説明

耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法

【課題】紫外線による経時変色の少ない、耐候性に優れたアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩からなる架橋物を提供すること。
【解決手段】アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂をグリオキシル酸塩で架橋してなる架橋物に対し、波長300〜400nmで強度が50mW/cm以上の紫外線を1時間以上照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法に関し、更に詳しくは紫外線による経時変色の少ないポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水溶性樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂に耐水性を付与する方法としては、架橋構造の形成が有効であることが知られている。
ポリビニルアルコール系樹脂の架橋物としては、反応性に優れるアセト酢酸エステル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂と種々の架橋剤との組み合わせによるものが広く用いられている。
【0003】
中でも、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコールとの混合水溶液の粘度安定性に優れ、耐水性に優れ、経時変色が小さい架橋物が得られる架橋剤として、グリオキシル酸塩が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−77385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、AA化PVA系樹脂と略記する。)とグリオキシル酸塩による架橋物は、耐水性、耐変色性に優れるものであるが、屋外で長期間使用された場合、その条件によっては、紫外線によって徐々に変色する場合がある。
【0006】
本発明は、紫外線による経時変色の少ない、耐候性に優れたAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩からなる架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、AA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物に、波長300〜400nmの強度が50mW/cm以上の紫外線を1時間以上照射することによって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。なお、AA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物は、かかる紫外線の照射により、一旦変色するが、照射を継続することにより消色し、その後は変色せず、本発明は、このような現象を利用したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架橋物は、紫外線を受ける環境下であっても経時変色が少ないことから、長期間太陽光にさらされるような用途、例えば紙用の塗工液、床コーティング剤、ガスバリアコーティング剤、農業用シート、屋外ディスプレイ用フィルムや屋外使用の機器のコーティング等に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
〔AA化PVA系樹脂〕
本発明に用いるAA化PVA系樹脂とは、側鎖にアセト酢酸エステル基を有するPVA系樹脂であり、その他の部分は一般のPVA系樹脂と同様、ビニルアルコール系構造単位を主体とし、ケン化度に応じた酢酸ビニル構造単位を有するものである。
かかるAA化PVA系樹脂の製造法としては、特に限定されるものではないが、例えば、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法、PVA系樹脂とアセト酢酸エステルを反応させてエステル交換する方法、酢酸ビニルとアセト酢酸ビニルの共重合体をケン化する方法等を挙げることができるが、製造工程が簡略で、品質の良いAA化PVA系樹脂が得られることから、PVA系樹脂とジケテンを反応させる方法で製造するのが好ましい。
以下、かかる方法について説明する。
【0011】
原料となるPVA系樹脂としては、一般的にはビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体が用いられ、かかるビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0012】
また、ビニルエステル系モノマーと該ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーとの共重合体のケン化物等を用いることもでき、かかる共重合モノマーとしては、例えばエチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩;アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物;酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類;塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
なお、かかる共重合モノマーの導入量はモノマーの種類によって異なるため一概にはいえないが、通常は全構造単位の10モル%以下、特には5モル%以下であり、多すぎると水溶性が損なわれたり、架橋剤との相溶性が低下したりする場合があるため好ましくない。
【0013】
又、ビニルエステル系モノマーおよびその他のモノマーを重合、共重合する際の重合温度を高温にすることにより、主として生成する1,3−結合に対する異種結合の生成量を増やし、PVA主鎖中の1,2−ジオール結合を1.6〜3.5モル%程度としたものを使用することが可能である。
【0014】
上記ビニルエステル系モノマーの重合体および共重合体をケン化して得られるPVA系樹脂とジケテンとの反応によるアセトアセチル基の導入には、PVA系樹脂とガス状或いは液状のジケテンを直接反応させても良いし、有機酸をPVA系樹脂に予め吸着吸蔵せしめた後、不活性ガス雰囲気下でガス状または液状のジケテンを噴霧、反応するか、またはPVA系樹脂に有機酸と液状ジケテンの混合物を噴霧、反応する等の方法が用いられる。
【0015】
上記の反応を実施する際の反応装置としては、加温可能で撹拌機の付いた装置であれば十分である。例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダー、撹拌乾燥装置を用いることができる。
【0016】
かくして得られるAA化PVA系樹脂の平均重合度は、その用途によって適宜選択すればよいが、通常、300〜4000であり、特に400〜3500、さらに500〜3000のものが好適に用いられる。かかる平均重合度が小さすぎると、十分な耐水性が得られなかったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に大きすぎると、水溶液として使用した場合に、その粘度が高くなりすぎ、基材への塗工が困難になるなど、各種工程への適用が難しくなる傾向がある。
【0017】
また、本発明に用いられるAA化PVA系樹脂のケン化度は、通常、80モル%以上であり、さらには85モル%以上、特には90モル%以上ものが好適に用いられる。かかるケン化度が低い場合には、水溶液とすることが困難になったり、水溶液の安定性が低下したり、得られる架橋高分子の耐水性が不十分となる傾向がある。なお、平均重合度およびケン化度はJIS K6726に準じて測定される。
【0018】
また、AA化PVA系樹脂中のアセトアセチル基含有量(以下AA化度と略記する。)は、通常、0.1〜20モル%であり、さらには0.2〜15モル%、特には0.3〜10モル%であるものが一般的に広く用いられる。かかる含有量が少なすぎると、耐水性が不十分となったり、十分な架橋速度が得られなくなる傾向があり、逆に多すぎると、水溶性が低下したり、水溶液の安定性が低下する傾向がある。
【0019】
〔グリオキシル酸塩〕
次に、本発明のグリオキシル酸塩について説明する。
かかるグリオキシル酸塩としては、グリオキシル酸の金属塩やアミン塩などが挙げられ、金属塩としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属、その他の亜鉛、アルミニウムなどの金属とグリオキシル酸の金属塩、また、アミン塩としては、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類とグリオキシル酸の塩が挙げられる。
特に、耐水性に優れる架橋高分子が得られる点から金属塩、特にアルカリ金属、およびアルカリ土類金属の塩が好ましく用いられる。
【0020】
また、架橋構造に導入されるカルボン酸塩基の親水性がカルボン酸基と比較して小さいことが架橋高分子の耐水性の向上に寄与しているものと考えており、グリオキシル酸塩としても、より水への溶解度が小さいグリオキシル酸塩が好ましく、具体的には、23℃における水への溶解度が0.01〜100%、特に0.1〜50%、さらに0.5〜20%のものが好ましく用いられる。例えば、グリオキシル酸ナトリウムの溶解度は約17%であり、グリオキシル酸カルシウムの溶解度は約0.7%である。
【0021】
グリオキシル酸塩の製造法は、公知の方法を用いることができるが、例えば、(1)グリオキシル酸の中和反応による方法、(2)グリオキシル酸と酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩との塩交換反応による方法、(3)グリオキシル酸エステルのアルカリ加水分解による方法(例えば、特開2003−300926号公報参照。)などを挙げることができる。特に、グリオキシル酸との中和反応に用いるアルカリ性化合物の水溶性が高い場合は(1)の方法が、また得られるグリオキシル酸塩の水溶性が低く、酸解離定数がグリオキシル酸より大きい酸の塩の水溶性が高い場合は(2)の方法が好ましく用いられる。
【0022】
なお、(1)の方法は通常、水を媒体として行われ、グリオキシル酸とアルカリ性化合物、例えば、各種金属の水酸化物やアミン化合物を水中で反応させ、析出したグリオキシル酸塩を濾別し、乾燥して製造することができる。
また、(2)の方法も一般的に水中で行われ、(1)の方法と同様にしてグリオキシル酸塩を得ることができる。なお、(2)の方法において用いられるグリオキシル酸より解離定数が大きい酸の塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0023】
また、グリオキシル酸塩を合成したのち、これを単離せずに、系中で上述の(1)あるいは(2)の反応を行い、生成したグリオキシル酸塩をそのまま用いることも可能である。
【0024】
なお、本発明のグリオキシル酸塩には、グリオキシル酸塩の製造に用いられる原料や原料に含まれる不純物、製造時の副生成物等が含まれる可能性があり、例えば、グリオキシル酸、金属水酸化物、アミン化合物、脂肪族カルボン酸塩、グリオキザール、シュウ酸、またシュウ酸塩、グリコール酸またはグリコール酸塩などが含有される場合がある。
【0025】
特に、原料としてグリオキシル酸を用いる場合には、その製造時の副生成物であるグリオキザールが架橋剤中に含有される可能性があり、かかるグリオキザールの含有量は0重量%であることが最も望ましいが、5重量%以下、特に2重量%以下、さらに1重量%以下であることが好ましい。グリオキザールの含有量が多いと、AA化PVA系樹脂と混合した水溶液の安定性が低下し、ポットライフが短くなったり、得られるAA化PVA系樹脂の架橋物がその保存条件によっては経時で変色する場合がある。
【0026】
また、本発明におけるグリオキシル酸塩は、そのアルデヒド基が、メタノール、エタノールなどの炭素数が3以下のアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの炭素数が3以下のジオール等によってアセタール化、およびヘミアセタール化された化合物を包含するものである。かかるアセタール基、およびヘミアセタール基は、水中、あるいは高温下では容易にアルコールが脱離し、アルデヒド基と平衡状態をとるため、アルデヒド基と同様に各種単量体や官能基と反応し、架橋剤として機能するものである。
【0027】
〔架橋物〕
本発明の耐変色性PVA系樹脂架橋物は、上述のAA化PVA系樹脂をグリオキシル酸塩で架橋してなる架橋物に、紫外線を照射して得られるものである。
以下、AA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物について説明する。
かかる架橋物において、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩の配合割合は特に制限されるものではないが、通常、AA化PVA系樹脂100重量部に対してグリオキシル酸塩を0.1〜30重量部、さらには1〜20重量部、特には2〜15重量部の範囲が好適に用いられる。AA化PVA系樹脂の配合割合が大きすぎると、ポリマー間での架橋が十分に行われず、架橋効果が得られない傾向があり、小さすぎると、架橋物の架橋密度が低下し、十分な架橋効果が得られない傾向がある。
【0028】
AA化PVA中のアセトアセチル基とグリオキシル酸塩との反応は、アセトアセチル基の二つのカルボニル基にはさまれた活性メチレンがグリオキシル酸塩中のアルデヒド炭素に求核攻撃することによって起こり、その架橋構造部分は下記構造式に示すものであると推測される。
なお、式中のXは金属元素を表わし、グリオキシル酸塩がアルカリ金属のような一価金属の塩である場合を代表的に例示しているが、アルカリ土類金属のような多価金属の場合、他の架橋構造、あるいはフリーのグリオキシル酸と金属を共有している場合がある。
【0029】
【化1】

【0030】
かかる架橋物は、通常、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩とを含有する樹脂組成物水溶液とした後、フィルムやシートを形成、あるいは基材等にコーティングされ、乾燥・熱処理によって架橋し、得られる。
かかる樹脂組成物水溶液は、(i)AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩の混合物を水に投入して溶解する方法、(ii)予めAA化PVA系樹脂とグリオキシル酸塩を別々に溶解したものを混合する方法、(iii)AA化PVA系樹脂の水溶液にグリオキシル酸塩を添加して混合する方法、などによって調製できる。また、前述のようにグリオキシル酸塩を系中で製造し、単離せずに用いる場合には、かかる反応をAA化PVA系樹脂の存在下で行うことも可能であり、例えば、グリオキシル酸をアルカリ性化合物によって中和してグリオキシル酸塩を得る場合には、AA化PVA系樹脂とグリオキシル酸の混合水溶液にアルカリ性化合物を添加する方法を用いることもできる。
【0031】
なお、上述の水溶液には、本発明の特性を阻害しない範囲内で消泡剤、防黴剤、防腐剤、レベリング剤等の添加剤、各種エマルジョン、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂(例えば、大日本インキ化学工業社製「ハイドランAP−20」、「ハイドランAPX−101H"」など)、ポリウレタン系ディスパージョンやポリエステル系ディスパージョンに代表される各種のポリマーディスパージョン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリアクリル酸などの水溶性樹脂、グリシジルオキシ基を有する化合物、アルミニウムなどの金属コロイド(例えば、川研ファインケミカル社製「アルミナゾル−10A」)などを配合しても良い。
【0032】
かかる樹脂組成物水溶液の調整方法における水溶液の濃度は1〜30重量%、さらには2〜20重量%、特には3〜15重量%であることが好ましい。かかる樹脂組成物水溶液の濃度が大きすぎると水溶液の粘度が高くなり、各種作業性が低下したり、塗工時等おいて均一な膜厚が得られにくくなる場合があるため好ましくない。また、濃度が小さすぎると水溶液を塗工する際に、一回の塗布で得られる膜厚が小さくなり、所望の膜圧を得るために複数回の塗工が必要となる場合があるため好ましくない。
【0033】
このようにして調整された樹脂組成物の水溶液は、塗工、注型、浸漬等の公知の方法によって各種用途に適用され、その後、乾燥・熱処理によって架橋反応が行われる。
【0034】
かかる架橋反応の温度は、通常10〜180℃であり、更には15〜150℃、特には20〜120℃であることが好ましい。かかる温度が高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂が分解してしまい、着色が起こる場合があるため好ましくない。また、温度が低すぎると架橋反応に時間がかかり、生産性が良くないため好ましくない。
架橋反応時間は、通常1〜1000分、更には2〜100分、特には3〜10分であることが好ましい。かかる時間が長すぎると生産性が良くなく、短すぎると十分に架橋した反応物が得られず、架橋が不十分になるため好ましくない。
【0035】
本発明の耐変色性PVA系樹脂架橋物は、コーティング剤、フィルム、シート、接着層、バインダーの各種の用途に適用できるが、フィルムとして用いる場合の厚さは、通常1〜1000μm、更には5〜500μm、特には10〜200μmであるのことが好ましい。かかる厚さが大きすぎると、皮膜が吸湿等により厚み方向の寸法変化の差が生じ、反りが生じる場合があるため好ましくない。また小さすぎると、耐変色性PVA系樹脂架橋物の皮膜強度が低下し、架橋皮膜が破れやすくなるため好ましくない。
【0036】
〔耐変色性PVA系樹脂架橋物〕
かくして得られたAA化PVA系樹脂のグリオキシル酸塩による架橋物は、次いで紫外線照射されることによって本発明の耐変色性PVA系樹脂架橋物とされる。
かかる紫外線照射の方法としては、300〜400nm波長域の光を発するキセノンランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、水素放電管、希ガス放電管等を用いて、照射すればよい。照射する紫外線の強度は、波長300〜400nmの積算値として、50mW/cm以上であることが必要で、更には100〜500mW/cm、特には150〜300mW/cmであることが好ましい。かかる紫外線の強度が強すぎると、架橋物の分解が生じる場合があり、弱すぎると紫外線照射の効果が十分に得られない場合があり好ましくない。
【0037】
また、かかる紫外線照射する場合の照射距離は、通常1〜3000mm、更には10〜1000mm、特には100〜500mmであることが好ましい。かかる照射距離が遠すぎると、十分に紫外線照射の効果が得られない場合があり、近すぎると皮膜に凹凸がある場合に紫外線照射が困難である場合があるため好ましくない。さらに、かかる紫外線を照射する時間は、1時間以上であることが必要で、通常4〜100時間、更には6〜50時間、特には9〜30時間であることが好ましい。かかる照射時間が長すぎると、架橋物の分解が生じる場合があり好ましくない。また、短すぎると紫外線照射の効果が十分に得られない場合があり好ましくない。
【0038】
かかる紫外線照射する雰囲気の温度は、通常0〜120℃、更には10〜100℃、特には20〜80℃であることが好ましく、湿度は通常80%RH以下、更には70%RH以下、特には60%RH以下であることが好ましい。かかる温度が高すぎると架橋物の変色が促進される場合があり、低すぎると紫外線照射の効果が十分に得られない場合があるため好ましくない。また、かかる湿度が高すぎると架橋物が着色しやすい場合があるため好ましくない。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0040】
実施例1
<AA化PVA系樹脂の製造>
温度調節付きリボンブレンダーに、未変性PVA樹脂(平均重合度1200、ケン化度99.2モル%)を3600部仕込み、これに酢酸1000部を加えて膨潤させ、回転数20rpmで攪拌しながら、60℃に昇温後、ジケテン550部を3時間かけて滴下し、更に1時間反応させた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、70℃で6時間乾燥してAA化PVAを得た。
得られたAA化PVAのAA化度は5.3モル%、ケン化度は98.9モル%であり、平均重合度は1200であった。
【0041】
<グリオキシル酸塩の製造>
2Lの2口反応缶中の50%グリオキシル酸水溶液456g(3.10モル)に、20%水酸化ナトリウム水溶液645g(3.22モル)を加え、生じた白色結晶をろ過水洗した後、50℃にて1時間乾燥して、グリオキシル酸ナトリウムを210g(1.84モル、収率59.5%)を得た。
【0042】
<架橋物の製造>
得られたAA化PVAの10%水溶液100重量部に、得られたグリオキシル酸ナトリウムを1重量部(AA化PVAに対して10重量%)添加して攪拌混合し、これをPETフィルム上に流延し、23℃、50%RHの条件下で72時間放置し、厚さ100μmのフィルムを得た。
得られたフィルムのYI値(色差計、日本電色工業社製「SZ−Σ90」、透過法)は、0.7であった。
【0043】
<耐変色性架橋物の製造>
得られたフィルムに、下記条件で紫外線を照射した。
装置:岩崎電気社製「SUV−W23」
ランプ:メタルハライドランプ(岩崎電気社製「M08−PL21/SUB」)
強度(300〜400nm):160mW/cm
照射距離:240mm
雰囲気:63℃、50%RH
照射時間:9時間
【0044】
<耐UV変色性評価>
処理後のフィルムに下記条件で紫外線を照射し、初期、および3時間後のYI値を測定した。以下、結果を表1に示す。
装置:日本電色工業社製「SZ−Σ90」
雰囲気:23℃、50%RH
【0045】
実施例2
実施例1において、グリオキシル酸ナトリウムの使用量を0.5重量部(AA化PVAに対して5重量%)とした以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造し、紫外線照射を6時間行い、同様の評価を行った。
【0046】
実施例3
実施例1において、グリオキシル酸ナトリウムに代えて、グリオキシル酸カルシウムを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを製造し、紫外線照射を6時間行い、同様に評価した。
【0047】
比較例1
実施例1において、紫外線照射処理を行わなかったものについて、同様の評価を行った。
【0048】
【表1】

※対AA化PVA

【0049】
これらの結果から明らかなように、AA化PVAとグリオキシル酸塩を含有する架橋物に、特定の条件で紫外線を照射した場合、紫外線照射処理を行わなかった場合よりも、経時での変色の少ない、耐変色性に優れた架橋物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の樹脂架橋物は、耐水性に優れ、さらには、経時での変色がないという特徴を有するものであり、紙用の塗工液、床コーティング剤、ガスバリアコーティング剤、農業用シート、屋外ディスプレイ用フィルム、屋外使用機器のコーティング等、特に長期間紫外線にさらされる場所で使用する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂をグリオキシル酸塩で架橋してなる架橋物に対し、波長300〜400nmの強度が50mW/cm以上の紫外線を1時間以上照射する耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法。
【請求項2】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂中のアセト酢酸基含有量が、0.1〜20モル%である請求項1記載の耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法。
【請求項3】
グリオキシル酸塩が、グリオキシル酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種のグリオキシル酸塩である請求項1又は2記載の耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架物の製造方法。
【請求項4】
アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂とグリオキシル酸塩の含有割合が100/0.1〜100/30である請求項1〜3いずれか記載の耐変色性ポリビニルアルコール系樹脂架橋物の製造方法。

【公開番号】特開2013−28697(P2013−28697A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165154(P2011−165154)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】