説明

耐熱性樹脂成形体及び電子部品

【課題】従来のシンジオタクチックポリスチレンの樹脂成形体の優れた特性を有しながら、耐熱性がさらに優れており、加熱により変形や反り等を生じにくい耐熱性樹脂成形体、及びこの耐熱性樹脂成形体からなる電子部品を提供する。
【解決手段】シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含有する樹脂組成物を成形した後、前記スチレン系重合体を架橋して得られた成形体であって、350℃における貯蔵弾性率が1MPa以上であることを特徴とする耐熱性樹脂成形体、及びこの耐熱性樹脂成形体からなる電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性が要求される部材、例えば電子部品を構成する耐熱性樹脂成形体及びこの耐熱性樹脂成形体を用いて製造される電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
小型電子部品等の小型部材の製造に用いられる成形材料には、優れた成形性とともに、部材の用途により、種々の特性が求められる。
【0003】
例えば、半田リフローにより表面実装される電子部品の場合には、精密な成形を可能にするとともに、半田リフローの温度に耐える高い耐熱性(リフロー耐熱)を与える成形材料が求められる。特に近年は、環境問題から融点の高い鉛フリー半田の使用が望まれ、又、成形体の精度への要求も高まっているので、前記の特性がより求められるようになっている。
【0004】
又、高周波ケーブル用端末コネクター、高周波ボビン、アンテナ、高周波基板等の高周波帯域で使用される電子部品用の樹脂成形体には、誘電損失が少ない等の優れた高周波特性が求められている。水中ポンプの軸受等、水中や高湿度環境で使用される部材用の樹脂成形体には、優れた耐水性(耐加水分解性、耐スチーム性等)が求められる。さらに、軽量であることが求められる場合も多い。
【0005】
軽量で、優れた成形性、耐熱性、高周波特性や耐加水分解性を有する樹脂成形体を与える成形材料として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されているシンジオタクチック(Syndiotactic)構造を有するスチレン系重合体(以後、シンジオタクチックポリスチレンと言う。)が知られている。スチレン系重合体は軽量で優れた成形性を有するが、シンジオタクチックポリスチレンは、融点(軟化点)がアタクチック(Atactic)構造やアイソタクチック(Isotactic)構造のスチレン系重合体より高く、耐熱性にも優れるとの特徴を有している。さらに、誘電損失や吸水率も少なく耐加水分解性にも優れている。
【特許文献1】特開2004−269899号公報
【特許文献2】特開2006−83384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、小型電子部品等について、より高温での加工や使用がされる場合が増加し、シンジオタクチックポリスチレンでも耐熱性が不十分となる場合が生じている。例えば、高周波ボビンやピックアップの実装等では、350℃以上の耐熱が必要な半田ディップ工程が行われるが、従来のシンジオタクチックポリスチレンでは、耐熱性が不十分であり、この工程に使用することは困難である。
【0007】
又、薄型の小型電子部品等では、鉛フリー半田を用いた半田リフロー等の工程において、加熱により変形や反りが生じる場合があり、成形の精度を上げるためにこの防止が望まれている。しかし、従来のシンジオタクチックポリスチレンを成形材料に用いた場合では、この要請を十分満足できなかった。
【0008】
本発明は、従来のシンジオタクチックポリスチレンの樹脂成形体の優れた特性を有しながらも、耐熱性がさらに優れており、加熱により変形や反り等を生じにくい耐熱性樹脂成形体、及びこの耐熱性樹脂成形体からなる電子部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、シンジオタクチックポリスチレンを20重量%以上含有する樹脂組成物の成形体に、放射線照射やその他の方法により架橋反応を施すと、近年の要請にも十分耐え得る耐熱性が得られ、かつ高い剛性が得られて、加工時における変形や反りの発生が抑制されることを見出し、以下に示す本発明を完成した。
【0010】
即ち、請求項1に記載の発明は、シンジオタクチックポリスチレン(シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体)を20重量%以上含有する樹脂組成物を成形した後、前記スチレン系重合体を架橋して得られた成形体であって、350℃における貯蔵弾性率が1MPa以上であることを特徴とする耐熱性樹脂成形体である。
【0011】
ここで、シンジオタクチックポリスチレンとは、下記の式で表される重合体である。
【0012】
【化1】

【0013】
ここで、シンジオタクチックポリスチレンを20重量%以上含有するとは、樹脂組成物中の樹脂分の全重量に対し、シンジオタクチックポリスチレンが20重量%以上含有されることを意味する。好ましくは、樹脂組成物中の樹脂分の50重量%以上がシンジオタクチックポリスチレンであり、より好ましくは70重量%以上である。
【0014】
シンジオタクチックポリスチレンを20重量%以上含有するので、本発明の耐熱性樹脂成形体は、従来のシンジオタクチックポリスチレンから得られる耐熱性樹脂成形体と同様の、優れた高周波特性や耐加水分解性を有する。シンジオタクチックポリスチレンの含有量が20重量%未満の場合は、これらの効果が十分得られないと考えられる。本発明の耐熱性樹脂成形体は、さらに、比重が1.0程度と軽量である。なお、スチレン系重合体と言う意味には、スチレンの単独重合体とともに、スチレンと共重合可能な不飽和基を有するモノマーを本発明の趣旨を損ねない範囲で構成モノマーとして含むスチレンの共重合体も含まれる。
【0015】
本発明の樹脂成形体は、350℃で1MPa以上の貯蔵弾性率を有することを特徴とする。本発明の樹脂成形体は、シンジオタクチックポリスチレンを20重量%以上含有するので、架橋の程度を調整することにより、又、後述するフィラーを樹脂組成物中に含有させることにより、350℃で1MPa以上の貯蔵弾性率を容易に得ることができる。ここで、貯蔵弾性率とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する一項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定される。
【0016】
本発明の樹脂成形体は、シンジオタクチックポリスチレンを20重量%以上含有する樹脂組成物を架橋したものからなり、350℃程度の高温においても高い剛性を保持するので、従来のシンジオタクチックポリスチレンでは得られない高い耐熱性が達成される。例えば、高周波ボビン、ピックアップ等に使用される場合、これらの電子部品を構成する巻線の末端を、その絶縁被覆を除去して半田付するため、300〜400℃程度の半田槽に数秒漬けることがある(半田ディップ工程)が、このような加工にも充分耐えられる耐熱性を有する。又、高温に加熱した場合でも変形や反りを生じにくく、成形の精度への要請も十分満たすものである。
【0017】
本発明の耐熱性樹脂成形体の製造では、先ず、前記の樹脂組成物の成形が行われる。成形方法としては、公知の成形方法を採用することができ、特に限定されない。例えば、射出成形、ブロー成形、トランスファー成形、熱成形等の方法を挙げることができる。
【0018】
樹脂組成物の成形後、成形体を構成するシンジオタクチックポリスチレンの架橋が行われる。架橋方法としては、放射線の照射による放射線架橋や、硫黄や有機過酸化物を用いる方法や、加熱による熱架橋、UV硬化等を挙げることができる。成形は、架橋前に行われるので、従来のシンジオタクチックポリスチレンからなる成形材料が有する優れた成形性が発揮され、樹脂組成物の成形を容易に行うことができる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、前記架橋が、放射線架橋であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性樹脂成形体である。例示された架橋方法の中でも、放射線の照射による架橋は、成形時の温度、流動性の制限を伴わず、架橋の制御が容易であるため好ましい。放射線としては、電子線の他、γ線、エックス線等を挙げることができる。放射線の照射線量の好ましい範囲は、使用する樹脂や照射条件により変動し特に限定できないが、通常10〜500kGy程度である。照射線量が小さすぎると充分な架橋が達成されず、大き過ぎると、耐熱性樹脂成形体が着色し又脆くなる傾向がある。
【0020】
請求項3に記載の発明は、前記樹脂組成物が、架橋助剤を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐熱性樹脂成形体である。前記樹脂組成物が架橋助剤を含有し、その併用下に架橋することにより、架橋を促進し優れた耐熱性や剛性が得られるので好ましい。特に高温での強度を向上させることができる。
【0021】
架橋助剤としては、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレートもしくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA−MGIC)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、前記樹脂組成物が、フィラーを含有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐熱性樹脂成形体である。フィラーを含有することにより、耐熱性樹脂成形体の貯蔵弾性率を大幅に向上させることができ、従って、貯蔵弾性率が350℃で1MPa以上を容易に得ることができる。
【0023】
即ち、この貯蔵弾性率を得るために必要な放射線の照射量等を低減することができる。さらに、成形性や耐熱性が向上する。フィラーとしては、ガラスファイバー、ガラスバルーン、塩基性硫酸マグネシウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ等の無機系ウィスカ、モンモリロナイト、合成スメクタイト、セルロース、ケナフ、アラミド繊維、アルミナ、カーボンファイバー等の無機フィラーや有機化クレー等を挙げることができる。特に、透明な耐熱性樹脂成形体を製造する場合には、透明なフィラーが使用され、例えば、ガラスファイバーを使用することにより成形体の透明性を高めることができる。
【0024】
フィラーの添加量は、樹脂100重量部に対して0.1〜300重量部が好ましい。フィラーの添加量が0.1重量部未満の場合は、架橋剤量を増やす又は放射線の照射量を高める必要が生じる場合があり、成形体の着色等の問題が生じやすくなることに加え、成形体を脆くする場合がある。充填剤の含有量が300重量部を越える場合は、樹脂組成物の流動性が低下して成形困難になり、得られる成形体が脆くなる傾向がある。
【0025】
本発明の成形体には、さらに、本発明の趣旨が損なわれない範囲で、他の成分、例えば、シンジオタクチックポリスチレン以外の重合体や、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を含有することができる。例えば、臭素化ポリスチレンや水酸化マグネシウム等の難燃剤を含有させることにより、樹脂成形体の難燃性を高めることができる。
【0026】
又、本発明の耐熱性樹脂成形体を、透明性が求められる部材の形成に使用する場合は、透明性を向上させるための造核剤を添加することができる。造核剤とは、結晶性のポリマーに均一で微細な結晶を生成させ、剛性、熱変形温度等の機械物性の向上とともに、透明性を改善するものである。造核剤としては、リポゾーム造核剤やパインクリスタルKM1500(荒川化学社製)の商品名で市販されている造核剤等を挙げることができる。
【0027】
シンジオタクチックポリスチレンは結晶化しやすく、その結果白化しやすいが、造核剤の添加によりこの白化を防ぎ、前記の優れた特性とともに光学特性にも優れた樹脂成形体を得ることができる。従って、透明性が求められる部材の形成に用いることができる。
【0028】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の耐熱性樹脂成形体よりなる電子部品である。本発明の耐熱性樹脂成形体は、軽量で、高周波特性、耐加水分解性に優れるとともに、350℃程度での加工にも耐えられる耐熱性を有し、又成形の精度も優れるので、高周波ケーブル用端末コネクター、高周波ボビン、アンテナ、高周波基板等の電子部品に好適に用いられる。なお、本発明の耐熱性樹脂成形体は、そのまま電子部品を構成する成形体となる場合もあるが、さらに、エッチング、めっき、切削、塗装、研磨等が施されて、電子部品に用いられる成形体に加工される場合もある。又本発明の耐熱性樹脂成形体は、電子部品以外にも、自動車の冷却水の循環用の水中ポンプ等に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の耐熱性樹脂成形体は、軽量であり、耐加水分解性に優れ、高周波特性にも優れる等の従来のシンジオタクチックポリスチレンの樹脂成形体の持つ優れた特性を有しながら、耐熱性はさらに向上しており、又加熱による変形や反り等を生じにくいとの性質も有する。従って、高温での加工や使用がされる小型電子部品等の製造に好適に用いられる。この耐熱性樹脂成形体からなる本発明の電子部品は、優れた耐熱性を有し、又成形の精度が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明するが、本発明の範囲は実施例のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0031】
実施例1〜4、比較例
[シンジオタクチックポリスチレン]
ザレックS104(商品名、出光興産社製のシンジオタクチックポリスチレン、誘電損失tanδ 2.66×10−4
ザレックS131(商品名、出光興産社製のガラスファイバー30重量%入りシンジオタクチックポリスチレン、誘電損失tanδ 2.98×10−4
【0032】
前記のシンジオタクチックポリスチレンのそれぞれに、表1に示す配合割合(全て重量部)で以下に示す成分を配合し、射出成形により5cm×7cm×厚さ2mmのプレートを成形した。その後、表1に示す照射量で電子線を照射し試料を得た。得られた試料について、下記の測定法により、貯蔵弾性率、誘電損失、誘電率を測定した。なお、比較例として、上記と同じ方法、条件で成形し、電子線照射を行わなかった試料を作製し、同様に、貯蔵弾性率、誘電損失、誘電率を測定した。これらの測定値を表1に示す。
【0033】
[架橋助剤]
DA−MGIC: ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(四国化成工業社製)
TAIC: トリアリルイソシアヌレート(日本化成社製)
[ポリテトラフルオロエチレン] PTFE(ダイキン社製、商品名:ルブロンL−5)
軸受等の用途に求められる摺動性や、射出成形における金型からの離型性を向上するためにPTFE等のフッ素樹脂が加えられる場合があるので、実施例3、4では、PTFEを加えた試料を製造した。
【0034】
[測定法]
貯蔵弾性率: アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により常温(25℃)より10℃/minの昇温速度にて測定した。
誘電損失、誘電率: ASTM D696により、常温、1MHzの条件で測定した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果が示すように、シンジオタクチックポリスチレンからなる樹脂組成物を成形した後、電子線架橋を行った実施例1〜4の樹脂成形体は、350℃でも、大きな貯蔵弾性率を有し、従って350℃での半田ディップにも耐えられる優れた耐熱性を有し、又誘電損失や誘電率等の高周波特性も優れるものである。一方、電子線架橋を行わなかった比較例の樹脂成形体は、350℃では溶解し、十分な耐熱性を有しないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を20重量%以上含有する樹脂組成物を成形した後、前記スチレン系重合体を架橋して得られた成形体であって、350℃における貯蔵弾性率が1MPa以上であることを特徴とする耐熱性樹脂成形体。
【請求項2】
前記架橋が、放射線架橋であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂組成物が、架橋助剤を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐熱性樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、フィラーを含有していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の耐熱性樹脂成形体よりなる電子部品。

【公開番号】特開2009−57424(P2009−57424A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224173(P2007−224173)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】