説明

耐熱耐電用作業服

【課題】 耐熱性、耐薬品特性を改良し、高温の過酷な作業環境においても強度低下やその他特性の劣化が少ない耐熱耐電作業服を提供すること。
【解決手段】ポリフェニレンサルファイド繊維及び制電性マルチフィラメント繊維が少なくとも一部に必須成分として用いられてなる織編物を含んで構成された作業服であって、前記必須成分以外の構成繊維として、綿、獣毛、ポリエステル、ポリアミド、及びポリアクリロニトリルから選択される少なくとも1種が用いられてなり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維の(200)面の見掛けの結晶サイズが30Å以上であり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維が小角X線散乱(Small Angle X−ray Scattering)によって4点干渉像を示す耐熱耐電用作業服。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性、難燃性に優れた軽量で柔軟な耐熱耐電用作業服に関し、更に詳しくには電力供給業、ガス供給業、熱供給業など各種産業向けや各種官需向け、鉄道や道路など各種公共機関向けで使用する作業服に有用な耐熱耐電用作業服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から各種製造業、エネルギー供給業や官公庁向け等で各種作業服が使用されている。該作業服は着用している作業者の安全を守る為、電気絶縁性や耐薬品性、耐熱性、難燃性が特に優れたものであることが望まれる。特にパラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維などが耐熱性や耐燃焼性等に優れた素材として広く当該用途に用いられている(例えば、特許文献1〜3参照。)。これらは耐熱性、耐燃焼性に優れたメタ系アラミド繊維を用いてなる作業服であるが、メタ系アラミド繊維は高温高圧時の耐加水分解性や高温時の耐薬品性が決して十分なものではなく過酷な条件下での強度低下が懸念されている。
【特許文献1】特開2001−214318号公報
【特許文献2】特開2002−115106号公報
【特許文献3】特開2002−339122号公報
【0003】
また各種化学用作業服も多数上市、提案されているが表面を樹脂コートしたり、ラミネートした素材が多く散見される。これらの方法によると有害ガスや薬剤等に対する高いバリア性を保持することが可能であるが、繰返し使用によって強い屈曲変形を受ける部分や摩擦を受ける部分が剥離、脱落し易く、作業環境をかえって汚染することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は高温時の耐薬品特性を改良すると共に強度低下を低減させ十分な強度を保持する作業服の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明の以下の構成よりなる。
1.ポリフェニレンサルファイド繊維及び制電性マルチフィラメント繊維が少なくとも一部に必須成分として用いられてなる織編物を含んで構成された作業服であって、前記必須成分以外の構成繊維として、綿、獣毛、ポリエステル、ポリアミド、及びポリアクリロニトリルから選択される少なくとも1種が用いられてなり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維の(200)面の見掛けの結晶サイズが30Å以上であり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維が小角X線散乱(Small Angle X−ray Scattering)によって4点干渉像を示すことを特徴とする耐熱耐電用作業服。
2.織編物が、ポリフェニレンサルファイド繊維が短繊維(ステープルファイバー)であり、綿、獣毛、ポリエステル短繊維、ポリアミド短繊維、及びポリアクリロニトリル短繊維から選択される少なくとも1種を用いて、ポリフェニレンサルファイド繊維を略均一に被覆、複合紡績した糸条が用いられてなるか、又は、ポリフェニレンサルファイド繊維が長繊維(マルチフィラメント)であってポリエステル長繊維及び/又はポリアミド長繊維とを組合せて略均一に被覆、複合してなる糸条が用いられてなり、制電性マルチフィラメントがポリエステル系重合体を溶融複合紡糸してなるものであり、織編物中でストライプ状若しくはチェック状に等間隔で配されてなることを特徴とする上記第1に記載の耐熱耐電用作業服。
3.織編物が織物であり、前記織物一完全組織の経糸及び/又は緯糸の浮き数の最大値が1本以上5本以下、ポリフェニレンサルファイド繊維が紫外線吸収剤を含有してなり、織物総重量に対するポリフェニレンサルファイド繊維の混率が10%以上75%以下であることを特徴とする上記第1又は第2に記載の耐熱耐電用作業服。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば高温作業における耐熱性、耐薬品性に優れた作業服を得ることが可能となる。特に硫酸やその他強酸、苛性ソーダやその他強アルカリ、有機溶剤等々のミスト付着によっても強度低下が少ない為、作業服の耐久性が向上する他、作業時の作業服破損等による事故を防止することが出来る。更にはポリフェニレンサルファイド繊維の特徴である、低熱伝導性、耐アーク性、高絶縁性により各種作業の安全性をより向上させることが可能になるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、メタ系アラミド繊維やポリイミド繊維の代りにポリフェニレンサルファイド繊維を用いて高温高圧時の耐加水分解性や耐薬品特性(ガス及び液体)を向上させるものである。ポリフェニレンサルファイド樹脂はエンジニアリングプラスチックスとして広範に使用されており繊維状材料としてもバグフィルターなどに好適に使用されているが、紫外線照射による変色、強度低下をいかにして解決するかが課題となっていた。そこで紫外線吸収剤等の薬剤を吸尽法等によって処方せしめるが、変色や強度低下を完全に抑制することは困難であり、製織編組織や糸条の複合方法を適宜調整し可能な限り表面に露出しない形態にする必要がある。
【0008】
具体的にはポリフェニレンサルファイド繊維が複合糸の芯部を形成するような複合方式を採用することが望ましくコアスパン方式やコンベンショナルカバリング方式、MJSやMVSなどの革新複合紡績、ポリエステル長繊維やポリアミド長繊維その他長繊維(マルチフィラメント)を交撚したり、長繊維を電気解繊した後に複合紡績する方法、長繊維でカバリング(被覆)する方法等々、公知の複合方法を用いて組合せることが可能である。ポリフェニレンサルファイド繊維は長繊維(マルチフィラメント)、短繊維(ステープルファイバー)の何れの形態であってもよいが他繊維との複合等を考慮すると短繊維(ステープルファイバー)の形態がより好ましい。該ポリフェニレンサルファイド繊維の断面形状は丸断面、三角断面、偏平断面、多葉断面など公知の断面が採用され、中実断面のみならず中空断面も含まれる。強度保持率、耐加水分解性等の物性面を考慮すると丸中実断面が好ましい。該ポリフェニレンサルファイド繊維以外の使用繊維としては綿、獣毛、ポリエステル短繊維、ポリアミド短繊維、ポリアクリロニトリル短繊維の中から選択される少なくとも1種を用いることが可能である。
【0009】
本発明の耐熱耐電用作業服に供するポリフェニレンサルファイド繊維は(200)面の見掛けの結晶サイズが30Å以上であることが好ましく、より好ましくは40Å以上であり、小角X線散乱(Small Angle X−ray Scattering)によって4点干渉像を示すことが好ましい。広角X線回折(Wide Angle X−ray Diffraction)により求めた(200)面の見掛けの結晶サイズが大きくなるほど力学的性能やその他性能の面で好ましい。30Å未満の範囲では結晶サイズが微小に留まり、加水分解による力学的性能低下やその他耐薬品性、耐熱性等が十分なものにならない。但し、大きな結晶サイズのものは高温で長時間の熱処理をして得るなるので、通常50Å以下である。また小角X線散乱によって4点干渉像を示すことは即ち繊維軸方向に十分に分子配向していることを示すものである。4点干渉像が得られることによって溶融紡糸時の溶融ポリマーの配向結晶化が促進され、中心軸と流線の分子配向がより均整化(結晶軸が繊維軸方向に向いている)することにより強度的にも好ましいものとなる。4点干渉像が得られない低配向度の場合は十分な強度を得づらいばかりか、耐薬品性や耐熱性その他要求性能を満足しにくくなり好ましくない。4点干渉像以外の好ましくない形態は楕円環状散乱像や点対称の層線状2点散乱像などである。楕円環状散乱像では繊維軸方向への配向結晶化が殆ど促進されておらず、力学的強度に乏しくなるので好ましくない。層線状2点散乱像では、ある程度配向結晶化されているが、延伸が不完全であり、中心軸と流線の分子配向の程度が異なり、中心軸部では繊維軸方向への分子配向であるが、流線部は流線のほぼ接線方向に結晶軸がずれた状態となっており、繊維の中心部と繊維の外層部では状態が異なっており。力学的特性面で必ずしも十分なものとは言えず、実使用を考慮すると好ましいとは言えない。上記のような理由で4点干渉像が最も好ましい形態であると言える。
【0010】
ここで重要となる技術は耐光堅牢性に乏しいポリフェニレンサルファイド繊維を略均一に被覆する技術(芯鞘構造とし芯部にポリフェニレンサルファイド繊維を配する)である。上記のようにポリフェニレンサルファイド繊維は優れた性能を有しているが紫外線等による影響で変色することが問題となっており、表面への露出を可能な限り抑制し、尚かつ紫外線吸収剤等を併用することによって変色を防止することが望ましい。紫外線吸収剤等をポリフェニレンサルファイド繊維の原料中に練込む方法も好ましい実施形態である。
【0011】
本発明の耐熱耐電用作業服は公知の方法によって縫製することが可能であり、縫製品の形態についても特に限定を加えるものではない。ポリフェニレンサルファイド繊維は表面抵抗率1×1012Ωを遥かに超過する絶縁物質であり非常に帯電しやすいので着用時の静電気を抑制する為に制電性マルチフィラメントを部分的に用いた制電裏地や制電樹脂加工を施した制電裏地を使用することも好ましい。制電性マルチフィラメント糸とは低融点金属又はその金属酸化物やカーボンなど電気の良導体をポリエステルやポリアミドなどの汎用ポリマーと複合紡糸してマルチフィラメントの形状にしたものであり、断面形状はサイドバイサイド複合や偏芯シースコア複合等、公知の複合形態を採用することが可能であり、カネボウ合繊社製ベルトロンやクラレ社製クラカーボ等が例示される。特にポリエステル系重合体を溶融複合紡糸して成る制電性マルチフィラメント糸が染色工程その他の熱的安定性を考慮すると有効である。
【0012】
該制電性マルチフィラメント糸は単独若しくはポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸、又は複合紡績による芯鞘構造糸等として配することが可能である。配置の方法としてはストライプ状若しくはチェック状にほぼ等間隔で配することが布帛全体の制電性を考えると好ましい。配置間隔は特に限定するものではないが、大略0.5〜5.0cmが好ましく採用される。制電性マルチフィラメント自体はその他組織を構成する糸条強度対比で一般的にやや弱い為、引裂強度その他力学的性能に乏しく価格がやや高価である為、必要以上に配することはかえって好ましくなく、使用環境や使用方法、価格等に応じて適宜調整することが望ましい。
【0013】
本発明の耐熱耐電用作業服に供する布帛は公知の製編織技術を用いて実施することが出来る。作業中の蒸れ感を抑制すべく腋部などに経編メッシュ等を部材として用いることも出来る。布帛、防護服の耐久性や作業者の安全性を考慮すると織物、より好ましくは高密度織物とすることが望ましい。織物の組織についても何ら限定を加えるものではないが耐摩擦特性を考慮すると2/2綾、2/1綾、3/1綾、平織やその変形組織等が好ましく例示される。また必要に応じ撚糸回数(撚係数)を上げて各種性能を高めることも可能である。
【0014】
織物とした場合、織物一完全組織の経糸及び/又は緯糸の浮き数の最大値は1本以上5本以下、より好ましくは3本以下とすることがピリング、スナッグ等の消費性能を考慮すると好ましい範囲である。浮き数の最大値が5本を超過するとスナッグピルが生じ易くなり好ましくない。
【0015】
本発明の耐熱耐電用作業服は必要に応じて難燃・防炎加工剤、耐候性向上剤(紫外線吸収剤)、撥水加工剤、撥油加工剤、抗菌・制菌加工剤その他の機能薬剤をパッドスチーム法、パッドドライ法、スプレー法、吸尽法等の公知の方法で処理することが出来る。特に耐候性向上剤(紫外線吸収剤)の併用は紫外線照射により変色し易いポリフェニレンサルファイド繊維の変色を抑えて耐久性を保持するばかりでなく製鉄工場や溶接現場などのアーク火花による皮膚の「アーク焼け」を抑制する効果が期待出来る。
【0016】
染色についても高圧液流染色、気流染色、超臨界二酸化炭素染色等のバッチ浸染、パッドスチーム、パッドドライ等による連続浸染、ロータリースクリーンやフラットスクリーン、インクジェット等による捺染等々、目的や用途に応じて適宜選定、設定することが出来る。上記機能薬剤を吸尽法によって付与する場合は浸染との同浴処理又は二浴処理として処方することが出来る。機能加工剤を各種パッディング法で処方する場合は処理に供する布帛を乾燥状態でマングルに導入することが望ましい。該布帛が湿潤状態であれば持込水分によってマングル中の処理液濃度が経時変化し、機能剤を均一に処方することが出来ない。また必要に応じてプラストカレンダー、エンボスカレンダー、サンフォライズ、カムフィット等の処理を施すことも出来る。
【0017】
ポリフェニレンサルファイド繊維の混率は10%以上75%以下、より好ましくは20%以上60%以下の範囲でその使用環境や使用条件等に応じて適宜選定すればよい。該ポリフェニレンサルファイド繊維の混率が10%未満の低混率であれば布帛自体の耐熱性、耐薬品性に乏しく、75%を越える高混率では耐光堅牢性に乏しいポリフェニレンサルファイド繊維を完全に被覆することが出来ず、加水分解による強度低下や変色が生じ好ましいものにはならない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に従い本発明を更に詳細に説明する。尚、本文中及び実施例中の特性値は下記評価方法によるものである。また言うまでもないが本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0019】
(複屈折率)
偏光顕微鏡(ニコン社製POH型)、ベレックコンペンセータ(ライツ社製)、スペクトル光源用起動装置(Na光源、東芝社製SLS−3−B型)を用い、単繊維試料を繊維軸に対して45°の角度に切断したものを測定試料とし、偏光顕微鏡の載物台上で前記切断面が上になるように調節し、アナライザを挿入し暗視野とした後、コンペンセータを30にして縞数を数える(n個)。コンペンセータを右螺子方向に廻して試料が最初に一番暗くなるコンペンセータの目盛a、コンペンセータを左螺子方向に廻して試料が最初に一番暗くなるコンペンセータの目盛bをそれぞれ測定する(何れも最小目盛の1/10まで読む)。更にコンペンセータを30に戻してアナライザを外し、試料の直径dを測定し、下記式に基づき複屈折率(Δn)を算出する(但し、測定回数20回の算術平均値を測定値
とする)。
Δn=T/d (T=nλ0+ε)
λ0=589.3mμ(但しε;ライツ社のコンペンセータの説明書のC/1000とiより求める。i;(a−b)(コンペンセータの読みの差))
【0020】
(見かけの結晶サイズ)
リガク社製X線回折装置(リント2500システム)を用いて赤道及び子午線方向の回折プロファイルを測定した。装置は出力40kV×20mAで運転し銅回転ターゲットからCuKα線を発生させた。繊維試料は試料台に取り付けて広角透過法にて測定した。得られたピークプロファイルの回折位置・半値幅を精度良く評価する為、ガウス関数とローレンツ関数の合成を用いてカーブフィッティングを行なった。見かけの結晶サイズACSは次式を用いて算出した。
ACS=0.9λ/βcosθ
ここでλはX線の波長、βは半値幅(ラジアン)、2θは回折角である。プロファイルから読んだ半値幅β1に対してビームそのものの拡がりβ0に対する補正は次式を用いて実施した。
β=(β12−β021/2
【0021】
(小角X線散乱)
測定に供するX線はリガク社製ローターフレックスRU−300型を用いて発生させる。ターゲットとして銅対陰極を用い、出力40kV×26mAのファインフォーカスで運転する。光学系は点収束カメラを用い、X線はニッケルフィルターを用いて単色化する。検出器は富士写真フィルム社製イメージングプレート(FDL UR−V型)を用いる。試料と検出器の間は200mm〜350mmの間の適当な距離でよい。空気などからの妨害バックグラウンド散乱を抑える為、試料と検出器の間はヘリウムガスを充填する。露光時間は2時間〜24時間である。イメージングプレート上に記録された散乱強度信号の読み取りは富士写真フィルム社製デジタルミクログラフィー(Pixsystem)を用いる。
【0022】
(防炎性能)
JIS L1091 8.1.1 A−1法(45°ミクロバーナー法)記載の方法に準じて評価を実施した。
【0023】
(引裂強度)
JIS L1096 8.15.5 D法(ペンジュラム法)記載の方法に準じて評価を実施した。
【0024】
(表面抵抗)
IEC 61340−5−1 A.3 記載の方法に準じて評価を実施した。評価環境は温度23℃、湿度50%RHである。表面抵抗計は三菱化学社製Hiresta Up MCP−HT450型を使用、印加電圧100Vで評価を実施した。
【0025】
(実施例1)
ポリフェニレンサルファイド繊維として東洋紡績社製ポリフェニレンサルファイド短繊維プロコン(R)2.2dtex38mmカットの丸断面糸を用いた。該ポリフェニレンサルファイド繊維の力学的性能は破断強度4.9cN/dtex、破断伸度33.0%であり、複屈折率(Δn)は2.35、見掛けの結晶サイズは42.0Åであり、小角X線
散乱像は4点干渉像を示すものであった。該ポリフェニレンサルファイド短繊維を単独で用いカード工程、コーマ工程を経た後、高配向度のロービングとし、難燃ポリエステル短繊維(東洋紡績社製、ハイム(R)、2.2dtex38mmカット丸断面糸)のロービングでラッピング(被覆)するように組合せて精紡工程に投入し芯鞘構造紡績糸(英式綿番手30番単糸、197デシテックス相当)を得た。該紡績糸を2本引き揃えて紡績撚とは反対方向に上撚挿入し英式綿番手で30番双糸(実質400デシテックス相当)を得た。
両者の混率は重量比でポリフェニレンサルファイド繊維:難燃ポリエステル繊維が30:70である。得られた複合紡績糸30番双糸を織物の経緯双方に用い、ポリエステル制電糸(クラレ社製クラカーボ)28dtex2フィラメントとポリエステルマルチフィラメント仮撚加工糸167デシテックス48フィラメントの合撚糸を経緯に各2.5cm間隔にグリッド状(チェック)に配して平織組織に製織し織物生機を得た。
【0026】
得られた生機について両面をガス毛焼した後、浴温95℃のオープンソーパーを通し精練を実施した後、表面温度120℃のシリンダードライヤーで乾燥した。その後、雰囲気温度190℃のピンテンターで布目矯正並びに拡布セットを実施した。得られた織物を分散染料、クロロベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を配合した染液を調製し、ポリエステルサイドの分散染めを処理温度125℃で実施(紫外線吸収剤を同時吸尽)し、フッ素系の撥水加工剤をパッドスチーム法で付与した後、裏面カレンダー処理を施し雰囲気温度160℃のピンテンターで仕上げセットを実施した。得られた織物重量に対するポリフェニレンサルファイド繊維の混率は28%であった。
【0027】
得られた織物の特性は表1に示す如くであり強度的にも防炎性能的にも作業服として十分なものであった。生地の裏地として制電性ポリエステル繊維をストライプ状に配したポリエステルタフタを使用し2ピースの作業服として縫製した。得られた作業服は仕立て映えし強度的にも十分なものとなった。また高温環境での作業や薬品作業にても強度低下が少なく過酷環境作業での作業衣として好ましいものとなった。
【0028】
(比較例1)
ポリフェニレンサルファイド繊維の延伸倍率を下げて3.3dtex38mmカットの丸断面糸を用いた。該ポリフェニレンサルファイド繊維の力学的性能は破断強度2.8cN/dtex、破断伸度50.0%であり、複屈折率(Δn)は1.55、見掛けの結晶
サイズは25.0Åであり、小角X線散乱像は4点干渉像が得られなかった。
該ポリフェニレンサルファイド短繊維を用いて実施例1と同様の方法で芯鞘構造紡績糸を得た。該ポリフェニレンサルファイド繊維の残留伸度が高いため、カード工程その他の工程通過性は悪く、得られた芯鞘構造紡績糸のネップやスラブ等の斑が多く、糸条外観品位としては好ましいものではなかった。
【0029】
得られた芯鞘構造加工糸を用いた他は実施例1と同様の方法で染色加工布を得た。得られた織物重量に対するポリフェニレンサルファイド繊維の混率は28%であった。また特性は表1に示す如くであり、防炎特性としては難燃ポリエステル短繊維の効果で満足し得るものとなっているが、引裂強力その他物理的特性が不足しており作業衣として好ましいものではなかった。また織物表面品位も使用した芯鞘構造紡績糸の品位不良の影響を受け、外観品位として好ましいものにはならなかった。
【0030】
(比較例2)
ポリフェニレンサルファイド短繊維とポリエステル短繊維の混率を重量比率として80:20にした以外は実施例1同様の方法で染色加工布を得た。得られた織物重量に対するポリフェニレンサルファイド繊維の混率は78%であった。得られた織物の特性は表1に示す如くであり、仕立て映えがするものに仕上がっていたがポリエステル短繊維によってポリフェニレンサルファイド繊維が完全に被覆されておらず紫外線吸収剤を併用したにも係らず、紫外線による変色を生じるものであり、作業服として好ましいものにはならなかった。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、高温高圧時の耐加水分解性や高温時の耐薬品性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維を構成繊維の少なくとも一部に使用し過酷な条件下でも十分な強度を与える。また他繊維との複合によってポリフェニレンサルファイド繊維を略均一的に被覆すると共に紫外線吸収剤を併用し、紫外線照射による変色及び加水分解による強度低下を抑制する。また制電性フィラメント糸を配することによってポリフェニレンサルファイド繊維による布帛の帯電を抑制する。前記のような構成とすることで、高温作業における耐熱性、耐薬品性に優れた作業服を得ることが可能となる。酸、アルカリ、その他薬剤による耐久性に優れ、高温時の曝露による強度劣化も小さく留まる為、電力供給業、ガス供給業、熱供給業その他ユーティリティ−供給業、製鉄業、造船業、その他製造業、鉄道事業、バス事業、航空事業、その他運送事業等の現場作業服として好適なものを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド繊維及び制電性マルチフィラメント繊維が少なくとも一部に必須成分として用いられてなる織編物を含んで構成された作業服であって、前記必須成分以外の構成繊維として、綿、獣毛、ポリエステル、ポリアミド、及びポリアクリロニトリルから選択される少なくとも1種が用いられてなり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維の(200)面の見掛けの結晶サイズが30Å以上であり、前記ポリフェニレンサルファイド繊維が小角X線散乱(Small Angle X−ray Scattering)によって4点干渉像を示すことを特徴とする耐熱耐電用作業服。
【請求項2】
織編物が、ポリフェニレンサルファイド繊維が短繊維(ステープルファイバー)であり、綿、獣毛、ポリエステル短繊維、ポリアミド短繊維、及びポリアクリロニトリル短繊維から選択される少なくとも1種を用いて、ポリフェニレンサルファイド繊維を略均一に被覆、複合紡績した糸条が用いられてなるか、又は、ポリフェニレンサルファイド繊維が長繊維(マルチフィラメント)であってポリエステル長繊維及び/又はポリアミド長繊維とを組合せて略均一に被覆、複合してなる糸条が用いられてなり、制電性マルチフィラメントがポリエステル系重合体を溶融複合紡糸してなるものであり、織編物中でストライプ状若しくはチェック状に等間隔で配されてなることを特徴とする請求項1に記載の耐熱耐電用作業服。
【請求項3】
織編物が織物であり、前記織物一完全組織の経糸及び/又は緯糸の浮き数の最大値が1本以上5本以下、ポリフェニレンサルファイド繊維が紫外線吸収剤を含有してなり、織物総重量に対するポリフェニレンサルファイド繊維の混率が10%以上75%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱耐電用作業服。

【公開番号】特開2006−28655(P2006−28655A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205561(P2004−205561)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】