説明

耐火セルロース系ハニカム構造体

【課題】ホウ素化合物の持つセルロースに対する脱水炭化作用と熱溶融特性と、ハニカム構造体の低熱伝導特性との相乗効果により、セルロースをホウ素化合物で難燃処理を行うことで、極めて簡単で環境負荷が少なく高性能な耐火セルロース系ハニカム構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】中空構造を有するセルロース積層材1であって、ホウ酸とホウ砂の混合比が概ね4:6のホウ素化合物5を含浸させるため、15〜50重量%の濃度の前記ホウ素化合物5を溶解させたPH7前後の水溶液を60〜80℃に加温し、該水溶液に前記セルロース積層材1を浸漬して前記ホウ素化合物5を含浸させたことを特徴とする耐火セルロース系ハニカム構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造を有するセルロース積層材に、高濃度のホウ素化合物を含浸処理させることで高い不燃性能を付与された耐火セルロース系ハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の木製防火戸(防火扉も法令上含まれる)に使用される不燃材は、建築基準法第2条第9号及びISO834に規定された、図6(a)の耐火加熱曲線における耐火性能を示す遮炎性能試験で、20分間片面を加熱(加熱面の温度781℃)して、非加熱面に10秒を超えて継続する火炎の噴出及び発火がないこと、また火炎が通る亀裂等の損傷及び隙間が生じないことなどの判定基準を満たす必要がある。
【0003】
その判定基準を満たすため、従来の木製防火戸40の構造は図6(b)に示すように、扉の両面に使用されている表面化粧材34、建築廃材や廃材パレットを接着剤で熱圧縮したパーティクルボードの芯材30、積層材や集成材からなる框材31、火炎などの熱から芯材を守る耐火シート32、及び150℃を超えると膨張して隙間を塞ぐ加熱発泡材33から構成されている。
【0004】
特に木製防火戸は、加熱面の温度に対して非加熱面の温度が10分の1以下に低減するという特徴があり、そのため居住用建物の内装に使用される木製のドアや間仕切りパネル等の建材の難燃化に関し、使用する内装用建材には火災に際して高い難燃性能或いは不燃性能の要求が年々強まっている。
【0005】
内装用建材の不燃材料として、現在石膏ボード等の無機材料が一般に用いられるが、重くて割れ易いという欠点がある。一方、木材などの植物繊維からなるセルロースを原料として製造された積層段ボールやペーパーハニカム等の中空構造を有するセルロース積層材の内装用建材は、成形が自由で環境負荷が少なく安全、安価、軽量という利点がある一方で、燃え易いという欠点がありその使用には制限があった。
【0006】
そのため、内装用建材として植物繊維のセルロースを加工した板紙、或いは板紙から形成されたペーパーハニカムをアスベスト処理した不燃紙や不燃ハニカム材が長年使用されてきたが、周知の通りアスベストを含む製品は、発癌性物質としてその使用が禁止されている。
【0007】
アスベストの使用禁止により、その代替として無機化合物の水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の水和物を、紙に添加加工した無機質紙を加工した不燃ハニカムが考案され開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
また、木材用の難燃剤及び処理方法について、ホウ素化合物の水溶液で処理した木材の着火性、表面燃焼性及び耐火性に関する研究が紹介されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−103979号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「ホウ酸処理木材の表面燃焼性及び耐火性」、林産試験場報第13巻2号8〜14頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、無機化合物の水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の水和物は、水に対して殆ど溶解しない不溶性であり通常の抄紙技術が使用できず、特別な混抄技術が必要な製造となるため工程が複雑で、製作するのが容易ではなくコストが掛かる。更に不燃性を付与するためには、セルロースの量の数倍の重量の無機化合物を配合しなければならないという問題がある。
【0012】
また、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の無機化合物の水和物を使用した製品の難燃性は、主に加熱に際して無機化合物の水和物の結晶水の脱水分解による蒸発潜熱を利用したものであるが、水酸化アルミニウムは200〜350℃、水酸化マグネシウムは300〜400℃で結晶水が脱水分解するため、より高温域では対応できない問題がある。
【0013】
また、無機化合物の水和物を使用した製品は、結晶水の脱水分解が急激に起こるため結晶水の脱水分解後は難燃性を持続できず、これらの無機質紙自体が熱崩壊して耐熱保形性を失う問題があり、この熱崩壊を防ぐためにガラス繊維等の補強材が必要となり、製造工程の複雑さとコストアップを伴う問題がある。
【0014】
更に、建築基準法第2条第9号、及びISO834で定める防火設備や特定防火設備の遮炎性能試験で使用される標準加熱曲線での加熱温度は、加熱開始後5分で耐火標準が約600℃、20分で約800℃、60分で約1000℃近くまで上昇させ遮炎性能を評価するため、試験に対応できる難燃性能或いは不燃性能を備えた製品が求められている。
【0015】
航空機や鉄道車両に使用されているアルミニウムやステンレスを用いた金属ハニカム材は、軽量で不燃性や剛性強度がある反面、金属製のため熱伝導率が高いという欠点があり、特にアルミニウムの場合は融点が660℃と低く、高温に対応できないという問題がある。また、金属ハニカム材はコストにおいてもセルロースを原料とするペーパーハニカム材に比べて著しく高価であり用途も限られる。
【0016】
本発明は上述の課題に着目し成されたもので、植物繊維のセルロースを原料とする板紙及びその成形品である段ボールやペーパーハニカム等のセルロース系ハニカム構造体を、安全で安価な難燃剤である高濃度のホウ素化合物の水溶液に浸漬させ、中空構造のセルロース系ハニカム構造体に大量のホウ素化合物を含浸させる難燃処理を施すことで、有機物でありながら無機物の石膏ボードに匹敵するほどの高い不燃性能を備え、軽量且つ低コストで量産可能な耐火セルロース系ハニカム構造体を提供することを目的とする。
【0017】
また、ホウ素化合物の持つセルロースに対する脱水炭化作用と熱溶融特性、更にハニカム構造体の持つ低い熱伝導特性との相乗効果により、セルロースの持つ利点を最大限に活かしホウ素化合物のみで難燃処理を行う製法によって、極めて簡単で環境負荷が少なく高い不燃性能を備えた耐火セルロース系ハニカム構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は上述の目的を達成するため、以下(1)〜(4)の構成を備えるものである。
【0019】
(1)中空構造を有するセルロース積層材であって、ホウ酸とホウ砂の混合比が概ね4:6のホウ素化合物を含浸させるため、15〜50重量%の濃度の前記ホウ素化合物を溶解させたPH7前後の水溶液を60〜80℃に加温し、該水溶液に前記セルロース積層材を浸漬して前記ホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする耐火セルロース系ハニカム構造体。
【0020】
(2)前記ホウ素化合物の水溶液は、前記セルロース積層材に前記ホウ素化合物の含浸率を上げるため、デンプンが更に付加されていることを特徴とする前記(1)記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。
【0021】
(3)前記中空構造を有するセルロース積層材は、セルロースで形成されたペーパーハニカム及び段ボールを複数積層した積層構造からなることを特徴とする前記(1)または(2)記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。
【0022】
(4)前記ホウ素化合物の水溶液は、その濃度を前記15〜50重量%の間で変えて前記セルロース積層材を浸漬させることで、15重量%で難燃性能、50重量%で不燃性能を具備することを特徴とする前記(1)乃至(3)いずれか1項に記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、他の難燃剤、難燃補助剤、浸透剤、発泡剤、充填剤等を一切使用せず含浸率を上げるためのデンプンをバインダーとして添加する以外は、ホウ素化合物のみで難燃処理を施すことによって優れた不燃性と耐熱保形性を併せ持つ、植物繊維のセルロースを原料として成形された耐火セルロース系ハニカム構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体の斜視図図、(b)ホウ素化合物水溶液による含浸方法を示す図
【図2】(a)15重量%のホウ素化合物を含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体の試験体を示す図、(b)建築基準法第2条第9号及びISO5660に係る不燃材料の防火性能試験結果を示す図
【図3】15重量%のホウ素化合物を含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体の試験体の防火性能試験結果を示すグラフ
【図4】(a)50重量%のホウ素化合物を含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体の試験体を示す図、(b)建築基準法第2条第9号及びISO5660に係る不燃材料の防火性能試験結果を示す図
【図5】50重量%のホウ素化合物を含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体の試験体の防火性能試験結果を示すグラフ
【図6】(a)木製防火戸の建築基準法第2条第9号及びISO834に係る耐火標準加熱曲線を示す図、(b)従来の木製防火戸の構造図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づいて詳しく説明する。
【実施例】
【0026】
図1(a)は本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体10を示し、その構造は、植物繊維のセルロース系ハニカム構造体1の持つ同一断面形状の細孔からなるセル2の集合体であり、通常のハニカム構造と呼ばれているセル2の断面形状が六角形状に限定するものではない。即ちペーパーハニカムやロールコア、板紙で波板を挟み込んだ段ボール、及び積層段ボール等も含めた中空構造を持つ同一断面形状の細孔であるセル2の集合体で、植物繊維からなるセルロースを原料とする中空構造のセルロース積層材の総称として、セルロース系ハニカム構造体1とするものである。
【0027】
本実施例では、説明を簡単にするためセルロース系ハニカム構造体(以下ハニカム構造体と記す)1の形状は、平板と波板を交互に重ねた中空構造の細孔からなるセル2の集合体のセル層2aを積層した積層段ボールを例として説明する。積層段ボールからなるハニカム構造体1は、波板の高さや積層するセル層2aの段数を変えることで厚さを調整することが可能であり、また波板のピッチや紙厚を変更することで密度を変更することも可能で、顧客の要求に対して柔軟に対応できる優れたハニカム構造体1となっている。
【0028】
ハニカム構造体1は、セルロースを原料とする紙で形成されており、空隙率が高く質量が小さい。また、ハニカム構造のセル層2aの特徴として中空構造のセル2の細孔では空気の移動が制限され、積層されたセル層2aの上下左右の壁面で其々のセル2が隔離された構造により対流が抑制されるため、難燃処理なしでも熱伝導率が極めて小さいという特徴を有する。しかし当然のことながら難燃処理なしでは、植物繊維のセルロースを原料とするハニカム構造体1は、炎で加熱すれば瞬時に燃え尽きてしまう。
【0029】
上述したハニカム構造体1の持つ優れた特徴を活かし、安価なホウ素化合物5で難燃処理を如何に施すかが、その処理方法により環境負荷が少なく高い不燃性能を備えた耐火セルロース系ハニカム構造体10を製造する重要な鍵となる。
【0030】
図1(b)に示すように、デンプンの一種のコーンスターチをバインダーとして添加した高濃度のホウ素化合物5の加温した水溶液に、ハニカム構造体1を浸漬して含浸処理を施すことで含浸率を上げ、ハニカム構造体1に多量のホウ素化合物5を含浸させることができる。ハニカム構造体1にホウ素化合物5を含浸させた後、乾燥させた耐火セルロース系ハニカム構造体10は、含浸前のハニカム構造体1と外観上の変化は無い。
【0031】
しかし、乾燥後の耐火セルロース系ハニカム構造体10は、ハニカム構造体1に含浸させたホウ素化合物5が、加熱される過程で脱水炭化作用を発揮することにより耐火セルロース系ハニカム構造体10が炭化し、その炭化した耐火セルロース系ハニカム構造体10の表面を熱溶融したホウ素化合物5が覆うことで、空気を遮断して難燃性能を更に高める効果が得られる。
【0032】
<ホウ素化合物の難燃作用>
ホウ素化合物5で難燃処理された耐火セルロース系ハニカム構造体10については、ホウ素化合物5が木材や木質系材料の防火剤や難燃剤として効果のあることが以前から知られていることを利用して製造されている。
【0033】
しかし、ホウ素化合物5は他のハロゲン系や燐系の難燃剤に比べて安全性は高いが、常温では水に数パーセントしか溶解しないため、ホウ素化合物5単独では被処理物に十分な量を含浸させることができず、期待される難燃効果を得るために、通常は他の難燃剤や難燃補助剤と併用して使用されることが多く、ホウ素化合物5を含浸させる上で最大の課題であった。また、木材や木質系材料をホウ素化合物5の高温の水溶液で処理して含浸量を増加させても、乾燥後にホウ素化合物5が木材や木質系材料の表面に析出するという課題もあった。
【0034】
しかし、例えば特開2005−112700号公報等に開示されている高濃度のホウ素化合物の水溶液を作り出す方法により、高濃度のホウ素化合物5の水溶液を利用して木材や木質系材料に含浸させることが可能となった。上記方法はこの高濃度のホウ素化合物5の水溶液で、ハニカム構造体1に多量のホウ素化合物5を含浸させる含浸処理の技術の基本となっている。
【0035】
また、乾燥後に耐火セルロース系ハニカム構造体10に含浸させたホウ素化合物5は、加熱される過程でホウ素化合物5の持つセルロースに対する脱水炭化作用により耐火セルロース系ハニカム構造体10が炭化した後、その炭化した耐火セルロース系ハニカム構造体10の表面をホウ素化合物5が熱溶融して覆うことで、空気を遮断する溶融被膜を形成して難燃性を更に高める効果が得られる。
【0036】
このホウ素化合物5の難燃作用については、加熱によりホウ素化合物5が溶融して被燃焼材料の表面に溶融被膜を形成し、空気の供給を遮断する物理的な作用によるものであると当初は考えられてきたが、ホウ素化合物5が難燃剤として燐酸系と同様な化学的な作用を持つことが知られたのは1960年代に入ってからである。
【0037】
通常、ホウ素化合物5が防火剤、難燃剤として有効に作用するのは、木材のセルロース等の水酸基を持つ材料に限るとされ、ホウ素化合物5は水酸基を持つセルロース等の材料の熱分解に深くかかわりを持ち、水酸基からの脱水素及び脱水とそれに伴う炭素残渣の増加をもたらす脱水炭化作用と、炭素の酸化及び気化の阻害作用の二つの作用があるとされている。
【0038】
ごく最近の研究では、例えば特開2008−163050号公報で開示されているホウ素化合物5であるホウ酸の添加量が一定量を超えると、ホウ酸は硫酸や塩酸等の強酸と同様にセルロースの炭化温度を著しく低温側にシフトさせて炭化を促進させる酸触媒としての作用を発揮するとされている。また、硫酸によるセルロースの熱分解を制御して、レボグルコサンの生成を経由しないで炭化収率を向上させる方法も紹介されている。
【0039】
従来、難燃剤としてのホウ素化合物5はホウ酸とホウ砂の混合物が使用されるが、ホウ酸とホウ砂の最適混合比に関して長い間論議されてきたが、その理論的根拠については不明であり、またホウ素化合物5が難燃剤として有効に作用するには、アルカリ金属、或いはアルカリ土類金属の存在が不可欠であることが分かってきた。
【0040】
ホウ酸とアルカリ金属の配合比が適切であれば、木材や木質材料の赤熱反応と発火反応の両方を効果的に抑制することが可能であると考えられ、更にホウ酸はアルカリ金属の存在下で、水に対する溶解度が上がることも知られるようになった。従って、経験的にしか知られていなかったホウ酸と、ホウ酸アルカリ金属塩であるホウ砂を混合することで難燃性が向上することの理由が判明した。
【0041】
本実施例のホウ素化合物5の水溶液は、ホウ酸とホウ砂の混合水溶液で混合比を概ね4:6とすることで、酸性紙などに見られる経年劣化を考慮したph7前後になるように調整した水溶液であり、その濃度は要求される難燃性能に応じて15〜50重量%の濃度とする。また、ハニカム構造体1を浸漬する際、ホウ素化合物5の十分な溶解度を得るために水溶液の温度は60〜80℃の範囲とする。
【0042】
更に本実施例では、デンプンの一種であるコーンスターチをバインダーとして添加することで、ハニカム構造体1に多量のホウ素化合物5を含浸させる処理を行っている。
【0043】
<ハニカム構造体のホウ素化合物による難燃処理>
図1(b)に示すホウ素化合物5の高温の水溶液で処理し、含浸量を増加させたハニカム構造体1を使用して、濃硫酸の存在下の常温で起こるセルロースの急激な脱水炭化作用が、多量のホウ素化合物の存在下でも加熱することによって急激に起こることを後述する検証試験によって確認した。
【0044】
耐火セルロース系ハニカム構造体10の特徴は、ハニカム構造体1のセル2の持つ構造上の特徴である低熱伝導特性と大きな比表面積により、多量のホウ素化合物5の存在下でのセルロースの燃焼挙動時において、低温域で炭化を促進させる酸触媒としての作用を発揮させることで劇的に促進されるホウ素化合物5の脱水炭化作用と、ホウ素化合物5の加熱による熱溶融被膜を形成することができる点にある。
【0045】
本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体10の製造は、図1(b)に示すようにハニカム構造体1を60〜80℃の範囲に加温した高濃度のホウ素化合物5の水溶液に浸漬し含浸させた後、乾燥させる難燃処理方法が採られている。ハニカム構造のセル2は空隙率が高く比表面積も大きいが、ハニカム構造体1を構成する紙も三次元網目構造を持ち空隙率が高く比表面積も大きいため、積層したハニカム構造体1は、全体として多量のホウ素化合物5を含浸させるのに最適な材料であるといえる。またホウ素化合物5の含浸率を上げる目的で、ホウ素化合物5の水溶液にはデンプンの一種のコーンスターチをバインダーとして添加する。
【0046】
また、ホウ素化合物5は、セルロース等の多糖類と化学反応を起こしてエステルを形成することが知られており、本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体10には、物理的、化学的の両面で多量のホウ素化合物5が含ませることが可能となる。
【0047】
本実施例のハニカム構造体1をホウ素化合物5の水溶液に浸漬する時間について、浸漬時間はおおよそ5〜10秒程度とし、被浸漬物の材質やサイズに応じて適宜調整することも可能である。また、ハニカム構造体1を所定の含水率まで乾燥させる際、その乾燥方法については特に限定しない。
【0048】
<耐火セルロース系ハニカム構造体の防火性能試験>
本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体10の難燃作用について、外部機関に委託し実施した防火性能試験結果により説明する。
【0049】
図2〜図5は、本実施例の耐火セルロース系ハニカム構造体10の建築基準法第2条第9号に係る不燃材料の防火試験で、「コーンカロリーメーターによる発熱性試験」の検証試験の結果である(財団法人日本建築センターが定めた「防耐火性能試験・評価業務方法書」の難燃性能試験・評価方法に基づく発熱性試験)。
【0050】
試験方法の判定基準は、建築基準法第2条第9号に規定される試験体が「難燃」、「準不燃」、「不燃」の其々の基準を満足する場合に合格と判断される。
【0051】
難燃は、加熱開始後5分間の総発熱量が8MJ/m以下であること、加熱開始後5分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと、また加熱開始後5分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えないこと、この基準を満足する場合に合格としている。
【0052】
準不燃は、加熱開始後10分間の総発熱量が8MJ/m以下であること、加熱開始後10分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと、また加熱開始後10分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えないこと、この基準を満足する場合に合格としている。
【0053】
不燃は、加熱開始後20分間の総発熱量が8MJ/m以下であること、加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと、また加熱開始後20分間、最高発熱速度が10秒以上継続して200KW/mを超えないこと、この基準を満足する場合に合格としている。
【0054】
以上の試験方法の判定基準に基づき、ホウ素化合物5の濃度が15重量%と50重量%の水溶液に浸漬し含浸処理を施した耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体について、難燃性能の検証を行った。
【0055】
図2(a)はハニカム構造体1を60℃のホウ素化合物5の15%水溶液で浸漬し、含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体で、材料構成は古紙100%のD3と呼ばれる120g/mの紙材で作られた積層段ボールである。
【0056】
同一条件で形成された試験体は、縦横幅が99mm,厚さ20mmの段ボール積層材で、ホウ素化合物5の15重量%水溶液を含浸させ、質量が約31〜34gの耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体No.1〜3で検証試験を行った。
【0057】
図3(b)に示す試験結果より、ホウ素化合物5の15重量%水溶液で難燃処理された耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体は、いずれも難燃性能試験に合格であったが、準不燃及び不燃性能は不合格であった。三試験体共に試験初期の加熱によるガス発生がみられ、約1分後に一度着火して消炎し、その後の5〜6分後に再着火し1〜3分間発炎が継続したが、その後消炎して安定する。また試験後の試験体の状況では、ハニカム構造体1のセル2構造は保持したまま炭化し、炭化による縦横寸法の収縮がみられた。
【0058】
図3(a),図3(b),図3(c)は、耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体No.1〜3の発熱速度及び総発熱量測定曲線を示すグラフで、三試験体共にほぼ同一の性能を示す結果となっている。発熱速度は、最初の着火と二度目の着火のときに上昇が見られるが消炎後は安定し、最大でも50kW/mを超えることはない。また、総発熱量は再発炎に合わせて上昇し、7〜8分前後に8MJ/mを超える結果であった。質量も加熱される過程で、脱水炭化作用による水分の蒸発により減少することが確認された。
【0059】
図4(a)はハニカム構造体1を60℃のホウ素化合物5の50%水溶液で浸漬処理し、含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体で、材料構成は古紙100%のD3と呼ばれる120g/mの紙材で作られた積層段ボールである。
【0060】
試験体は同一条件で形成され、縦横幅が99mm,厚さ20mmの段ボール積層材で、ホウ素化合物5の50重量%水溶液を含浸させ、質量が41〜43gの耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体No.4〜6で検証試験を行った。
【0061】
図4(b)に示す試験結果より、ホウ素化合物5で難燃処理された耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体は、いずれも最高基準の不燃性能試験に合格し、三試験体共に結果のばらつきが少なく、試験初期の加熱によるガス発生及び着火はなかった。試験後の試験体の状況では、ハニカム構造体1の炭化によるセル2構造を保持し、炭化による縦横寸法の収縮がみられた。
【0062】
図5(a),図5(b),図5(c)は、耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体No.4〜6の発熱速度及び総発熱量測定曲線を示すグラフで、三試験体共にほぼ同一の性能を示す結果となっている。20分間の試験において、発熱速度は最高でも10kW/mを超えることはなく安定し、総発熱量も6MJ/m以下の性能を示して、難燃、準不燃、不燃の基準を全て満足している。
【0063】
特に、図4に示すホウ素化合物5の50重量%水溶液を含浸させた耐火セルロース系ハニカム構造体10の試験体No.4〜6は、法令上では12.5mmの石膏ボードと同等の不燃材料として認定を受けることができる性能を備えていることが確認された。
【0064】
上記の検証試験の結果から、セルロースで形成されたハニカム構造体1のセル2の持つ比表面積の大きさを利用し、多量のホウ素化合物5を含浸させることによって、他の難燃剤、難燃補助剤、浸透剤、発泡剤、充填剤、補強材を併用せずに高温での加熱に対して、ハニカム構造体1のセル2が熱崩壊することなく長時間保形性を維持できる耐火セルロース系ハニカム構造体10を作成することが可能であることを検証できた。
【0065】
従って、本実施例の耐火セルロース系ハニカム構造体10は、ホウ素化合物5の水溶液の濃度を変えることで、「難燃」、「準不燃」、「不燃」の性能を具備した耐火セルロース系ハニカム構造体10を製造することが可能であり、幅広い顧客の要求に対応できる不燃材料を提供することができる。
【0066】
また、本実施例に係る耐火セルロース系ハニカム構造体10の特徴は、ハニカム構造体1のセル2の持つ構造上の特徴である低熱伝導特性、多量のホウ素化合物5の存在下でのセルロースの燃焼挙動時における脱水炭化作用の劇的な促進と、ホウ素化合物5の加熱による熱溶融被膜が形成されることである。
【0067】
そして、検証試験においてハニカム構造体1の炭化する際にセル2構造が保持された結果より、耐火セルロース系ハニカム構造体10を加熱した場合、ハニカム構造体1のセル2に含浸された多量のホウ素化合物5が存在するため、本来のセルロースの燃焼挙動における熱分解温度よりも低い温度で熱分解が始まり、ホウ素化合物5による脱水炭化作用が劇的に促進されることも確認された。
【0068】
この燃焼挙動時点でのセルロースの熱分解で発生する物質の大半は水蒸気であり、分解ガスによって失われるセルロース中の炭素成分は少なく、セルロース中の大部分の炭素は炭化物として残ることが確認された。従って、図3,図5のグラフの総発熱量が示すように、セルロース中の炭素の殆んどが燃焼に関与せず、そのため発熱量が小さくなることも確認できた。
【0069】
即ち、ホウ素化合物5が水酸基を持つセルロース等の材料の熱分解に深くかかわりを持ち、水酸基からの脱水素及び脱水とそれに伴う炭素残渣の増加をもたらす脱水炭化作用と、炭素の酸化及び気化の阻害作用が確認された。
【0070】
また、この検証試験において加熱によりホウ素化合物5から放出される水蒸気と、セルロースの燃焼分解に伴う水蒸気の蒸発潜熱により耐火セルロース系ハニカム構造体10の温度の上昇は妨げられ、その結果、燃焼による発熱は極めて緩やかなものとなる。
【0071】
同時に、ホウ素化合物5が水蒸気を放出した後、ホウ素化合物5は加熱によって熱溶融してガラス状となり、炭化したセル2を覆う溶融被膜を形成してハニカム構造体1のセル2及びセル層2aの形状を保持し、セル2が崩壊することを防止する効果を発揮する。
【0072】
ハニカム構造体1の積層段ボールの構造は、その特徴である中空構造のセル2の形状も保持されるので、細孔のセル2の中では空気の移動が制限され、更に上下左右のセル2が隔離されたハニカム構造により対流が抑制されることで外部からの酸素の供給が絶たれた状態と、ハニカム構造の熱伝導率が極めて小さいという特徴により、酸素が十分供給されない状態では加熱を継続しても炭化した耐火セルロース系ハニカム構造体10は燃焼せずに赤熱状態を保ち続ける効果を生むことが確認された。
【0073】
即ち、セルロースから変化した炭化物は殆どが炭素のみであり、赤熱状態となってもホウ素化合物5が熱溶融に伴うガラス状の溶融被膜となって炭化物のセル2を覆うことで、酸素の供給が遮断されて高い難燃性を示す結果となった。
【0074】
炭化物は十分な酸素が存在しない環境下では燃焼せず、特に純粋な炭素の場合は、限界酸素指数が65で燃え難い物質とされている。限界酸素指数とは、燃焼性を表す相対的な数値で、その材料が燃焼を継続するのにあるいは一定量の材料が燃焼しつくすのに必要とする酸素の最少濃度を示し、指数の高い材料ほど燃え難い材料である。
【0075】
更に検証試験の結果より、含浸させるホウ素化合物5の濃度を変更することによって、用途及びコストに応じて、難燃、準不燃、不燃の耐火性能を備えた耐火セルロース系ハニカム構造体10を簡単に製造することが可能で、木製防火戸の芯材や内装用建材の不燃材料として幅広い顧客の要求に対応できる不燃素材を提供することができる。
【0076】
以上、本実施例の耐火セルロース系ハニカム構造体の特徴は、使用材料は植物繊維から得られるセルロースと、水溶液に含まれるホウ素化合物とデンプンであって、いずれも天然素材であり安全で環境負荷が低く、安価で大量に入手可能な材料で形成されている。
【0077】
また難燃処理の工程は、セルロースのハニカム構造体をホウ素化合物の高濃度水溶液に浸漬し乾燥させる、或いはセルロースの波板や板紙をホウ素化合物の高濃度水溶液に浸漬し乾燥させ後に積層段ボールを形成するだけで良く、製法が極めて簡単で大型で複雑な機械装置や設備を必要としない。また他の難燃剤、難燃補助剤、浸透剤、発泡剤、充填剤等を一切使用しないため、低コストでの量産が可能である。
【0078】
セルロースで形成されたハニカム構造体は、空隙率が高いため極めて軽量であり、熱伝導率が極めて低いハニカム構造のセルにより、加熱面から非加熱面への熱伝導が極めて緩やかで、裏面温度の上昇を招かない特徴を効果的に発揮できる材料である。ホウ素化合物の水溶液の濃度を調整することによって難燃性能の調整が可能で、またハニカム構造体のセルの形状及び細孔の大きさや密度の調整によっても難燃性能の調整が可能である。
【0079】
耐火セルロース系ハニカム構造体の難燃性能が極めて高いことが確認されたことで、木製防火扉等のハニカムサンドイッチの芯材として使用する場合には、表面材に可燃物の使用も可能である。
【0080】
また、ハニカム構造は強度に方向性があり、本実施例の耐火セルロース系ハニカム構造体も強度には方向性を持つが、難燃性に関する方向性は無いため用途や機能に応じてハニカム構造体のセルの方向性を自由に選択することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 ハニカム構造体(中空構造を有するセルロース積層材に対応)
2 セル
2a セル層
5 ホウ素化合物
10 耐火セルロース系ハニカム構造体
30 芯材
31 框材
32 耐火シート
33 加熱発泡材
34 表面化粧材
40 木製防火戸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空構造を有するセルロース積層材であって、
ホウ酸とホウ砂の混合比が概ね4:6のホウ素化合物を含浸させるため、15〜50重量%の濃度の前記ホウ素化合物を溶解させたPH7前後の水溶液を60〜80℃に加温し、該水溶液に前記セルロース積層材を浸漬して前記ホウ素化合物を含浸させたことを特徴とする耐火セルロース系ハニカム構造体。
【請求項2】
前記ホウ素化合物の水溶液は、前記セルロース積層材に前記ホウ素化合物の含浸率を上げるため、デンプンが更に付加されていることを特徴とする請求項1記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。
【請求項3】
前記中空構造を有するセルロース積層材は、セルロースで形成されたペーパーハニカム及び段ボールを複数積層した積層構造からなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。
【請求項4】
前記ホウ素化合物の水溶液は、その濃度を前記15〜50重量%の間で変えて前記セルロース積層材を浸漬させることで、15重量%で難燃性能、50重量%で不燃性能を具備することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の耐火セルロース系ハニカム構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−71470(P2012−71470A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217264(P2010−217264)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(508325706)株式会社協林 (2)
【Fターム(参考)】