説明

耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルムとその積層壁材

【課題】 耐温水白化性が改良されたフィルムを提供し、該フィルムを用いて、温水に接する機会の多い積層壁材として要求される耐温水白化性を有するアクリル樹脂フィルム積層壁材を提供する。
【解決手段】 アクリル系樹脂からなるフィルムにおいて、その製造過程で発生するミクロボイドを低減することにより、特に長軸が500nm未満であるミクロボイドを低減することにより、良好な耐温水白化性を有するアクリル樹脂フィルムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレージ、窓枠など、温水に接する機会の多い壁材であって、特定のアクリル樹脂フィルムを積層することにより温水白化性を防止した壁材、および該用途に使用するアクリル樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガレージ、窓枠などの壁材としては、塩ビ鋼板といわれるような鋼板に軟質塩化ビニルをラミネートしたもの、あるいは、繊維強化樹脂(FRP)製の成形パネルなどが使用されている。これら壁材の最表面には、一般的に、ジアリルフタレート樹脂やポリエステル樹脂のような熱硬化性樹脂により、あるいは塗装により、クリア層が形成されている。
【0003】
一方、最近では、手頃な価格で、取り扱いやすく、意匠性に優れた積層壁材のニーズが高まっている。これらの積層壁材は、クリア層または印刷層を施した熱可塑性樹脂フィルムを基材に容易に貼り付けたものである。これらの中でも、フィルム素材として、アクリル系樹脂は透明性および耐候性に優れ、種々の材料にラミネートすることにより、基材の劣化を防止したり、美観を維持したりできることから、広く用いられている。
【0004】
従来のガレージ、窓枠などに使用されるクリア層が形成された壁材には、以下のような課題があった。すなわち、ガレージ、窓枠など、温水に接する機会の多い壁材は、使用の際に水または温水が直接接触することにより、アクリル系樹脂フィルムが白化するという課題があった。耐温水白化性を改良する方法として、アクリル樹脂フィルム中に残存するカルシウム量を所定範囲内に調整する方法(特許文献1参照)、水溶性物質の含有量が200ppm以下とする方法(特許文献2)、等がなされているが、耐温水白化性の改良効果としては不十分であった。
【特許文献1】特開2000−191804
【特許文献2】特開2003−277528
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、温水に接する機会の多い積層壁材に使用されるアクリル樹脂フィルムにおいて、耐温水白化性が改良されたフィルムを提供し、さらには、該フィルムを用いて、温水に接する機会の多い積層壁材として要求される耐温水白化性を有するアクリル樹脂フィルム積層壁材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記した従来技術に鑑み、耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルムを開発すべく鋭意研究を行った結果、アクリル系樹脂組成物からなるフィルムにおいて、その製造過程で発生するミクロボイドを低減することにより、特に長軸が500nm未満であるミクロボイドを低減することにより、良好な耐温水白化性を有するアクリル樹脂フィルムが得られることを見出した。この知見を基に、さらに種々の検討を加えて、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
アクリル系樹脂組成物を成形してなるフィルムであって、フィルム中に含有される長軸が500nm未満であるミクロボイドが30個/400μm以下であることを特徴とする、耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム(請求項1)、
フィルムの厚みが20〜600μmであることを特徴とする、請求項1記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム(請求項2)、
フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物のガラス転移点が、65℃以上100℃未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム(請求項3)、
アクリル系樹脂組成物が、ゴム弾性体粒子を含有し、ゴム弾性体粒子の平均粒子径が10nm以上300nm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム(請求項4)、
請求項1〜4のいずれかに記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルムが、基材に積層されてなることを特徴とする、積層壁材(請求項5)、
アクリル系樹脂フィルムの片面に印刷が施され、該印刷が施された面を基材に積層してなる請求項5記載の積層壁材(請求項6)および
アクリル系樹脂フィルムが積層される基材表面に印刷が施された請求項5記載の積層壁材(請求項7)
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、窓枠、ガレージなど、温水に接する機会の多い壁材の表面材として有用であり、該樹脂フィルムを基材に積層した壁材は、温水との接触による白化を起こすことなく、光沢に優れた意匠性を保ち、壁材として要求される品質を長期間にわたって満たすものとなる。また、クリア塗装により表面を形成する場合に比べ、工程を簡略化でき、低コストで製品を製造することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂組成物を成形してなるアクリルフィルム中に含有される、長軸が500nm未満であるミクロボイドを低減することにより、温水接触時の白化を抑制できるフィルムである(以降、「耐温水白化性に優れる」と表記する場合がある)。
【0011】
なお、ミクロボイドの長軸とは、後述する、アクリル系樹脂フィルムを四酸化ルテニウムによる蒸気染色法にて処理した後、撮影した透過型電子顕微鏡写真中での、不定形の白色粒子における最大径を、ノギスを用いて測定した値である。
【0012】
本発明におけるアクリル系樹脂組成物としては、後述するように、メタクリル系樹脂に対してゴム粒子を分散させる樹脂組成物が、耐折り曲げ白化の点から、好ましい。
【0013】
本発明におけるアクリル樹脂フィルム中に含有される、長軸が500nm未満であるミクロボイドは、好ましくは30個/400μm以下であり、より好ましくは20個/400μm以下であり、さらに好ましくは10個/400μm以下であり、特に好ましくは5個/400μm以下である。長軸が500nm未満であるミクロボイドが30個/400μmを超える場合には、温水接触時の白化が顕著となる傾向がある。
【0014】
他方、長軸が500nm以上であるミクロボイドが、アクリル樹脂フィルム中に含有される場合には、フィルムの透明性が損なわる傾向がある。
【0015】
本発明においては、アクリル樹脂フィルム中の含有されるミクロボイドは、四酸化ルテニウムによる蒸気染色法により定量することができる。
【0016】
すなわち、四酸化ルテニウムの蒸気染色法により染色したフィルムの透過型電子顕微鏡写真を用いて評価することができる。四酸化ルテニウムによる蒸気染色法とは、フィルム断面(厚み方向)をトリミング、面出したブロック、超薄切片を2%四酸化ルテニウム水溶液の入った染色瓶の口に密着させて固定し、染色を実施する方法である。染色度合いは透過型電子顕微鏡で確認しながら、染色時間を設定する。ゴム粒子が染色されると、ミクロボイドとの判別が難しくなる為、染色時間は15分以下とすることが好ましく、5分以下とすることがより好ましい。
【0017】
蒸気染色後のフィルムを、透過型電子顕微鏡を用いて、倍率は10000倍にて撮影する。得られた写真より、400μm面積中に存在する長軸が500nm未満のミクロボイド数を算出する。なお、得られた透過型電子顕微鏡写真のミクロボイドは白色粒子として現れ揮発性物質(低分子量分解物、空気・水分、等)の気化に起因するボイドである。この時の透過型電子顕微鏡写真では、ゴム粒子は染色されていない状態である。
【0018】
本発明者らは、検討の結果、アクリル樹脂フィルムのミクロボイドが、温水に接触することにより膨張し、すなわち、その長軸が大きくなり、その結果として、該アクリル樹脂フィルムが白化することを見出した。
【0019】
本発明における温水接触試験後のミクロボイドとしては、長軸が500nm以上のミクロボイドが、3個/400μm以下であることが好ましく、1個/400μm以下であることがより好ましい。温水接触試験後における長軸が500nm以上のミクロボイドが3個/400μm超である場合には、フィルムが白化する傾向がある。
ここで、温水接触試験とは、フィルムを80℃のイオン交換水中に4時間浸漬した後、フィルム表面に付着した水滴を取り除き、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境下に1時間静置するものである。
【0020】
本発明において、アクリル樹脂フィルム中に含有されるミクロボイドを低減する方法は、特に限定されないが、次の方法が好ましく用いられる。
【0021】
本発明において、アクリル樹脂フィルム中に含有されるミクロボイドを低減するには、ペレット製造時の熱分解で発生する低分子量分解物を十分に除去することが好ましい。該低分子量分解物は、非水溶性物質であるため水洗による除去が難しく、押出成形時のベントによる吸引除去が有効である。
【0022】
本発明において、アクリル樹脂フィルム中に含まれるミクロボイドを低減するには、混入した空気や水分を十分に除去することも好ましい。混入した空気や水分の除去に対しても、押出成形時のベントによる吸引除去が有効である。その際の押出成形機のL/D(シリンダ長/スクリュー径)は長いほど背圧が掛かり、吸引除去が効率的となる。
【0023】
ベントによる吸引除去では、スクリューの供給量と押出量のバランスが崩れると、その間に存在するベント孔に樹脂が析出し、吸引除去が実施できない状況となるため、このバランスを一定に保つことが重要となる。押出機にベント孔を2箇所以上設置することが有用であり、2箇所設置した場合は、ベント孔間のゾーンを効率良く吸引することができる。
【0024】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、20〜600μmが好ましく、30〜200μmがより好ましい。フィルムの厚みが20μm以上であると、十分な表面硬度を得ることができるため、好ましい。一方、厚みが600μm以下であると、剛性が増すことにより基材との積層が加工しやすくなるため、好ましい。
【0025】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの曇価(ヘイズ)は、10%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。ここで、曇価(ヘイズ)は、JIS K7136に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて測定した値である。
【0026】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの温水接触試験後の曇価(ヘイズ)は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。ここで、温水接触試験後の曇価(ヘイズ)とは、フィルムを80℃のイオン交換水中に4時間浸漬した後、フィルム表面に付着した水滴を取り除き、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境下にて1時間静置した後に測定した値である。
【0027】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度は、3B以上が好ましく、2B以上がより好ましい。
【0028】
本発明におけるアクリル系樹脂組成物のガラス転移点は特に限定されないが、65℃以上100℃未満が好ましく、80℃以上98℃以下がより好ましい。積層壁材用途に用いられるフィルムは、ラミネート加工で複雑な形状に張り合わせるため、フィルムを折り曲げる必要があり、アクリル系樹脂組成物のガラス転移点が高いものは応力白化、割れが発生しやすい傾向がある。そのため、アクリル系樹脂組成物のガラス転移点を上記範囲とすることにより、表面硬度および基材との密着加工性を優れたものとすることができる。ガラス転移点が100℃未満であると、柔軟性が増すことにより基材との積層加工が実施しやすくなるため、好ましい。一方、アクリル系樹脂組成物のガラス転移点が65℃ 以上であると、十分な表面硬度を得ることができるため、好ましい。
【0029】
本発明のアクリル系樹脂組成物に分散させるゴム粒子については、特に限定されないが、その平均粒子径が0.01〜0.3μmの範囲にあるのが好ましく、0.01〜0.2μmの範囲にあるのがより好ましく、0.03〜0.1μmの範囲にあるのがさらに好ましい。ゴム粒子の平均粒子径が上記範囲にあると、耐衝撃性が高く、表面硬度に優れ、表面平滑なフィルムを得ることができる。ゴム粒子の平均粒子径が0.01μm未満であると、フィルムの表面硬度が低下し、また、フィルムが脆くなる傾向がある。一方、平均粒子径が0.3μmを超えると、フィルムの透明性を損なう傾向がある。なお、ゴム粒子の平均粒子径は、後述する乳化重合における界面活性剤の添加量や、単量体の仕込み量などを調節することにより、調整することができる。
【0030】
本発明におけるゴム粒子は、例えば、アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、架橋性単量体を含有する単量体混合物(b)を乳化重合法等により、少なくとも一段の反応で重合させて得られる弾性共重合体(B)の存在下、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(a)を乳化重合法等により、少なくとも一段の反応で重合させて製造することができる。このような複数段階の重合により、後段で用いるメタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物(a)は弾性共重合体(B)にグラフト共重合され、グラフト鎖を有する架橋弾性体含有グラフト共重合体(G)が生成される。すなわち、本発明におけるゴム粒子は、アクリル酸アルキルを主成分とする弾性共重合体を含む多層構造を有するグラフト共重合体(G)となる。
【0031】
上記ゴム粒子において、弾性共重合体(B)を構成するための単量体混合物(b)に用いられるアクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が1〜8のアルキル基を有するものが挙げられ、なかでも、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルのような、アルキル基の炭素数4〜8のものが好ましい。ここで、アクリル酸エステルを主成分とするとは、単量体混合物(b)全体を100重量%とした場合、50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上である。
【0032】
弾性共重合体(B)を構成するための単量体混合物(b)において、必要に応じて用いられるアクリル酸エステルに対して共重合可能な他のビニル系単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を1個有する単官能の化合物であり、具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルのようなメタクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが挙げられる。
【0033】
弾性共重合体(B)を構成するための単量体混合物(b)に用いられる共重合性の架橋性単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有するものであればよく、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートのような多塩基酸のポリアルケニルエステル、トリメチロールプロパントリアクリレートのような多価アルコールの不飽和カルボン酸エステル、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。
【0034】
ゴム粒子においてグラフト共重合される単量体混合物(a)に用いられるメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のアルキル基の炭素数が1〜4のものが挙げられるが、なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。ここで、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とするとは、単量体混合物(a)全体を100重量%とした場合、50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上である。
【0035】
単量体混合物(a)において必要に応じて用いられる、メタクリル酸エステルに対して共重合可能な他のビニル系単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を1個有する単官能の化合物であり、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルのような炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸エステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが挙げられる。
【0036】
ゴム粒子の後段の重合においては、単量体混合物(a)のうち、架橋弾性体(B)にグラフト反応せずに未グラフトの重合体となる成分が生じる。該成分は、後述するメタクリル系樹脂の一部または全部を構成する。
【0037】
ゴム粒子の後段の重合においては、好適なガラス転移温度を得るため、または、好適なフィルムへの成形性を示す還元粘度を得るために、重合時に連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成に応じて、適宜決定すればよい。
【0038】
本発明におけるメタクリル系樹脂は特に限定されないが、より具体的には、炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体混合物を重合することにより得られるメタクリル系共重合体であることが好ましい。
【0039】
メタクリル系樹脂を生成する単量体混合物に用いられるメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のアルキル基の炭素数が1〜4のものが挙げられるが、なかでも、メタクリル酸メチルが好ましい。ここで、メタクリル酸エステルを主成分とするとは、単量体混合物全体を100重量%とした場合、50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上である。
【0040】
メタクリル系樹脂を生成する単量体混合物において必要に応じて用いられる、メタクリル酸アルキルエステルに対して共重合可能な他のビニル系単量体は、1分子内に重合性炭素−炭素二重結合を1個有する単官能の化合物であり、具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルのような炭素数1〜8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、スチレンのような芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルのようなビニルシアン化合物などが挙げられる。
【0041】
本発明におけるメタクリル系樹脂の重合方法は特に限定されず、通常の懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の方法で行うことができる。
【0042】
メタクリル系樹脂の重合においては、好適なガラス転移温度を得るため、または、好適なフィルムへの成形性を示す還元粘度を得るために、連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成に応じて、適宜決定すればよい。
【0043】
本発明におけるゴム粒子またはメタクリル系樹脂の乳化重合や懸濁重合においては、通常の重合開始剤が使用することができる。重合開始剤の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独で使用してもよいしまたは、2種以上を併用してもよい。これらの開始剤は、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、アスコルビン酸、ヒドロキシアセトン酸、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウムの錯体などの還元剤と組み合わせた、通常のレドックス型開始剤として使用してもよい。
【0044】
前記重合に使用される界面活性剤にも特に限定はなく、通常の乳化重合用の界面活性剤であれば使用することができる。界面活性剤の具体例としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物などの非イオン性界面活性剤などが示される。これらの界面活性剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。
【0045】
上記のような重合法により得られるゴム粒子またはメタクリル系樹脂の重合体ラテックスから通常の凝固と洗浄により、またはスプレー、凍結などによる処理により樹脂組成物が分離、回収される。
【0046】
本発明におけるアクリル系樹脂組成物中のゴム粒子の含有量としては、メタクリル系樹脂およびゴム粒子の合計量を100重量%とした場合、5〜65重量%の範囲が好ましく、15〜60重量%の範囲がより好ましく、20〜60重量%の範囲がさらに好ましい。ゴム粒子の含有量が5重量%未満では、耐折り曲げ白化性が低下する傾向がある。ゴム粒子の含有量が65重量%を超えると、耐熱性が低下したり、ブロッキングを生じたりしてフィルムの表面が不均一になる傾向がある。
【0047】
本発明におけるアクリル樹脂中にゴム粒子が分散したアクリル樹脂フィルムは、通常の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、有機系染料、顔料、無機系色素、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などを含有してもよい。
【0048】
なかでも、紫外線吸収剤は、耐候性を向上させる上で、好ましく用いられる。
【0049】
本発明における紫外線吸収剤としては、例えば、一般に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤などが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤として、具体的には、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどが例示される。2−ヒドロキシベンゾフェノン系紫外線吸収剤として、具体的には、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、 2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロロベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノンなどが例示される。また、サリチル酸フェニルエステル系紫外線吸収剤として具体的には、p−tert−ブチルフェニルサリチル酸エステル、p−オクチルフェニルサリチル酸エステルなどが例示される。 これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0050】
本発明において、紫外線吸収剤を配合する場合、その配合量は、メタクリル樹脂およびゴム粒子の合計100重量部に対して、通常0.1〜3重量部以上であり、好ましくは0.3〜3重量部である。
【0051】
本発明においては、以上説明したメタクリル樹脂およびゴム粒子を混合し、必要に応じて、その他の添加剤を配合したアクリル系樹脂組成物をフィルム化することにより、アクリル樹脂フィルムが製造される。
【0052】
本発明におけるアクリル樹脂フィルムの製造法としては、溶融流延法、Tダイ法やインフレーション法のような溶融押出法、カレンダー法など、いずれの方法を用いてもよい。これらのなかでも、上記アクリル系樹脂組成物を、例えば、Tダイから溶融押出し、得られるフィルム状物の少なくとも片面をロールまたはベルトに接触させて製膜する方法は、表面性状の良好なフィルムが得られる点で好ましい。とりわけ、フィルムの表面平滑性および表面光沢性を向上させる観点からは、上記アクリル系樹脂組成物を溶融押出成形して得られるフィルム状物の両面をロール表面またはベルト表面に接触させてフィルム化する方法が好ましい。この際に用いるロールまたはベルトは、いずれも金属製であるのが好ましい。さらに、ロールは、その表面が鏡面となっているものが好ましい。したがって、好ましい形態として、上記メタクリル樹脂およびゴム粒子を含有するアクリル系樹脂組成物をTダイから溶融押出した後、少なくとも1本の鏡面ロールに接触させて、より好ましくは2本の鏡面ロールに接触させて挟み込んだ状態で、製膜する方法が挙げられる。
【0053】
本発明のアクリル樹脂フィルムは着色されていてもよい。着色法としては、メタクリル樹脂とゴム粒子との樹脂組成物自体に顔料または染料を含有させ、フィルム化前の樹脂組成物自体を着色する方法、染料が分散した液中にアクリル樹脂フィルムを浸漬して着色させる染色法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0054】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その少なくとも一方の面に、絵柄などの印刷を施したり、着色層を設けたりして、意匠層を形成することもできる。これらの意匠層は、深みのある外観を与えるうえで、積層壁材を構成する基材と接する側に施すのが好ましい。
【0055】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その片面に他の熱可塑性樹脂からなる層が少なくとも1層積層されていてもよい。アクリル樹脂フィルムの片面に印刷や着色などの意匠層を有している場合は、その面に他の樹脂を積層することになる。
【0056】
他の熱可塑性樹脂との積層一体成形法としては、例えば、アクリル樹脂フィルムおよび熱可塑性樹脂をそれぞれ別個に、予めフィルム状に成形しておき、加熱ロール間で連続的にラミネートする方法、プレスで熱圧着する方法、圧空または真空成形すると同時に積層する方法、接着層を介在させてラミネートする方法(ウェットラミネーション)、予め成形した一方の樹脂フィルムを、Tダイから溶融押出しされたもう一方の樹脂をラミネートする方法などが挙げられる。これらの方法を用いる場合、フィルム状に成形されたアクリル系樹脂は、もう一方の熱可塑性樹脂基材と貼合される側の面に、例えば、コロナ処理などが施されてもよいし、接着層が設けられてもよい。また、印刷が施された別の熱可塑性樹脂フィルムを積層することもできる。ポリ塩化ビニル樹脂など、アクリル樹脂と相溶性の高い樹脂フィルムは、アクリル樹脂フィルムと直接積層すればよい。また、ポリオレフィン樹脂など、アクリル樹脂とは非相溶な樹脂は、アクリル樹脂フィルムとの接着剤が必要となるので、ドライラミネート等の手法を採るとよい。なお、片面に積層される他の熱可塑性樹脂を着色しておき、アクリル樹脂フィルムは無色透明のままで、着色樹脂側に積層壁材の基材が貼合成形されるようにすれば、深み感のある着色状態を呈する優れた加飾部材とすることができる。
【0057】
アクリル樹脂フィルムとの積層に適した熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂などが挙げられる。
【0058】
以上説明した本発明のアクリル樹脂フィルムを基材に積層することにより、ガレージ、窓枠など、温水に接する機会の多い屋外に有効な、アクリル積層壁材が得られる。
【0059】
前記積層壁材に色柄などの意匠性を付与するためには、加飾されたアクリル樹脂フィルムを予め準備することにより、積層壁材を作製する際の工程数を短縮すると共に、深みのある透明感を達成することができる。例えば、アクリル樹脂フィルムの片面に印刷を施し、接着層を介して、あるいは介さずに、その印刷を施した面側で基材に積層する方法;アクリル樹脂フィルムの片面に、印刷を施した別のフィルムを積層し、接着層を介して、あるいは介さずに、印刷を施した別のフィルム側で基材に積層する方法;アクリル樹脂フィルムの片面に塗装を施し、接着層を介して、あるいは介さずに、塗装を施した面側で基材に積層する方法などが採用できる。
【0060】
積層壁材を構成する基材としては、ロックウールボード、ケイ酸カルシウム板、プラスチック系の板、鋼板、発泡ウレタンを鋼板で挟んだ構造のサンドイッチ材など、従来より知られている各種のものを使用することができる。
【0061】
こうして得られる積層壁材は、その最表層に本発明のアクリル樹脂フィルムが積層された状態となり、耐温水白化性に優れることはもとより、深み感、表面硬度など、意匠性にも優れたものとなる。
【0062】
これらの積層壁材は、浴室、台所、洗面所、トイレ、自動車外装などの温水に接する機会の多い用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す「%」および「部」は、特記のない限り、「重量%」および「重量部」基準である。
【0064】
また、(略語の説明)
BA:アクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
CHP:クメンハイドロパーオキサイド
tDM:ターシャリドデシルメルカプタン
AlMA:メタクリル酸アリル
OSA:ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム
【0065】
本発明における評価方法は、以下のとおりである。
【0066】
(重合転化率の評価)
得られたアクリル樹脂組成物(G)ラテックスを、熱風乾燥機内にて120℃で1時間乾燥して固形分量を求め、重合転化率(%)=100×固形分量/仕込み単量体(%)により算出する。
【0067】
(ラテックスの平均粒子径の評価)
得られたアクリル樹脂組成物(G)ラテックスを固形分濃度0.02%に希釈したものを試料として、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて、分光光度計(HITACHI製、Spectrophotometer U−2000)を用いて546nmの波長での光線透過率より、平均粒子径を求める。
【0068】
(水分量の測定)
水分量の測定は、JIS K0113(電位差・電流・電量・カールフィッシャー滴定方法通則)に従って、水分量を測定する。
【0069】
(ガラス転移点の評価)
サンプルフィルムのガラス転移点の測定は、JIS K7121に規定される方法に準拠して測定される。
【0070】
(フィルムのヘイズ値の評価)
得られたフィルムの透明性は、JIS K7136に準じて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%にて、ヘイズ(曇価)を測定した。
【0071】
(フィルムの表面性)
得られたフィルムの表面性評価は、次の基準に従った。
○:表面が均一でダイライン、フィッシュ・アイ認められず良好。
△:表面が不均一で、ダイライン、ヤケ、フィッシュ・アイ等が認められる。
×:表面が不均一で、ダイライン、ヤケ、フィッシュ・アイ等が著しい。
【0072】
(耐温水白化の評価)
得られたフィルムを80℃のイオン交換水中に4時間浸漬し、フィルム表面に付着した水滴を取り除き、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境下に 1時間静置した後、 JIS K7136に従って、ヘイズ(曇価)を測定する。
【0073】
(フィルム中のミクロボイド存在率の評価)
ミクロボイドの評価は、四酸化ルテニウムの蒸気染色による透過型電子顕微鏡写真で評価する。
四酸化ルテニウムによる蒸気染色法は、フィルム断面(厚み方向)をトリミング、面出したブロックである超薄切片(膜厚80nm)を2%四酸化ルテニウム水溶液の入った染色瓶の口に密着させて固定し、染色を実施する。染色度合いは透過型電子顕微鏡で確認しながら、染色時間を設定する。ゴム粒子が染色されると、ミクロボイドとの判別が難しくなる為、染色時間は5分以下とする。
蒸気染色後の超薄切片を、コロジオン膜貼付メッシュ(日新EM株式会社製、カーボン補強処理品)に固定した後、透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、JEM−1200EX)を用いて、加速電圧80kV、倍率10000倍にて撮影した。得られた写真より、400μm面積中のミクロボイドの長軸を測定し、その数を算出する。
なお、得られた透過型電子顕微鏡写真(図1および図2参照)のミクロボイドは、白色粒子であり、白色粒子は揮発性物質の気化によるボイドである。この時の透過型電子顕微鏡写真では、ゴム粒子は染色されていない状態である。
さらに、ミクロボイドの長軸とは、上記透過型電子顕微鏡写真中での、不定形の白色粒子における最大径を、ノギスを用いて測定した値である。
【0074】
(鉛筆硬度の評価)
得られたフィルムの鉛筆硬度を、JIS K5600−5−4に準じて測定した。
【0075】
(フィルムの耐折り曲げ白化/割れの評価)
得られたフィルム(長さ300mm×幅100mm)を、0℃にて90度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
[白化]
○:白化が認められない。
×:白化が認められる。
[割れ]
○:割れが認められない。
×:割れが認められる。
【0076】
(積層材の耐折曲げ白化/割れの評価)
得られたフィルム(長さ300mm×幅100mm)を、0.5mm厚さの鋼板(長さ300mm×幅100mm)に、接着剤[主剤としてのタケラックA695および硬化剤としてのタケネートA95(いずれも三井タケダケミカル社製)を質量比で6:10(主剤:硬化剤)で配合したもの]を用いて、貼り合せたサンプルを得た。
得られたサンプルを、フィルム面を外側にして0℃にて90度折り曲げて、折り曲げ部の変化を目視で評価した。
[白化]
○:白化が認められない。
×:白化が認められる
[割れ]
○:割れが認められない。
×:割れが認められる。
【0077】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、以下のアクリル樹脂粉末物(G)の製造工程、ブレンド工程、ペレット化工程、フィルム化工程を経て、作製した。
【0078】
[アクリル系樹脂粉末の製造工程]
(製造例1)アクリルアクリル樹脂粉末物(G−1)の製造
攪拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
イオン交換水 200部
ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム(OSA) 0.6部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.15部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.001部
硫酸第一鉄 0.00025部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、表1中(製造例1)に示した混合物(b−1)[すなわち、BA10%およびMMA90%からなる混合物100部に対しAlMA1部およびCHP0.2部からなる混合物30部]を10部/時間の割合で連続的に添加し、添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、重合転化率は99.5%であった。
その後、表1中(製造例1)に示した混合物(b−2)[すなわち、BA50%およびMMA50%からなる混合物100部に対しCHP0.1部からなる混合物30部]を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル酸エステル系架橋弾性体粒子(B)を得た。重合転化率は98.7%であった。
その後、内温を80℃にし、表1中(製造例1)に示した混合物(a−2)[すなわち、BA10%およびMMA90%からなる混合物100部に対しtDM0.1部からなる混合物40部]を10部/時間の割合で連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、アクリル樹脂組成物(G)を得た。重合転化率は98.0%であった。
得られたラテックスを塩化カルシウム水溶液で塩析、凝固し、水洗、乾燥してアクリル樹脂粉末(G−1)を得た。
【0079】
(製造例2〜3)
製造例2〜3は、単量体混合物の組成および界面活性剤量を表1のように変更した以外は、製造例1と同様に重合を行い、凝固、水洗、乾燥してアクリル樹脂粉末(G−2)〜(G−3)を得た。
【0080】
【表1】

【0081】
[ブレンド工程]
得られたアクリル樹脂粉末(G−1)100部に対して、紫外線吸収剤としてチヌビンP(チバスペシャリルケミカル社製)2部を添加し、スーパーミキサーを用いて均一混合し、パウダー混合物(P−1)を得た。
パウダー混合物(P−2)〜(P−3)については、表2のようにアクリル樹脂粉末種を変更した以外は、P−1と同じ手順で、スーパーミキサーで均一混合し、パウダー混合物を得た。
パウダー混合物(P−4)に関しては、製造例2で得られたアクリル樹脂粉末(G−2)20部およびメタクリル系樹脂(住友化学工業(株)製、スミペックスMM、MMA/EA=94/6(重量比)、ビースタイプ)80部に対して、チヌビンP2部を添加し、スーパーミキサーを用いて均一混合して、パウダー混合物を得た。
パウダー混合物(P−5)に関しては、製造例1で得られたアクリル樹脂粉末(G−1)95部およびゴム粒子((株)カネカ製、カネエースM−210、弾性重合体の粒子径350nm)5部に対して、チヌビンP2部を添加し、スーパーミキサーを用いて均一混合して、パウダー混合物を得た。
【0082】
【表2】

【0083】
[ペレット工程]
得られた未乾燥のパウダー混合物(P−1)〜(P−5)を、ベント付き40mmφ単軸押出機(L/D=30)を用いて、シリンダ温度を240℃、滞留時間7分間の条件にて溶融混練を行い、ペレット化し、アクリル樹脂系ペレット(D)を得た。
(D−1)〜(D−5)のペレット押出時については、揮発成分が除去可能なベントからの吸引(ベントの真空度、0.93MPa)を実施した。それ以外の(D−6)〜(D−10)のペレット押出時については、ベントからの吸引は実施していない。
なお、未乾燥のパウダー混合物は吸湿しており、3000〜4000ppmの水分量であった。
【0084】
【表3】

【0085】
[フィルム化工程]
得られたアクリル樹脂系ペレット(D)が吸湿しないように、引続き、40mmφ単軸押出機を用いて、設定温度205℃のT型ダイを介して押し出し、表4に示す各膜厚のアクリル樹脂フィルム(F)を得た。
得られたフィルムの特性を評価し、その結果を表4に示した。
【0086】
【表4】

【0087】
(実施例1〜6)
実施例1〜6は、ペレット工程においてベント吸引により揮発成分除去を実施して作製したペレットを使用したフィルムである。
実施例1〜6では、長軸500μm未満のミクロボイドの存在率が少なく、温水白化試験後のフィルムのヘイズ値が小さい。また、温水白化試験後のフィルム中には、長軸が500μm以上のミクロボイドがほとんど存在しない。
【0088】
(比較例1〜5)
比較例1〜5は、ペレット工程においてベント吸引により揮発成分除去を実施せずにして作製したペレットを使用したフィルムである。
比較例では、長軸500μm未満のミクロボイドが多く、温水白化試験後のフィルムのヘイズ値が大きい。また、温水白化試験後のフィルム中には、長軸が500μm以上のミクロボイドが多く存在した。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施例1で得られたアクリル樹脂フィルムの超薄切片に対して、四酸化ルテニウム蒸気染色法により染色したサンプルの、透過型電子顕微鏡写真(倍率:1万倍、写真1)を示す。
【図2】比較例1で得られたアクリル樹脂フィルムの超薄切片に対して、四酸化ルテニウム蒸気染色法により染色したサンプルの、透過型電子顕微鏡写真(倍率:1万倍、写真2)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂組成物を成形してなるフィルムであって、フィルム中に含有される長軸が500nm未満であるミクロボイドが30個/400μm以下であることを特徴とする、耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
フィルムの厚みが20〜600μmであることを特徴とする、耐温水白化性に優れた請求項1記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物のガラス転移点が、65℃以上100℃未満であることを特徴とする、請求項1または2記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
アクリル系樹脂組成物が、ゴム弾性体粒子を含有し、ゴム弾性体粒子の平均粒子径が10nm以上300nm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の耐温水白化性に優れたアクリル樹脂フィルムが、基材に積層されてなることを特徴とする、積層壁材。
【請求項6】
アクリル樹脂フィルムの片面に印刷が施され、該印刷が施された面を基材に積層してなることを特徴とする、請求項5記載の積層壁材。
【請求項7】
アクリル系樹脂フィルムが積層される基材表面に印刷が施されてなることを特徴とする、請求項5記載の積層壁材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−73984(P2009−73984A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245653(P2007−245653)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】