説明

耐火キャスタブル用粉体組成物及びそれを用いた耐火キャスタブル

【課題】本発明は、従来の耐火キャスタブルの特徴である、高い破壊強度を有し、軽量で低熱伝導性の耐火キャスタブルが形成可能な耐火キャスタブル用粉体組成物を提供する。
【解決手段】アルミナ−ジルコニア質中空粒子を必須成分として含有する耐火キャスタブル用粉体組成物であって、前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%、かつ、AlとZrOの合量が96質量%以上であるアルミナ−ジルコニア質中空粒子を含有する耐火キャスタブル用粉体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火キャスタブル用粉体組成物及びそれを用いた耐火キャスタブルに係り、特に、加熱炉等の工業炉の内張層を形成するのに好適な耐火キャスタブル用粉体組成物及びそれを用いた耐火キャスタブルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に加熱炉等の工業炉は、最も外側のケーシング(鉄皮とも称す)の内側に、不定形耐火物をライニングする。この不定形耐火物のライニングは、ケーシングに近いほうから、断熱ボード、断熱キャスタブル、耐火キャスタブルの順に3層構造とするのが、一般的である。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化による環境悪化が指摘され、COの排出量の低減の必要性から、省エネルギー化、省資源化のためにその性能向上が望まれており、耐火キャスタブルにおいても例外ではない。従来の性能を維持しながら、軽量で低熱伝導性の耐火キャスタブルは、熱損失が低減され、省エネルギー化、省資源化に寄与できる。更には、それ自体を軽量化することで、設置作業等を容易に行えるため省エネルギー化に寄与できる。また軽量化した分、資源の使用量も低減可能となり、省資源化に寄与できる。
【0004】
したがって、高い破壊強度を有しながら、軽量で低熱伝導性を有する耐火キャスタブルが求められている。ところが、従来の耐火キャスタブルは、高い破壊強度が求められているため、緻密な組織から構成されており、質量が大きいものばかりであった。
【0005】
一方、従来のキャスタブルには、軽量化が図られているものがいくつか知られており、例えば、軽量骨材を用いたキャスタブルとして、セラミックファイバーを使用する断熱キャスタブル(特許文献1参照)、アルミナ中空粒子などの軽量骨材を使用した断熱キャスタブル(特許文献2〜4参照)、また、アルミニウム溶湯取鍋の内張材としてアルミナ中空粒子を使用したキャスタブル(特許文献5参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−245271号公報
【特許文献2】特開平9−301779号公報
【特許文献3】特開平11−49577号公報
【特許文献4】特開2004−299959号公報
【特許文献5】特開2003−112256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたセラミックファイバーを使用した断熱キャスタブルは、1400℃乾燥品の嵩比重が1.4以下であり、曲げ強さが5MPaと低い。特許文献2に記載された中空粒子などの軽量骨材を使用した断熱キャスタブルは、1400℃乾燥品の嵩比重が1.5以下であり、曲げ強さが10MPa以下と低い。特許文献3に記載された中空粒子などの軽量骨材を使用した断熱キャスタブルは、1500℃乾燥品の嵩比重が1.0以下であり、圧縮強さが25MPa以下と低い。特許文献4に記載された中空粒子などの軽量骨材を使用した断熱キャスタブルは、1000℃乾燥品の嵩比重が0.6以下であり、圧縮強さが1MPa以下と低い。特許文献5に記載されたアルミナ中空粒子を使用したキャスタブルは、1200℃乾燥品の嵩比重が1.8以下であり、圧縮強さが25MPa以下と低い。
【0008】
以上のとおり、上記した従来の軽量のキャスタブルはいずれも破壊強度が低く、耐火キャスタブルとして用いるには性能が十分でなかった。
【0009】
そこで、本発明は、従来の耐火キャスタブルの特徴である、高い破壊強度を有しながら、軽量で低熱伝導性の耐火キャスタブルを形成可能な粉体組成物及びそれを用いた耐火キャスタブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の中空粒子を耐火骨材として用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、アルミナ−ジルコニア質中空粒子、を必須成分として含有する耐火キャスタブル用粉体組成物であって、前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%、かつ、AlとZrOの合量が96質量%以上であるアルミナ−ジルコニア質中空粒子を含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の耐火キャスタブルは、上記本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物に、水分を添加し混練して施工することで得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物によれば、アルミナ−ジルコニア質中空粒子という軽量の新規の骨材を使用することで、従来の軽量骨材を使用した断熱キャスタブルでは得られなかった高い破壊強度を有し、軽量で低熱伝導性の耐火キャスタブルが得られる。
【0013】
また、本発明の耐火キャスタブルによれば、従来軽量化が困難であった耐火キャスタブルの軽量化を可能とし、省エネルギー化、省資源化に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、高い破壊強度を有し、軽量で低熱伝導性の耐火キャスタブルを形成可能な耐火キャスタブル用粉体組成物であり、所定の骨材を必須成分として含む。なお、本明細書において、粉体組成物に含まれる成分量について使用されている、「内掛け」とは、粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%としたとき、100質量%の中でのそれぞれの成分割合をいう。例えば、耐火骨材を内掛けで90質量%含むとは、該耐火骨材の含有量を含めた粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%とし、かかる100質量%中、耐火骨材を90質量%含むことをいう。一方、「外掛け」とは、粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%としたとき、かかる100質量%に含まれていない成分の耐火物全体(外掛け表示成分を含まない)を基準にした割合をいう。例えば、添加剤を外掛けで0.1質量%とは、該添加剤を含まない粉体組成物全体(外掛け表示成分を含まない)を100質量%として、添加剤を付加的に0.1質量%含むことをいう。
【0015】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、耐火骨材と、水硬性結合剤とからなり、耐火骨材としては、アルミナ−ジルコニア質中空粒子からなる軽量耐火骨材を必須成分として挙げられる。なお、本明細書において、骨材とは平均粒径が20μm超の粒子をいう。
【0016】
本発明で用いる軽量耐火骨材は、その化学成分としてAl成分及びZrO成分を必須成分とし、そのAl成分の含有量を67〜99質量%、ZrO成分の含有量を1〜33質量%、かつ、それらの合量(Al+ZrO)が96質量%以上としたアルミナ−ジルコニア質中空粒子である。
【0017】
Al成分の含有量が67質量%未満、ZrO成分の含有量が33質量%を超えると、ジルコニア比率が高くなるためジルコニアの相転移に伴う体積変化を吸収しきれず、粒子に亀裂が生じやすくなり、粒子強度の低下のおそれがある。また、アルミナに比べて比重の大きいジルコニアの比率が高くなるため質量が重くなり、目的の一つである軽量化の点で問題となる。さらに、ジルコニアは原料単価が高いため、製造原価の点でも問題となるおそれがある。一方、Al成分の含有量が99質量%を超え、ZrO成分の含有量が1質量%未満であると、破壊強度が十分に確保できなくなる。また、アルミナよりも熱伝導率の低いジルコニアが少量となり、熱伝導の低下効果が減少する。さらに、アルミニウム、ガラス、アルカリなどに対する耐食性に優れるジルコニアが少量となると、耐食性が十分に確保できなくなる。そして、ジルコニアが少量となることで中空粒子の質量が軽くなるため、耐火キャスタブルの施工中に中空粒子が浮き上がり、材料分離が発生するおそれがある。
本発明で用いる軽量耐火骨材は、Al成分の含有量が68質量%以上で、かつ、ZrO成分の含有量が32質量%以下であると同様の理由で好ましい。
【0018】
また、それらの合量(Al+ZrO)が96質量%未満であると、その他の成分が不純物となって存在するため、上記効果のバランスがとれず、本発明の目的とする特性を有する耐火骨材が得られない。また、軽量耐火物粒子を電融法により製造する場合には、前記合量が96質量%未満であると、溶解温度が低下し過ぎて中空の軽量耐火骨材粒子が製造できないおそれもある。前記合量が98質量%以上であると同様の理由で好ましい。
【0019】
通常、ZrOの常温で安定な結晶構造は単斜晶相であり、1100℃前後で相転移して大きな体積変化を示すため、そのままでは焼結体の製造は難しい。一般的には、ZrO成分を主成分とする耐火物原料ではCaO等を添加して立方晶に安定化して使用される。
【0020】
これに対し、上記のようにAl成分及びZrO成分を所定割合で配合し、コランダム鉱物とバデライト鉱物が複雑に絡んだ構造とすることで、高温で安定化されていない単斜晶相からなるZrOを含有していても、熱的に安定な耐火骨材とできる。具体的には、ZrO成分の転移する温度をまたいで熱サイクルを与えても粒子に亀裂が入ることを効果的に抑制し、耐火物原料として使用することを可能とした。
【0021】
なお、ZrO成分の含有量は、粒子が破砕しにくい充分な強度を有し、低熱伝導性、耐食性を付与する観点から3質量%以上が好ましく、また、ジルコニアの転移温度をまたぐ、850℃〜1250℃の熱履歴を与えても粒子に亀裂が発生するのを効果的に抑制できる点から、31.5質量%以下が好ましい。ZrO成分の含有量が31質量%以下であるとさらに好ましい。
【0022】
この軽量耐火骨材は、その最大粒径が4.0mmを超えると、耐火キャスタブルの破壊強度が低下するおそれがあるので、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物において、軽量耐火骨材の最大粒径は4.0mm以下が好ましい。さらに、この軽量耐火骨材の粒径が2.5mm以下であると、破壊強度が高まるためさらに好ましい。
【0023】
本発明に用いる軽量耐火骨材は、耐火骨材として、それを適用した耐火物の耐火性を高められ、その溶解温度(融点)は1700℃以上が軽量、良好な断熱性、かつ良好な耐熱性をバランスさせる点で好ましい。溶解温度は1750℃以上がさらに好ましく、1800℃以上が特に好ましい。なお、耐火物の耐熱性は、耐火度で表現することもあるが、上記溶解温度は、耐火度としては、SK番号表示で39〜42に相当する。
【0024】
さらに、この軽量耐火骨材は、耐火物の品質を向上させるなどの観点から実用的な強度を有することが求められる。本発明に用いる軽量耐火骨材は、Al成分及びZrO成分を併用したことにより、Al成分単独で構成された耐火骨材よりも強度が高い。そのため、この軽量耐火骨材で耐火物を構成した際に骨材が破損したりする等により、耐火物の形状や性能が変動することを抑制し、安定した耐火物とできる。
【0025】
上記に説明した本発明の軽量耐火骨材は、その原料としてAl及びZrO原料を所定の配合比率に混合し、Al成分及びZrO成分を、それぞれ得られるAl成分及びZrO成分の比で含有するようにして、軽量耐火骨材の出発原料とする。
【0026】
軽量耐火骨材の製造方法としては、焼結法又は電融−風砕法が一般的に用いられる。前者では有機物などの球状粒子を芯材としてその周囲に原料を絡め、焼成することにより、有機物などの芯材を揮発させ中空耐火物原料を製造する。また後者では国際公開第2009/072627号公報に記載されているように、所定の組成の原料をアーク式の電気炉などで溶解し、その溶解原料に高圧の空気などを吹き付けて中空粒子化する方法がある。本発明の軽量耐火骨材を得るには、いずれの方法を用いることも可能であるが、製造コストの面から電融法が有利である。
【0027】
また、焼結法では組成を自由に選ぶことが可能であるが、電融法では、Al成分及びZrO成分の合量が、96質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、99.3質量%以上が特に好ましい。電融法においては、不純物成分値が高くなると一般的に原料の溶融温度の低下を招き、結果として中空粒子が製造できないか、もしくは嵩比重が低下せず、軽量を実現する中空の耐火骨材を得られない場合がある。
【0028】
また、その製造方法による製造過程で、不純物成分がなくなる場合には、原料としてそのような成分が含まれていても問題ない。例えば、国際公開第2009/072627号公報に記載されているように、使用済みの耐火物をリサイクルして、Al成分及びZrO成分の含有量を高純度化し、高酸化性の耐火物粒子を簡便かつ、生産性良く製造する電融法による耐火物粒子の製造方法を用いてもよい。
【0029】
本発明の耐火骨材としては、上記した軽量耐火骨材の他に、一般的に耐火物の原料として使用されている、例えば、アルミナ、ボーキサイト、ムライト、アンダルサイト、シャモット、シリカ、炭化ケイ素、ジルコン、ジルコニア、マグネシア、スピネルなどの公知の耐火骨材が使用できる。
【0030】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、上記した軽量耐火骨材と従来公知の耐火骨材から選ばれる少なくとも1種の耐火骨材と、を併用することが好ましい。このように併用した場合には、形式的には、従来の耐火キャスタブル用粉体組成物の耐火骨材の一部を、アルミナ−ジルコニア質中空粒子で置換したものとなる。このような構成とすることで、従来の耐火キャスタブルの特徴である高い破壊強度、を維持しながら、軽量で低熱伝導性という特性をも得られる。
【0031】
また、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物中における、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量を内掛けで5〜65質量%、残りを従来公知の耐火骨材として、耐火骨材を構成すると、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物の施工体の嵩比重および破壊強度がよりバランスよく確保されるため好ましい。本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物において、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量が内掛けで10〜60質量%であるとより好ましく、アルミナ−ジルコニア質中空粒子の含有量が内掛けで40〜55質量%であると特に好ましい。
【0032】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物においては、アルミナ−ジルコニア質中空粒子以外の軽量骨材を含んでいてもよい。ここでいう軽量骨材は、アルミナ中空粒、ジルコニア中空粒、CA6質軽量骨材などが挙げられる。
【0033】
次に、本発明に用いる水硬性結合剤は、アルミナセメントを必須成分とし、必要に応じてシリカ超微粉やアルミナ超微粉、分散剤、硬化調整剤を含有する。また、フッ化アルミニウムやフッ化カルシウムなどの浸透抑制剤を含有させ、アルミニウム溶湯の浸透を抑制することもできる。このほか、添加剤を含ませることによって、さまざまな機能が付与できる。
【0034】
ここで、本発明で用いられるアルミナセメントは、上記骨材のバインダーとして機能し、主鉱物がアルミン酸カルシウムからなる。耐熱性の問題から、1995年のJIS規格(R−2511)によるところの1種〜5種のアルミナセメントが用いられる。
【0035】
シリカ超微粉は、従来、耐火キャスタブル用粉体組成物に用いられているシリカ微粉であればよく、平均粒径が20μm以下のシリカ粉末であり、SiO含有量が90%以上であるシリカ微粒子が好ましく、1μm未満がより好ましい。シリカ微粒子としては、具体的にはシリカヒュームなどが挙げられる。
【0036】
また、アルミナ超微粉は、従来、耐火キャスタブル用粉体組成物に用いられているアルミナ微粉であればよく、それ自体の凝集力が強く、耐火物用粉体組成物を耐火物とする際に硬化を促進する作用を有する。このアルミナ微粉は、平均粒径が20μm以下のアルミナ粉末であり、仮焼アルミナが好ましい。このとき、アルミナ微粉は、その凝集により耐火物の硬化を促進する観点から、平均粒径が10μm未満の粒子を用いられ、5μm未満が好ましい。
【0037】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、所要の水分を添加後、ミキサーを用いて混練して坏土とし、それを所定の型枠の中に流し込んだ後、乾燥させて耐火キャスタブル(施工体)とする。
【0038】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物を使用した流し込み施工方法では、上記所要の水分量としては、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物100質量部に対して、3〜15質量部とし、それを前記粉体組成物に添加することが好ましい。言い換えれば、外掛けで3〜15質量%の水分を添加するのが好ましい。水分量が外掛けで3質量%未満であると、施工ができないおそれがあり、一方、水分量が外掛けで15質量%を超えると骨材と添加水分との分離のおそれがある。
【0039】
本施工方法の混練用ミキサーとしては、粉体組成物及び添加水を均一に混合できるものであれば特段制限されず、汎用のミキサーが使用される。
【0040】
本発明の耐火キャスタブルは、上記したように軽量で低熱伝導性であり、破壊強度の大きいキャスタブルである。耐火キャスタブルの特性として、具体的には、その嵩比重は1.5以上が好ましく、1.5〜2.6がより好ましい。また、この耐火キャスタブルの熱伝導率は2.8(W/(m・K))以下が好ましく、2.0(W/(m・K))以下がより好ましい。圧縮強さは25MPa以上が好ましく、50MPa以上がより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の耐火キャスタブルの例を実施例(例1〜例3、例5〜例7)及び従来の耐火キャスタブルの例を比較例(例4、例8)で説明する。なお、本願発明は、これら実施例に限定されない。
【0042】
[耐火軽量骨材の調製]
炉内径直径800mm、高さ600mm、炉内容積0.6m3のアーク式溶融炉を試験炉として使用し、トランスとしては500kVAを使用した。なお、溶融炉の内張耐火物は、Al含有量97%以上の電鋳耐火物を使用した。
【0043】
Al原料としては99.3%以上の純度のバイヤーアルミナ、ZrO原料としては99.5%以上の純度の電融ジルコニアカレットを用い、これら原料を所定の組成に混合して、最終的にAl成分及びZrO成分が表1の割合(質量%)となるように溶融原料とした。
【0044】
これらの溶融原料を電気炉で溶融した。溶融条件は電圧100−300V、電力100〜400kWで、溶融用混合原料の全体投入時間は20〜30分であった。溶解に必要とした電力は1トン当たり約2000kWhであった。
【0045】
次に、圧力4MPaの圧縮空気に0.4L/秒の水を加え、圧縮空気を水と共に溶融物の下方から前方に向けて出湯された溶融物に吹付けて、溶融物を粒子化した。粒子は耐火物で保護された金属製の捕集容器にて回収し、耐火物粒子とした。このときの圧縮空気の流速は100m/秒であった。
【0046】
この溶融法により得られた粒子の粒度は95%以上が、0.1〜4mmの範囲であり、98%以上が0.05〜15mmの範囲であった。このとき粒度のピークは1.2mmであった。
【0047】
ここで得られたアルミナ・ジルコニア中空粒子1(表中、AZ中空粒子1と略記)の化学成分は、Al量;68.2質量%、ZrO量;31.4質量%、その他;0.4質量%であり、アルミナ・ジルコニア中空粒子2(表中、AZ中空粒子2と略記)の化学成分は、Al量;93.1質量%、ZrO量;6.4質量%、その他;0.5質量%である。
【0048】
本実施例で用いるAZ中空粒子の化学成分を蛍光X線回折装置(リガク社製)により分析した結果及びその他特性を調べた結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
〔嵩比重〕
嵩比重は、体積既知の容器に0.1〜1.0mmの中空粒子を軽く三回タップし充填し、擦りきり後の質量を測定して算出した。粒子の粒径を揃えた理由は、変動要素を軽減するためである。
【0051】
〔熱伝導率〕
中空粒子のサンプルについて常温(20℃)、500℃、1000℃の熱伝導率(W/(m・K))を測定した。熱伝導率の測定に用いた粒子は、0.1mm〜1.0mmの粒径を有するもので篩により分級した粒子を使用した。熱伝導率の測定には高温熱伝導率自動測定装置(スペインラボ社製、商品名:HMW−15)を用いた。
【0052】
[耐火キャスタブル用粉体組成物及び耐火キャスタブルの製造]
上記得られたAZ中空粒子1をその粒度が2.5mm〜0.1mmとなるように篩により選別し、用いるAZ中空粒子1とした。
表2及び表3のAZ中空粒子配合量が0%である例4と例8は、従来の耐火キャスタブル用粉体組成物であり、例4と例8は市販の低セメントキャスタブル製品である。それ以外の例1〜例3は例4の、例5〜例7は例8のそれぞれの耐火キャスタブル用粉体組成物を目開きが0.1mmの篩網で篩上と篩下に分け、篩上の耐火骨材の一部をAZ中空粒子1で置換し、篩下と再混合して粉体組成物とした例である。すなわち、篩上の耐火骨材をAZ中空粒子で所定量を置換した耐火キャスタブル用粉体組成物である。
【0053】
それぞれ表2及び表3に示した所定水分量を添加して、市販のミキサーで約3分混練して、坏土とし、それを型に流し込んでJIS R2553にしたがってサンプル(寸法:160mm×40mm×40mm)とした。得られた各サンプルについて、嵩比重はアルキメデス法により、曲げ・圧縮強さはJIS R2553に、熱伝導率はJIS R2616に、それぞれ準じて測定した。ここで、AZ中空粒子の配合量は内掛の質量%である。
【0054】
得られた結果を表2及び表3に示す。なお、表2の嵩比重、曲げ強さ、圧縮強さは、1400℃で3時間乾燥後のサンプルについての値を、それぞれ示す。また、表3の嵩比重、曲げ強さ、圧縮強さは、1200℃で3時間乾燥後のサンプルについての値を、それぞれ示す。熱伝導率は、いずれも400℃で5時間乾燥したサンプルを1000℃で測定した値を示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
以上に示したように、本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、特定のアルミナ−ジルコニア中空粒子を従来の耐火骨材の一部に用いることで、得られる耐火キャスタブルの嵩比重を小さく、熱伝導性を低くできる。それでいて、破壊強度は耐火キャスタブルとして求められる強度を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の耐火キャスタブル用粉体組成物は、従来の耐火キャスタブルの特徴である、高い破壊強度を有し、中空粒子を骨材としているため軽量で、かつ、熱伝導率が低いため断熱性が高く、高温環境下において用いる耐火物として広く使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ−ジルコニア質中空粒子を必須成分として含有する耐火キャスタブル用粉体組成物であって、
前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子が、Alを67〜99質量%、ZrOを1〜33質量%、かつ、AlとZrOの合量が96質量%以上であるアルミナ−ジルコニア質中空粒子を含有することを特徴とする耐火キャスタブル用粉体組成物。
【請求項2】
前記アルミナ−ジルコニア質中空粒子を内掛けで5〜65質量%含有する請求項1記載の耐火キャスタブル用粉体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐火キャスタブル用粉体組成物に、水分を添加し混練して施工することで得られることを特徴とする耐火キャスタブル。
【請求項4】
嵩比重が、1.5以上である請求項3記載の耐火キャスタブル。
【請求項5】
圧縮強さが、25MPa以上である請求項3又は4記載の耐火キャスタブル。

【公開番号】特開2012−72051(P2012−72051A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184316(P2011−184316)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(391040711)AGCセラミックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】