説明

耐熱絶縁層付セパレータ

【課題】耐熱絶縁層付セパレータの多孔質基体と耐熱絶縁層との密着力を向上させ、セル作製時などにおける耐熱絶縁層の脱落を抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】多孔質基体と、前記多孔質基体の少なくとも一方の面に形成された耐熱粒子およびバインダーを含む耐熱絶縁層と、を備え、前記耐熱絶縁層が厚み方向に空隙率の傾斜を有し、前記多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側にある耐熱絶縁層の空隙率が大きいことを特徴とする、耐熱絶縁層付セパレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱絶縁層付セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの電気デバイスの開発が盛んに行われている。
【0003】
特に、電気デバイスであるリチウムイオン二次電池はそのエネルギー密度の高さや繰り返し充放電に対する耐久性の高さから、電動車両に好適と考えられ高容量化がさらに進む傾向にあり、安全性の確保がますます重要となってきている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、セパレータに電解液または電解質ゲルを保持した電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有する。
【0005】
セパレータとしては、例えば、厚さが20〜30μm程度のポリオレフィン微多孔膜が多く用いられているが、このようなポリオレフィン微多孔膜は、電池内温度上昇による熱収縮と、これに伴う短絡が生じる可能性がある。
【0006】
そのため、セパレータの熱収縮を抑制するために、微多孔膜の表面に、耐熱性多孔質層を積層させた耐熱絶縁層付セパレータが開発されている。例えば、特許文献1には、このようなセパレータを巻回型リチウムイオン電池に用い、電池内温度上昇による熱収縮が抑制されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/066768号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、耐熱絶縁層をセパレータに設けることで、電解質を媒介したイオン伝導が阻害される。イオン伝導を改善するために、耐熱絶縁層の空隙率を大きくすることも考えられるが、その場合には、多孔質基体と耐熱絶縁層との密着力が低下し、セル作製時などに耐熱絶縁層の脱落が起こり得る。
【0009】
そこで本発明は、耐熱絶縁層付セパレータの多孔質基体と耐熱絶縁層との密着力を向上させ、セル作製時などにおける耐熱絶縁層の脱落を抑制しつつ、電解質を媒介したイオン伝導を確保しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた。その結果、耐熱絶縁層付セパレータの耐熱絶縁層において、厚み方向に空隙率の傾斜を有し、前記多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側にある耐熱絶縁層の空隙率を大きくすることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、多孔質基体と、前記多孔質基体の少なくとも一方の面に形成された耐熱粒子およびバインダーを含む耐熱絶縁層と、を備え、前記耐熱絶縁層が厚み方向に空隙率の傾斜を有し、前記多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側にある耐熱絶縁層の空隙率が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、耐熱絶縁層付セパレータの多孔質基体と耐熱絶縁層との密着力を向上させ、セル作製時などにおける耐熱絶縁層の脱落を抑制しつつ、電解質を媒介したイオン伝導を確保しうる手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図2】本発明の他の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図3】本発明の代表的な一実施形態である平板積層型の非双極型リチウムイオン二次電池の概要を模式的に表した断面概略図である。
【図4】本発明の代表的な一実施形態である平板積層型の非双極型リチウムイオン二次電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図5】本発明の他の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図6】本発明の他の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【図7】本発明の他の一実施形態による耐熱絶縁層付セパレータの概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態において、耐熱絶縁層付セパレータは、多孔質基体と、前記多孔質基体の少なくとも一方の面に形成された耐熱粒子およびバインダーを含む耐熱絶縁層と、を備え、前記耐熱絶縁層が厚み方向に空隙率の傾斜を有し、前記多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側にある耐熱絶縁層の空隙率が大きいことを特徴とする。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータおよびこれを用いてなる電気デバイスの実施形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
[耐熱絶縁層付セパレータ]
本発明の一実施形態に係る耐熱絶縁層付セパレータ(以下、単にセパレータともいう)を模式的に表した断面概略図を図1に示す。図1によると、本形態の耐熱絶縁層付セパレータ1は、多孔質基体2の両面に、それぞれ、第一の耐熱絶縁層3および3'が形成され、さらに第一の耐熱絶縁層3および3'の表面に、前記第一の耐熱絶縁層3および3'より空隙率の大きい第二の耐熱絶縁層6および6'が形成されてなる。前記第一の耐熱絶縁層3および3'ならびに第二の耐熱絶縁層6および6'は、前記多孔質基体2と正極または負極との間に存在することで、電極電位による酸化還元反応や熱反応による分解から多孔質基体を保護することができる。
【0017】
[多孔質基体]
多孔質基体2としては、特に制限されないが、例えば、樹脂多孔質基体、金属多孔質基体などを用いることができる。好ましくは、電解液を吸収保持する有機樹脂を含む多孔性シート、織布または不織布などである樹脂多孔質基体であり、さらに好ましくは、前記多孔性シートは微多孔質のポリマーで構成される微多孔質膜である。このようなポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリイミド、アラミドまたはPP/PE/PPの3層構造をした積層体などが挙げられる。特に、ポリオレフィン系微多孔質膜は、化学的に安定であるという性質があり、電解液との反応性を低く抑えることができることから好ましい。
【0018】
前記多孔性シートの厚さとしては、用途により異なることから一義的に規定することはできないが、例えば、車両のモータ駆動用二次電池の用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが好ましい。前記多孔性シートの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、10nm程度の孔径である)、その空隙率は20〜80%であることが好ましい。
【0019】
前記織布または不織布としては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミドなど従来公知のものでありうる。織布または不織布の嵩密度としては、特に制限されないが、含浸させた電解液により十分な電池特性が得られるものであればよい。織布または不織布の空隙率としては好ましくは40〜90%であり、特に好ましくは50〜90%であることが好ましい。さらに、織布または不織布の厚さとしては、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは5〜100μmである。厚さが5μm以上であれば電解質の保持性が良好であり、200μm以下であれば抵抗が過度に増大しにくい。
【0020】
前記樹脂多孔質基体の調製方法としては、特に制限されないが、ポリオレフィン系微多孔質膜の場合、例えば、ポリオレフィンをパラフィン、流動パラフィン、パラフィン油、テトラリン、エチレングリコール、グリセリン、デカリンなどの溶剤に溶解させた後、シート状に押し出し、溶剤を除き、一軸延伸または二軸延伸を行う方法によって調製しうる。
【0021】
[耐熱絶縁層]
前記第一の耐熱絶縁層(低空隙率の耐熱絶縁層)3および3'ならびに第二の耐熱絶縁層(高空隙率の耐熱絶縁層)6および6'は、耐熱粒子およびバインダーを主に含む。前記耐熱粒子の材質としては、耐熱性の高いものであるのが好ましく、融点または熱軟化点は150℃以上、好ましくは240℃以上である。このような耐熱性の高い材質を用いることで、電池内部の温度が200℃前後に達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間におけるショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇によっても性能の低下しにくい電池を作製することができる。
【0022】
また、前記耐熱粒子は、電気絶縁性を有し、電解液や耐熱絶縁層の製造の際に用いる溶媒に対して化学的に安定であり、さらに電池の作動電圧範囲において酸化還元されにくい電気化学的に安定なものであることが好ましい。前記耐熱粒子は、有機粒子であっても無機粒子であってもよいが、化学的安定性などの観点から無機粒子であることが好ましい。また、前記耐熱粒子は、分散性の観点から微粒子であることが好ましく、一次粒子径が100nm〜3μmの微粒子が好ましく用いられうる。前記耐熱粒子の形状は、特に制限されず、球状に近い形状であってもよく、板状、棒状、針状の形態であってもよい。
【0023】
前記融点または熱軟化点が150℃以上の無機粒子(無機粉末)としては、特に制限されないが、例えば、酸化鉄(Fexy)、SiO2、Al23、アルミノシリケート(アルミノケイ酸塩)、TiO2、BaTiO2、ZrO2などの無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの無機窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;モンモリロナイトなどの粘土;などの粒子が挙げられる。前記無機酸化物は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などであってもよい。また、前記無機粒子は、金属;SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料;などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料、例えば、上記の無機酸化物などで被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。中でも、無機酸化物の粒子は水分散スラリーとして容易に多孔質基体表面に塗工することができるため、簡便な方法でセパレータを作製することができ、好適である。無機酸化物の中でも、Al23、SiO2およびアルミノシリケート(アルミノケイ酸塩)が特に好ましい。
【0024】
前記融点または熱軟化点が150℃以上である有機粒子(有機粉末)としては、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物などの各種架橋高分子粒子や、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子粒子などの有機樹脂の粒子が例示できる。また、これらの有機粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、上記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(上記の耐熱性高分子微粒子の場合)であってもよい。中でも、工業的生産性、電気化学的安定性から、有機粒子として架橋ポリメタクリル酸メチル、ポリアラミドの粒子を用いることが好ましい。このような有機樹脂の粒子を用いることで、樹脂を主体とするセパレータを作製できるため、全体として軽量な電池を得ることができる。
【0025】
なお、上述のような耐熱粒子は、1種のみを用いてもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いる場合は、例えば上述したような無機粒子または有機粒子の群から選択される耐熱粒子を、耐熱絶縁層毎に分けてまたは1つの層に混合して用いてもよい。
【0026】
前記バインダーとしては、特に制限されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルビニリドン、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルなどを用いうる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることが好ましい。
【0027】
前記バインダーは、耐熱粒子間の接着および多孔質基体層と耐熱絶縁層との接着に寄与している。よって、バインダーは耐熱絶縁層の構成要素として必須である。バインダーの添加量は、特に制限されないが、好ましくは耐熱粒子およびバインダーの合計質量100質量%に対して2〜15質量%であり、より好ましくは2〜10質量%である。バインダーの添加量が2質量%以上の場合、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度(剥離強度など)が高くなり、耐振動性が向上することから好ましい。一方、バインダーの添加量が15質量%以下の場合、接着性が適度に保たれ、イオン伝導性を阻害する可能性が低減されうることから好ましい。
【0028】
前記耐熱絶縁層は、特に制限されないが、1層、または、2層以上で形成されることができる。前記耐熱絶縁層が1層で形成される場合にも、その厚み方向に空隙率の傾斜を有していることが必須である。
【0029】
また、前記耐熱絶縁層が2層以上から形成される場合は、大きさ、形状、または材質などいずれか一つ以上の異なる耐熱粒子を含む層からなるものであってよく、2層以上を合わせた耐熱絶縁層の厚み方向に空隙率の傾斜を有していればいかなる形態も採用されうる。
【0030】
前記厚み方向に空隙率の傾斜を有している形態としては、特に制限されないが、一定の勾配を有しながら、もしくは勾配が変化しながら厚み方向に空隙率が傾斜する形態、空隙率の異なる層を積層して空隙率がグラデーションして全体として厚み方向に空隙率の傾斜を有する形態、または、耐熱絶縁層を構成する各層毎に空隙率は一定の勾配を有し、もしくは勾配が変化し、全体として厚み方向に空隙率の傾斜を有する形態なども含まれうる。
【0031】
前記空隙率の傾斜は、多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側(セパレータの表面側)にある耐熱絶縁層の空隙率が大きくなる、すなわち、高空隙率である部位がセパレータの表面側にあるように傾斜するように構成される。空隙率の異なる2層以上の積層構造において、空隙率がグラデーションして傾斜する形態である場合は製造しやすさなどの観点からより好ましい。なお、当該セパレータを電池に用いた場合、前記表面側の部位は、電極側の部位である。電池において、上述のような傾斜を有していれば、耐熱粒子間に存在する電解液の量も電極に向かって多くなるように傾斜を有することができ、前記電解液を媒介したイオン伝導が促進される。
【0032】
前記耐熱粒子を用いて構成される耐熱絶縁層の空隙率は、特に制限されないが、高空隙率の部位の空隙率は、好ましくは50〜80%であり、より好ましくは60〜80%である。また、低空隙率の部位の空隙率は、好ましくは40〜60%であり、より好ましくは40〜55%である。空隙率の異なる2層から形成される耐熱絶縁層である場合は、高空隙率の層の空隙率は、好ましくは50〜80%であり、より好ましくは60〜80%である。また、低空隙率の層の空隙率は、好ましくは40〜60%であり、より好ましくは40〜55%である。なお、高空隙率の部位(層)の空隙率は、いかなる場合も、低空隙率の部位(層)の空隙率よりも大きい。各層の空隙率が上記範囲内であれば、機械的強度は適度に保たれ、出力特性(レート特性など)も高く保持できる。
【0033】
また、前記耐熱絶縁層の厚さは、用途により異なることから一義的に規定することはできないが、正極側および負極側のそれぞれに位置する耐熱絶縁層全体の厚さは互いに同一であっても、異なっていてもよい。また、正極側または負極側の耐熱絶縁層が2層以上で形成される場合は、各層の厚さはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。特に制限されないが、前記耐熱絶縁層が2層から形成される場合は、正極側の高空隙率の層の厚さは、正極側の耐熱絶縁層全体の厚さの20〜80%の範囲内で存在しているのが好ましく、より好ましくは25〜70%である。一方、負極側の高空隙率の層の厚さは負極側の耐熱絶縁層全体の厚さの20〜80%の範囲内で存在しているのが好ましく、より好ましくは30〜75%である。高空隙率の層の厚さが上記範囲内で存在していれば、機械的強度は適度に保たれ、特に高空隙率の層が低空隙率の層よりも厚ければ、出力特性も高く保持できる。また、負極側におけるイオン伝導性が出力特性に特に影響するため、負極側の高空隙率の層の厚さを大きくするのが特に好ましい。
【0034】
セパレータの総厚さとしては、特に制限されないが、通常5〜50μm程度であれば使用可能である。コンパクトな電池を得るためには、セパレータとしての機能が確保できる範囲で極力薄くすることが好ましく、セパレータの総厚さは、好ましくは30〜50μmであり、より好ましくは35〜45μmである。30μm以上であれば電池出力の向上に寄与することができ、50μm以下であれば使用に適している。
【0035】
本発明の他の一実施形態に係る耐熱絶縁層付セパレータを模式的に表した断面概略図を図2に示す。図2によると、本形態の耐熱絶縁層付セパレータ1は、多孔質基体2の両面に、それぞれ、耐熱粒子の材質、大きさ、および形状、ならびに、厚さが同じ第一の耐熱絶縁層3および3'が形成されてなる。また、第一の耐熱絶縁層3と空隙率の異なる第二の耐熱絶縁層6が前記第一の耐熱絶縁層3の表面に形成されてなる。前記第二の耐熱絶縁層6は負極側の第一の耐熱絶縁層3の表面に形成されてなるのが好ましい。負極側の高空隙率の層の厚さを厚くすることで、出力特性を高くすることができる。
【0036】
前記第一の耐熱絶縁層(低空隙率の耐熱絶縁層)3および3'ならびに第二の耐熱絶縁層(高空隙率の耐熱絶縁層)6は、前記多孔質基体2と正極または負極との間に存在することで、電極電位による酸化還元反応や熱反応による分解から多孔質基体を保護することができる。負極側における電極電位による酸化還元反応や熱反応による分解は正極側における電極電位による酸化還元反応や熱反応による分解よりも激しいため、特に、第二の耐熱絶縁層は少なくとも負極側に形成されるのが好ましい。少なくとも負極側に存在することでイオン伝導性を高く保持することができる。
【0037】
本実施形態における耐熱絶縁層付セパレータにおける構成および態様などは図1に示す実施形態について上述したものを用いることができる。
【0038】
[電気デバイス]
本発明の一形態である耐熱絶縁層付セパレータは、電気デバイスに用いられうる。本発明の一形態に係る耐熱絶縁層付セパレータを正極および負極の間に介在してなる電気デバイス、特にリチウムイオン二次電池は、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。
【0039】
また、本実施形態の耐熱絶縁層付セパレータを用いてなるリチウムイオン二次電池は、サイクル耐久性にも優れることから、車両の駆動電源用等や携帯電話などの携帯機器向け等に利用するのが好ましい。
【0040】
上記耐熱絶縁層付セパレータは、例えば、平板積層型(扁平型)電池に適用されうる。平板積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
【0041】
また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、非双極型(内部並列接続タイプ)電池および双極型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用されうる。
【0042】
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の溶液電解質を用いた溶液電解質型電池、電解質層に高分子ゲル電解質を用いたゲル電解質型電池などの電解質層にも適用されうる。
【0043】
以下の説明では、上述した形態の耐熱絶縁層付セパレータを用いてなる非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池について図面を用いて簡単に説明する。ただし、本発明の技術的範囲がこれらに制限されるべきではない。
【0044】
[電池の全体構造]
図3は、本発明の代表的な一実施形態である、平板積層型(扁平型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0045】
図3に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11の両面に正極活物質層13が配置された正極と、セパレータに電解液または電解質ゲルが保持された電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。
【0046】
これにより、隣接する正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図3に示す積層型電池10は、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図3とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の少なくとも一方の面に負極活物質層が配置されているようにしてもよい。
【0047】
正極集電体11および負極集電体12は、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0048】
上記で説明したリチウムイオン二次電池は、セパレータに特徴を有する。以下、当該セパレータを含めた電池の主要な構成部材について説明する。
【0049】
[活物質層]
活物質層13または15は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0050】
正極活物質層13は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn24、LiCoO2、LiNiO2、Li(Ni−Co−Mn)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0051】
負極活物質層15は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti512)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0052】
各活物質層に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。
【0053】
好ましくは、正極活物質層13および負極活物質層15は、バインダーを含む。
【0054】
活物質層に用いられるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらの好適なバインダーは、耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となる。これらのバインダーは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
活物質層中に含まれるバインダーの量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは活物質層に対して、0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。
【0056】
活物質層に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、導電助剤、電解質、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0057】
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0058】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(C25SO22N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
【0059】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0060】
正極活物質層および負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水電解質二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。各活物質層の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0061】
[集電体]
集電体11、12は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられる。本実施形態のリチウムイオン電池は、好ましくは大型の電池であり、用いられる集電体の大きさは、例えば長辺が100mm以上であり、好ましくは100mm×100mm以上であり、より好ましくは200mm×200mm以上である。集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。集電体の形状についても特に制限されない。図3に示す積層型電池10では、集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
【0062】
集電体を構成する材料に特に制限はないが、好適には金属が採用されうる。具体的には、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅が好ましい。
【0063】
[電解質層]
電解質層17は、基材としての本実施形態のセパレータの面方向中央部に電解質が保持されてなる構成を有する。本実施形態のセパレータを用いることで、信頼性の高い電池を安定的に製造することができる。
【0064】
[製造方法]
本実施形態のセパレータの製造方法は特に制限されないが、例えば、多孔質基体の両面に、融点または熱軟化点が150℃以上である耐熱粒子を含有する、スラリー状の耐熱絶縁層形成用組成物を塗布した後、乾燥する方法が用いられうる。
【0065】
耐熱絶縁層形成用組成物は、耐熱粒子を溶媒に分散させたものであり、バインダーなどを含む。耐熱絶縁層の形状安定性を高めるためのバインダーとしては、上述した群から選択されるものを用いることができる。前記耐熱絶縁層に含まれるバインダーの量は、前記耐熱粒子と前記バインダーとの合計質量に対して、好ましくは2〜15質量%以下であり、より好ましくは2〜10質量%以下である。
【0066】
前記溶媒としては耐熱粒子を均一に分散できるものであれば特に制限されないが、例えば、水、トルエンなどの芳香族炭化水素、テトラヒドロフランなどのフラン類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。これらの溶媒に、界面張力を制御する目的で、エチレングリコール、プロピレングリコール、モノメチルアセテートなどを適宜添加してもよい。特に前記耐熱粒子として無機酸化物粒子を用いる場合には溶媒として水を用いて水分散スラリーを作製することで、簡便に耐熱絶縁層を作製することができる。また、耐熱絶縁層形成用組成物は、固形分濃度30〜60質量%に調製することが好ましい。
【0067】
前記多孔質基体に耐熱絶縁層形成用組成物を塗布する際の目付けは特に制限されないが、好ましくは5〜20g/m2であり、より好ましくは9〜13g/m2である。上記範囲であれば、適当な空隙率および厚さを有する耐熱絶縁層が得られうる。塗工方法も特に制限はなく、例えば、ナイフコーター法、グラビアコーター法、スクリーン印刷法、マイヤーバー法、ダイコーター法、リバースロールコーター法、インクジェット法、スプレー法、ロールコーター法、ドクターブレード法などが挙げられる。
【0068】
塗布した後の耐熱絶縁層形成用組成物を乾燥させる方法も特に制限されないが、例えば、温風乾燥などの方法が用いられうる。乾燥温度は、例えば、30〜80℃であり、乾燥時間は、例えば、2秒〜50時間である。
【0069】
電解質層としては、本実施形態のセパレータを用いて形成されているものであれば、特に制限されるものではなく、その使用目的に応じて、イオン伝導性に優れる電解液含有セパレータを電解質層として用いることができるほか、高分子ゲル電解質等をセパレータに含浸、塗布、スプレーなどして形成した電解質層も好適に利用することができる。
【0070】
(a)電解液含有セパレータ
本実施形態のセパレータに染み込ませることのできる電解液としては、電解質として、LiClO4、LiAsF6、LiPF5、LiBOB、LiCF3SO3およびLi(CF3SO22の少なくとも1種類を用い、溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランおよびγ−ブチルラクトンよりなるエーテル類から少なくとも1種類を用い、前記電解質を前記溶媒に溶解させることにより、電解質の濃度が0.5〜2Mに調整されているものであるが、本発明はこれらに何ら制限されるべきものではない。
【0071】
上記セパレータに含浸などにより保持させる電解液量は、セパレータの保液能力範囲まで含浸、塗布などさせればよいが、当該保液能力範囲を超えて含浸させてもよい。これは、例えば、双極型電池の場合、電解質シール部に樹脂を注入して電解質層からの電解液の染み出しを防止できるため、該電解質層のセパレータに保液できる範囲であれば含浸可能である。同様に、非双極型電池の場合、電池要素を電池外装材に封入して電池外装材内部からの電解液の染み出しを防止できるため、該電池外装材内部に保液できる範囲であれば含浸可能である。該電解液は、真空注液法などにより注液した後、完全にシールすることができるなど、従来公知の方法でセパレータに電解液を含浸させることができる。
【0072】
(b)ゲル電解質層
本発明のゲル電解質層では、本実施形態のセパレータにゲル電解質を含浸、塗布などにより保持させてなるものである。
【0073】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質(電解液)が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0074】
ゲル電解質中の上記液体電解質(電解液)の割合としては、特に制限されるべきものではないが、イオン伝導度などの観点から、数質量%〜98質量%程度とするのが好ましい。本実施形態では、電解液の割合が70質量%以上の、電解液が多いゲル電解質について、特に効果がある。
【0075】
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0076】
電解質層の厚さは、特に限定するものではないが、基本的には本実施形態のセパレータの厚さと略同等かあるいは若干厚い程度であり、通常5〜30μm程度であれば使用可能である。
【0077】
尚、本発明では、上記電解質層の電解質中には、本発明の作用効果を損なわない範囲内であれば、従来公知の各種添加剤を含有していてもよい。
【0078】
[集電板およびリード]
電池外部に電流を取り出す目的で、集電板(電極タブ)を用いてもよい。集電板(電極タブ)は集電体やリードに電気的に接続され、電池外装材であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0079】
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極集電板と負極集電板とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。
【0080】
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材29から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0081】
[電池外装材]
電池外装材29としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが好ましい。
【0082】
なお、上記のリチウムイオン二次電池は、従来公知の製造方法により製造することがで
きる。
【0083】
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図4は、平板積層型リチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0084】
図4に示すように、平板積層型リチウムイオン二次電池10は、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極集電板25、負極集電板27が引き出されている。発電要素21は、リチウムイオン二次電池10の電池外装材29によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は、正極集電板25および負極集電板27を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素21は、図3に示すリチウムイオン二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素21は、正極(正極活物質層)13、電解質層17および負極(負極活物質層)15で構成される単電池層(単セル)19が複数積層されたものである。
【0085】
また、図4に示す集電板25、27の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極集電板25と負極集電板27とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極集電板25と負極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図4に示すものに制限されるものではない。
【0086】
なお、上記実施形態では、電気デバイスとしてリチウムイオン二次電池を例示したが、これに制限されるわけではなく、他のタイプの二次電池、さらには、一次電池にも適用できる。また、電池だけではなく、キャパシタにも適用できる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例のみに限定されることはない。
【0088】
本発明の実施例における平均一次粒子径は、日機装株式会社のマイクロトラック粒度分布測定装置(型式HRA9320−X100)を用いたレーザー回折散乱法により測定し、体積基準により算出した粒子径である。
【0089】
(実施例1)
<正極>
正極活物質としてLiMn24(85質量%)、導電助剤としてアセチレンブラック(5質量%)、バインダーとしてPVdF(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMP(適量)に分散させ、正極スラリーを作製した。次いで、当該正極スラリーをアルミニウム集電箔の片面に塗布し、乾燥して正極を形成した。正極電極の片面の厚さが60μmになるようにプレスした。
【0090】
<負極>
負極活物質としてハードカーボン(90質量%)、バインダーとしてPVdF(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMP(適量)に分散させ、負極スラリーを作製した。次いで、当該負極スラリーを銅集電箔の片面に塗布し、乾燥させて負極を形成した。負極電極の片面の厚さが50μmになるようにプレスした。
【0091】
<集電体>
集電体として、正極にはアルミニウム箔(厚さ20μm)を、負極には銅箔(厚さ20μm)を使用した。また、電極サイズを100×100mmにカットした。
【0092】
<電解質>
電解質として、1MのLiPF6/EC+DEC(溶媒体積比1:1)を使用した。
【0093】
<セパレータ>
樹脂多孔質基体であるポリエチレン(PE)微多孔膜(膜厚15μm、空隙率50%)を基材として使用した。
【0094】
耐熱絶縁層の低空隙率の層(第一の耐熱絶縁層;以下の表中、1−1および2−1(基材側))を、平均一次粒子径1μmのアルミナ粒子、PVdFバインダーおよびNMPからなるスラリーを基材の両面にドクターブレード方式で塗布した後に温風乾燥し、作製した(膜厚5μm、空隙率50%)。
【0095】
耐熱絶縁層の高空隙率の層(第二の耐熱絶縁層;以下の表中、1−2および2−2(電極側))を、平均一次粒子径0.5μmのアルミナ粒子、PVdFバインダーおよびNMPからなるスラリーをドクターブレード方式で低空隙率の層(1−1および2−1)の上に塗布した後に温風乾燥し、作製した(膜厚10μm、空隙率70%)。
【0096】
次に耐熱絶縁層1−1および1−2を正極側に、耐熱絶縁層2−1および2−2を負極側に向け、正負極を用いて電池素子を作製し、電解液を注液後、ラミネート外装体で封止して電池を作製した。
【0097】
図1に当該耐熱絶縁層付セパレータの模式図を示す。
【0098】
(実施例2)
低空隙率の層を膜厚10μm、高空隙率の層を膜厚5μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0099】
図5に当該耐熱絶縁層付セパレータの模式図を示す。
【0100】
(実施例3)
正極側に高空隙率の層を作製せず、低空隙率の層を膜厚15μmとし、負極側の低空隙率の層を膜厚10μm、高空隙率の層を膜厚10μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0101】
図2に当該耐熱絶縁層付セパレータの模式図を示す。
【0102】
(実施例4)
正極側の低空隙率の層を膜厚10μm、高空隙率の層を膜厚5μmとし、負極側の低空隙率の層を膜厚5μm、高空隙率の層を膜厚10μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0103】
図6に当該耐熱絶縁層付セパレータの模式図を示す。
【0104】
(実施例5)
正極側の低空隙率の層を膜厚10μm、高空隙率の層を膜厚5μmとし、負極側の低空隙率の層を膜厚5μm、高空隙率の層を膜厚15μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0105】
図7に当該耐熱絶縁層付セパレータの模式図を示す。
【0106】
(比較例1)
多孔質基体の両面に高空隙率の層を作製せず、低空隙率の層を膜厚15μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0107】
(比較例2)
多孔質基体の両面に低空隙率の層を作製せず、高空隙率の層を膜厚15μmとしたことを除いては実施例1と同様にしてセパレータを作製した。
【0108】
以上、各耐熱絶縁層の膜厚および空隙率を下記表1および表2に示す。

【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
上記空隙率の求め方は、下記数式1を用いて各層の空隙率を、複数の層に空隙率が存在するときは、下記数式2を用いて得た値を用いることができる。ここで、Biは各層の空隙率を、Cは耐熱絶縁層全体の空隙率の平均を、Wiは層内の各材料の重量組成比(wt%)を、diは層内の各材料の真密度を、Aiは層内の実密度を、tiは各層の厚さを示す。
【0112】
【数1】

【0113】
【数2】

【0114】
ここで、数式1において、[(1/Ai)/Σ(Wi/di)]により、耐熱絶縁層の
各層に含まれる全材料の単位質量あたりの体積の割合を求めることができ、数式1により前記耐熱絶縁層の空隙率を求めることができる。
【0115】
また、数式2において、[(ti/Σti)]により、耐熱絶縁層全体の厚さに対する
耐熱絶縁層の各層の厚さの割合を求めることができ、これを各層の空隙率Biとの積をとることで耐熱絶縁層全体に占める層iの空隙率の割合を求めることができる。そして、得られた各層の空隙率の和が、耐熱絶縁層全体の空隙率となる。
【0116】
[電池評価]
上記実施例1〜5ならびに比較例1および2で作製した耐熱絶縁層付セパレータの剥離強度を調べた。まず、耐熱絶縁層の片面をセロハンテープ(ニチバン社製)で補強し、該耐熱絶縁層を10mm幅に裁断した。裁断後の耐熱絶縁層を両面テープにより金属土台に貼り付けて固定した。その後、セロハンテープを10mm剥がし、測定機(STA−1150;ORIENTEC社製)に取り付け、引張速度100mm/min、剥離距離80mmの条件で、剥離強度を測定した。比較例1で作製したセパレータの剥離強度に対する強度比を下記表3に示す。
【0117】
また、実施例1〜5ならびに比較例1および2で作製した耐熱絶縁層付セパレータを用いた電池を作製し、レート特性を調べた。当該レート特性を下記表3に示す。ここで、レート特性とは、5時間0.5Cで初回充電放電(各層の上限電圧4.2V)およびガス抜きを行い、次いで、満充電をした後に0.2Cおよび2Cでそれぞれ放電を行った際の0.2Cの際の容量に対する2Cの際の容量の比である。
【0118】
【表3】

【0119】
実施例1〜5で作製したセパレータは、比較例2に係るセパレータに対し高い剥離強度を示した。このことから、高空隙率の層のみから作製されるセパレータに対し、低空隙率の層を含むセパレータは高い剥離強度を示しうることがわかった。
【0120】
また、実施例1〜5で作製したセパレータを用いた電池は、比較例1に係るセパレータからなる電池に対し高いレート特性を示した。このことから、低空隙率の層のみから作製されるセパレータからなる電池に対し、高空隙率の層を含むセパレータからなる電池は高いレート特性を示しうることがわかった。
【0121】
実施例2で作製したセパレータは実施例1で作製したセパレータより高い剥離強度を示した。一方、実施例2で作製したセパレータを用いた電池は実施例1で作製したセパレータを用いた電池より低いレート特性を示した。このことから、低空隙率の層の厚さと高空隙率の層の厚さを調整することにより、電池のレート特性およびセパレータの剥離強度について好ましい特性を有するものを作製しうることがわかった。
【0122】
実施例3で作製したセパレータは比較例1で作製したセパレータよりわずかに低い剥離強度を示し、実施例1および実施例2で作製したセパレータと同程度の剥離強度を示した。一方、実施例3で作製したセパレータを用いた電池は比較例1で作製したセパレータを用いた電池より高いレート特性を示し、実施例1および2で作製したセパレータを用いた電池と同程度のレート特性を示した。
【0123】
実施例4で作製したセパレータは実施例1または実施例2で作製したセパレータと同程度の剥離強度を示した。一方、実施例4で作製したセパレータを用いた電池と実施例1で作製したセパレータを用いた電池と同程度のレート特性を示したが、実施例2で作製したセパレータより低いレート特性を示した。
【0124】
実施例5で作製したセパレータは、実施例2で作製したセパレータよりはわずかに低い剥離強度を示したが、実施例4で作製したセパレータと同程度の剥離強度を示した。また、実施例5で作製したセパレータを用いた電池と実施例2または実施例4で作製したセパレータを用いた電池のレート特性は同程度であった。このことから、正極側の耐熱絶縁層の構成よりも負極側の耐熱絶縁層の構成が電池のレート特性およびセパレータの剥離強度へ与える影響が大きいことがわかった。
【符号の説明】
【0125】
1 耐熱絶縁層付セパレータ(セパレータ)、
2 多孔質基体、
3、3' 第一の耐熱絶縁層、
6、6' 第二の耐熱絶縁層、
10 リチウムイオン二次電池(積層型電池)、
11 正極集電体、
12 負極集電体、
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 正極集電板、
27 負極集電板、
29 電池外装材(ラミネートフィルム)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基体と、
前記多孔質基体の少なくとも一方の面に形成された耐熱粒子およびバインダーを含む耐熱絶縁層と、を備え、
前記耐熱絶縁層が厚み方向に空隙率の傾斜を有し、前記多孔質基体側にある耐熱絶縁層の空隙率より前記多孔質基体とは反対側にある耐熱絶縁層の空隙率が大きいことを特徴とする、耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項2】
前記耐熱絶縁層内の高空隙率の部位が50〜80%の空隙率を有し、前記高空隙率の部位よりも低空隙率の部位が40〜60%の空隙率を有することを特徴とする、請求項1に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱絶縁層が空隙率の異なる2層以上の積層構造を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項4】
前記耐熱絶縁層が空隙率の異なる2層からなることを特徴とする、請求項3に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項5】
前記耐熱絶縁層内の高空隙率の層の厚さが耐熱絶縁層全体の厚さの20〜80%の範囲で存在していることを特徴とする、請求項4に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項6】
前記耐熱絶縁層内の高空隙率の層が低空隙率の層よりも厚いことを特徴とする、請求項4または5に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項7】
前記耐熱絶縁層内の低空隙率の層が高空隙率の層よりも厚いことを特徴とする、請求項4または5に記載の耐熱絶縁層付セパレータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の耐熱絶縁層付セパレータが、正極および負極の間に介在してなることを特徴とする、電気デバイス。
【請求項9】
前記耐熱絶縁層の高空隙率の部位が少なくとも負極側に形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の電気デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−54966(P2013−54966A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193253(P2011−193253)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】