説明

耐熱金属槽の酸化孔食を最少化するための方法および装置

【課題】ガラス製造システムの構成部品の内側の耐熱性金属からの加速された金属損失を軽減する。
【解決手段】ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属からなる内側層30と、内側層30に隣接したセラミック材料から成るバリヤ層32と、バリヤ層32の少なくとも一部分に隣接する、金属酸化物ガスを形成するための犠牲金属部材50であって、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれる犠牲金属部材50と、を備えてなる槽40であり、内側層30を構成する主成分の金属と犠牲金属部材50を構成する主成分の金属とが同種である。

【発明の詳細な説明】
【優先権主張】
【0001】
本願は、「耐熱金属槽の酸化孔食(oxidation pitting)を最少化するための方法および装置」と題して2006年8月31日付けで提出された米国特許出願第11/513,869号の優先権を主張した出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、溶融ガラスと接触する耐熱金属槽の酸化を、特にガラス製造作業における配管その他の加速された酸化孔食を軽減する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
成形されたガラスは比較的不活性な物質と判断され勝ちである。たしかに、ガラス槽はありとあらゆる工業において容器として役立っていることが多い。しかしながら、ガラス製造工程においては、ガラスは極めて高い温度(或る場合には1600℃を超える)で搬送される。この高い温度においては、ガラス自体が極めて腐食性となり、したがって、配管および容器の耐食システムが必要になる。さらに、高温は多くの物質を急速に腐食させる。特別の関心事は材料の酸化である。腐食的酸化は材料の破壊を招く可能性があり、かつ酸化生成物はガラスを汚染する。このため、ガラスを溶融するための大部分の容器および搬送システムは、白金それ自体、ロジウム、インジウムおよびパラジウムを含むが、それらに限定されない白金族金属およびそれらの合金から作製された槽等の高融点、耐酸化性・耐熱性金属から構成された槽を用いている。白金族金属は酸化し難く、かつ十分に高い融点を有するので、溶融ガラスの容器に関しては魅力的な選択である。
【0004】
しかしながら、一般に採用されている白金等の白金族金属は、それらが利点を有するとしても、極めて高価になり勝ちであり、したがって、この金属を全体的に使用することを制限するあらゆる努力がなされている。一つのコスト削減対策は、構造的強度は他の方法によって保ちながら、耐熱性金属部分を実用可能な限り薄くすることである。例えば、現在のガラス製造作業に用いられている多くの耐熱性金属槽は、「キャスタブル」とも呼ばれるセラミック製ジャケット内に容れられている。このキャスタブルは、いくつかの役目を果たしている。上述のように、キャスタブルは槽に機械的強度を与える。第2に、キャスタブルはまた槽と周囲の雰囲気との間の接触を制限する。白金族金属等の耐熱用途に用いられる大部分の貴金属は、低い温度においては酸化に対して耐性を示すが、高い温度(例えば約1000℃を超える温度)においては、やはり酸化され易い。
【0005】
或る場合には、槽の腐食を防止するための追加の対策が、キャスタブルと槽との間に、槽を覆う初歩的なコーティングを施すことを含む。キャスタブルを用いる場合、上記コーティングはセラミック材料からなることが多い。
【0006】
上述の予防措置にも拘わらず、耐熱性金属槽は、たとえ白金族金属から製作された槽であっても酸化を防止できず、最終的には破損してしまう。破損した耐熱性金属槽を検査すると、キャスタブルおよび/またはセラミックコーティングが、特に機械的衝撃を受け易い領域、ジョイント、およびシステムのその他の高応力領域においてクラックを生じ易いということが観察された。これらのクラックは、さらにキャスタブル/コーティングを通って耐熱性金属槽の表面にまで延び、槽の外表面を局部的に酸化させる。この酸化は、一般的な表面の腐食速度に比較して著しく加速され、槽壁に酸化孔食を発生させる。最終的にはこの孔食が槽の急速な破壊を招来する。
【0007】
必要とされることは、溶融ガラスを搬送かつ保持するのに用いられる耐熱性金属槽の加速された酸化孔食を軽減して、これにより槽の寿命を延ばすことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一つの目的は、溶融ガラスの搬送または保持に用いられる槽が、このような槽の製造に用いられる耐熱性金属の加速された酸化孔食によって破損するのを軽減する方法を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、耐熱性金属の酸化孔食に耐性を有しかつ耐用年数の長い耐熱性金属からなる槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、添付の図面を参照した、如何なる限定をも課するものではない下記の実施の形態の説明の過程で、より容易に理解され、かつ他の目的、特徴、詳細内容および効果がより明らかになるであろう。この説明に含まれる付加的なシステム、方法、特徴および効果の全ては本発明の範囲内であり、添付の請求項によって保護されることを意図するものである。
【0011】
本発明の一つの実施の形態によれば、ガラス製造システムが開示され、このシステムは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属からなる内側層を備えた、溶融ガラスを搬送かつ保持するための槽と、上記内側層の少なくとも一部分に隣接したバリヤ層と、このバリヤ層に近接する金属酸化物ガスの供給源とを備え、このガス供給源は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウムおよびモリブデンから選ばれた金属からなり、かつ上記金属酸化物ガスの供給源が上記内側層から隔離されている。
【0012】
別の実施の形態によれば、溶融ガラスを搬送かつ保持するための槽が記載され、この槽は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属からなる、溶融ガラスに接触させるための内側層と、この内側層に隣接したバリヤ層と、このバリヤ層の少なくとも一部分に隣接した、金属酸化物ガスを形成するための犠牲金属部材とを備え、この犠牲金属部材は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれている。
【0013】
本発明のさらに別の実施の形態によれば、溶融ガラスに接触させるための槽の酸化孔食を軽減する方法が開示され、この方法は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属から形成された内側層を備え、かつさらにこの内側層の表面に隣接したバリヤー材料を備えた、溶融ガラスを搬送または保持するための槽を提供し、かつ上記バリヤー材料に隣接した領域を金属酸化物ガスで飽和させることを含み、この金属酸化物ガスの金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウムおよびモリブデンからなる群から選ばれ、かつ上記金属酸化物ガスの供給源が上記内側層から隔離されている。
【0014】
本発明は、添付図面を参照した、如何なる限定をも課するものではない下記の説明の過程で、より容易に理解され、かつ他の目的、特徴、詳細およびそれらの効果がより明快に明らかになるであろう。この説明に含まれている付加的な方法、特徴および効果は本発明の範囲内であり、添付の請求項によって保護されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】複数の耐熱性金属部品を備えたガラス製造システムの断面図である。
【図2】合金の加速された酸化(孔食)を示す、図1に示されたガラス製造システムに用いられる白金・ロジウム合金槽の一部分の断面図である。
【図3A】本発明の恩恵を受けることなしに溶融ガラスを接触させるための典型的な槽の一部分の断面図である。
【図3B】図3Aの槽からの加速された金属損失を示す槽の一部分の断面図である。
【図3C】本発明の恩恵を受けた典型的な槽の一部分の断面図である。
【図3D】図3Cの槽が図3Bに比較して金属損失がずっと少ないことを示す槽の一部分の断面図である。
【図4】犠牲金属部材が金網の形態である、溶融ガラスを接触させるための槽の一部分の(断面図で示された)斜視図である。
【図5】犠牲金属部材がドット状である、溶融ガラスを接触させるための槽の一部分の(断面図で示された)斜視図である。
【図6】犠牲金属部材が支持ジャケット中に分散された金属粒子の形態である、溶融ガラスを接触させるための槽の一部分の(断面図で示された)斜視図である。
【図7】囲い内で酸素の分圧を調節するためにシステムの一部が囲い内に収容されたガラス製造システムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
下記の詳細な説明においては、本発明全体を理解するために、限定するためではなく説明のための特定の詳細内容を開示する実施の形態が説明されている。しかしながら、本開示の恩恵を受けた当業者には、ここに開示された特定の詳細内容から離れた他の実施例においても本発明の実施が可能であることが明らかであろう。さらに、本発明の説明を不明瞭にしないために、周知の装置、方法および材料の説明は省略してある。最後に、類似の要素には、可能な限り類似の参照番号を付してある。
【0017】
ガラス製造工業に用いられる配管およびその他の槽(例えば清澄化槽、攪拌室等)は、高融点、耐酸化耐熱性金属から作製されることが多い。このような金属は一般に貴金属と呼ばれ、したがって高価である。耐熱性金属として特に重要なものは白金族金属、すなわち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金、ならびにそれらの合金である。それらの化学的作用に対する耐性、およびそれらの卓越した高温性能は、種々の耐熱性用途における幅広い使用に白金族金属を導いてきた。しかしながら、ここに記載された方法は、例えば、モリブデンまたはレニウム、またはそれらの合金等の遷移金属の多くを含む非白金族金属にも適用可能なことを理解すべきである。
【0018】
図1に示されているのは、液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ等の作製等におけるガラスシートの製造に用いられる典型的なダウンドロー式ガラス製造システム10である。図1に示されたシステムは、溶融ガラス13を形成するための溶融タンクすなわちメルタ12、メルタから清澄化槽へのコネクタ14、清澄化槽16、清澄化槽から攪拌機へのコネクタ18、攪拌機20、攪拌機から降下管へのコネクタ22、降下管24、およびそこからガラスシート28がそこから延伸される成形用楔状体(アイソパイプ)26を備えている。上記メルタおよび上記アイソパイプは一般に耐熱性セラミック材料で形成されるが、メルタとアイソパイプとの間の移送手段の多くは耐熱性金属部品で構成される。これらは、種々のコネクタパイプ14,18,22、清澄化槽16、攪拌機20、および降下管24を含む。これらの金属部品の多くは、耐熱性金属部品に強度および剛性を与える構造的セラミック材料で覆われている。しかしながら、「キャスタブル」とも呼ばれるこのジャケットは、種々の耐熱性金属の外表面の酸化を遅くするが、典型的な小さなクラックの形態の機械的損傷に対しては脆くかつ敏感である。これらのクラックは、上記キャスタブルの表面を覆って自然発生的に現れるが、部品間の繋ぎ目等の応力の高い領域に集中し勝ちである。キャスタブルジャケット内のクラックは、ジャケットの保護能力を損ない、必然的にこのクラックに隣接した耐熱性金属槽の急速な酸化を招来する。このため、ガラス製造システムの耐熱性金属部品は、耐熱性金属の酸化を最少化するために、アルミナまたはジルコニア等の付加的なセラミックコーティング(バリヤ層)によってさらに被覆される。本発明は、ダウンドロー式ガラス製造法に限られるものではなく、耐熱性金属槽の防食が望ましい如何なる用途にも用いることが可能なことは言うまでもない。
【0019】
上述の予防策にも拘わらず、このような二次的なコーティング自体にクラックが生じ易く、槽の表面全体の腐食を防止する効果はあるが、実際に上記二次的なコーティングは、或る場合には、酸化孔食(すなわち、選択的かつ急速な酸化を介した耐熱性金属の表面の孔食)を誘引することによって耐熱性金属槽の腐食を促進することが判明している。
【0020】
例えば、酸化物としての白金の1200℃を超える温度での気化は、白金が曝された酸素の分圧に比例する。熱力学的に、金属、酸素およびガス状酸化物間の平衡は下式で表され、
【数1】

【0021】
ここで、Mは金属を表す。平衡定数kは下記のように表記され、
【数2】

【0022】
ここでa(M)は金属Mの活量(activity)であり、pは分圧を表す。
【0023】
不活性キャリヤーガスの安定な一定量の流れが、定温に保たれた耐熱性金属サンプルの表面上を通過すると、その金属の蒸気が、その蒸気の分圧に応じた割合で追い出される。流速が低いと、キャリヤーガスとサンプルとの間の接触時間がより長いために、蒸気によってキャリヤーガスがより飽和し易い。もし、或る範囲の流速に亘り、所定量のガスに対して、同量の蒸発金属が搬送されるならば、そのキャリヤーガスは完全に飽和していると判断される。換言すると、もし質量の損失量が流速に正比例するならば、ガスは飽和している。もし質量の損失量がガスの流速と無関係であれば、ガスは飽和していない。
【0024】
理論に縛られるつもりはないが、低流速状態または準静止状態においては、耐熱性金属酸化物がサンプルの周囲の容積を飽和させ、「平衡」損失速度を提供し、金属の損失量はこの状態におけるガスの流速に正比例すると考えられる。ガスが飽和状態を保つ限り、金属の損失量は、如何に迅速に飽和ガスが除去されるかの関数のままである。流速が増大するにつれて、金属酸化物の蒸気がサンプルを取り巻く容積の飽和を維持することができない点に達し、状態は「非平衡」状態に切り替わる。非平衡状態においては、金属損失速度は表面脱離速度等の他のメカニズムによって決定される。非平衡損失速度はガス流速に依存しないが、配置構造に、すなわち(1)耐熱性金属表面上方の自由空間容積、および(2)この自由空間容積に隣接するオープンな閉塞されていない金属表面積、に依存する。
【0025】
より大きい露出された金属表面積およびより小さい自由空間容積を備えた耐熱性金属サンプルは、より容易に飽和環境を維持し、かつ非平衡金属損失状態に切り替わる以前により高いガス流速を必要とする。これとは反対に、閉塞されていない金属の表面積に対して自由空間が大きいと、低いガス流速においてさえも非平衡金属損失速度に切り替わる。この後者の場合は、保護セラミック層にクラックが存在する場合の状況を表す。クラックは、非平衡速度での金属損失量に有利に働く露出された金属の小面積を表す。したがって、同一温度、同一流速および同一酸素分圧の下での二つのサンプルは、金属損失速度が上述の配置構造の変数にも依存するために、著しく異なる金属損失速度を有し得る。確かに、保護セラミックコーティングによって覆われた耐熱性金属(例えば白金ロジウム合金)槽は、セラミックコーティングにクラックが生じている部位において、槽の保護されていない領域よりも5倍も高い金属損失を受けることが判明している。この高い損失速度は、「非平衡」損失状態におけるクラック領域を取り囲む雰囲気のせいであると考えられる。このような金属損失は、耐熱性金属からなる、溶融ガラスのための実際の槽の一部分を示す図2を調べることによって観察することができる。図2には、バリヤ層32で表面を覆われ、かつジャケット42(図2には不図示。図3A〜図3D参照)で支持された稼動している清澄化槽16の実際の内側耐熱性金属層(白金ロジウム合金)30の一部分の断面図が示されている。図の場合、バリヤ層32はセラミックバリヤ層である。クラック36はバリヤ層32を破り、内側耐熱性金属層30の酸化が孔食38に現れているのを見ることができる。図2に示された酸化孔食は、約1670℃の温度において僅か30日後に生じたものであり、孔食38の深さは0.006インチ(0.15mm)である。
【0026】
本発明の実施の形態においては、金属損失を、より遅い「平衡」損失速度状態に追い込んで、ガラスに接触している耐熱性金属層の酸化を軽減する方法が提供され、それによって、保護コーティングまたはバリヤ層の上方の自由空間容積が、耐熱性金属の酸化物で飽和せしめられる。このようにして、後にバリヤ層内に形成されるクラックが、その下側に横たわる耐熱性金属内側層を耐熱性金属酸化物で飽和せしめられた雰囲気に露出させる。
【0027】
図3Aは、溶融ガラスを搬送するのに用いられる代表的な槽40の小部分の断面図を示し、この槽は、溶融ガラスを接触させるための内側耐熱性金属層30と、この内側耐熱性金属層の酸化を防止するための保護的バリヤ層32と、上記内側層を支持しかつ剛性を与えるための構造的ジャケット42とを備えている。上記内側耐熱性金属層30は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなることが好ましい。例えば、内側層30は、主成分金属(例えば、約70〜80重量%の白金)と副成分金属(例えば30〜20重量%のロジウム)からなる白金・ロジウム合金が良い。
【0028】
バリヤ層32は、耐熱性金属層30の外表面44に隣接して配置される。バリヤ層32は、上記内側耐熱性金属層の酸化防止を目的とする、フレーム溶射またはプラズマ溶射された耐熱性酸化物またはその他の被膜である。例えばバリヤ層32は、アルミナまたはジルコニアが良い。構造的ジャケット42はバリヤ層32の周りに配置され、大部分はバリヤ層32に接触している。構造的ジャケット42は、スラリー注型に適した耐熱性酸化物から形成される。適当な耐熱性酸化物は例えばアルミナまたはジルコニアが良い。
【0029】
図3Aにおいては、バリヤ層32内にクラック36が示されており、これにより、バリヤ層32とジャケット42との間の隙間空間48中に含まれる雰囲気46に内側層30を露出させている。図3Bは、槽40の内側層30の耐熱性金属の酸化による加速された損失を生じさせ、続いて孔食38を生じさせる、雰囲気内に含まれる酸素の作用を示す。
【0030】
図3Cに示されている本発明の一実施の形態によれば、槽40が、バリヤ層32とジャケット42との間に設けられた犠牲金属部材50を備えており、この犠牲金属部材50は雰囲気46内の酸素の存在下に在って、バリヤ層32とジャケット42との間に存在し得る自由容積空間(すなわち隙間48)内に入り込む犠牲金属部材の酸化物を生じさせ、これにより容積空間48内を酸化物で飽和させる。本発明を実施すると、内側層30からの耐熱性金属の損失と、失われた金属の内側層30への復帰との間に、上述の(1)式に従う効果的な平衡条件が成立して、図3Dに示すような結果が得られる。この結果は、本発明の恩恵を受けないときに発生し得る酸化と比較して、内側層30の酸化を著しく低減する。このことは、図3Bおよび図3Dの酸化孔食の大きさを比較することによって明らかである。
【0031】
図3A〜図3Dにはバリヤ層32のクラックが示されているが、クラック(またはバリヤ層32のその他の形態の割れ目)の存在は、本発明の前提条件ではないことを理解すべきである。すなわち、本発明は、バリヤ層に割れ目がある場合に槽を保護する作用をする実施の形態を含んでいる。
【0032】
犠牲金属部材50は内側層30を構成する金属を成分として有しているべきであり、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウムおよびそれらの合金から選ばれた金属を有しているべきである。犠牲金属部材50は、例えば金網またはスクリーン、ペーストまたは箔で良い。もし内側層30が合金であれば、犠牲金属部材50は、内側層合金の主成分と同じ主成分を含んでいるべきである。例えば、内側層30が白金80%、ロジウム20%の合金であれば、犠牲金属部材の主成分は白金であるべきである。しかしながら、犠牲金属部材50を構成する重量%は内側層30の組成と必ずしも同一でなくともよい。この特定の実施の形態においては、犠牲金属部材50を100%の白金とすることもできる。
【0033】
犠牲金属部材は、過度に厚い必要はなく、例えば厚さが約50μm未満であってもよい。しかしながら、犠牲金属部材は、たとえコストが上昇しても、数百μm台以上の厚さを有するものがよい。犠牲金属部材が層を形成している場合には、厚さが約500μm未満である。
【0034】
確かに、犠牲金属部材の形態および配置は、下に横たわる内側耐熱性金属層30を露出させて酸化させ得るクラックを成長させる可能性が最も高いバリヤ層32上の位置の近くに犠牲金属部材を設ける能力を取るか、追加される金属のための追加コストを取るかのどちらかである。理想的には、クラックが何れの点でも発生し得ることを見越して、全体のシステムを犠牲金属部材で包むのがよい。しかしながら、実際には、一般に高価な耐熱性金属のための追加コストを考慮しなければならない。このため、金網を使用する、あるいはクラックが最も発生し易い領域(例えば、ジョイント/カップリングの繋ぎ目、振動またはその他の機械的衝撃を受け易い領域等)のみに犠牲金属部材を施すこと等によって重要な表面領域を覆いながら、犠牲金属部材の量を減らすことを含むいくつかの解決策が施される。これらの二つの考え方は互いに排他的ではなく、同時に施し得るものである。すなわち、図4に示すように、クラックが発生し易い選ばれた高危険領域に金網を施すことにより、保護される領域全体を最大にしながら、必要とする犠牲金属部材の量を最少にすることができる。
【0035】
犠牲金属部材は、その形態および金属の組成に応じて、種々の方法で施すことが可能である。例えば、上述のように、犠牲金属は、プラズマ溶射、フレーム溶射、スパッタリングによって層を形成しても、または箔層で包んでもよい。
【0036】
図5に示されている変形においては、犠牲金属部材が連続していない。したがって、犠牲金属部材50は、例えばバリヤ層32の表面上に配置された不連続な金属の「ドット」として施すことが可能である。このようなドットは、不連続な被膜を形成している溶射された粒子等の巨視的なものでもまたは微視的なものでもよい。図5は、バリヤ層32に施された犠牲金属のドットを説明する円筒状槽の部分的断面を示す。一般にこれらのドット間の間隔は、ドットの厚みにほぼ等しくすればよい。さらにこれらの犠牲金属部材は、施す方法としては単純であるけれども、必ずしもバリヤ層32に直接および/または密着していなくてもよい。犠牲金属部材は、内側層30の耐熱性金属にそれ自体が接触し得る雰囲気に曝されていることが望まれるのみである。したがって、犠牲金属部材50は、図6に示されているように、ジャケット42の材料中に混合さもなければ分散された金属粒子(例えば粉末)の形態であってもよい。しかしながら、大部分の犠牲金属粒子がジャケット材料中に埋め込まれているので、自由な酸素と反応してバリヤ層の近辺に金属酸化物を生じさせることができず、この方法はあまり望ましくない。
【0037】
図7に示されている本発明のさらに別の実施の形態においては、犠牲金属部材が、図7に示されている清澄化槽16等の耐熱性槽を取り囲む囲い52と組み合わされて使用されており、この場合には、雰囲気コントローラ56によって、酸素の分圧が低下するように囲い52内の雰囲気が制御されている。槽(図7では清澄化槽16)を取り囲む囲い52内の雰囲気中の酸素を減少または排除し、かつジャケット42とバリヤ層32との間の隙間の自由空間領域を金属酸化物ガスで飽和させることは、あるとしても僅かな量の酸素のみが槽の内側層耐熱性金属の酸化に応じることを保証する。雰囲気コントローラ52は、例えば雰囲気の露点を制御するための周知の装置とすることができる。
【0038】
上述した本発明の実施の形態、特に「好ましい」実施の形態は、単に実施が可能な実例に過ぎず、本発明の原理の明快な理解のために述べられたに過ぎない。本発明の精神および範囲から離れることなしに、上述の実施の形態に対する種々の変形および変更が可能である。これらの変形および変更のすべては本明細書および本発明の範囲内に含まれ、かつ添付の請求項によって保護されるべきものである。
【符号の説明】
【0039】
10 ガラス製造システム
12 メルタ
13 溶融ガラス
14,18,22 コネクタパイプ
16 清澄化槽
20 攪拌機
24 降下管
26 成形用楔状体
28 ガラスシート
30 内側耐熱性金属層
32 バリヤ層
36 クラック
38 酸化孔食
40 槽
42 ジャケット
48 隙間空間
50 犠牲金属部材
52 囲い
56 雰囲気コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属から形成された内側層を備えた、溶融ガラスに接触させるための槽と、
前記内側層の少なくとも一部分に隣接した、セラミック材料から成るバリヤ層と、
前記バリヤ層に近接すると共に前記内側層から隔離されて配された、金属酸化物ガスの供給源であって、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウムおよびモリブデンからなる群から選ばれた金属を含んでなる金属酸化物ガスの供給源と、
を備えてなり、
前記内側層を構成する主成分の金属と前記金属酸化物ガスの供給源を構成する主成分の金属とが同種である、
ガラス製造システム。
【請求項2】
前記金属酸化物ガスの供給源が前記バリヤ層に接触していることを特徴とする請求項1記載のガラス製造システム。
【請求項3】
前記槽が囲い内に封入され、該囲い内の酸素の分圧が調節されることを特徴とする請求項1記載のガラス製造システム。
【請求項4】
前記金属酸化物ガスの供給源が、前記槽の少なくとも一部分の周囲に配置された層であることを特徴とする請求項1記載のガラス製造システム。
【請求項5】
前記金属酸化物ガスの供給源が、前記バリヤ層の周囲に配置されたジャケット内に含まれていることを特徴とする請求項1記載のガラス製造システム。
【請求項6】
ガラス製造システムにおける槽の酸化孔食を軽減する方法であって、
ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属から形成された内側層と、該内側層の表面に隣接したセラミック材料から成るバリヤ層とを備えた、溶融ガラスを搬送または保持するための槽を提供し、
前記バリヤ層に隣接した空間領域を、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウムおよびモリブデンからなる群から選ばれた金属の酸化物ガスで飽和させることを含み、
ここで、前記金属の酸化物ガスを構成する主成分の金属は、前記内側層を構成する主成分の金属と同種であり、前記金属の酸化物ガスの供給源が前記内側層から隔離されている、
ガラス製造システムにおける槽の酸化孔食を軽減する方法。
【請求項7】
前記金属の酸化物ガスの供給源が、前記バリヤ層の少なくとも一部分に近接している犠牲金属部材であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記槽を取り囲む雰囲気中の酸素の分圧を調節することをさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれた金属から形成された、溶融ガラスと接触する内側層と、
該内側層に隣接したセラミック材料から成るバリヤ層と、
該バリヤ層の少なくとも一部分に隣接する、金属酸化物ガスを形成するための犠牲金属部材であって、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、レニウム、モリブデンおよびそれらの合金からなる群から選ばれる犠牲金属部材と、
を備えてなり、
前記内側層を構成する主成分の金属と前記犠牲金属部材を構成する主成分の金属とが同種である、
溶融ガラスと接触する槽。


【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−100228(P2013−100228A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−14517(P2013−14517)
【出願日】平成25年1月29日(2013.1.29)
【分割の表示】特願2009−526717(P2009−526717)の分割
【原出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)