説明

耐熱衣料資材用部材

【課題】
高温物を取り扱う際にポリマーの溶融によるやけど等を生ずることはなく、さらには火花や高温物が接しても穴が空くことはない高度な難溶融性を有し、かつ着用時の快適性を兼ね備える耐熱衣料資材用部材を得ること。
【解決手段】
ポリスルホン繊維を含む繊維構造物からなるJIS A−1323のA種試験に合格する耐熱衣料資材用部材であって、該ポリスルホン繊維の融解熱量が0J/g以上15J/g以下であるとともに、下記の項目を満たすことを特徴とする耐熱衣料資材用部材。
1.該繊維構造物中に含まれる該ポリスルホン繊維が30重量%以上100重量%以下
2.該繊維構造物のJIS K−7201に基づいて測定される限界酸素指数(LOI値)が22以上100以下
3.該繊維構造物の温度30℃湿度90%雰囲気下での吸湿率(MR2)と、温度20℃湿度65%雰囲気下での吸湿率(MR1)との差である吸湿率差(ΔMR=MR2−MR1)が2重量%以上10重量%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温物を取り扱う際にポリマーの溶融によるやけど等を生ずることがない耐熱衣料資材用部材に関するものである。さらに詳しくは、本発明は高温物を取り扱う際にポリマーの溶融によるやけど等を生ずることはなく、さらには火花や高温物が接しても穴の空くことのない高度な難溶融性を有し、かつ着用時の快適性を兼ね備える耐熱衣料資材用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱衣料資材用部材は、消防作業、製鉄作業、溶接作業、レーシング等といった炎や高温物に曝される危険の大きい作業において、作業者の身を保護することを目的とすることから、耐熱衣料資材用部材の主要部分を構成する繊維は優れた難溶融性等の特性を有する必要があり、例えば芳香族ポリアミド系繊維等が用いられる。
【0003】
ところが、例えば、メタアラミド繊維”ノーメックス”(デュポン社製登録商標)では430℃付近で溶融)を例に挙げると、疎水性繊維であるために吸湿性がほとんどないことから、着用時の快適性は低く、また高温では軟化、溶融、分解するために、溶接作業等において飛び散る火花や溶融金属のような高温物等が接すると、穴が空くという課題があった。
【0004】
そのため、使用する際は他の素材と組み合わせることで、着用時の快適性と耐熱性を両立させる場合が多い。
【0005】
例えば、芳香族ポリアミド系繊維を耐熱衣料資材用部材として用いた特許文献1の防護手袋では、手と直接接触する内層に毛繊維からなる層、掌側の外層にシリコーンコンパウンドからなる層、手の甲側の外層に芳香族ポリアミド系繊維からなる層の3層で構成され、毛繊維層で吸湿性、シリコーンコンパウンドと芳香族ポリアミド系繊維で耐熱性、難溶融性を付与している。
【0006】
しかし、特許文献1の防護手袋は吸湿性と耐熱性、難溶融性を両立させるために、3層構造である必要があり、防護手袋は重くなり、風合いは硬くゴワゴワする。
【0007】
風合いの改善に対し、特許文献2では、伸縮性を付与することを提案している。
【0008】
具体的には、弾性繊維を芯糸とし、鞘糸にパラ系アラミド繊維とした被覆糸で構成される防護衣料を提案している。
【0009】
ところが、この構成では吸湿性は付与できないため、着用時の快適性は付与できない。
【0010】
すなわち、耐熱衣料資材用部材としての難溶融性と吸湿性、風合いを考慮した着用時の快適性を両立している耐熱衣料資材用部材は得られていないのが現状である。
【特許文献1】特表平06−511046号公報
【特許文献2】特開2003−193314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
火花や高温物が接しても穴が空くことのない高度な難溶融性を有し、かつ着用時の快適性を兼ね備える耐熱衣料資材用部材を得ることである。
【0012】
具体的には、これまで他の素材との組み合わせでのみ発現できた吸湿性と難溶融性の両立を1つの素材で達成することで、耐熱衣料資材の軽量化、風合い向上を達成できる耐熱衣料資材用部材を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはこれらの課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明はポリスルホン繊維を含む繊維構造物からなるJIS A−1323のA種試験に合格する耐熱衣料資材用部材であって、該ポリスルホン繊維の融解熱量が0J/g以上15J/g以下であるとともに、下記の項目を満たすことを特徴とする耐熱衣料資材用部材である。
【0014】
1.該繊維構造物中に含まれる該ポリスルホン繊維が30重量%以上100重量%以下
2.該繊維構造物のJIS K−7201に基づいて測定される限界酸素指数(LOI値)が22以上100以下
3.該繊維構造物の温度30℃湿度90%雰囲気下での吸湿率(MR2)と、温度20℃湿度65%雰囲気下での吸湿率(MR1)との差である吸湿率差(ΔMR=MR2−MR1)が2重量%以上10重量%以下
【発明の効果】
【0015】
火花や高温物が接しても穴が空くことのない高度な難溶融性を有し、かつ吸湿性を兼ね備える繊維構造物からなる耐熱衣料資材用部材を得ることは、従来素材のように他の素材と組み合わせなくとも、難溶融性と快適性を両立できることから、軽量かつ良好な風合いを有することができ、高温物等を取り扱う作業時の安全性、快適性が増すことから、意義の大きいものといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリスルホン繊維とは、一般式(−R−SOx−)(ここで、Rはフェニレン基であり、ハロゲン、脂肪族置換基、芳香族置換基のいずれかで置換されていてもよい。分子間のRどうしが互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。脂肪族置換基、芳香族置換基は、任意の官能基により置換されていてもよい。x=1または2)から主として構成されるものである。
【0018】
また、前記一般式において、分子間で架橋していることが好ましい。
【0019】
架橋していることにより、難溶融性はさらに向上する。
【0020】
ここでいう架橋とは、分子間で橋架け構造を形成していることを意味し、繰り返し単位の構造中に含まれる炭素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれかから選ばれる原子どうしが結合して橋架け構造を形成することを意味する。
【0021】
架橋構造は、ポリスルホン繊維の固体NMR分析および示差熱重量(TGA)測定によりその存在を把握することができる。
【0022】
また、一般式(−R−SOx−)(ここで、Rはフェニレン基であり、ハロゲン、脂肪族置換基、芳香族置換基のいずれかで置換されていてもよい。分子間のRどうしが互いに連結して架橋構造を形成していてもよい。脂肪族置換基、芳香族置換基は、任意の官能基により置換されていてもよい。x=1または2)から主として構成されるポリスルホン繊維は、スルホン酸基を有することが好ましい。
【0023】
スルホン酸基の含有量は多いと、親水性が向上してポリスルホン繊維の吸湿性は向上する。しかし、スルホン酸基はポリスルホン分子鎖の切断により生成することから、スルホン酸基の含有量は多すぎると、ポリスルホン繊維の強度は低下する。そのため、スルホン酸基の含有量は0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2重量%以上4.5重量%以下である。
【0024】
スルホン酸基の含有量は、ポリスルホン繊維の固体NMR分析、IR測定、元素分析等により把握することができる。
【0025】
本発明におけるポリスルホンは示差走査熱量計(DSC)での測定において、融解熱量は0J/g以上15J/g以下であり、好ましくは0J/g以上10J/g以下、より好ましくは0J/g以上5J/g以下、特に好ましくは0J/g以上1J/g以下である。
【0026】
融解熱量が小さいことにより、火花や高温物が接触してもポリマーの溶融が起きず、耐熱衣料資材用部材の形状を保持できるのである。
【0027】
ここでDSC測定条件は、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分において、示差走査熱量計を用い、サンプル量5mg〜10mgの範囲内で、温度プログラムを30℃〜500℃(30℃から10℃/分昇温で340℃まで昇温後、2分ホールド、続いて10℃/分降温により30℃まで降温後、2分間ホールドした後、10℃/分で500℃まで再昇温)と設定し、測定した時の融解熱量である。
【0028】
本発明における繊維構造物は、建築工事用シートの溶接及び溶断火花に対する難燃性試験であるJIS A−1323のA種試験に合格するものである。
【0029】
繊維構造物とは、織物編物や不織布、フェルト、紙等の布帛状、綿状等が挙げられる。
【0030】
本発明における繊維構造物を構成する繊維は、ステイプルヤーン、フィラメントヤーン、スプリットヤーン、テープヤーンなどのいずれの形状のものでもよい。
【0031】
また、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他の合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維、無機繊維が混合されていてもよい。
【0032】
合成繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル繊維、”ケブラー”(デュポン社製登録商標)、”ノーメックス”(デュポン社製登録商標)等の芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維”ザイロン”(東洋紡績社製登録商標)等のポリベンザゾール繊維等が挙げられる。
【0033】
半合成繊維としては、ジアセテート、トリアセテート等が挙げられる。
【0034】
再生繊維としては、ビスコースレーヨン、キュプラ等が挙げられる。
【0035】
天然繊維としては、木綿、麻、羊毛等が挙げられる。
【0036】
無機繊維としては、ガラス繊維等が挙げられる。
【0037】
繊度は、特に限定はなく、用途、目的に応じて表面外観、風合い等を考慮して適宜選択すればよい。
【0038】
また、目付は特に限定はなく、用途、目的に応じて表面外観、風合い等を考慮して適宜選択すればよい。
【0039】
本発明における繊維構造物中に含まれるポリスルホン繊維の含有量は30重量%以上100重量%以下である。
【0040】
混合する繊維の種類によるが、火花や高温物の接触時にはポリスルホン繊維が炭化して形状を保持する必要があることから、ポリスルホン繊維の含有量は多いほど好ましく、具体的には40重量%以上100重量%以下、より好ましくは50重量%以上100重量%以下である。
【0041】
本発明の耐熱衣料資材用部材は、JIS K−7201に基づいて測定される限界酸素指数(LOI値)が22以上100以下である。
【0042】
難燃性の指標であるLOI値は大きいほど燃えにくいことを示すことから、LOI値の範囲は23以上100以下がより好ましく、さらに好ましくは25以上100以下である。
【0043】
本発明の耐熱衣料資材用部材に用いる繊維構造物は、温度30℃湿度90%雰囲気下での吸湿率(MR2)と、温度20℃湿度65%雰囲気下での吸湿率(MR1)との差である吸湿率差(ΔMR=MR2−MR1)が2重量%以上10重量%以下である。
【0044】
本発明に用いるポリスルホン繊維では、ポリマー中のスルホン酸基含有量が多いほど高い吸湿率差(ΔMR)を示す。
【0045】
吸湿率差(ΔMR)は高いほど快適であるが、高すぎるとポリスルホン繊維の強度は低下する。よって、吸湿率差(ΔMR)は好ましくは3重量%以上10重量%以下であり、より好ましくは4重量%以上10重量%以下である。
【0046】
吸湿率は、絶乾した測定物を上記如きの雰囲気下に24時間放置し、得られた測定物の重量を絶乾状態からの重量増分として%表示したものである。
【0047】
本発明の耐熱衣料資材用部材に用いる繊維構造物は、1重量%以上100重量%以下の残存炭化物量を有することが好ましい。
【0048】
残存炭化物量は多いほど火花や高温物接触時のポリマーの炭化量は多くなり、JIS A−1323のA種試験に合格し易くなることから、より好ましくは5重量%以上100重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以上100重量%以下である。
【0049】
残存炭化物量は、例えば、示差熱重量(TGA)測定において、DTG−50(島津製作所)を用い、窒素雰囲気下、サンプル量約1mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラム:30℃から900℃まで10℃/分で昇温した時のTGAカーブより、熱重量変化を測定することで、算出できる。
【0050】
また、本発明におけるポリスルホン繊維の結晶化度は30%以上100%未満であることが好ましい。
【0051】
結晶化度は高いほどポリスルホン繊維の応力は向上することから、より好ましくは35%以上100%未満であり、さらに好ましくは40%以上100%未満である。
【0052】
ここで結晶化度とは、広角X線回折の測定において観測される、全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比(%)を意味し、例えば、広角X線回折装置(RINT2100:リガク)を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にて、試料を測定した時の結晶性構造に由来するピーク面積比(%)である。
【0053】
本発明では、耐水性、吸水防止性等を付与する目的で、例えばワックスエマルジョン、樹脂バインダーを含むワックスエマルジョン、フッ素系および/またはシリコーン系化合物のエマルジョン、およびこれらの溶液などを噴霧、または浸漬する方法により撥水処理が施してあってもよい。
【0054】
また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、無機充填剤、顔料等が直接またはバインダー等を介して付与されていてもよい。
【0055】
さらに防水性と透湿性の両立を図る目的で、膜加工を施してあってもよい。
【0056】
ここでいう膜加工とは、微多孔、無孔、両者の積層のいずれかの構造を有するポリマー被膜を繊維構造物上に形成することをいい、コーティングやラミネートによって得るものをいう。
【0057】
被膜を形成するポリマーは、防水性と透湿性を両立できれば特に限定はなく、例えばポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系、アクリル系、シリコーン系等が挙げられる。
【0058】
次に、本発明に用いるポリスルホン繊維の製造方法の一例について述べるが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明に用いるポリスルホン繊維は、例えばポリスルフィドからなる繊維、または繊維構造物を酸化剤を含む液体溶媒存在下で形態を保持したまま酸化反応処理することにより製造する。
【0060】
ここでいうポリスルフィドとは、具体例としては、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィド、ポリ−p−クロロフェニレンスルフィド、ポリ−p−フルオロフェニレンスルフィドなどが挙げられ、中でも好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィド、ポリ−p−トリレンスルフィドであり、さらに好ましいのは、ポリ−p−フェニレンスルフィドである。
【0061】
酸化反応に使用される液体溶媒は、ポリスルフィドからなる繊維、または繊維構造物の形態を保持し、酸化反応処理に用いる酸化剤を均一に溶解するものであれば任意に用いることができる。中でも、有機酸または有機酸無水物または鉱酸を含む液体溶媒であると、酸化反応が効率よく進行することから好ましい。また、液体溶媒は単独・混合溶媒のいずれでもよく、またそれに水が含まれていても、水単独の液体溶媒でも構わない。
【0062】
有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、酪酸などが挙げられ、有機酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などが挙げられ、鉱酸の具体例としては、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸などが挙げられる。好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸、硫酸、塩酸であり、さらに好ましいのは、水、酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸である。中でも特に好ましいのは、水および酢酸および硫酸が混合された液体溶媒である。その混合組成比としてより好ましいのは、水:5〜20重量%、酢酸:60〜90重量%、硫酸:5〜20重量%であり、この範囲の濃度において酸化反応が効率よく進行し、短時間で本発明で規定した融解熱量を有するポリスルホン繊維を得ることができる。
【0063】
酸化反応に使用される酸化剤は、上記液体溶媒に均一に溶解するものであれば任意に用いることができる。中でも無機塩過酸化物または過酸化水素水が酸化反応の効率がよいことから好ましく、無機塩過酸化物または過酸化水素水と、有機酸または有機酸無水物との混合物から形成される過酸あるいは過酸化物であっても構わない。酸化剤として用いる無機塩過酸化物としては、過硫酸塩類、過ホウ酸塩類、過炭酸塩類が好ましく、その具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過炭酸ナトリウムなどが挙げられ、過酸の具体例としては、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過プロピオン酸、過酪酸、過安息香酸、m−クロロ過安息香酸などが挙げられ、中でも好ましいのは、酸化力の強い過硫酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸であり、さらに好ましいのは、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、トリフルオロ過酢酸である。
【0064】
酸化反応処理は、本発明で規定した融解熱量を有するポリスルホンが得られる限り特に制限はないが、使用される液体溶媒の沸点以下の温度で行われることが好ましい。
【0065】
密閉系で処理する場合では、沸点以上の温度では系が加圧になり、酸化剤の分解が促進されたり複雑な設備となる場合が多く、また安全面においても厳しいプロセス管理が必要とされる傾向にある。
【0066】
具体的な酸化反応処理温度は、用いる液体溶媒の沸点により異なるが、液体溶媒の沸点が許容する範囲内において、0℃〜100℃の間、中でも30℃前後〜80℃の間が好ましく、特に40℃〜70℃が好ましい。例えば、液体溶媒が酢酸の場合には50℃〜70℃の酸化反応処理温度が好ましく、この範囲の温度において良好な酸化反応結果を与え、本発明で規定した融解熱量を有し、高いLOI値を示すポリスルホン繊維を得ることができる。一般に、処理時間が同じであれば、処理温度は高いほど酸化反応は激しく進行するため、融解熱量は減少してLOI値は向上し、ポリスルホン繊維の一部が分解してスルホン酸基が生成することで、吸湿率差(ΔMR)は向上する。
【0067】
酸化反応処理時間は、本発明で規定した融解熱量を有し、かつ高いLOI値を示すポリスルホンが得られるよう適宜調整されるものであり、具体的な時間としても反応温度と酸化剤の濃度により左右されるため一概にはいえないが、例えば、液体溶媒が酢酸の場合には、60℃条件下、10重量%の酸化剤濃度において、約2時間である。
【0068】
なお、反応時間は長時間であるほどポリスルホン繊維の一部が分解してスルホン酸基を生成し、吸湿率差(ΔMR)は向上するため、所望の吸湿率差に応じて反応時間を調整する。
【0069】
酸化反応処理におけるポリスルフィドからなる繊維または繊維構造物と酸化剤の含まれる液体溶媒との接触方法は、酸化剤の含まれる液体溶媒中にポリスルフィドからなる繊維または繊維構造物を浸漬する方法、任意の形態で固定化したポリスルフィドからなる繊維または繊維構造物に酸化剤の含まれる液体溶媒を散布または噴霧する方法のいずれも採用できる。
【0070】
ポリスルホン繊維を用いて得られる本発明の耐熱衣料資材用部材とは、エプロン、シャツ、ジャケット、ズボン、消防服等の耐熱作業着等の衣料関係、靴、シューズカバー、ベルト、腹巻き、手袋、腕カバー、フード、帽子、マスク等の衣料資材関係等の形態で好適に用いられる。
【0071】
具体的には、エプロン、シャツ、ジャケット、ズボン、消防服等の耐熱作業着等の衣料関係、靴、シューズカバー、ベルト、腹巻き、手袋、腕カバー、フード、帽子、マスク等の衣料資材関係等に対し、布帛状、フェルト状、綿状の繊維構造物でライナーとして使用したり、手袋等のように部分的に難溶融性を必要とする部位に対し、布帛状、フェルト状の繊維構造物を貼付けて使用することが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これに限定するものではない。
【0073】
[火花に対する穴空き]
JIS A−1323、A種試験において、穴空きの有無を観察した。
【0074】
[DSC測定]
RDC220(セイコー・インスツルメンツ社製)を用い、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分とし、サンプル量5mgを秤量し、温度プログラム:30℃から340℃まで10℃/分で昇温後、2分間ホールドし、340℃から30℃まで10℃/分で降温後、2分間ホールドした後、30℃から500℃まで10℃/分で昇温した時のDSCカーブより、融解熱量を算出した。
【0075】
[限界酸素指数(LOI値)]
JIS K−7201に基づいて測定した。
【0076】
[吸湿率差(ΔMR)測定]
温度30℃、湿度90%における吸湿率(%)をMR2、温度20℃、湿度65%における吸湿率(%)をMR1としたとき、
吸湿率差(ΔMR)= MR2−MR1
とした。なお、吸湿率は、絶乾した測定物を上記如きの雰囲気下に24時間放置し、得られた測定物の重量を絶乾状態からの重量増分として%表示したものである。
【0077】
[示差熱重量(TGA)測定]
DTG−50(島津製作所社製)を用い、窒素雰囲気下、サンプル量を約1mgを精秤し、白金製セル容器上にて、温度プログラム:30℃から900℃まで10℃/分で昇温した時のTGAカーブより、架橋構造の有無の確認、熱重量変化の測定から、残存炭化物量を算出した。
【0078】
[IR測定]
Nicolet Avatar 370(サーモエレクトロン社製)を用い、1102cm-1、1289cm-1、1393cm-1付近のスルホン酸基に起因するピークと、1470cm-1付近のベンゼン環に起因するピークを比較することで、スルホン酸基量を算出した。
【0079】
[広角X線回折測定]
RINT2100(リガク)を用い、Cu線源(λ=1.5406オングストローム)にてX線回折を測定し、観測される全回折ピーク面積に占める結晶性構造に由来するピーク面積比(%)により、結晶化度を算出した。
【0080】
[ポリスルホン繊維]
ポリ−p−フェニレンスルフィド繊維(東レ社製”トルコン”登録商標)を酢酸(関東化学社製)、34.5%過酸化水素(関東化学社製)、95%硫酸(関東化学社製)の含まれる混合液体で60℃、1〜2時間酸化反応処理することで得たポリスルホン繊維を用いて実施例、および比較例に用いる耐熱衣料資材用部材を得た。
【0081】
該ポリスルホン繊維は、固体NMRにより、ポリスルホン分子間で架橋していることを確認した。
【0082】
処理に使用した各薬品の重量比は以下の通りである。
【0083】
ポリ−p−フェニレンスルフィド繊維:11.2
酢酸:62.4
34.5%過酸化水素:20.8
95%硫酸:5.6
実施例1
LOI値40のポリスルホン繊維において、単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm、繊度200デシテックスの紡績糸を用いた目付240g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=8.8)をライナーとして用いて、耐熱エプロンを作製した。
【0084】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱エプロンであった。
【0085】
実施例2
LOI値40のポリスルホン繊維において、単糸繊度4.6デシテックス、100フィラメント、繊度210デシテックスのマルチフィラメントを用いた目付220g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=8.4)をライナーとして用いて、耐熱手袋を作製した。
【0086】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱手袋であった。
【0087】
実施例3
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値47のポリフェニレンスルフィド繊維(単糸繊度2.9デシテックス、単糸長50mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/ポリフェニレンスルフィド繊維=50/50、LOI値41)した繊度220デシテックスの紡績糸を用いた目付250g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=4.3)をライナーとして用いて、耐熱靴を作製した。
【0088】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱靴であった。
【0089】
実施例4
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値95のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維(単糸繊度3.3デシテックス、単糸長50mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/PTFE繊維=50/50、LOI値62)した繊度260デシテックスの紡績糸を用いた目付300g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=4.0)をライナーとして用いて、耐熱ズボンを作製した。
【0090】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱ズボンであった。
【0091】
実施例5
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値20の芳香族ポリアミド繊維(デュポン社製”ノーメックス”登録商標)(単糸繊度4.6デシテックス、単糸長76mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/芳香族ポリアミド繊維=70/30、LOI値34)した目付150g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるフェルト(吸湿率差ΔMR=6.2)をライナーとして用いて、耐熱ジャケットを作製した。
【0092】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱ジャケットであった。
【0093】
実施例6
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値20のアクリル繊維(単糸繊度2.4デシテックス、単糸長70mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/アクリル繊維=70/30、LOI値31)した目付120g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるフェルト(吸湿率差ΔMR=6.5)をライナーとして用いて、耐熱シューズカバーを作製した。
【0094】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱シューズカバーであった。
【0095】
実施例7
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値19の綿(単糸繊度3.5デシテックス、単糸長32mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/綿=50/50、LOI値27)した繊度110デシテックスの紡績糸を用いた目付210g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=6.4)をライナーとして用いて、耐熱耐熱腕カバーを作製した。
【0096】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱腕カバーであった。
【0097】
実施例8
LOI値40のポリスルホン繊維において、単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm、繊度60デシテックスの紡績糸を用いた目付240g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=8.8)をライナーとして用いて、耐熱腹巻きを作製した。
【0098】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱腹巻きであった。
【0099】
実施例9
LOI値40のポリスルホン繊維において、単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm、繊度310デシテックスの紡績糸を用いた目付260g/m2の本発明の耐熱衣料資材用部材であるタフタ(吸湿率差ΔMR=8.7)をライナーとして用いて、耐熱マスクを作製した。
【0100】
着用しても蒸れることなく快適であり、接炎してもポリマーは炭化して穴は空かず、元の形状を保つことのできるJIS A−1323、A種試験を合格する耐熱マスクであった。
【0101】
比較例1
LOI値47のポリフェニレンスルフィドにおいて、単糸繊度2.9デシテックス、単糸長50mm、繊度200デシテックスの紡績糸を用いた目付220g/m2の比較用タフタ(吸湿率差ΔMR=0)をライナーとして用いて、エプロンを作製した。
【0102】
着用すると、蒸れて快適ではなく、接炎するとポリマーは炭化せずに穴が空き、元の形状を保てない、JIS A−1323、A種試験を合格しないエプロンであった。
【0103】
比較例2
LOI値29の芳香族ポリアミド(デュポン社製”ノーメックス”登録商標)(単糸繊度4.6デシテックス、単糸長76mm)において、繊度220デシテックスの紡績糸を用いた目付250g/m2の比較用のタフタ(吸湿率差ΔMR=0)をライナーとして用いて、手袋を作製した。
【0104】
着用すると、蒸れて快適ではなく、接炎するとポリマーは炭化せずに穴が空き、元の形状を保てない、JIS A−1323、A種試験を合格しない手袋であった。
【0105】
比較例3
LOI値40のポリスルホン繊維(単糸繊度4.1デシテックス、単糸長50mm)とLOI値47のポリフェニレンスルフィド繊維(単糸繊度2.9デシテックス、単糸長50mm)を混紡(重量比:ポリスルホン繊維/ポリフェニレンスルフィド繊維=25/75、LOI値42)した繊度250デシテックスの紡績糸を用いた目付240g/m2の比較用のタフタ(吸湿率差ΔMR=2.2)をライナーとして用いて、ズボンを作製した。
【0106】
着用しても蒸れにくいが、接炎するとポリマーは炭化せずに穴が空き、元の形状を保てない、JIS A−1323、A種試験を合格しないズボンであった。
【0107】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、消防作業、製鉄作業、溶接作業、レーシング等といった炎や高温物に曝される危険の大きい作業において、作業者の身を保護する用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルホン繊維を含む繊維構造物からなるJIS A−1323のA種試験に合格する耐熱衣料資材用部材であって、該ポリスルホン繊維の融解熱量が0J/g以上15J/g以下であるとともに、下記の項目を満たすことを特徴とする耐熱衣料資材用部材。
1.該繊維構造物中に含まれる該ポリスルホン繊維が30重量%以上100重量%以下
2.該繊維構造物のJIS K−7201に基づいて測定される限界酸素指数(LOI値)が22以上100以下
3.該繊維構造物の温度30℃湿度90%雰囲気下での吸湿率(MR2)と、温度20℃湿度65%雰囲気下での吸湿率(MR1)との差である吸湿率差(ΔMR=MR2−MR1)が2重量%以上10重量%以下
【請求項2】
該繊維構造物が30℃から900℃まで加熱した場合の示差熱重量(TGA)測定において、1重量%以上100重量%以下の残存炭化物量を示すことを特徴とする請求項1に記載の耐熱衣料資材用部材。
【請求項3】
該ポリスルホン繊維が0.1重量%以上5重量%以下のスルホン酸基を含有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の耐熱衣料資材用部材。
【請求項4】
該ポリスルホン繊維を構成するポリスルホン分子が架橋構造を有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の耐熱衣料資材用部材。
【請求項5】
該ポリスルホン繊維が結晶化度30%以上100%未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の耐熱衣料資材用部材。

【公開番号】特開2006−28677(P2006−28677A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209555(P2004−209555)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】