説明

耐爆裂コンクリート構造

【課題】コンクリートへの有機繊維の添加を省略あるいは削減することが可能な耐爆裂コンクリート構造を提供すること。
【解決手段】コンクリート構造体1と、コンクリート構造体1の表層部1cに埋設された網状部材2と、コンクリート構造体1の表面から網状部材2に至る先行溶融部材3,3,…とを備え、網状部材2は、金属製の網からなる網本体21と、網本体21に付着する熱可塑性樹脂製のカバー層22とを有し、先行溶融部材3は、熱可塑性樹脂からなる部位を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐爆裂コンクリート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造が火炎に曝されると、コンクリート中の水分が蒸発する。コンクリート内の蒸気圧が高まると、爆裂に至る場合がある。特に超高強度コンクリートは、普通強度のコンクリートに比べて緻密である故、蒸気の逃げ道が少なく、コンクリート内の蒸気圧が高まり易いと言われている。
【0003】
特許文献1には、爆裂に伴うコンクリートの飛散・剥落を防止する技術として、エキスパンドメタルからなる型枠の中にコンクリートを打設するとともに、エキスパンドメタルの外側にモルタルを塗着する技術が開示されている。なお、特許文献1の技術では、コンクリート内の蒸気圧の上昇を抑制することはできず、したがって、爆裂そのものを抑制することはできない。
【0004】
コンクリートの爆裂を防止する技術として、有機繊維(例えば、ポリプロピレンその他の熱可塑性樹脂からなる繊維)をコンクリートに添加する技術が知られている(特許文献2〜4参照。)。有機繊維を含有するコンクリートが火炎に曝されると、コンクリート表層部において有機繊維の溶融・熱分解が進行し、有機繊維の存在していた箇所に細孔が出現するようになるので、コンクリート内に発生した水蒸気は、細孔を通じて外部に放出されるようになる。すなわち、有機繊維を含有するコンクリートによれば、コンクリート内部における蒸気圧の上昇を抑制することが可能となり、ひいては、コンクリートの爆裂を防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−280185号公報
【特許文献2】特開平6−211555号公報
【特許文献3】特開2004−224616号公報
【特許文献4】特開2011−111751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリートに有機繊維を添加すると、有機繊維を添加しない場合に比べて、フレッシュコンクリートの状態においては粘性が増大(スランプの低下)し、硬化後においては強度が低下するようになる。特に、設計基準強度が200(N/mm2)を超えるような超高強度コンクリートに対して有機繊維を添加すると、有機繊維の添加に伴う強度の低下および粘性の増大が顕著となるので、さらなる高強度化が妨げられるとともに、施工性が悪化する虞がある。
【0007】
このような観点から、本発明は、コンクリートに添加する有機繊維を省略あるいは削減しながらも爆裂を抑制することが可能な耐爆裂コンクリート構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る耐爆裂コンクリート構造は、コンクリート構造体と、前記コンクリート構造体の表層部に埋設された網状部材とを備え、前記網状部材は、金属製の網又は有孔板からなる網本体と、前記網本体に付着した熱可塑性樹脂製のカバー層とを有する、ことを特徴とする。
【0009】
要するに、本発明は、金属製の網又は有孔板に熱可塑性樹脂を付着させてなる網状部材を、爆裂対策を施すべきコンクリート構造体の表層部に埋設する、というものである。
【0010】
本発明によれば、コンクリート構造体が火炎に曝された際、網状部材のカバー層(熱可塑性樹脂層)が溶融・熱分解し、水蒸気の逃げ場となる空隙が面的に広がるようになるので、蒸気圧の高まりを抑制することができ、ひいては、コンクリートの爆裂を抑制することが可能となる。すなわち、本発明によれば、爆裂対策用の有機繊維をコンクリートに添加せずとも、あるいは、有機繊維の添加量を削減したとしても、コンクリートの爆裂を抑制することができる。
【0011】
また、本発明によれば、網本体によってコンクリートが物理的に拘束されているので、網状部材の内側において爆裂が発生したとしても、コンクリート片の飛散・剥落を防ぐことができる。コンクリート片の飛散・脱落を防止できれば、コンクリートの健全部(未だ爆裂していない部分)が火炎に曝されることを防ぐことができるので、健全部における温度上昇を緩和することができ、ひいては、爆裂の進展を抑制することが可能となる。
【0012】
本発明には、前記コンクリート構造体の表面から前記網状部材に至る先行溶融部材を備えるものも含まれる。なお、前記先行溶融部材は、熱可塑性樹脂からなる部位を有するものである。先行溶融部材を備えていると、網状部材のカバー層に先んじて先行溶融部材の熱可塑性樹脂が溶融・熱分解し、表面から網状部材に通じる連通孔が形成されるようになる。かかる連通孔は、網状部材のカバー層の溶融・熱分解により形成される空隙と連通するようになるので、コンクリート内の水蒸気が外部に放出され易くなり、ひいては、コンクリートの爆裂を抑制することが可能となる。
【0013】
先行溶融部材の形状等に制限はないが、前記網状部材を型枠に位置決めする際に使用したスペーサ、結束バンドまたは結束線を先行溶融部材として利用することが好ましい。コンクリート構造の製造時に使用される部材を先行溶融部材として利用すれば、先行溶融部材を別途用意する必要がなくなるので、コストの削減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機繊維をコンクリートに添加せずとも、あるいは、有機繊維の添加量を削減したとしても、コンクリートの爆裂を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造を示す断面図、(b)は網状部材の拡大断面図である。
【図2】網状部材の取付方法を示す拡大断面図である。
【図3】(a)および(b)は、本発明の実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造の構築方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造は、図1の(a)に示すように、コンクリート構造体1と、コンクリート構造体1に埋設された網状部材2,2,…と、コンクリート構造体1の表面から各網状部材2に至る先行溶融部材3,3,…と、を備えている。
【0017】
なお、本実施形態では、コンクリート構造体1が柱である場合を例示するが、梁、壁、スラブなどであっても差し支えない。
【0018】
コンクリート構造体1は、プレキャストコンクリート部材であり、コンクリート体11と、コンクリート体11に配筋された柱主筋12,12,…と、柱主筋12,12,…を囲む帯筋13とを備えている。
【0019】
コンクリート体11は、超高強度コンクリート(設計基準強度が160(N/mm2)以上となるコンクリート)の硬化体である。コンクリート体11は、帯筋13に囲まれたコア部1aと、帯筋13を囲むかぶり部1bと、かぶり部1bを囲む表層部1cとを備えている。図1の(a)の点線は、かぶり部1bと表層部1cの境界を示す仮想線である。かぶり部1bおよび表層部1cは、鉄筋(柱主筋12および帯筋13)の外側に位置して鉄筋を覆っているが、設計上のかぶり厚さは、かぶり部1bによって確保されている。なお、かぶり部1bと表層部1cとによって設計上のかぶり厚さを確保してもよい。
【0020】
網状部材2は、表層部1cに埋設されている。図示は省略するが、網状部材2は、面的な広がりを有するものであり、コンクリート体11の各側面に沿って配置されている。
【0021】
本実施形態の網状部材2は、図1の(b)に示すように、金属製の網からなる網本体21と、網本体21に付着した熱可塑性樹脂製のカバー層22とを備えている。
【0022】
本実施形態の網本体21は、金属製の網の一種であるエキスパンドメタル(ラス)からなる。エキスパンドメタルの厚さは6(mm)であり、エキスパンドメタルの網目は51(mm)×22(mm)の菱形である。なお、網目の大きさや形状等は、粗骨材の最大粒径や施工性(充填性)等を考慮して適宜設定すればよい。網の種類に制限はなく、エキスパンドメタルに代えて、織金網や溶接金網を使用してもよい。網の材質にも制限はなく、鉄(鋼、ステンレス鋼)、アルミニウム合金、銅合金などの中から選定すればよい。なお、亜鉛めっき等の防錆処理が施された網を網本体21としてもよい。
【0023】
カバー層22は、熱可塑性樹脂の一種であるポリプロピレンからなる。本実施形態のカバー層22は、網本体21の表面(ストランドおよびボンドの表面)の全部を被覆している。カバー層22の層厚は、30(μm)である。なお、カバー層22の層厚は、適宜変更しても差し支えない。また、図示は省略するが、網本体21の表面の一部分(例えば、網本体21の片面側)だけをカバー層22で被覆してもよい。カバー層22の形成方法に制限はないが、例えば、カバー層22の素となる熱可塑性樹脂を溶融し、溶融した熱可塑性樹脂に網本体21を浸漬するか、あるいは、溶融した熱可塑性樹脂を網本体21に溶射すればよい。なお、ポリプロピレンに代えて、アクリル樹脂、ポリアミド、ビニロンなどでカバー層22を形成してもよい。
【0024】
先行溶融部材3は、表層部1cに埋設されている。本実施形態の先行溶融部材3は、網状部材2の位置決めに使用したポリプロピレン(熱可塑性樹脂)製のスペーサ31および結束バンド32(図2参照)である。なお、図1の(a)においては、結束バンド32の図示を省略している。
【0025】
スペーサ31は、網状部材2に接するとともに、コンクリート構造体1の表面に露出している。スペーサ31は、鉄筋のかぶりを確保するための鉄筋用スペーサと同様の構成を具備している。なお、本実施形態のスペーサ31は、その全体が熱可塑性樹脂で形成されているが、スペーサ31の構成を限定する趣旨ではない。図示は省略するが、鋼製、コンクリート製、モルタル製の部材を熱可塑性樹脂で被覆したものをスペーサ31としても勿論差し支えない。
【0026】
本実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造の構築方法は、次のとおりである。
図2に示すように、まず、型枠4に沿って網状部材2を配置し、結束バンド32を利用して型枠4に網状部材2を固定する。網状部材2と型枠4との間には、スペーサ31を介在させる。結束バンド32は、型枠4に設けた入口孔に挿通し、網状部材2に掛け回した後、入口孔に隣接する出口孔から引き出し、引き出した先端部32aを後端部32bの係止孔に挿入する。係止孔に挿入した先端部32をさらに引き出し、結束バンド32を緊結すると、網状部材2が型枠4に固定される。結束バンド32の位置に制限はないが、スペーサ31の近傍に配置することが望ましい。
【0027】
続いて、図3の(a)に示すように、鉄筋組立体(柱主筋12および帯筋13)の周囲に型枠4を立設し、鉄筋組立体の三方を型枠4で囲む。型枠4を設置したら、結束線5,5,…を利用して網状部材2を鉄筋組立体に固定する。なお、本実施形態では、結束線5として、金属製の芯線を熱可塑性樹脂で被覆したものを使用する。
【0028】
鉄筋組立体の三つの側面に沿って型枠4を設置したら、図3の(b)に示すように、残り一つの側面に沿って型枠4’を立設する。なお、型枠4’に付設された網状部材2には、アンカー6,6を取り付けておく。アンカー6は、鉄筋組立体に向かって延出している。本実施形態では、アンカー6として、金属製の芯材を熱可塑性樹脂で被覆したものを使用する。
【0029】
その後、型枠4,4’で囲まれた空間にコンクリートを打設し、適宜な手法で養生を行う。
【0030】
コンクリートの強度が脱型強度にまで達したら、結束バンド32のうち、型枠4,4’の外側に露出した部分を切断し、その後、型枠4,4’を脱型する。結束バンド32のうち、コンクリート体11の表層部1cに埋設された部分は、網状部材2およびスペーサ31とともに表層部1cに残置する。型枠4,4’を脱型すると、図1の(a)に示す耐爆裂コンクリート構造が得られる。
【0031】
以上説明した本実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造によれば、コンクリート構造体1が火炎に曝された際、まず、先行溶融部材3,3,…が溶融・熱分解し、コンクリート表面から網状部材2に通じる多数の連通孔が形成されるようになる。表層部1cがさらに加熱されると、網状部材2のカバー層22(図1の(b)参照)が溶融・熱分解する。カバー層22が溶融・熱分解すると、水蒸気の逃げ場となる空隙が面的に広がるとともに、前記した連通孔と連通し、水蒸気が外部に放出されるようになるので、コンクリート体11内における蒸気圧の高まりを抑制することができ、ひいては、コンクリート体11の爆裂を抑制することが可能となる。なお、コンクリート体11がさらに加熱されると、結束線5およびアンカー6の熱可塑性樹脂が溶融・熱分解し、コア部1aから網状部材2に至る連通孔が形成されるようになるので、網状部材2の内側においても、蒸気圧の高まりを抑制することができる。
【0032】
このように、本実施形態に係る耐爆裂コンクリート構造によれば、爆裂対策用の有機繊維をコンクリートに添加せずとも、あるいは、有機繊維の添加量を削減しとしても、コンクリート体11の爆裂を抑制することができる。なお、有機繊維を添加する場合の添加量は、フレッシュコンクリートの粘性やコンクリート強度に対する影響が小さくなるよう、少量(0.5kg/m3程度)に留めることが好ましい。有機繊維の添加量を少量に留めると、有機繊維の溶融・熱分解によって形成される連通孔の数が少なくなるものの、カバー層22(図1の(b)参照)の溶融・熱分解によって形成される面状の空隙を介して互いに連通するようになるので、蒸気圧の高まりを抑制することができる。
【0033】
また、網本体21によってコンクリート体11が物理的に拘束されているので、網状部材2の内側において爆裂が発生したとしても、コンクリート片の飛散・剥落を防ぐことができる。特に本実施形態では、結束線5によって網状部材2が鉄筋に接続されており、あるいは、アンカー6によって網状部材2がコア部1aに定着されているので、爆裂時における網状部材2の変形や脱落を防ぐことができ、ひいては、コンクリート片の飛散・剥落をより確実に防ぐことができる。コンクリート片の飛散・脱落を防止できれば、健全部が火炎に曝されることを防ぐことができるので、健全部における温度上昇を緩和することができ、ひいては、爆裂の進展を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、前記した耐爆裂コンクリート構造の構成や構築手順は、適宜変更しても差し支えない。
【0035】
例えば、本実施形態では、金属製の網を網本体21とした場合を例示したが、金属製の網に代えて、金属製の有孔板(所謂パンチングメタル)を網本体としても差し支えない。
【0036】
本実施形態では、結束バンド32を使用して網状部材2を型枠4に固定した場合を例示したが、結束線(好ましくは、金属製の芯線と、この芯線を被覆する熱可塑性樹脂製の表皮層とを有するもの)を使用してもよい。
【0037】
本実施形態では、網状部材2を型枠4に位置決めする際に使用した部材(スペーサ31、結束バンド32)を先行溶融部材3としたが、網状部材2に付設した熱可塑性樹脂製の突起や線材を先行溶融部材として利用しても勿論差し支えない。
【0038】
また、本実施形態では、網状部材2を型枠4に保持させる場合を例示したが、筒状に組み合わせた複数の網状部材2,2,…が自立する場合には、結束バンド32を省略してもよい。この場合には、各網状部材2にスペーサ31を取り付け、型枠4に競り持たせればよい。
【符号の説明】
【0039】
1 コンクリート構造体
1c 表層部
2 網状部材
21 網本体
22 カバー層
3 先行溶融部材
31 スペーサ
32 結束バンド
4 型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体と、
前記コンクリート構造体の表層部に埋設された網状部材とを備え、
前記網状部材は、金属製の網又は有孔板からなる網本体と、前記網本体に付着した熱可塑性樹脂製のカバー層とを有する、ことを特徴とする耐爆裂コンクリート構造。
【請求項2】
前記コンクリート構造体の表面から前記網状部材に至る先行溶融部材をさらに備えており、
前記先行溶融部材は、熱可塑性樹脂からなる部位を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の耐爆裂コンクリート構造。
【請求項3】
前記先行溶融部材は、前記網状部材を型枠に位置決めする際に使用したスペーサ、結束バンドまたは結束線であることを特徴とする請求項2に記載の耐爆裂コンクリート構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate