耐滑靴底
【課題】耐滑性、耐久性を良好に維持でき、且つ作業靴の履き心地を向上することができる耐滑靴底を提供する。
【解決手段】靴の底面に接合されるミッドソール20と、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠31を有するアウトソール30とを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であり、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックの発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部32が設けられていることを特徴とする。
【解決手段】靴の底面に接合されるミッドソール20と、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠31を有するアウトソール30とを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であり、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックの発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部32が設けられていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全靴等の靴底に用いられて、例えば、水、油等による滑りを抑えた耐滑靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、飲食店の厨房等では、床面に水や油等が付着して滑りやすくなっていることが多い。このため、このような場所で使用する作業靴としては、これら水や油等による滑りを防止した耐滑靴底、すなわち、耐滑性の高い耐滑靴底を用いたものが使用されている。
【0003】
耐滑性を向上させるための構造としては、例えば、靴底接地部の硬さを規定すると共に、この靴底接地部に設けられるブロック意匠の形状、例えば、高さ及び勾配等を規定し、且つこれらブロック意匠が陥没しにくく、かつ、倒れにくいような強度を有するように靴底の最薄部の厚さ等を規定したものがある(例えば、特許文献1参照)。またその他の構造として、例えば、所定形状の複数のブロック意匠を有する靴底接地部(アウトソール)と、このアウトソールと同等以上の硬さを有する中底又はミッドソールとの2層底としたものがある(例えば、特許文献2参照)。靴底をこのような構造とすることで、耐滑性を向上することはできる。
【0004】
しかしながら、このような構造の耐滑靴底は、靴底全体の剛性が比較的高くなってしまうため、作業靴としたときの履き心地がわるいという問題がある。また、耐滑靴底を構成する靴底接地部等を比較的硬度の低い材料で形成すれば、靴底全体の剛性が低下して履き心地のよい作業靴を製造することはできるが、十分な耐滑性が得られないという問題や、耐久性が大幅に低下してしまうという問題が発生してしまう。
【0005】
【特許文献1】特許第3451205号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−165607号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、耐滑性、耐久性を良好に維持でき、且つ作業靴の履き心地を向上することができる耐滑靴底を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、靴の底面に接合されるミッドソールと、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠を有するアウトソールとを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であって、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックを発泡させた発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記ブロック意匠は、先端面が平滑であって側面との間に角が形成されるとともにその側面が座面に対して実質的な垂直面となるように設けられ、且つ当該ブロック意匠の少なくとも前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部が設けられていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0008】
かかる第1の態様では、靴底全体の剛性が低下するが、各ブロック意匠の剛性は確保される。したがって、耐滑性、耐久性を良好に維持しつつ、靴底全体の柔軟性を向上でき、作業靴としたときの履き心地がよくなる。同時に靴底全体の重量が確実に減少する。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記補強部の表面が平面となっていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0010】
かかる第2の態様では、補強部によってブロック意匠の剛性が確実に向上する。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記補強部の前記ブロック意匠側の高さが、前記ブロック意匠の高さの20%以上50%以下であることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0012】
かかる第3の態様では、耐滑性を確保しつつブロック意匠の耐久性も確保することができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記補強部表面の座面に対する傾斜角度が30°〜60°であることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0014】
かかる第4の態様では、補強部の高さが比較的低くても、ブロック意匠の剛性が確実に向上する。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記アウトソールの前記ミッドソールとの接合部の厚さが、前記ミッドソールの厚さよりも薄いことを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0016】
かかる第5の態様では、靴底全体の重量を減らすことができると共に、靴底全体の柔軟性が向上する。
【0017】
本発明の第6の態様は、前記アウトソールのつま先部及び踵部に、当該つま先部外周に沿った円弧状の肉厚部及び当踵部外周に沿った円弧状の肉厚部を形成し、当該肉厚部上に前記ブロック意匠を有する接地ブロックを複数個設けた形状の靴底底面を形成していることを特徴とする。
【0018】
かかる第6の態様では、耐滑性の向上及び靴底全体の重量が確実に減少し、また柔軟性も確実に向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明では、ミッドソールをアウトソールよりも柔らかい材料で形成すると共に、ブロック意匠の側面の基端部側に補強部を設けるようにしたので、耐滑性を良好に維持しつつ、靴底全体の柔軟性を向上することができる。これにより、油、水等が付着した床面に対する滑りを防止しつつ、長時間履いていても疲れの少ない作業靴を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の底面図である。図2は、靴の前後方向の概略構造を示す断面図であり、図1のA−A′断面図である。図3は、ブロック意匠の拡大断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る耐滑靴底10は、靴のアッパー(図示なし)の底面に接合されるミッドソール20と、このミッドソール20に接合されるアウトソール30との2層で構成されている。アウトソール30は、例えば、ポリウレタン、ゴム等の比較的硬度の高い材料で形成されている。一方、ミッドソール20は、アウトソール30よりも柔らかい材料で形成され、その材料は特に限定されないが、例えば、ゴム、エラストマ、プラスチック等が挙げられ、特に、これらの材料を発泡させたものがミッドソール20の材料として好適に用いられる。具体的には、例えば、発泡ポリウレタン、エチレンビニルアセテート(EVA)等が挙げられる。
【0022】
アウトソール30は、ミッドソール20とは反対側の突出する複数のブロック意匠31を有する。アウトソール30のブロック意匠31以外の領域である最薄部の厚さは、靴底全体の剛性を確保できる程度に比較的薄く形成することが好ましく、少なくともミッドソール20の厚さよりも薄くすることが望ましい。例えば、本実施形態では、最薄部の厚さを1.5mm程度としている。
【0023】
各ブロック意匠31は、図3に示すように、本実施形態では、その横断面が矩形となるように形成されている。勿論、ブロック意匠31の形状は、特に限定されず、横断面が、例えば、円形、あるいは多角形等であってもよい。また、ブロック意匠31は、その側面31aが座面に対して実質的な垂直面となるように設けられている。さらに、各ブロック意匠31の側面の基端部側には補強部32が設けられている。
【0024】
このようなブロック意匠31は、補強部32よりも先端側の部分が実質的に滑り止めとして作用する。すなわち、ブロック意匠31の側面31aと先端面31bとの角部が、床面に対する引っ掛かりとなって滑りが防止される。このため、ブロック意匠31の側面31aは、座面に対して垂直(90°)な面となっていることが好ましいが、実質的な垂直面、すなわち、約87°〜90°の傾斜面となっていれば、滑りを効果的に防止することができる。
【0025】
なお、本実施形態では、各ブロック意匠31の先端面31bには、隣接する各ブロック意匠31でそれぞれ向きの異なるスリット33が設けられている。これにより、床面に対する引っ掛かりがさらに大きくなるため、より確実に滑りを防止することができる。
【0026】
また、ブロック意匠31の側面31aの基端部側に設けられる補強部32は、外側に向かって高さが漸小するように、ブロック意匠31の側面31aから外側に張り出して設けられている。例えば、本実施形態では、補強部32は、その表面が座面30aに対して所定角度θで傾斜する傾斜面(平面)となるように形成されている。
【0027】
ここで、補強部32の高さ、すなわち、補強部32のブロック意匠31側の端部での高さh1は、特に限定されず、ブロック意匠31の大きさ、形状等を考慮して適宜決定されればよいが、ブロック意匠31の高さh2の20%以上50%以下であることが好ましい。補強部32の高さh1があまり低すぎると、ブロック意匠31の剛性を確保することができず、耐滑性を良好に確保することができなくなってしまう。一方、補強部32の高さh1が高すぎると、ブロック意匠31の剛性は確保され良好な耐滑性は得られるが、滑り止めとして作用する部分の長さh3が短くなり短期間で耐滑性が低下してしまうことになる。
【0028】
また、補強部32の座面に対する傾斜角度θも、特に限定されないが、30°〜60°程度であることが好ましく、例えば、本実施形態では、傾斜角度θを約45°とした。傾斜角度θをこのような角度とすることで、補強部32の高さh1が比較的低くてもブロック意匠31の剛性を確実に向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態では、補強部32は、その表面が座面30aに対して傾斜する平面となるように形成されているが、これに限定されず、補強部32の表面は、例えば、図4に示すように、R形状となっていてもよい。
【0030】
又、このような補強部32は、全てのブロック意匠31に設けるようにしてもよいが、例えば、靴の前方中央部等、歩き出す際に最も荷重がかかりやすく耐滑性への影響が大きい部分のブロック意匠のみに設けるようにしてもよい。例えば、本実施形態では、靴の先端部(つま先側の端部)及び後端部(踵側の端部)を除いた各ブロック意匠31に補強部32を設けている。また、補強部32は、各ブロック意匠31の少なくとも靴の前後方向の側面に設けられていればよいが、本実施形態では、基本的に、各ブロック意匠31の全ての側面に連続的に補強部32を設けるようにしている。
【0031】
このように各ブロック意匠31の側面31aの基端部側に補強部32を設けることにより、ブロック意匠31の剛性が向上するため、耐滑性、耐久性を良好に確保しつつ履き心地を大幅に向上することができる。
すなわち、アウトソール30の接合部の厚さを薄くすると共に、比較的柔らかい材料で形成されるミッドソール20の厚さを厚くすることで、靴底の重量が大幅に低減されると共に靴底全体の柔軟性が向上する。また、靴底全体の柔軟性が向上することで、ブロック意匠31の剛性まで低下してしまうと耐滑性が低下してしまうが、本発明では、補強部32によってブロック意匠31の剛性は確保されるため、耐滑性は良好に維持される。これにより、油、水等が付着した床面に対する滑りを防止しつつ、長時間履いていても疲れの少ない履き心地のよい作業靴を提供することができる。
【0032】
ここで、ブロック意匠31の高さh2を6mm、補強部32の傾斜角度θを45°一定とし、補強部32の高さh1を下記表1のように変化させた実施例1〜3、及び比較例1の耐滑靴底を作製し、これら各実施例及び比較例の靴底について、安全靴技術指針(労働省産業安全研究所1991年3月)の耐滑性試験方法により動摩擦係数を計測した。その結果を表1に併せて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
この結果からも明らかなように、ブロック意匠31の側面31aの基端部側に補強部32を設けた実施例1〜3の靴底では、補強部を設けていない比較例1の靴底よりも動摩擦係数が高く、耐滑性が良好に維持されていることが分かる。なお、動摩擦係数が、0.3以上であれば、実使用において十分な安定感が得られる。
【0035】
次に、本願発明の具体的な実施例を説明する。図5は、靴のサイズが25.5cmの耐滑靴における、耐滑靴底の具体的な設計例である。該耐滑靴は、居酒屋、ファーストフード店、食品加工工場等の、床面に水や油が飛散して滑りやすくなっている場所において、極めて高い耐滑性能を発揮する耐滑靴の耐滑靴底を有するものである。
【0036】
図5(a)は、アウトソール130を接地面側からみた耐滑靴底110の底面図であり、図5(b)は図5のA−A′線における切断端面を表した端面図である。図5に示した耐滑靴底110は、足のサイズが25.5cm用に設計されたものであり前記耐滑靴底10と同一の構造を成すものである。尚、足のサイズは、22cm〜31cm程度までを想定しており、後述する基本ブロックの形状を除き、当該足のサイズに応じて全長、全幅、靴底全体の面積等が比例的に変動するようになっている。
【0037】
図5(a)に示すように、耐滑靴底110には、足の土踏まずの部分に、床と接するブロックの少ない中間領域111が設けられており、耐滑靴底110の底面は、前記中間領域111を境にしてつま先や踏付け部を含む前足底領域112と踵側領域113に分けることができる。また、耐滑靴底110は、アウトソール130とミッドソール120の接合によって形成されている。なお、本実施例においては図5(a)のようにアウトソール130はミッドソール120より一回り小さく形成されており、アウトソール130の外周にミッドソール120の縁部が見えるように接合構成されている。しかしながら、図5(b)にもあるように前記縁部は床に接しないように、言い換えれば床と接するのはアウトソール130のみとなるように設定してある。また、ミッドソール120は、前述したようにアウトソール130よりも柔らかい発泡ポリウレタン、発泡エチレンビニルアセテート(EVA)等が用いられ、アウトソール130にはポリウレタン、ゴム等の比較的硬度の高い材料が用いられる。
【0038】
本実施例では、アウトソール130の最厚部(ミッドソール120との接合面からブロック先端面までの距離:前述した発明の実施の形態におけるh2)が6mmであり、ブロックを設けていない部位の厚さ(最薄部の厚さ:前述した発明の実施の形態におけるh4)が1.5mm〜2.0mmとなっている。
【0039】
また、ミッドソール120は、前足底領域112から踵側領域113にかけて次第に厚みを増すように形成されており、前足底領域112部の厚さTM1が約8.5mm、踵側領域113の厚さTM2が約19mmとなっている。すなわち、最厚部が6mmで最薄部h4が1.5mm〜2.0mmであるアウトソール130に対して、前足底領域112部の厚さTM1が約8.5mm、踵側領域113の厚さTM2が約19mmのミッドソール120が接合されている。
【0040】
図6は、アウトソール130の表面に配置されるブロックの基本形状である基本ブロックBL0の説明図である。この基本ブロックBL0は、靴底面を構成する前足底領域112と踵側領域113の前後方向に亘る中心領域に、接地面の方向が互い違いとなるように複数列設けられたものである。
【0041】
基本ブロックBL0は、前述した補強部32に相当する四角錐状の傾斜面を周囲に有した断面略台形状の部位(以下「ブロックベースBLB」と称する)を有し、当該ブロックベースBLB上に床面と接するブロック(以下「接地ブロックSBL」と称する)を設けた構造になっている。また、当該接地ブロックSBLには、中央に設けた溝114(スリット)によって2本の細幅の接地面115(先端面)が設けられている。
【0042】
アウトソール130の厚さ(h2)が6mmであり、当該アウトソール130の最薄部の厚さ(h4)が1.5mm〜2.0mmであることから、アウトソール130表面からの基本ブロックBL0の高さは4.5mm〜4mmとなっている。また、前記ブロックベースBLBの上面から接地ブロックSBLの接地面115までの高さ(h3)は1.5mm〜2mmとなっており、当該寸法に応じて、前記補強部32によって囲まれるブロックベースBLBの高さが調節される。接地面115に設けた溝114の深さは、1mm〜1.5mmであり、本実施例においては耐滑性に関する経験的な見地から1.5mmに設定している。また、この溝114は溝の底面が平らな角溝であり、V字形状とはなっていない。V字形状の場合には、接地面115を設けた接地ブロックSBLが外側に倒れやすくなるためであり、これを防止するために角溝としている。
【0043】
本実施例では、前記四角錐状の周側面を有するブロックベースBLBの底縁部で囲まれる領域を「ブロックベース基部BBK」(図6において幅d2、幅w3で表した領域)という。このブロックベース基部BBKはd2×w3=12.75mm×12.75mmの正方形の領域となっている。
【0044】
また、前記接地ブロックSBLとの境界となるブロックベースBLB上部の領域SBK(図6において幅d1、幅w2で表した領域)は、4つの各角を半径Rで面取りしたd1×w2=8.82mm×8.82mmの正方形の領域となっている。
【0045】
接地ブロックSBLは、前記ブロックベースBLB上部の外形を有する高さh3の部分であるが、床と接地する面は、前記d1×w2=8.82mm×8.82mmの正方形領域を均等に3分割するように2.94mm幅の溝115を設けることにより、幅2.94mm、長さ8.82mmの長方形状の2つの接地面115を形成している。
【0046】
前述した幅2.94mm、長さ8.82mmの細幅の接地面115の4つの角(周側面)は半径R(0.74mm)の曲率で丸められている。一方、エッジとなる接地面115の外周縁と周側面との角は極力丸みのない精度の高い直角もしくは直角に近い角度で形成されることが望ましく、接地面115の表面は平滑であり表面荒さも小さいことが望ましい。
【0047】
すなわち、本願発明のようにミッドソールがアウトソールより軟らかくても補強部を設けることによりブロックが陥没しにくく、かつ、倒れにくいような強度を有するように設定することができるので、床面に油や水が付着している状況において、歩行時に接地面115の角(エッジ)によって床面から油や水を除去し、当該油や水を除去した後に平滑かつ表面荒さが小さい接地面を床面に押しつけることにより、接地面115と床面とを接触させ滑りを防止するようになっている。
【0048】
本実施例に係る耐滑靴底は、種々の実験の結果前記基本ブロックBL0の形状を見いだしたものであるが、靴底面の左右両側および前後両端部には、前記基本ブロックBL0をそのまま配置できない領域がある。当該部位については、前記基本ブロックBL0の耐滑要素(幅、長さ、エッジの角度、平滑度および表面荒さ、ブロックベースBLBによる接地ブロックの傾き防止等)を極力失わないような配慮を行いつつ、形状を変形した接地ブロックを形成している。また、各接地面115は、長手方向の向きが交互に互い違いとなるように配置されている。
【0049】
図7(a)は、接地ブロックのトップである接地面115を中心に表した説明図である。図7(a)に示すように、耐滑靴底は、前足底112の中央部3列と踵側領域113の中央2列には前記基本ブロックBL0が有する2個で一組となる接地面115である各接地面LRと、該接地面LRの左右両側に設けられた接地面L1〜L24、R1〜R25とを具備する。なお、各接地面LRを囲うように記載した点線の領域は、各接地ブロックを設けたベースブロックのブロックベース基部BBK(図7(b)のB1〜B27に相当)を表している。
【0050】
前記前足底112の中央部3列と踵側領域113の中央2列部分以外の接地面は、前記基本ブロックBL0が有する耐滑要素として、接地面の幅が約2.94mmに形成でき、かつ、当該接地面が等間隔で配置できる場合には約2.94mmの間隔をおいて同幅の接地面を設けるようになっている。なお、接地面L1、L2、L5、L8、L11、L12、L20、L23、L24または接地面R1、R2、R5、R8、R11、R12、R13、R16、R19、R22、R25のように、間隔をあけた結果約2.94mmの接地面の幅がとれない場合には、靴底面の外周形状に応じて前記2.94mm以上の幅を有する接地面を設けている。
【0051】
上記図7(a)に示す接地面の総面積は、本実施の形態に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、48.4cm2となっている(設計図面より算出)。図7(b)は、各接地ブロックを設けたベースブロックのブロックベース基部BBK(B1〜B27)を表した説明図である。先端部のベースブロックB2は、つま先の外周に沿ったやや円弧状の領域に形成されており、厚さは約4mm、当該ベースブロックB2上に設けた接地ブロックの高さは約2mmである。また、踵部のベースブロックB27は、踵部の外周に沿ったやや円弧状の領域に形成されており、厚さは約5mm、当該ベースブロックB27上に設けた接地ブロックの高さは約1mmである。すなわち、つま先部および踵部は、歩行時に加わる荷重が平面部よりも大きくなるために、接地ブロックの倒れ防止、耐摩耗その他の観点から、他のブロックと比較して厚く広く形成されている。
【0052】
図7(b)に示すベースブロックのブロックベース基部BBK(B1〜B27)の総面積は、本実施の形態に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、147.4cm2となっている(設計図面より算出)。
【0053】
図8に示す表の通り、本実施例に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、靴底全面の総面積(アウトソール総面積)は約190cm2であり、ブロックベース基部の総面積は147.4cm2であり、ブロック接地面の総面積は48.4cm2となっている。すなわち、アウトソールの総面積に対するブロックベース基部総面積は約77.6%であり、ブロック接地部面総面積は約25.4%となっている。すなわち、アウトソールに加えられる荷重を、アウトソールの総面積の約1/4程度の小さな領域に集中させることにより、単位面積あたりの荷重を増加させ、床面に対して最良の摩擦係数を得るようになっている。
【0054】
また、ブロックベース基部総面積に対するブロック接地部面総面積比は32.8%であり、床と接する接地面の単位面積に対して、約3倍の面積のブロックベース基部を必要としていることがわかる。このように、接地面に対して3倍程度の面積の基部を有することによってブロックの倒れや、ミッドソール側へ凹むように変形するのを防止し、接地面を床面に対して有効に押しつけることができるようになっている。
【0055】
以上、説明した数値や割合は、種々の形状のブロックを用いた実験により、導かれたものである。
【0056】
参考として、図9の左欄にブロックベース基部B1〜B27の各部の設計面積を示す。なお、ブロックベース基部B1は基本ブロックBL0のベースとなる部位であり、当該ブロックベース基部B1の面積は156.1979mm2であり、靴底全体において35箇所設けられている。
【0057】
図9の右欄のC1〜C27は、各ブロックベース基部B1〜B27の頂部の領域であり、各接地ブロックの基部となる部分を表している。当該各領域C1〜C27の面積は、同表に示す通りである。
【0058】
図10は、図7に示した各接地面LR、L1〜L24、R1〜R25の接地面面積を表している。基本ブロックBL0の接地面LRの面積は25.4875mm2であり、基本ブロックBL0には該接地面LRが2個ずつ設けられている。
【0059】
図11は傾斜角度45°、アウトソール(ゴム)の硬さ60°の補強部を設けたもの(実施例)と補強部を設けていない場合(比較例)の動摩擦係数を計測したものである。この結果より、補強部を設けた場合の効果がわかる。
【0060】
図12(a)はアウトソール(ゴム)の硬さを一定にしてミッドソール(EVA)の硬さを変えて動摩擦係数の変化を測定したものであり、図12(b)はミッドソール(EVA)の硬さを一定にして、アウトソール(ゴム)の硬さを変えて、動摩擦係数を測定したものである。この結果に示すように、いずれの場合も、硬さの変化に影響なく優れた動摩擦係数が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の底面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るブロック意匠の拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るブロック意匠他の例を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の底面図および要部端面図である。
【図6】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の基本ブロックの説明図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の接地面の形状を説明するための説明図である。
【図8】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図9】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図10】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図11】本発明の他の実施例に係る補強部の有無と動摩擦係数の関係を表す表である。
【図12】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の硬度と動摩擦係数の関係を表す表である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全靴等の靴底に用いられて、例えば、水、油等による滑りを抑えた耐滑靴底に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、飲食店の厨房等では、床面に水や油等が付着して滑りやすくなっていることが多い。このため、このような場所で使用する作業靴としては、これら水や油等による滑りを防止した耐滑靴底、すなわち、耐滑性の高い耐滑靴底を用いたものが使用されている。
【0003】
耐滑性を向上させるための構造としては、例えば、靴底接地部の硬さを規定すると共に、この靴底接地部に設けられるブロック意匠の形状、例えば、高さ及び勾配等を規定し、且つこれらブロック意匠が陥没しにくく、かつ、倒れにくいような強度を有するように靴底の最薄部の厚さ等を規定したものがある(例えば、特許文献1参照)。またその他の構造として、例えば、所定形状の複数のブロック意匠を有する靴底接地部(アウトソール)と、このアウトソールと同等以上の硬さを有する中底又はミッドソールとの2層底としたものがある(例えば、特許文献2参照)。靴底をこのような構造とすることで、耐滑性を向上することはできる。
【0004】
しかしながら、このような構造の耐滑靴底は、靴底全体の剛性が比較的高くなってしまうため、作業靴としたときの履き心地がわるいという問題がある。また、耐滑靴底を構成する靴底接地部等を比較的硬度の低い材料で形成すれば、靴底全体の剛性が低下して履き心地のよい作業靴を製造することはできるが、十分な耐滑性が得られないという問題や、耐久性が大幅に低下してしまうという問題が発生してしまう。
【0005】
【特許文献1】特許第3451205号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−165607号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、耐滑性、耐久性を良好に維持でき、且つ作業靴の履き心地を向上することができる耐滑靴底を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、靴の底面に接合されるミッドソールと、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠を有するアウトソールとを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であって、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックを発泡させた発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記ブロック意匠は、先端面が平滑であって側面との間に角が形成されるとともにその側面が座面に対して実質的な垂直面となるように設けられ、且つ当該ブロック意匠の少なくとも前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部が設けられていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0008】
かかる第1の態様では、靴底全体の剛性が低下するが、各ブロック意匠の剛性は確保される。したがって、耐滑性、耐久性を良好に維持しつつ、靴底全体の柔軟性を向上でき、作業靴としたときの履き心地がよくなる。同時に靴底全体の重量が確実に減少する。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記補強部の表面が平面となっていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0010】
かかる第2の態様では、補強部によってブロック意匠の剛性が確実に向上する。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記補強部の前記ブロック意匠側の高さが、前記ブロック意匠の高さの20%以上50%以下であることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0012】
かかる第3の態様では、耐滑性を確保しつつブロック意匠の耐久性も確保することができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記補強部表面の座面に対する傾斜角度が30°〜60°であることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0014】
かかる第4の態様では、補強部の高さが比較的低くても、ブロック意匠の剛性が確実に向上する。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記アウトソールの前記ミッドソールとの接合部の厚さが、前記ミッドソールの厚さよりも薄いことを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底である。
【0016】
かかる第5の態様では、靴底全体の重量を減らすことができると共に、靴底全体の柔軟性が向上する。
【0017】
本発明の第6の態様は、前記アウトソールのつま先部及び踵部に、当該つま先部外周に沿った円弧状の肉厚部及び当踵部外周に沿った円弧状の肉厚部を形成し、当該肉厚部上に前記ブロック意匠を有する接地ブロックを複数個設けた形状の靴底底面を形成していることを特徴とする。
【0018】
かかる第6の態様では、耐滑性の向上及び靴底全体の重量が確実に減少し、また柔軟性も確実に向上する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明では、ミッドソールをアウトソールよりも柔らかい材料で形成すると共に、ブロック意匠の側面の基端部側に補強部を設けるようにしたので、耐滑性を良好に維持しつつ、靴底全体の柔軟性を向上することができる。これにより、油、水等が付着した床面に対する滑りを防止しつつ、長時間履いていても疲れの少ない作業靴を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の底面図である。図2は、靴の前後方向の概略構造を示す断面図であり、図1のA−A′断面図である。図3は、ブロック意匠の拡大断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る耐滑靴底10は、靴のアッパー(図示なし)の底面に接合されるミッドソール20と、このミッドソール20に接合されるアウトソール30との2層で構成されている。アウトソール30は、例えば、ポリウレタン、ゴム等の比較的硬度の高い材料で形成されている。一方、ミッドソール20は、アウトソール30よりも柔らかい材料で形成され、その材料は特に限定されないが、例えば、ゴム、エラストマ、プラスチック等が挙げられ、特に、これらの材料を発泡させたものがミッドソール20の材料として好適に用いられる。具体的には、例えば、発泡ポリウレタン、エチレンビニルアセテート(EVA)等が挙げられる。
【0022】
アウトソール30は、ミッドソール20とは反対側の突出する複数のブロック意匠31を有する。アウトソール30のブロック意匠31以外の領域である最薄部の厚さは、靴底全体の剛性を確保できる程度に比較的薄く形成することが好ましく、少なくともミッドソール20の厚さよりも薄くすることが望ましい。例えば、本実施形態では、最薄部の厚さを1.5mm程度としている。
【0023】
各ブロック意匠31は、図3に示すように、本実施形態では、その横断面が矩形となるように形成されている。勿論、ブロック意匠31の形状は、特に限定されず、横断面が、例えば、円形、あるいは多角形等であってもよい。また、ブロック意匠31は、その側面31aが座面に対して実質的な垂直面となるように設けられている。さらに、各ブロック意匠31の側面の基端部側には補強部32が設けられている。
【0024】
このようなブロック意匠31は、補強部32よりも先端側の部分が実質的に滑り止めとして作用する。すなわち、ブロック意匠31の側面31aと先端面31bとの角部が、床面に対する引っ掛かりとなって滑りが防止される。このため、ブロック意匠31の側面31aは、座面に対して垂直(90°)な面となっていることが好ましいが、実質的な垂直面、すなわち、約87°〜90°の傾斜面となっていれば、滑りを効果的に防止することができる。
【0025】
なお、本実施形態では、各ブロック意匠31の先端面31bには、隣接する各ブロック意匠31でそれぞれ向きの異なるスリット33が設けられている。これにより、床面に対する引っ掛かりがさらに大きくなるため、より確実に滑りを防止することができる。
【0026】
また、ブロック意匠31の側面31aの基端部側に設けられる補強部32は、外側に向かって高さが漸小するように、ブロック意匠31の側面31aから外側に張り出して設けられている。例えば、本実施形態では、補強部32は、その表面が座面30aに対して所定角度θで傾斜する傾斜面(平面)となるように形成されている。
【0027】
ここで、補強部32の高さ、すなわち、補強部32のブロック意匠31側の端部での高さh1は、特に限定されず、ブロック意匠31の大きさ、形状等を考慮して適宜決定されればよいが、ブロック意匠31の高さh2の20%以上50%以下であることが好ましい。補強部32の高さh1があまり低すぎると、ブロック意匠31の剛性を確保することができず、耐滑性を良好に確保することができなくなってしまう。一方、補強部32の高さh1が高すぎると、ブロック意匠31の剛性は確保され良好な耐滑性は得られるが、滑り止めとして作用する部分の長さh3が短くなり短期間で耐滑性が低下してしまうことになる。
【0028】
また、補強部32の座面に対する傾斜角度θも、特に限定されないが、30°〜60°程度であることが好ましく、例えば、本実施形態では、傾斜角度θを約45°とした。傾斜角度θをこのような角度とすることで、補強部32の高さh1が比較的低くてもブロック意匠31の剛性を確実に向上させることができる。
【0029】
なお、本実施形態では、補強部32は、その表面が座面30aに対して傾斜する平面となるように形成されているが、これに限定されず、補強部32の表面は、例えば、図4に示すように、R形状となっていてもよい。
【0030】
又、このような補強部32は、全てのブロック意匠31に設けるようにしてもよいが、例えば、靴の前方中央部等、歩き出す際に最も荷重がかかりやすく耐滑性への影響が大きい部分のブロック意匠のみに設けるようにしてもよい。例えば、本実施形態では、靴の先端部(つま先側の端部)及び後端部(踵側の端部)を除いた各ブロック意匠31に補強部32を設けている。また、補強部32は、各ブロック意匠31の少なくとも靴の前後方向の側面に設けられていればよいが、本実施形態では、基本的に、各ブロック意匠31の全ての側面に連続的に補強部32を設けるようにしている。
【0031】
このように各ブロック意匠31の側面31aの基端部側に補強部32を設けることにより、ブロック意匠31の剛性が向上するため、耐滑性、耐久性を良好に確保しつつ履き心地を大幅に向上することができる。
すなわち、アウトソール30の接合部の厚さを薄くすると共に、比較的柔らかい材料で形成されるミッドソール20の厚さを厚くすることで、靴底の重量が大幅に低減されると共に靴底全体の柔軟性が向上する。また、靴底全体の柔軟性が向上することで、ブロック意匠31の剛性まで低下してしまうと耐滑性が低下してしまうが、本発明では、補強部32によってブロック意匠31の剛性は確保されるため、耐滑性は良好に維持される。これにより、油、水等が付着した床面に対する滑りを防止しつつ、長時間履いていても疲れの少ない履き心地のよい作業靴を提供することができる。
【0032】
ここで、ブロック意匠31の高さh2を6mm、補強部32の傾斜角度θを45°一定とし、補強部32の高さh1を下記表1のように変化させた実施例1〜3、及び比較例1の耐滑靴底を作製し、これら各実施例及び比較例の靴底について、安全靴技術指針(労働省産業安全研究所1991年3月)の耐滑性試験方法により動摩擦係数を計測した。その結果を表1に併せて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
この結果からも明らかなように、ブロック意匠31の側面31aの基端部側に補強部32を設けた実施例1〜3の靴底では、補強部を設けていない比較例1の靴底よりも動摩擦係数が高く、耐滑性が良好に維持されていることが分かる。なお、動摩擦係数が、0.3以上であれば、実使用において十分な安定感が得られる。
【0035】
次に、本願発明の具体的な実施例を説明する。図5は、靴のサイズが25.5cmの耐滑靴における、耐滑靴底の具体的な設計例である。該耐滑靴は、居酒屋、ファーストフード店、食品加工工場等の、床面に水や油が飛散して滑りやすくなっている場所において、極めて高い耐滑性能を発揮する耐滑靴の耐滑靴底を有するものである。
【0036】
図5(a)は、アウトソール130を接地面側からみた耐滑靴底110の底面図であり、図5(b)は図5のA−A′線における切断端面を表した端面図である。図5に示した耐滑靴底110は、足のサイズが25.5cm用に設計されたものであり前記耐滑靴底10と同一の構造を成すものである。尚、足のサイズは、22cm〜31cm程度までを想定しており、後述する基本ブロックの形状を除き、当該足のサイズに応じて全長、全幅、靴底全体の面積等が比例的に変動するようになっている。
【0037】
図5(a)に示すように、耐滑靴底110には、足の土踏まずの部分に、床と接するブロックの少ない中間領域111が設けられており、耐滑靴底110の底面は、前記中間領域111を境にしてつま先や踏付け部を含む前足底領域112と踵側領域113に分けることができる。また、耐滑靴底110は、アウトソール130とミッドソール120の接合によって形成されている。なお、本実施例においては図5(a)のようにアウトソール130はミッドソール120より一回り小さく形成されており、アウトソール130の外周にミッドソール120の縁部が見えるように接合構成されている。しかしながら、図5(b)にもあるように前記縁部は床に接しないように、言い換えれば床と接するのはアウトソール130のみとなるように設定してある。また、ミッドソール120は、前述したようにアウトソール130よりも柔らかい発泡ポリウレタン、発泡エチレンビニルアセテート(EVA)等が用いられ、アウトソール130にはポリウレタン、ゴム等の比較的硬度の高い材料が用いられる。
【0038】
本実施例では、アウトソール130の最厚部(ミッドソール120との接合面からブロック先端面までの距離:前述した発明の実施の形態におけるh2)が6mmであり、ブロックを設けていない部位の厚さ(最薄部の厚さ:前述した発明の実施の形態におけるh4)が1.5mm〜2.0mmとなっている。
【0039】
また、ミッドソール120は、前足底領域112から踵側領域113にかけて次第に厚みを増すように形成されており、前足底領域112部の厚さTM1が約8.5mm、踵側領域113の厚さTM2が約19mmとなっている。すなわち、最厚部が6mmで最薄部h4が1.5mm〜2.0mmであるアウトソール130に対して、前足底領域112部の厚さTM1が約8.5mm、踵側領域113の厚さTM2が約19mmのミッドソール120が接合されている。
【0040】
図6は、アウトソール130の表面に配置されるブロックの基本形状である基本ブロックBL0の説明図である。この基本ブロックBL0は、靴底面を構成する前足底領域112と踵側領域113の前後方向に亘る中心領域に、接地面の方向が互い違いとなるように複数列設けられたものである。
【0041】
基本ブロックBL0は、前述した補強部32に相当する四角錐状の傾斜面を周囲に有した断面略台形状の部位(以下「ブロックベースBLB」と称する)を有し、当該ブロックベースBLB上に床面と接するブロック(以下「接地ブロックSBL」と称する)を設けた構造になっている。また、当該接地ブロックSBLには、中央に設けた溝114(スリット)によって2本の細幅の接地面115(先端面)が設けられている。
【0042】
アウトソール130の厚さ(h2)が6mmであり、当該アウトソール130の最薄部の厚さ(h4)が1.5mm〜2.0mmであることから、アウトソール130表面からの基本ブロックBL0の高さは4.5mm〜4mmとなっている。また、前記ブロックベースBLBの上面から接地ブロックSBLの接地面115までの高さ(h3)は1.5mm〜2mmとなっており、当該寸法に応じて、前記補強部32によって囲まれるブロックベースBLBの高さが調節される。接地面115に設けた溝114の深さは、1mm〜1.5mmであり、本実施例においては耐滑性に関する経験的な見地から1.5mmに設定している。また、この溝114は溝の底面が平らな角溝であり、V字形状とはなっていない。V字形状の場合には、接地面115を設けた接地ブロックSBLが外側に倒れやすくなるためであり、これを防止するために角溝としている。
【0043】
本実施例では、前記四角錐状の周側面を有するブロックベースBLBの底縁部で囲まれる領域を「ブロックベース基部BBK」(図6において幅d2、幅w3で表した領域)という。このブロックベース基部BBKはd2×w3=12.75mm×12.75mmの正方形の領域となっている。
【0044】
また、前記接地ブロックSBLとの境界となるブロックベースBLB上部の領域SBK(図6において幅d1、幅w2で表した領域)は、4つの各角を半径Rで面取りしたd1×w2=8.82mm×8.82mmの正方形の領域となっている。
【0045】
接地ブロックSBLは、前記ブロックベースBLB上部の外形を有する高さh3の部分であるが、床と接地する面は、前記d1×w2=8.82mm×8.82mmの正方形領域を均等に3分割するように2.94mm幅の溝115を設けることにより、幅2.94mm、長さ8.82mmの長方形状の2つの接地面115を形成している。
【0046】
前述した幅2.94mm、長さ8.82mmの細幅の接地面115の4つの角(周側面)は半径R(0.74mm)の曲率で丸められている。一方、エッジとなる接地面115の外周縁と周側面との角は極力丸みのない精度の高い直角もしくは直角に近い角度で形成されることが望ましく、接地面115の表面は平滑であり表面荒さも小さいことが望ましい。
【0047】
すなわち、本願発明のようにミッドソールがアウトソールより軟らかくても補強部を設けることによりブロックが陥没しにくく、かつ、倒れにくいような強度を有するように設定することができるので、床面に油や水が付着している状況において、歩行時に接地面115の角(エッジ)によって床面から油や水を除去し、当該油や水を除去した後に平滑かつ表面荒さが小さい接地面を床面に押しつけることにより、接地面115と床面とを接触させ滑りを防止するようになっている。
【0048】
本実施例に係る耐滑靴底は、種々の実験の結果前記基本ブロックBL0の形状を見いだしたものであるが、靴底面の左右両側および前後両端部には、前記基本ブロックBL0をそのまま配置できない領域がある。当該部位については、前記基本ブロックBL0の耐滑要素(幅、長さ、エッジの角度、平滑度および表面荒さ、ブロックベースBLBによる接地ブロックの傾き防止等)を極力失わないような配慮を行いつつ、形状を変形した接地ブロックを形成している。また、各接地面115は、長手方向の向きが交互に互い違いとなるように配置されている。
【0049】
図7(a)は、接地ブロックのトップである接地面115を中心に表した説明図である。図7(a)に示すように、耐滑靴底は、前足底112の中央部3列と踵側領域113の中央2列には前記基本ブロックBL0が有する2個で一組となる接地面115である各接地面LRと、該接地面LRの左右両側に設けられた接地面L1〜L24、R1〜R25とを具備する。なお、各接地面LRを囲うように記載した点線の領域は、各接地ブロックを設けたベースブロックのブロックベース基部BBK(図7(b)のB1〜B27に相当)を表している。
【0050】
前記前足底112の中央部3列と踵側領域113の中央2列部分以外の接地面は、前記基本ブロックBL0が有する耐滑要素として、接地面の幅が約2.94mmに形成でき、かつ、当該接地面が等間隔で配置できる場合には約2.94mmの間隔をおいて同幅の接地面を設けるようになっている。なお、接地面L1、L2、L5、L8、L11、L12、L20、L23、L24または接地面R1、R2、R5、R8、R11、R12、R13、R16、R19、R22、R25のように、間隔をあけた結果約2.94mmの接地面の幅がとれない場合には、靴底面の外周形状に応じて前記2.94mm以上の幅を有する接地面を設けている。
【0051】
上記図7(a)に示す接地面の総面積は、本実施の形態に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、48.4cm2となっている(設計図面より算出)。図7(b)は、各接地ブロックを設けたベースブロックのブロックベース基部BBK(B1〜B27)を表した説明図である。先端部のベースブロックB2は、つま先の外周に沿ったやや円弧状の領域に形成されており、厚さは約4mm、当該ベースブロックB2上に設けた接地ブロックの高さは約2mmである。また、踵部のベースブロックB27は、踵部の外周に沿ったやや円弧状の領域に形成されており、厚さは約5mm、当該ベースブロックB27上に設けた接地ブロックの高さは約1mmである。すなわち、つま先部および踵部は、歩行時に加わる荷重が平面部よりも大きくなるために、接地ブロックの倒れ防止、耐摩耗その他の観点から、他のブロックと比較して厚く広く形成されている。
【0052】
図7(b)に示すベースブロックのブロックベース基部BBK(B1〜B27)の総面積は、本実施の形態に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、147.4cm2となっている(設計図面より算出)。
【0053】
図8に示す表の通り、本実施例に係る25.5cmの耐滑靴底の場合、靴底全面の総面積(アウトソール総面積)は約190cm2であり、ブロックベース基部の総面積は147.4cm2であり、ブロック接地面の総面積は48.4cm2となっている。すなわち、アウトソールの総面積に対するブロックベース基部総面積は約77.6%であり、ブロック接地部面総面積は約25.4%となっている。すなわち、アウトソールに加えられる荷重を、アウトソールの総面積の約1/4程度の小さな領域に集中させることにより、単位面積あたりの荷重を増加させ、床面に対して最良の摩擦係数を得るようになっている。
【0054】
また、ブロックベース基部総面積に対するブロック接地部面総面積比は32.8%であり、床と接する接地面の単位面積に対して、約3倍の面積のブロックベース基部を必要としていることがわかる。このように、接地面に対して3倍程度の面積の基部を有することによってブロックの倒れや、ミッドソール側へ凹むように変形するのを防止し、接地面を床面に対して有効に押しつけることができるようになっている。
【0055】
以上、説明した数値や割合は、種々の形状のブロックを用いた実験により、導かれたものである。
【0056】
参考として、図9の左欄にブロックベース基部B1〜B27の各部の設計面積を示す。なお、ブロックベース基部B1は基本ブロックBL0のベースとなる部位であり、当該ブロックベース基部B1の面積は156.1979mm2であり、靴底全体において35箇所設けられている。
【0057】
図9の右欄のC1〜C27は、各ブロックベース基部B1〜B27の頂部の領域であり、各接地ブロックの基部となる部分を表している。当該各領域C1〜C27の面積は、同表に示す通りである。
【0058】
図10は、図7に示した各接地面LR、L1〜L24、R1〜R25の接地面面積を表している。基本ブロックBL0の接地面LRの面積は25.4875mm2であり、基本ブロックBL0には該接地面LRが2個ずつ設けられている。
【0059】
図11は傾斜角度45°、アウトソール(ゴム)の硬さ60°の補強部を設けたもの(実施例)と補強部を設けていない場合(比較例)の動摩擦係数を計測したものである。この結果より、補強部を設けた場合の効果がわかる。
【0060】
図12(a)はアウトソール(ゴム)の硬さを一定にしてミッドソール(EVA)の硬さを変えて動摩擦係数の変化を測定したものであり、図12(b)はミッドソール(EVA)の硬さを一定にして、アウトソール(ゴム)の硬さを変えて、動摩擦係数を測定したものである。この結果に示すように、いずれの場合も、硬さの変化に影響なく優れた動摩擦係数が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の底面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る耐滑靴底の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るブロック意匠の拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るブロック意匠他の例を示す拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の底面図および要部端面図である。
【図6】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の基本ブロックの説明図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の接地面の形状を説明するための説明図である。
【図8】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図9】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図10】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の各面積データの表である。
【図11】本発明の他の実施例に係る補強部の有無と動摩擦係数の関係を表す表である。
【図12】本発明の他の実施例に係る耐滑靴底の硬度と動摩擦係数の関係を表す表である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴の底面に接合されるミッドソールと、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠を有するアウトソールとを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であって、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックを発泡させた発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記ブロック意匠は、先端面が平滑であって側面との間に角が形成されるとともにその側面が座面に対して実質的な垂直面となるように設けられ、且つ当該ブロック意匠の少なくとも前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部が設けられていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項2】
前記補強部の表面が平面となっていることを特徴とする請求項1記載の安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項3】
前記補強部の前記ブロック意匠側の高さが、前記ブロック意匠の高さの20%以上50%以下であることを特徴とする請求項1記載の安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項4】
前記補強部表面の座面に対する傾斜角度が30°〜60°であることを特徴とする請求項1記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項5】
前記アウトソールの前記ミッドソールとの接合部の厚さが、前記ミッドソールの厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項6】
前記アウトソールのつま先部及び踵部に、当該つま先部外周に沿った円弧状の肉厚部及び当踵部外周に沿った円弧状の肉厚部を形成し、当該肉厚部上に前記ブロック意匠を有する接地ブロックを複数個設けた形状の靴底底面を形成していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項1】
靴の底面に接合されるミッドソールと、該ミッドソールの底面に接合されると共に複数のブロック意匠を有するアウトソールとを具備する安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底であって、ミッドソールはゴム、エラストマ又はプラスチックを発泡させた発泡体から構成され、又アウトソールは、ポリウレタン、又はゴムから構成され、前記アウトソールの硬度は比較的硬度の高い硬度である50〜66(JIS−A 20℃)であり、前記ミッドソールはアウトソールよりも柔らかく、前記ブロック意匠は、先端面が平滑であって側面との間に角が形成されるとともにその側面が座面に対して実質的な垂直面となるように設けられ、且つ当該ブロック意匠の少なくとも前記靴の前後方向の側面の基端部側には、外側に向かって高さが漸小するように張り出した補強部が設けられていることを特徴とする安全靴、作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項2】
前記補強部の表面が平面となっていることを特徴とする請求項1記載の安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項3】
前記補強部の前記ブロック意匠側の高さが、前記ブロック意匠の高さの20%以上50%以下であることを特徴とする請求項1記載の安全靴及び作業靴の、作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項4】
前記補強部表面の座面に対する傾斜角度が30°〜60°であることを特徴とする請求項1記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項5】
前記アウトソールの前記ミッドソールとの接合部の厚さが、前記ミッドソールの厚さよりも薄いことを特徴とする請求項1記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【請求項6】
前記アウトソールのつま先部及び踵部に、当該つま先部外周に沿った円弧状の肉厚部及び当踵部外周に沿った円弧状の肉厚部を形成し、当該肉厚部上に前記ブロック意匠を有する接地ブロックを複数個設けた形状の靴底底面を形成していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか記載の安全靴、作業靴の作業面に存在する水及び油に対する耐滑靴底。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−261975(P2009−261975A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159577(P2009−159577)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願2005−72067(P2005−72067)の分割
【原出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願2005−72067(P2005−72067)の分割
【原出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】
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