説明

耐水性キトサンシート、それを用いた創傷被覆材及び耐水性キトサンシートの製造方法

【課題】機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れた耐水性キトサンシート、該耐水性キトサンシートを用いた、治癒に要する期間が短く、治癒後の傷痕が目立たない創傷被覆材、及び該耐水性キトサンシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】βグルカンとキトサンが複合化された耐水性キトサンシート、例えば、βグルカン水溶液にキトサンを懸濁させた後、βグルカンをゲル化させ、その後、酸性水溶液によりキトサンを溶解させ、複合体ゲルを形成させ、該複合体ゲルを乾燥させることで得られる耐水性キトサンシートは、機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れ、創傷被覆材として極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性キトサンシートに関し、詳しくは、βグルカンを含有することによりシート状に成形した際の物性に優れる耐水性キトサンシートに関する。この耐水性キトサンシートは特に創傷被覆材として有用である。また、本発明は、耐水性キトサンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キトサンは、キチンをアルカリで加水分解してアセチル基を除いた、即ち脱アセチル化した物質である。一般的には100%脱アセチル化したものだけをキトサンと称するのではなく、脱アセチル化によって生じたアミノ基の効果により酸性水溶液に溶解する性質を有するに至ったものをキトサンと称することが多く、概ねキチンを40%以上脱アセチル化したものがキトサンと称されることが多い。
【0003】
キトサンは、抗血栓性、止血効果を有することから、医療材料に用いられることがあり、また抗菌抗カビ作用と病原菌の感染防御効果から衣料、繊維資材、布帛、繊維資材などに用いられている。
使用形態としては、キトサンをシート状に成形したものが創傷被覆材などの医療材料として利用されている(特許文献1参照)。
キトサンシートの製造は、キトサンを酸で溶解し、流延法、塗布法、スプレイ法、浸漬法などにて被塗物上にキトサン酸溶液層を形成し、キトサン酸溶液層から水分などが蒸発することにより乾燥、あるいは被塗物への吸水などにて水分が脱水することにより製造することができる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−248949号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「キチン,キトサンの応用」キチン・キトサン研究会編,技法堂出版,p.99−122 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来のキトサンシートは、引張りなどの機械的強度が不十分であった。また、創傷被覆材としては、水分吸収性も必ずしも満足すべきものではなかった。また、傷口に癒着しやすく、さらには治癒後の傷痕が目立つという問題があった。
従って、本発明の課題は、機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れた耐水性キトサンシート、該耐水性キトサンシートを用いた、治癒に要する期間が短く、治癒後の傷痕が目立たない創傷被覆材、及び該耐水性キトサンシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の耐水性キトサンシート、創傷被覆材、及び耐水性キトサンシートの製造方法を提供することにより、前記課題を解決したものである。
「キトサン及びβグルカンからなることを特徴とする、耐水性キトサンシート。」
「上記耐水性キトサンシートからなることを特徴とする、創傷被覆材。」
「βグルカン水溶液にキトサンを懸濁させる工程、その後、βグルカンをゲル化させる工程、その後、酸性水溶液によりキトサンを溶解させ、複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。」
「βグルカン水溶液、及び、キトサンの酸性水溶液を重層する工程、その界面に複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。」
「被塗物上にβグルカン水溶液を塗布し、乾燥させる工程、その上にキトサンの酸性水溶液を塗布し、乾燥させ、複合体シートを得る工程、その後、被塗物から複合体シートを剥離する工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。」
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れ、創傷被覆材とすることのできる耐水性キトサンシートを提供したことにあり、また、機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れ、治癒に要する期間が短く、治癒後の傷痕が目立たない創傷被覆材を提供したことにあり、また、そのような耐水性キトサンシートや創傷被覆材を与えることのできる耐水性キトサンシートの製造方法を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いるキトサンは、キチンの脱アセチル化によって酸性水溶液に溶解するようになったキトサンであればよく、特に限定されるものではないが、概ね40%以上、好ましくは70%以上脱アセチル化したものがよく、より好ましくは80%以上、最も好ましくは95%以上脱アセチル化したキトサンがよい。また、市販のキトサンを使用することもできる。
キトサンの分子量は、シートを形成することができるだけの分子量があればよく、特に限定されるものではないが、重量平均分子量が概ね10,000〜4,000,000、好ましくは50,000〜3,000,000程度がよい。
【0010】
本発明に用いるβグルカンは、水溶性のβグルカンであればよく、特に限定されるものではないが、好ましくはβ1,3結合、β1,4結合、β1,6結合のうちの異なる2種以上の結合を有するβグルカンが好ましく、例えば、β1,3結合とβ1,4結合を有するβ−1,3−1,4−グルカンや、β1,3結合とβ1,6結合を有するβ−1,3−1,6−グルカンなどを挙げることができる。なかでもβ−1,3−1,6−グルカンが好ましい。
βグルカンの分子量も特に限定されるものではないが、重量平均分子量が1,000〜3,000,000、好ましくは5,000〜1,000,000程度がよい。
【0011】
本発明において、キトサンとβグルカンの割合は、キトサン100質量部に対して、βグルカン1〜3000質量部が好ましく、より好ましくは10〜2000質量部、さらに好ましくは25〜1000質量部である。
上記割合を超えてキトサンが多すぎても、βグルカンが多すぎても本発明の効果が得難い。
【0012】
本発明の耐水性キトサンシートは、例えば以下の(1)〜(3)の製造方法により得ることができる。
(1)βグルカン水溶液にキトサンを懸濁させる工程、その後、βグルカンをゲル化させる工程、その後、酸性水溶液によりキトサンを溶解させ、複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。
(2)βグルカン水溶液、及び、キトサンの酸性水溶液を重層する工程、その界面に複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。
(3)被塗物上にβグルカン水溶液を塗布し、乾燥させる工程、その上にキトサンの酸性水溶液を塗布し、乾燥させ、複合体シートを得る工程、その後、被塗物から複合体シートを剥離する工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。
【0013】
ここで、まず、上記(1)の製造方法の好ましい実施態様について詳述する。
まず、βグルカン水溶液を用意する。βグルカン水溶液は、単離された水溶性βグルカンを水に溶解させてもよいし、βグルカンの製造工程においてβグルカン水溶液として製造されたものであってもよい。
用いるβグルカン水溶液は、概ね0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の濃度の水溶液として用いればよい。
【0014】
次に、このβグルカン水溶液に、キトサンを懸濁させて、βグルカンを含有したキトサン懸濁液を調製する。用いるキトサンは粉末キトサンであっても、水に懸濁させたキトサン懸濁液として用いてもよい。この際のキトサンとβグルカン水溶液との使用割合は、キトサンとβグルカンの割合が、キトサン100質量部に対して、βグルカン1〜3000質量部が好ましく、より好ましくは10〜2000質量部、さらに好ましくは25〜1000質量部となる割合である。
尚、上記のようなβグルカンを含有したキトサン懸濁液は、粉末βグルカンと粉末キトサンを予め混合した後、この混合粉末を水に懸濁(βグルカン成分は水に溶解し、キトサン成分は懸濁する)させて得ることも好ましい。
【0015】
次に、このβグルカンを含有したキトサン懸濁液を所望とするシートの形状に従った型、例えばシャーレなどに入れる。該懸濁液の濃度にもよるが、概ね内径28mmのシャーレであれば懸濁液を0.1g〜30g、好ましくは0.5g〜10g、より好ましくは1g〜5gを入れればよい。
【0016】
次に、この型に入れた懸濁液の表面にβグルカンをゲル化できる液体を注入する。好ましくはエタノールを注入することが良い。エタノールの注入量はβグルカンの量によって適宜選択すればよいが、懸濁液2gに対して概ね0.1〜20mL、好ましくは0.5〜10mL、より好ましくは1〜5mL程度注入すればよい。エタノールはβグルカンがゲル化される間保持すればよく、概ね30分〜6時間、好ましくは1時間〜3時間程度保持すればよい。このようにしてβグルカンがゲル化し、キトサン粒子はβグルカンのゲルネットワーク中に保持されることとなる。
【0017】
次に、ゲル化した懸濁液に対し、好ましくは先ほど使用した余分のエタノールを除去した後、キトサンを溶解することのできる酸性水溶液を注入する。酸性水溶液は、pH2以上7未満の水溶液であれば特に限定されないが、好ましくは蟻酸、酢酸、リン酸、塩酸などの酸もしくは酢酸やリン酸などの緩衝液がよく、例えば、pH4.5の0.1M酢酸緩衝液を好ましく使用することができる。
酸性水溶液は例えば、懸濁液2gを2mLのエタノールでゲル化させたものに対して概ね0.1〜20mL、好ましくは0.5〜10mL、より好ましくは1〜5mL程度注入すればよい。酸性水溶液はキトサンが溶解される間保持すればよく、概ね6時間〜2昼夜、好ましくは12時間〜24時間保持すればよい。このようにしてβグルカンとキトサンが複合化された含水状態のシート(シート状の複合体ゲル)が形成される。
【0018】
本発明では、次いでこの含水状態のシートを常法により乾燥させることにより耐水性キトサンシートとすることができるものである。
【0019】
次に、上記(2)の製造方法の好ましい実施態様について詳述する。
まず、βグルカン水溶液を用意する。βグルカン水溶液は、上記(1)の製造方法と同様のものを使用することができる。
次に、キトサンの酸性水溶液を用意する。キトサンの濃度は、概ね0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%であり、pHは、2以上7未満であれば特に限定されないが、好ましくは蟻酸、酢酸、リン酸、塩酸などの酸もしくは酢酸やリン酸などの緩衝液がよく、例えば、pH4.5の0.1M酢酸緩衝液を好ましく使用することができる。
【0020】
次に、上記βグルカン水溶液、及び、キトサンの酸性水溶液を重層する。いずれの水溶液を下層にしてもよいが、好ましくはβグルカン水溶液を下層とする。βグルカン水溶液を上層とすると、2つの水溶液が経時的に混合されてしまいやすく、界面の形成が困難になりやすい。
重層することで、その界面にβグルカンとキトサンが複合化された含水状態のシート(シート状の複合体ゲル)が形成される。
重層時間は概ね20分〜12時間、好ましくは2時間〜8時間保持すればよい。なお、βグルカン水溶液を下層とした場合は良好な物性のシートが形成されてから1〜3時間経過するとシートは沈降するため、十分に複合化された判断基準として利用することができる。
【0021】
次いで、生成したシートを溶液から引き上げ、次いでこの含水状態のシートを常法により乾燥させることにより耐水性キトサンシートとすることができるものである。
【0022】
次に、上記(3)の製造方法の好ましい実施態様について詳述する。
まず、βグルカン水溶液を用意する。βグルカン水溶液は、上記(1)の製造方法と同様のものを使用することができる。
次に、キトサンの酸性水溶液を用意する。キトサンの酸性水溶液は、上記(2)の製造方法と同様のものを使用することができる。
次に、被塗物を用意する。この被塗物は表面が平板状であればよく、その材質は特に制限されず、ガラス、金属、陶器、プラスティック、紙などを適宜使用することができるが、表面が平滑であり且つ剥離性が良好な点でガラスを使用することが好ましい。
【0023】
そして、被塗物上にβグルカン水溶液を塗布し、乾燥させる。
塗布する方法としては、流延法、塗布法、スプレイ法、浸漬法などを挙げることができるが、浸漬法を使用することが好ましい。乾燥方法は特に制限されず、常法を用いることができる。
【0024】
次いで、その上に、上記キトサンの酸性水溶液を塗布し、乾燥させることで、βグルカンとキトサンが複合化された複合体シート(シート状の複合体ゲル)が形成される。
塗布する方法や乾燥する方法としては、βグルカン水溶液の場合と同様の方法を用いることができる。
【0025】
この(3)の製法では1サイクルでは2〜5μmの厚さの複合体シートしか得られないため、好ましくは、上記2つの工程(βグルカン水溶液の塗布、乾燥工程及びキトサンの酸性水溶液の塗布、乾燥工程)を繰り返して、好ましくは100μm超の厚さの複合体シートとする。
上記2つの工程を繰り返す回数(サイクル)は、好ましくは10〜100回、より好ましくは20〜60回、さらに好ましくは30〜50回である。
【0026】
最後に、被塗物から複合体シートを剥離し、耐水性キトサンシートを得る。剥離する方法としては特に制限はないが、好ましくは水を、被塗物と複合体シートとの間にしみこませる方法を採ることが好ましい。
【0027】
このようにして得られた本発明の耐水性キトサンシートは、機械的強度に優れ且つ水分吸収性に優れたものであり、本発明の創傷被覆材は、この耐水性キトサンシートからなる創傷被覆材である。本発明の創傷被覆材は、キトサン自体(βグルカンとの複合ではあるが)のシートであるので基材を必要とせず、且つ従来のキトサンシートからなる創傷被覆材に比べて極めて優れた水分吸収性を有し、また治癒後の傷痕が目立たないものである。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げさらに本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
<キトサンシートの製造(1)>
〔実施例1〜15〕
β−1,3−1,6−グルカン(黒酵母由来の発酵β−グルカン:株式会社ADEKA製)の粉末及び、キトサン粉末(商品名:食品用キトサミン、日本化薬フードテクノ製、分子量129.8万、脱アセチル化度88%)を混合した混合粉末を水に懸濁(βグルカン成分は水に溶解、キトサン成分は懸濁)させた。βグルカン及びキトサンの濃度(使用割合)は、それぞれ、表1に示す通り、0.1質量%、0.5質量%、1.0質量%、2.0質量%の各濃度となるように、各種懸濁液を調製した。但し、βグルカン0.1質量%とキトサン0.1質量%の組み合わせは行わなかった。
この懸濁液2gをシャーレ(内径28mm)に入れ、エタノール2mLを表面に注入して2時間放置してβグルカンをゲル化させた。
その後、エタノールを除去し、0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)2mLをシャーレに内に注入し、一昼夜静置し、βグルカンとキトサンが複合化された含水状態のシート(シート状の複合体ゲル)を形成させた。
得られた含水状態のシートを室温にて乾燥し、βグルカンとキトサンが複合化されたシートとして本発明の耐水性キトサンシートを得た。
表1に上記で得られた本発明の各種耐水性キトサンシートを得た際のキトサンの使用割合とβグルカンの使用割合を示した。
【0030】
〔実施例16〜20〕
βグルカン濃度を1.0質量%に固定し、キトサン使用量も1.0質量%に固定し、用いたキトサンの種類を変え、表2に示す4種類とした以外は、実施例1と同様にして、それぞれ本発明の各種耐水性キトサンシートを得た。
表2に上記で得られた本発明の各種耐水性キトサンシートを得た際のキトサンの種類及びその使用割合とβグルカンの使用割合を示した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
尚、表2中のCS7B、CS8B、CS9B、CSLL、CS10Bは、下記のキトサンである。
CS7B:(株)加ト吉製、分子量282万、脱アセチル化度70%
CS8B:(株)加ト吉製、分子量220万、脱アセチル化度82%
CS9B:(株)加ト吉製、分子量98万、脱アセチル化度91%
CSLL:商品名「キトサンLL40」焼津水産化学工業製、分子量10万、脱アセチル化度80%
CS10B:(株)加ト吉製、分子量16.2万、脱アセチル化度100%
【0034】
<キトサンシートの評価>
実施例1〜15及び実施例16〜20で得られた本発明の各耐水性キトサンシートについて、レオロジー特性をレオメーター(SUN RHEO TEX SD−700#)を用いて測定(各シートについて同じものを3つ作製してそれぞれ測定し、平均値を算出)した。また、各シートの耐水性及び水分吸収性について評価した。その結果を表3に示した。
【0035】
【表3】

【0036】
尚、表3中の歪み、応力、耐水性、水分吸収性についての注釈を下記に示す。
歪み:Strain mm (weight (30g))
応力:Stress kPa (Distance (1mm))
耐水性:24時間水浸漬時の形状保持状況(◎:形状維持した強いゲル、○:形状保持した弱いゲル)
水分吸収性:乾燥自重1に対する24時間水浸漬後の重量倍率
【0037】
<キトサンシートの製造(2)>
〔実施例21〕
β−1,3−1,6−グルカン(黒酵母由来の発酵β−グルカン:株式会社ADEKA製)の粉末を水に溶解し、1質量%のβグルカン水溶液を得た。一方、キトサン粉末(焼津水産化学工業株式会社製、商品名:LL-40 )を濃度が1質量%となるように、0.5質量%酢酸水溶液に溶解させた。
上記βグルカン水溶液10mLをシャーレ(内径50mm)に入れ、更にその上からキトサンの酸性水溶液10mLを注ぎ重層し、6時間放置し、その界面にβグルカンとキトサンが複合化された含水状態のシート(シート状の複合体ゲル)を形成させた。得られた複合体ゲルを乾燥し、本発明の耐水性キトサンシート(0.11g)(膜厚40μm)を得た。得られた本発明の耐水性キトサンシートは酸性水溶液、アルカリ性水溶液に不溶であり十分な耐水性と吸水性を有していた。
なお、得られた本発明の耐水性キトサンシートのキトサンとβグルカンの割合は、複合体ゲル形成前後のβグルカン水溶液及びキトサンの酸性水溶液のそれぞれのβグルカン含量及びキトサン含量から求めたところ、キトサン100質量部に対してβグルカン500質量部であった。
【0038】
<キトサンシートの製造(3)>
〔実施例22〕
β−1,3−1,6−グルカン(黒酵母由来の発酵β−グルカン:株式会社ADEKA製)の粉末を水に溶解し、1質量%のβグルカン水溶液を得た。一方、キトサン粉末(焼津水産化学工業株式会社製、商品名:LL-40 )を濃度が1質量%となるように、0.5質量%酢酸水溶液に溶解させた。
被塗物としてガラス基板を用意し、まず、上記βグルカン水溶液に30秒間浸漬し、引上げ、乾燥させた。
続いて、βグルカンのゲル層が表面に形成された、同ガラス基板を、上記キトサンの酸性水溶液中に30秒間浸漬し、引上げ、乾燥させることで、βグルカンとキトサンが複合化された複合体シートを得た。
さらに、上記操作を40回繰り返した後、蒸留水を滴下し、ガラス基板から膜厚100μmの複合体シートを剥離し、本発明の耐水性キトサンシートを得た。得られた本発明の耐水性キトサンシートは酸性水溶液、アルカリ性水溶液に不溶であり十分な耐水性と吸水性を有していた。
【0039】
<創傷被覆材のマウス試験>
試験動物としてddyマウス(雄性、6週齢、体重25〜30g)1群6匹を用い、エーテル麻酔下(脱脂綿に染み込ませ、デシケーター中で吸引させた。)に剃毛、消毒を施し、背部正中線上の皮膚に、外科手術用ハサミにより直径が1cmの全層皮膚欠損創を作成した。欠損創作成後直ちに創傷被覆材を貼付した。さらに創傷被覆材の固定を確実にするためにこの外側をフィルム(テガダーム:住友スリーエム製)で被覆した。欠損創作成後、3日目、5日目、7日目、10日目、12日目、14日目に、創傷被覆材をいったん剥離し、創傷面積を計測した。
なお、創傷被覆材として使用したサンプルは以下の実施例23及び24で得られた本発明の耐水性キトサンシート、比較例1で得られたβグルカンのみからなるシート並びに比較例2の市販のキトサンシートである。
【0040】
〔実施例23〕
β−1,3−1,6−グルカン(黒酵母由来の発酵β−グルカン:株式会社ADEKA製)の粉末0.01g、及び、キトサン粉末(キトサンLL40:焼津水産化学工業株式会社製、分子量100,000、脱アセチル化度80%)0.01gを混合した混合粉末を水に懸濁(βグルカン成分は水に溶解、キトサン成分は懸濁)させ、βグルカン濃度が1質量%、キトサン濃度が1質量%の懸濁液を調製した。
この懸濁液2gをシャーレ(内径28mm)に入れ、エタノール2mLを表面に注入して2時間放置してβグルカンをゲル化させた。
その後、エタノールを除去し、0.1M酢酸緩衝液(pH4.5)2mLをシャーレ内に注入し、一昼夜静置し、βグルカンとキトサンが複合化された含水状態のシート(シート状の複合体ゲル)を形成させた。
得られた含水状態のシートを室温にて乾燥し、βグルカンとキトサンが複合化されたシートとして本発明の耐水性キトサンシートを得た。
【0041】
〔実施例24〕
キトサン粉末として、「キトサンLL40」に代えて、「Y.H.キトサンKII」(ヤエガキ醗酵技研株式会社製、分子量179,000、脱アセチル化度93%)0.01gを使用した以外は、実施例23と同様にして、本発明の耐水性キトサンシートを得た。
【0042】
〔比較例1〕
β−1,3−1,6−グルカン(黒酵母由来の発酵β−グルカン:株式会社ADEKA製)を水に溶解させ、1%βグルカン水溶液を調製した
このβグルカン水溶液2mLをシャーレ(内径28mm)に入れ、エタノール2mLを表面に注入して2時間放置してβグルカンをゲル化させた。
得られた含水ゲル状シートを室温にて乾燥し、βグルカンのみからなる比較例のシートを得た。なお、得られたシートは水に可溶であり、耐水性を有していなかった。
【0043】
〔比較例2〕
キトサンシート(「ベスキチンW」:ユニチカ株式会社製)を比較例のキトサンシートとして使用した。
【0044】
なお、創傷被覆材を使用しない、下記比較例3及び4についても同時に実験を行い、同様に評価を行った。
〔比較例3〕
フィルム(テガダーム:住友スリーエム製)で直接創傷部を被覆した。
〔比較例4〕
創傷部を被覆することなく放置した。
【0045】
<創傷被覆材の評価>
欠損創作成直後(0日目)の創傷面積を100(%)とした場合の、各測定日に測定した創傷面積の割合(%)を表4にまとめた。
【0046】
【表4】

【0047】
表4の結果から、実施例23及び実施例24の本発明の本発明の耐水性キトサンシートからなる創傷被覆材を使用した場合は、無処置の場合(比較例4)や、フィルムのみで被覆した場合(比較例3)に比べて、治癒に要する期間が著しく短縮されていることがわかる。また、治癒後の傷痕が目立たないものであった。
これに対し、βグルカンのみからなる比較例1のシートを使用した場合は、シートが溶解して創傷部に癒着し、剥離することが困難であった。また、14日目においても創傷面積が広く、創傷被覆材としては適していないことがわかる。
また、βグルカンを含まないキトサンシートを使用した場合(比較例2)は、本発明の耐水性キトサンシートと異なり、創傷部への密着性が悪く、また、創傷部に癒着して剥離が困難であり、剥離の際に破損しやすかった。さらに、治癒後の傷痕が目立つものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン及びβグルカンからなることを特徴とする、耐水性キトサンシート。
【請求項2】
請求項1に記載の耐水性キトサンシートからなることを特徴とする、創傷被覆材。
【請求項3】
βグルカン水溶液にキトサンを懸濁させる工程、その後、βグルカンをゲル化させる工程、その後、酸性水溶液によりキトサンを溶解させ、複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。
【請求項4】
βグルカン水溶液、及び、キトサンの酸性水溶液を重層する工程、その界面に複合体ゲルを形成させる工程、その後、複合体ゲルを乾燥させる工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。
【請求項5】
被塗物上にβグルカン水溶液を塗布し、乾燥させる工程、その上にキトサンの酸性水溶液を塗布し、乾燥させ、複合体シートを得る工程、その後、被塗物から複合体シートを剥離する工程から少なくともなることを特徴とする、耐水性キトサンシートの製造方法。

【公開番号】特開2010−269137(P2010−269137A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99155(P2010−99155)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】