説明

耐熱性二酸化炭素吸収材およびその製造方法並びにこれを用いた二酸化炭素吸収方法および二酸化炭素吸収装置

【課題】 高温下で二酸化炭素の離脱を行っても、長期に亘って安定して二酸化炭素の除去性能を発揮し得る耐熱性二酸化炭素吸収材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
アミン化合物の水溶液と、潮解性化合物の水溶液とをそれぞれ調製し、アミン化合物水溶液および潮解性化合物水溶液に、それぞれ多孔質物質を投入してアミン化合物および潮解性化合物を多孔質物質に吸着させる。それぞれの多孔質物質を乾燥させて二酸化炭素吸収材と冷却材とを得た後、これらの二酸化炭素吸収材と冷却材とを混合することにより、耐熱性二酸化炭素吸収材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性二酸化炭素吸収材およびその製造方法並びにこれを用いた二酸化炭素吸収方法および二酸化炭素吸収装置に関し、より詳細には、高温下で再生された場合にも二酸化炭素捕捉材の酸化が起こらない耐熱性二酸化炭素吸収材、その製造方法、並びに耐熱性二酸化炭素吸収材を用いた二酸化炭素吸収方法および二酸化炭素吸収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、潜水艦、宇宙船等では、換気ができないため、乗車空間には二酸化炭素の濃度を一定レベル以下に保つための二酸化炭素除去設備が必要となる。
【0003】
このような二酸化炭素除去設備では、二酸化炭素捕捉材としてアミン化合物を使用することが検討されている(特許文献1〜3)。アミン化合物を使用した二酸化炭素除去設備では、二酸化炭素を吸収したアミン化合物から二酸化炭素を離脱させる際に比較的高温下に置かれるため、アミン化合物が酸化されてしまい、二酸化炭素の除去性能が徐々に低下してくることが問題となっている。この問題を解消するために、アミン化合物とポリオールとを活性炭等の多孔質物質に担持させてアミン化合物の酸化を防ぐ試みがなされている。
【特許文献1】特開平3−502774号公報(請求の範囲)
【特許文献2】特開平5−161843号公報(請求項1等)
【特許文献3】特許第2635446号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、長期に亘って安定して二酸化炭素の除去性能を発揮し得る耐熱性二酸化炭素吸収材およびその製造方法を提供することであり、更にはこの耐熱性二酸化炭素吸収材を用いた二酸化炭素吸収方法および二酸化炭素吸収装置を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材は、潜水艦、航空機、車両等の交通機関や、オフィスビル、ショッピングセンター等の商業施設等の居住空間における二酸化炭素を吸収する耐熱性二酸化炭素吸収材であって、多孔質物質にアミン化合物を含浸させた二酸化炭素捕捉材と、多孔質物質に潮解性化合物を含浸させた冷却材とを混合したことを特徴とする。
【0006】
多孔質物質に含浸されたアミン化合物は、そのままでは二酸化炭素の離脱時の高温下で酸化され、次第に二酸化炭素を吸収しなくなるが、多孔質物質に潮解性化合物を含浸させた冷却材が混合されていれば、これに保持されている水が徐々に蒸発し、その際に蒸発熱を二酸化炭素捕捉材から奪うので、二酸化炭素捕捉材に含まれるアミン化合物の温度は周囲の温度より低く保たれ、その結果、アミン化合物の酸化が抑制される。
【0007】
ここで、前記多孔質物質は活性炭であることが好ましい。活性炭はかさ密度が小さいため、単位重量当たりに担持し得るアミン化合物の量を多くすることができるからである。
【0008】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法は、潜水艦、航空機、車両等の交通機関や、オフィスビル、ショッピングセンター等の商業施設等の居住空間内で使用する耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法であって、アミン化合物の水溶液と、潮解性化合物の水溶液とをそれぞれ調製し、該アミン化合物の水溶液および該潮解性化合物の水溶液に、それぞれ多孔質物質を投入して前記アミン化合物および前記潮解性化合物を多孔質物質に含浸させた後、それぞれ乾燥させて二酸化炭素捕捉材と冷却材とを得、更に該二酸化炭素捕捉材と冷却材とを混合することを特徴とする。
【0009】
上記のようにアミン化合物と潮解性化合物とを併用すると、潮解性化合物が保持する水分の蒸発による冷却効果により、アミン化合物の酸化が防止されるが、アミン化合物と潮解性化合物との両方を同じ多孔質物質に含浸させると、潮解性化合物がアミン化合物に何らかの影響を与え、アミン化合物の二酸化炭素吸収性能の低下が生じる。しかし、本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法によれば、アミン化合物と潮解性化合物とが別々に多孔質物質に含浸されるため、アミン化合物への潮解性化合物の影響を回避しつつ、潮解性化合物による冷却効果を発揮させることが可能となる。
【0010】
本発明の二酸化炭素の吸収方法は、上記の何れかに記載の耐熱性二酸化炭素吸収材を用いた二酸化炭素の吸収方法であって、二酸化炭素を含む処理対象の気体に前記耐熱性二酸化炭素吸収材を接触させる吸収工程と、該吸収工程後の前記耐熱性二酸化炭素吸収材を加熱するとともに、二酸化炭素離脱用の気体に接触させて二酸化炭素を離脱させる離脱工程とを包含することを特徴とする。
【0011】
更に、前記離脱工程の後、更に前記吸収工程と前記離脱工程とを繰り返すことも可能である。
【0012】
ここで、二酸化炭素離脱用の気体としては、二酸化炭素以外のガスであればよく、空気、窒素、水蒸気等を使用することができる。また、二酸化炭素離脱用の気体は、例えば60〜80℃前後に加熱すれば、二酸化炭素の離脱を迅速に進めることができる。
【0013】
本発明の二酸化炭素吸収装置は、上記の二酸化炭素の吸収方法を実施するための二酸化炭素吸収装置であって、前記耐熱性二酸化炭素吸収材を収納する二酸化炭素吸収容器と、該二酸化炭素吸収容器に二酸化炭素を含む処理対象気体を供給する吸収用送気手段と、前記二酸化炭素吸収容器を加熱するための加熱手段と、前記二酸化炭素吸収容器に二酸化炭素離脱用の気体を供給する離脱用送気手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
更に、前記処理対象気体が供給されている前記二酸化炭素吸収容器からの吸収処理後の気体の温度が高い場合に、該吸収処理後の気体を外部に排気するための排気ラインを設けてもよい。
【0015】
また、前記二酸化炭素吸収容器を冷却するための冷却装置を設けてもよい。
【0016】
本発明の二酸化炭素吸収装置は、上記の二酸化炭素の吸収方法を実施するための二酸化炭素吸収装置であって、前記耐熱性二酸化炭素吸収材をそれぞれ収納する第1及び第2の二酸化炭素吸収容器と、該第1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの一方に二酸化炭素を含む処理対象気体を供給する吸収用送気手段と、前記1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの前記処理対象気体を送るべき前記一方の二酸化炭素吸収容器を選択する切換手段と、前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器をそれぞれ加熱するための第1及び第2の加熱手段と、前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの他方に二酸化炭素離脱用の気体を供給する離脱用送気手段と前記1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの二酸化炭素離脱用の気体を送るべき前記他方の二酸化炭素吸収容器を選択する他の切換手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
更に、前記処理対象気体が供給されている前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器うちの一方からの吸収処理後の気体の温度が高い場合に、該吸収処理後の気体を外部に排気するための排気ラインを設けてもよい。
【0018】
また、前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器をそれぞれ冷却するための第1及び第2の冷却装置を設けてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材によれば、多孔質物質に含浸されたアミン化合物は、冷却材に保持されている水の蒸発により冷却され、その結果アミン化合物の酸化が抑制されるので、例えば高温下で二酸化炭素の離脱が行われる場合にも、アミン化合物の酸化が抑制され、長期に亘って安定した二酸化炭素吸収性能が発揮される。
【0020】
加えて、本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法によれば、アミン化合物と潮解性化合物とが別々に多孔質物質に含浸された後に混合されるため、アミン化合物への潮解性化合物の影響を回避しつつ、潮解性化合物による冷却効果を発揮させることが可能となり、アミン化合物の酸化を防止することができる。
【0021】
本発明の二酸化炭素の吸収方法方法および二酸化炭素吸収装置によれば、高温下にアミン化合物を用いた二酸化炭素捕捉材を使用しても、潮解性化合物の冷却効果により、二酸化炭素捕捉材に含まれるアミン化合物が酸化しないので、二酸化炭素吸収性能が低下せず、長期にわたって二酸化炭素吸収性能が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態について、以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材は、潜水艦、航空機、車両等の交通機関や、オフィスビル、ショッピングセンター等の商業施設等の多数の人間を収容する空間において使用するのに適している。
【0024】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材において、アミン化合物および潮解性化合物を含浸させる多孔質物質としては、ゼオライト、活性炭、モレキュラーシーブス、モレキュラーシーブカーボン、シリカゲルなどを例示することができる。これらのうち、かさ密度が小さく、アミン化合物および潮解性化合物を含浸させても、二酸化炭素捕捉材および冷却材としての重量が大きくならない活性炭が好ましい。また、活性炭としては、平均細孔径20〜100Å、細孔容積1.0〜2.0cm3/g、比表面積1000〜2000m2/gの範囲のものが好ましい。
【0025】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材において、二酸化炭素を吸収するアミン化合物としては、ポリエチレンイミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラエチレンアミンペンタミン、メチルジエタノールアミン、ジブチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサエチレンジアミン、ベンジルアミン等が挙げられる。
【0026】
多孔質物質へのアミン化合物の含浸は、例えば所定濃度のアミン化合物の水溶液に多孔質物質を投入し、所定時間後に濾過し、さらに乾燥させることにより行うことができる。アミン化合物の含浸量は、多孔質物質への含浸前後の重量により求めることができる。
【0027】
アミン化合物の含浸量は、多孔質物質100重量部に対して、25〜250重量部の範囲であることが好ましい。アミン化合物の含浸量がこの範囲を下回ると二酸化炭素吸収量が減少し、また、アミン化合物を上記範囲を上回って含浸させることは実質上不可能となる。
【0028】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材においては、潮解性化合物は空気中の湿気を吸収し、担持されている活性炭等の多孔質物質の表面層では、高濃度水溶液として存在する。潮解性化合物の高濃度水溶液は水蒸気圧が極めて低いために、蒸発しにくい性質を有する。従って、潮解性化合物を含浸した多孔質物質が高温に曝された場合、徐々に水分が蒸発し、その蒸発熱によって二酸化炭素捕捉材のアミン化合物が冷却され、アミン化合物の酸化が防止されることとなる。一方、二酸化炭素の吸収に際しては、常温近傍で空気が供給されるため、加熱によって潮解性物質から放出された水分は、再び空気中から吸収され、保有水を回復することとなる。なお、アミン化合物も空気中の水分を吸収する性質を有するが、臭化リチウム等の潮解性物質に比べて空気中の水分の吸収能力が低いため、比較的低温域で水分を離脱するとともに、二酸化炭素の吸収に際しての水分回復量も少ない。
【0029】
本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材において使用し得る潮解性化合物としては、高湿度下においてのみ潮解性を示す化合物も含まれ、臭化リチウム、塩化カルシウムのほか、塩化リチウム、沃化リチウム、臭化カルシウム、塩化カリウム、臭化カリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛等を例示することができる。
【0030】
多孔質物質への潮解性化合物の含浸は、例えば所定濃度の潮解性化合物の水溶液に多孔質物質を投入し、所定時間後に濾過し、さらに乾燥させることにより行うことができる。潮解性化合物の含浸量および含浸率は、多孔質物質への含浸前後の重量により求めることができる。
【0031】
潮解性化合物の含浸量は、重量比で、多孔質物質100部に対して、150〜250部であることが好ましい。潮解性化合物の含浸量がこの範囲を下回ると高温下でのアミン化合物に対する冷却効果が実質上得られず、また、潮解性化合物を上記範囲を上回って含浸させることは実質上不可能となる。
【0032】
図1は、本発明の耐熱性二酸化炭素吸収材を航空機等の居住空間に適用する場合の二酸化炭素吸収装置の概略図である。同図に示す二酸化炭素吸収装置は、客室10内の二酸化炭素を規定値以下に保持するためのものであり、2つの二酸化炭素吸収容器11Aおよび11Bを備えている。各二酸化炭素吸収容器11A,11Bには、多孔質物質にアミン化合物を含浸させた二酸化炭素捕捉材と多孔質物質に潮解性化合物を含浸させた冷却材とを混合した耐熱性二酸化炭素吸収材が充填されている。また、各二酸化炭素吸収容器11A,11Bには、加熱により二酸化炭素の離脱を行うための、図示しない加熱装置が取り付けられている。
【0033】
客室10には、排気ファン12を介してライン13が接続されており、このライン13は2つに分岐し、各分岐ラインはそれぞれバルブ14A,14Bを介して二酸化炭素吸収容器11A,11Bに接続されている。また、二酸化炭素吸収容器11A,11Bには、外気をファン15からバルブ16A,16Bを介して二酸化炭素吸収容器11A,11Bに供給する17が接続されている。更に、二酸化炭素吸収容器11A,11Bは、バルブ25A,25Bを介して外部に連通し得るようになっている。
【0034】
二酸化炭素吸収容器11A,11Bは、それぞれバルブ18A,18Bとライン19とを介して客室10に接続されるとともに、ライン19には排気ライン28が接続され、この排気ライン28上には排気バルブ27が取り付けられている。また、二酸化炭素吸収容器11A,11Bは、バルブ20A,20Bとライン21とを介して外気に通じている。更に、二酸化炭素吸収容器11A,11Bには、それぞれ排気用のライン22A,22Bが接続され、ライン22Aはバルブ23Aおよびファン24Aを介して外部に通じており、同様に、ライン22Bはバルブ23Bおよびファン24Bを介して外部に通じている。
【0035】
図1の二酸化炭素吸収装置では、以下のようにして二酸化炭素の吸収と離脱が行われる。まず、全てのバルブが閉じた状態から、バルブ16Aおよび20Aを開いて二酸化炭素吸収容器11Aへの送気を開始するとともに二酸化炭素吸収容器11Aの加熱を開始し、二酸化炭素吸収容器11A内の耐熱性二酸化炭素吸収材の二酸化炭素の離脱を行う。二酸化炭素の離脱完了後、バルブ16Aおよび20Aを閉じるとともに二酸化炭素吸収容器11Aの加熱を止め、更にバルブ14A,18Aおよび排気バルブ27を開いて客室10から二酸化炭素吸収容器11Aへの送気を開始する。これにより、二酸化炭素吸収容器11Aによる二酸化炭素の吸収が開始されるが、開始直後の温度の高い空気は外部に排出することができる。次に、二酸化炭素吸収容器11Aへの送気により二酸化炭素吸収容器11A内の温度が下がった時点で排気バルブ27を閉じ、これにより、二酸化炭素吸収後の空気が客室10内に戻されることになる。なお、二酸化炭素吸収容器11Aの冷却装置を設ければ、排気バルブ27は当初から閉じたままとし、客室10から送られる空気からの二酸化炭素の吸収を終えた後、全てを客室10に戻すことが可能となる。
【0036】
図1の装置では、二酸化炭素吸収容器11Aによる二酸化炭素の吸収と並行して、もう一方の二酸化炭素吸収容器11B内の耐熱性二酸化炭素吸収材からの二酸化炭素の離脱が行われる。即ち、バルブ16Bおよび20Bを開いて二酸化炭素吸収容器11Bへの送気を開始するとともに二酸化炭素吸収容器11Bの加熱が行われる。そして、二酸化炭素吸収容器11A内の耐熱性二酸化炭素吸収材の二酸化炭素の吸収能力が低下した時点で、バルブ14B,18Bを開くとともにバルブ14A,18Aを閉じ、同時にバルブ16A,20Aを開けるとともにバルブ16B,20Bを閉じ、更に二酸化炭素吸収容器11Aの加熱を開始することにより、二酸化炭素吸収容器11Bによる二酸化炭素の吸収と、二酸化炭素吸収容器11A内の耐熱性二酸化炭素吸収材の二酸化炭素の離脱が行われる。このように二酸化炭素吸収容器11A,11Bによる二酸化炭素の吸収と離脱とを交互に行うことにより、長期にわたって安定した二酸化炭素吸収性能を維持することができる。
【実施例】
【0037】
表1に示す原料を用いて、水溶液含浸法により二酸化炭素捕捉材を調製した。表1に示すように、アミン化合物の水溶液に活性炭Aを投入し、常温で24時間浸漬した後、濾過し、風乾(空気中乾燥)することにより、二酸化炭素捕捉材を得た。この二酸化炭素捕捉材のアミン化合物の含浸率と、80℃で二酸化炭素離脱後、0.5容積%の二酸化炭素を含むHeガス中、40℃で吸収を行った場合の二酸化炭素吸収率とを重量測定により求め、その結果を併せて表1に記載した。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、表2に示す原料を用いて、水溶液含浸法により冷却材1〜2を調製した。表2に示すように、各濃度の潮解性物質の水溶液に活性炭Aを投入し、常温で24時間浸漬した後、濾過し、風乾(空気中乾燥)することにより、各冷却材1〜2を得た。これらの冷却材1〜2について、潮解性物質の含有率を求め、その結果を併せて表2に記載してある。
【0040】
【表2】

【0041】
表1に示す二酸化炭素捕捉材と表2に示す臭化リチウムを含有する冷却材1とを用い、表3に示す配合比率で混合して、実施例1〜4の耐熱性二酸化炭素吸収材を調製した。比較のために二酸化炭素捕捉材を100容積%としたものを比較例とした。実施例1〜4および比較例の二酸化炭素吸収材について、100g当たりの二酸化炭素吸収量を測定し、その結果を併せて表3に記載した。その結果から明らかなように、二酸化炭素吸収量は、耐熱性二酸化炭素吸収材に含まれる二酸化炭素捕捉材の配合量に依存していることが分かる。
【0042】
【表3】

【0043】
表3の実施例1〜4および比較例の二酸化炭素吸収材について、耐熱性試験を行った。その結果を図2に示した。同図の試験は、各二酸化炭素吸収材を85℃の恒温槽に入れて、その温度の経時変化を測定したものである。同図から、冷却材1を含有しない比較例の二酸化炭素吸収材は、約50分後には設定温度の85℃を超えて約88℃にまで到達している。これは、アミン化合物の酸化反応により発熱が起こったためと考えられる。これに対して、冷却材1を含有する実施例1〜4の耐熱性二酸化炭素吸収材の場合は、300分経過後においても設定温度85℃より低い温度を保っている。これにより、臭化リチウムを含有する冷却材1の添加により、アミン化合物の酸化を抑制し得ることが分かる。
【0044】
次に、表1に示す二酸化炭素捕捉材と、表2に示す塩化カルシウムを含有する冷却材2とを用い、表4に示す配合比率で混合して、実施例5〜8の耐熱性二酸化炭素吸収材を調製した。これらの二酸化炭素吸収材と、表3に示した二酸化炭素捕捉材を100容積%とした比較例とについて、上記と同様に耐熱性試験を行い、その結果を図3に示した。同図から、塩化カルシウムを用いた二酸化炭素吸収材の場合も、約300時間までは設定温度85℃より低い温度を保っていることが分かる。これにより、塩化カルシウムを含有する冷却材2の添加により、アミン化合物の酸化を抑制し得ることが分かる。
【0045】
【表4】

【0046】
次に、実施例2の耐熱性二酸化炭素吸収材について、図4の概略図に示す装置を用いて二酸化炭素吸収と二酸化炭素離脱とを繰り返す試験を行った。同図に示す装置では、外気を送出するファン31と、ファン31からの空気とボンベ33からの二酸化炭素とを混合するミキサー32とを備えている。ミキサー32を出た混合気体は、二酸化炭素濃度計35および温湿度計36によって二酸化炭素濃度と温度および湿度とが計測された後、流量計34、バルブ43を経て二酸化炭素吸収容器30に導かれる。二酸化炭素吸収容器30には、実施例2の耐熱性二酸化炭素吸収材が充填されている。二酸化炭素吸収容器30の上流側と下流側との間には、差圧計37が設けられている。二酸化炭素吸収容器30を出た空気は温湿度計38および二酸化炭素濃度計39による二酸化炭素濃度と温度および湿度の計測が行われた後、バルブ44を介して屋外に導かれている。
【0047】
また、ファン31から供給される空気は、流量計40にも供給されており、流量計40を出た空気はエアヒータ41で加熱され、バルブ42を介して二酸化炭素吸収容器30に導かれるように構成されている。図4の装置では、二酸化炭素の吸収を行う場合はバルブ43が開けられるとともにバルブ42が閉じられ、二酸化炭素の離脱を行う場合はバルブ43が閉じられるとともにバルブ42が開けられる。
【0048】
表5に図4の装置を用いた試験の条件を示す。同表に示すように、二酸化炭素吸収と二酸化炭素離脱とを3回繰り返した。各回の二酸化炭素の離脱の条件は同じであるが、二酸化炭素吸収の条件のうち、二酸化炭素濃度は0.2〜0.4容積%に増加している。
【0049】
図5は表5の試験における二酸化炭素吸収性能の変化を表す図である。同図から、実施例2の耐熱性二酸化炭素吸収材は、3回の繰り返し使用をしても、二酸化炭素吸収性能を維持していることが分かる。
【0050】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の高温下で二酸化炭素の離脱を行っても、長期に亘って安定して二酸化炭素の除去性能を発揮し得るので、交通機関関連の産業において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】耐熱性二酸化炭素吸収材を航空機に適用する場合の二酸化炭素吸収装置の概略図である。
【図2】表3の二酸化炭素吸収材について、耐熱性試験を行った結果を示す図である。
【図3】表4の二酸化炭素吸収材について、耐熱性試験を行った結果を示す図である。
【図4】実施例2の耐熱性二酸化炭素吸収材を用いて二酸化炭素吸収と二酸化炭素離脱との繰り返し試験を行うための装置を表す概略図である。
【図5】図5は表5の繰り返し試験における二酸化炭素吸収性能の変化を表す図である。
【符号の説明】
【0053】
10 客室
11A,11B 二酸化炭素吸収容器
12 排気ファン
14A,14B バルブ
15 ファン
16A,16B バルブ
18A,18B バルブ
20A,20B バルブ
22A,22B ライン
23A,23B バルブ
24A,24B ファン
27 排気バルブ
28 排気ライン
21 ライン
31 ファン
33 ボンベ
32 ミキサー
35 二酸化炭素濃度計
36 温湿度計
34 流量計
43 バルブ
30 二酸化炭素吸収容器
37 差圧計
38 温湿度計
39 二酸化炭素濃度計
44 バルブ
40 流量計
41 エアヒータ
42 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質物質にアミン化合物を含浸させた二酸化炭素捕捉材と、多孔質物質に潮解性化合物を含浸させた冷却材とを混合した耐熱性二酸化炭素吸収材。
【請求項2】
前記多孔質物質が活性炭である請求項1記載の耐熱性二酸化炭素吸収材。
【請求項3】
アミン化合物の水溶液と、潮解性化合物の水溶液とをそれぞれ調製し、
該アミン化合物の水溶液および該潮解性化合物の水溶液に、それぞれ多孔質物質を投入して前記アミン化合物および前記潮解性化合物を多孔質物質に含浸させた後、それぞれ乾燥させて二酸化炭素捕捉材と冷却材とを得、
該二酸化炭素捕捉材と冷却材とを混合すること
を特徴とする耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質物質が活性炭である請求項3記載の耐熱性二酸化炭素吸収材の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の耐熱性二酸化炭素吸収材を用いた二酸化炭素の吸収方法であって、
二酸化炭素を含む処理対象の気体に前記耐熱性二酸化炭素吸収材を接触させる吸収工程と、
該吸収工程後の前記耐熱性二酸化炭素吸収材を加熱するとともに、二酸化炭素離脱用の気体に接触させて二酸化炭素を離脱させる離脱工程と
を包含する二酸化炭素の吸収方法。
【請求項6】
前記離脱工程の後、更に前記吸収工程と前記離脱工程とを繰り返すことを特徴とする請求項5記載の二酸化炭素の吸収方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の二酸化炭素の吸収方法を実施するための二酸化炭素吸収装置であって、
前記耐熱性二酸化炭素吸収材を収納する二酸化炭素吸収容器と、
該二酸化炭素吸収容器に二酸化炭素を含む処理対象気体を供給する吸収用送気手段と、
前記二酸化炭素吸収容器を加熱するための加熱手段と、
前記二酸化炭素吸収容器に二酸化炭素離脱用の気体を供給する離脱用送気手段と
を備えたことを特徴とする二酸化炭素吸収装置。
【請求項8】
前記処理対象気体が供給されている前記二酸化炭素吸収容器からの吸収処理後の気体の温度が高い場合に、該吸収処理後の気体を外部に排気するための排気ラインを更に備えたことを特徴とする請求項7記載の二酸化炭素吸収装置。
【請求項9】
前記二酸化炭素吸収容器を冷却するための冷却装置を更に備えた請求項7記載の二酸化炭素吸収装置。
【請求項10】
請求項5又は6記載の二酸化炭素の吸収方法を実施するための二酸化炭素吸収装置であって、
前記耐熱性二酸化炭素吸収材をそれぞれ収納する第1及び第2の二酸化炭素吸収容器と、
該第1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの一方に二酸化炭素を含む処理対象気体を供給する吸収用送気手段と、
前記1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの前記処理対象気体を送るべき前記一方の二酸化炭素吸収容器を選択する切換手段と、
前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器をそれぞれ加熱するための第1及び第2の加熱手段と、
前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの他方に二酸化炭素離脱用の気体を供給する離脱用送気手段と
前記1及び第2の二酸化炭素吸収容器のうちの二酸化炭素離脱用の気体を送るべき前記他方の二酸化炭素吸収容器を選択する他の切換手段と、
を備えたことを特徴とする二酸化炭素吸収装置。
【請求項11】
前記処理対象気体が供給されている前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器うちの一方からの吸収処理後の気体の温度が高い場合に、該吸収処理後の気体を外部に排気するための排気ラインを更に備えたことを特徴とする請求項10記載の二酸化炭素吸収装置。
【請求項12】
前記第1及び第2の二酸化炭素吸収容器をそれぞれ冷却するための第1及び第2の冷却装置を更に備えた請求項10記載の二酸化炭素吸収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−119958(P2010−119958A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296374(P2008−296374)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度 次世代航空機関等開発調査(高効率化システムの開発)−先進空調システムの技術開発(その3)契約、産業技術力強化法19条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】