説明

耐火容器の蓋体および耐火容器

【課題】耐火容器の口部から壁面を伝わって内部に侵入する熱を低減できる耐火容器の蓋体、および、内部に侵入する熱を低減できる耐火容器を提供する。
【解決手段】耐火容器1の口部3を閉塞する蓋体4に、一定温度で気化する媒体物質を収容する冷却空間18と、冷却空間18を耐火容器1の外部に連通させる蒸気流路20とを設け、冷却空間18の外壁16が口部3の内壁に密接するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火容器の蓋体および耐火容器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、真空2重容器の内側にさらに内部容器を配置し、真空2重容器と内部容器との隙間に水を封入した物質を収容し、水が蒸発することによって真空2重容器を貫流した熱を奪い、水蒸気を外部に排出して熱を外部に排出することで容器内部を長時間低温に維持できる耐火容器が記載されている。
【0003】
特許文献1の耐火容器の蓋体は、真空2重容器に比して断熱性能に劣る耐熱ボードで形成されているため、厚み寸法が大きくなってしまう。
【0004】
また、真空2重容器は、真空断熱層によって非常に高い断熱性能を有するが、ステンレスなど、比較的熱伝導率の高い材質で形成されるため、その口部から壁面を伝わって、僅かながら、内部に熱が侵入する。
【0005】
特許文献1の耐火容器において、真空2重容器の口部から侵入する熱を低減するには、蓋体や口部の周囲の耐火ボードをさらに厚くする必要がある。
【特許文献1】特開2005−139678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、前記問題点に鑑みて、本発明は、真空2重容器を用いた耐火容器の口部から壁面を伝わって内部に侵入する熱を低減できる蓋体、および、そのような蓋体を備える耐火容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による耐火容器の蓋体は、耐火容器の口部を閉塞する蓋体であって、一定温度で気化する媒体物質を収容する冷却空間と、前記冷却空間を前記耐火容器の外部に連通させる蒸気流路とを有し、前記冷却空間の外壁が前記口部の内壁に密接するものとする。
【0008】
この構成によれば、耐火容器の口部の壁面を伝導して容器の内部に侵入しようとする熱を冷却空間に導き、冷却空間に収容した媒体物質を蒸発させる気化熱として消費させ、発生した媒体物質の蒸気を耐火容器の外部に排出することで、耐火容器の内部への熱の侵入を防ぐことができる。
【0009】
また、本発明の耐火容器の蓋体は、耐火容器内から見て前記冷却空間の外側に、真空引きされた第1の真空断熱層を有してもよい。
【0010】
この構成によれば、蓋体を貫流して冷却空間に侵入しようとする熱を蓋体の厚みを増加させずに遮断できる。
【0011】
また、本発明の耐火容器の蓋体は、前記耐火容器内から見て前記冷却空間の内側に、さらに、真空引きされた第2の真空断熱層を有してもよい。
【0012】
冷却空間では媒体物質の蒸発によって熱を外部に排出するため、媒体物質の蒸発温度以下(例えば水の場合、100℃以下)では大きな効果がないが、さらに第2の真空断熱層を設けることで、耐火容器の内部温度を媒体物質の蒸発温度より低い温度に維持することが可能になる。
【0013】
また、本発明の耐火容器の蓋体は、前記第1の真空断熱層と前記第2の真空断熱層とを連通させる連通路を有してもよい。
【0014】
この構成によれば、製造工程において、第1の真空断熱層および第2の真空断熱層のいずれかに設けた1つのチップ管から、第1の真空断熱層と第2の真空断熱層とを同時に真空引きすることができ、蓋体を安価に製造できる。
【0015】
また、本発明の耐火容器の蓋体は、前記耐火容器内から見て前記冷却空間の外側に、耐熱性の多孔質体からなる断熱壁を有してもよい。
【0016】
この構成によれば、冷却空間を形成する外壁をステンレスなどの通常の材料で形成しても、直接高温の火炎に晒されないので破損せず、機能を維持して耐火容器の内部に熱を侵入させない。
【0017】
また、本発明の耐火容器の蓋体において、前記冷却空間に収容した媒体物質は、60℃から130℃で密封性を喪失する容器に封入された水であってもよく、トレハロース含水結晶の結晶水として提供されてもよい。
【0018】
この構成によれば、耐火容器内部の温度を100℃以下に保つことができ、常温において水が漏出したり、蒸発によって減少することがなく、冷却空間の温度が上昇したときだけ水が放出されて熱を奪うことができるようになる。
【0019】
また、本発明による耐火容器は、前記耐火容器の蓋体を備え、真空2重容器と、前記真空2重容器の中に設置され、内部に物品を収納可能な収納空間を形成する内部容器とを有し、前記真空2重容器と前記内部容器との間に、一定温度で気化する媒体物質を収容する冷却空間を有するものとする。
【0020】
この構成によれば、耐火容器の外壁を貫流する熱を媒体物質の蒸発により外部に排出して、収納空間の温度上昇を防止できる。
【0021】
また、本発明の耐火容器において、前記内部容器は、真空2重容器であってもよい。
【0022】
この構成によれば、収納空間の温度を媒体物質の蒸発温度よりも低い温度に保つことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、耐火容器の蓋体に、媒体物質を収容する冷却空間を設け、冷却空間の外壁を耐火容器の口部の内壁に当接させるようにしたので、耐火容器の口部の壁面を伝導して容器の内部に侵入しようとする熱を冷却空間に導いて媒体物質の気化熱として消費させ、発生した媒体物質の蒸気とともに熱エネルギーを耐火容器の外部に排出することで、耐火容器の内部への熱の侵入を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1および図2に、本発明の第1実施形態の耐火容器1を示す。耐火容器1は、美術刀などの細長い物品を火災から保護するためのものであり、図2に示すように、略円筒形の外形を有する。耐火容器1は、容器本体2と、容器本体2の口部3を閉塞する蓋体4とからなっている。
【0025】
容器本体2は、耐熱性の多孔質体であるセラミックボードからなる断熱壁5の中に、真空断熱層6を有するステンレス製の真空2重容器7が収納されている。真空2重容器7の中には、さらに内部容器8が配置され、内部容器8の内部空間が物品を収納可能な収納空間9であり、真空2重容器7と内部容器8との間に冷却空間10が形成されている。冷却空間10には、アルミ箔にポリエチレンをラミネートしたフィルムで形成した袋状の容器に水(媒体物質)を封入した含水パウチ11が収容されている。真空2重容器7は、強度を補うために環状にリブ12が形成されている。また、真空2重容器7には、真空断熱層6を貫通する管によって冷却空間10を断熱壁5を介して耐火容器1の外部に連通させる蒸気流路13と、製造工程において真空断熱層6内の空気を排気するために使用したチップ管14とが設けられている。
【0026】
蓋体4はセラミックボードからなる断熱壁15に、ステンレス鋼板からなる外壁16を有する断熱体17が取り付けられている。断熱体17は、蓋体4で容器本体2を閉塞したときに、口部3の真空2重容器7の内壁に当接する。断熱体17は、収納空間9に隣接する内部空間である冷却空間18と、耐火容器1の収納空間9から見て冷却空間18の外側に真空引きされた内部空間である真空断熱層19とを有する。つまり、冷却空間18および真空断熱層19の外周部の外壁16は、容器本体2の真空2重容器7の内壁に当接する。冷却空間18は、容器本体2の冷却空間10と同様に、含水パウチ11が収納されている。断熱体17には、真空断熱層19を貫通する管によって冷却空間18を断熱壁15を介して耐火容器1の外部に連通させる蒸気流路20と、製造工程において真空断熱層19内の空気を排気するために使用したチップ管21とが設けられている。
【0027】
続いて、以上の構成からなる耐火容器1の作用について説明する。耐火容器1において、断熱壁5および断熱壁15は、火事などで火炎に包まれたとき、ステンレス製の真空2重容器7および断熱体17が高温の火炎に直接晒されて破損または変形することを防止する。
【0028】
真空断熱層6および真空断熱層19は、熱伝導や対流の媒体を有していないので、熱が殆ど貫流しない。真空断熱層6および真空断熱層19は、収納空間9の全周を取り囲むように配置されており、断熱壁5および断熱壁15を貫流した熱が収納空間9に伝わらないように断熱する。
【0029】
しかし、真空断熱層6および19の外壁は共にステンレスからなり、熱伝導がある。このため、真空2重容器7の口部3の内壁をおよび断熱体17の外壁16を介して、真空断熱層6および19の内側に熱が侵入する。
【0030】
断熱体17は、真空断熱層19の内側に、さらに、冷却空間18が設けられているので、真空2重容器7の口部の内壁および断熱体17の外壁16から侵入した熱は、冷却空間18の温度を上昇させ、含水パウチ11を加熱する。冷却空間18の温度が上昇すると、やがて、含水パウチ11のポリエチレンが溶け、冷却空間18内に水を放出する。
【0031】
冷却空間18内の水は、100℃で沸騰して水蒸気になる。このとき気化熱として、真空2重容器7の口部の内壁をおよび断熱体17の外壁16を伝わって侵入した熱を奪い取る。発生した水蒸気は、蒸気流路20から流出する。多孔質体からなる断熱壁15は、大気圧では気体の通過を許さないが、冷却空間18から流出した圧力を伴う水蒸気は通過させ、真空断熱層6および19の壁面を伝わって内部に侵入しようとした熱とともに外部に放出する。
【0032】
容器本体2の冷却空間10の含水パウチ内の水も、同様に、収納空間9に侵入しようとする熱を水蒸気の潜熱として外部に放出することができる。
【0033】
このようにして、耐火容器1は、冷却空間10および18の中の水がなくなるまで、収納空間9内の温度は100℃以下に保ち、収納した物品を保護することができる。
【0034】
続いて、図3および図4に、本発明の第2実施形態の耐火容器1を示す。以下の説明において、既に説明したものと同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。本実施形態の耐火容器1は、図4に示すように、直方体の外形を有し、例えば、絵画のような板状の美術品などを火災などから保護するものである。
【0035】
本実施形態の断熱体17は、耐火容器1内の収納空間9から見て、冷却空間18のさらに内側に、第2の真空断熱層22を有している。さらに、断熱体17は、冷却空間18を貫通して第1の真空断熱層19と第2の真空断熱層22とを連通させる連通路23が設けられている。
【0036】
また、本実施形態の内部容器は、第2の真空断熱層24を有する真空2重容器25であり、真空2重容器7と真空2重容器25との間には、真空断熱層6と真空断熱層24とを連通させる連通路26が設けられている。
【0037】
蓋体4の冷却空間18および容器本体2の冷却空間10には、トレハロース含水結晶(トレハロース2水和物)27が充填されており、蒸気流路20および13には、トレハロース含水結晶27の流出を防ぐために、例えばグラスウールを詰め込んだプラグ28で封止されている。
【0038】
また、第1の真空断熱層10および真空断熱層19には、セラミックボードのような耐熱性のコア材29が封入され、第2の真空断熱層24および真空断熱層22には、ウレタンのような軽量のコア材30が封入されて、大気圧により押し潰されないようにしている。
【0039】
本実施形態の耐火容器1において、連通路23は、蓋体4の断熱体17を製造する際に、チップ管21から、第1の真空断熱層19と第2の真空断熱層22とを一括して真空引きすることを可能にしている。連通路26も、同様に、真空2重容器7および25を一体に溶接して、真空断熱層6と真空断熱層24とをチップ管14から同時に真空引きできるようにしている。これによって、製造コストが低減される。
【0040】
本実施形態において、冷却空間10,18に充填したトレハロース含水結晶27は、約10%の結晶水を含む炭水化物であり、常温にあっては、結晶水を半永久的に保持するが、100℃から130℃に加熱されると、結晶水を気化放出または溶融放出する。
【0041】
このため、本実施形態においても、真空2重容器7の口部の内壁をおよび断熱体17の外壁16を伝導して侵入した熱を水蒸気の潜熱として外部に放出することにより、冷却空間10および18の温度がおよそ100℃以下に保たれる。
【0042】
冷却空間10,18には、トレハロース以外の含水結晶を充填してもよく、物質によって結晶水を解放する条件が異なるので、耐火容器1の設計条件に合わせて選択するとよい。
【0043】
この耐火容器1は、第1実施形態の冷却空間10,18の内側に、さらに収納空間9を包み込むように、第2の真空断熱層22,24を設けたものである。よって、冷却空間10,18が100℃になっても、収容空間9は、一定の時間以上、例えば50℃以下のような低温を維持することができる。
【0044】
さらに、図5および図6に、本発明の第3実施形態の耐火容器の蓋体4を示す。本実施形態の蓋体4は、物品を載置する台として機能し、容器本体2を上から被せることで、収納空間9を封止する耐火容器を形成するものである。
【0045】
本実施形態の断熱体17は、真空引きされる1つの真空容器31の内部に冷却空間18を形成し、真空容器31の内部空間を耐火容器1の内側と外側とに区分して第1の真空断熱層19と第2の真空断熱層22を形成する含水容器32を挿入したものである。図6に示すように、含水容器32は、外壁が略全周にわたり真空容器の内壁に当接し、肉厚が倍の1重の外壁を有するものと同視できる。また、含水容器32の外周の少なくとも1箇所を、溝状に凹ませることによって、第1の真空断熱層18と第2の真空断熱層22とを連通させる連通路33を設けることができる。
【0046】
本実施形態では、冷却空間18に、液状の水34が入れられているが、防腐剤などの添加物を含んでもよく、ジェル状またはゲル状にしてもよい。また、常温において、水が蒸発して散逸しないように、熱によって溶融するフィルムなどで蒸気流路20を封止しておいてもよい。
【0047】
また、第1から第3の各実施形態では、媒体物質として水を使用しているが、収納空間9の維持すべき温度に応じて、異なる蒸発温度を有する物質を用いてもよい。媒体物質は、液体から気体へと蒸発するものだけでなく、通常の環境温度で固体であって温度上昇により溶解してから蒸発するもの、または、固体から直接気体に昇華するものであってもよい。当然ながら、気化熱が大きい物質が好ましく、不燃性の物質でなければならないことは言うまでもない。
【0048】
また、本発明において、蓋体4は、ねじやバヨネットのような係合構造によって、容器本体2の口部3に固定されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態の耐火容器の断面図。
【図2】図1の耐火容器の斜視図。
【図3】本発明の第2実施形態の耐火容器の断面図。
【図4】図3の耐火容器の斜視図。
【図5】本発明の第3実施形態の耐火容器の蓋体の断面図。
【図6】図5の耐火容器の蓋体のA−A断面図。
【符号の説明】
【0050】
1 耐火容器
2 容器本体
3 口部
4 蓋体
5 断熱壁(多孔質体)
6 真空断熱層
7 真空2重容器
8 内部容器
9 収納空間
10 冷却空間
11 含水パウチ
14 蒸気流路
15 断熱壁(多孔質体)
16 外壁
18 冷却空間
19 真空断熱層
20 蒸気流路
22 真空断熱層
23 連通路
24 真空断熱層
25 真空2重容器
26 連通路
27 トレハロース含水結晶
33 連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火容器の口部を閉塞する蓋体であって、
一定温度で気化する媒体物質を収容する冷却空間と、前記冷却空間を前記耐火容器の外部に連通させる蒸気流路とを有し、
前記冷却空間の外壁が前記口部の内壁に密接することを特徴とする耐火容器の蓋体。
【請求項2】
前記耐火容器内から見て前記冷却空間の外側に、第1の真空断熱層を有することを特徴とする請求項1に記載の耐火容器の蓋体。
【請求項3】
前記耐火容器内から見て前記冷却空間の内側に、さらに、第2の真空断熱層を有することを特徴とする請求項2に記載の耐火容器の蓋体。
【請求項4】
前記第1の真空断熱層と前記第2の真空断熱層とを連通させる連通路を有することを特徴とする請求項3に記載の耐火容器の蓋体。
【請求項5】
前記耐火容器内から見て前記冷却空間の外側に、耐熱性の多孔質体からなる断熱壁を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐火容器の蓋体。
【請求項6】
前記媒体物質は、60℃から130℃で密封性を喪失する容器に封入された水であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の耐火容器の蓋体。
【請求項7】
前記媒体物質は、トレハロース含水結晶の結晶水であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の耐火容器の蓋体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の耐火容器の蓋体を備え、
真空2重容器と、
前記真空2重容器の中に設置され、内部に物品を収納可能な収納空間を形成する内部容器とを有し、
前記真空2重容器と前記内部容器との間に、一定温度で気化する媒体物質を収容する冷却空間を有することを特徴とする耐火容器。
【請求項9】
前記内部容器は、真空2重容器であることを特徴とする請求項8に記載の耐火容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−321426(P2007−321426A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152521(P2006−152521)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000002473)象印マホービン株式会社 (440)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)