説明

耐熱性高熱伝導性接着剤

【課題】優れた機械的強度、耐熱性および熱伝導性を有する耐熱性高熱伝導性接着剤の提供。
【解決手段】(a)第1反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーと、第2反応性官能基を有する接着性ポリマーマトリックスとが第1反応性官能基と第2反応性官能基との付加縮合反応により結合した第1成分と、(b)第3反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーからなる第2成分とを含み、第3反応性官能基は、光または熱の印加によって第2反応性官能基と付加縮合反応を起こす官能基であることを特徴とする耐熱性高熱伝導性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性接着剤、より詳細には耐熱性を有する高熱伝導性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性を有する高熱伝導性接着剤は、高い耐熱性および高い熱伝導性という2つの物性を備えた新しい接着剤である。接着剤の耐熱性を規定する明確な規格は存在していない。この点に関して、米国航空宇宙局(NASA)は、耐熱性接着剤の規格を以下のように設定している。
(1) −232℃において数千時間にわたって機能し続けること、および
(2) (a)316℃において数百時間機能し続けること、または(b)538℃において数分間機能し続けること。
【0003】
耐熱性接着剤の材料としては、芳香族ポリマーおよび複素環式ポリマーが広く用いられてきている。なぜなら、これらの材料は、剛直な構造、共役系を含む分子鎖、および高濃度を有する分子であり、高い耐熱性という優れた物性を示すからである。耐熱性という観点においては、ポリベンゾイミダゾールおよびポリイミドが最も有望な材料であることを、多くの研究者が認めている(特許文献1および非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、熱伝導性という観点からは、ポリマー材料の熱伝導性は、金属に比べて相当に低い。なぜなら、金属の熱伝導性が電子の運動に起因するのに対して、ポリマー材料の熱伝導性は周辺または複合基の原子の振動に起因するからである。
【0005】
高い熱伝導性を有するポリマーを得るための指針として、(1)高熱伝導性を実現するための分子設計、および(2)高い熱伝導性を有する充填材とポリマーとの複合化が知られている(非特許文献2〜4参照)。(1)の分子設計としては、共役二重結合構造を導入して電子による熱伝導を促進すること、および完璧な結晶構造を実現してフォノンによる熱伝導を促進することが挙げられる。しかしながら、接着剤の分野では、(2)の高い熱伝導性を有する充填材とポリマーとの複合化が、より広く普及している。
【0006】
充填材/ポリマー複合系の熱伝導性は、充填材の種類、使用温度、ポリマーの結晶化度、ポリマー分子鎖の方位、および密度などの要因の影響を受ける(非特許文献5および6参照)。接着剤としての物性を考える上で、ポリマーが有する熱変形という性質は重要な要素である。ポリマーを接着剤に使用する場合、重合時に発生する内部応力によってポリマーの接着性が大きく減少する。この現象は、接着剤の経年劣化を引き起こすおそれがある。熱変形の影響を減少させるために、ポリマー中の官能基の濃度を減少させること、強化材またはセラミック充填材を添加すること、および/または硬化処理を改良することが、一般的に行われている(非特許文献7参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2007−276231号公報
【非特許文献1】Iikay O., and Ibrahim K., Synthesis and characterization of thermally stable polymers(Polybenzimidazole)[J]., J. Appl. Polym. Sci., 2008, 109(3): 1861-70
【非特許文献2】Takezama Y., Akatsuka M., and Fawen C. et al., High thermal conductivity epoxy resins with controlled high order structure[J]., Pro IEEE Int. Conf. Prof. Appl. Dielectr. Mater., 2003, 3: 1146-49
【非特許文献3】Keith J. M., King J. A., and Miller M. G. et al., Thermal conductivity of carbon fiber/ liquid crystal polymer composite[J]., J. Appl. Polym. Sci. 2006, 102(6): 5456-62
【非特許文献4】Lee G. W., Park M., and Kim J. et al., Enhanced thermal conductivity of polymer composites filled with hybrid fillers[J]., Compos. Apply. Sci. Manuf. (UK), 2006, 37(5): 727-34
【非特許文献5】Rule D. L., Smith D. R., and Sparks L. L., Thermal conductivity of polypyromellitimide film with alumina filler particles from 4.2 to 3000K[J]., Cryogenics(UK), 1996, 36(4):283-90
【非特許文献6】Amit D., Patrick EP., and Ravis P. et al., Size effects on the thermal conductivity of polymers laden with highly conductive filler particles[J]., Microscale Thermophys. Eng., 2001, 5(3): 177-89
【非特許文献7】Jia Q. M., Zheng M. Z. and Cheng J. et al., Morphologies and properties of epoxy resin/layered silicate-silica nanocomposites[J]., Polym. Int. (UK), 2006, 55(11): 1259-64
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ポリマーと結合を持たないセラミック充填材を用いた場合、ポリマーに対してより分散しやすいポリマー結合セラミック充填材を用いた場合に比べて、接着剤の耐熱性および熱伝導性が低下する傾向にある。さらに、このとき生成されるノードは、ポリマーの内部応力を大きくし、より低温で熱変形を引き起こしやすくする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、(a)第1反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーと、第2反応性官能基をを有する接着性ポリマーマトリックスとが第1反応性官能基と第2反応性官能基との付加縮合反応により結合した第1成分と、(b)第3反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーからなる第2成分とを含み、第3反応性官能基は、光または熱の印加によって第2反応性官能基と付加縮合反応を起こす官能基であることを特徴とする。ここで、第1成分および第2成分のカーボン系フィラーのそれぞれは、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびカーボンナノファイバーからなる群から選択されてもよい。また、第1反応性官能基および第3反応性官能基のそれぞれは、カルボキシル基、イミド基、エポキシ基、イソシアネート基、フェノール性ヒドロキシル基、アルデヒド基およびアミノ基からなる群から選択されてもよい。
【0010】
また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、硬化剤をさらに含んでもよい。使用できる硬化剤は、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド、イミダゾール類、第3級アミン、ポリアミド、ポリイミド、およびポリイミドからなる群から選択することができる。
【0011】
また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、強化材をさらに含んでもよい。使用できる強化材は、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、およびエチレン−プロピレンゴムからなる群から選択することができる。
【0012】
また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、追加の充填材をさらに含んでもよい。用いることができる追加の充填材は、ナノグラファイト、ナノスケールカーボンブラックおよびナノスケール二酸化ケイ素を含む。
【0013】
さらに、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、接着後において、0.55W/m・K以上の熱伝導率、および200℃以上の耐熱性を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成を採る本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、ナノサイズのフィラーとエポキシ樹脂との組み合わせをベースとし、優れた機械的強度、耐熱性および熱伝導性を有する。本発明の接着剤は、12〜18MPaの引張強度を有する。また、本発明の接着剤は、200〜380℃において安定した耐熱性を示す。さらに、本発明の接着剤は、0.55〜150W/m・Kの範囲内の高い熱伝導率を有し、様々な分野での応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、(a)第1反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーと、第2反応性官能基をを有する接着性ポリマーマトリックスとが第1反応性官能基と第2反応性官能基との付加縮合反応により結合した第1成分と、(b)第3反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーからなる第2成分とを含み、第3反応性官能基は、光または熱の印加によって第2反応性官能基と付加縮合反応を起こす官能基であることを特徴とする。
【0016】
ここで、第1成分および第2成分のカーボン系フィラーのそれぞれは、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびカーボンナノファイバーからなる群から選択することができる。カーボンナノチューブとしては、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWNT)を使用することが望ましい。
【0017】
また、カーボン系フィラーの表面を改質する第1反応性官能基および第3反応性官能基のそれぞれは、カルボキシル基、イミド基、エポキシ基、イソシアネート基、フェノール性ヒドロキシル基、アルデヒド基およびアミノ基からなる群から選択することができる。
【0018】
第1反応性官能基および接着性ポリマーマトリクス中の第2反応性官能基は、光または熱の印加によって付加縮合反応を起こす組み合わせで選択される。第1反応性官能基がエポキシ基の場合、第2反応性官能基はカルボキシル基、エポキシ基、フェノール性ヒドロキシル基またはアミノ基から選択される。第1反応性官能基がイソシアネート基である場合、第2反応性官能基はカルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基またはアミノ基から選択される。第1反応性官能基がアルデヒド基の場合、第2反応性官能基はアルデヒド基、酸無水物基から選択される。第1反応性官能基がイミド基の場合、第2反応性官能基はカルボキシル基、フェノール性ヒドロキシル基またはアミノ基から選択される。第1反応性官能基は、カーボン系フィラーを構成する炭素に直接結合していてもよいし、連結基を介してカーボン系フィラーを構成する炭素に結合していてもよい。
【0019】
接着性ポリマーマトリクス中の第2反応性官能基および第3反応性官能基は、光または熱の印加によって付加縮合反応を起こす組み合わせで選択される。第2反応性官能基がカルボキシル基の場合、第3反応性官能基は、エポキシ基、イソシアネート基、またはイミド基から選択される。第2反応性官能基がエポキシ基の場合、第3反応性官能基は、エポキシ基である。第2反応性官能基がフェノール性ヒドロキシル基の場合、第3反応性官能基は、エポキシ基またはイミド基から選択される。第2反応性官能基がアミノ基の場合、第3反応性官能基は、エポキシ基、イソシアネート基、またはイミド基から選択される。第2反応性官能基がアルデヒド基または酸無水物基の場合、第3反応性官能基は、アルデヒド基である。第3反応性官能基は、カーボン系フィラーを構成する炭素に直接結合していてもよいし、連結基を介してカーボン系フィラーを構成する炭素に結合していてもよい。
【0020】
カーボン系フィラーの表面改質は、フィラーの表面に存在する炭素−炭素結合の一部の酸化を鍵段階として実施することができる。たとえば、カーボン系フィラーに対して、混酸(濃硫酸と濃硝酸との混合物)などを作用させることによって、フィラー表面の炭素−炭素結合の一部を酸化させて、フィラー表面にカルボキシル基を導入することができる。カルボキシル基を導入したカーボン系フィラーは、0.17〜0.35の酸価(試料1g中のカルボキシル基を中和するのに必要なKOHのmg数)を有することが望ましい。カルボキシル基の導入は、MWNTと混酸との懸濁混合液を0.5〜3時間にわたって超音波処理し、1〜3時間にわたって機械的に撹拌し、60〜90℃の温度に加熱することによって行うことができる。
【0021】
【化1】

【0022】
次いで、導入されたカルボキシル基に化学変換を施すことによって、種々の反応性官能基を導入することができる。たとえば、カルボキシル基の還元および部分酸化を行うことによって、アルデヒド基を得ることができる。あるいはまた、ポリイソシアネート(たとえば4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)など)を、表面にカルボキシル基を有するフィラーと反応させて、イソシアネート基で表面改質されたフィラーを得ることできる。たとえば、MDIによるイソシアネート基の導入は、カルボキシル基を導入したMWNT(MWNT−COOH)を、(1)0.5〜2時間にわたる超音波処理によって無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中に懸濁させ、固形分3〜15質量%の懸濁液を形成し、(2)該懸濁液に対してMDIのDMF溶液(濃度0.5〜15質量%)を加え、窒素雰囲気下70〜100℃において0.5〜3時間にわたって反応させることによって、イソシアネート基で表面改質されたMWNT(MWNT−NCO)を得ることができる。さらに得られたMWNT−NCOのイソシアネート基を加水分解することによって、MDI由来の、アミノ基で表面改質されたMWNT(MWNT−MDI)を得ることができる。
【0023】
【化2】

【0024】
あるいはまた、さらなる官能基を導入するための中間体として、塩化チオニルを作用させて、カルボキシル基を酸塩化物基(−COCl)に変換して、表面に酸塩化物基を有するフィラーを形成してもよい。さらに、酸塩化物基と反応して共有結合する官能基(ヒドロキシル基、アミノ基など)と、イミド基、エポキシ基、イソシアネート基、フェノール性ヒドロキシル基、アルデヒド基、またはアミノ基などの官能基とを有する化合物を、表面に酸塩化物基を有するフィラーと反応させて、イミド基、エポキシ基、イソシアネート基、フェノール性ヒドロキシル基、アルデヒド基、またはアミノ基で表面改質されたフィラーを得ることができる。たとえば、以下に示すように、表面に酸塩化物基を有するフィラーをジアミンと反応させて、アミノ基で表面改質されたフィラーを得ることができる。
【0025】
【化3】

【0026】
たとえば、カルボキシル基の酸塩化物基への変換は、MWNT−COOHを十分に乾燥させ、それに対してDMFおよびSOClの混合物(DMF:SOCl=1:20〜1:30)を加え、50〜80℃の温度で12〜36時間にわたって還流することによって、酸塩化物基を導入したMWNT(MWNT−COCl)を得ることができる。また、MWNT−COClを、適量のDMF中でカーボン系フィラーの5〜10倍の質量の1,2−エチレンジアミンと混合し、100〜140℃において90〜110時間にわたって還流することによって、アミノ基で表面改質されたMWNT(MWNT−NH)を得ることができる。
【0027】
第1成分のカーボン系フィラー中の第1反応性官能基は、試料1gあたり0.225〜0.355ミリ当量(meq)の範囲内の数で存在することが望ましい。同様に、第2成分のカーボン系フィラー中の第3反応性官能基は、試料1gあたり0.40〜0.55meqの範囲内の数で存在することが望ましい。
【0028】
さらに、第1成分のカーボン系フィラーは、第1反応性官能基および第2反応性官能基の付加縮合反応により、第2反応性官能基を有する接着性ポリマーマトリクスと結合して、第1成分を形成する。本発明において用いることができる接着性ポリマーマトリクスは、エポキシ樹脂を含む。第2反応性官能基は、カルボキシル基、エポキシ基、フェノール性ヒドロキシル基またはアミノ基、アルデヒド基、または酸無水物基から選択される。第2反応性官能基は、カーボン系フィラーの有する第1および第3反応性官能基との付加縮合反応性に基づいて選択されるべきである。望ましい第1および第2反応性官能基の組み合わせ、ならびに望ましい第2および第3反応性官能基の組み合わせは、前述の通りである。接着性ポリマーマトリクス中の第2反応性官能基は、試料1gあたり70〜90meqの範囲内の数で存在することが望ましい。また、カーボン系フィラーと接着性ポリマーマトリクスとが結合した第1成分は、試料1gあたり0.4〜0.7meqの範囲内の第2反応性官能基を有することが望ましい。
【0029】
たとえば、以下に示すように、その表面にカルボキシル基を有するフィラーを、2つ以上の残存エポキシ基を有するエポキシ樹脂と反応させて、カーボン系フィラーとエポキシ樹脂が結合した第1成分を得ることができる。ここで、カーボン系フィラーとエポキシ樹脂が結合した第1成分は、試料1gあたり0.4〜0.7meqの範囲内の数のエポキシ基を有することが望ましい。
【0030】
【化4】

【0031】
たとえば、エポキシ樹脂と、樹脂の質量を基準として2〜30質量%のMWNT−COOHとを蒸留水中で混合し、0.5〜2時間にわたって超音波処理して分散物を形成する。この分散物を10〜50rpmで撹拌しながら80〜100℃に加熱して蒸留水を除去し、続いて3〜8時間にわたって120〜150℃に加熱することによって、第1成分(EP−MWNT)を得ることができる。
【0032】
以上の説明において、カーボン系フィラーの例としてMWNTを用いたが、カーボンナノファイバー(CF)およびグラファイトにおいても同様の表面改質を実施することができる。また、CFおよびグラファイトの場合においても、前述と同様の範囲内の第1および第3反応性官能基を有することが望ましい。
【0033】
本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、硬化剤をさらに含んでもよい。使用できる硬化剤は、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド、イミダゾール類、第3級アミン、ポリアミド、ポリイミド、およびポリイミドからなる群から選択することができる。本発明において使用できるイミダゾール類は、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−アルキル−4−ホルミルイミダゾール、2,4−ジアルキル−5−ホルミルイミダゾールなどを含む。あるいはまた、硬化剤として、アミノ基で表面改質されたカーボン系フィラーを使用してもよい。
【0034】
また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、強化材をさらに含んでもよい。使用できる強化材は、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、およびエチレン−プロピレンゴムからなる群から選択することができる。
【0035】
また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、追加の充填材をさらに含んでもよい。用いることができる追加の充填材は、ナノグラファイト、ナノスケールカーボンブラック、ナノスケール二酸化ケイ素、および酸化アルミニウムで被覆されたナノ−グラファイトなどを含む。ここで、本発明における「ナノグラファイト」とは、少なくとも1辺(鱗片状グラファイトにおける厚さ)がナノスケールのグラファイトであることを意味する。また、本発明における「ナノスケール」とは、1nm〜1000nmであることを意味する。
【0036】
本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、光または熱を印加して、第1成分の第2反応性官能基と、第2成分のカーボン系フィラーの第3反応性官能基との間に付加縮合反応を起こすことによって硬化し、接着を行う。好ましくは、2〜5時間にわたって70〜180℃の温度に加熱することによって、硬化および接着を行うことができる。
【0037】
さらに、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、接着後において、0.55W/m・K以上の熱伝導率、および200℃以上の耐熱性を有することが望ましい。また、本発明の耐熱性高熱伝導性接着剤は、接着後において、12〜18MPaの引張強度を有することが望ましい。熱伝導率は、厚さ1mmの接着剤硬化物に対してレーザフラッシュ法を適用することによって測定することができる。
【0038】
本発明における引張強度は、1cm×1cmの接着面を有する2つの中炭素鋼製試験片を、接着面に対して0.017gの耐熱性高熱伝導性接着剤を塗布し、2つの試験片を接着し、所定の条件(温度および時間)で硬化させたサンプルを用いて測定する。サンプルの2つの試験片を接着面に対して垂直方向に引張力を印加し、接着が破壊された時の引張力から、引張強度を求める。
【0039】
また、本発明における耐熱性は、耐熱性高熱伝導性接着剤を所定の条件(温度および時間)で硬化させたサンプルを用いて測定する。硬化直後のサンプルの質量Mを測定し、熱重量分析にて5℃/minにて800℃まで加熱を行い、加熱時のサンプルの質量Mを測定する。加熱時のサンプルの質量の変化率((M−M)/M)が4%未満である範囲について、当該温度における耐熱性を有すると判定する。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
濃硫酸および濃硝酸の混合物(体積比3:1)に対してマルチウォールナノチューブ(MWNT、Tsinghua-Nafine-Powder Commercialization Engineering Center 製、内径:2−30nm;外径:5−60nm)を加えて懸濁混合物を形成した。懸濁混合物中のMWNTの濃度を0.5mg/mLとした。得られた懸濁混合物を1時間にわたって超音波処理し、20rpmの回転速度で1.5時間にわたって機械的に撹拌した。引き続いて、混合物を80℃に加熱し1時間にわたって還流させた。室温に冷却した後に、混合物に蒸留水を加えて希釈し、ミクロフィルター膜を用いて減圧濾過して、蒸留水で洗浄して酸を除去した。
【0041】
ミクロフィルター膜上の固形物に蒸留水を加え、15分間にわたって遠心分離し、沈殿した固形物と、上層の懸濁液とを分離した。固形物に対して同様の条件の遠心分離を行い、固形物と懸濁液とを分離した。この操作を数回にわたって反復し、全ての懸濁液を合わせた。
【0042】
合わせた懸濁液を減圧濾過し、濾液を濃縮することによってMWNT−COOHを得た。濾別した固形物(未反応のMWNT)は、リサイクルする。得られたMWNT−COOHを、圧力53Paに減圧した真空乾燥炉中で15時間にわたって65℃に加熱して乾燥させ、表面に付着した全ての水分を除去した。得られたMWNT−COOHは、0.27の酸価を有した。
【0043】
乾燥させたMWNT−COOHに対して無水DMFを加えて、5質量%の固形分濃度を有する混合物を形成した。混合物を1時間にわたって超音波処理して、MWNT−COOH懸濁液を得た。
【0044】
MWNT−COOH懸濁液に対して、MDI(5質量%)のDMF溶液を加え、窒素雰囲気下、1.5時間にわたって80℃に加熱した。反応混合物をDMF、水およびアセトンで順次洗浄し、得られた固形分を真空中で乾燥させ、MWNT−MDIを得た。
【0045】
また、エポキシ樹脂(MHR070、エポキシ価=0.01meq/g)に対して、5質量%のMWNT−COOHおよび蒸留水を加えて混合し、1時間にわたって超音波処理した。この混合物を20rpmの回転速度で機械的に撹拌しながら、90℃に加熱して蒸留水を除去した。引き続いて良好な分散状態の混合物を6時間にわたって140℃に加熱して、EP−MWNTを得た。
【0046】
EP−MWNT、MWNT−MDI、硬化剤としての2−エチル−4−メチルイミダゾール、および強化材としてのアクリロニトリル−ブタジエンゴム(LXNBR820)を、50:30:15:5の割合で混合して、接着剤を得た。
【0047】
得られた接着剤は、13MPaの引張強度、および350℃の耐熱性を示した。用いた硬化条件は、1時間にわたる80℃の加熱、および引き続く2時間にわたる160℃の加熱であった。また、硬化後の接着剤は、0.62W/m・Kの熱伝導率を示した。
【0048】
(実施例2)
濃硫酸および濃硝酸の混合物(体積比3:1)に対してカーボンナノファイバー(CF、Shen yang Gian Advanced materials Co., Ltd. 製、外径200−500nm;長さ40μm)を加えて懸濁混合物を形成した。懸濁混合物中のCFの濃度を0.5mg/mLとした。得られた懸濁混合物を1時間にわたって超音波処理し、20rpmの回転速度で1.5時間にわたって機械的に撹拌した。引き続いて、混合物を80℃に加熱し1時間にわたって還流させた。室温に冷却した後に、混合物に蒸留水を加えて希釈し、ミクロフィルター膜を用いて減圧濾過して、蒸留水で洗浄して酸を除去した。
【0049】
ミクロフィルター膜上の固形物に蒸留水を加え、15分間にわたって遠心分離し、沈殿した固形物と、上層の懸濁液とを分離した。固形物に対して同様の条件の遠心分離を行い、固形物と懸濁液とを分離した。この操作を数回にわたって反復し、全ての懸濁液を合わせた。
【0050】
合わせた懸濁液を減圧濾過し、濾液を濃縮することによってCF−COOHを得た。濾別した固形物(未反応のCF)は、リサイクルする。得られたCF−COOHを、圧力53Paに減圧した真空乾燥炉中で15時間にわたって65℃に加熱して乾燥させ、表面に付着した全ての水分を除去した。得られたCF−COOHは、0.46の酸価を有した。
【0051】
また、実施例1に記載の手順を用いて、EP−MWNTを調製した。
【0052】
さらに、DMFおよびSOClの混合物(1:25)に対して、実施例1の手順で調製したMWNT−COOHを加え、70℃に加熱して、24時間にわたって還流させた。続いて、70℃において未反応のSOClを留去し、混合物を室温まで冷却した。混合物を、15分間にわたって遠心分離し、沈殿した黒色固形物を収集した。
【0053】
得られた黒色固形物に対して無水THFを添加し、超音波処理によって懸濁液を形成した。懸濁液を15分間にわたって遠心分離し、沈殿した黒色固形物を収集した。遠心分離の際の上澄が無色になるまでこの工程を反復して、黒色固形物としてMWNT−COClを得た。
【0054】
得られたMWNT−COClおよび1,2−エチレンジアミンを質量比1:8で混合し、適量のDMFを加え、120℃に加熱し、96時間にわたって還流させた。反応混合物を一旦室温に冷却した後に、減圧蒸留(53Pa、60℃)によってDMFを除去した。残留物に対して、無水エタノールを添加し、混合物を15分間にわたって遠心分離して、洗浄をおこなった。この洗浄工程を数回にわたって繰り返した。沈殿した固形物を収集し、圧力53Paに減圧した真空乾燥炉中で15分間にわたって60℃に加熱して乾燥させ、MWNT−NHを得た。
【0055】
EP−MWNT、CF−COOH、硬化剤としてのMWNT−NH、および強化材としてのアクリロニトリル−ブタジエンゴム(LXNBR820)を、500:500:150:150の割合で混合して、接着剤を得た。
【0056】
得られた接着剤は、14MPaの引張強度、および260℃の耐熱性を示した。用いた硬化条件は、1時間にわたる80℃の加熱、および引き続く2時間にわたる160℃の加熱であった。また、硬化後の接着剤は、2.1W/m・Kの熱伝導率を示した。
【0057】
(実施例3)
EP−MWNT、CF−COOH、MWNT−NH、およびアクリロニトリル−ブタジエンゴムの混合比を、500:200:150:150に変更したことを除いて、実施例2の手順を繰り返して、接着剤を得た。
【0058】
得られた接着剤は、14MPaの引張強度、および260℃の耐熱性を示した。用いた硬化条件は、1時間にわたる80℃の加熱、および引き続く2時間にわたる160℃の加熱であった。また、硬化後の接着剤は、1.54W/m・Kの熱伝導率を示した。
【0059】
(実施例4)
DMFおよびSOClの混合物(1:25)に対して、実施例2の手順で調製したCF−COOHを加え、70℃に加熱して、24時間にわたって還流させた。続いて、70℃において未反応のSOClを留去し、混合物を室温まで冷却した。混合物を、15分間にわたって遠心分離し、沈殿した黒色固形物を収集した。
【0060】
得られた黒色固形物に対して無水THFを添加し、超音波処理によって懸濁液を形成した。懸濁液を75分間にわたって遠心分離し、沈殿した黒色固形物を収集した。遠心分離の際の上澄が無色になるまでこの工程を反復して、黒色固形物としてCF−COClを得た。
【0061】
得られたCF−COClおよび1,2−エチレンジアミンを質量比1:8で混合し、適量のDMFを加え、120℃に加熱し、96時間にわたって還流させた。反応混合物を一旦室温に冷却した後に、減圧蒸留(53Pa、60℃)によってDMFを除去した。残留物に対して、無水エタノールを添加し、混合物を15分間にわたって遠心分離して、洗浄をおこなった。この洗浄工程を数回にわたって繰り返した。沈殿した固形物を収集し、圧力53Paに減圧した真空乾燥炉中で1時間にわたって60℃に加熱して乾燥させ、CF−NHを得た。
【0062】
また、ナノ−グラファイト(径5−20μm、厚さ30−80nm)を400℃で焼成して予備処理した。蒸留水に対して、予備処理したナノ−グラファイトおよびpHを安定化するための緩衝液(Ca(OH)2標準pH緩衝液、C[1/2Ca(OH)2]=(0.0400〜0.0412)mol/L))を添加し、超音波処理を施して、懸濁液を形成した。この懸濁液に対して、1.5モル/LのAlCl水溶液を滴下し、24時間にわたって80℃に加熱した。反応混合物を濾過し、固形物を無水エタノールで洗浄した。得られた固形物を乾燥させ、3時間にわたって500℃に加熱することによって、酸化アルミニウムで被覆されたナノ−グラファイトを得た。
【0063】
実施例1に記載の手順で調製したEP−MWNT、CF−NH、強化材としてのアクリロニトリル−ブタジエンゴム(LXNBR820)、および追加の充填材としての酸化アルミニウムで被覆されたナノ−グラファイトを、500:500:200:500の割合で混合して、接着剤を得た。
【0064】
得られた接着剤は、15MPaの引張強度、および270℃の耐熱性を示した。用いた硬化条件は、1時間にわたる80℃の加熱、および引き続く2時間にわたる160℃の加熱であった。一方、硬化後の接着剤を470℃に加熱した場合、硬化物の分解が進行することが分かった。また、硬化後の接着剤は、1.5W/m・Kの熱伝導率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーと、第2反応性官能基をを有する接着性ポリマーマトリックスとが第1反応性官能基と第2反応性官能基との付加縮合反応により結合した第1成分と、(b)第3反応性官能基で表面改質されたカーボン系フィラーからなる第2成分とを含み、第3反応性官能基は、光または熱の印加によって第2反応性官能基と付加縮合反応を起こす官能基であることを特徴とする耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項2】
第1成分および第2成分のカーボン系フィラーのそれぞれは、カーボンナノチューブ、グラファイト、およびカーボンナノファイバーからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項3】
第1反応性官能基および第3反応性官能基のそれぞれは、カルボキシル基、イミド基、エポキシ基、イソシアネート基、フェノール性ヒドロキシル基、アルデヒド基およびアミノ基からなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項4】
硬化剤をさらに含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項5】
硬化剤は、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド、イミダゾール類、第3級アミン、ポリアミド、ポリイミド、およびポリイミドからなる群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項6】
強化材をさらに含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項7】
強化材は、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンゴム、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、およびエチレン−プロピレンゴムからなる群から選択されることを特徴とする請求項6に記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項8】
追加の充填材をさらに含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項9】
追加の充填材は、ナノグラファイト、ナノスケールカーボンブラックおよびナノスケール二酸化ケイ素からなる群から選択されることを特徴とする請求項8に記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。
【請求項10】
接着後において、0.55W/m・K以上の熱伝導率、および200℃以上の耐熱性を有することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の耐熱性高熱伝導性接着剤。

【公開番号】特開2010−90194(P2010−90194A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258701(P2008−258701)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】