説明

耐糸錆性に優れたスチール缶体

【課題】耐糸錆性に優れたスチール缶体
【解決手段】ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴を有する缶体であって、前記缶胴の缶体外面側における補修塗装の塗膜中に、平均粒子径が2〜9μmの金属亜鉛粒子を0.3〜20wt%含有することを特徴とする耐糸錆性に優れたスチール缶体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチール素材に塗装或いは樹脂フィルムラミネートを施したスチール缶に関する。さらに詳細には、缶胴接合部において耐糸錆性に優れたスチール缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属缶は缶胴の製造方法により、2ピース缶と3ピース缶に分類される。2ピース缶は缶底と一体なる缶胴と上蓋からなり、3ピース缶は上下蓋と缶胴からなる。3ピース缶の缶胴は長方形のブランク板を円柱状に加工し、接合して成型される。接合方法は、ハンダ、接着、溶接の3方法があるが、現在、3ピース缶はワイヤーシーム溶接により接合された溶接缶が主流となっている。
【0003】
溶接缶に用いられる素材は、無塗装の錫メッキ鋼板が使用されることもあるが、日本国内においては、大部分が予め両面とも塗装、塗装印刷や樹脂フィルムをラミネートがされたスチール缶用素材が使用される。但し、溶接部及び溶接の熱影響部はニスよけと呼ばれ有機皮膜で被覆しないようにブランク板が作成される。溶接部及び溶接の熱影響部は溶接後に、補修の有機被覆が行われる。缶体の内面側は粉体塗装や樹脂フィルムをラミネートする方法も採用されているが、外面側はスプレーによる塗装が一般的である。
近年、食品の安全に対する基準や、消費者の目が厳しくなり、食品そのものの安全性や異物の混入に及ばず、パッケージにも品質が求められつつある。金属缶も例外ではなく、これまでは余り気にされなかった、スチール缶体の錆にも注意が払われるようになり、缶胴接合部の缶外面側に発生した糸錆も強く改善が求められるようになった。
糸錆は塗膜下腐食の一種であるが、端面や塗膜欠陥等の錆を起点として、塗膜の下を糸状に錆が進行するものである。錆進行の駆動力は酸素濃淡電池である。酸素は塗膜を透過して供給される。塗膜下の錆が成長する条件は温度が20〜35℃、相対湿度が60〜90%の範囲と言われている。
【0004】
スチール缶の糸錆を防止或いは低減する方法としては、例えば下記特許文献1に、スチール素材メッキおよび化成処理の被覆率を上げる方法等が提案されているが、実際には不十分であり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−184097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した従来技術の問題点を解決し、安価で外観上の問題の無いスチール缶体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴缶外面側の溶接補修部の糸錆防止に関して種々の検討を行い、本発明に至ったものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記の内容である。
(1)ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴を有する缶体であって、前記缶胴の缶体外面側における補修塗装の塗膜中に、平均粒子径が2〜9μmの金属亜鉛粒子を0.3〜20wt%含有することを特徴とする耐糸錆性に優れたスチール缶体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴の缶外面側の溶接補修部に関して、その補修塗膜中に所定の平均粒子径の金属亜鉛を所定濃度を含有させることにより、塗膜外観を確保しつつ安定して糸錆の発生を防止することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0010】
本発明のポイントは、ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴缶外面側の溶接補修塗膜中に平均粒子径が2〜9μmの金属亜鉛粒子を0.3〜20wt%含有することである。
【0011】
先ず金属亜鉛粒子を含有させる理由を述べる。
【0012】
糸錆は成長する錆の先端部分がアノードとなり、鉄が溶解する。また、錆の先端よりも前の部分がカソードとなり酸素の還元反応が起こる。アノード反応とカソード反応が電池を形成して反応を進めるが、亜鉛は糸錆のアノード反応およびカソード反応を抑制することができる。即ち、亜鉛上では鉄、錫或いはニッケルより酸素還元反応の活性化電圧が高く、カソード反応である酸素の還元反応が起こり難い。また、亜鉛は鉄、錫或いはニッケルより卑であり、鉄より亜鉛が溶解し易く、糸錆のアノード反応を防止できるためである。
【0013】
次に、金属亜鉛粒子の平均粒子径を規定した理由を述べる。
【0014】
金属亜鉛粒子の平均粒子径が2μm未満では個数が多くなることにより光の散乱回数が増える影響と思われるが、外観が暗くなる傾向が強くなり、缶体の外観として好ましくない。
【0015】
金属亜鉛粒子の平均粒子径が9μm超では、10μm程度の塗膜よりも粒子径が大きくなり、塗膜を突き抜けるものが存在し、ざらつき感が生じ、場合によっては取扱い中に塗膜から粒子が脱落し、効果を低減させたり、脱落した部分が塗膜欠陥となり逆に錆を誘発する可能性もでてくるためである。好ましくは3〜6μmの範囲である。
【0016】
なお、本発明に用いる金属亜鉛粒子の平均粒子径はレーザー光散乱回折式粒度分布装置(島津製作所製SALD−2000J)にて測定することが可能である。
【0017】
次に、金属亜鉛粒子の含有量を規定した理由を述べる。
【0018】
含有量下限の0.3wt%未満では糸錆を防止する効果が不十分である。また、上限の20wt%超では塗膜の色調が極めて暗くなり、缶体の外観として好ましくない外観となる。好ましくは1〜10wt%の範囲が好ましい。
【0019】
また、金属亜鉛を含有させるベース樹脂は特に限定するものではなく、一般に使用されるエポキシ−フェノール、エポキシ−尿素、エポキシ/ポリアミド、ポリエステル/ウレタン、エポキシ/ウレタン、ポリオール/ウレタン等の樹脂を使用できる。
【0020】
なお、本発明に用いるスチール素材は、特に限定するものではなく、薄錫メッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、ニッケル下地薄錫メッキ鋼板及びこれらに電解クロム酸処理等の化成処理をした表面処理鋼板やメッキを施していないブリキ原板で製造した缶体でも使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明例及び比較例、ならびに評価方法を述べる。
〈評価方法〉
(1)缶胴成型
ブランク板のサイズを103×167mmとし、溶接の熱影響部板端より各2mmを除き、103×163mmの部分を有機被覆した鋼板試料をワイヤーシーム溶接にて高さ103mm、直径53mmの缶胴に成型した。
【0022】
(2)糸錆性評価
缶外面側の溶接補修部にカッターで円周方向に長さ1mmの切れ込みを5箇所入れ、JIS Z 2371の条件で塩水噴霧1hr後、水洗乾燥した。その後、25℃、85%R.H.の雰囲気に2週間保管したのち、糸状腐食の発生状況を観察した。
【0023】
耐糸錆性は糸錆の成長が0.5mm未満を良好◎、0.5mm以上1.0mm未満を実用可能○、1.0mm超を実用不可×と評価した。
【0024】
(3)色調測定
缶体外面の溶接補修部分を切り出し、日本電色工業(株)製微小面分光色差計VSS400にて直径0.5mmの領域を測定した。
【0025】
外観として亜鉛粒子を含有しない場合のL値と比較してL値の低下が2未満を良好◎、2以上5未満を実用可能○、5超を実用不可×と評価した。
【0026】
(4)ざらつき
缶胴外面の溶接補修部を指でさすり、良好◎、実用可能○、実用不可×と評価した。
【0027】
〈発明例1〉
鋼板素材としては、1000mg/mの錫メッキ上に、電解クロム酸処理により、金属クロム10mg/m、水和酸化クロム7mg/mを施した薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径2.5μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは6μmであった。
【0028】
〈発明例2〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フイルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径7.5μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは9μmであった。
【0029】
〈発明例3〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径3.4μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0030】
〈発明例4〉
鋼板素材としては、500mg/mのニッケルメッキ上に、水和酸化クロム6mg/mを有するニッケルメッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−ポリアミド塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径5.5μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは8μmであった。
【0031】
〈発明例5〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として1.67wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0032】
〈発明例6〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として18.3wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0033】
〈発明例7〉
鋼板素材としては、50mg/mの下地ニッケルメッキ上に、1000mg/mの錫メッキを形成し、更に電解クロム酸処理により、金属クロム10mg/m、水和酸化クロム7mg/mを施した薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するポリエステル−ウレタン塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として1.5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0034】
〈発明例8〉
鋼板素材としては、ブリキ原板を用い、塗膜厚み10μmのエポキシ−フェノール樹脂を有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として8.3wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0035】
〈発明例9〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0036】
〈比較例1〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径1.5μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0037】
〈比較例2〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径11.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として5wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0038】
〈比較例3〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として0.17wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0039】
〈比較例4〉
発明例1と同様の薄錫メッキ鋼板を用い、12μmのPET系フィルムにて有機被覆した。ワイヤーシーム溶接後、缶外面側の溶接部にスプレーにて金属亜鉛粒子を含有するエポキシ−フェノール塗料で補修塗装し焼付けを行った。金属亜鉛粒子の平均粒子径4.0μmで、含有量は乾燥皮膜を基準として21.7wt%とした。5点の平均塗膜厚みは7μmであった。
【0040】
【表1】

【0041】
本発明例1〜9の補修塗装部は、いずれも外観、ざらつき感、耐糸錆性において全てを満足できる結果となった。ただし、金属亜鉛粒子の平均粒子径が本発明の範囲の下限値に近い値である発明例1及び金属亜鉛粒子の含有量が本発明の範囲の上限値に近い値である発明例6については、実用上問題の無い範囲ではあるが、外観がやや暗かった。金属亜鉛粒子の平均粒子径及び含有量が好ましい範囲である発明例3、4、7、8、9については全てが良好なる優れた結果となった。
【0042】
一方、金属亜鉛の平均粒子径、含有量、のいずれかが本発明の範囲を外れる比較例1〜4については、外観、ざらつき感、耐糸錆性のいずれかが満足できない結果となった。金属亜鉛の平均粒子径の小さい比較例1や金属亜鉛含有量の多い比較例4では外観が黒くなり、実用上使用できるレベルではなかった。また、金属亜鉛含有量の少ない比較例3では耐糸錆性に劣る結果となった。さらに、平均粒子径の大きな比較例2では塗膜にざらつき感があり、塗膜からの金属亜鉛の脱落が懸念された。
【0043】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範躊内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーシーム溶接により接合されたスチール製缶胴を有する缶体であって、
前記缶胴の缶体外面側における補修塗装の塗膜中に、平均粒子径が2〜9μmの金属亜鉛粒子を0.3〜20wt%含有することを特徴とする耐糸錆性に優れたスチール缶体。