説明

耐衝撃性及び粉末流動性に優れた高分子ラテックス及びその製造方法

耐衝撃性に優れ且つ流動性に優れた、粉体から製造できる高分子ラテックス及びその製造方法を提供する。
シードと、該シードを覆うゴム性コアと、該ゴム性コアを覆うシェルとを含む多層構造の高分子ラテックスであって、上記シードがビニル系単位、親水性単位及び架橋剤単位を含むことを特徴とし、上記コア及びシェルを構成する材料によってアクリル系高分子ラテックスとジエン系高分子ラテックスを提供することができる。本発明によれば、高分子ラテックスのゴム含量を高めて耐衝撃性を向上するとともに、粘度を下げて、噴霧・乾燥時における長期作業性を向上することができる。したがって、上記高分子ラテックスから製造された高分子粉体は、耐衝撃性だけでなく流動性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れ且つ流動性に優れた、粉体から製造できる高分子ラテックス及びその製造方法に関する。また、本発明は、上記高分子ラテックスを噴霧・乾燥して得た高分子粉体及びそれを耐衝撃性改良剤として含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子樹脂またはそれらの混合物は、各種の成形体を製造するのに使われている。しかしながら、この種の樹脂は、樹脂そのものだけでは脆性が強く、最終製品の大半は、該製品で求められる耐衝撃性を満足させていない。したがって、このような短所を補うために、一般に熱可塑性樹脂の成形に添加剤を用いている。上記熱可塑性樹脂の最も代表的なものとしては、塩化ビニル樹脂(PVC)が挙げられる。一般に、PVCの耐衝撃性を向上させるために、耐衝撃性向上剤または耐衝撃性改良剤、例えばメチルメタクリレートブタジエンスチレン(MBS)系樹脂、塩化ポリエチレン(CPE)系樹脂、アクリル系樹脂などを添加する。これら添加剤のうち、アクリル系樹脂は、特に耐候性に優れ、日光への曝し時間が多い屋外用PVC製品の耐衝撃性改良剤として汎用されている。
【0003】
上記の耐衝撃性改良剤は、通常、粉状で供給され、この粉状の大半は、コア・シェル構造を持っている。一般に、コアは、ガラス転移温度の低いゴム質ポリマーからなり、シェルは、相対的にガラス転移温度の高いポリマーからなる。ここで、樹脂の衝撃強度を高めるためには、耐衝撃性改良剤を構成するゴム質の含量を増加させることで耐衝撃効率を向上させることが好ましい。しかしながら、耐衝撃性改良剤のゴム質の含量を増加させると、上記耐衝撃性改良剤の構造中のシェル物質の量が相対的に少なくなるため、シェルによって覆われないコア部分が多くなり、その結果、耐衝撃性改良剤粒子の粘着性が増加する。したがって、このような場合、一般に用いられている分離方法によっては、耐衝撃性改良剤高分子粒子が分散されているエマルジョンから流動性に優れた粉状の耐衝撃性改良材を製造することは困難である。
【0004】
耐衝撃性改良剤高分子粒子が分散されているエマルジョンから粒子を分離し、粉状耐衝撃性改良剤を得る方法としては、大きく二つの方法に分けることができる。その一つは、凝集・乾燥して粉状耐衝撃性改良剤を得ることであり、もう一つは、噴霧・乾燥して粉状耐衝撃性改良剤を得ることである。
凝集・乾燥による方法では、製造された耐衝撃性改良剤エマルジョンに電解質、有機酸または無機酸を加えて凝集スラリーを調製し、この凝集スラリーを洗浄及びろ過した後、乾燥機を使って乾燥することにより耐衝撃性改良剤粉体を得る。
【0005】
噴霧・乾燥による方法では、高温の空気が入っている乾燥機内において耐衝撃性改良剤エマルジョンを噴射して水分を蒸発させることにより粉状の耐衝撃性改良剤を得る。噴霧・乾燥による方法は、非常に経済的で且つ簡単な耐衝撃性改良剤粉体を得る方法ではあるものの、耐衝撃性改良剤粒子が噴霧・乾燥機の壁面に付着しやすく、噴霧機の出口に耐衝撃性改良剤が粘着して該出口が詰まることがないように、噴霧機を頻繁に洗浄する必要があるという不便がある。特に、ゴム含量の高い耐衝撃性改良剤エマルジョンを噴霧・乾燥する場合、かかる問題は一層深刻になる。
【0006】
このような問題を解決するための一つの方法として、ゴム含量の高い耐衝撃性改良剤を噴霧・乾燥する場合、ステアリン酸エステルでコートされた炭酸カルシウムを流動補助剤として用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1においては、ゴム含量88%である耐衝撃性改良剤を上記流動補助剤7重量%と同時に噴霧・乾燥する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、噴霧・乾燥時における長期作業性に優れ且つ流動性に優れた粉体に製造できる、ゴム含量が90重量%以上でありながらも粘度が低いアクリル系高分子ラテックスまたはゴム含量が40%以上でありながらも粘度が低いジエン系高分子ラテックスの例は、未だ開示されたことがない。
【特許文献1】米国特許第4,278,576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、まず初めに、ビニル系単位、親水性単位、及び架橋剤単位を含むシードを用いてシード・ゴム性コア・シェルを含む多層構造の高分子ラテックスを製造し、またシードに含まれる単位の種類と量、及び/またはゴム性コアの製造時に、乳化剤の種類と重合方法などを調節することにより高分子ラテックスのゴム含量及び粘度を調節することができるということを見出して本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、シードと、該シードを覆うゴム性コアと、該ゴム性コアを覆うシェルとを含む多層構造の高分子ラテックスであって、上記シードは、シードに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単位と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単位、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単位とを含む、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含むことを特徴とする高分子ラテックスを提供する。
【0010】
本発明は、上記高分子ラテックスのコア及びシェルの材料に依存し、アクリル系高分子ラテックスまたはジエン系高分子ラテックスを提供することができる。
【0011】
具体的に、本発明は、a)シードに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単位と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単位と、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単位とを含む、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含むシードと、b)ゴム性コアに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)97.0ないし99.9重量部の、アルキル基の炭素数が1ないし8であるアクリル酸アルキルと、及びii)0.1ないし3.0重量部の架橋剤単位とを含み、上記シードを覆うゴム性コア、及びc)アルキル基の炭素数が1ないし4であるメタクリル酸アルキル単位及び芳香族ビニル系単位よりなる群から選ばれた1種以上の単位を含み、上記ゴム性コアを覆うシェルと、を含むアクリル系高分子ラテックスを提供する。
上記アクリル系高分子ラテックスにおいて、上記高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、上記シードは0.3ないし10重量部、上記ゴム性コアは89.7ないし94.7重量部、上記シェルは0.3ないし10重量部をであることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、a)シードに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単位と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単位と、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単位とを含む、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含むシードと、b)ジエン系単位を含み、上記シードを覆うゴム性コア、及びc)芳香族ビニル系単位及びアクリル酸単位よりなる群から選ばれた1種以上の単位を含み、上記ゴム性コアを覆うシェルと、を含むジエン系高分子ラテックスを提供する。
【0013】
上記ジエン系高分子ラテックスにおいて、上記高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、上記シードは0.3ないし10重量部、上記ゴム性コアは40ないし70重量部、上記シェルは20ないし59.7重量部の量で存在することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、a)シード単量体の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単量体と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単量体と、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単量体とを含む乳化液を乳化重合させてシードラテックスを製造する工程と、b)上記a)工程で得られたシードラテックスにゴム性コア単量体を加えて乳化重合し、シードラテックスの外部にゴム性コアラテックスを形成する工程と、及びc)上記b)工程で得られたゴム性コアラテックスにシェル単量体を含む乳化液を加えて乳化グラフト重合し、ゴム性コアの外部にシェルを形成させる工程と、含む高分子ラテックスの製造方法を提供する。
【0015】
上記方法において、上記各工程の乳化液には乳化剤を添加することが好ましい。
【0016】
本発明は、上記高分子ラテックスを噴霧・乾燥して得た高分子粉体及び該高分子粉体を含む樹脂組成物をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
以上で説明した本発明の高分子ラテックスは、高いゴム含量によって優れた耐衝撃性を持つとともに粘度が低く、その結果、噴霧・乾燥時における長期作業性に優れ且つ機械的安定性に優れている。また、上記高分子ラテックスを噴霧・乾燥して得た粉体は、耐衝撃性だけでなく流動性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
<シード>
本発明は、高分子ラテックスのゴム含量を高めながら粘度を下げるために、ビニル系単位、親水性単位、及び架橋剤単位を含むシードを用いて、a)シードと、b)シードを覆うゴム性コアと、及びc)ゴム性コアを覆うシェルとを含む多層構造の高分子ラテックスを製造することを特徴とする。
【0020】
上記a)シードは、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含み、これは、ビニル系単量体、親水性単量体、架橋剤単量体、及び必要に応じて乳化剤を含む乳化液を乳化重合させて製造することができる。
【0021】
一実施の形態として、上記シードは、シードに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単位と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単位と、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単位とを含む、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含んでもよい。
【0022】
他の一実施の形態において、上記シードラテックスは、シード単量体の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単量体と、ii)0.5ないし30重量部の親水性単量体と、及びiii)0.5ないし5重量部の架橋剤単量体とを含む乳化液を乳化重合させて製造してもよい。
【0023】
必要に応じて、上記乳化液に乳化剤を添加することができ、乳化剤の添加量は、シード単量体の合計100重量部を基準にし、0.001ないし0.5重量部であることが好ましい。
【0024】
上記乳化剤としては、下記のゴム性コアラテックスの製造時に用いることができるものを用いればよい。
【0025】
上記シードラテックスの製造時には、通常の重合開始剤または電解質を用いることもできる。
【0026】
本発明によると、高分子ラテックスのシード中のビニル系単位、親水性単位、及び架橋剤単位の組成比を上記のような範囲内で調節することにより、高いゴム含量を有しながら粘度が低い高分子ラテックスを提供することができる。例えば、ゴム含量が90重量%以上でありながらも粘度が1,000cps以下のアクリル系高分子ラテックス、又はゴム含量が40%以上でありながらも粘度が1,000cps以下のジエン系高分子ラテックスを提供することができる。このような組成比は、繰り返し実験によって得た結果である。
【0027】
シードの各材料の組成範囲が、上記実施の態様において挙げた組成範囲外の場合は、後のゴム性コアの製造の際、ゴム含量を増大させることにより優れた耐衝撃性を有するゴム製コアが得られるかもしれないが、噴霧・乾燥の時、乾燥機の壁面への粒子の付着や噴霧機の出口への粘着が過度となるおそれがあって、高分子ラテックスの優れた長期作業性及び高分子粉体の優れた流動性を得ることができない。
【0028】
上記シードラテックスの製造の際、ビニル系単量体、親水性単量体、架橋剤の種類と組成比によって上記シード粒子の架橋度、極性、ガラス転移温度及び粒径などが調節でき、このように調節されたシードは、該シードより調製される高分子ラテックス及び高分子粉体の基本物性に影響を与え得るためである。
【0029】
一方、粘度に影響を与える因子としては、ラテックスTSC(総固形分含量)、粒径とその分布、コア/シェルの比率などが挙げられる。したがって、これらをよく調節して最終ラテックスの粘度をできる限り低減することが好ましい。
【0030】
上記範囲内の組成比(シード)を用いて得たいシード粒子のガラス転移温度の範囲は、−45〜25℃である。
【0031】
上記シードラテックスは、その粒径を50ないし300nmに製造することが以降の段階の重合及びグラフトに有利であり、これによってポリマーラテックスの耐衝撃性も極大化する。特に、上記シードラテックスは、単分散性を持つ重合体の粒子分散物から製造することが好ましい。また、このようなシードの架橋度は、耐衝撃性改良剤全体のモルフォロジーに影響を与えるため、適切な架橋度を持つように耐衝撃性改良剤のシード粒子中のトルエン不溶分が50ないし99.9重量%であることが好ましい。
【0032】
本発明では、従来技術と異なって、シードラテックスの製造の際、親油性単量体に比べて極性の高い親水性単位を上記組成範囲に添加することによって、高分子ラテックスの粒径及びグラフト率などを調節し、高分子ラテックスの粘度を下げることができる。これは、親水性単位が添加されると、シード粒子の極性とガラス転移温度が高くなり且つ重合反応性が高くなることによって、新規な粒子が反応中に生成する頻度が低くなって、高分子ラテックスの粒径を均一にすることができ、粒径が均一になると、粒子表面積が低減してシェルのグラフト率も増大するためである。
【0033】
本発明において用いることができる親水性単量体の非制限的な例としては、ガラス転移温度が室温以上である極性親水性単量体、例えばアクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ベンジルのようなメタクリル酸アルキルなど、またはガラス転移温度が室温以下である極性親水性単量体、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルのようなアクリル酸アルキルなどが挙げられる。これらの親水性単量体のうちから適切な親水性単量体を選ぶことによりシード粒子の極性とガラス転移温度を調節することができ、これによってアクリル系の場合、90重量%以上のゴム含量又はジエン系ゴムラテックスの場合、40%以上のゴム含量を持ちながら粘度が低いゴムラテックスを製造することができる。
【0034】
その他、本発明において用いることができる親水性単量体の例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基などのような官能基を含む単量体、例えばメタクリル酸ヒドロキシルメチル、メタクリル酸グリシジルが挙げられる。
【0035】
本発明において用いることができるビニル系単量体の非制限的な例としては、ガラス転移温度が室温以上である無極性のビニル系単量体、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、及び3,4-ジクロロスチレンなどが挙げられる。
【0036】
本発明において用いることができる架橋剤単量体の非制限的な例としては、ジビニルベンゼン、ジアクリル酸3-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,3-ブタンジオール、ジアクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジアクリル酸テトラエチレングリコール、及びジメタクリル酸テトラエチレングリコールが挙げられる。特に、ビニル系単量体の架橋度を効率よく高めるためにジビニルベンゼンを用いることが好ましい。
【0037】
<ゴム性コア>
次いで、ゴム性コアラテックスは、上記得られたシードにゴム性コア単量体及び必要に応じて乳化剤を含む乳化液を乳化重合して製造することができる。
【0038】
アクリル系高分子ラテックスの場合、上記ゴム性コアは、ゴム性コアに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)97.0ないし99.9重量部の、アルキル基の炭素数が1ないし8であるアクリル酸アルキルと、及びii)0.1ないし3.0重量部の架橋剤単位とを含むことができる。
【0039】
ジエン系ゴムラテックスの場合、上記ゴム性コアは、ジエン系単位を含むことができる。
【0040】
前述したように、一般にゴム含量の高い耐衝撃性改良剤を用いると、それの優れた耐衝撃性によって、樹脂、具体的には塩化ビニル系樹脂において求められる耐衝撃性改良剤の使用量を低減することができる利点がある。しかしながら、通常、耐衝撃性改良剤中のゴム含量が一定範囲以上に高くなると、シェルのグラフト率が低下してゴム性コアを完全に覆うことが不可能になり且つ粘着性が増大して、重合ラテックスの粘度が高く機械的安定性が低下する。
【0041】
しかし、本発明の高分子ラテックスでは、前述したようにシードラテックスの製造の際、材料の種類と成分比を調節することでシードの極性とガラス転移温度を適切に調節し、ゴム性コアラテックスの製造の際、乳化剤の種類と組成及び重合方法によっても高分子ラテックス粒子の極性、ガラス転移温度、粒径、グラフト率などをさらに調節することができ、この結果、高分子ラテックスの粘度を低く調節することができる。高分子ラテックスの粘度が低くなると、機械的安定性に優れ、噴霧・乾燥時における長期作業性に優れ、流動性に優れた高分子粉体を製造することができる。
【0042】
本発明において用いることができる乳化剤の非制限的な例としては、洗浄中に脱離する吸着性乳化剤である不飽和脂肪酸カリウム塩、オレイン酸カリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、ドデシルアルキルスルホコハク酸ナトリウム(DOSS)と、単位と反応して洗浄中にも脱離しない反応形乳化剤であるアルケニルコハク酸二カリウム(ASK)、マレイン酸ドデシルスルホプロピル(M12)、マレイン酸テトラデシルスルホプロピル(M14)、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルアンモニウムサルフェート(BC-10)、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルソジウムカルボキシレート(H3626 A)などのイオン系乳化剤、及びポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテル(RN-10)などの非イオン系乳化剤などが挙げられる。このうち、アルケニルコハク酸二カリウム(ASK)、マレイン酸ドデシルスルホプロピル(M12)、マレイン酸テトラデシルスルホプロピル(M14)、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルアンモニウムサルフェート(BC-10)、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルソジウムカルボキシレート(H3626 A)などのイオン系乳化剤、及びポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテル(RN-10)などの非イオン系乳化剤を用いることがより好ましい。この種の乳化剤は、単位と反応してゴム性コアの極性を調節したり、乳化剤のガラス転移温度によってゴム性コアのガラス転移温度を調節したりすることもできる。また、吸着性乳化剤と比較してみて、少量用いても新規な粒子の生成を抑制し、且つ粒径を均一にすることができる。さらに、粒径が均一になると、グラフト率も高くなり、この結果、高分子ラテックスの粘度を調節することができるようになる。
【0043】
乳化剤の添加量は、ゴム性コア単量体の合計100重量部を基準にし、0.01ないし5重量部であることが好ましい。
【0044】
上記乳化重合には、通常の重合開始剤を用いることもできる。
このようにして得られるゴム性コアのガラス転移温度(Tg)は、衝撃強度に影響を与え得るゴムの弾性を保持するために、25℃以下、好ましくは0℃以下、より好ましくは、-40℃以下であることがよい。
本発明において用いることができるアクリル酸アルキルの非制限的な例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、及びアクリル酸2-エチルヘキシルが挙げられる。アクリル酸アルキルは、特にアクリル酸エチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ブチル、またはこれらの混合物であることがより好ましい。
【0045】
ゴム性コアの成分中の上記架橋剤単量体は、シードラテックスの製造の際に用いることができるものなどを用いればよい。そのうち、特にアクリル酸1,3-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,3-ブタンジオール、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、またはこれらの混合物であることがより好ましい。
【0046】
上記架橋剤は、本発明のゴム性コア単量体の合計100重量部を基準にし、0.1ないし3.0重量部を用いることが好ましい。架橋剤の含量が0.1重量部未満の場合、加工中にマトリックスと球状の粒子が変形しやすく、3.0重量部を超えて用いると、コアが脆性の特性を示し、耐衝撃性改良の効果が低下する。
【0047】
本発明において用いることができるジエン系単量体の非制限的な例としては、1,3-ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。
<シェル>
【0048】
上記c)ゴム性コアを覆うシェルは、上記得られたゴム性コアラテックスにシェル単量体、及び必要に応じて乳化剤を含む乳化液を乳化グラフト重合させて形成することができる。
【0049】
シェル乳化グラフト重合は、耐衝撃性を改良したい樹脂と相溶性のある単量体をゴム性コアの表面にグラフトさせてゴム性コアを覆うようにすることである。
【0050】
シェルの形成にあたって、上記乳化液には乳化剤を添加することが好ましく、乳化剤の添加量は、シェル単量体100重量部を基準にし、0.001ないし0.5重量部であることが好ましい。また、上記乳化グラフト重合には、通常の重合開始剤を用いることもできる。
【0051】
アクリル系高分子ラテックスの場合、用いることができるシェル単位の例としては、アルキル基の炭素数が1ないし4であるメタクリル酸アルキルと芳香族単位であるスチレンなどが挙げられる。メタクリル酸アルキルの具体的な例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどがある。このとき、シェル成分のガラス転移温度を調節するために、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルのようなアクリル酸アルキル、またはマトリックスとの相溶性を一層増大させるためにアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル成分の補助単量体をさらに用いることもできる。補助単量体は、1種以上選んで用いることもでき、シェル単量体100重量部を基準にし、0.1ないし20重量部の範囲内で混合して用いることが好ましい。
【0052】
ジエン系高分子ラテックスの場合、用いることができるシェル単量体の例としては、芳香族ビニル系単量体とアクリル酸単量体などが挙げられ、具体的な例としては、スチレン、アクリロニトリル、α-メチルスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、ブチルアクリレートメタクリル酸、及びアクリル酸などがある。これらの単量体を単独または2、3種混合して用いることが可能である。
【0053】
しかし、シェル単量体が、上記ら例示した単量体に限定されるものではなく、耐衝撃性改良をしたい樹脂の組成と成分に応じてシェル部分の単量体の種類及び組成を変化させることもできる。
【0054】
上記シェルの形成に用いることができる乳化剤は、上記ゴム性コアラテックス製造の際に用いた乳化剤であってもよい。
<高分子ラテックス>
【0055】
本発明の高分子ラテックスがアクリル系高分子ラテックスの場合は、高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、a)シード0.3ないし10重量部と、b)ゴム性コア89.7ないし94.7重量部と、及びc)シェル0.3ないし10重量部とを含むことが好ましい。
【0056】
本発明の高分子ラテックスがジエン系高分子ラテックスの場合は、高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、a)シード0.3ないし10重量部と、b)ゴム性コア40ないし70重量部と、及びc)シェル20ないし59.7重量部とを含むことが好ましい。
【0057】
噴霧・乾燥して耐衝撃性改良剤粒子を分離するためには、最終の高分子ラテックスの粘度が1,000cpsを超えないようにすることが好ましい。粘度が1,000cpsを超えると、噴霧・乾燥機の壁面への粒子の付着や噴霧機の出口への粘着が過度となるおそれがある。
【0058】
上記得られた本発明の高分子ラテックスの平均粒径は、200nm以上であり、好ましくは200ないし1,000nm、より好ましくは、200ないし700nmであることがよい。
<高分子粉体>
【0059】
上記得られた高分子ラテックスを噴霧・乾燥することによって高分子粉体を製造することができ、このような方法によってアクリル系耐衝撃性改良剤とジエン系耐衝撃性改良剤を製造することができる。樹脂組成物には、上記のような本発明の高分子粉体を1ないし20重量%添加することが好ましい。
【0060】
上記噴霧・乾燥は、通常の方法によって実施することができる。
【0061】
アクリル系耐衝撃性改良剤粉体は、0.45(g/cc)以上のバルク密度、18%以下の圧縮性、流動自在な程度の20秒以下のファンネル・フロー(funnel flow)時間の粉状耐衝撃性改良剤の流れ特性を示すことが好ましい。
【0062】
上記のようなアクリル系耐衝撃性改良剤粉体をPVC樹脂に添加した場合、マトリックス樹脂に優れた耐衝撃性及び耐候性を付与することができる。特に、PVCサイディング(siding)、PVCウィンドープロファイル(window profile)などのように耐衝撃性と耐候性の両方を求めている塩化ビニル系樹脂からなる製品の製造に非常に有用である。本発明のアクリル系耐衝撃性改良剤の塩化ビニル系樹脂への添加量は、塩化ビニル樹脂80ないし99重量部に対して1ないし20重量部であることが加工作業性、耐衝撃性及び経済的な面を考慮したうえで好ましい。
【実施例】
【0063】
以下の実施例及び比較例を通じて本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を例示するためのものであって、本発明がこれらだけに限定されるものではない。
実施例1
(シードラテックスの製造)
【0064】
まず、攪拌機と温度計、窒素投入口、循環コンデンサーが設けられた四つ口フラスコの反応器を用意し、シードラテックスを基準にして、脱イオン水123.2g、脂肪酸カリウム塩4.6g、及び過硫酸カリウム(3%溶液)2.7gを投入した。
【0065】
窒素雰囲気下で上記反応器内の温度を75℃まで昇温させた。反応器の温度が75℃になった時、スチレン(ST)5.7g、アクリロニトリル(AN)0.6g、及びジメタクリル酸エチレングリコール(EGDMA)0.08gを含んだ乳化液を一度に投入し、3時間撹拌しながら重合反応させてスチレン―アクリロニトリル共重合体シードラテックスを得た。
【0066】
得られたシード中のアクリロニトリル含量は10重量%であり、重合転換率は99%であった。また、粒径は、平均90nm、総固形分含量は5重量%であったし、トルエン不溶分が70重量%であった。
【0067】
上記トルエン不溶分値は、シードラテックスをメタノールに沈殿させ乾燥した粉体を室温下においてトルエンに浸漬して24時間膨潤させた後、これを0℃、12000rpmで60分間遠心分離してトルエン不溶分を抽出し、熱風乾燥機で乾燥した後の不溶分を重量%で表した値である。
【0068】
(アクリル系ゴム性コアの形成)
上述のようにして得たシードラテックスに脱イオン水23.3g、Trem LF-40(8%溶液)0.4g、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム(SFS、3.53%溶液)45.5g、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA、3%溶液)10.7g、及び硫酸鉄(3%溶液)2.7gを投入し、反応器内の温度を53℃に調節した。
アクリル酸ブチル系ゴム性コアを形成するために、予め用意した脱イオン水317.6g、アクリル酸ブチル(BA)748.0g、メタクリル酸アリル(AMA)4.0g、ジメタクリル酸エチレングリコール(EGDMA)1.6g、Trem LF-40(8%溶液)188g、及びクメンヒドロペルオキシド(CHP、80%)1.8gを含んだ単量体フリーエマルジョンを、同じ量に3等分して一時間間隔で一度に上記シードラテックスに投入して反応を進めさせた。ここで、シードとゴム性コアの単量体との合計は、耐衝撃性改良剤の全重量の95%になるようにした。単量体フリーエマルジョンの投入が終わった後、60℃で1時間熟成してコア部分を完成した。
【0069】
(シェルの形成)
シェル重合のためにイオン交換水32.0g、メタクリル酸メチル40.0g、Trem LF-40(8%溶液)10.0gを含むシェルフリーエマルジョンを調製した。上記反応器内の温度を70℃に上昇させ、上記得られたゴム性コアラテックスにシェルエマルジョンと過硫酸カリウム(3%溶液)9.34gを一度に投入して反応を進めさせた。ピークに達した後、70℃で1時間熟成させて重合を完了した。最終の高分子ラテックスの粒径は、450nmであり、全固形分含量は45重量%であった。
【0070】
(高分子ラテックスの粉体化)
上記得られた高分子ラテックスを噴霧・乾燥して高分子粉体を得た。高分子ラテックスにラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を2〜3重量%(ラテックス固形分基準)を添加して、高分子ラテックス内の固形分含量は45%レベルを維持しながら、ポンプにより10,000rpmで回転する噴霧機へ搬送した。温度条件は、流入/流出温度をそれぞれ180℃/70℃に固定し、高分子ラテックス上の水分は瞬時蒸発され、乾燥された粉体はサイクロンを通じて捕集した。高分子粉体の流動性を一層向上するために、高分子粉体を基準にして2重量%以下のCaCOを投入した。
【0071】
得られた高分子粉体は、その特性を把握するためにバルク密度、圧縮性、流動性、及び熱変色性を試験した。
【0072】
バルク密度は、100ccコップ内の高分子粉体の重量(g)を100で割って得た値とし、その単位はg/ccである。
【0073】
耐衝撃性改良剤粉体の圧縮性は、コップ内に30gの耐衝撃性改良剤粉体を入れて、3分間、3.5kgの重量にてタッピング(tapping)した後、100秒間18メッシュの篩にかけ、その篩上に残っている塊の重量と初期重量との比率(%)から求めた。
耐衝撃性改良剤粉体の流動性は、ASTM D-1895のファンネルフロー試験(funnel flow test)にて測定した。
高分子粉体の熱変色性は、粉状耐衝撃性改良剤3gを190℃の熱に30分間曝した後YI(黄変度)を測定することにより調査した。
【0074】
実施例2
シードラテックスの製造の際にスチレンの含量を5.06gに、アクリロニトリルの含量を1.2gに変更したことを除いては、上記実施例1と同法で高分子ラテックスを製造し、該高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。得られたシードラテックスは、総固形分含量が5重量%、粒径が平均90nm、共重合体内のアクリロニトリル含量が20重量%、トルエン不溶分が72重量%であった。
【0075】
実施例3
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、アルケニルコハク酸二カリウム(ASK)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0076】
実施例4
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルアンモニウムサルフェート(BC-10)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0077】
実施例5
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルソジウムカルボキシレート(H3626 A)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0078】
実施例6
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、マレイン酸ポリドデシルスルホプロピル(M12)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0079】
実施例7
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、マレイン酸テトラデシルスルホプロピル(M14)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0080】
実施例8
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0081】
実施例9及び10
実施例9及び10では、シードラテックスの製造の際にアクリロニトリルに替えて、アクリル酸ブチル(BA)を用いたことを除いては、それぞれ上記実施例1及び2と同法にて高分子ラテックスを製造し、得られた高分子ラテックスからアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。得られたシードラテックスは、総固形分の含量が5重量%、粒径が平均90nm、共重合体中のアクリル酸ブチル(BA)含量がそれぞれ10重量%、20重量%、トルエン不溶分がそれぞれ81重量%、78重量%であった。
【0082】
比較例1
シードラテックスの製造の際にアクリロニトリルを用いないでスチレン6.34gだけでスチレンホモ重合体を製造したことを除いては、上記実施例1と同法にてアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。上記得られたシードラテックスは、総固形分含量が5重量%、粒径が平均90nm、トルエン不溶分が59重量%であった。
【0083】
比較例2
シードラテックスの製造の際にスチレン及びアクリロニトリルを用いないでメタクリル酸メチル(MMA)6.34gだけでメタクリル酸メチルホモ重合体を製造してシードラテックスを製造したことを除いては、上記実施例1と同法にてアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。上記得られたシードラテックスは、総固形分含量が5重量%、粒径が平均90nm、トルエン不溶分が66重量%であった。
【0084】
比較例3
シードラテックスの製造の際にスチレン及びアクリロニトリルを用いないでアクリル酸ブチル6.34gだけでアクリル酸ブチルホモ重合体を製造したことを除いては、上記実施例1と同法にてアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。上記得られたシードラテックスは、総固形分含量が5重量%、粒径が平均90nm、トルエン不溶分が92重量%であった。
【0085】
比較例4
コアラテックスの製造の際にTrem LF-40に替えて、ロジンせっけん(Rosin soap)(R/soap、Potassium salt of rosin acid)を用いたことを除いては、上記実施例1と同法にてアクリル系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0086】
実施例11
(シードラテックスの製造)
上記実施例1のシードラテックスの製法と同じ方法にてシードを製造した。
【0087】
(ジエン系コアの製造)
窒素置換された重合反応器(オートクレーブ)にイオン交換水200g、上記得られたスチレン―アクリロニトリルシード20g、単量体1,3-ブタジエン200g、乳化剤としてのASK0.4g、ロジン酸ナトリウム塩0.2g、電解質としての炭酸ナトリウム(Na2CO3)0.5g、分子量調節剤としてのtert-ドデシルメルカプタン(TDDM)0.3gを一度に投与し、反応温度を55℃に上げた後、開始剤として過硫酸ナトリウム0.3gを一度に投入して反応を開始させ、10時間反応させた後、tert-ドデシルメルカプタン0.05gをさらに投与し、65℃で8時間反応させた後に反応を終了した。
これにより得られたゴムラテックスの粒径は、3,000Å程度で、トルエン不溶分は85%レベルであった。
【0088】
(シェルの製造)
上記得られたジエン系ゴムラテックス(固形分基準)100gに対して脱イオン水90g、HS-10 0.5g、スチレン15.8g、アクリロニトリル6.7g、tert-ドデシルメルカプタン0.3g、ピロリン酸ナトリウム0.05g、デキストロース0.08g、硫酸第一鉄0.003g、tert-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)0.05gを45℃で一度に投入し、反応温度を70℃まで60分にわたって昇温させながら反応させた。そして、これにイオン交換水10g、AZUARON HS-10 0.2g、スチレン15.8g、アクリロニトリル6.7g、tert-ドデシルメルカプタン0.3g、ピロリン酸ナトリウム0.05g、デキストロース0.08g、硫酸第一鉄0.003g、クメンヒドロペルオキシド(CHP)0.1gの混合乳化溶液を、60分間連続投与した後、さらに80℃に昇温した後、1時間成熟させてから反応を終了した。反応終了後の重合転換率は98.9%であった。
【0089】
比較例5
シードラテックスの製造の際にスチレン及びアクリロニトリルを用いないでアクリル酸ブチル6.34gだけでアクリル酸ブチルホモ重合体を製造したことを除いては、上記実施例11と同法にてジエン系耐衝撃性改良剤粉体を製造した。
【0090】
<塩化ビニル系樹脂の製造>
ポリ塩化ビニル樹脂(PVC;LG化学社製のLS-100、重合度=1000)100重量部と、PVCを基準にし、熱安定剤(DLP)4.0重量部、ステアリン酸カルシウム(Ca−St)0.9重量部、ポリエチレンワックス(PE Wax)1.36重量部、加工助剤(LG化学社製のPA-821)1.0重量部、CaCO3 5.0重量部、TiO2 4.0重量部を常温下においてミキサーに投入した後、1,000rpmで115℃まで昇温させながら混練した。115℃に達すると、400rpmに下げた後、40℃まで降温させてマスターバッチ(master batch)を製造した。
【0091】
上記マスターバッチに実施例1ないし11と比較例1ないし5から得られた各耐衝撃性改良剤粉体をPVCを基準にして6重量部添加した後、2本ロールミルを使って190℃で7分間ミーリング加工して0.6mm厚さのシートを製造した。
【0092】
上記シートを150×200mm大きさに切断した後、ミーリング加工方向を一定にして3×170×220mmの型に積層し、190℃加熱プレスを使って8分間予熱(圧力0.5Kgf)、4分間圧縮(圧力10Kgf)、3分間冷却(圧力10Kgf)して3mm厚さの塩化ビニル系樹脂シートを製造した。
【0093】
上記得られたシートをASTM D-256規格により精度よく切断して衝撃試験片を作り、これを用いてアイゾット(Izod)衝撃強度を測定した。
【0094】
上記実施例1ないし11及び比較例1ないし5に従い製造された耐衝撃性改良剤粉体の特性とアイゾット衝撃強度を下記の表1に表した。
【0095】
【表1】

【0096】
上記表1から分かるように、ファンネルフローの場合、実施例1ないし11では、いずれも20秒以下と優れているのに対し、比較例1ないし5では、いずれも20秒以上である。また、圧縮性においても実施例1ないし10では、いずれも18%以下であるのに対し、比較例1ないし4では非常に高い。黄変度も同様に、実施例1ないし11の数値が比較例1ないし5の数値に比べて優れている。アイゾット衝撃強度も凝集過程を経て粉体化された耐衝撃性改良剤とほぼ同じであるか、それより優れた物性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シードと、該シードを覆うゴム性コアと、該ゴム性コアを覆うシェルとを含む多層構造の高分子ラテックスであって、
前記シードは、シードに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、
i)65ないし99.0重量部のビニル系単位と、
ii)0.5ないし30重量部の親水性単位と、及び
iii)0.5ないし5重量部の架橋剤単位とを含む、ビニル系単量体と親水性単量体との共重合体を含むことを特徴とする高分子ラテックス。
【請求項2】
前記ゴム性コアは、前記シードを覆うものであって、ゴム性コアに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、i)97.0ないし99.9重量部の、アルキル基の炭素数が1ないし8であるアクリル酸アルキルと、及びii)0.1ないし3.0重量部の架橋剤単位とを含み、
前記シェルは、前記ゴム性コアを覆うものであって、アルキル基の炭素数が1ないし4であるメタクリル酸アルキル単位及び芳香族ビニル系単位よりなる群から選ばれた1種以上の単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項3】
前記高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、前記シードを0.3ないし10重量部、前記ゴム性コアを89.7ないし94.7重量部、前記シェルを0.3ないし10重量部含むことを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス。
【請求項4】
前記高分子ラテックスのゴム含量が90重量%以上であり、粘度が最大1,000cpsであることを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス。
【請求項5】
前記ゴム性コアは、前記シードを覆うものであって、ジエン系単位を含み、
前記シェルは、前記ゴム性コアを覆うものであって、芳香族ビニル系単位及びアクリル系単位よりなる群から選ばれた1種以上の単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項6】
前記高分子ラテックスに含まれる単位の合計100重量部を基準にし、前記シードを0.3ないし10重量部、前記ゴム性コアを40ないし70重量部、前記シェルを20ないし59.7重量部含むことを特徴とする請求項5に記載の高分子ラテックス。
【請求項7】
前記高分子ラテックスのゴム含量が40重量%以上であり、粘度が最大1,000cpsであることを特徴とする請求項5に記載の高分子ラテックス。
【請求項8】
前記シードは、トルエン不溶分を50ないし99.9重量%で有することを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項9】
上記シード中のi)ビニル系単位は、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン及び3,4-ジクロロスチレンよりなる群から選ばれた1種以上の単量体に由来するものであり、
前記シード中のii)親水性単位は、アクリロニトリル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、メタクリル酸ヒドロキシルメチル、及びメタクリル酸グリシジルよりなる群から選ばれた1種以上の単量体に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項10】
上記シード中のiii)架橋剤単位は、ジビニルベンゼン、ジアクリル酸1,3-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,3-ブタンジオール、ジアクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジアクリル酸テトラエチレングリコール、及びジメタクリル酸テトラエチレングリコールよりなる群から選ばれた1種以上の単量体に由来するものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項11】
前記コア中のi)アクリル酸アルキルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、及びアクリル酸2-エチルヘキシルよりなる群から選ばれた1種以上であり、
前記コア中のii)架橋剤単位は、ジアクリル酸1,3-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,3-ブタンジオール、ジアクリル酸1,4-ブタンジオール、ジメタクリル酸1,4-ブタンジオール、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、ジアクリル酸テトラエチレングリコール、ジメタクリル酸テトラエチレングリコール、及びジビニルベンゼンよりなる群から選ばれた1種以上の単量体に由来するものであることを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス。
【請求項12】
前記シェル中の単位は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、及びスチレンよりなる群から選ばれた単量体に由来するものであることを特徴とする請求項2に記載の高分子ラテックス。
【請求項13】
前記コア中のジエン系単位は、1,3-ブタジエン、及びイソプレンよりなる群から選ばれた1種以上の単量体に由来するものであることを特徴とする請求項5に記載の高分子ラテックス。
【請求項14】
前記シェル中の単位は、スチレン、アクリロニトリル、α-メチルスチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、及びメタクリル酸、アクリル酸よりなる群から選ばれた単量体に由来するものであることを特徴とする請求項5に記載の高分子ラテックス。
【請求項15】
前記高分子ラテックスの粒径は、200ないし1,000nmであることを特徴とする請求項1に記載の高分子ラテックス。
【請求項16】
a)シード単量体の合計100重量部を基準にし、i)65ないし99.0重量部のビニル系単量体と、ii)シード単量体の合計100重量部を基準にし、0.5ないし30重量部の親水性単量体、及びiii)シード単量体の合計100重量部を基準にし、0.5ないし5重量部の架橋剤単量体とを含む乳化液を乳化重合させてシードラテックスを製造する工程と、
b)上記a)工程で得られたシードラテックスにゴム性コア単量体を加えて乳化重合してゴム性コアラテックスを製造する工程と、及び
c)上記b)工程で得られたゴム性コアラテックスにシェル単量体を含む乳化液を加えて乳化グラフト重合し、ゴム性コアの外部にシェルを形成させる工程と、
含むことを特徴とする、請求項1ないし15のいずれかに記載の高分子ラテックスの製造方法。
【請求項17】
上記乳化剤は、不飽和脂肪酸カリウム塩、オレイン酸カリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルケニルコハク酸二カリウム、マレイン酸ドデシルスルホプロピル、マレイン酸テトラデシルスルホプロピル、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルアンモニウムサルフェート、ポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルソジウムカルボキシレート、及びポリオキシエチレンノニル(o-プロペニル)フェニルエーテルよりなる群から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項16に記載の高分子ラテックスの製造方法。
【請求項18】
上記a)のシード粒子のガラス転移温度は、-45〜25℃の範囲にあることを特徴とする請求項16に記載の高分子ラテックスの製造方法。
【請求項19】
上記a)のシードラテックスの粒径が50ないし300nmの範囲にあることを特徴とする請求項16に記載の高分子ラテックスの製造方法。
【請求項20】
請求項1ないし15のいずれかに記載の高分子ラテックスを噴霧・乾燥して得られた高分子粉体。
【請求項21】
耐衝撃性改良剤として請求項20に記載の高分子粉体を含む樹脂組成物。
【請求項22】
前記高分子粉体は、樹脂組成物中に1ないし20重量%含まれることを特徴とする請求項21に記載の樹脂組成物。
【請求項23】
前記樹脂は、塩化ビニル系樹脂である請求項21に記載の樹脂組成物。

【公表番号】特表2007−517105(P2007−517105A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546839(P2006−546839)
【出願日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003488
【国際公開番号】WO2005/063826
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】