説明

耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物

【目的】 本発明は耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物および貯蔵安定性に優れたポリエステルフィルムを提供する。
【構成】 数平均分子量10000以上の高分子量ポリエステルと酸化防止剤を含み、190℃下での耐熱性が、特定の式で表される粘度保持率で0.7以上である事が特徴の耐熱性に優れたポリエステル樹脂組成物である。室温下での保管時でも強度低下の少ない優れたポリエステルフィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物およびフィルムに関する。詳しくは、高分子量脂肪族ポリエステルに酸化防止剤を加えることにより得られる耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物および貯蔵安定性に優れたフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】脂肪族ポリエステルは一般に生分解性が認められており、その特徴を生かして繊維、成型品、シートやフィルムに使用することが期待されている。
【0003】しかしながら、本発明者らは、かねてより脂肪族ポリエステルおよびその成型品の耐熱性について研究を行っていたところ、脂肪族ポリエステルは耐熱性が悪く、高温にさらさらされる条件下、例えば190℃の高温下では、30分後の分子量保持率が70%未満となり、射出成型品や押し出し成型品としての使用には問題を残していることが判明した。
【0004】さらに驚くべきことに、耐熱性が悪い脂肪族ポリエステルは室温での保存においても劣化が起こり、例えばフィルムに成形加工した場合などは経時的に強度などの物性が大きく低下することが判った。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記脂肪族ポリエステルの問題点を解決し、耐熱性、貯蔵安定性に優れた新規で有用なポリエステル樹脂組成物、および経時的な強度低下の少ない貯蔵安定性に優れたポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、かかる現状に鑑み、上記問題点を解決すべく鋭意検討を行った結果、数平均分子量10000以上の高分子量脂肪族ポリエステル(A)と酸化防止剤(B)から成り、式(1)で表される粘度保持指数が0.7以上になるように(A)成分と(B)成分を配合することを特徴とする耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物を開発することにより上記の目的を達成した。
【0007】
【数1】


【0008】X:フローテスターによる測定で190℃、30分後の粘度(ポイズ)
Y:フローテスターによる測定で190℃、5分後の粘度(ポイズ)
【0009】
【作用】本発明に用いる高分子量脂肪族ポリエステル(A)を得るには、イ)多塩基酸(あるいはそのエステル)とグリコールを重縮合する方法、ロ)ヒドロキシカルボン酸(あるいはそのエステル)を重縮合する方法、ハ)環状酸無水物と環状エーテルを開環重合する方法,ニ)環状エステルを開環重合する方法が挙げられる。
【0010】イ)の方法で用いられる多塩基酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸あるいはそれらのエステル等が挙げられ、グリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4ーブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール等が挙げられる。また、グリコール成分の一部としてポリオキシアルキレングリコールを使用することも可能であり、例えばポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールおよびこれらの共重合体が例示される。これらのうちで、得られるポリエステルの融点、生分解性、経済性を考慮するとコハク酸とエチレングリコール及び/またはコハク酸と1,4ーブタンジオールの組合せが好ましい。高分子量脂肪族ポリエステル(A)の製造に際しては多塩基酸(あるいはそのエステル)成分およびグリコール成分の全量を初期混合し反応させてもよく、または反応の進行にともなって分割して添加してもさしつかえない。重縮合反応としては通常のエステル交換法またはエステル化法さらには両方の併用によっても可能であり、また必要により反応容器内を加圧または減圧にすることにより重合度を上げることができる。
【0011】ロ)の方法で用いられるヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシ−2、2−ジメチルプロピオン酸、3−ヒドロキシ−3−メチル−酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、クエン酸、リンゴ酸あるいはそれらのエステル等が挙げられる。重縮合反応としては通常のエステル交換法またはエステル化法さらには両方の併用によっても何らさしつかえなく、また必要により反応容器内を加圧または減圧にすることにより重合度を上げることができる。
【0012】ハ)の方法で用いられる環状酸無水物としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、等が挙げられる。環状エーテルとしては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、エピクロロヒドリン、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、テトラヒドロフラン、オキセパン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどが挙げられる。これらのうちで、得られるポリエステルの融点、生分解性、経済性を考慮すると無水コハク酸とエチレンオキシドの組合せが好ましい。開環重合は公知の開環重合触媒を用い、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0013】ニ)の方法で用いられる環状エステルとしては、例えばβ−プロピオラクトン、β−メチル−β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。開環重合は公知の開環重合触媒を用い、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0014】このような高分子量脂肪族ポリエステル(A)を得る方法のなかで比較的短い時間で工業的に効率よく製造できる方法としてハ)の環状酸無水物と環状エーテルを開環重合する方法が好ましい。以下、環状酸無水物と環状エーテルの開環重合についてさらに詳しく説明する。
【0015】本発明で用いられる無水コハク酸等の環状酸無水物は、これまで単独重合しないことが知られていた。このような単独重合しない環状酸無水物に対し、重合触媒の存在下に環状エーテルを逐次的に添加して重合させることによって、実質的に酸成分とアルコール成分が交互共重合したポリエステルが短時間で生成させ得る。
【0016】重合は溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。溶媒中での重合では環状酸無水物は溶媒に溶解させて用い、塊状重合では環状酸無水物を溶融させてから本発明に用いる。
【0017】溶媒中での重合は、回分式でも連続式でも行うことができ、その際使用される溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの不活性溶媒をあげることができる。
【0018】重合触媒としては、特に限定はなく、通常ポリエステルを開環重合する際に使用するものを用いる。例えばテトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−iso−プロポキシジルコニウム、テトラ−iso−ブトキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリ−iso−プロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−iso−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、モノ−sec−ブトキシ−ジ−iso−プロポキシアルミニウム、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、テトラエトキシチタン、テトラ−iso−プロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン、トリ−iso−プロポキシガリウム、トリ−iso−プロポキシアンチモン、トリ−iso−ブトキシアンチモン、トリメトキシボロン、トリエトキシボロン、トリ−iso−プロポキシボロン、トリ−n−プロポキシボロン、トリ−iso−ブトキシボロン、トリ−n−ブトキシボロン、トリ−sec−ブトキシボロン、トリ−t−ブトキシボロン、トリ−iso−プロポキシガリウム、テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトラ−iso−プロポキシゲルマニウム、テトラ−n−プロポキシゲルマニウム、テトラ−iso−ブトキシゲルマニウム、テトラ−n−ブトキシゲルマニウム、テトラ−sec−ブトキシゲルマニウム、テトラ−t−ブトキシゲルマニウムなどの金属アルコキド;五塩化アンチモン、塩化亜鉛、臭化リチウム、塩化すず(IV)、塩化カドミウム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテルなどのハロゲン化物;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムジクロライド、トリ−iso−ブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム;ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛などのアルキル亜鉛;トリアリルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ジアザビシクロオクタン類、などの三級アミン;リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸などのヘテロポリ酸およびそのアルカリ金属塩;酸塩化ジルコニウム、オクチル酸ジルコニール、ステアリン酸ジルコニール、硝酸ジルコニールなどのオキシジルコニウム化合物等が挙げられ、中でもオクチル酸ジルコニール、テトラアルコキシジルコニウム、トリアルコキシアルミニウム化合物が特に好ましい。重合触媒の使用量には特に制限はないが、通常環状酸無水物および環状エーテルの合計量に対して0.001〜10重量%である。重合触媒の添加方法は環状酸無水物に添加しておいてもよく、環状エーテルのように逐次添加してもよい。
【0019】重合温度は環状酸無水物と環状エーテルが反応する温度であれば特に制限はないが、10〜250℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは100〜150℃である。反応に際して、反応容器内の圧力は反応温度および溶媒の有無や溶媒の種類によって異なるが、環状エーテルの逐次的な添加による圧力の上昇に伴う未反応環状エーテルの増加は、反応生成物中のポリエーテル成分を増やすことになり好ましくない。したがって、反応容器内の圧力は常圧〜50kgf/cm2が好ましく、より好ましくは常圧〜15kgf/cm2 となるように環状エーテルを添加する。
【0020】環状エーテルの逐次添加は、環状酸無水物100重量部に対し1時間あたり環状エーテルを3〜90重量部が好ましく、より好ましくは5〜50重量部の割合で行なう。
【0021】環状エーテルの添加速度が下限の3重量部より遅い場合には、反応が長時間となり生産性が低下するなど工業的に好ましくない。また、上限の90重量部より速い場合には、反応生成物中のポリエーテル成分が増加して融点の低いポリエステルしか得られなくなる。
【0022】なお、環状エーテルの逐次添加とは、環状エーテルを一括して添加しないことであり、連続的に滴下する方法や多段階に分割して断続的に添加する方法のいずれでもよい。好ましくは添加量が経時的に大きく変動しないように連続的に添加するのがよい。
【0023】本発明における環状酸無水物および環状エーテルの反応比率は、これらのモル比で40/60〜60/40の比率となるようにするのが好ましく、残存環状酸無水物およびポリエステルの末端カルボキシル基がポリエステルの物性を低下させることを考慮すると環状エーテル(D)を過剰に添加するために40/60〜49/51の比率となるようにするのがさらに好ましい。このようにすることにより、ポリエステルの末端カルボキシル基の50%未満がカルボキシル基となり、耐熱性が向上する。
【0024】この比率の範囲をはずれると、未反応モノマーが増大して収率が低下することがある。本発明で前記モル比を考慮して決定した所定量の環状エーテルを逐次添加し終わった後、前記反応温度で重合を継続して熟成するのが好ましい。熟成反応後に重合系から生成したポリエステルを分離すればよい。
【0025】イ)、ロ)、ハ)、ニ)のいずれの方法によって得られたポリエステルも数平均分子量が10000よりも低い場合、さらにエステル交換反応で高分子量化しても良い。また、イソシアネート化合物のようなカップリング剤で高分子量化することも考えられるが、多官能イソシアネートによるゲル状物の発生、残存イソシアネート化合物の毒性の問題などから好ましくない。
【0026】本発明において使用する酸化防止剤(B)としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられ、公知の化合物の中から次のようなものが挙げられる。
【0027】フェノール系酸化防止剤としては、例えば、次に示すような化合物が挙げられる:2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス−〔2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン(商品名 Sumilizer GA−80)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 259)、テトラキス〔メチレン(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナメート)〕メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名 IRGANOX 1076)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル(商品名 IRGANOX 1222)、N,N’−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナムアミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ-ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6,−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(商品名 IRGANOX 1425WL)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート(商品名 IRGANOX 3114)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、2,2−ビス〔4−(2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシハイドロシンナモイルオキシ))エトキシフェニル〕プロパン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなど。
【0028】イオウ系酸化防止剤としては、例えば、次に示すような化合物が挙げられる:ジラウリル−3,3−チオジプロピオネート(商品名 SUMILIZER TPL−R)、ジミリスチル−3,3−チオジプロピオネート(商品名 SUMILIZER TPM)、ジステアリル−3,3−チオジプロピオネート(商品名SUMILIZER TPS)、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート(商品名 SUMILIZER TP−D)、ジトリデシル−3,3−チオジプロピオネート(商品名 SUMILIZER TL)、2−メルカプトベンゾイミダゾール(商品名 SUMILIZER MB)など。
【0029】リン系酸化防止剤としては、例えば、次に示すような化合物が挙げられる:トリフェニルフォスファイト、トリラウリルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、ジイソオクチルフェニルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンフォスフォナイト(商品名 IRGAFOS P−EPQFF)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(商品名 IRGAFOS 168)、ジステアリルペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ジオクチルペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(商品名 アデカスタブ PEP−36)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンフォスフォナイト(商品名 SANDOSTAB P−EPQ)などの次亜リン酸、亜リン酸およびそのエステル類;リン酸ジフェニル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニル、リン酸ジベンジル、リン酸トリエチル、リン酸トリメチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリス(4−ter−ブチルフェニル)、リン酸トリス(ブトキシエチル)、リン酸トリ−n−ブチルなどのリン酸およびそのエステル類;次亜リン酸、ポリリン酸など。
【0030】上記酸化防止剤は、単独あるいは二種以上を併用することができる。例えば、リン系の酸化防止剤とイオウ系の酸化防止剤を組み合わせる事等は好ましい。
【0031】上記酸化防止剤は、高分子量脂肪族ポリエステル(A)100重量部に対して0.01〜2.00重量部、好ましくは0.05〜1.00重量部の割合で含有される。酸化防止剤の含有量が0.05重量部を下回る場合には、ポリエステルを熱安定化させる効果が得られない。逆に、酸化防止剤の含有量が1.00重量部を上回る場合には、上記安定化効果は得られるが、含有量に比例した効果は得られず、かつ機械的強度などの物性が低下する。
【0032】本発明の組成物の製造方法は、酸化防止剤(B)を高分子量脂肪族ポリエステル(A)製造する際に混練する方法、高分子量脂肪族ポリエステル(A)製造した後に混練する方法などが適用可能である。
【0033】本発明組成物には、必要に応じて他の成分、例えば顔料、染料、耐熱剤、結晶核剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、安定剤、充填剤、強化材、難燃剤、可塑剤、他の重合体を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0034】本発明組成物は、(B)成分を(A)成分の中に任意の方法によって分散させ複合化することによって調製されるが、本発明組成物は、式(I)で表される粘度保持指数が0.7以上、好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上になるように(A)成分と(B)成分を配合させなければならない。
【0035】
【数1】

【0036】X:フローテスターによる測定で190℃、30分後の粘度(ポイズ)
Y:フローテスターによる測定で190℃、5分後の粘度(ポイズ)
粘度保持指数が0.7未満の場合は、成形加工時の熱安定性が悪く、成形加工前に比べて成形加工後の分子量が低下して強度、伸度などの物性が悪くなる。また、成形加工後においても粘度保持指数が0.7未満の場合は、経時安定性が低く、強度、伸度などの物性が経時的に悪くなりフィルム、シート、成型品、繊維、不織布、発泡体などの各種用途に用いることができない。
【0037】この粘度保持指数の測定は市販のフローテスター(島津製作所製、CFT−500C)にダイ(ノズル直径1.00mm、ノズル長さ10.0mm)を装着して190℃、試験荷重10kgf、大気中でおこなった。また、試験に用いる試料はペレット状のものを80℃、減圧下(20〜50mmHg)、10時間乾燥した。測定手順は190℃になったフローテスターに乾燥直後のペレット2〜3gを充填し、充填開始から5分後の粘度(ポイズ)を測定した(Y)。さらに同様の手順であらたに乾燥直後のペレット2〜3gを充填し直し、充填開始から30分後の粘度(ポイズ)を測定した(X)。
【0038】本発明組成物の場合は耐熱性が改良され、成形性も良好であるので、押し出し成形、射出成形、中空成形、真空成形等の通常の成型方法に適用することができ、各種部品、容器、資材、器具、フィルム、シート、繊維、不織布、発泡体等の成型品とすることができる。そして、この組成物から得られた脂肪族ポリエステルフィルムは、室温保存での経時的な強度低下、強度変化が少なく非常に有効である。そしてこのフィルムに関しての成形方法も特に限定されるものではない。通常のフィルムに適用できる成形方法が利用できる。
【0039】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、例中の部は重量部を表わす。実施例で実施した評価方法は以下の通りである。結果をまとめて表1に示した。
【0040】(分子量)ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いてポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
【0041】(融点)DSCにて測定した。
【0042】(経時安定性)130℃、150kg/cm2、2分間の条件で圧縮成形機により厚さ200ミクロンのフィルムを作成し、得られたフィルムを5mm×7cmの短冊状試料に切り抜いた。この短冊状試料を23℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に1日放置したものを初期とし、これとは別に50℃、大気中28日、さら23℃、相対湿度65%の恒温恒湿室に1日放置したものを28日後とし、それぞれをASTM−D882−90(A法)に準じて引っ張り速度20mm/分、標点間距離2cmで引張試験した。
【0043】これらの値を式(2)に代入して、フィルムの強度保持率(%)を求めた。
【0044】
【数2】


【0045】V:フィルムの引張試験で28日後の破断強度(kgf/cm2)
W:フィルムの引張試験で初期の破断強度(kgf/cm2)
(生分解性試験)130℃、150kg/cm2、2分間の条件で圧縮成形機により厚さ200ミクロンのフィルムを作成し、得られたフィルムを土壌を仕込んだプランター中に埋設して、一日一回散水し23℃、相対湿度65%の恒温恒湿室中に保存し、100日後の外観変化を観察した。
【0046】なお、土壌は箕面市小野原および吹田市西御旅町で採取したもの、腐葉土を3:1:3の割合で混合したものを使用した。
【0047】結果は下記の通りに記載した。
【0048】(+):外観変化が認められた。
【0049】(−):外観変化が認められなかった。
【0050】(実施例1)オートクレーブに蒸留精製した無水コハク酸500.0部およびオクチル酸ジルコニール3.68部を加え、窒素置換を行った。次いで攪拌下にオートクレーブを徐々に130℃まで昇温して無水コハク酸を溶融し、同温度でオートクレーブ内の圧力を4.0〜6.5kgf/cm2 に維持しながら、酸化エチレン231.1部を1時間あたり58部の添加速度で4.0時間にわたって連続的に導入した。酸化エチレン導入後130℃で1.0時間熟成反応を行ってから系を常温にもどすことにより、重合生成物を得た。GPC測定による数平均分子量は36000、DSCによる融点は103.4℃であった。
【0051】得られた重合生成物12.0部とペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名IRGANOX 1010)0.06部を温度計、撹拌装置、窒素導入管を付した50ミリリットルのセパラブルフラスコに加え、窒素置換を3回おこなった後、窒素気流中、ドライアイス−メタノールに浸したトラップを備えた真空ポンプで0.9〜1.1mmHgの減圧下、温度240℃の条件で1.5時間反応させ、ポリエステル樹脂組成物(1)を得た。GPC測定による数平均分子量は67000、DSC測定による融点は、102.7℃であった。
【0052】(実施例2)撹拌機、出口にドライアイス−メタノールに浸したトラップを備えたウィグリュー分留管及びガス導入管を付した三つ口フラスコに、コハク酸519.6部、エチレングリコール286.8部およびチタンテトライソプロポキシド0.0772部を入れ、オイルバス中に浸した。オイルバスを昇温し、窒素をゆっくり流し、温度182〜200℃、常圧〜3.0mmHgの減圧度で7時間要して生成する水と過剰のエチレングリコールを留去し、数平均分子量9700のポリエステルを得た。引き続き、温度200〜223℃、3.0mmHgの減圧度で3時間15分要して生成するエチレングリコールを留去し、数平均分子量19200のポリエステルを得た。次いで、得られたポリエステル50.78部とペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 1010)0.254部を温度計、撹拌装置、窒素導入管を付した50ミリリットルのセパラブルフラスコに加え、窒素置換を3回おこなった後、窒素気流中、ドライアイス−メタノールに浸したトラップを備えた真空ポンプで0.9〜1.5mmHgの減圧下、温度220℃の条件で4.5時間反応させ、ポリエステル樹脂組成物(2)を得た。GPC測定による数平均分子量は66500、DSC測定による融点は、102.0℃であった。
【0053】(実施例3)実施例1のペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 1010)0.06部を3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル(商品名 IRGANOX 1222)0.06部に変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(3)を得た。GPC測定による数平均分子量は68000、DSC測定による融点は、102.9℃であった。
【0054】(実施例4)実施例1のペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 1010)0.06部を3,9−ビス−〔2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン(商品名 Sumilizer GA−80)0.024部とテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニレンフォスフォナイト(商品名 IRGAFOS P−EPQFF)0.024部に変えた他は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物(4)を得た。GPC測定による数平均分子量は67000、DSC測定による融点は、101.5℃であった。
【0055】(比較例1)実施例1のペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(商品名 IRGANOX 1010)0.06部を加えなかった他は実施例1と同様にして比較ポリエステル樹脂組成物(1)を得た。GPC測定による数平均分子量は67000、DSC測定による融点は、103.0℃であった。
【0056】
【表1】


【0057】
【発明の効果】本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱性が良好で、生分解性の優れた繊維、成型品、フィルムやシート等への成形加工が容易である。したがって、本発明で得られるポリエステル樹脂組成物は、使い捨ての包装材料や日用雑貨品等に有効に使用できる。得られたフィルムは経時的な強度低下が少なく貯蔵安定性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】数平均分子量10000以上の高分子量脂肪族ポリエステル(A)と酸化防止剤(B)を含み、式(1)で表される粘度保持指数が0.7以上になるように(A)成分と(B)成分を配合することを特徴とする耐熱性の改良されたポリエステル樹脂組成物。
【数1】


X:フローテスターによる測定で190℃、30分後の粘度(ポイズ)
Y:フローテスターによる測定で190℃、5分後の粘度(ポイズ)
【請求項2】式(2)で表される、前記ポリエステル樹脂組成物から得られるフィルムの強度保持率が80%以上である、請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【数2】


V:フィルムの引張試験で28日後の破断強度(kgf/cm2
W:フィルムの引張試験で初期の破断強度(kgf/cm2
【請求項3】前記高分子量脂肪族ポリエステル(A)が、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸成分および、炭素数2〜4の脂肪族グリコール成分とから得られるものである、請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】前記高分子量脂肪族ポリエステル(A)が、無水コハク酸を主成分とする環状酸無水物(C)および酸化エチレンを主成分とする環状エーテル(D)を開環共重合して得られるものである、請求項1〜3記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】前記請求項1〜4記載のポリエステル樹脂組成物含有のポリエステルフィルム。