説明

耐油処理剤、耐油紙およびその製造方法

【課題】ペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が6以下であるカチオン性含フッ素共重合体を用いて耐油性を付与する際に、該カチオン性含フッ素共重合体の使用量を多くする方法によらずに、良好な耐油性を有する耐油紙を製造できるようにする。
【解決手段】耐油紙を製造する際、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基を有する単量体(a)に基づく重合単位(a’)を有するカチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)と、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)とからなる耐油処理剤を、紙の構成材料に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐油処理剤、耐油紙およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロアルキル基を有する化合物で処理された耐油紙(以下、フッ素系耐油紙という。)はよく知られており、その油などの液体に対するバリア性を利用して食品包装紙、食品包装容器、ファーストフードの包装、鮮度保持剤包装、脱酸素剤包装、飼料包装など広い範囲で使用されている。
【0003】
特にフッ素系耐油紙は、フッ素系以外の耐油紙であるグラシン紙、パーチメント紙、コーティング紙、ラミネート紙あるいはプラスチックフィルムと異なり、通気性を有したまま良好な耐水性、耐油性を有することから湿度が内部にこもることを嫌うフライ類などの食品包装、機能上通気性が必要な鮮度保持剤包装または脱酸素剤包装において好適に用いられる。
例えば、下記特許文献1には、紙の処理剤としてフルオロアクリルポリマーをデンプンまたはポリビニルアルコールと組み合わせて用いることにより、脂肪に対するバリヤー効果を改善する方法が記載されている。
【0004】
ところで、従来のフッ素系耐油剤に用いられるペルフルオロアルキル基は主に炭素数が8以上である。近年、環境への影響の観点から、ペルフルオロアルキル基を有する化合物にあっては、ペルフルオロアルキル基の炭素数を8未満とすることが推奨されている。
これに対して下記特許文献2では、従来のフッ素系耐油剤に代わって、長いペルフルオロアルキル基を使用せず、炭素数6以下の短いペルフルオロアルキル基またはポリフルオロポリエーテルを使用した新しい代替フッ素系耐油剤が提案されている。
【0005】
アニオン性の含フッ素耐油剤を使用して耐油紙、耐油板紙を製造する際にカチオン性の樹脂を使用することは公知である(下記非特許文献1)。
また下記特許文献3には、ペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が8以上のアニオン性の含フッ素耐油剤を内添または外添するとともに、アニオン性または両性のポリアクリルアミドからなる乾燥紙力増強剤を内添することにより、耐油度、強度共に優れた紙を提供する方法が記載されている。
【非特許文献1】染色工業 Vol.43 No.6 P292-296 (1995)
【特許文献1】特開平9−209294号公報
【特許文献2】国際公開2005/090423号パンフレット
【特許文献3】特開2005−213658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されているようなペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が6以下である、環境に配慮した耐油剤を紙の耐油処理に用いる場合、充分な耐油性が得られ難く、目的の耐油性を得るためには多量の耐油剤を必要とすることがある。このため、例えば低坪量の薄紙や低坪量の耐油紙層を有する板紙において充分な耐油性を達成することが難しい。
また多量の耐油剤を使用すると、抄紙条件によっては、乾燥工程においてドライヤー面からの剥離、密着不良のために乾燥不良を生じるなど、紙の製造工程において不都合が生じるおそれがある。
さらに、耐油剤としてカチオン性の含フッ素重合体を内添する場合は、同じカチオン性の乾燥紙力増強剤または湿潤紙力増強剤との相溶性の点から耐油剤の添加量を多くして耐油性を向上させることが難しいため、紙の引張り強さと耐油性の両立が難しい。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、ペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が6以下であるカチオン性含フッ素共重合体を用いて耐油性を付与する際に、該カチオン性含フッ素共重合体の使用量を多くする方法によらずに、耐油性を向上させることができる耐油処理剤、該耐油処理剤を用いた耐油紙の製造方法、および該方法で得られる耐油紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の耐油処理剤は、下記単量体(a)に基づく重合単位(a’)、下記単量体(b)に基づく重合単位(b’)および下記単量体(c)に基づく重合単位(c’)を含むカチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)と、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)とからなることを特徴とする。
単量体(a):(Z−Y)Xで表される化合物。ただし、式中Zは炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはC2m+1O(CFWCFO)CFK−(mは1〜6の整数、dは1〜4の整数、WおよびKはそれぞれ独立にフッ素原子またはトリフルオロメチル基。)で表される1価の基を表し、Yは、フッ素原子を含まない2価の有機基または単結合を表し、nは1または2であり、nが1のとき、Xは−CR=CH、−COOCR=CH、−OCOCR=CH、−OCH−φ−CR=CHまたは−OCH=CHを表し、nが2のとき、Xは−CH[−(CHCR=CH]−、−CH[−(CHCOOCR=CH]−、−CH[−(CHOCOCR=CH]−、または−OCOCH=CHCOO−を表し、Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子であり、φはフェニレン基であり、pは0〜4の整数である。nが2のとき、1分子内に存在する2つの(Z−Y)は互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
単量体(b):CH=CR−G−(RO)−Rで表される化合物。ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を表わし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、qは1〜50の整数であり、Gは−COO(CH−または−COO(CH−NHCOO−(rは0〜4の整数、tは1〜4の整数。)を表わし、Rは水素原子、メチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を表わす。
単量体(c):CH=CR−M−Q−NRまたはCH=CR−M−Q−N(O)Rで表される化合物。ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を表わし、Mは−COO−または−CONH−を表わし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、R、Rはそれぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1〜8のアルキル基または水素原子の一部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキル基を表し、R、Rおよび窒素原子がピペリジノ基またはピロリジニル基を形成してもよく、R、R、酸素原子、窒素原子がモルホリノ基を形成してもよい。
【0009】
前記単量体(a)の(Z−Y)Xにおいて、Zが炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であり、Yがフッ素原子を含まない2価の有機基であり、Xが−OCOCR=CHまたは−OCOCH=CHCOO−(Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子を表す。)であることが好ましい。
前記カチオン性含フッ素共重合体(A)が、前記重合単位(a’)の70〜90質量%、前記重合単位(b’)の3〜20質量%、および前記重合単位(c’)の7〜25質量%を含むことが好ましい。
【0010】
本発明は、紙の構成材料に、本発明の耐油処理剤を添加する耐油処理工程を有することを特徴とする耐油紙の製造方法を提供する。
前記耐油処理工程において、パルプスラリーに、前記両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)、および前記カチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)をこの順で添加する方法が好ましい。
また本発明は、本発明の耐油紙の製造方法を用いて製造される耐油紙を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の耐油処理剤によれば、カチオン性含フッ素共重合体におけるペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が6以下であるにもかかわらず、該カチオン性含フッ素共重合体の使用量を多くする方法によらずに、良好な耐油性を付与することができる。
本発明の耐油紙の製造方法によれば、カチオン性含フッ素共重合体におけるペルフルオロアルキル基の炭素鎖長が6以下であるにもかかわらず、該カチオン性含フッ素共重合体の使用量を多くする方法によらずに、良好な耐油性を有する耐油紙を製造できる。
本発明の耐油紙は良好な耐油性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)>
本発明で用いられる両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)は、両性のポリアクリルアミド系樹脂であればよく特に限定されない。ポリアクリルアミド系樹脂とは、アクリルアミドまたはその誘導体に基づく重合単位を含むポリマーであり、アクリルアミドおよびこれと共重合可能なモノマーを共重合させたアクリルアミド系共重合体、該アクリルアミド系共重合体の変性物、アクリルアミドの単独重合体の変性物が含まれる。
本発明において「両性の」とは、ポリアクリルアミド系樹脂における下記式(A)で表されるカチオン価が0.5〜1.5(meq/g)であることを意味する。
該カチオン価は以下の方法で算出する。まず、測定対象のポリアクリルアミド系樹脂試料(通常は水溶液)を0.05g精秤し、蒸留水にて100mlとする。このうち20mlを取り出し、0.1Nの塩酸を0.5ml、およびトルイジンブルー指示薬を2〜3滴加える。この液を1/400(=0.0025)Nのポリビニル硫酸カリウム溶液(以下、PVSKという。)で滴定し、液が青色から赤紫へ変色した点を終点とする。
下記式(A)において、xはPSVK滴定量(ml)、FはPSVKのファクター、yはポリアクリルアミド系樹脂試料の質量(g)、zは試料中におけるポリアクリルアミド系樹脂の固形分濃度(質量%)を表わす。
【0013】
【数1】

【0014】
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)は、公知のアクリルアミド系共重合体、マンニッヒ変性ポリアクリルアミド系樹脂、ホフマン分解されたポリアクリルアミド系樹脂のうちから、両性であるものを適宜選択して用いることができる。これらのうちで両性のアクリルアミド系共重合体が好ましい。
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)は、1種単独でもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)としては、アクリルアミドと、下記から選ばれた少なくとも一つ以上のカチオン性モノマーと、下記から選ばれた少なくとも一つ以上のアニオン性モノマーの共重合体が挙げられる。
カチオン性モノマーとしては、以下の化合物が挙げられる。
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド。
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート。
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、または上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートを、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、塩化メチル、塩化ベンジル、硫酸メチル、エピクロルヒドリンなどの4級化剤と反応させて得られる4級化アミノ基含有モノマー、具体例はアクリルアミドプロピルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリロイロキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルアミノエチルトリエチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウムクロリド。
その他、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、アリルアミン、ビニルフォルムアミドから誘導されるビニルアミン、ビニルアミジン類を使用することもできる。
【0016】
アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(無水)シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、4−スルホブチル(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、などのα,β−不飽和カルボン酸類またはα,β−不飽和スルホン酸類、およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0017】
<組成物(II)>
本発明における組成物(II)は両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する。組成物(II)は、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)の他に溶媒、各種添加剤を含んでいてもよい。
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)は市販品から入手可能である。例えば、星光PMC社製のFD−7290(製品名、共重合ポリアクリルアミド系樹脂)等が挙げられる。
【0018】
<カチオン性含フッ素共重合体(A)>
本発明で用いられるカチオン性含フッ素共重合体(A)(以下、単に含フッ素共重合体(A)ということもある。)は、単量体(a)に基づく重合単位(a’)、単量体(b)に基づく重合単位(b’)および単量体(c)に基づく重合単位(c’)を含有する。
含フッ素共重合体(A)は単量体(c)に由来するアミノ基(置換されていてもよい)を有しており、カチオン性を示す。また含フッ素共重合体(A)は水分散性である。
【0019】
<単量体(a)・重合単位(a’)>
単量体(a)は、(Z−Y)Xで表される化合物である。重合単位(a’)は、単量体(a)の重合性不飽和基の二重結合が開裂して形成される重合単位である。
【0020】
(Z−Y)XにおけるZは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基(以下、R基ということもある。)またはC2m+1O(CFWCFO)CFK−(mは1〜6の整数。dは1〜4の整数。W、Kはそれぞれ独立にフッ素原子またはトリフルオロメチル基(−CF)。)で表される基である。
Zとしては、炭素数1〜6のR基が好ましく、F(CF−、F(CF−、F(CF−、F(CF−、F(CF−、(CFCF(CF−がより好ましく、F(CF−、F(CF−、F(CF−が最も好ましい。
【0021】
Yは、フッ素原子を含まない2価の有機基または単結合である。Yは2価の有機基が好ましい。Yは、−R−T−R−で表される2価の基がより好ましい。式中、R、Rはそれぞれ独立して、単結合、または1個以上のエーテル性の酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜22の飽和または不飽和の炭化水素基を示す。Tは単結合、−OCONH−、−CONH−、−SONH−、−SONR’−(R’は炭素数1〜6のアルキル基)または−NHCONH−を示す。
Yとしての上記−R−T−R−は、炭素数1〜10のアルキレン基、−CH=CHCH−、−(CHCHR''O)CHCH−(jは1〜10の整数、R''は水素原子またはメチル基を示す。)、−COCONHC−、−COCOOC−、または−COOC−が好ましく、炭素数1〜10のアルキレン基がより好ましく、−CH−、−CHCH−、−(CH11−または−CHCHCH(CH)−さらに好ましい。
【0022】
nは1または2である。
Xは、重合性不飽和基であって、nが1の場合は−CR=CH、−COOCR=CH、−OCOCR=CH、−OCH−φ−CR=CHまたは−OCH=CHであり、nが2の場合は−CH[−(CHCR=CH]−、−CH[−(CHCOOCR=CH]−、−CH[−(CHOCOCR=CH]−、または−OCOCH=CHCOO−(Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子。φはフェニレン基。pは0〜4の整数。)である。nが2のとき、1分子内に存在する2つの(Z−Y)は互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
Xとしては、−OCOCR=CHまたは−OCOCH=CHCOO−が好ましく、溶媒に対する溶解性に優れ、乳化重合が容易に行えることから、−OCOCR=CHがより好ましい。Rとしては、重合性に優れることから、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)または炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0023】
単量体(a)として、前記Zが炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であり、前記Yがフッ素原子を含まない2価の有機基であり、かつ前記Xが−OCOCR=CHまたは−OCOCH=CHCOO−であるものが好ましい。
特に好ましい具体例としては、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメタクリレートが好ましい。
単量体(a)は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0024】
<単量体(b)・重合単位(b’)>
単量体(b)はCH=CR−G−(RO)−Rで表される化合物である。重合単位(b’)は単量体(b)のエチレン性二重結合が開裂して形成される重合単位である。
は、水素原子またはメチル基であり、Rは水素原子、メチル基、(メタ)アクリロイル基またはアリル基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基である。一分子中に炭素数が互いに異なる2種以上のアルキレン基が含まれていてもよい。
単量体(b)において、−(RO)−として炭素数が互いに異なる2種以上のアルキレン基が含まれる場合には、それらの繰り返し単位の配列は、ブロック状でもよくランダム状でもよい。qは1〜50の整数であり、1〜30が好ましく、1〜15がより好ましい。
Gは−COO(CH−または−COO(CH−NHCOO−(rは0〜4の整数、tは1〜4の整数。)である。
単量体(b)は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0025】
としては水素原子または(メタ)アクリロイル基が好ましい。Rとしては炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。Gとしては−COO(CH−(rは0〜4の整数。)が好ましい。Rが(メタ)アクリロイル基である場合は、含フッ素共重合体が3次元の網目構造となりやすく、含フッ素共重合体が基材に強固に密着し、耐久性に優れる。単量体(b)として、Rが(メタ)アクリロイル基である化合物とRが水素原子である化合物を併用してもよい。
【0026】
単量体(b)の具体例としては、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
ポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
メトキシポリオキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、
トリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
テトラオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
アクリロイルオキシポリオキシエチレングリコールメタアクリレート、
2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、
ポリ(オキシプロピレン−オキシブチレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリ(オキシエチレン−オキシブチレン)グリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
これらのうちでも、単量体(b)としては、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
トリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
テトラオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましい。
さらに好ましいのは、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、
トリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(以下、2,2’エチレンジオキシジエチルジメタクリレートということもある。)、
テトラオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)グリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレートである。
【0028】
<単量体(c)・重合単位(c’)>
単量体(c)は、CH=CR−M−Q−NRまたはCH=CR−M−Q−N(O)Rで表される化合物である。重合単位(c’)は単量体(c)のエチレン性二重結合が開裂して形成される重合単位である。
式中、Rは水素原子またはメチル基であり、Mは−COO−(エステル結合)または−CONH−(アミド結合)であり、Qは炭素数2〜4のアルキレン基または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基であり、R、Rはそれぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1〜8のアルキル基または水素原子の一部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキル基である。R、Rおよび窒素原子がピペリジノ基またはピロリジニル基を形成してもよく、R、R、酸素原子、窒素原子がモルホリノ基を形成してもよい。
【0029】
Mとしては−COO−が好ましい。Qとしては炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。R、Rとしては炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。
単量体(c)は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
単量体(c)としては、
N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、
N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、
N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、
N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、
N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、
N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、
N−(メタ)アクリロイルモルホリン、
N−(メタ)アクリロイルピペリジン、
N,N−ジメチルアミノオキシドエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらのうちでも、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートがより好ましい。
【0031】
<他の単量体(d)>
含フッ素共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記単量体(a)〜(c)以外の単量体であって単量体(a)〜(c)と共重合可能な他の単量体(d)に基づく重合単位(d’)を有していてもよい。
単量体(d)は、特に限定されないが、例えば、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートの3,5−ジメチルピラゾール付加体、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシエチルシランから選ばれる1種または2種以上を用いると、はっ水性、耐油性、耐水性がより向上する。
【0032】
含フッ素共重合体(A)は、
単量体(a)として3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルメタクリレート、および3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルメタクリレートから選ばれる1種以上、
単量体(b)としてポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびポリオキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上、
単量体(c)としてN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、およびN,N−ジエチルアミノオキシドエチルメタクリレートから選ばれる1種以上を用いて重合させた含フッ素共重合体が好ましい。
【0033】
含フッ素共重合体(A)は、単量体(a)に基づく重合単位(a’)の70〜90質量%、単量体(b)に基づく重合単位(b’)の3〜20質量%、および単量体(c)に基づく重合単位(c’)の7〜25質量%を含むことが好ましい。
各重合単位の含有量のより好ましい範囲は、重合単位(a’)は72〜80質量%、重合単位(b’)は8〜16質量%、および重合単位(c’)は9〜18質量%である。
含フッ素共重合体(A)が上記他の単量体(d)に基づく重合単位(d’)を含む場合、該他の単量体(d)に基づく重合単位(d’)の含有割合は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
上記の範囲内であると、本発明の含フッ素共重合体を用いて処理された耐油紙において、良好な耐油性が得られる。また重合単位の組成が上記の範囲内である含フッ素共重合体(A)は紙との接着性に優れる。
本発明における各重合単位の含有割合は、含フッ素共重合体における重合開始剤および連鎖移動剤由来の重合単位の質量を0(ゼロ)とみなして、各単量体の仕込み量から求められる値である。
【0034】
含フッ素共重合体(A)の質量平均分子量(Mw)は5,000〜100,000が好ましく、20000〜90000がより好ましい。該質量平均分子量が上記範囲の下限値以上であると耐油性に優れ、上限値以下であると造膜性や液安定性に優れる。
本明細書における含フッ素共重合体(A)の質量平均分子量は、標準ポリメチルメタアクリレート試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定することによって得られるポリメチルメタアクリレート換算分子量である。
【0035】
<カチオン性含フッ素共重合体(A)の製造方法>
本発明における含フッ素共重合体(A)は、公知の方法を用いて、重合溶媒中で単量体の重合反応を行うことにより得られる。
また、単量体の重合反応により含フッ素共重合体(A)を得た後、該共重合体(A)中のアミノ基をアミン塩化することが好ましい。これにより該共重合体(A)の水性媒体への分散性が向上する。
アミン塩化には酸等を用いるのが好ましく、解離定数または一次解離定数が10−5以上である酸を用いるのがより好ましい。酸としては、塩酸、臭化水素酸、スルホン酸、硝酸、リン酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸または乳酸等が好ましく、酢酸がより好ましい。
また、酸を用いて含フッ素共重合体(A)のアミノ基をアミン塩化する代わりに、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、ベンジルクロライド、トリチルリン酸、メチルp−トルエンスルホン酸等を用いて第四級アンモニウム塩に変換(四級塩化ともいう。)してもよい。
【0036】
<組成物(I)>
本発明における組成物(I)はカチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する。組成物(I)は、含フッ素共重合体(A)を水性媒体に分散または溶解させたものが好ましい。該水性媒体は、水を含み、揮発性有機溶媒の含有量が1質量%以下である液体であればよく、具体的には水または水を含む共沸混合物が好ましい。
本明細書において、組成物(I)中の揮発性有機溶媒とは、該組成物(I)を常温で保存したときに揮発する有機溶媒を意味しており、具体的には1×10Paにおける沸点(以下、単に「沸点」という。)が100℃以下である有機溶媒である。なお、水と共沸混合物を作る溶媒は該揮発性有機溶媒には含まれないものとする。
【0037】
組成物(I)は各種添加剤を含有していてもよい。また紙力剤、サイズ剤、消泡剤、浸透剤など、紙の製造工程で用いられる公知の添加剤(本発明における両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)は含まない)を、必要に応じて含有させてもよい。
例えば、デンプン、カチオン変性デンプン、ヒドロキシエチル化デンプン、酸化デンプン、酵素変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアミドアミン、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン変性体、尿素またはメラミンホルムアルデヒドの縮合物または予備縮合物、メチロール−ジヒドロキシエチレン−尿素およびその誘導体、ウロン、メチロール−エチレン−尿素、メチロール−プロピレン−尿素、メチロール−トリアゾン、ジシアンジアミド−ホルムアルデヒドの縮合物などの樹脂、AKD、カチオン性アクリル樹脂、デンドリマー型アルコール系浸透剤、アセチレングリコール系浸透剤などの浸透剤;シリコーン系消泡剤、デンドリマー型アルコール系消泡剤、アセチレングリコール系消泡剤などの消泡剤が挙げられる。
【0038】
<耐油処理剤>
本発明の耐油処理剤は、前記組成物(I)と前記組成物(II)とからなる。該組成物(I)と該組成物(II)は別体でもよく、混合されていてもよい。好ましくは別体として用いる。
【0039】
<耐油紙の製造方法>
本発明の耐油紙の製造方法は、紙の構成材料に、耐油処理剤を添加する耐油処理工程を有する。本発明における耐油紙は、耐油処理された紙、板紙を含む概念である。
本発明において耐油処理剤が添加される紙の構成材料とは、パルプ、レーヨンなどセルロース系繊維を主成分とするものであり、その他に填料;分散媒;紙力剤、サイズ剤、消泡剤、浸透剤、凝結剤、歩留まり向上剤など、紙の製造工程で使用される公知の添加剤(本発明における両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)は含まない)等を必要に応じて含んでいてもよい。
パルプの種類としてはサルファイトパルプやクラフトパルプなどの晒し、未晒しの化学パルプや砕木パルプやサーモメカニカルパルプやメカニカルパルプ、リサイクルパルプなどが上げられる。耐油性の発現の面から、化学パルプが好ましい。
【0040】
耐油処理工程は、今回の発明においては、より優れた耐油性および通気性を達成するうえで抄紙工程のドライパートより前に耐油処理剤を添加する方法(内添)で行うことが好ましい。
【0041】
内添の場合、抄紙工程で紙層を形成する前のパルプスラリーに、組成物(I)および組成物(II)を添加する方法が好ましい。直接紙製容器を成型するパルプモールドでの内添も可能である。
このとき、組成物(I)と組成物(II)を予め混合した混合物を添加してもよく、組成物(I)と組成物(II)を別体として調製しておき、これらを同時に添加してもよく、一方を先に添加し、その後に他方を添加してもよい。
好ましくは、まず両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)を添加した後、カチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)を添加する。両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を先に添加すると、カチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)を効率よくパルプへ定着させることができる点で好ましい。
内添の場合、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)の添加量は、パルプスラリー中の乾燥パルプ質量に対して0.05〜1.0質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。0.05質量%未満であると十分な耐油効果が得られ難く、1.0質量%を超えると、薬剤コストの点や乾燥ドライヤーへの貼り付きなどが起こりやすい点で、好ましくない。
カチオン性含フッ素共重合体(A)の添加量は、パルプスラリー中の乾燥パルプ質量に対して0.3〜1.2質量%が好ましく、0.4〜0.7質量%がより好ましい。0.3質量%未満であると十分な耐油効果が得られ難く、1.2質量%を超えると、薬剤コストの点や乾燥ドライヤーからの剥離が起こりやすい点で、好ましくない。
【0042】
このようにして得られる本発明の耐油紙は、含フッ素共重合体(A)および両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有している。後述の実施例に示されるように、含フッ素共重合体(A)と両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を用いて耐油処理することにより、含フッ素共重合体(A)の使用量を多くしなくても、良好な耐油性が得られる。
すなわち、本発明によれば、含フッ素共重合体(A)に含まれるペルフルオロアルキル基が、従来よりも短鎖のペルフルオロアルキル基であるにもかかわらず、良好な耐油性を示す耐油紙を、製造工程における不都合を生じることなく製造できる。
したがって、例えば低坪量の薄紙や低坪量の耐油紙層を有する板紙にも充分な耐油性を付与することができる。
また後述の実施例に示されるように、耐油性の向上と同時に、紙の引張り強さも向上させることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
性能評価は、以下の方法で行った。
[耐油性:キット試験]
TAPPI T559cm−02法に準じた下記の方法でキット試験を行った。試験には、ひまし油、トルエンおよびノルマルヘプタンを表1に示す体積比で混合したキット溶液を使用した。試験の結果はキット番号で表し、数字が大きい方が耐油性に優れる。キット試験は、試験紙の耐油性の傾向をごく短時間(15秒間)で知ることができ、紙の耐油性の評価に広く用いられている。この評価結果は、紙の表面の表面張力に対する指標としての意味を持つ。
【0044】
まず試験紙を、汚れのない平らな黒色の表面に置き、キット番号12の混合溶液(キット溶液)の1滴を13mmの高さから試験紙上に滴下した。滴下した15秒後(接触時間:15秒間)、清潔な吸取り紙で滴下した混合溶液を除去し、混合溶液が接触した紙の表面を目視で観察した。表面の色が濃くなっていたら、キット番号11の混合溶液で同様の操作を行い、表面の色が濃くならないキット番号まで、キット番号を順次小さくしながら同様の操作を繰り返した。表面の色が濃くならない最初の(最も大きい)キット番号で評価する。
【0045】
【表1】

【0046】
[耐油性:大豆油試験]
より現実的な使用条件における評価を充分に行うために、汎用的な植物性食用油脂である「大豆油」に対する耐性を以下の方法で評価した。
まず、5cm×5cmの試験紙の上に大豆油の約0.5mLを滴下し、環境試験機を用いて60℃、65%RHで2時間保持した。環境試験機から取り出した後、試験紙上の大豆油を除去し、目視により大豆油の試験紙への染み具合を観察した。
染みた痕跡がないものを「○」、ところどころ染みた痕跡が残るものを「△」、大豆油と接触した形状に染みが残るものを「×」、試験紙の面積の半分以上に染み広がっているものを「××」、試験紙全体に染み広がっているものを「×××」の5段階で評価した。
【0047】
[乾燥引張り強さ]
JIS P 8113−98の規格に従って測定した。
【0048】
<調製例1:カチオン性含フッ素共重合体(A)の調製>
1Lのステンレス製反応容器に、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルメタクリレート(純度99.6%)114.0g、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート16.5g、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート18.0g、2,2’エチレンジ゛オキシジエチルジメタクリレート1.5g、アセトンの350gおよびジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)の1.2gを仕込み、窒素置換を3回繰り返した。撹拌回転数350rpmにて65℃で16時間重合反応を行い重合させた。固形分濃度30%の淡黄色溶液を得た。得られた共重合体の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで調べたところ質量平均分子量は80,000であった。
【0049】
得られた淡黄色溶液の100gに酢酸2gとイオン交換水120gを添加し、攪拌機で攪拌して乳化分散した。引き続き、減圧条件下にて温度65℃から95℃の範囲に加熱してアセトンを留去し、淡橙色透明な共重合体水分散液を得た。この水分散液をイオン交換水を用いて固形分濃度が20質量%である水分散液を調製した。。こうしてカチオン性含フッ素共重合体(A)を含む水分散液(組成物(I))を得た。
【0050】
<実施例1:内添加工紙の製造>
原料パルプとして、NBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)およびLBKP(広葉樹さらしクラフトパルプ)を用いた。
LBKP/NBKPの質量比が7/3となるように混合し、PFIミル(JIS P8221−2)によって叩解を行い、JIS P 8121のカナディアンスタンダードフリーネスによる叩解度が390c.s.fであるパルプスラリーを調製した。
次に、パルプ濃度を3%に調整したパルプスラリーに、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)として、FD−7290(製品名、星光PMC社製、共重合ポリアクリルアミド系樹脂、カチオン価0.85)を添加して撹拌した。この後、調製例1で得たカチオン性含フッ素共重合体(A)を含む水分散液(組成物(I))を添加して撹拌した。
パルプスラリー中のパルプ全体の乾燥パルプ質量を100質量%としたときの、両性ポリアクリルアミド系樹脂(表中、両性PAMと記載する。)(B)の添加量(固形分)およびカチオン性含フッ素共重合体(A)の添加量(固形分)の割合(単位:質量%)を表2に示す(表3も同様)。
こうして両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)およびカチオン性含フッ素共重合体(A)が添加されたパルプスラリーを用い、JIS P 8222の試験用手すき紙の調製方法に準じて坪量が約50g/mの紙を抄紙し、ドラムドライヤーを用いて105℃にて60秒間乾燥を行い、紙(内添加工紙)を得た。
得られた紙を試験紙として用い、上記キット試験および大豆油試験を行って耐油性を評価するとともに、乾燥引張り強さ(単位:N)を測定した。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例2〜4)
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)の添加量およびカチオン性含フッ素共重合体(A)の添加量を表2に示す通りに変更した他は、実施例1と同様にして紙(内添加工紙)を製造し、試験を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
(比較例1)
実施例3において、組成物(II)を添加しない他は同様にして、紙(内添加工紙)を製造し、試験を行った。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例2、4)
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含む組成物(II)に代えて、市販のカチオン性ポリアクリルアミド系樹脂(表中、カチオン性PAMと記載する。)を含む組成物(カチオン価1.76)または市販のアニオン性ポリアクリルアミド系樹脂(表中、アニオン性PAMと記載する。)を含む組成物を用いた他は、実施例3と同様にして、紙(内添加工紙)を製造し、試験を行った。結果を表3に示す。
【0055】
(比較例3、5)
両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含む組成物(II)に代えて、市販のカチオン性ポリアクリルアミド系樹脂(カチオン価1.76)を含む組成物または市販のアニオン性ポリアクリルアミド系樹脂を含む組成物を用いた他は、実施例4と同様にして、紙(内添加工紙)を製造し、試験を行った。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表2、3の結果より、実施例1〜4と比較例1を比較すると、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を添加することにより、耐油性が向上し、引張り強さも向上することがわかる。
カチオン性含フッ素共重合体(A)およびポリアクリルアミド系樹脂の添加量が互いに同等である、実施例3と比較例2、実施例4と比較例3とをそれぞれ比較すると、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を添加した実施例3,4は、カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂を添加した比較例2,3よりも、キット試験の評価は向上し、大豆油試験の結果は同等または向上しており、引張り強さも優れていた。
実施例1,2は、比較例2,3よりもカチオン性含フッ素共重合体(A)の添加量が少ないが、キット試験および大豆油試験は同等または実施例1,2の方が優れており、引張り強さは実施例1,2の方が優れていた。
アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂を添加した比較例4,5は、カチオン性含フッ素共重合体(A)を用いているにもかかわらず耐油性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記単量体(a)に基づく重合単位(a’)、下記単量体(b)に基づく重合単位(b’)および下記単量体(c)に基づく重合単位(c’)を含むカチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)と、両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)とからなることを特徴とする耐油処理剤。
単量体(a):(Z−Y)Xで表される化合物。ただし、式中Zは炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基またはC2m+1O(CFWCFO)CFK−(mは1〜6の整数、dは1〜4の整数、WおよびKはそれぞれ独立にフッ素原子またはトリフルオロメチル基。)で表される1価の基を表し、Yは、フッ素原子を含まない2価の有機基または単結合を表し、nは1または2であり、nが1のとき、Xは−CR=CH、−COOCR=CH、−OCOCR=CH、−OCH−φ−CR=CHまたは−OCH=CHを表し、nが2のとき、Xは−CH[−(CHCR=CH]−、−CH[−(CHCOOCR=CH]−、−CH[−(CHOCOCR=CH]−、または−OCOCH=CHCOO−を表し、Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子であり、φはフェニレン基であり、pは0〜4の整数である。nが2のとき、1分子内に存在する2つの(Z−Y)は互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
単量体(b):CH=CR−G−(RO)−Rで表される化合物。ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を表わし、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、qは1〜50の整数であり、Gは−COO(CH−または−COO(CH−NHCOO−(rは0〜4の整数、tは1〜4の整数。)を表わし、Rは水素原子、メチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基またはアリル基を表わす。
単量体(c):CH=CR−M−Q−NRまたはCH=CR−M−Q−N(O)Rで表される化合物。ただし、式中のRは水素原子またはメチル基を表わし、Mは−COO−または−CONH−を表わし、Qは炭素数2〜4のアルキレン基または水素原子の一部または全部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキレン基を表わし、R、Rはそれぞれ独立に、ベンジル基、炭素数1〜8のアルキル基または水素原子の一部が水酸基で置換された炭素数2〜3のアルキル基を表し、R、Rおよび窒素原子がピペリジノ基またはピロリジニル基を形成してもよく、R、R、酸素原子、窒素原子がモルホリノ基を形成してもよい。
【請求項2】
前記単量体(a)の(Z−Y)Xにおいて、Zが炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基であり、Yがフッ素原子を含まない2価の有機基であり、Xが−OCOCR=CHまたは−OCOCH=CHCOO−(Rは水素原子、メチル基またはハロゲン原子を表す。)である、請求項1に記載の耐油処理剤。
【請求項3】
前記カチオン性含フッ素共重合体(A)が、前記重合単位(a’)の70〜90質量%、前記重合単位(b’)の3〜20質量%、および前記重合単位(c’)の7〜25質量%を含む、請求項1または2に記載の耐油処理剤。
【請求項4】
紙の構成材料に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐油処理剤を添加する耐油処理工程を有することを特徴とする耐油紙の製造方法。
【請求項5】
前記耐油処理工程において、パルプスラリーに、前記両性ポリアクリルアミド系樹脂(B)を含有する組成物(II)、および前記カチオン性含フッ素共重合体(A)を含有する組成物(I)をこの順で添加する、請求項4に記載の耐油紙の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の耐油紙の製造方法を用いて製造される耐油紙。

【公開番号】特開2009−102771(P2009−102771A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276107(P2007−276107)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】