説明

耐衝撃性ポリスチレンを製造するための改良された方法

ジエンモノマー及びスチレンモノマーからアニオン重合により耐衝撃性ポリスチレンを製造する方法において、
1) 工程1)で、ジエンモノマーから、又は複数種類のジエンモノマー、及びスチレンモノマーから重合開始剤としてアルカリ金属有機化合物を使用し、及び溶媒を付随的に使用してゴム溶液が製造され、次に、
2) 工程2)で、スチレンモノマーをゴム溶液に加え、得られた混合物をアニオン状に重合し、耐衝撃性ポリスチレンを得、
及び、工程1)の後であって、及び工程2)の前に、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物をゴム溶液に加えることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエンモノマー及びスチレンモノマーからアニオン重合により耐衝撃性ポリスチレンを製造する方法において、
1) 工程1)で、重合開始剤としてアルカリ金属有機化合物を使用し、及び付随的に溶媒を使用して、ジエンモノマーから、又はジエンモノマーとスチレンモノマーからゴム溶液を製造し、次に、
2) 工程2)で、スチレンモノマーをゴム溶液に加え、得られた混合物をアニオン状に重合させ、耐衝撃性ポリスチレンを得、
及び、工程1)の後であって、及び工程2)の前に、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物をゴム溶液に加える方法に関する。
【0002】
本発明は、更に、上述した方法によって得られる耐衝撃性ポリスチレンに関し、成形物、箔、繊維、又はフォーム(泡:foam)の製造に耐衝撃性ポリスチレンを使用する方法に関し、及び耐衝撃性ポリスチレンからなる、成形物、箔、繊維、又はフォームにも関する。
【背景技術】
【0003】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS、High−Impact Polystyrene)は、例えば、ポリブタジエンゴム、又はスチレン−ブタジエンブロックゴムを硬いポリスチレンマトリックス中に分散させて含み、そして、種々の重合方法を介し、例えば、遊離基又はアニオン重合を介して製造することができる。例えば、特許文献1(WO98/07765)及び特許文献2(WO98/07766)には、スチレン及び/又はブタジエンのアニオン性重合が記載されている。
【0004】
アニオン重合を介して得られたポリマーは、遊離基重合の手法を介して得られた生成物よりも有利な点を幾つか有しており、特に、残留モノマー含有量が低く、及びオリゴマー含有量が低いという有利な点を有している。遊離基重合とアニオン性重合とは根本的に異なる。遊離基重合の場合、反応は遊離基で進行し、そして例えば、過酸化物の重合開始材料が使用される。しかし、これに対して、アニオン重合は、「活性(living)」なカーボンイオンで進行し、そして例えばアルカリ金属有機化合物(alkali metal organyl compound)が重合開始剤として使用される。アニオン重合は、モノマーを消費した後、好ましくはチェインターミネーター、例えば水又はアルコール等のプロトン性(protic)物質を使用して終了(中断:terminate)させる。
【0005】
アニオン重合(アニオン性重合)は、実質的に遊離基重合よりも速く進行し、そしてより高い転化をもたらす。速い反応速度は、発熱反応の温度の制御を困難にする。温度制御の困難性は、反応速度を遅くする抑制剤として公知のもの(例えば、有機アルミニウム(organylaluminum)、有機亜鉛、又は有機マグネシウム化合物)を使用して対抗することが可能である。反応混合物の粘度は、通常、アニオン性ゴム製造工程の間に急速に増加し、そしてその結果、望ましくない「ホットスポット」が反応器内に形成され、そして反応混合物の取り扱いが困難になる。重合反応は、従って、不活性溶媒、例えば、トルエン又はクロロヘキサン等の炭化水素の中で通常行なわれ、その結果、粘性の上昇が制限される。
【0006】
ゴム溶液は、大半はバッチ式(非連続方式)に得られ、そして次に、通常、バッファータンクの中間的な貯蔵に配置され、そして、その後、第2の、例えば連続操作式の反応器に移され、この反応器内でスチレンモノマーと混合され、そして混合物が重合されてHIPSが得られ、そしてこの参照は、例えば、特許文献3(DE特許出願で番号が102502830.3)及び特許文献4(DE特許出願で番号が10316266.6のもの)(本出願の優先日の前に発行(公開)されていない)、及びまた、特許文献5(DE−A10218161)の11頁の実施例、28行目から12頁の6行目に見ることができる。
【0007】
【特許文献1】WO98/07765
【特許文献2】WO98/07766
【特許文献3】DEAz.10250280.3
【特許文献4】DEAz.10316266.6
【特許文献5】DE−A10218161
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
不活性溶媒を使用するにもかかわらず、ゴム溶液の粘度は非常に高く、そしてこのことは、溶液の第2の反応器に、例えばポンプを使用して移すことを困難にする。ゴムの製造の間、溶媒の量を著しく増加させ、そして低粘度のゴム溶液を得ることも可能である。しかし、溶媒は、後にHIPS最終製品から後に除去する必要があるので、追加的な溶媒は、工程のコスト的効果を低減させる。
【0009】
本発明の目的は、上述した不利な点を除くことである。特に、本発明の目的は、耐衝撃性ポリスチレンを製造可能であり、そして費用に対してより効果の高い代替(alternative)の方法を提供することにある。特に、工程の間、ゴム溶液の取扱が容易であるべきである。更に、ゴム溶液の粘度が低くあるべきで、そしてこの溶液のポンプ作動による運搬がより容易であるべきである。
【0010】
これらの改良は、溶媒の不利となる増加によって達成されるべきではない。なぜならば、溶媒の増加は費用に対して効果的ではないからである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、冒頭に定義した方法、上述した耐衝撃性ポリスチレン、その使用法、及び成形物、箔、繊維、及びフォームが見出された。本発明の好ましい実施の形態はサブクレイム(subclaim)に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法の工程1)において、ゴム溶液がジエンモノマーから、又はジエンモノマーとスチレンモノマーから、重合開始剤としてアルカリ金属有機化合物を使用し、及び付随して溶媒を使用することにより製造される。
【0013】
使用可能なジエンモノマーは、重合可能なジエン、特に1,3−ブタジエン(略してブタジエンとする)、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチルブタジエン、イソプレン、ピペリレン、又はこれらの混合物である。ブタジエンが好ましい。
【0014】
適切なスチレンモノマーは、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ビニルスチレン、ビニルトルエン、1,2−ジフェニルエチレン、1,1−ジフェニルエチレン、又はこれらの混合物等のビニル芳香族モノマーである。スチレンを使用することが特に好ましい。
【0015】
ある実施の形態では、スチレンは、スチレンモノマーとして使用され、そしてブタジエンがジエンモノマーとして使用される。これらモノマーの混合物を使用することも可能である。
【0016】
他のコモノマーも付随して使用可能であり、コモノマーは、例えば、工程1)で使用するモノマーの全量に対して、0〜50質量%の割合、好ましくは0〜30質量%、及び特に好ましくは、0〜15質量%の割合で使用可能である。これらの適切な例は、アクリル酸塩、特に、n−又はtert−ブチルアクリル酸塩、又は2−エチルヘキシルアクリル酸塩等のC1-12−アルキルアクリル酸塩、及びメチルメタクリレート(MMA)等の対応するメタクリレートである。エポキシドも好ましく、例えば、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである。DE−A19633626の3頁5−50行には、M1−M10下に他の適切なコモノマーが記載されている。
【0017】
次に、有機化合物として、少なくとも1個の金属−炭素σ結合を有する成分の有機金属化合物、特にアルキル又はアリール化合物について説明する。有機金属化合物は、水素又はハロゲンも含むことができ、又はヘテロ原子によって結合した有機基を含むことができ、有機基の例は、金属上のアルコラート基又はフェノラート基である。例えば、後者は完全な又は部分的な加水分解、アルコール分解、アミノ分解(aminolysis)を介して得ることができる。
【0018】
使用可能なアルカリ金属有機化合物(重合開始剤)は、特に、単一官能性、二官能性、又は多官能性のアルカリ金属アルキル、アリール、又はアラルキル化合物(しかし、水和リチウム、水和ナトリウム(sodium hydride)、又は水和カリウム等のアルカリ金属水和物は該当しない)である。有機リチウム化合物(オルガニルリチウム化合物)、すなわち、有機リチウム化合物(オルガノリチウム化合物)は、好ましくはアルカリ金属有機化合物として使用することが好ましい。これらの適切な例は、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、n−ブチル−、sec−ブチル−、tert−ブチル−、フェニル−、ジフェニルヘキシル−、ヘキサメチレンジ−、ブタジエニル−、イソプレニル−、又はポリスチリルリチウム、又は多官能性化合物1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−ブタン、又は1,4−ジリチオベンゼンである。好ましくは、sec−ブチルリチウムが使用される。
【0019】
オリゴマー性のポリスチレン−アルカリ金属化合物は、スチレンアニオンとアルカリ金属カチオンから形成され、そして、重合反応がポリスチリルアニオンにて進行するものと思われる。従って、スチレン及び有機リチウム化合物は、おそらく、化合物[ポリスチリル]-Li+を形成している。重合反応の間及び重合反応の終了後においても、すなわち、モノマーが消費された後においても、反応混合中には「活性な(生きている)」ポリマー鎖が存在する。「活性な」とは、重合反応が、更にモノマーを追加することにより直ちに再度開始され、この重合反応の再開始には、重合開始剤の更なる追加が必要とされないことを意味する。
【0020】
アルカリ金属有機化合物の必要量は、特に、製造するべきポリマーの所望の分子量(モラーマス)に依存し、使用される有機アルミニウム化合物の特性と量に依存し(以下を参照)、そして重合温度に依存する。アルカリ金属有機化合物の使用量は、工程1)で使用されるモノマーの合計量に対して、通常0.0001〜10モル%、好ましくは0.001〜1モル%、及び特に好ましくは0.01〜0.2モル%である。2種以上のアルカリ金属有機化合物を使用することも可能である。
【0021】
重合反応は、溶媒の存在下に行なわれる。適切な溶媒の例は、脂肪族、同素環式、又は芳香族の炭化水素又は炭化水素混合物であり、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クメン(cumene)、キサン、ヘプタン、オクタン、又はシクロヘキサンである。沸点が75℃以上の溶媒を使用することが好ましく、この溶媒の例は、エチルベンゼン、トルエン、又はシクロヘキサンである。エチルベンゼンが特に好ましい。溶媒は、後の工程において、揮発分除去工程の間に除去され、そして収集され、精製され、そして再使用される。
【0022】
工程1)でのゴムの製造において、及び/又は工程2)での硬いマトリックスの製造において、イオン化した化合物(polar compound)又はルイス塩基を使用することもできる。原則として、文献によって公知であるアニオン性重合添加剤のいずれでも適切である。通常、これらは、自由電子対を有する少なくとも1種のO、N−、S−、又はP原子を含んでいる。エーテル及びアミンが好ましく、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クラウンエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチレントリアミン、1,2−ビス(ピペリジノ)エタン、ピリジン、N,N,N’,N’,N”,N”−ヘキサメチルトリエチレントリアミン、及びヘキサメチルホスホールアミドである。THFが好ましい。
【0023】
ルイス塩基は、活性剤として作用し、そして多くの場合、重合反応中の転化を増加させるか、又は反応速度を増加させる。ルイス塩基が、ゴム重合反応の前、又はその間に加えられる範囲において、ルイス塩基が、ブタジエンポリマー又はイソプレンポリマー中の異なるビニル結合の割合を制御することが更に可能になり、そして従って、ゴムの微細構造に影響を及ぼすことが更に可能になる。特に、スチレン‐ブタジエンブロックコポリマーの場合、及びポリブタジエンの場合、及びポリイソプレンの場合、ポリブタジエン又はポリイソプレン中の1,2−ビニル結合の含有量を制御することが可能である。これらゴムの機械的性質もポリブタジエン又はポリイソプレン中の1,2−ビニル含有量によって決定されるので、従って、この方法はHIPSの製造を可能とする。
【0024】
ルイス塩基が反応速度を増加させる場合、ルイス塩基の量は、混合物全体の反応速度が、抑制剤成分を添加しない混合物の反応速度よりも遅くなるように決定されることが有利である。この目的のために使用されるルイス塩基の量は、アルカリ金属有機化合物に対して、500モル%未満、好ましくは200モル%未満、及び特に100モル%未満である。
【0025】
ルイス塩基は、ゴム合成反応の前又は後に加えることができ、そしてこのことは、ルイス塩基がゴムの微細構造の制御に使用されるか、あるいは反応の加速に使用されるかに依存している。
【0026】
結果物であるゴム溶液をスチレンモノマーで希釈することは、工程2)の前であることが有利であり得る。上述したスチレンモノマーは、この目的に適切であり、特にスチレンが適切である。例えば、工程1)においてスチレンで希釈することにより、溶液の固体含有量を正確に調整できる。
【0027】
温度、圧力、及び重合時間等の他の重合条件を選択する方法は、通常、当業者にとって公知であるスチレンモノマーとジエンモノマーのためのアニオン重合方法のものに類似する。
【0028】
重合反応が、「活性特性」を有しているために、更にモノマーを追加することにより、重合開始剤を更に加えることなく、重合反応が直ちに再度開始される。従って、通常、工程1)は、重合反応の後、水又はアルコール等のチェインターミネーターの付加を介して停止されることがない。しかしながら、重合開始剤に対して有機アルミニウム化合物を(モルで)過剰に添加することにより、反応を「凍結」させることができる。
【0029】
本発明の工程1)は、耐圧性及び耐温性の何れの反応器においても、バッチ式又は連続的に行なうことが可能であり、そして原則として逆混合(back-mixing)反応器、又は非逆混合反応器(例えば、攪拌タンク挙動を有する反応器、又はチューブ反応器挙動を有する反応器)を使用することが可能である。本方法は、重合開始剤の濃度及び重合開始剤の選択の関数として、使用した所定の工程シーケンスの関数として、及び、温度及び任意に温度プリフィール等の他のパラメーターの関数として、高分子量又は低分子量のポリマーをもたらす。例えば、攪拌タンク、塔状反応器、ループ反応器、及びチューブ状反応器、又はチューブ束反応器(内部構造(internal)を有するもの又は有しないもの)が適切である。内部構造は、静的又は動的な内部構造である。重合反応は、1工程以上で行うことができる。工程1)における重合反応が、バッチ式、例えば攪拌タンク内で行われることが好ましい。
【0030】
WO98/07765及びWO98/07766には、反応器のデザインと操作条件について更に詳細に記載されており、そしてその記載は、本願に参照として組み込まれる。
【0031】
本方法の工程1)は、不活性溶媒に溶解したゴムポリマーを含む反応混合物を与える。このようなゴムポリマーは、ポリブタジエン(PB)及びポリイソプレン(PI)等のホモポリマーであり、及びスチレン−ブタジエンブロックコポリマー(S−Bポリマー)等のコポリマーである。ゴムは、ポリブタジン及びスチレン−ブタジエンブロックコポリマーから選ばれることが好ましい。
【0032】
スチレン−ブタジエンブロックコポリマーは、本発明の方法によるアニオン重合を介して得られるような、例えば、線状2−ブロックS−Bコポリマー又は3ブロックS−B−S又はB−S−Bコポリマー又は他のポリブロックコポリマー(S=スチレンブロック、B=ブタジエンブロック)であって良い。ブロック構造は、スチレンだけが最初にアニオン性重合し、スチレンブロックを製造することによって、実質的に発生する。スチレンモノマーが消費され、モノマーは、モノマー性ブタジエンを加えることによって変化され、及びその物質がアニオン的に重合してブタジエンブロックポリマーを得る(このことは、逐次重合(sequential polymerization)として知られている)。所望により、結果物である2ブロックS−Bポリマーを、スチレン上での更なるモノマーへの変化を介して重合させ、3−ブロックS−B−Sポリマーを得ても良い。同一の原理が3ブロックB−S−Bコポリマーに適用される。
【0033】
3−ブロックコポリマーの場合、2個のスチレンブロックが同一のサイズ(同一の分子量、すなわち対称S1−B−S1構造)又は異なるサイズ(異なる分子量、すなわち非対称S1−B−S2構造)であることが可能である。同一の原理がB−S−Bブロックコポリマー内の2個のブタジエンブロックに適用される。他のブロック配列(ブロックシーケンス)も当然に可能であり、これらは、S−S−B又はS1−S2−B又はS−B−B又はS−B1−B2である。上述の指数はブロックサイズを表すためのものである(ブロック長さ又は分子量)。ブロックサイズは、例えば使用したモノマーの量、及び重合条件に依存する。
【0034】
エラストマー性「柔軟」ブタタジエンブロックBの代わりにB/Sブロックであっても良く、又はブロックBに加えて、B/Sブロックがあっても良い。これらは同様に柔軟でそして例えば、ランダム分布の又はテーパー構造(テーパー=スチレンリッチからスチレンプアへの勾配、又はその逆)のブタジエンとスチレンを含んでいる。ブロックコポリマーが、2個以上のB/Sブロックを含む場合、個々のB/Sブロック内のスチレンとブタジエンの絶対量及び相対割合は、同一であって良く又はブロック(B/S)1、(B/S)2等、異なるものであって良い。
【0035】
上述したブロックコポリマーは、(上述した)線状構造を有して良く、及び通常、ホモポリマーについても同様である。しかしながら、分岐状又は星型構造も可能であり、そしてこれらは、ある適用例では好ましい。分岐したコポリマーはそれ自体公知の方法で得られ、例えば、ポリマー主鎖上へのポリマー「枝」のグラフト反応を介して得られる。
【0036】
星状ブロックコポリマーは、例えば、活性(生きている)アニオン鎖の端と少なくとも二官能性の結合剤との反応を介して形成される。これら結合剤は、例えば、US特許3985830、3280084、3637554及び4091053に記載されている。好ましいものは、エポキシド化グリセリド(例えば、エポキシド化亜麻仁油又は大豆油)、SiCl4等のハロゲン化シリコン、又は他にジビニルベンゼン、及び多官能性アルデヒド、ケトン、エステル、アニヒドリド、又はエポキシドである。特定の二量体用のものについて、他の適切な物質は、ジクロロジアルキルシラン、テレフタルアルデヒド等のジアルデヒド、及びエチルフォルメイト(エチル蟻酸)等のエステルである。対称又は非対称の星状構造が、同一又は異なるポリマー鎖の結合を介して製造でき、そしてこのことは、星(星状)の個々の枝が同一又は異なり得るもので、そして特に、異なるブロックS、B、B/S又は異なるブロック配列を含むことができることを意味する。星状ブロックコポリマーに関して更なる詳細は、例えばWO−A00/58380に見出される。
【0037】
上述したモノマーの名称であるスチレンとブタジエンは、例えば他のビニル芳香族モノマー又はジエンモノマーも表す。
【0038】
本発明に従えば、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物(alkali metal hydrid)が、工程1)の後であって工程2)の前に、結果として得られた溶液に加えられる。
【0039】
使用可能な有機アルミニウム化合物は、式R3Al(但し、基Rが、互いに独立して水素、ハロゲン、C1-20−アルキル、又はC6-20−アリールである。)のものである。好ましい有機アルミニウム化合物は、トリエチルアルミニウム(TEA)、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム化合物、及び水和ジエチルアルミニウム(DEAH)、又は水和ジイソブチルアルミニウム(DIBAH)等の水和ジアルキルアルミニウムである。TEA又はTIBAを使用することが特に好ましく、TEAが特に好ましい。有機アルミニウム化合物は、部分的又は完全な加水分解、アルコール分解、アミノ分解を介して、又は(部分的又は完全な)アルキル−又はアリールアルミニウム化合物の酸化を介して製造されたこれらのものを含むことができる。例は、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチル(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウム(CAS No.56252−56−3)、メチルアルミノキサン、イソブチル処理したメチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、テトライソブチルジアルミノキサン、又はビス(ジイソブチル)アルミニウムオキシドである。
【0040】
有機アルミニウム化合物に加え、マグネシウム及び/又は亜鉛の有機化合物を使用することも可能である。適切な有機マグネシウム化合物は、式R2Mg(但し、Rが、上述のように定義されたものである。)である。ジアルキルマグネシウム化合物を使用することが好ましく、特に、市販のエチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、又はオクチル化合物が好ましい。炭化水素に可溶性の(n−ブチル)(sec−ブチル)マグネシウムの使用が特に好ましい。使用可能な有機亜鉛化合物は、式R2Zn(但し、基Rが上述した定義である)のものである。好ましい有機亜鉛化合物は、ジアルカリ亜鉛化合物、特に、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、又はオクチルをアルキル基として有するものである。ジエチル亜鉛が特に好ましい。有機マグネシウム及び/又は有機亜鉛化合物が付随して使用される場合、以降の有機アルミニウムという用語は、有機アルミニウム、有機マグネシウム、及び有機亜鉛化合物をまとめためたものである(代表している)。
【0041】
適切なアルカリ金属水和物の例は、水和リチウム、水和ナトリウム又は水和カリウム、好ましくは水和ナトリウムである。
【0042】
有機アルミニウム化合物の必要量は、特に、使用するアルカリ金属有機化合物の特性と量に依存し、そして、ゴム溶液の粘度(粘性)に依存する。通常使用される有機アルミニウム化合物の量は、工程1)で使用されるモノマーの合計量に対して、0.0001〜10モル%、好ましくは、0.001〜5モル%、及び特に0.01〜2モル%である。2種以上の有機アルミニウム、有機マグネシウム、又は有機亜鉛化合物を使用することも当然に可能である。
【0043】
アルカリ金属水和物の必要とされる量は、特に、使用する有機アルミニウム化合物の特性と量に依存し、そして、ゴム溶液の粘度に依存する。アルカリ金属水和物の使用量は、工程1)で使用されるモノマーの合計量に対して通常、0.0001〜10モル%、好ましくは、0.001〜5モル%、及び特に0.01〜2モル%である。2種以上のアルカリ金属水和物を使用することも当然に可能である。
【0044】
有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物の添加は、ジエンモノマー又はジエンモノマーとスチレンモノマーの重合の後まで遅らせられ、このことは、これらが仕上られたゴム(finished rubber)の溶液に添加されることを意味する。従って、アルミニウム化合物は、従来技術の方法の場合のように、(重合速度を低減させ、そして従って、ゴムモノマーの重合を制御する)抑制剤としては作用しない。重合反応の後に有機アルミニウム化合物を添加することは、ゴム溶液の粘度を著しく低減させることが見出されたことは驚くべきことであった。重合の後、有機アルミニウム化合物が、ゴム溶液内に存在する二量体のリチウム錯体を少なくともある程度破壊し、従ってゴム溶液の粘度を低減させることが可能である。
【0045】
また、有機アルミニウム化合物は、活性(生きている)ポリマー鎖を安定化させるものと思われる。特に、有機アルミニウム化合物は、温度を上げて行なわれることが好ましい第2の反応器にゴムを移す間、活性鎖の熱分解を抑制すると考えられる(後述、参照)。
【0046】
有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物は、互いに別々に加えることができ、そして一緒に加えることが好ましい。有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物及び同様に、アルカリ金属有機重合開始剤は、希釈せずに使用可能であり、又は好ましくは、不活性溶媒又は懸濁媒体に、希釈又は懸濁させて使用でき、例は、エチルベンゼン、シクロヘキサン、又はトルエンである。鉱油は、例えば、アルカリ金属水和物のための懸濁媒体として適切である。
【0047】
好ましいものとして、本発明の工程1)と工程2)が、異なる反応器で行なわれる場合、材料が第1の反応器内に存在する間に、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物を、ゴム溶液に加えることが好ましく、そして、第2の反応器内に溶液を移す前に加えることが特に好ましい。溶液が、バッファータンク内の中間的な貯蔵に配置される場合、バッファータンク内に移す前に、有機アルミニウム化合物とアルカリ金属水和物を加えることが好ましい。
【0048】
有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物から、予め混合物を製造し、この後に混合物をゴム溶液に加えることが好ましい。この混合物は、特に好ましくは、スチレン又は他のスチレンモノマーを含むことが特に好ましい。この混合物は、溶液又は懸濁媒体を付随的に使用して製造することが好ましい。不活性炭化水素が特に適切であり、より正確には、脂肪族、脂環式、又は芳香族炭化水素、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、又はパラフィンオイル、又はこれらの混合物である。エチルベンゼンが特に好ましい。
【0049】
混合物を製造するために、例えば、溶媒、スチレン、及びアルカリ金属水和物が最初の供給物として使用可能であり、そして、次に有機アルミニウム化合物を加えることができる。この混合物を所定時間、熟成(成熟)させる、例えば2分〜24時間熟成させることが有利である。熟成工程は、おそらく、金属化合物のキレート化に起因するものと考えられ、熟成工程は、混合処理よりもゆっくりと進行する。成分は、如何なる混合装置(混合アセンブリー)内でも混合可能であり、不活性気体が供給される混合装置内での混合が好ましい。例えば、アンカー攪拌器(anchor stirrer)又は振動容器(vibrating vessel)である。静的混合要素を有する加熱可能なチューブが、連続的な製造工程に特に適切である。熟成工程も(材料が連続的に流れる)攪拌タンク内で行うことが可能であり、及び、チューブ部分で行なうことが可能であり、その容積は、流速と共に、熟成時間を決定する。
【0050】
工程1)の後及び工程2)の前に存在する、有機アルミニウム化合物、アルカリ金属有機化合物(重合開始剤)及びアルカリ金属水和物のモル割合は、種々に変えることができる。工程1)での、有機アルミニウム化合物のアルカリ金属有機化合物に対するモル割合は、通常、10〜1000モル%、好ましくは20〜500モル%、及び特に50〜200モル%であり、このモル%は、アルカリ金属有機重合開始剤からのアルカリ金属のモル量に対する、有機アルミニウム化合物からのアルミニウムのモル%である。
【0051】
工程1)の後であって工程2)の前のアルカリ金属水和物に対する有機アルミニウム化合物のモル割合は、通常、10〜200モル%、好ましくは20〜200モル%及び特に50〜150モル%であり、このモル%は、有機アルミニウム化合物からのアルミニウムのモル量に対する、アルカリ金属水和物からのアルカリ金属のモル%である。
【0052】
工程1)の後及び工程2)の前における有機アルミニウム化合物のアルカリ金属化合物の全量(すなわち、アルカリ金属有機化合物及びアルカリ金属水和物の全量)に対するモル割合は、通常、5〜500モル%、好ましくは10〜300モル%、及び特に20〜100モル%であり、このモル%は、アルカリ金属の合計モル量(アルカリ金属有機重合開始剤及びアルカリ金属水和物の全体)に対する、有機アルミニウム化合物からのアルミニウムのモル%である。
【0053】
本発明の工程の工程2)において、スチレンモノマーが結果物であるゴム溶液に加えられ、そして結果物である混合物がアニオン性重合されて耐衝撃性ポリスチレンが得られる。
【0054】
適切なスチレンモノマーは前述したものである。スチレン又はα−メチルスチレンを使用することが好ましく、スチレンを使用することが特に好ましい。
【0055】
工程2)で加えられたスチレンモノマー、−及び所望により、ゴム溶液の希釈のために、工程1)で予め加えられたスチレンモノマー−は、ゴムの存在下にアニオン性重合してHIPSを得る。
【0056】
スチレンモノマーに加え、工程2)で上述した他のモノマーを連続的に使用するこが可能である。これらの割合は、工程2)で使用したモノマーの合計量に対し、通常、0〜50質量%、好ましくは0〜30質量%、及び特に好ましくは、0〜15質量%である。
【0057】
工程2)での、アニオン重合反応は、それ自身公知の方法で行われる。使用する重合開始剤は、アルカリ金属有機化合物、アルカリ金属水和物、及び上述したものの混合物を含む。好ましいアルカリ金属化合物は、上述したものである。特に好ましいアルカリ金属有機化合物は、sec−ブチルリチウムであり、及び特に好ましいアルカリ金属水和物は、水和ナトリウム(sodium hydride)である。
【0058】
工程1)での重合反応を終了させた場合、アルカリ金属有機化合物又はアルカリ金属水和物は、工程2)で再度使用されるべきである。工程1)で重合反応を終了させない場合(このことが好ましいのだが)、ポリマーの所望の分子量の関数として、アルカリ金属有機化合物又はアルカリ金属水和物を再度加えることが可能であるが、このことは本質的(必須のもの)ではない。しかしながら、工程1)で重合を終了させていなくても、アルカリ金属化合物又はアルカリ金属水和物を、工程2)で再度加えることが好ましい。
【0059】
工程2)で必要とされるアルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物の量は、特に、製造されるポリマーの分子量(モラーマス)、及び使用する有機アルミニウム化合物の特性と量、及び、重合温度に依存する。アルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物が使用される場合、使用するアルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物の量は、工程2)で使用したモノマーの合計量に対して、通常、0.0001〜10モル%、好ましくは0.001〜1モル%、及び特に好ましくは、0.01〜0.2モル%である。2種以上のアルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物を使用することも可能である。
【0060】
工程2)において、有機アルミニウム化合物を付随して使用することが好ましい。適切で好ましい有機アルミニウム化合物は、上述したものである。特に好ましい有機アルミニウム化合物は、TIBA及びTEAであり、特にTEAである。
【0061】
有機アルミニウム化合物に加え、上述した有機マグネシウム化合物、及び/又は有機亜鉛化合物を使用することも可能である。有機マグネシウム化合物及び/又は有機亜鉛化合物が付随的に使用される場合、有機アルミニウム化合物という用語は、以降、有機アルミニウム化合物、有機マグネシウム化合物、及び有機亜鉛化合物をまとめている(代表している)。
【0062】
工程1)とは異なり、工程2)での有機アルミニウム化合物は、重合反応の前に加えられ、そして抑制剤として作用し、すなわち、反応を制御するように作用する。工程2)で必要とされる有機アルミニウム化合物の量は、特に、本方法の工程1)及び工程2)で使用されるアルカリ金属有機化合物又はアルカリ金属水和物の特性と量に依存し、及び重合温度に依存する。有機アルミニウム化合物を使用する場合、これらの量は、通常、0.0001〜10モル%、好ましくは0.001〜5モル%、及び特に0.01〜2モル%であり、このモル%は、工程2)で使用されるモノマーの合計量に対する有機アルミニウム化合物のモル%である。2種以上のオルガノアルミニウム化合物を使用することも当然可能である。
【0063】
ここで、工程1)及び工程2)で使用するアルカリ金属有機化合物、アルカリ金属水和物、又は有機アルミニウム化合物は同一のものであって良く、又は互いに異なるものであって良い。
【0064】
本発明の方法の工程2)に存在する有機アルミニウム化合物、アルカリ金属化合物、及びアルカリ金属水和物のモル割合は変化可能である。工程2)における、有機アルミニウム化合物のアルカリ金属有機化合物に対するモル割合は、通常、0.1:1〜20:1、好ましくは0.2:1〜10:1で、このモル割合は、Al/Morgany(M=アルカリ金属)のモル割合として計算したものである。工程2)における、有機アルミニウム化合物のアルカリ金属水和物に対する割合は、通常、0.2:1〜5:1、好ましくは0.5:1〜1.5:1で、このモル割合は、Al/Mhydrideのモル割合として計算したものである。
【0065】
工程2)における、有機アルミニウム化合物のアルカリ金属化合物の全体(すなわち、アルカリ金属有機化合物及びアルカリ金属水和物)に対すモル割合は、通常、0.1:1〜5:1、特に0.5:1〜1.5:1で、このモル割合は、Al/Morganyl+hydrideのモル割合として計算したものである。
【0066】
工程2)における、スチレンモノマー、有機アルミニウム化合物、及びアルカリ金属水和物及び/又はアルカリ金属有機化合物の添加の順序は、次のように選択されることが好ましい。すなわち、添加の順序は、スチレンモノマーが早期に重合することを防止するために、スチレンモノマーを、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物の後に加えるように、又はこれらと一緒に加えるように選択されることが好ましい。成分が引き続いて加えられる場合、例えば、有機アルミニウム化合物を最初に加えることが可能であり、そして次にアルカリ金属水和物又はアルカリ金属有機化合物を加え、そして最後にスチレンモノマーを加えることが可能である。
【0067】
有機アルミニウム化合物、及びまた、アルカリ金属水和物及び/又はアルカリ金属有機化合物が、前述のように予め製造した混合物の状態で加えられることが好ましい。
【0068】
工程2)で不活性溶媒が再度加えられても良い。適切な溶媒は、上述したものである。しかしながら、工程1)でのゴム合成の間に加えられた溶媒以外には、続く後処理で溶媒が除去されることがないように、更なる溶媒を加えないことが好ましい。
【0069】
工程2)における重合温度は、通常50〜250℃、好ましくは75〜200℃、及び特に好ましくは80〜180℃である。圧力と重合時間に関し、工程1)についての記載が適用できる。
【0070】
本方法の工程2)は、工程1)のために前述し、そして耐圧力性及び耐熱性の何れの反応器においてでも、非連続的(バッチ式)又は連続的に行なうことができる。工程2)における重合は、例えば、塔状反応器(tower reactor)又はチューブ反応器内で連続的に行うことが好ましい。
【0071】
ある好ましい実施の形態では、重合は、工程1)ではバッチ式で行なわれ、そして工程2)では連続的に行なわれる。両工程において、単一の反応器の代わりに2台(基)以上の反応器を使用することが当然、可能である。例えば、工程1)において、ゴムを攪拌タンクカスケード内で重合でき、及び/又は工程2)で直列状に配置された2台以上の塔状反応器又はチューブ反応器内でマトリックスを重合することができる。
【0072】
重合が完了した後、チェインターミネーターの添加により重合反応が終了される。ここでチェインターミネーターは、活性ポリマー鎖の端部を不可逆的に終結させるものである。使用可能なチェインターミネーターは、活性プロトンを有する物質及びルイス酸である。適切な物質の例は、水(好ましくは)、及びまた、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、及びブタノール等のC1−C10アルコールである。2−エチルヘキサン酸等の脂肪族及び芳香族カルボン酸、及びフェノールも適切である。炭酸(水中CO2溶液)及びホウ酸等の無機酸を使用することも可能である。
【0073】
チェインターミネーターは、その状態(そのままの状態)で使用可能であり、また他に、チェインターミネーター、鉱油(これに関しては後述する)及び所望により通常の乳化剤を含むチェインターミネーター混合物の状態で使用可能である。乳化剤の界面活性剤としての特性は、イオン性チェインターミネーターと非イオン性ターミネーター溶液からなる混合物を安定化させる。
【0074】
反応の終了(中断)後、反応混合物は、通常、例えば揮発分除去による後処理がされる。反応混合物は、例えば、所望の耐衝撃性ポリスチレンに加え、重合と終了(ターミナーション)の間に使用した助剤及び添加剤を含み、そして場合によっては、未反応モノマー(残留モノマーとして公知)、及び場合によっては、重合の望ましくない副生成物としてオリゴマー又は低分子量ポリマーを含む。例えば、吐出押出成形機(vented extruder)、部分蒸発器、押出式揮発分除去器(extrudate devolatilizer)、又は真空容器等の通常の揮発分除去装置を使用した揮発分除去工程は、残留モノマー及び残留オリゴマーを除去し、そして特に工程1)で加えた溶媒を除去する。
【0075】
本方法から得られた生成物はゴム成分と硬いマトリックス(matrix)を含んだ耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)である。適切なゴム成分の例は、
a)質量平均分子量MWが、好ましく10000〜500000、好ましくは30000〜300000である、ポリブタジエン又はポリイソプレン、
b)スチレン含有量が1〜80質量%、好ましくは5〜50質量%である、S−Bスチレン−ブタジエン2−ブロックコポリマー。スチレンブロックSの分子量MWが、好ましくは1000〜200000、特に5000〜100000、及びブタジエンブロックBの分子量MWが、好ましくは20000〜300000、特に50000〜150000である。
c)スチレン含有量が、1〜80質量%、好ましくは5〜50質量%であるS1−B−S2スチレン−ブタジエン−スチレン3ブロックコポリマー。第1のスチレンブロックS1の分子量MWが、好ましくは1000〜150000であり、特に5000〜100000、及びブタジエンブロックBの分子量MWが、好ましくは20000〜300000、特に50000〜150000であり、及び第2のスチレンブロックS2の分子量MWが、好ましくは1000〜150000、特に5000〜100000である。データーは、g/molの質量平均MWである。
d)ブロックコポリマーb)及びc)の混合物、
e)ポリブタジエンa)とブロックコポリマーb)及び/又はc)の混合物である。
【0076】
硬いマトリックスの質量平均モラーマス(分子量)MWは、通常、50000〜300000g/mol、好ましくは100000〜250000g/molである。
【0077】
本発明は、上述した方法のみならず、この重合方法によって得られる耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)をも提供する。
【0078】
本発明の耐衝撃性ポリスチレンに特定の特性を与えるために、広範囲で種々の添加剤及び/又は加工剤(助剤)を、耐衝撃性ポリスチレンに加えることができる。ある好ましい実施の形態では、例えば、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%の鉱油、例えば、白油が加えられこれにより機械的特性、特に破断引張力(tensile strain at break)を改良する。
【0079】
他の好ましい実施の形態では、例えば、0.01〜0.3質量%、好ましくは0.02〜0.2質量%の酸化防止剤、又は光の露光を中和する安定化剤(略して光安定化剤とする)、又はこれらの混合物が、別の添加剤として使用される。これらの添加剤は、ポリマーの空気及び酸素又はUV放射に対する抗力を増し、そして従って、ポリマーの風化に対する抗力及び老化に対する抗力を増す。上述した量は、得られたポリマーに対するものである。
【0080】
ポリマーは、鉱油、酸化防止剤、及び光安定化剤に加え、他の添加剤及又は加工剤を含むことができ、この例は、潤滑剤、又は離型剤、着色料、例えば、顔料、染料、難燃剤、繊維状充填材、及び粉状充填材又は繊維状補強剤及び粉状補強剤、又は静電気防止剤、及びまた他の添加剤又はこれらの混合物である。個々の添加剤の使用量は、それぞれ通常のものであり、そしてこれについての更なる詳細は不必要と思われる。例えば、添加剤は、ポリマー溶融物の後処理の間に添加することができ、及び/又は、固体ポリマー(例えば、ポリマーペレット)に加えることができ、この添加は、それ自体は公知の混合手段、例えば押出成形機内で溶融させて行なうことができ、バンバリーミキサー、ニーダー、又はロールミル又はカレンダーによって行なうことができる。
【0081】
本発明の耐衝撃性ポリスチレンは、全ての成形物(半仕上製品を含む)、箔、ファイバー、及びフォームに使用できる。
【0082】
本発明は、従って、成形物、箔、ファイバー、及びフォームを製造するために耐衝撃性ポリスチレンを使用する方法も提供し、及び耐衝撃性ポリスチレンから得られる成形物、箔、ファイバー、及びフォームをも提供する。
【0083】
本発明の方法は、従来技術の方法よりも費用に対して効果が高い。本発明の方法において、ゴム溶液は、取り扱いがより容易であり、特にポンプ作動により循環させることがより容易である。ゴム溶液の粘度は、顕著に低く、しかしながら、使用する溶媒の量は、従来技術の方法における量以下である。
【実施例】
【0084】
以下の化合物が使用され、そしてここで「精製」とは、精製と乾燥のためにアルミノキサンを使用したことを意味する。全ての反応は、水分を除外して行なった。
−スチレン、精製したもの、BASFより、
−ブタジエン、精製したもの、BASFより、
−シクロヘキサン中12質量%濃度溶液の状態のsec−ブチルリチウム(s−BuLi)、Chemetallからの直ちに使用可能な溶液、
−鉱油中60質量%濃度懸濁液の状態の水和ナトリウム、Chemetallからの直ちに使用可能な溶液、
−トルエン中、20質量%濃度溶液の状態のトリイソブチルアルミニウム(TIBA)、Cromptonからの直ちに使用可能な懸濁液、
−エチルベンゼン中20質量%濃度溶液の状態のトリエチルアルミニウム(TEA)、Cromptonからの直ちに使用できる状態の溶液、
−テトラヒドロフラン(THF)、BASFより、
−トルエン、精製したもの、BASFより
−エチルベンゼン、精製したもの、BASFより、
−Irganox(登録商標)1076=オタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロフェニル)プロピナート(CAS2082−79−3)、Chiba Specialty Chemicalsより、
−Winog(登録商標)70鉱油、Wintershallからの医薬用白油、
−チェインターミネーターとしての水。
【0085】
以下の第2項と第3項に行なった記載は、共通的記載である。表1と表2に,変数y1〜y3、及び変数x1〜x30についての個々の値をまとめた。
【0086】
1.有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属有機化合物又はアルカリ金属水和物から成る混合物の製造
混合物A:TIBA/スチレン/s−BuLi
1980gのトルエンを、25℃での15l攪拌タンク内への最初の装填として使用し、そして、y1gのスチレン及びy2gのシクロヘキサン中12質量%濃度のs−BuLiの溶液を攪拌させながら加えた。これから10分の後、913gのトルエン中20質量%濃度のTIBA溶液を、この混合物に加え、そしてこの溶液を50℃にまで冷却した。この混合物をこの温度で3時間保持し、そして次に23℃で更に10時間保持した。
【0087】
混合物B:TEA/スチレン/NaH
4182gのエチルベンゼンを、25℃での15l攪拌タンク内への最初の装填として使用し、そして、y1gのスチレン及びy2gの鉱油中60質量%濃度のNaH溶液を攪拌させながら混合した。これから10分の後、380gのエチルベンゼン中20質量%濃度のTEA溶液を、この混合物に加え、そしてこの溶液を50℃にまで冷却した。この混合物をこの温度で3時間保持した。
【0088】
表1と表2に変数y1〜y3の個々の値を示した。
【0089】
2.ポリブタジエンゴムR1c〜R7の製造
411kgのエチルベンゼンを、容量が1500lの攪拌タンク内への最初の装填として(攪拌しながら)挿入し、そして、x1gのスチレンを加えた。混合物の温度を50℃に制御し、そしてこの温度で、x2gのシクロヘキサン中の12質量%濃度のs−BuLi溶液を加えた。これから10分後、混合物の温度を60℃に制御し、そしてx3gのTHF及びx4gのブタジエンを加えた。20分後、混合物を60℃に冷却し、そしてx5gのブタジエンを加えた。更に25分後、混合物を再度60℃に冷却し、そしてx6gのブタジエンを混合物に加えた。更なるブタジエン部分x7、x8、及びx9の添加方法は、部分x6のものと同様であった。最終部分x9の添加してからx10分後、x11kgのスチレンを、混合物の最終モノマー部分として加えた。更に30分後、混合物を80℃にまで冷却し、そしてx12gの混合物Bを混合物に加えた。上述した各冷却工程は、蒸発冷却(evaporative cooling)を使用した。
【0090】
結果物であるゴム溶液の固体含有量(SC)は、x13質量%であった。x14gのスチレンを加え、これを希釈した。これにより、固体含有量がx15質量%のゴム溶液を得た。これをバッファータンク内の中間的な貯蔵に配置した。
【0091】
GPC分析(テトラヒドロフラン中ゲル浸透クロマトグラフィー、ポリブタジエンスタンダードで目盛り定め)は、ポリマーが単一的な(monomodal)な分布を有していることを示した。ガスクロマトグラフィーで測定した残留ブタジエンモノマー含有量は、10ppm(w)未満であった。上述のように、質量平均分子量MWを、GPCで測定し、そしてx16kg/molであった。
【0092】
表1に、変数x1〜x16についての個々の値を示した。
【0093】
【表1】

【0094】
3.攪拌タンク/塔状反応器を使用した、耐衝撃性ポリスチレンHIPS1〜HIPS11の製造
以下に記載するように、HIPSを連続的に製造(マトリックス重合)し、そして、このためのゴム溶液をバッファータンクから連続的に取り出した。スタンダードアンカー攪拌器を備えた50lの攪拌タンクを使用した。反応器は、絶対圧25バール用に設計されており、そして、反応の等温条件のため、伝熱媒体及び蒸発冷却による温度制御を備えたものである。
【0095】
x17kg/hのスチレン、x18kg/hのゴム溶液(上記第2項及び表1参照)、及びx19g/hの混合物A又は混合物B(上記第1項参照)を、115rpmで攪拌しながら、攪拌タンク内に連続的に計量導入し、そしてタンクを、反応壁の温度が130℃〜150℃で一定になるように維持した。攪拌タンクの出口において、固体含有量はx20質量%であった。
【0096】
反応混合物を、29lの攪拌塔状反応器又は長さが7mで直径が500mmのチューブ反応器の何れかに運んだ(x21)。このチューブ反応器は、サイズが同じである2個の加熱領域を有しており、第1の反応領域は140℃に維持され、そして第2の領域は180℃(反応器壁温度)に維持された。
【0097】
塔状反応器からの生成物は、x22g/hの水と混合され、そして次にx23g/hの追加的な混合物Iと混合され、そして次にミキサー(混合器)に通され、そして最終的に250℃に加熱されたチューブ領域に通された。ここで、混合物Iは、x24gのIrgano(登録商標)1076及びx25kgのWinog(登録商標)70鉱油から予め製造されている。揮発分除去のために、反応混合物は、圧力制御バルブを使用して、x26℃で操作された部分蒸発器に運ばれ、そして10ミリバールの絶対圧及びx27℃で操作された真空容器(evacuated vessel)内で減圧された。
【0098】
結果物であるポリマー溶融物は、スクリューコンベア(conveying screw)で排出され、そして次にx28g/hの追加的な混合物IIで処理され、そしてミキサーに通され、そしてペレット化される。ここで、混合物IIは、x29gのIrganox(登録商標)1076及びx30kgのWinog(登録商標)70鉱油から予め製造されている。転化は量的に行なわれた。
【0099】
結果物であるHIPSは、上述のように測定し、以下の残留モノマー含有量を有していた。すなわち、スチレン5ppm(w)未満、エチルベンゼン5ppm(w)未満である。
【0100】
表2に、変数x17〜x30の個々の値を示した。
【0101】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエンモノマー及びスチレンモノマーからアニオン重合により耐衝撃性ポリスチレンを製造する方法において、
1)工程1)で、重合開始剤としてアルカリ金属有機化合物を使用し、及び付随的に溶媒を使用して、ジエンモノマーから、又はジエンモノマーとスチレンモノマーからゴム溶液を製造し、次に、
2)工程2)で、スチレンモノマーをゴム溶液に加え、得られた混合物をアニオン性重合させ、耐衝撃性ポリスチレンを得、
及び、工程1)の後であって工程2)の前に、有機アルミニウム化合物及びアルカリ金属水和物をゴム溶液に加えることを特徴とする方法。
【請求項2】
ブタジエンがジエンモノマーとして使用され、及びスチレンがスチレンモンマーとして使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゴムが、ポリブタジエン及びスチテン−ブタジエンブロックコポリマーから選ばれることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
有機リチウム化合物が、アルカリ金属有機化合物として使用されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
トリエチルアルミニウム(TEA)又はトリイソブチルアルミニウム(TIBA)又はこれらの混合物が有機アルミニウム化合物として使用されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
水和ナトリウムが、アルカリ金属水和物として使用されることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
ゴム溶液の製造の間、テトラヒドロフランが付随して使用されることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程2)の前に、ゴム溶液がスチレンモノマーで希釈されることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
重合が、工程1)でバッチ式に行なわれ、そして工程2)で連続的に行なわれることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の方法によって得られる耐衝撃性ポリスチレン。
【請求項11】
成形物、箔、繊維又はフォームを製造するために請求項10に記載の耐衝撃性ポリスチレンを使用する方法。
【請求項12】
請求項10に記載の耐衝撃性ポリスチレンからなる成形物、箔、繊維又はフォーム。

【公表番号】特表2007−523977(P2007−523977A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553519(P2006−553519)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001535
【国際公開番号】WO2005/082959
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】