、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造、もしくは、2種以上の樹脂材料を溶融混練して形成した多孔質膜としてもよい。ポリオレフィン系の多孔質膜を含むものは、正極と負極との分離性に優れ、内部短絡や開回路電圧の低下をいっそう低減することができる。
【0023】
基材2は、必要な強度を保つことができる厚さ以上の厚さであれば任意に設定可能である。耐熱性微多孔膜1を電池用セパレータとして用いる場合、基材2は、正極および負極間の絶縁を図り、短絡等を防止するとともに、耐熱性微多孔膜1を介した電池反応を好適に行うためのイオン透過性を有し、かつ電池内において電池反応に寄与する活物質層の体積効率をできるだけ高くできる厚さに設定されることが好ましい。具体的に、基材2の厚さは12μm以上20μm以下であることが好ましい。また、上述のイオン透過性を得るために、基材2における空隙率は、40%以上50%以下であることが好ましい。
【0024】
[表面層]
表面層3は、基材層2の少なくとも一方の面に形成されるものであり、耐熱性樹脂と、セラミックス粒子等の無機材料(以下、セラミックスと適宜称する)と、粘土鉱物とを含有する。耐収縮性微多孔膜1は、電池内に配設される際に、表面層3が少なくとも正極と対向するように、すなわち、表面層3が正極と基材層2との間に位置するように配設される。
【0025】
耐熱性樹脂は、一般的な樹脂フィルム用途において、所望の耐熱性を有していれば材料の種類に限定はない。表面層は、機械的強度を有する樹脂材料からなる基材を保護する目的で設けられており、基材層2を構成する樹脂材料よりも高い融点を有している。一方、この発明の耐収縮性微多孔膜を電池用セパレータとして使用する場合には、電池内の非水電解液に対して不溶であり、かつ電池の使用範囲で電気化学的に安定な樹脂材料を用いることが好ましい。
【0026】
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン材料、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の融点およびガラス転移温度の少なくとも一方が180℃以上の樹脂等が挙げられる。
【0027】
中でも、耐熱性樹脂としてはポリフッ化ビニリデンを用いることが好ましく、その構造中に官能基を有することがより好ましい。これにより、フッ素系重合体に対して粘土鉱物がより均一に分散することができるため、熱収縮抑制効果をより確実に得ることができる。また、セラミックスとの密着を十分にとることができると共に、粘土鉱物の有機修飾剤に極性基が存在する場合、極性基同士の相互作用が存在することで物性の向上をより大きい効果とすることができる。なお、官能基を有するフッ素系重合体とは、変性によって官能基を導入したり、製造時の共重合によって官能基を導入した官能基含有フッ素系重合体等である。このような官能基含有フッ素系重合体は、市販品として例えば株式会社クレハ製KFポリマー(登録商標)W♯9300、W♯9200、W♯9100等を用いることができる。
【0028】
[セラミックス]
セラミックスとしては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等を挙げることができる。金属酸化物としては、アルミナ(Al23)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、シリカ(SiO2)等を好適に用いることができる。金属窒化物としては、窒化ケイ素(Si34)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化硼素(BN)、窒化チタン(TiN)等を好適に用いることができる。金属炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)、炭化ホウ素(B4C)等を好適に用いることができる。
【0029】
また、セラミックスは、塩基性セラミックスを用いることが好ましい。これにより、下述するように、セラミックスの表面塩基性サイトに粘土鉱物の極性基が配位して、セラミックスと粘土鉱物との密着性が向上する。
【0030】
これらセラミックスの粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、セラミックスの一部を有機修飾前、有機修飾した後のクレイで置換してセラミックスの変わりとして用いても良い。セラミックスは耐酸化性も備えており、耐熱性微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合には電極、特に充電時の正極近傍における酸化環境に対しても強い耐性を有する。セラミックスの形状は特に限定されるものではなく、球状、繊維状およびランダム形状のいずれも用いることができる。
【0031】
セラミックスは、セパレータの強度に与える影響、塗工面の平滑性の観点から、一次粒子の平均粒径が数μm以下とすることが好ましい。具体的には、一次粒子の平均粒径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。このような一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡により得た写真を、粒子径計測器で解析する方法により測定することができる。
【0032】
セラミックスの一次粒子の平均粒径が1.0μmを超えると、セパレータが脆くなり、塗工面も粗くなる場合がある。また、セラミックスを含む表面層3を塗布にて基材層2上に形成する場合、セラミックスの一次粒子が大きすぎる場合には、セラミックスを含む塗工液が塗布されない部分が生じてしまうおそれがある。
【0033】
また、表面層3中のセラミックスの添加量は、表面層3中のセラミックスおよび耐熱性樹脂の総重量に対して80重量%以上95重量%以下であることが好ましい。セラミックスの添加量がセラミックスおよび耐熱性樹脂の総重量に対して80重量%未満である場合、表面層3における耐熱性、耐酸化性および耐収縮性が小さくなる。また、セラミックスの添加量がセラミックスおよび耐熱性樹脂の総重量に対して95重量%を超える場合、表面層3の形成が困難となり、好ましくない。
【0034】
[粘土鉱物]
この発明の表面層3に含まれる粘土鉱物は、表面層3の機械特性および耐熱性を向上させる。また、表面層3と基材層2との密着性を向上させる効果も有している。
【0035】
粘土鉱物は、層状をなす無機化合物であり、有機修飾剤が表面に物理的、化学的に結合した層状構造を有する材料が用いられる。このような粘土鉱物としては、層状ケイ酸塩(Si−Al系、Si−Mg系、Si−Al−Mg系、Si−Ca系等)等を挙げることができる。ここで、層状ケイ酸塩とは、多数の層が積層することで構成された層状構造を持つ物質である。上述の層の中であるものはケイ酸で構成された四面体が平面方向に多数結合して形成され、また、あるものはアルミニウムやマグネシウムを含む八面体が平面方向に多数結合して形成されている。このような層状ケイ酸塩は、天然由来のものでも、天然物の処理品でも、人工的に製造(合成)された合成材料でもよい。
【0036】
このような層状ケイ酸塩としては、例えば、カオリナイト、ナクライトおよびハロイサイト等のカオリナイト族、モンモリロナイト、ハイデライト、サポナイト、ヘクトライト、マイカ等のスメクタイト族、バーミキュライト族が代表的である。これらのうち1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。また、この発明において層状ケイ酸塩はこれらに限定されるものではない。
【0037】
具体的には、マイカ、フッ素化マイカおよびベントナイト等の材料が好適に用いられる。特にフッ素化マイカの場合、その結晶性の高さからアスペクト比が大きく、分極した構造からポリフッ化ビニリデンとの相互作用も得られるので、機械特性・熱特性向上の大きな効果を得ることが出来る。
【0038】
粘土鉱物の表面を修飾する有機修飾剤は、粘土鉱物の層間に配設される金属イオンの全部または一部を有機オニウムイオンに置換することにより表面修飾を行う。このような有機オニウムイオンとしては、ヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、ステアリルアンモニウムイオンおよびオクタデシルアンモニウムイオン等のアンモニウムイオンの他、ピリジニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等を挙げることができる。これらのうち1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、有機修飾剤は、ポリフッ化ビニリデン等の耐熱性樹脂に対する分散性の他、耐熱性樹脂との相互作用、電解液との親和性が求められる。これらは、使用する相手によって適時選択することが好ましい。耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用い、セラミックスとしてアルミナを用いる場合、ポリフッ化ビニリデン(極性基含有)やアルミナとの相互作用や基材との密着性のためには、水酸基、カルボキシル基、スルホン基、および燐酸基等の極性基がある方が好ましい。粘土鉱物を均一に分散できると共に、粘土鉱物の親水性の高い極性基がアルミナの表面塩基サイトに配位することで、アルミナとの密着性が向上する。また、ポリフッ化ビニリデンも極性基を持つ場合、相互作用によってポリフッ化ビニリデンが拘束を受け、分子鎖間の結合力が強くなる。
【0040】
さらに、有機修飾剤は、ポリオレフィン系樹脂等の耐熱性樹脂からなる基材との密着性および濡れ性が求められる。基材層2表面に表面層3を形成する際の基材層2に対する樹脂溶液の濡れ性が良く、また基材層2と表面層3との分子間相互作用が大きく密着性が高くなることにより、基材層2と表面層3との間の剥離強度が向上する。これにより、基材層2と高い機械特性、耐熱性による寸法安定性を備える表面層3との密着性が高くなり、物理的に基材層2の熱収縮が抑制されるため、微多孔膜全体として熱収縮が抑制される。粘土鉱物が分子中にアルキル鎖を含むことで、アルキル鎖と基材であるポリオレフィン系樹脂との相互作用により密着性を向上することができる。
【0041】
このような粘土鉱物としては、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンで有機修飾されたフッ素化マイカもしくはオレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムで有機修飾されたベントナイトが好適に用いられる。
【0042】
粘土鉱物の平均粒径は1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0043】
また、粘土鉱物は、耐熱性樹脂および粘土鉱物の総重量に対して1重量%以上10重量%以下含有されることが好ましく、3重量%以上10重量%以下含有されることがより好ましい。
【0044】
このような基材層2と表面層3の密着性(剥離強度)は、表面層3の表面自由エネルギーから計算した付着仕事と相関が見られる。すなわち、表面層3の表面自由エネルギーから算出した付着仕事が大きい場合、基材層2と表面層3と間の剥離強度も強く、密着性が高くなる。
【0045】
表面層3の表面自由エネルギーは、例えば北崎・畑の理論に基づいて算出することができる。この方法では、既知の表面自由エネルギーを有する液体を3種類用いて表面層3に対するそれぞれの接触角を求めた後、これらの接触角を用いて表面層3の表面自由エネルギーを算出することができる。3種類の液体としては、水、ジヨードメタンおよびエチレングリコールが用いられる。そして、算出した表面自由エネルギーから、基材層2との付着仕事を計算することができる。表面エネルギー、分散成分、双極子成分、水素結合成分、付着仕事は、北崎らの文献(北崎寧昭、畑敏雄、日本接着協会紙、8(3)、131 (1972).)に基づき、協和界面化学社製総合解析ソフトFAMAS等の表面自由エネルギー解析ソフトウエアを用いて計算することができる。
【0046】
このような有機修飾剤としては、例えばビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオン、トリメチルステアリルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、トリオクチルアンモニウム、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、アルキレンオキシド化合物、ステアニルトリメチルアンモニウム、ジメチルジオクタデシルアンモニウムおよび脂肪酸塩化アンモニウム等が好ましい。中でも、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオン、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオンが特に好ましい。水酸基およびアルキル基の双方を有し、表面層3中における耐熱性樹脂およびセラミックスとの相互作用、および基材層2との密着性が高いためである。
【0047】
有機修飾剤の一例として、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンの構造を示す。
【0048】
【化1】

【0049】
表面層3中において、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンの水酸基は、アルミナの表面塩基サイトに結合する。これにより、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンとアルミナとの密着性が向上する。また、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンのドデシル基により、基材層2のポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂との濡れ性、分子間力を向上させることができる。
【0050】
図2は、表面層3中における耐熱性樹脂および有機修飾剤で表面が修飾された粘土鉱物の様子を示す模式図である。また、図3は、ベントナイトをベントナイトの質量パーセント濃度が5%となるようにポリフッ化ビニリデンに混合し、分散させた樹脂フィルムをミクロトームで切片厚100nmに切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)で観察したTEM像である。
【0051】
図2は、表面層3中の粘土鉱物と耐熱性樹脂との関係を示す模式図である。数層が積層された状態に分散された粘土鉱物は、有機修飾剤と耐熱性樹脂との相互作用により分散された粘土鉱物間に耐熱性樹脂を挟む。耐熱性樹脂は自由運動をしているが、粘土鉱物の間に挟まれることによって運動が阻害される。これにより、耐熱性樹脂が硬く、弾性率が高くなる。すなわち、表面層3の機械特性が向上する。
【0052】
また、耐熱性樹脂の温度が上がった場合、耐熱性樹脂は熱によって分子運動が激しくなるが、上述したように粘土鉱物の間に挟まれることによって分子運動が阻害される。これにより、耐熱性樹脂の軟化点が上昇し、表面層3の耐熱性が向上する。
【0053】
このような効果は、耐熱性樹脂中に分散された粘土鉱物のアスペクト比が大きいほど、また粘土鉱物の表面と耐熱性樹脂との相性が良いほど大きくなる。具体的には、耐熱性樹脂中に分散された粘土鉱物のアスペクト比が15以上となることが好ましい。これは、分散された粘土鉱物のアスペクト比が大きいほど、粘土鉱物は耐熱性樹脂を効率的に挟み込むことができるためであり、また、粘土鉱物の表面と耐熱性樹脂との相性が良いほど粘土鉱物と耐熱性樹脂との相互作用が強くなるためである。
【0054】
図4は、ポリフッ化ビニリデン中にベントナイトを分散させて形成した樹脂フィルム中のベントナイトを透過型電子顕微鏡で観察したTEM像である。図4の樹脂フィルムは、耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を、粘土鉱物として脂肪酸塩化アンモニウムで有機修飾されたベントナイト(Southern Clay Products, Inc社製、ClaytoneAPA(登録商標))を用いたものである。また、図4Aは撮影倍率を120000倍、図4Bは撮影倍率を200000倍としたものである。図4の樹脂フィルム中では、ベントナイトの平均長径が191nm、平均短径が10nm程度であり、アスペクト比が19となっている。
【0055】
図5は、ポリフッ化ビニリデン中にフッ素化マイカを分散させて形成した樹脂フィルム中のフッ素化マイカを透過型電子顕微鏡で観察したTEM像である。図5の樹脂フィルムは、耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を、粘土鉱物としてビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムで有機修飾されたフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE(登録商標))を用いたものである。また、図5Aは撮影倍率を120000倍、図5Bは撮影倍率を200000倍としたものである。図5の樹脂フィルム中では、フッ素化マイカの平均長径が303nm、平均短径が10nm程度であり、アスペクト比が30となっている。
【0056】
また、耐熱性樹脂中に分散する前の、有機修飾剤にて変性された粘土鉱物の層間距離(面間隔)を適切な範囲とすることにより、上述の効果がより大きくなる。具体的には、耐熱性樹脂中に分散する前の、有機修飾剤にて変性された粘土鉱物の層間距離(面間隔)が0.9nm以上1.4nm以下であることが好ましい。層間距離(面間隔)が0.9nm以上1.4nm以下の場合には、粘土鉱物の層間に耐熱性樹脂が入り込みやすくなるため、粘土鉱物の分散性が向上するためである。
【0057】
ここで、粘土鉱物の層間距離(h0)は、以下の式に基づいて算出することができる。
h0(nm)=d(nm)−0.95 (1)
式(1)中において、0.95nmは、変性層状ケイ酸塩の一層の厚みで、どの変性層状ケイ酸塩を用いても値はほとんど変わらない。dは、X線回折測定によって、変性層状ケイ酸塩の001面の底面反射に相当するピーク位置(2θ)から下記の式(2)のBraggの式を用いて算出することができる。
d=λ/2sinθ (2)
(式(2)中、λは入射X線の波長であり、例えばλ=0.154nmである。θはX線の入射角である。)
層間距離h0は、例えば、有機修飾剤を変性剤として用いる場合は、その鎖長によって制御することができる。一般的には、有機修飾剤の鎖長が短い程、h0は小さくなる。層間距離h0が小さく、有機修飾剤の極性が高いほど、耐熱性樹脂と粘土鉱物とを混合する際に用いる極性溶媒が層間に入りやすくなり、これに伴って耐熱性樹脂が層間に入りやすくなる。カチオン性有機修飾剤を用いる場合は、アンモニウム塩のヘッドグループ(1級、2級または3級)によってもh0を変化させることができる。また、同じ有機修飾剤を用いる場合でも、イオン交換量(charge exchange capacity:CEC)の異なる層状ケイ酸塩を用いることによって、h0を制御することができる。
【0058】
粘土鉱物は、上述の様に多数の層が積層されて構成されている。粘土鉱物は、耐熱性樹脂中における分散性によって、次の様に二つに大別される。
【0059】
(i)層剥離型
層剥離型の粘土鉱物は、粘土鉱物を耐熱性樹脂中に混合させることにより、表面層3中において、単層もしくは2〜4層が積層された状態まで剥離されて分散される。数層が積層された状態まで剥離された粘土鉱物は、積層方向の厚み(短辺)が数nm〜十数nm程度まで剥離されている。
【0060】
図6Aは、表面層3中における層剥離型の粘土鉱物3aと耐熱性樹脂3bとの分散状態の模式図である。また、図6Bは、耐熱性樹脂との混合前の層剥離型粘土鉱物と、この層剥離型粘土鉱物を耐熱性樹脂に分散させた場合の分散状態を評価したグラフである。図6Bは、耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を、粘土鉱物としてトリオクチルメチルアンモニウムで有機修飾されたフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMTE(登録商標))を用いた場合の評価である。
【0061】
図6Bにおける実線は、ポリフッ化ビニリデンに対して分散する前のフッ素化マイカ粉末の層間距離(面間隔)に対応するピークをX線回折法(XRD)により評価したものであり、X線の回折角2θに対する回折強度を示す。また、図6Bにおける点線は、ポリフッ化ビニリデン:フッ素化マイカ=95:5(重量比)で混合し、フッ素化マイカを分散させて形成した樹脂フィルム中のフッ素化マイカの層間距離(面間隔)に対応するピークをX線回折法(XRD)により評価したものである。
【0062】
図6Bから分かるように、層剥離型の粘土鉱物は、X線回折法により分散前の粘土鉱物粉末の001面のピークが得られるものの、分散後には粘土鉱物粉末の001面のピークが消失している。すなわち、粘土鉱物を構成する層が剥離され、分散していることが分かる。
【0063】
(ii)層間挿入型
層間挿入型の粘土鉱物は、粘土鉱物を耐熱性樹脂中に混合させることにより、表面層3中において、粘土鉱物を構成する各層の層間に耐熱性樹脂が挿入され、各層の層間距離が増大するものである。
【0064】
図7Aは、表面層3中における層間挿入型の粘土鉱物3aと耐熱性樹脂3bとの分散状態の模式図である。また、図7Bは、耐熱性樹脂との混合前の層間挿入型粘土鉱物と、この層間挿入型粘土鉱物を耐熱性樹脂に分散させた場合の分散状態を評価したグラフである。図7Bは、耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)を、粘土鉱物としてトリオクチルアンモニウムで有機修飾されたベントナイト(コープケミカル(株)製、ルーセンタイトSTN(登録商標))を用いた場合の評価である。
【0065】
図7Bにおける実線は、ポリフッ化ビニリデンに対して分散する前のベントナイト粉末の層間距離(面間隔)に対応するピークをX線回折法(XRD)により評価したものであり、X線の回折角2θに対する回折強度を示す。また、図7Bにおける点線は、ポリフッ化ビニリデン:ベントナイト=95:5(重量比)で混合し、ベントナイトを分散させて形成した樹脂フィルム中のベントナイトの層間距離(面間隔)に対応するピークをX線回折法(XRD)により評価したものである。
【0066】
図7Bから分かるように、層間挿入型の粘土鉱物は、X線回折法により分散前の粘土鉱物粉末の001面のピークが得られる。そして、分散後には粘土鉱物粉末の001面のピークが消失せず、低角度へシフトしている。すなわち、回折角2θが90°未満であることから、粘土鉱物を構成する層の層間距離h0が増大していることが分かる。
【0067】
表面層3は、必要な耐熱性を有する厚さ以上の厚さであれば任意に設定可能である。耐熱性微多孔膜1を電池用セパレータとして用いる場合、表面層3は、正極および負極間の絶縁を図り、セパレータとして必要な耐熱性を備えるとともに、耐熱性微多孔膜1を介した電池反応を好適に行うためのイオン透過性を有し、かつ電池内において電池反応に寄与する活物質層の体積効率をできるだけ高くできる厚さに設定されることが好ましい。具体的に、表面層3の厚さは1μm以上3μm以下であることが好ましい。また、上述のイオン透過性を得るために、表面層3における空隙率は、60%以上70%以下であることが好ましい。
【0068】
この発明の耐収縮性微多孔膜からなる電池用セパレータは、耐収縮性微多孔膜の表面層が少なくとも正極に対向する面に設けられていることが好ましい。正極近傍は、充電時における酸化性が高い。このため、表面層に含まれるセラミックスによる表面層の耐酸化性効果を得ることができ、セパレータの劣化を抑制することができる。
【0069】
以上のように、耐熱性樹脂に対してこの発明の粘土鉱物を分散させた樹脂フィルムは、耐熱性樹脂のみで形成した樹脂フィルムよりも高い機械特性、耐熱性を有しているが、耐熱性樹脂に対してセラミックスとこの発明の粘土鉱物とを分散させた表面層は、さらに高い特性を有する。このような特性の向上は、セラミックスの分散による耐熱性、耐酸化性等の効果によるものだけではなく、この発明の粘土鉱物と、耐熱性樹脂およびセラミックスのそれぞれとの間に働く相互作用によるものである。また、第1の実施の形態の耐収縮性微多孔膜は、基材層2の表面に、耐熱性樹脂に対してセラミックスとこの発明の粘土鉱物とを分散させた樹脂層である表面層3を形成している。これにより、表面層3と基材層2との剥離強度が向上する。このため、高い機械特性、耐熱性による寸法安定性を備える表面層3との密着により、基材層2の熱収縮が抑制される。
【0070】
ここで、耐収縮性微多孔膜の単位面積当たりの重量は、電池用セパレータとして用いた場合において40g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以下であることがより好ましい。耐収縮性微多孔膜の空隙率は、電子およびイオンの透過性、素材または厚みにより決定されるが、一般には、30%以上80%以下の範囲内が好ましく、35%以上50%以下の範囲内がより好ましい。空孔率が低い場合、イオン伝導性が低下してしまい、空孔率が高い場合、正極および負極間の短絡が発生することがあるからである。
【0071】
また、耐収縮性微多孔膜の厚みは、電池用セパレータとして用いた場合において例えば10μm以上300μm以下の範囲内が好ましく、15μm以上70μm以下の範囲内がより好ましく、15μm以上25μm以下の範囲内がさらに好ましい。耐収縮性微多孔膜の厚みが薄いと、正極および負極間の短絡が発生することがある。一方、耐収縮性微多孔膜の厚みが厚いと、電池内における活物質材料の充填量が低下してしまい、電池容量の低下につながってしまう。
【0072】
この発明の耐収縮性微多孔膜からなる電池用セパレータは、耐収縮性微多孔膜の表面層が少なくとも正極に対向する面に設けられていることが好ましい。正極近傍は、充電時における酸化性が高い。このため、表面層に含まれるセラミックスによる表面層の耐酸化性効果を得ることができ、セパレータの劣化を抑制することができる。
【0073】
(1−2)耐収縮性微多孔膜の製造方法
第1の実施の形態における耐収縮性微多孔膜の製造方法の一例を説明する。
【0074】
まず、耐熱性樹脂とN−メチル−2−ピロリドンなどの分散溶媒に耐熱性樹脂と粘土鉱物とを添加、溶解させて、樹脂溶液を得る。次に、樹脂溶液を分散機に投入し、分散機にて樹脂溶液中の粘土鉱物を分散させる。これにより、粘土鉱物の層が剥離するなど、粘土鉱物が十分に分散した分散溶液を得ることができる。
【0075】
続いて、耐熱性樹脂および粘土鉱物を含む分散溶液に、セラミックスの微粉末を所定量添加し、粉砕用ミルにてさらに攪拌することにより、表面層形成用スラリーを得る。この後、ポリオレフィン微多孔膜等からなる基材層2の片面または両面に、上述の様にして得られた表面層形成用スラリーをドクターブレードなどにより塗布し、乾燥させる。さらに、表面層形成用スラリーを塗布した基材層2を水浴に入れて相分離させた後、熱風にて乾燥させる。これにより、ポリオレフィン微多孔膜等からなる基材層2と、耐熱性樹脂、例えば層が剥離した状態で分散されたナノオーダーサイズの粘土鉱物およびセラミックスとを含み、多孔相互連結構造を有する表面層3からなる耐収縮性微多孔膜を得ることができる。
【0076】
なお、上述の分散機には、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドグラインドミル、ボールミル、アトライターミル、二本ロールミル、スターラー、超音波分散機等を用いることができる。分散時間は、分散材料の濃度、種類によって異なるが、ビーズミル、スターラーおよび超音波分散機を用いた場合にはおよそ1〜10時間であり、粉砕時間を長時間とするほどより細かい粒径の粒子とすることができる。このとき、分散性の向上のため加熱を行っても良い。
【0077】
また、分散溶媒としては、耐熱性樹脂を溶解することができ、かつ粘土鉱物を微分散できる溶媒を用いる。耐熱性樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用いる場合、分散溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド、ジメチルスルフォキシド、トルエン等が用いられるが、溶解性および高分散性の観点からN−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、この発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明する。
【0079】
[実施例1:粘土鉱物の添加による樹脂フィルムの機械特性および耐熱性の確認]
実施例1では、耐熱性樹脂に対して粘土鉱物を添加、分散させて形成した樹脂フィルムを作製し、粘土鉱物の分散性を確認するとともに、粘土鉱物を分散させた樹脂フィルムの強度および耐熱性が向上することを確認した。
【0080】
<サンプル1−1>
耐熱性樹脂として、マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300(平均分子量100万))と、粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)を重量比95:5で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに十分溶解させることで、ポリフッ化ビニリデンが4重量%溶解されたポリフッ化ビニリデン溶液を作製した。ここで、X線回折法(XRD)により001面の底面反射に相当するピークを検出することで測定した分散前の上述のフッ素化マイカの層間距離は、1.1nmであった。
【0081】
次に、上述のポリフッ化ビニリデン溶液を、直径0.65mmのビーズミルを用いて攪拌・混合し、フッ素化マイカを分散させ分散溶液を作製した。続いて、分散溶液をガラスシャーレにキャストし、130℃で4時間乾燥させた。この後、上述の乾燥フィルムを水浴に15分間浸漬して剥離させた後、熱風にて乾燥させることにより、厚み20μmのポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。なお、作製したポリフッ化ビニリデンフィルム中のフッ素化マイカの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークが消失しており、剥離型であることが確認された。
【0082】
<サンプル1−2>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト((株)ホージュン製、オルガナイトT(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、0.9nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0083】
<サンプル1−3>
変性層状ケイ酸塩をフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、1.4nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のフッ素化マイカの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークが消失しており、剥離型であることが確認された。
【0084】
<サンプル1−4>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト(コープケミカル(株)製、ルーセンタイトSTN)とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、0.9nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0085】
<サンプル1−5>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト(Southern Clay Products, Inc社製、ClaytoneAPA)とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、1.0nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のフッ素化マイカの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークが消失しており、剥離型であることが確認された。
【0086】
<サンプル1−6>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト((株)ホージュン製、エスベンNO12S(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、0.9nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のフッ素化マイカの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークが消失しており、剥離型であることが確認された。
【0087】
<サンプル1−7>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト(コープケミカル(株)製、ルーセンタイトSEN(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、1.4nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のフッ素化マイカの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークが消失しており、剥離型であることが確認された。
【0088】
<サンプル1−8>
変性層状ケイ酸塩をマイカ(トピー工業(株)製、4C−TS)とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のマイカの層間距離は、1.6nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0089】
<サンプル1−9>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト((株)ホージュン製、エスベンNX(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、2.3nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0090】
<サンプル1−10>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト(Southern Clay Products, Inc社製、ClaytoneHY(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、2.7nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0091】
<サンプル1−11>
変性層状ケイ酸塩をベントナイト(Southern Clay Products, Inc社製、ClaytoneAF(登録商標))とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。ここで、X線回折法(XRD)により測定した分散前の上述のベントナイトの層間距離は、2.4nmであった。また、ポリフッ化ビニリデンフィルム中のベントナイトの分散性をX線回折法(XRD)により測定したところ、001面の底面反射に相当するピークがシフトしており、層間挿入型であることが確認された。
【0092】
<サンプル1−12>
変性層状ケイ酸塩を添加しない以外はサンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。
【0093】
[ポリフッ化ビニリデンフィルムの評価]
(a)引張弾性率の測定
作製した各サンプルのポリフッ化ビニリデンフィルムについて、精密万能試験機(島津製作所(株)社製、AG−100D)を用いて引張弾性率を測定した。
【0094】
(b)平均線膨張係数および軟化点の測定
作製した各サンプルのうち、粘土鉱物を含有しないサンプル1−12と、粘土鉱物としてフッ素化マイカを含有するサンプル1−1のポリフッ化ビニリデンフィルムについて、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analyzer、セイコーインスツル株式会社製、EXSTAR TMA/SS6000)を用いてポリフッ化ビニリデンフィルムの伸びを測定した。このとき、熱機械分析装置の測定条件として、昇温速度を5℃/minに設定して温度を上昇させて測定を行った。
【0095】
表1に、実施例1の評価結果を示す。
【0096】
【表1】

【0097】
また、図8は、熱機械分析装置による測定結果を示すグラフである。図8において、実線は、サンプル1−1の測定結果であり、点線は、サンプル1−12の測定結果である。
【0098】
表1から分かるように、粘土鉱物を含有しない樹脂フィルムであるサンプル1−12と比較して、粘土鉱物を含有する樹脂フィルムであるサンプル1−1〜サンプル1−11は引張弾性率が向上した。なかでも、分散前の層間距離が小さい粘土鉱物を用いるほど引張弾性率が高くなる傾向にあった。これは、粘土鉱物の有機修飾剤のアルキル鎖が短く、分散溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンと同様に極性が高くなるためであると考えられる。表1から、分散前の層間距離が0.9nm以上1.4nm以下の範囲にある粘土鉱物を用いることが特に好ましいことが分かった。
【0099】
また、粘土鉱物の分散状態が層剥離型の材料を用いた方が引張弾性率が高くなる傾向にあった。これは、粘土鉱物が数層に層剥離して耐熱性樹脂中に均一に分散することにより、樹脂フィルムの全面において均一に粘土鉱物分散による特性の向上が生じるためである。中でも、フッ素化マイカはアスペクト比が大きく、樹脂フィルムの補強効果が高くなった。また、フッ素化されていることでポリフッ化ビニリデンとの相互作用が大きくなったと考えられる。
【0100】
図8のように、サンプル1−12のポリフッ化ビニリデンフィルムの軟化点は140℃であるのに対し、ポリフッ化ビニリデンにフッ素化マイカを分散させて形成したサンプル1−1のポリフッ化ビニリデンフィルムの軟化点は150℃と、軟化点が10℃向上した。また、上述の測定の0〜140℃の温度範囲において、サンプル1−12の平均線膨張係数が17.59×10-5/℃であるのに対し、同温度範囲におけるサンプル1−1の平均線膨張係数は8.81×10-5/℃であった。すなわち、この発明の粘土鉱物を含有する樹脂フィルムは、粘土鉱物を含有しない樹脂フィルムと比較して軟化点が向上し、平均線膨張係数が50%軽減された。したがって、この発明の粘土鉱物を添加した表面層3は、耐熱性が向上する。
【0101】
[実施例2:粘土鉱物の添加量に対する樹脂フィルムの特性の確認]
実施例2では、耐熱性樹脂に対して添加する粘土鉱物の混合量を変化させ、樹脂フィルムの強度を確認した。
【0102】
<サンプル2−1>
マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300(平均分子量100万))と、変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)の混合重量比を99:1とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。
【0103】
<サンプル2−2>〜<サンプル2−7>
ポリフッ化ビニリデン樹脂と、フッ素化マイカの混合重量比をそれぞれ下記の表2に示す重量比とした以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。
【0104】
<サンプル2−8>
ポリフッ化ビニリデン樹脂に対してフッ素化マイカを混合しなかった以外は、サンプル1−1と同様にしてポリフッ化ビニリデンフィルムを作製した。
【0105】
[ポリフッ化ビニリデンフィルムの評価]
(a)引張弾性率および破断強度の測定
作製した各サンプルのポリフッ化ビニリデンフィルムについて、精密万能試験機(島津製作所(株)社製、AG−100D)を用いて引張弾性率を測定した。また、引張試験機によって荷重を加え、各サンプルが破断した際の荷重を破断強度として求めた。
【0106】
(b)貯蔵弾性率の測定
作製した各サンプルのポリフッ化ビニリデンフィルムについて、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)社製、DVA−220)を用いて貯蔵弾性率を測定した。このとき、測定条件として環境温度を25℃に設定した場合と、150℃に設定した場合とのそれぞれについて測定を行った。
【0107】
(c)寸法変化率の測定
作製した各サンプルのポリフッ化ビニリデンフィルムについて、150℃環境下保存前後での寸法変化率を測定した。寸法変化率は、下記の式のように、150℃環境下保存前のポリフッ化ビニリデンフィルムの寸法に対する、150℃環境下保存後のポリフッ化ビニリデンフィルムの寸法変化から求めた。
寸法変化率[%]={(150℃環境下保存前の寸法−150℃環境下保存後の寸法)/150℃環境下保存前の寸法}×100
【0108】
表2に、実施例2の評価結果を示す。
【0109】
【表2】

【0110】
表2から分かるように、フッ素化マイカを添加したポリフッ化ビニリデンフィルムの引張弾性率、貯蔵弾性率は、フッ素化マイカの添加量が増えるとともに大きくなった。一方、ポリフッ化ビニリデンフィルムの破断強度は、フッ素化マイカを添加することにより強くなるものの、添加量が12重量%を超えると低くなることが分かった。また、150℃での貯蔵弾性率の値が10重量%を超えても向上しないことが分かった。
【0111】
このため、樹脂フィルムは、フッ素化マイカを添加することにより特性が向上することがわかった。また、破断強度・150℃での貯蔵弾性率の値から、10%を超えるフッ素化マイカの添加はポリフッ化ビニリデン内に均一に分散できておらず特性向上が望めないことがわかった。フッ素化マイカの添加量を1重量%以上10重量%以下とすることがより好ましいことがわかった。
【0112】
[実施例3:表面層の構成に対する基材と表面層との密着性の確認]
実施例3では、基材と、基材の両面に形成された表面層とからなる微多孔膜において、表面層の構成を変化させて表面層を形成し、基材と表面層との密着性を確認した。
【0113】
<サンプル3−1>
耐熱性樹脂として、マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)と、粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)とを、重量比95:5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドンに十分溶解させることで、ポリフッ化ビニリデンが4重量%溶解されたポリフッ化ビニリデン溶液を作製した。
【0114】
次に、上述のポリフッ化ビニリデン溶液を、直径0.65mmのビーズミルを用いて攪拌・混合し、フッ素化マイカを分散させ分散溶液を作製した。続いて、上述の分散溶液に、セラミックスとして平均粒径500nmのアルミナ(Al23、住友化学工業(株)製AKP−3000(登録商標))微粉末をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10倍の重量となるように添加し、ビーズミルを用いてさらに攪拌し塗布スラリーを作製した。
【0115】
次に、上述の塗布スラリーを卓上コーターにて、基材である厚さ16μmのポリエチレン微多孔膜(東燃ゼネラル石油(株)製)上に塗布および乾燥させた。続いて、水浴に15分間浸漬して相分離させた後、熱風にて乾燥させることにより、厚さ2.25μmのアルミナが担持されたポリフッ化ビニリデン多孔質層からなる表面層を有する微多孔膜を得た。
【0116】
<サンプル3−2>
表面層に粘土鉱物が含まれないようにした以外は、サンプル3−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0117】
<サンプル3−3>
表面層にセラミックスが含まれないようにした以外は、サンプル3−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0118】
<サンプル3−4>
表面層にセラミックスおよび粘土鉱物が含まれないようにした以外は、サンプル3−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0119】
<サンプル3−5>
表面層を設けない以外は、サンプル3−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0120】
[微多孔膜の評価]
(a)表面自由エネルギーの測定
上述の各サンプルの微多孔膜の表面層における表面自由エネルギーを測定した。まず、北崎・畑の理論に基づく表面自由エネルギーを算出するべく、水、ジヨードメタンおよびエチレングリコールのそれぞれについて、表面層に対する接触角を測定した。次に、これらの接触角を用いて表面自由エネルギーを算出した。続いて、算出した表面エネルギーから分散成分、双極子成分、水素結合成分を求め、ポリエチレン基材との付着力を計算した。
【0121】
なお、接触角は、自動接触角計(協和界面科学株式会社製、DM500)を用いて測定した。また、表面エネルギー、分散成分、双極子成分、水素結合成分、付着仕事の算出は、北崎らの文献(北崎寧昭、畑 敏雄、日本接着協会紙、8(3)、131 (1972).)に基づき、協和界面化学社製総合解析ソフトFAMASを用いて計算した。
【0122】
また、作製した各サンプルの積層微多孔膜について、剥離強度測定器(アイコーエンジニアリング株式会社製、MODEL−1308)を用いて基材と表面層との剥離強度を測定した。
【0123】
表3に、実施例3の評価結果を示す。
【0124】
【表3】

【0125】
表3から分かるように、実際に測定した剥離強度と、表面自由エネルギーから算出した付着仕事との間には相関が見られた。したがって、粘土鉱物の添加により、表面修飾剤に含まれるアルキル鎖により表面自由エネルギーの分散成分dが大きくなり、表面層形成時に作製された塗布スラリーと、基材との濡れ性が高くなる結果、基材と表面層との相互作用が大きくなり、剥離強度が大きくなると考えられる。さらに表面修飾剤が極性基を含む場合には極性基がアルミナの表面塩基性サイトに配位し、基材表面と相互作用できるアルキル鎖の量が増加すると考えられる。
【0126】
ここで、サンプル3−1と、サンプル3−2とを比較すると、セラミックスが表面層に含有されている場合、粘土鉱物の添加によって、粘土鉱物を添加しない場合と同等以上の剥離強度を得ることができる。また、サンプル3−3は剥離強度は大きいものの、セラミックスが含有されていないため、微多孔膜全体としては耐熱性に劣ると考えられる。また、表面層が耐熱性樹脂のみで構成されたサンプル3−4は、さらに高い剥離強度を示すものの、表面層に粘土鉱物およびセラミックスが含まれないため、サンプル3−3よりもさらに機械特性、耐熱性の点で劣ると考えられる。
【0127】
[実施例4:粘土鉱物の添加量に対する積層表面層の特性の確認]
実施例4では、基材と、基材の両面に形成された表面層とからなる微多孔膜において、粘土鉱物の混合量を変化させて表面層を形成し、微多孔膜の高温保存後収縮率と透気度とを確認した。なお、実施例4における微多孔膜は、表面層が耐熱性樹脂と、粘土鉱物と、セラミックスとを含有している。
【0128】
<実施例4−1>
耐熱性樹脂として、マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300(平均分子量100万))と、粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)とを、重量比99:1、すなわちマレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂とフッ素化マイカの混合物に対するフッ素化マイカの含有量が1重量%となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドンに十分溶解させることで、ポリフッ化ビニリデンが4重量%溶解されたポリフッ化ビニリデン溶液を作製した。
【0129】
次に、上述のポリフッ化ビニリデン溶液を、直径0.65mmのビーズミルを用いて攪拌・混合し、フッ素化マイカを分散させ分散溶液を作製した。続いて、上述の分散溶液に、セラミックスとして平均粒径500nmのアルミナ(Al23、住友化学工業(株)製AKP−3000)微粉末をポリフッ化ビニリデンの重量に対して10倍の重量、すなわちアルミナ:ポリフッ化ビニリデン:フッ素化マイカ=990:99:1となるように添加し、ビーズミルを用いてさらに攪拌して塗布スラリーを作製した。
【0130】
次に、上述の塗布スラリーを卓上コーターにて、基材である厚さ16μmのポリエチレン微多孔膜(東燃ゼネラル石油(株)製)上に塗布および乾燥させた。続いて、水浴に15分間浸漬して相分離させた後、熱風にて乾燥させることにより、厚さ2.25μmのアルミナが担持されたポリフッ化ビニリデン多孔質層からなる表面層を有する微多孔膜を得た。また、同様の様の塗布工程を基材の裏面側にも繰り返し、両面にアルミナが担持されたポリフッ化ビニリデン多孔質層が形成された微多孔膜を形成した。
【0131】
<実施例4−2>〜<実施例4−6>
フッ素化マイカの含有量をそれぞれ下記の表4に示すようにした以外は、実施例4−1と同様にして微多孔膜を作製した。なお、フッ素化マイカの混合量は、実施例4−1に記載のようにマレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂とフッ素化マイカの混合物に対するフッ素化マイカの混合量とした。そして、アルミナの添加量は、マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂に対して10倍で固定した。
【0132】
<比較例4−1>
表面層を形成せず、基材である厚さ16μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0133】
<比較例4−2>
表面層にフッ素化マイカを添加しない以外は実施例4−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0134】
[微多孔膜の評価]
(a)高温保存後の収縮率の測定
各実施例および比較例の微多孔膜を、MD(Machine Direction)方向に60mm、TD(Transverse Direction)方向に60mmに切り取り、150℃のオーブン中に1時間静置する。このとき、温風が直接微多孔膜にあたらないよう、微多孔膜を2枚の紙にはさんで静置した。この後、微多孔膜をオーブンから取り出して冷却し、MD方向およびTD方向それぞれの長さ[mm]を測定した。以下の各式から、MD方向およびTD方向の熱収縮率を算出した。
MD熱収縮率(%)=(60―加熱後の微多孔膜のMD方向長さ)/60×100
TD熱収縮率(%)=(60―加熱後の微多孔膜のTD方向長さ)/60×100
【0135】
(b)表面層におけるフッ素化マイカの分散状態の確認
表面層におけるフッ素化マイカの分散状態を、実施例2におけるマレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂とフッ素化マイカとを混合した微多孔膜におけるフッ素化マイカの分散性から評価した。
【0136】
(c)透気度の測定
実施例4−3、比較例4−1および比較例4−2について、JIS P8117準拠のガーレー式透気度計を用い、645mm2の面積(直径28.6mmの円)の微多孔膜を空気100ccが通過する時間[min]を測定し、透気度とした。
【0137】
表4に、実施例4の評価結果を示す。
【0138】
【表4】

【0139】
表4から分かるように、フッ素化マイカを添加した表面層は、比較例4−1のポリエチレン微多孔膜、比較例4−2のポリエチレン基材上にポリフッ化ビニリデンとアルミナとを含む表面層を形成した積層微多孔膜と比較して、高温保存後の収縮率が小さくなることがわかった。比較例4−1と比較例4−2から、アルミナの添加により耐熱性が向上し、収縮率が小さくなっているが、比較例4−2と各実施例とを比較すると、収縮率がさらに小さくなっていることが分かった。このため、粘土鉱物の添加によるさらなる熱収縮抑制効果を確認することができた。また、添加量に関しては実施例2での結果通り、10重量%を超える量の粘土鉱物を添加した場合には、ポリフッ化ビニリデンに対する粘土鉱物の分散性が低下することがわかっている。このため、耐熱性樹脂に対する粘土鉱物の添加量は、1重量%以上10重量%以下が好ましく、3重量%以上10重量%以下がより好ましい。
【0140】
[実施例5:粘土鉱物の種類に対する積層表面層の特性の確認]
実施例5では、基材と、基材の両面に形成された表面層とからなる微多孔膜において、粘土鉱物の種類を変化させて表面層を形成し、微多孔膜の高温保存後収縮率を確認した。なお、実施例5における微多孔膜は、表面層が耐熱性樹脂と、粘土鉱物と、セラミックスとを含有している。
【0141】
<実施例5−1>
耐熱性樹脂として、マレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300(平均分子量100万))と、粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)とを用い、重量比95:5となるように混合した。これ以外は実施例4−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0142】
<実施例5−2>
粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMTE)を用いた以外は、実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0143】
<実施例5−3>
粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるベントナイト((株)ホージュン製、エスベンNO12S)を用いた以外は、実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0144】
<実施例5−4>
粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるベントナイト(コープケミカル(株)製、ルーセンタイトSTN)を用いた以外は、実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0145】
<実施例5−5>
粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるベントナイト((株)ホージュン製、オルガナイトT)を用いた以外は、実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0146】
<実施例5−6>
粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるベントナイト(Southern Clay Products, Inc社製、ClaytoneAPA)を用いた以外は、実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0147】
<比較例5−1>
表面層を形成せず、基材である厚さ16μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0148】
<比較例5−2>
表面層に変性層状ケイ酸塩を添加しない以外は実施例5−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0149】
[微多孔膜の評価]
(a)高温保存後の収縮率の測定
各実施例および比較例の微多孔膜について、実施例4と同様にしてMD方向およびTD方向の熱収縮率を算出した。
【0150】
表5に、実施例5の評価結果を示す。
【0151】
【表5】

【0152】
表5から分かるように、基材と、耐熱性樹脂およびセラミックスを含む表面層からなる積層微多孔膜において、変性層状ケイ酸塩の材料の種類によらず、表面層に対する変性層状ケイ酸塩の添加によって収縮抑制効果を得られることが確認できた。
【0153】
特に、実施例5−1〜実施例5−3の層剥離型の分散形態を持つ変性層状ケイ酸塩を用いた微多孔膜は、実施例5−4〜実施例5−6の層間挿入型の分散形態を持つ変性層状ケイ酸塩を用いた微多孔膜に比べて収縮率が小さくなった。これは、分散形態が層剥離型の層状ケイ酸塩の方が、表面層中に均一に分散するため、層状ケイ酸塩の添加効果が表面層全面に均等に現れるためであると考えられる。
【0154】
[実施例6:耐熱性樹脂の種類に対する積層樹脂フィルムの特性の確認]
実施例6では、基材と、基材の両面に形成された表面層とからなる微多孔膜において、耐熱性樹脂の種類を変化させて表面層を形成し、微多孔膜の高温保存後収縮率を確認した。なお、実施例6における微多孔膜は、表面層が耐熱性樹脂と、粘土鉱物と、セラミックスとを含有している。
【0155】
<実施例6−1>
耐熱性樹脂として、平均分子量100万のマレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9300)と、粘土鉱物として変性層状ケイ酸塩であるフッ素化マイカ(コープケミカル(株)製、ソマシフMEE)とを用い、重量比90:10となるように混合した。これ以外は実施例4−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0156】
<実施例6−2>
耐熱性樹脂として、平均分子量28万のマレイン酸変性ポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯9100)を用いた以外は、実施例6−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0157】
<実施例6−3>
耐熱性樹脂として、平均分子量100万のポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯7300)を用いた以外は、実施例6−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0158】
<実施例6−4>
耐熱性樹脂として、平均分子量28万のポリフッ化ビニリデン樹脂(株式会社クレハ製KFポリマーW♯1100)を用いた以外は、実施例6−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0159】
<比較例6−1>
表面層を形成せず、基材である厚さ16μmのポリエチレン微多孔膜を用いた。
【0160】
<比較例6−2>
表面層に変性層状ケイ酸塩を添加しない以外は実施例6−1と同様にして微多孔膜を作製した。
【0161】
[微多孔膜の評価]
(a)高温保存後の収縮率の測定
各実施例および比較例の微多孔膜について、実施例4と同様にしてMD方向およびTD方向の熱収縮率を算出した。
【0162】
表6に、実施例6の評価結果を示す。
【0163】
【表6】

【0164】
表6から分かるように、表面層に含有される耐熱性樹脂は、分子量が小さいほど効果が大きく、また、極性基を有する耐熱性樹脂を用いる方が効果が高いことが分かった。これは、耐熱性樹脂が極性基を有することにより粘土鉱物の有機修飾剤との相互作用が大きくなるためであり、高分子では分子の絡み合いのために有効に働く極性基が少ないが、低分子では分子の絡み合いが少なく有効に働く極性基が多いためであると考えられる。
【0165】
以上、この発明を若干の実施形態および実施例によって説明したが、この発明はこれらに限定されるものではなく、この発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、微多孔膜の厚みおよび各材料の組成は、正極および負極の構成に合わせて設定すればよい。
【符号の説明】
【0166】
1・・・耐収縮性微多孔膜
2・・・基材層
3・・・表面層
3a・・・粘土鉱物
3b・・・耐熱性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜からなる基材と、
上記基材の少なくとも一方の面に形成され、耐熱性樹脂と、セラミックスと、粘土鉱物とを含有する表面層と
からなる耐収縮性微多孔膜。
【請求項2】
上記粘土鉱物が、多数の層が積層することで構成された層状構造を持つ
請求項1に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項3】
上記表面層に分散された上記粘土鉱物の平均粒径が、1.0μm以下である
請求項2記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項4】
上記表面層に分散された上記粘土鉱物のアスペクト比が15以上である
請求項3に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項5】
X線回折法による測定した上記表面層に分散された上記粘土鉱物の001面の回折角2θに対する回折強度が、特徴的なピークを有しない
請求項2に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項6】
上記表面層に分散された上記粘土鉱物が、単層もしくは2〜4層が積層された状態まで剥離されている
請求項5に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項7】
上記粘土鉱物が、有機修飾剤で変性された層状ケイ酸塩である
請求項2に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項8】
上記粘土鉱物が、極性基を有する
請求項7に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項9】
上記粘土鉱物が、アルキル鎖を有する
請求項8に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項10】
上記粘土鉱物が、ビス(2−ヒドロキシエチル)メチルドデシルアンモニウムイオンで有機修飾されたフッ素化マイカもしくはオレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムで有機修飾されたベントナイトである
請求項9に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項11】
上記粘土鉱物が、上記耐熱性樹脂および該粘土鉱物の総重量に対して1重量%以上10重量%以下含有される
請求項2に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項12】
上記粘土鉱物の分散前層間距離が0.9nm以上1.4nm以下である
請求項2に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項13】
上記基材を構成する上記樹脂材料が、ポレオレフィン系樹脂からなる
請求項1に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項14】
上記耐熱性樹脂の融点およびガラス転移温度の少なくとも一方が、180℃以上である
請求項1に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項15】
上記耐熱性樹脂がポリフッ化ビニリデンである
請求項14に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項16】
上記セラミックスの表面が塩基性である
請求項1に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項17】
上記セラミックスが、少なくともアルミナ(Al23)を含む
請求項16に記載の耐収縮性微多孔膜。
【請求項18】
多孔質膜からなる基材と、
上記多孔質膜の少なくとも一方の面に形成され、耐熱性樹脂と、セラミックスと、粘土鉱物とを含有する表面層と
からなる電池用セパレータ。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−104291(P2012−104291A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250211(P2010−250211)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】