説明

耐火物結合剤用樹脂組成物及び耐火物

【課題】 焼成後の曲げ強度の低下を抑えることができる耐火物結合剤用樹脂組成物、ならびに、これを用いた耐火物を提供する。
【解決手段】 ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする耐火物結合剤用樹脂組成物と、この組成物を、耐火骨材に配合してなることを特徴とする耐火物。好ましくは、上記アニリン樹脂の含有量は、上記ノボラック型フェノール樹脂とアニリン樹脂との合計に対して20〜60重量%である。本発明の耐火物は、焼成後も高い曲げ強度を必要とする製鋼設備の炉壁、炉底の補修などに好適に用いられるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物結合剤用樹脂組成物及び耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、転炉、電気炉、取り鍋などにおいて、フェノール樹脂を結合剤として使用した黒鉛含有の耐火物の使用量が増加している。これに伴い、主に上記の製鋼設備の炉壁、炉底の補修などに用いられる耐火物にも黒鉛、マグネシア、アルミナ等の骨材にフェノール樹脂を結合剤として用いるケースが増えてきた。使用されるフェノール樹脂としては、ノボラック型及びレゾール型の液状または粉末のフェノール樹脂が、単独または併用の形で使用されている。
【0003】
フェノール樹脂の代表的な使用例を挙げると、ノボラック型フェノール樹脂の場合は、ヘキサメチレンテトラミンを含む粉末樹脂をエチレングリコール、グリセリンまたは多価アルコール等の湿潤剤とともに用いたり、レゾール型の液状フェノール樹脂と組み合わせて用いたりされている。
また、ノボラック型フェノール樹脂を予めエチレングリコール等の溶剤に溶解した液状樹脂を、混練時にヘキサメチレンテトラミンと組み合わせて用いることも多い。
一方、レゾール型フェノール樹脂の場合は、水溶媒型の液状樹脂またはエチレングリコールなどの溶剤を用いた溶剤型の液状樹脂を単独で用いたり、これらの液状樹脂にノボラック型の粉末樹脂と組み合わせて用いたりしている。
【0004】
結合剤としてノボラック型フェノール樹脂を用いる場合、求められるノボラック型フェノール樹脂の特性は、加熱時の流動性が高いこと、溶剤や液状樹脂に溶解した時の粘度が低いことなどが挙げられる。加熱時の流動性は、乾燥後の耐火煉瓦の機械的強度に関係し、流動性が低い場合には耐火骨材表面へのコートが不足して耐火骨材間の接着性が不充分となり、機械的強度が低下するという問題がある。また、溶剤や液状樹脂に溶解した時の粘度についても、粘度が高くなると耐火骨材へのコート不足が発生し、同様に乾燥後及び焼成後の機械的強度が低下する場合がある。
これらの問題を解決すべく検討がなされているが(例えば、特許文献1参照。)、更なる改良が望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−139845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、焼成後の曲げ強度の低下を抑えることができる耐火物結合剤用樹脂組成物、及び、これを用いた耐火物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1)ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする耐火物結合剤用樹脂組成物。
(2)上記アニリン樹脂の含有量は、上記ノボラック型フェノール樹脂とアニリン樹脂との合計に対して20〜60重量%である上記(1)に記載の耐火物結合剤用樹脂組成物。
(3)上記(1)又は(2)に記載の組成物を、耐火骨材に配合してなることを特徴とする耐火物。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする耐火物結合剤用樹脂組成物であり、結合剤の加熱時の流動性が向上し、焼成後の機械的強度低下を抑えることができる耐火物を得ることができる。
そして、本発明の耐火物は、製鋼設備の炉壁、炉底の補修などに好適に用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の耐火物結合剤用樹脂組成物、及び、耐火物について説明する。
本発明の耐火物結合剤用樹脂組成物(以下、単に「組成物」ということがある)は、ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする。
また、本発明の耐火物は、上記本発明の組成物を、耐火骨材に配合してなることを特徴とする。
まず、本発明の組成物について詳細に説明する。
【0010】
本発明の樹脂組成物に用いるノボラック型フェノール樹脂(以下、単に「ノボラック樹脂」ということがある)は、フェノール類とアルデヒド類とを、蓚酸、塩酸、硫酸などの酸性物質を触媒として用いて反応させて得られるものである。
【0011】
ここで用いられるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価の多環フェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAが多く用いられる。これにより、機械的強度の高い耐火物を得ることができる。
【0012】
また、アルデヒド類としては特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。
通常、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが多く用いられる。
【0013】
上記フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との反応モル比(F/P)としては特に限定されないが、通常、0.6〜1.0とすることができる。これにより、組成物に用いるのに好適な分子量を有するノボラック樹脂を得ることができる。
【0014】
本発明の組成物で用いられるアニリン樹脂は、アニリンモノマーとアルデヒド類とを、蓚酸、塩酸、硫酸などの酸性物質を触媒として用いて反応させて得ることができる。
ここで用いられるアルデヒド類としては特に限定されないが、上記ノボラック樹脂の合成に用いたものを例示することができる。
また、アニリン(A)とアルデヒド類(F)との反応モル比(F/A)としては特に限定されないが、通常、0.6〜1.2とすることができる。これにより、組成物に用いるのに好適な軟化点及び分子量を有するアニリン樹脂を得ることができる。
【0015】
本発明の組成物において、ノボラック樹脂とアニリン樹脂との配合比率は特に限定されないが、アニリン樹脂の配合量が、ノボラック樹脂とアニリン樹脂との合計に対して20〜60重量%であることが好ましい。さらに好ましくは40〜50重量%である。これにより、特に、乾燥後の曲げ強度を実質的に低下させることなく、焼成後の耐火物の機械的強度低下を抑制する効果を高めることができる。
アニリン樹脂の配合量が上記下限値未満の場合、組成物の流動性が充分に大きくならず、焼成後の耐火物の機械的強度が低下するのを抑制する効果が充分でないことがある。一方、上記上限値を越える場合は、組成物の流動性が過大になり、乾燥後の曲げ強度が低下したり、焼成後の耐火物の機械的強度が低下するのを抑制する効果が充分でなくなったりすることがある。
【0016】
本発明の組成物において、ノボラック樹脂とアニリン樹脂とを用いる際の形態としては特に限定されないが、いずれも粉末状として用いることが好ましい。これにより、簡易な方法で、高い精度で混合することができる。粉末状とする方法としては特に限定されないが、例えば、両者を粉末状に粉砕した後混合する方法、あるいは、両者を同時に粉砕混合する方法などを適用することができる。
【0017】
本発明の樹脂組成物には、以上に説明したノボラック樹脂とアニリン樹脂のほか、ノボラック樹脂の硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを用いることができる。
【0018】
また、ノボラック樹脂とアニリン樹脂とを粉末状の形態で用いる場合は、ウェッターとして有機溶剤を配合することができる。
ここで有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、アルコール類、グリコール類、トリオール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ケトンエステル類、ケトンエーテル類、エステルエーテル類、芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤等が挙げられる。これらの中でも、グリコール類,トリオール類などの多価アルコール類が最も好ましい。多価アルコールとしては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
上記溶剤の配合量としては特に限定されないが、通常、上記樹脂成分(固形分)100重量部に対して、30〜50重量部を用いることができる。
【0020】
次に、本発明の耐火物について説明する。
本発明の耐火物に用いられる耐火骨材としては特に限定されないが、例えば、マグネシア、アルミナ、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、マグネシアを用いることが好ましい。
【0021】
このほか、本発明の耐火物には、黒鉛を配合することができる。これにより、耐熱性を向上させることができる。
黒鉛としては人造黒鉛と天然黒鉛があり、天然黒鉛としては鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛が挙げられる。これらの中でも、鱗片状黒鉛を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の耐火物において、耐火骨材と組成物との配合比率としては特に限定されないが、通常、耐火骨材100重量部に対して、組成物3〜12重量部を配合することができる。
【0023】
本発明の耐火物の調製方法としては、通常の方法が適用できる。
例えば、ノボラック樹脂、アニリン樹脂、ヘキサメチレンテトラミンをいずれも粉体の形態で用いて組成物とし、これを、耐火骨材、黒鉛などと混合した後、ウェッターとして有機溶剤を添加し、ミキサーなどを用いて混練することにより得られる。混練する際の条件としては特に限定されないが、例えば、50℃で30分間混練することができる。
【0024】
本発明の組成物を用いることにより、耐火物の、焼成後の機械的強度の低下を抑制できるメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。
本発明の組成物に用いられるアニリン樹脂は、ノボラック樹脂と比較して、加熱により硬化しにくいという特性を有する。このため、加温時の組成物に高い流動性を付与することができ、耐火骨材、黒鉛などにより形成される空隙を充填し、構成材料間の接着面積を増大させることができると考えられる。このような耐火物は、乾燥後に充分な曲げ強度を有しているのに加えて、焼成後でも上記効果をある程度保持することができ、これにより、焼成後の機械的強度の低下を抑制できると考えられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
はじめに、実施例に用いるノボラック樹脂、及び、アニリン樹脂の合成方法を示す。
【0026】
1.ノボラック樹脂の合成
攪拌装置、還流冷却器、及び、温度計を備えた反応装置に、フェノール1000部、蓚酸10部を仕込み、還流条件下で43%ホルマリン600部を逐次添加し、常圧脱水反応後、所定の軟化点となるまで減圧下で脱水及び脱フェノールを行い、ノボラック樹脂1060部を得た。この樹脂は溶液粘度が95μm/s、遊離フェノール含有率7.0%であった。これを粉砕して、粉末状とした。
【0027】
2.アニリン樹脂の合成
攪拌装置、還流冷却器、及び、温度計を備えた反応装置に、アニリン1000部及び蓚酸20部を仕込み、還流後43%ホリマリン720部を逐次添加し、その後、常圧脱水条件下で所定の軟化点になるまで反応させ、アニリン樹脂1100部を得た。この樹脂は軟化点80℃であった。これを粉砕して、粉末状とした。
【0028】
3.組成物の調製
(実施例1)
ノボラック樹脂48部、アニリン樹脂12部、MgO 850部、鱗片状黒鉛150部、ヘキサメチレンテトラミン6部を実験用ミキサーに仕込み、混合後、エチレングリコール24部を加えて、50℃で30分間混練し、組成物を得た。
【0029】
(実施例2)
ノボラック樹脂を36部に減量し、アニリン樹脂を24部に増量した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0030】
(実施例3)
ノボラック樹脂を30部に減量し、アニリン樹脂を30部に増量した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0031】
(実施例4)
ノボラック樹脂を24部に減量し、アニリン樹脂を36部に増量した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。
【0032】
(比較例)
ノボラック樹脂60部、アニリン樹脂を用いず、MgO 850部、鱗片状黒鉛150部、ヘキサメチレンテトラミン6部を実験用ミキサーに仕込み、混合後、エチレングリコール24部を加えて、50℃で30分間混練し、組成物を得た。
【0033】
4.耐火物の製造
実施例及び比較例で得られた組成物を、15×25×100mmの金型で40℃にて3分間成形し、成形品を得た。得られた成形品を200℃にて3時間乾燥させた後、さらに、1000℃にて3時間焼成し、耐火物を得た。
【0034】
5.評価
上記で得られた耐火物について、乾燥後の曲げ強度と、焼成後の曲げ強度について、JIS R 2213「耐火れんがの曲げ強さの試験方法」に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1〜4は、ノボラック樹脂と、アニリン樹脂とを含有する本発明の組成物である。
これを用いた耐火物は、アニリンの添加量が多くなるに従って、乾燥後曲げ強度は実用上支障のない範囲内で低下する傾向がみられるものの、焼成後曲げ強度は、アニリン樹脂を含まない比較例に比べ向上させることができた。そして、実施例2〜3は、アニリン樹脂の配合量が最適であったので、これらの特性のバランスに特に優れたものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする耐火物結合剤用樹脂組成物であり、結合剤の加熱時の流動性が向上し、焼成後の機械的強度低下を抑えることができる耐火物を得ることができる。
そして、本発明の耐火物は、焼成後も高い曲げ強度を必要とする製鋼設備の炉壁、炉底の補修などに好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂と、アニリン樹脂とを含有することを特徴とする耐火物結合剤用樹脂組成物。
【請求項2】
前記アニリン樹脂の含有量は、前記ノボラック型フェノール樹脂とアニリン樹脂との合計に対して、20〜60重量%である請求項1に記載の耐火物結合剤用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を、耐火骨材に配合してなることを特徴とする耐火物。

【公開番号】特開2006−89662(P2006−89662A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278890(P2004−278890)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】