説明

耐火断熱レンガ

【課題】耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガにおいて、組成及び気孔率が同一でありながらも、より断熱性に優れた耐火断熱レンガを提供することを目的とする。
【解決手段】耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガは、気孔率が60%以上であると共に、耐火断熱レンガ内の全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火断熱レンガに関し、詳しくは、耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガに関する。
【背景技術】
【0002】
耐火断熱レンガ(セラミックス多孔体)は、耐火材料の内部に気孔を多く含有させることにより、耐火性を持ちながら断熱性も兼ね備えた多孔質の軽量耐火物である。耐火断熱レンガは、加熱面(炉内面)に単独で使用される場合と、他の耐火材と複合的に裏張りとして使用される場合がある。
【0003】
従来から、耐火材料の内部に気孔を含有させる種々の製造方法が確立されている。例えば、セラミックス粉末等の耐火性粉末と可燃物と水とを含むスラリーを成形乾燥した後、可燃物を焼失させて気孔を得る方法や、耐火性粉末と水とを含むスラリーに空気やガスを吹き込んだり、スラリーにガス発生物質を混合してスラリー内部でガスを発生させたりすることによって気孔を得る方法などが知られている。
【0004】
また、もともと気孔率の高い原料、例えば、珪藻土やパーライト、バーミキュライトなどを主原料として、多孔質の耐火断熱レンガを製造することも行われている。この中でも珪藻土には微細な気孔が多数存在しているため、熱伝導率の低い優れた耐火断熱レンガとして広く普及している。しかし、珪藻土の耐熱温度は1000℃程度であるため、1000℃を超える高温域では使用できない。そこで、1000℃を超える高温域での使用に対応するために、耐熱性に優れた原料を多孔質にする耐火断熱レンガの製造方法が実用化されている。
【0005】
特許文献1には、セラミックス粉末と水とを含むスラリーに気孔を含有させた多孔質成形体とその製造方法が開示されている。特許文献1に記載の多孔質成形体は、セラミックス粉末と水とを含むスラリーを撹拌することによって起泡させ、撹拌を制御することによってスラリー内の気泡(気孔)の含有量や気孔径を調整した後、スラリーを乾燥固化させることによって製造される。この多孔質成形体は、多孔質成形体内の気孔の径が1mm以下で気孔率が60%以上である、気孔が略均質に分布している、多孔質成形体内の気孔径が傾斜していない、成形体に形状付与がされている、ことを特徴としている。
【0006】
特許文献1に記載の多孔質成形体は、制御された気孔を含む低密度かつ高品質な多孔質成形体であるため、軽量構造材、断熱材、防音材、防震材、フィルター、センサ、触媒担体、生体材などの多様な用途に好適に利用することが可能である。ただし、特許文献1に記載の発明は、気孔内を流体が通過するフィルター等の用途に利用することを主な目的としてなされたものである。特許文献1には次のように記載されている。多孔質成形体内の気孔の径が1mm以下で気孔率が60%以上であることの技術的意味は、流体の透過性、液体の吸収性、液体の貯蔵性、ガスの吸着性などの多孔質体の持つ特性をバランス良く兼ね備えていることである。気孔径を制御するとは、気孔径に起因する多孔質部材の特性(流体の透過係数、毛細管力、比表面積など)を任意に制御可能であることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−290893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多孔質の耐火断熱レンガを製造する方法として、上述した可燃物を焼失させて気孔を得る方法は、レンガ内部で可燃物が燃焼する時に発生する燃焼ガスと発熱による温度上昇によって内部亀裂などの欠陥が生じることがあり、可燃物の添加量が多いほどこの現象が起きやすくなることから、高気孔率の断熱性に優れた耐火断熱レンガの製造の妨げとなっている。また、可燃物の粒径がそのまま気孔径となるため、微細な気孔を作るには微細な可燃物を必要とするが、微細な気孔材(可燃物)として安価で適当な材料がない。
【0009】
また、スラリーに気孔を含有させる方法は、多数検討されてきてはいるものの、微細な気泡を安定して保持することが難しいため、量産化に至る製造方法が確立されていない。
【0010】
ここで、特許文献1に記載の多孔質成形体は、フィルター等の用途に利用することを主な目的としたものではあるものの、多孔質成形体内に気孔径1mm以下の微細な気孔を安定して保持していることから、特許文献1に記載の発明をさらに発展させることによって、耐火断熱レンガに適した気孔を有する多孔質成形体及びその製造方法を確立できる可能性がある。
【0011】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガにおいて、組成及び気孔率が同一でありながらも、より断熱性に優れた耐火断熱レンガを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0013】
(1)本発明に係る耐火断熱レンガは、耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガであって、前記耐火断熱レンガの気孔率が60%以上であると共に、該耐火断熱レンガ内の全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなることを特徴とする。
【0014】
ここで、「気孔径」とは、水銀圧入法により測定した気孔径である。また、「全気孔容積」とは、耐火断熱レンガに含まれている全ての気孔の合計容積である。全気孔容積は、真比重とかさ比重との関係から算出することが可能である。
【0015】
組成及び気孔率が同一の耐火断熱レンガは、それぞれ同一のかさ比重となる。そして、発明者は、耐火断熱レンガのかさ比重が同一であっても、それぞれの耐火断熱レンガに含まれている気孔の気孔径及びその分布が異なれば、それぞれの耐火断熱レンガの断熱性が異なるものになるという知見を得ている。ここで、発明者は、同一の気孔率においては、気孔径が小さいほど耐火断熱レンガの熱伝導率が小さくなるという考えに基づいて本発明をなすに至った。
【0016】
本発明の構成によると、耐火断熱レンガ内の全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなる。したがって、本発明の耐火断熱レンガは、気孔径200μm以下の微細な気孔を多く含有していることによって、組成及び気孔率が同一の耐火断熱レンガ同士で比較すると、より断熱性に優れている。
【0017】
また、耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末を主原料としていることによって、高温域まで使用できる耐火性を備えた耐火断熱レンガを得ることができる。
【0018】
なお、本発明において、気泡含有スラリーを乾燥することによって、必要な所望強度が得られ、使用上の問題がなければ気泡含有スラリーを乾燥した後の焼成は省くことができる。
【0019】
(2)前記(1)で述べた本発明の耐火断熱レンガにおいて、好ましくは、前記耐火性粉末がアルミナ、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、コーディエライト、スピネル、マグネシア及びジルコニアの群から選ばれた少なくとも一種を含む原料よりなる。
【0020】
アルミナ、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、コーディエライト、スピネル、マグネシア及びジルコニアは、1000℃を超える高温域で使用されている耐火物の原料である。したがって、本発明の構成のように、これらの原料よりなる耐火性粉末を用いることによって、高温域まで使用できる耐火性を備えた耐火断熱レンガを得ることができる。
【0021】
これらの原料は、いずれも原料自体の熱伝導率が大きいため、断熱性に優れた耐火断熱レンガを製造するためには、気孔率を十分に大きくして耐火断熱レンガの熱伝導率を小さくする必要がある。さらに、本発明のように、耐火断熱レンガ内に気孔径200μm以下の微細な気孔を多く含有させることによって、同一の気孔率において、より熱伝導率を小さくすることが可能となる。
【0022】
(3)前記(2)で述べた本発明の耐火断熱レンガにおいて、好ましくは、前記耐火性粉末として純度99%以上の高純度アルミナ粉末のみを用いると共に、前記耐火断熱レンガのかさ比重が1.2以下である。
【0023】
耐火性粉末として純度99%以上の高純度アルミナ粉末のみを用いた本発明の耐火断熱レンガは、従来のプレス成形による製品に比べてかさ比重が半分になるまで気孔率を大きくすることが可能であり、軽量で低熱伝導率の特性が得られる。
【0024】
アルミナは、機械的強度、耐熱性、電気的絶縁性、化学的安定性、耐薬品性などの様々な優れた特徴を有しており、かつ比較的安価であるため、最も多方面に使用されているセラミックスである。本発明の構成のように、アルミナ含有率99%以上の耐火断熱レンガは、耐火性及び断熱性に加えて、上記のアルミナの優れた特徴を有するものとなり、様々な使用環境への適用が期待できる。
【0025】
(4)前記(1)〜(3)で述べた本発明の耐火断熱レンガにおいて、好ましくは、前記スラリーがアルミナセメント、水硬性アルミナ及び焼石膏のうちの少なくとも一つを含む。
【0026】
耐火性粉末と水とを含むスラリーにさらにアルミナセメント、水硬性アルミナ及び焼石膏のうちの少なくとも一つを含ませることによって、水和反応による強度が発現し、その結果、気泡含有スラリー内の微細な気泡の消滅を防止すると共に、耐火断熱レンガの製造工程上必要となる成形体強度が得られる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガにおいて、組成及び気孔率が同一でありながらも、より断熱性に優れた耐火断熱レンガを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1(1a及び1b)の気孔測定結果であって、(a)は気孔径分布曲線、(b)は累積気孔容積分布曲線を示している。
【図2】実施例1、2、3、比較例1及び2の熱伝導率の温度変化を示している。
【図3】実施例4及び5の気孔測定結果であって、(a)は気孔径分布曲線、(b)は累積気孔容積分布曲線を示している。
【図4】実施例4、5及び比較例3の熱伝導率の温度変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の耐火断熱レンガは、耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥したものであり、必要に応じてスラリーに助剤等が添加される。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
耐火断熱レンガの主原料である耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末としては、例えば、アルミナ、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、コーディエライト、スピネル、マグネシア、ジルコニア、チタニア、シリカ、カルシアなどの酸化物系無機材料及びそれらの混合物を原料として用いることができる。これらの原料のうち、アンダルサイト、カイヤナイトは高アルミナ質の天然鉱物であり、それ以外の原料は工業製品(セラミックス)である。これらの原料のうち、特に、アルミナ、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイトが好適に使用される。しかし、主原料は、これらに制限されるものではなく、これらと同等ないし類似の原料であれば同様に使用することができる。
【0031】
上記スラリー内の粉体(粉末)の粒径、粒度分布、配合割合、及びスラリーに添加する助剤の種類、添加量などについては任意に設計することができる。また、必要に応じて、スラリーにアルミナセメント、水硬性アルミナあるいは焼石膏など、水と反応して硬化する物質を添加することができる。
【0032】
スラリーに多量の気泡を導入し、気泡を維持したまま気泡含有スラリーを成形乾燥することで、多孔質の耐火断熱レンガが製造される。このような操作を行うために、スラリーには、起泡性と気泡安定性(気泡が崩壊・消失しない性質)を付与するための助剤が添加される。
【0033】
起泡成分を有する助剤としては、例えば、洗剤に用いられる界面活性剤のアルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウムなどを用いることができる。他にもポリビニルアルコールなどの表面張力を下げる効果がある材料などを用いることができる。
【0034】
気泡安定成分を有する助剤を添加したスラリーは、微細な気泡の消失が抑えられ、スラリー内の気泡量を維持することができる。このような助剤として、例えば、セルロース系のカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどの増粘剤を用いることができる。
【0035】
さらに、気泡安定性を向上させるために保水成分を有する助剤をスラリーに添加することができる。保水成分は、スラリー内の水を抱え込み、気泡の壁が弱くなるのを抑えるため、気泡安定性を向上させる効果がある。このような助剤として、例えば、グラニュー糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖などの糖類を用いることができる。
【0036】
以上の助剤を併用することにより、スラリーは、起泡性と気泡安定性を兼ね備えることが可能となる。さらに助剤として、気泡含有スラリーの粘性を調整するために水ガラスを添加したり、気泡含有スラリーの硬化を促進するために焼石膏を添加したりすることができる。
【0037】
スラリーへの気泡の導入には撹拌機を用いるとよい。撹拌で起泡させる方法は、気体を混入させ、その気泡を細かく切断するため、細かい気泡を有するスラリーを得ることができる。撹拌の方法は、使用する撹拌機毎に最適な方法が異なるため実験等により最適な撹拌方法を決定するとよい。例えば、ホイッパーで撹拌する場合には、まずは、容器からスラリーが溢れないように低速で撹拌して、スラリー内に外気を取り込む。次に、撹拌速度を徐々に上げながらスラリーをせん断するように撹拌することで、気泡を切断して気泡を微細化しつつ、スラリーが所定の容積となるまでこれを継続する。そして、スラリーが所定の容積となった後に撹拌速度を低速に戻して、気孔径の大きい気泡をスラリー表面に浮上させて取り除く。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。本発明の作用効果については、以下に述べる実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0039】
本発明の実施例として、気孔率が60%以上であると共に、全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなる耐火断熱レンガの試験体を試作して、その特性を評価した。実施例1〜3は、耐火性粉末として純度99%以上の高純度アルミナ粉末を用いた実施例、実施例4及び5は、耐火性粉末として焼成によりムライトとなる粉末を用いた実施例である。なお、本発明における耐火断熱レンガの配合は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
実施例1の配合は表1に示すとおりである。実施例1の主原料である耐火性粉末は、セラミックス粉末である純度99%以上の4種類の高純度アルミナ粉末(Al)よりなる。助剤としては、起泡成分としてポリビニルアルコール(PVA)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(AES)、気泡安定成分としてメチルセルロース(MC)、保水成分としてグラニュー糖、粘性調整成分として水ガラスを用いている。実施例1として同一配合及び同一製造方法の2つの試験体(実施例1a及び1b)を製造した。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1における耐火断熱レンガの製造手順は以下のとおりである。
[手順1]MC及びグラニュー糖を75℃の熱湯を用いて充分に撹拌し、溶解させる。
これに水を加えて冷却したものに、PVAとAESを添加し、混合する。
[手順2]予め計量しておいた主原料に、[手順1]で混合したものを加え、
水ガラスを添加した後、
ホイッパー(容量60L、モーター容量2.2kW)を用いて撹拌する。
1速(98rpm)で1分30秒撹拌。
その後、2速(187rpm)で1分30秒撹拌。
その後、4速(333rpm)で2分撹拌し、起泡させる。
[手順3]充分に撹拌し、所定の容量まで泡立たたせた後、
1速で1分30秒撹拌し、気孔径の大きい気泡を取り除き、
スラリーを均一で滑らかな状態にする。
[手順4]これを所定の枠に鋳込む。
[手順5]これを20℃以上に保持した設備で12時間以上養生する。
[手順6]脱型した後、25〜35℃で24時間、45℃で96時間乾燥する。
[手順7]乾燥終了後、1400℃で焼成する。
【0043】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と同一の配合で、実施例1よりも気孔率が小さい(かさ比重が大きい)実施例である。実施例2の製造手順は、上記[手順3]の撹拌時間が実施例1よりも短い点を除けば実施例1と同様である。
【0044】
(実施例3)
実施例3は、実施例1と同一の配合で、実施例1及び2よりも気孔率が小さい(かさ比重が大きい)実施例である。実施例3の製造手順は、上記[手順3]の撹拌時間が実施例1及び2よりも短い点を除けば実施例1と同様である。
【0045】
(比較例1)
比較例1は、実施例1と同一の主原料を使用している。比較例1においては、実施例1の助剤を添加することなく、加水のみで耐火断熱レンガを成形しており、比較例1の耐火断熱レンガの気孔率は54.7%である。
【0046】
(比較例2)
比較例2は、実施例1と同一の主原料を使用している。比較例2においては、実施例1の助剤を添加する代わりに、粒径1〜2mmの発泡ポリスチレンビーズ(EPS)を添加することによって耐火断熱レンガの内部に気孔を含有させている。
【0047】
<品質及び特性>
このようにして製造された実施例1〜3及び比較例1〜2の耐火断熱レンガの品質及び特性は、表2に示すとおりである。表2において、かさ比重は、並型サイズ(230×114×65mm)の試験体から求めた。気孔率は、試験体の全容積に対する気孔容積の比率(%)であり、真比重とかさ比重との関係から、気孔率=(1−かさ比重/真比重)×100という算出式により求めた。気孔径の測定は、水銀圧入法(JIS R1655)によって行った。その他の各試験については、次のとおりJIS規格で定められた耐火断熱レンガの試験方法に準じて行った。圧縮強さ(JIS R2615)、再加熱収縮率(JIS R2613)、熱伝導率(JIS R2616熱線法)、熱間線膨張率(JIS R2617)。なお、表2において、試験を実施していない項目については空白としている。
【0048】
表2に示すように、実施例1a、1b、2、3、比較例1及び2のかさ比重は、順に0.69、0.73、0.77、1.00、1.79、0.92であった。また、実施例1a、1b、2、3、比較例1及び2の気孔率は、順に82.5%、81.5%、80.5%、74.7%、54.7%、76.7%であった。
【0049】
【表2】

【0050】
<気孔径分布>
実施例1a及び1bの気孔測定結果を図1に示す。図1(a)は、横軸を気孔径Φ(μm)、縦軸を気孔容積(mL/g)とした気孔径分布曲線を示している。ここで、水銀圧入法によって測定できる気孔の大きさは、気孔径400〜500μm程度以下であるため、図1(a)に示す気孔径分布曲線には、気孔径400〜500μm程度を超える気孔の測定値が含まれていない。図1(a)に示すように、実施例1a及び1bのピーク気孔径は100μm程度であり、気孔径1μm付近にも小さなピークがある。
【0051】
図1(b)は、横軸を気孔径Φ(μm)、縦軸を累積気孔容積百分率(%)とした累積気孔容積分布曲線を示している。累積気孔容積分布曲線は、ある気孔径Φ以下の気孔が全気孔容積の何%に相当する量含有しているかを表す曲線である。ここで、全気孔容積は、気孔率から算出することができる。上述したように、水銀圧入法によって測定できる気孔の大きさは、気孔径400〜500μm程度以下であるため、水銀圧入法によって測定した気孔の合計容積は、試験体の全気孔容積よりも小さい。よって、累積気孔容積分布曲線の終点は100%まで到達しておらず、100%からこの終点の累積気孔容積百分率を引いた値が気孔径400〜500μm程度を超える気孔の含有率となっている。
【0052】
図1(b)に示すように、試験体には、気孔径400〜500μm程度を超える気孔が全気孔容積の5〜10%程度含まれている。また、図1(b)に破線の補助線で示しているように、実施例1a及び1bのいずれにおいても、全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなる。また、実施例1a及び1bのいずれにおいても、全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径100μm以下の微細な気孔よりなる多孔質の耐火断熱レンガを試作することができた。試験体の均質性を考えれば、試験体に大きな気孔径の気孔が含まれていないことが望ましく、気孔径500μmを超える気孔を全気孔容積の10%以下にすることが望ましい。
【0053】
<熱伝導率>
図2に実施例1(1a)、2、3、比較例1及び2の熱伝導率の温度変化を示す。かさ比重が大きい比較例1は熱伝導率が大きく、温度の上昇に伴って熱伝導率が徐々に小さくなる傾向がある。比較例2は、比較例1に気孔径1〜2mmの気孔を含有させたものであり、比較例1に比べて熱伝導率が小さくなっている。実施例1(1a)、2、3は、この順に熱伝導率が小さい。各実施例の中で、かさ比重が最も小さく、気孔率が最も大きい実施例1(1a)が最も断熱性に優れている。いずれの実施例及び比較例においても、温度の上昇に伴って熱伝導率が徐々に小さくなるというアルミナ特有の特徴を有している。
【0054】
一般に、熱伝導率は、かさ比重が小さいほど(気孔率が大きいほど)小さくなると考えることができる。ところが、図2に示すように、比較例2(かさ比重0.92、気孔率76.7%)の熱伝導率は、実施例3(かさ比重1.00、気孔率74.7%)の熱伝導率よりも大きい。すなわち、実施例3は、比較例2よりもかさ比重が大きく、気孔率が小さいにもかかわらず、比較例2よりも断熱性に優れている。
【0055】
この結果から、気孔径を小さくすることは、断熱性の向上に有効であることがわかる。よって、本実施例の耐火断熱レンガのように、気孔径200μm以下の微細な気孔を多く含有させることによって、組成及び気孔率が同一の耐火断熱レンガ同士で比較して、より断熱性に優れた耐火断熱レンガとすることができる。
【0056】
(実施例4)
実施例4の配合は表3に示すとおりである。実施例4の主原料である耐火性粉末は、セラミックス粉末である純度99%以上の2種類の高純度アルミナ粉末(Al)と、高アルミナ質の天然鉱物であるアンダルサイト(AlSiO)及びカイヤナイト(AlSiO)と、少量のアルミナセメントとよりなる。これらの耐火性粉末を焼成するとムライト(3Al・2SiO)が生成される。助剤としては、起泡成分としてポリビニルアルコール(PVA)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(AES)、気泡安定成分としてメチルセルロース(MC)、粘性調整成分として水ガラス、硬化促進成分として焼石膏を用いている。実施例4の製造手順は、実施例1と同様である。
【0057】
(実施例5)
実施例5は、実施例4と同一の配合で、実施例4よりも気孔径が大きい実施例である。実施例4の製造手順は、実施例1と同様である。
【0058】
【表3】

【0059】
(比較例3)
比較例3は、実施例4及び5と同一の主原料を使用している。比較例3においては、実施例4及び5の助剤を添加する代わりに、比較例2と同様に、粒径1〜2mmの発泡ポリスチレンビーズ(EPS)を添加することによって耐火断熱レンガの内部に気孔を含有させている。
【0060】
<品質及び特性>
このようにして製造された実施例4、5及び比較例3の耐火断熱レンガの品質及び特性は、表4に示すとおりである。表4に示すように、実施例4及び5は、同一の配合及び同一の製造手順で製造されているものの、両試験体のかさ比重、気孔率及び平均気孔径に差が生じている。また、比較例3のかさ比重及び気孔率は、実施例5と同程度となっている。
【0061】
【表4】

【0062】
<気孔径分布>
実施例4及び5の気孔測定結果を図3に示す。図3(a)の気孔径分布曲線に示すように、実施例4のピーク気孔径は20μm程度であり、実施例5のピーク気孔径は100μm程度であることから、同一の配合及び同一の製造手順で製造された耐火断熱レンガであっても、気孔径の分布はある程度ばらつくことがわかる。
【0063】
図3(b)の累積気孔容積分布曲線に示すように、試験体には、実施例1と同様に、気孔径400〜500μm程度を超える気孔が全気孔容積の5〜10%程度含まれている。また、図3(b)に破線の補助線で示しているように、実施例4及び5のいずれにおいても、実施例1と同様に、全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなる。また、実施例4及び5のいずれにおいても、実施例1と同様に、全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径100μm以下の微細な気孔よりなる多孔質の耐火断熱レンガを試作することができた。
【0064】
<熱伝導率>
図4に実施例4、5及び比較例3の熱伝導率の温度変化を示す。気孔率が小さいムライト質の耐火レンガは、上述した比較例1と同様に、温度の上昇に伴って熱伝導率が徐々に小さくなる傾向がある(図示せず)。これに対して、このムライト質の原料に粒径1〜2mmの発泡ポリスチレンビーズ(EPS)によって気孔を含有させた比較例3のムライト質の耐火断熱レンガでは、温度の上昇に伴って気孔内の輻射伝熱の影響が大きくなるため、熱伝導率が徐々に大きくなる傾向にある。
【0065】
図4に示すように、気孔径200μm以下の微細な気孔を多く含有させた実施例4及び5のムライト質の耐火断熱レンガは、温度によらず熱伝導率が小さい値となっており、また、温度の上昇に伴う熱伝導率の増加が僅かとなっている。すなわち、実施例4及び5のムライト質の耐火断熱レンガと、気孔径1〜2mmの気孔を含有させた比較例3のムライト質の耐火断熱レンガとは、高温になるほど両者の熱伝導率の差が大きくなる。よって、実施例4及び5のムライト質の耐火断熱レンガは、高温用の耐火断熱レンガとして理想的な熱伝導率を有してり、実際の使用温度域である高温での断熱性に優れている。
【0066】
このように、ムライト質の耐火断熱レンガにおいても、気孔径200μm以下の微細な気孔を多く含有させることによって、組成及び気孔率が同一の耐火断熱レンガ同士で比較して、より断熱性に優れた耐火断熱レンガとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱温度1000℃以上の耐火性粉末と水とを含むスラリーを起泡させた気泡含有スラリーを成形乾燥した多孔質の耐火断熱レンガであって、
前記耐火断熱レンガの気孔率が60%以上であると共に、該耐火断熱レンガ内の全気孔容積のうち80%以上の容積が気孔径200μm以下の気孔よりなることを特徴とする耐火断熱レンガ。
【請求項2】
前記耐火性粉末がアルミナ、ムライト、アンダルサイト、カイヤナイト、コーディエライト、スピネル、マグネシア及びジルコニアの群から選ばれた少なくとも一種を含む原料よりなる請求項1に記載の耐火断熱レンガ。
【請求項3】
前記耐火性粉末として純度99%以上の高純度アルミナ粉末のみを用いると共に、前記耐火断熱レンガのかさ比重が1.2以下である請求項2に記載の耐火断熱レンガ。
【請求項4】
前記スラリーがアルミナセメント、水硬性アルミナ及び焼石膏のうちの少なくとも一つを含む請求項1〜3のうちのいずれか一つに記載の耐火断熱レンガ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−254910(P2012−254910A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130170(P2011−130170)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(390012818)日ノ丸窯業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】