説明

耐熱絶縁電線及びそれを用いるヒュージング方法

【課題】 耐熱性の絶縁皮膜を有する耐熱絶縁電線であって、ヒュージングにおいて、加熱による絶縁皮膜の軟化、昇華、剥離が充分に行われ、端子との充分な導通、良好な結線を達成できる耐熱絶縁電線及びそれを用いるヒュージング方法を提供する。
【解決手段】 導体線の外周に耐熱性の絶縁材からなる絶縁皮膜を形成してなる耐熱絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、発泡剤を含有することを特徴とする耐熱絶縁電線及びそれを用いるヒュージング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒュージングにより金属端子(リード)等との良好な接合(結線)が得られる耐熱絶縁電線、及びこの耐熱絶縁電線を用いるヒュージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒュージングは、導体の外周に絶縁皮膜を有する絶縁電線と端子等とを、熱カシメにより接合する端末結線方法として広く用いられており、固層接合の一種である。図3は、ヒュージングによるリードと絶縁電線との接合(結線)の一例を示す概念工程図であり、先ずこの図に基づき、ヒュージングを説明する。
【0003】
図3(a)に示すように、先ず端子のリード11によりフック(U字型部)を形成し、絶縁電線12をこのフックに掛合させる。リード11には、電極13a、13bが接触している。次に、電極13aと13b間に電圧を印加するとともに、電極13aによりリード11のフック部を押圧する。
【0004】
すると、リード11内には図中の矢印で示す電流が流れ、抵抗発熱によりリード11のフック部は軟化する。該フック部は同時に電極13aにより押圧されるので変形し、図3(b)に示すような絶縁電線12を包みこむ形状となる。
【0005】
フック部の発熱により、絶縁電線12も加熱されて絶縁皮膜14が軟化及び昇華して剥離され、図3(b)に示すように、導体の芯線15が露出し、リード11と導通される。すると、芯線15にも電流が流れ抵抗発熱し、この発熱と電極13aの押圧により、芯線15とリード11が加熱圧接され、接合が達成される。このようなヒュージングによる接合は、人体に有害なハンダを使用しない環境にやさしい接合として知られている。
【0006】
近年、絶縁皮膜にポリアミドイミドやポリイミド等の耐熱樹脂を使用した耐熱絶縁電線が、コイルの巻線(耐熱巻線)等に用いられるようになってきている。この耐熱絶縁電線の結線にヒュージングを適用すると、耐熱絶縁電線の絶縁皮膜は、耐熱性(軟化及び昇華温度)が高いので、加熱による絶縁皮膜の軟化、昇華による剥離が進みにくい。その結果、電線に皮膜が残留し導体の芯線が充分露出せず、端子の接合部(カシメ部)との導通が不充分になり、端子との結線がうまく行われない場合がある。
【0007】
そこで、ヒュージングによる結線をより確実に行うために、耐熱絶縁電線の生産時の塗装被覆焼付を低温焼付とし、皮膜を熱軟化しやすいようにする方法も、ユーザーの要望に応じて一部で行われている。しかし、この方法によると、電線の耐熱温度が低くなるとの問題がある。又、ヒュージングが行われる一部の電線のみに適用されるため、他の電線とは異なる特別な焼付管理を必要とし、電線の製造管理を複雑化するとの問題もある。そこで、アンダー焼付を行わなくても、加熱による絶縁皮膜の軟化、昇華、剥離が充分に行われ、端子との良好な結線を達成できる耐熱絶縁電線の開発が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性の絶縁皮膜を有する耐熱絶縁電線であって、ヒュージングにおいて、加熱による絶縁皮膜の軟化、昇華、剥離が充分に行われ、端子との充分な導通、良好な結線を達成できる耐熱絶縁電線を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、検討の結果、絶縁皮膜に、ヒュージングにおける加熱により発泡する発泡剤を含有させることにより、前記の課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、導線の外周に耐熱性の絶縁材からなる絶縁皮膜を形成してなる耐熱絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、発泡剤を含有することを特徴とする耐熱絶縁電線を提供する(請求項1)。
【0011】
この耐熱絶縁電線と端子等との結線を、ヒュージングにより行うと、接合時の通電による発熱により、発泡剤が分解して発泡し皮膜を破壊する(以下この特性をヒュージング性と言う。)。その結果、皮膜下の導体が露出し熱伝導が向上することで、皮膜の軟化、昇華が促進され、充分に導通された良好な結線が達成される。
【0012】
発泡剤としては、350℃以上、450℃以下の範囲の分解温度を有するものが好ましい。このような発泡剤としては、セルテトラBHT−PIPE(商品名、永和化成工業製、分解温度350〜375℃)が例示される。分解温度が350℃未満の場合、発泡剤を含有した耐熱性の絶縁材を導線上に塗装焼付する時に発泡が起こりやすく、焼付(絶縁電線の製造)が困難になる場合がある。
【0013】
一方、分解温度が450℃を越える場合、ヒュージングにおける加熱の時に充分な発泡がおこらず、ヒュージング性の向上が不充分となる場合がある。又このような発泡剤は入手が困難である。請求項2は、この好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁電線であって、発泡剤が、350℃以上で450℃以下の分解温度を有することを特徴とする耐熱絶縁電線を提供するものである。
【0014】
絶縁皮膜は、1層からなるものでもよいし、異なった材質の多層からなるものでもよい。絶縁皮膜が多層からなる場合、発泡剤はその中の一部の層のみに含有されていてもよい。発泡剤が一部の層のみに含有される場合、どの層に含有されてもヒュージング性は向上するが、特に導体に近い層(下塗り層)に発泡剤が含有されると、ヒュージング性の向上が大きいので好ましい。請求項4はこの好ましい態様に該当し、前記の耐熱絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が2以上の層を有し、前記発泡剤が導体に近い層に含有されていることを特徴とする耐熱絶縁電線を提供するものである。
【0015】
絶縁皮膜を形成する耐熱性の絶縁材とは、250℃以上の温度でも軟化や昇華しないような材料であり、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の耐熱性高分子が例示される。請求項3は、この態様に該当し、前記の耐熱絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層を有することを特徴とする耐熱絶縁電線を提供するものである。250℃未満で軟化や昇華する絶縁材を使用した絶縁電線では、前記のヒュージングにおける問題はそれほど顕著ではなく、本発明の効果はそれほど顕著には表れない。
【0016】
ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層は、ポリイミド、ポリアミドイミドもしくはポリエステルイミド、又はこれらの混合物を主体とするものであり、ポリイミドからなる層、ポリアミドイミドからなる層、ポリエステルイミドからなる層、ポリイミド及びポリアミドイミドからなる層、ポリイミド及びポリエステルイミドからなる層等が挙げられるが、耐熱性を損なわない範囲で他の成分が含まれていてもよい。
【0017】
絶縁皮膜中の、発泡剤の含有量は、絶縁材の種類により変動し特に限定されないが、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層の場合は、この層の全重量に対し、0.1〜10重量%の範囲が好ましい。発泡剤の含有量が0.1重量%未満の場合は、通電加熱時の発泡が不充分になり、ヒュージング性の向上が不充分となる場合がある。一方、発泡剤の含有量が10重量%を越える場合は、電線の耐熱性が低下する傾向があり、又絶縁電線の製造時に皮膜の肌荒れを生じ、電線の外観を損なう場合もある。
【0018】
請求項5は、この好ましい態様に該当し、前記請求項3の耐熱絶縁電線であって、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層が、発泡剤を0.1〜10重量%含有することを特徴とする耐熱絶縁電線を提供するものである。
【0019】
絶縁皮膜の厚みの好ましい範囲は、導線の太さや、求められる絶縁性等により変動し特に限定されない。ただし、本発明の課題をより充分に達成するためには、発泡剤を含む層の厚みは、通常、2〜80μmの範囲が好ましい。
【0020】
本発明の耐熱絶縁電線は、例えば、芯材となる導線に、耐熱性樹脂又はその前駆体の溶液を塗布した後、焼付けを行い、樹脂を硬化させることにより製造することができる。焼付けの条件は、従来の耐熱絶縁電線の場合と同様な条件(例えば温度300℃以上)を採用することができる。発泡剤を含んだ層を形成するためには、発泡剤を含んだ樹脂溶液を塗布する。樹脂溶液の塗布は複数回に分けて行うこともできる。
【0021】
又、多層の絶縁被覆を形成するためには、先ず樹脂溶液の塗布焼付けにより下塗り層を形成した後、上層を形成するための樹脂溶液の塗布、焼付けを行い、上層を形成し、必要によりさらにこの工程を繰り返す。耐熱性樹脂として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物を用いる場合は、樹脂溶液として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物のワニスが用いられる。
【0022】
本発明の耐熱絶縁電線は、ヒュージングによる端子との結線に好適に用いられる。このような結線は、ワイパ、パワーウインド、スタータ、パワーステアリング等の配線に適用され、又小型モータのロータのコンミテータの結線等としても用いられる。
【0023】
本発明はさらに請求項6として、前記の耐熱絶縁電線を用いたヒュージング方法を提供するものである。本発明のヒュージング方法により、耐熱絶縁電線と端子等との良好な結線を容易に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の耐熱絶縁電線を用いてヒュージングを行うと、又本発明のヒュージング方法によると、通電による発熱により発泡剤が発泡して皮膜を破壊し、皮膜下の導体が露出しすることで、皮膜の軟化、昇華が促進され、この電線と端子等との間で良好な結線が形成され、端末処理の精度が向上する。又、本発明の耐熱絶縁電線の製造では、アンダー焼付等、通常の耐熱絶縁電線とは異なった製造条件の工程を必要としない。従って、耐熱性が損なわれることはなく、又製造条件の特別な管理も必要とせず、ヒュージング性のすぐれた耐熱絶縁電線を、効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の最良の形態を、図を用いて説明する。図1は、本発明の耐熱絶縁電線の例の断面を、模式的に示す模式図であり、図2は、従来の耐熱絶縁電線の例の断面を、模式的に示す模式図である。
【0026】
図1(a)及び図2(a)は、導体の芯線1、6の外周を被覆する絶縁皮膜2、7が1層からなる例である。図2(a)(従来例)の皮膜7は、発泡剤を含まずポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる樹脂層であるのに対し、図1(a)(本発明例)の皮膜2は、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる樹脂層である点では同じであるが、発泡剤10を皮膜2の重量に対して1重量%程度含んでいる点で相違する。
【0027】
図1(b)及び図2(b)は、導体の芯線1、6の外周を被覆する絶縁皮膜2、7が2層、すなわち下塗層3、8及び上塗層4、9からなる例である。
【0028】
図2(b)(従来例)の皮膜7は、下塗層8及び上塗層9とも発泡剤を含んでいない。下塗層8及び上塗層9の構成例としては、(1)下塗層8がポリイミドからなる樹脂層で上塗層9がポリアミドイミドからなる樹脂層、(2)下塗層8がポリエステルイミドからなる樹脂層で上塗層9がポリアミドイミド又はポリイミドからなる樹脂層、等が挙げられる。又、上塗層9として、前記のポリアミドイミドやポリイミド等の代りに、ポリアミドイミド等からなる自己潤滑層が設けられる場合もあるし、上塗層9の代りに、非耐熱性の、融着層やナイロン層が設けられる場合もある。
【0029】
ここで、自己潤滑層とは、電線の滑性を極めて高くし、捲線加工においての損傷や断線を生じにくくするために、被覆の最外層に設けられる層である。耐熱性、可撓性、安定性、耐加工性、外観に優れ、コイルの製造工程の高速化と空間効率向上との要望に対処し得るものが望まれる。又、融着層とは、捲線後、高温での加熱、通電加熱、有機溶媒中に浸漬して取出して乾燥する等の方法により、コイル線間を融着するために電線の最外層として設けられる層である。コイル線間を融着することにより、コイル線間が強固に固定され、優れた耐(熱)振動性を発揮するため、融着層が電線の最外層に設けられる場合がある。
【0030】
一方、図1(b)(本発明例)の皮膜2においては、上塗層4は発泡剤を含んでいないが、下塗層3は発泡剤10を下塗層3の重量に対して1重量%程度含んでいる。発泡剤10を含む下塗層3の材質としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物が例示され、又上塗層4としても、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物が例示され、それぞれから選ばれる材質を任意に複合することができる。又、上塗層4として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド等の代りに、ポリアミドイミド等からなる自己潤滑層が設けられる場合もあるし、上塗層4の代りに、非耐熱性の、融着層やナイロン層を設けてもよい。
【0031】
図1(c)及び図2(c)は、導体の芯線1、6の外周を被覆する絶縁皮膜2、7が3層、すなわち下塗層3、8、上塗層4、9、及び中塗層5、8’からなる例である。
【0032】
図2(c)(従来例)の皮膜7は、下塗層8、中塗層8’及び上塗層9とも発泡剤を含んでいない。下塗層8及び上塗層9の構成例としては、(1)下塗層8がポリイミドからなる樹脂層、中塗層8’がポリアミドイミドからなる樹脂層、及び上塗層9がポリアミドイミド等からなる自己潤滑層、(2)下塗層8がポリアミドイミドからなる樹脂層、中塗層8’がポリイミドからなる樹脂層、及び上塗層9がポリアミドイミド等からなる自己潤滑層、(3)下塗層8がポリエステルイミドからなる樹脂層、中塗層8’がポリイミド又はポリアミドイミドからなる樹脂層、及び上塗層9がポリアミドイミド等からなる自己潤滑層、等が挙げられる。又、上塗層9の代りに、非耐熱性の、融着層やナイロン層が設けられる場合もある。
【0033】
一方、図1(c)(本発明例)の皮膜2においては、上塗層4及び中塗層5は発泡剤を含んでいないが、下塗層3は発泡剤10を下塗層3の重量に対して1重量%程度含んでいる。発泡剤10を含む下塗層3の材質としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物が例示され、又中塗層4としても、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド又はこれらの混合物が例示され、それぞれから選ばれる材質を任意に複合することができる。上塗層4としては、ポリアミドイミド等からなる自己潤滑層が例示される。又、上塗層4の代りに、非耐熱性の、融着層やナイロン層を設けてもよい。
【0034】
図1の例のような耐熱絶縁電線を用いてヒュージングを行う工程は、基本的には従来のヒュージングと同様である。例えば、図3に示すような工程により前記の耐熱絶縁電線を端子等に良好に結線することができる。すなわち、端子のリード11のフック部に、前記の本発明の耐熱絶縁電線を掛合し、図3に示す電極13aと13b間に電流を流すとともに、電極13aによりフック部を押圧することにより、図3(b)に示すようにフック部を変形させ、通電による発熱により導線15とリード11を融着し、接合、結線する。
【0035】
従来の耐熱絶縁電線を用いた場合は、通電による発熱の際に、絶縁皮膜の剥離を充分に行うことができなかったが、本発明の耐熱絶縁電線を用いた場合は、絶縁皮膜の剥離を充分に行うことができ、図3(b)に示すような絶縁皮膜14が剥離された芯線15を容易に形成でき、良好な結線が得られる。
【実施例】
【0036】
実施例1〜3、比較例1〜3
径1.0mmの銅線上に、下記のいずれかの樹脂のワニスであって、樹脂に対して発泡剤セルテトラBHT−PIPE(商品名、永和化成工業製、分解温度350〜375℃)を1重量%添加したワニスを塗布して焼付けを行い、下塗り層を形成し、図1(a)で示されるような断面を有する電線を得た。比較例として、発泡剤を添加しない以外は同様にして、図1(b)で示されるような断面を有する電線を得た。
[樹脂]
ポリイミド(PI):Pyre−ML Wire Enamels RC−5057(商品名、株式会社I.S.T.製)
ポリアミドイミド(PAI):HI−405H−6(商品名、日立化成株式会社製)
ポリエステルイミド(EI):Isomid 40SM−45(商品名、日触スケネクタディ化学株式会社製)
【0037】
得られた電線について、図3で示すような工程でヒュージングを行い、リードを結線した後、その接触抵抗を測定した。なお、ヒュージングは2段通電法で行い、1.50kAで0.1秒間通電後、0.1秒間通電を止め、その後さらに2.00kAで0.15秒間通電した。この条件の操作を5回繰返し、それぞれについて接触抵抗を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1中では、ヒュージングの結果は以下の基準で表示されている。又、外観が滑らかで微発泡が見られないものを、外観「良」とした。
○: 接触抵抗がほぼ0Ω
△: 接触抵抗が0.1Ω以上
×: 接触抵抗が∞
【0038】
【表1】

【0039】
実施例4〜6、比較例4〜6
径1.0mmの銅線上に、前記のPI、PAI、EIのいずれかの樹脂のワニスであって、樹脂に対して発泡剤セルテトラBHT−PIPE(商品名、永和化成工業製、分解温度350〜375℃)を1重量%添加したワニスを塗布して焼付けを行い、下塗り層を形成した。その後、前記と同じPAIのワニス又は自己潤滑ポリアミドイミド(SLAI)のワニス(PAIワニスの中に低分子量ポリエチレンをブレンドしてなる。)を塗布して焼付けを行い、上塗り層を形成し、図2(a)で示されるような断面を有する電線を得た。比較例として、発泡剤を添加しない以外は同様にして、図2(b)で示されるような断面を有する電線を得た。得られた電線について、実施例1〜3と同様にヒュージングを行い、リードを結線した後、その接触抵抗を測定した。その結果を、実施例1〜3と同じ基準に基づき、表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例7〜9、比較例7〜9
径1.0mmの銅線上に、前記のPI、PAI、EIのいずれかの樹脂のワニスであって、樹脂に対して発泡剤セルテトラBHT−PIPE(商品名、永和化成工業製、分解温度350〜375℃)を1重量%添加したワニスを塗布して焼付けを行い、下塗り層を形成した。その後、前記と同じPI又はPAIのワニスを塗布して焼付けを行い、中塗り層を形成した。さらにその後前記と同じSLAIのワニスを塗布して焼付けを行い、上塗り層を形成し、図3(a)で示されるような断面を有する電線を得た。比較例として、発泡剤を添加しない以外は同様にして、図3(b)で示されるような断面を有する電線を得た。得られた電線について、図3で示すような工程でヒュージングを行い、リードを結線した後、その接触抵抗を測定した。その結果を、実施例1〜3と同じ基準に基づき、表3に示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表1〜表3に示されるように、発泡剤を用いた本発明例(実施例)では、いずれの樹脂を用いた場合でも良好なヒュージング性が達成されている。一方、発泡剤を用いない比較例では、ヒュージング性が悪い。すなわち、表1〜表3から、本発明により、優れたヒュージング性が達成されることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の耐熱絶縁電線はすぐれたヒュージング性を有し、この耐熱絶縁電線を用いた本発明のヒュージング方法により、耐熱絶縁電線と端子等との良好な結線を得ることができるので、モータ巻線とコンミテータの溶接、トランスやリレーの巻線と金属端子の溶接等に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の耐熱絶縁電線の断面を模式的に示す模式図である。
【図2】従来の耐熱絶縁電線の断面を模式的に示す模式図である。
【図3】ヒュージングの一例の工程を示す概念工程図である。
【符号の説明】
【0046】
1、6、15 芯線
2、7、14 絶縁皮膜
3、8 下塗層
5、8’ 中塗層
4、9 上塗層
10 発泡剤
11 リード
12 絶縁電線
13a、13b 電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線の外周に耐熱性の絶縁材からなる絶縁皮膜を形成してなる耐熱絶縁電線であって、前記絶縁皮膜が、発泡剤を含有することを特徴とする耐熱絶縁電線。
【請求項2】
前記発泡剤が、350℃以上で450℃以下の分解温度を有することを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁皮膜が、ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐熱絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁皮膜が、2以上の層を有し前記発泡剤が導体に近い層に含有されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐熱絶縁電線。
【請求項5】
ポリイミド、ポリアミドイミド及びポリエステルイミドから選ばれる少なくとも1種の高分子からなる層が、前記発泡剤を0.1〜10重量%含有することを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の耐熱絶縁電線。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の耐熱絶縁電線を用いることを特徴とするヒュージング方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−31980(P2006−31980A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205360(P2004−205360)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(302068597)住友電工ウインテック株式会社 (22)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】