説明

耐衝撃性改良組成物及び方法

本発明は、硬質熱可塑性樹脂相に不連続エラストマー相を分散してなり、硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部がエラストマー相にグラフトしたゴム変性熱可塑性樹脂組成物に関し、これを製造する方法は、(a)第1段階でエラストマー相の存在下で複数の単量体の混合物を重合し、ここで上記単量体の1種以上がビニル芳香族単量体から選択され、上記単量体の1種以上がモノエチレン性不飽和ニトリル単量体から選択され、次いで(b)1以上の後続段階で工程(a)からのエラストマー相の存在下で1種以上の単量体を重合し、ここで上記1種以上の単量体が(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される1種以上の単量体を含有する工程を含む。方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム変性熱可塑性樹脂の製造方法及びゴム変性熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃強さ、流れ及び耐薬品性のバランスがよいという理由から、種々の広範な商業的なゴム変性ブレンドはスチレン−アクリロニトリル(SAN)共重合体を主成分としている。このような製品が商業的に最も範に利用されているのは、ゴム耐衝撃性改良剤相がポリブタジエン(PBD)であってABSとして知られる一群の樹脂を構成する場合である。屋外曝露時の衝撃強さと外観の保持を改良するために、1種以上のアルキルアクリレート、例えばポリ(ブチルアクリレート)(PBA)ゴムを含有するスチレン−アクリロニトリル組成物が製造されており、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート)と呼ばれている。
【0003】
しかし、スチレン構造単位が光酸化を受けやすいので、スチレン−アクリロニトリルマトリックス重合体は、PBAゴム基幹に比べて、屋外曝露の条件に対する安定性に著しく劣る。そのため、ASAを含むスチレン−アクリロニトリルに基づくシステムは、実際の或いは擬似的な屋外曝露に露呈されたとき表面が経時で黄変したりチョーキング(白亜化)する傾向を示しがちである。望ましくない光化学作用を抑制する意図で、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)を樹脂組成物に添加することが当業界で周知である。しかし、ある時点でHALSは物品の表面で消費されてしまい、その後さらに屋外曝露が続くと、黄変が起こり得る。したがって、より安定なPBAゴムを主成分とし、HALSを含有するASAシステムでも屋外曝露中にある程度の色ずれと光沢の低下を示す。
【0004】
これに対して、連続硬質相としてポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)を主成分とし、耐候性PBAゴムに基づく耐衝撃性改良剤を含有する1群の耐衝撃性改良ブレンドが、現実の或いは擬似的な屋外経時に露呈されてもほとんど色ずれを示さず、また同じ条件下で表面光沢をよく保持することが広く認められている。しかし、これらのブレンドは、多くの場合、比較的低い衝撃強さと難流動性という欠点も有する。スチレン−アクリロニトリルマトリックス重合体及びゴム質耐衝撃性改良剤を含有する組成物に関連した衝撃強さと他の優れた特性を有し、しかもPMMAを含有する組成物に関連した優れた耐候性を有する組成物を製造することができれば有利である。この問題を解決する一つの方法として、ASA組成物のゴム又はエラストマー部分にメチルメタクリレート又は類似の単量体を組み込む方法がある。しかし、メチルメタクリレートのグラフトは効率的でなく、こうして得られるグラフト化エラストマー相及びスチレン−アクリロニトリルマトリックス重合体を含有する組成物では衝撃強さが低下することを見いだした。
【特許文献1】米国特許第3944631号明細書
【特許文献2】米国特許第4634734号明細書
【特許文献3】米国特許第4788253号明細書
【特許文献4】米国特許第5580924号明細書
【特許文献5】米国特許第5965665号明細書
【特許文献6】特開平11−199605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、解決すべき問題は、硬質相及び耐衝撃性改良エラストマー相を含有する組成物にアクリレート又はメタクリレート単量体を最適の組み込み効率にて組み込み、その結果として優れた耐候性能と最適な衝撃強さの組成物を得る、効率のよい方法を考案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、良好な溶融流れと優れた衝撃強さとの魅力的なバランスを維持しながら、耐候性能の格段の改良を実現したゴム変性熱可塑性樹脂に関する。
【0007】
特定の実施形態において、本発明は、硬質熱可塑性樹脂相に不連続エラストマー相を分散してなり、硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部がエラストマー相にグラフトしたゴム変性熱可塑性樹脂の製造方法に関し、この方法は、
(a)第1段階でエラストマー相の存在下で複数の単量体の混合物を重合し、ここで上記単量体の1種以上がビニル芳香族単量体から選択され、上記単量体の1種以上がモノエチレン性不飽和ニトリル単量体から選択され、次いで
(b)1以上の後続段階で工程(a)からのエラストマー相の存在下で1種以上の単量体を重合し、ここで上記1種以上の単量体が(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート単量体及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される1種以上の単量体を含有する工程を含む。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、上述した工程を含む方法により製造したゴム変性熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明の種々の他の特徴、観点及び利点は以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
種々の実施形態において、本発明の方法は、不連続エラストマー相と硬質熱可塑性樹脂相とを含有し、硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部がエラストマー相にグラフトしたゴム変性熱可塑性樹脂を与える。本発明の方法は、グラフト用に1種以上のゴム基幹を使用する。ゴム基幹は組成物の不連続エラストマー相を構成する。ゴム基幹がグラフト可能な単量体の少なくとも1部分によるグラフトを受けやすければ、ゴム基幹に特に制限はない。ゴム基幹はガラス転移温度Tgが、1実施形態では約0℃より低く、別の実施形態では約−20℃より低く、さらに別の実施形態では約−30℃より低い。
【0010】
種々の実施形態において、ゴム基幹は、(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート単量体及びこれらの単量体の1種以上を含む混合物から選択される1種以上のモノエチレン性不飽和アルキル(メタ)アクリレート単量体の公知の方法による重合により誘導される。ここで用いる用語「モノエチレン性不飽和」は、1分子中に単一部位のエチレン性不飽和を有することを意味し、また用語「(メタ)アクリレート単量体」はアクリレート単量体とメタクリレート単量体の総称である。ここで用いる用語「(Cx−Cy)」は、特定の単位、例えば化学化合物又は化学置換基に適用され、このような1単位当たりx個の炭素原子からy個の炭素原子までの炭素原子数を有することを意味する。例えば「(C1−C12)アルキル」は、1基当たりの炭素原子数が1〜12の直鎖、枝分れ又は環状アルキル置換基を意味し、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル及びドデシルなどがあるが、これらに限らない。適当な(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート単量体には、(C1−C12)アルキルアクリレート単量体、具体的にはエチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなど、及び類似の(C1−C12)アルキルメタクリレート単量体、具体的にはメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレートなどがあるが、これらに限らない。本発明の特定の実施形態では、ゴム基幹はn−ブチルアクリレートから誘導された構造単位を含有する。
【0011】
種々の実施形態において、ゴム基幹は、1種以上のポリエチレン性不飽和単量体から誘導された構造単位を含有してもよい。ここで用いる用語「ポリエチレン性不飽和」は、1分子中に2部位以上のエチレン性不飽和を有することを意味する。ポリエチレン性不飽和単量体は、ゴム粒子の架橋を達成し、ゴム基幹にその後のグラフト単量体との反応のための「グラフトリンク」部位を付与するために、しばしば用いられる。適当なポリエチレン性不飽和単量体には、ブチレンジアクリレート、ジビニルベンゼン、ブテンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルメタクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、トリアリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリシクロデセニルアルコールのアクリレート及びこれらの単量体の1種以上を含有する混合物があるが、これらに限らない。特定の実施形態では、ゴム基幹がトリアリルシアヌレートから誘導された構造単位を含有する。
【0012】
ある実施形態では、ゴム基幹が、所望に応じて、少量の他の不飽和単量体、例えばゴム基幹を製造するのに用いたアルキル(メタ)アクリレート単量体と共重合可能な単量体から誘導された構造単位を含有してもよい。適当な共重合可能な単量体には、C1−C12アリールもしくはハロアリール置換アクリレート、C1−C12アリールもしくはハロアリール置換メタクリレート、又はこれらの混合物;モノエチレン性不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸及びイタコン酸;グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシ(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート、例えばヒドロキシエチルメタクリレート;(C4−C12)シクロアルキル(メタ)アクリレート単量体、例えばシクロヘキシルメタクリレート;(メタ)アクリルアミド単量体、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド及びN−置換アクリルアミドもしくはN−置換メタクリルアミド;マレイミド単量体、例えばマレイミド、N−アルキルマレイミド、N−アリールマレイミド及びハロアリール置換マレイミド;無水マレイン酸;ビニルメチルエーテル、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニルがあるが、これらに限らない。ここで用いる用語「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミド及びメタクリルアミドの総称である。適当な共重合可能な単量体には、ビニル芳香族単量体、例えばスチレン及び1個又は2個以上のアルキル、アルコキシ、ヒドロキシもしくはハロ置換基が芳香環に結合した置換スチレン化合物、具体的にはα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、3,5−ジエチルスチレン、4−n−プロピルスチレン、ビニルトルエン、α−メチルビニルトルエン、ビニルキシレン、トリメチルスチレン、ブチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、α−クロロスチレン、ジクロロスチレン、テトラクロロスチレン、ブロモスチレン、α−ブロモスチレン、ジブロモスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−アセトキシスチレン、メトキシスチレンなど、及びビニル置換縮合芳香環構造、例えばビニルナフタレン、ビニルアントラセン、さらにはビニル芳香族単量体とモノエチレン性不飽和ニトリル単量体(例えばアクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリル及びα−クロロアクリロニトリル)との混合物が挙げられるが、これらに限らない。芳香環に複数の置換基を有する置換スチレン化合物も適当である。
【0013】
ゴム基幹は本発明の組成物中に、組成物の全重量に基づいて、1実施形態では約10〜約94重量%のレベルで、別の実施形態では約10〜約80重量%のレベルで、別の実施形態では約15〜約80重量%のレベルで、別の実施形態では約35〜約80重量%のレベルで、別の実施形態では約40〜約80重量%のレベルで、別の実施形態では約25〜約60重量%のレベルで、さらに別の実施形態では約40〜約50重量%のレベルで存在することができる。他の実施形態では、ゴム基幹は本発明の組成物中に、組成物の全重量に基づいて、約5〜約50重量%のレベルで、約8〜約40重量%のレベルで、又は約10〜約30重量%のレベルで存在することができる。
【0014】
ゴム基幹(以下、グラフト後のゴム基幹と区別するために初期ゴム基幹と記述することもある)の粒径分布は特に限定されない。ある実施形態では、ゴム基幹は、粒子の寸法が約50nm〜約1000nmの範囲にある広い粒径分布をもつことができる。別の実施形態では、ゴム基幹の平均粒径が約100nmより小さくてもよい。さらに他の実施形態では、ゴム基幹の平均粒径が約80nm〜約500nmの範囲でもよい。さらに他の実施形態では、ゴム基幹の平均粒径が約200nm〜約750nmの範囲でもよい。さらに他の実施形態では、ゴム基幹の平均粒径が約400nmより大きくてもよい。
【0015】
本発明の1観点では、複数の単量体をゴム基幹の存在下で重合し、これによりその少なくとも一部がゴム相に化学的にグラフトしたグラフト共重合体を形成する。ゴム基幹に化学的にグラフトされていないグラフト共重合体の部分は硬質な熱可塑性樹脂相を構成する。硬質熱可塑性樹脂相は、ガラス転移温度(Tg)が1実施形態では約25℃より高く、別の実施形態では90℃以上、他の実施形態では100℃以上である熱可塑性重合体もしくは共重合体を含有する。
【0016】
特定の実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相は、(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体、ビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される1種以上の単量体から誘導された構造単位を有する重合体を含有する。適当な(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体、ビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体には、ゴム基幹の説明で上に挙げたものがある。このような重合体の例には、スチレン/アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/メチルメタクリレート共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体又はα−メチルスチレン/スチレン/アクリロニトリル、スチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/無水マレイン酸もしくはスチレン/アクリロニトリル/アクリル酸三元重合体、又はα−メチルスチレン/スチレン/アクリロニトリル三元重合体があるが、これらに限らない。これらの共重合体を硬質熱可塑性樹脂相に単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0017】
ある実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相は1種以上のビニル芳香族重合体を含有する。適当なビニル芳香族重合体は、1種以上のビニル芳香族単量体から誘導された構造単位を約20重量%以上含有する。特定の実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相は、1種以上のビニル芳香族単量体から誘導された第1構造単位と、1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体から誘導された第2構造単位とを有するビニル芳香族重合体を含有する。このようなビニル芳香族重合体の例には、スチレン/アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、又はα−メチルスチレン/スチレン/アクリロニトリル三元重合体があるが、これらに限らない。別の特定の実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相は、1種以上のビニル芳香族単量体から誘導された第1構造単位と、1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体から誘導された第2構造単位と、(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体から選択される1種以上の単量体から誘導された第3構造単位とを有するビニル芳香族重合体を含有する。このようなビニル芳香族重合体の例には、スチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレート共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレート共重合体があるが、これらに限らない。これらの共重合体を硬質熱可塑性樹脂相に単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0018】
共重合体中の構造単位が1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体から誘導される場合、グラフト共重合体及び硬質熱可塑性樹脂相を含有する共重合体中のニトリル単量体含量は、グラフト共重合体及び硬質熱可塑性樹脂相を含有する共重合体の重量に基づいて、1実施形態では約5〜約40重量%の範囲、別の実施形態では約5〜約30重量%の範囲、別の実施形態では約10〜約30重量%の範囲、さらに別の実施形態では約15〜約30重量%の範囲とすることができる。
【0019】
ゴム相と硬質熱可塑性樹脂相を構成する単量体との間に起こるグラフトの量は、ゴム相の相対量及び組成に応じて変動する。1実施形態では、組成物中の硬質熱可塑性樹脂相の総量に基づいて約10重量%超えの硬質熱可塑性樹脂相がゴムに化学的にグラフトされる。別の実施形態では、組成物中の硬質熱可塑性樹脂相の総量に基づいて約15重量%超えの硬質熱可塑性樹脂相がゴムに化学的にグラフトされる。さらに別の実施形態では、組成物中の硬質熱可塑性樹脂相の総量に基づいて約20重量%超えの硬質熱可塑性樹脂相がゴムに化学的にグラフトされる。特定の実施形態では、ゴムに化学的にグラフトした硬質熱可塑性樹脂相の量は、組成物中の硬質熱可塑性樹脂相の総量に基づいて、約5%〜約90重量%の範囲、約10%〜約90重量%の範囲、約15%〜約85重量%の範囲、約15%〜約50重量%の範囲、又は約20%〜約50重量%の範囲とすることができる。さらに他の実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相の約40〜90重量%が自由である、即ちグラフトされていない。
【0020】
硬質熱可塑性樹脂相は本発明の組成物中に、組成物の全重量に基づいて、1実施形態では約85〜約6重量%のレベルで、別の実施形態では約65〜約6重量%のレベルで、別の実施形態では約60〜約20重量%のレベルで、別の実施形態では約75〜約40重量%のレベルで、さらに別の実施形態では約60〜約50重量%のレベルで存在することができる。他の実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相は本発明の組成物中に、組成物の全重量に基づいて約90〜約30重量%の範囲で存在することができる。
【0021】
硬質熱可塑性樹脂相は、ゴム基幹の存在下で重合を実施するだけで、或いはゴム基幹の存在下で重合した硬質熱可塑性重合体に1種以上の別個に重合した硬質熱可塑性重合体を添加することにより形成できる。別個に合成した硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部を組成物に添加する場合、この別個に合成した硬質熱可塑性樹脂相の添加量は、全組成物の重量に基づいて約30重量%〜約80重量%の範囲の量である。それぞれ異なる平均粒径を有する2種以上の異なるゴム基幹をこのような重合反応に別々に使用し、その後その生成物を一緒に配合することができる。それぞれが異なる平均粒径の初期ゴム基幹を有するこのような生成物を一緒に配合する実施形態では、異なる初期ゴム基幹の比が約90:10〜約10:90の範囲、又は約80:20〜約20:80の範囲、又は約70:30〜約30:70の範囲とすることができる。ある実施形態では、2つ以上の粒径を有する初期ゴム基幹を含有するこの種のブレンドにおいて、相対的に小さい粒径を有する初期ゴム基幹が主成分である。
【0022】
硬質熱可塑性樹脂相は、周知の方法、例えば塊状重合、エマルジョン重合、懸濁重合又はこれらの組合せにより形成でき、この際硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部が、ゴム相中に存在する不飽和部位との反応を介して、ゴム相に化学結合、即ち「グラフト」される。グラフト反応は、バッチ、連続又は半連続プロセスいずれで実施してもよい。代表的な手順には、米国特許第3944631号及び米国特許出願番号第08/962458号(1997年10月31年出願)に教示された方法があるが、これらに限らない。ゴム相中の不飽和部位は、例えば、グラフト架橋性単量体から誘導されたゴムの構造単位中の残留不飽和部位により提供される。
【0023】
本発明の実施形態において、ゴム基幹に単量体をグラフトし、同時に硬質熱可塑性樹脂相を形成する工程を、1種以上の第1単量体をゴム基幹にグラフトし、次いで前記第1単量体とは異なる1種以上の第2単量体をグラフトする複数の段階で実施する。本発明の文脈では、あるグラフト段階から次のグラフト段階への移行は、グラフト化のためにゴム基幹に添加する1種以上の単量体の種類の変化がある時点として定義される。本発明の1実施形態では、硬質熱可塑性樹脂相の形成とゴム基幹へのグラフト化とを、1種以上の第1単量体をゴム基幹を含有する反応混合物にある時間にわたって供給することによって実施する。この文脈で、第2グラフト化段階は、前記第1単量体の存在又は不在下で供給流れに異なる単量体を導入する時に生起する。
【0024】
グラフト化には少なくとも2つの段階を採用するが、追加の段階を採用してもよい。第1グラフト化段階は、ビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される1種以上の単量体で実施される。特定の実施形態では、グラフト化を第1段階で複数の単量体の混合物で実施し、単量体混合物の1種以上の単量体はビニル芳香族単量体からなる群から選択され、1種以上の単量体はモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される。第1グラフト化段階で1種以上のビニル芳香族単量体及び1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体を用いる場合、ビニル芳香族単量体対モノエチレン性不飽和ニトリル単量体の重量比は、1実施形態では約1:1〜約6:1の範囲、別の実施形態では約1.5:1〜約4:1の範囲、さらに別の実施形態では約2:1〜約3:1の範囲、さらに別の実施形態では約2.5:1〜約3:1の範囲にある。好適な実施形態では、第1グラフト化段階で使用するビニル芳香族単量体対モノエチレン性不飽和ニトリル単量体の重量比が約2.6:1である。
【0025】
前述した第1段階に続く1以上の後続段階では、グラフト化を(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体、ビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される1種以上の単量体で実施する。特定の実施形態では、グラフト化を1以上の後続段階で1種以上の単量体で実施し、その1種以上の単量体は(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される。別の特定の実施形態では、グラフト化を1以上の後続段階で複数の単量体の混合物で実施し、単量体混合物の1種以上の単量体は(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択され、1種以上の単量体はビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される。別の特定の実施形態では、グラフト化を1以上の後続段階で複数の単量体の混合物で実施し、単量体混合物の1つの単量体は(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択され、1つの単量体はビニル芳香族単量体からなる群から選択され、1つの単量体はモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択される。これらの(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体、ビニル芳香族単量体及びモノエチレン性不飽和ニトリル単量体には、上で例示した化合物がある。
【0026】
第1グラフト化段階で、ゴム基幹へのグラフト化に使用する単量体の量は、すべての段階でグラフト化に使用する単量体の合計重量に基づいて、1実施形態では約5重量%〜約98重量%の範囲、別の実施形態では約5重量%〜約95重量%の範囲、別の実施形態では約10重量%〜約90重量%の範囲、別の実施形態では約15重量%〜約85重量%の範囲、別の実施形態では約20重量%〜約80重量%の範囲、さらに別の実施形態では約30重量%〜約70重量%の範囲にある。特定の実施形態では、第1段階でゴム基幹へのグラフト化に使用する単量体の量は、すべての段階でグラフト化に使用する単量体の合計重量に基づいて約30重量%〜約95重量%の範囲にある。次に別の単量体を上記第1段階に続く1つ以上の段階でゴム基幹にグラフトする。特定の実施形態では、別の単量体すべてを上記第1段階に続く一つの第2段階でゴム基幹にグラフトする。
【0027】
第1段階に続く段階でゴム基幹にグラフトするのに1種以上の(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体を使用する場合、この(メタ)アクリレートの量は、すべての段階でグラフト化に使用する単量体の合計重量に基づいて、1実施形態では約95重量%〜約2重量%の範囲、別の実施形態では約80重量%〜約2重量%の範囲、別の実施形態では約70重量%〜約2重量%の範囲、別の実施形態では約50重量%〜約2重量%の範囲、別の実施形態では約45重量%〜約2重量%の範囲、さらに別の実施形態では約40重量%〜約5重量%の範囲にある。
【0028】
第1段階に続く段階でゴム基幹にグラフトするのに1種以上の(C1−C12)アルキル及びアリール(メタ)アクリレート単量体を含有する単量体混合物を使用する場合、前記(メタ)アクリレート単量体対他の単量体の合計の重量比は、1実施形態では約10:1〜約1:10の範囲、別の実施形態では約8:1〜約1:8の範囲、別の実施形態では約5:1〜約1:5の範囲、別の実施形態では約3:1〜約1:3の範囲、別の実施形態では約2:1〜約1:2の範囲、さらに別の実施形態では約1.5:1〜約1:1.5の範囲にある。
【0029】
本発明の組成物は有用な物品に成形することができる。ある実施形態では、物品は本発明の組成物を含有する一体物品である。他の実施形態では、物品は本発明の組成物を1種以上の他の樹脂と組み合わせて含有してもよく、組み合わせる他の樹脂には、スチレン系重合体及び共重合体、SAN、ABS、ポリ(メタ)アクリレート重合体及び共重合体;1種以上のビニル芳香族単量体、1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体及び1種以上の(メタ)アクリレート単量体から誘導された共重合体;ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フェニレンエーテル)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアセタール、ポリ(フェニレンスルフィド)及びポリオレフィンがあるが、これらに限らない。このような組合せには、本発明の組成物と1種以上の他の樹脂とのブレンド、或いは本発明の組成物を含有する少なくとも1層を含む積層物品がある。
【0030】
本発明の方法により製造した組成物から形成することのできる積層及び一体物品には、屋外車両及び装置(OVAD=outdoor vehicle and device)用途向けの物品;航空機、自動車、トラック、軍隊車両(自動車、航空機及び船舶を含む)、スクータ、及びオートバイ用の外装及び内装部品、具体的には、パネル、クォーターパネル、ロッカーパネル、垂直パネル、水平パネル、トリム、ピラー、センターポスト、フェンダー、ドア、デッキリッド、トランクリッド、フード、ボンネット、ルーフ、バンパー、ファシア、グリル、ミラーハウジング、ピラー装飾物、クラッディング、ボディサイドモールディング、ホイールカバー、ハブキャップ、ドアハンドル、スポイラー、窓フレーム、前照灯ベゼル、尾灯ハウジング、尾灯ベゼル、ナンバープレートエンクロージャ、ルーフラック、踏み板など;屋外車両及び装置用のエンクロージャ、ハウジング、パネル及び部品;電気及び電話機器用のエンクロージャ;屋外備品;航空機部品;ボート及び海洋装置、具体的にはトリム、エンクロージャ及びハウジング;船外モータハウジング;測深器ハウジング、個人向け船舶;ジェットスキー;プール;スパ;温水浴槽;階段;階段カバー;建築及び土木用途、具体的には窓ガラス、フェンス、デッキ厚板、屋根;サイディング、特にビニルサイディング用途;窓、床、装飾用窓調度又は処置材;壁パネル及びドア;屋外及び屋内標識;現金自動支払機(ATM)用のエンクロージャ、ハウジング、パネル及び部品;芝生及び庭園トラクター、芝刈り機及び用具(芝及び庭用具など)用のエンクロージャ、ハウジング、パネル及び部品;窓及びドアトリム;スポーツ用品及び玩具;スノーモービル用のエンクロージャ、ハウジング、パネル及び部品;レクリエーション車両パネル及び部品;遊具;プラスチックと木を組み合わせた物品;ゴルフコースマーカー;マンホールカバー;携帯電話ハウジング;無線送信機ハウジング;無線受信機ハウジング;照明器具;照明機器;反射器;ネットワークインターフェース装置ハウジング;変圧器ハウジング;空調機ハウジング;公共輸送機関用の座席及び仕上げ材;列車、地下鉄又はバス用の座席及び仕上げ材;メータハウジング;アンテナハウジング;衛星パラボラアンテナ用の仕上げ材、その他の用途があるが、これらに限らない。本発明はさらに、上記物品への追加の製作作業、例えば成形、金型内装飾、塗料オーブン内焼き付け、めっき、積層及び/又は熱成形などを想定している。
【0031】
本発明の物品を作製するのに用いる組成物は、所望に応じて、当業界で周知の添加剤を含有してもよく、代表的な添加剤には、安定剤、例えば色安定剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、UV遮蔽剤及びUV吸収剤;難燃剤、滴下防止剤、滑剤、流れ促進剤及び他の加工助剤;可塑剤、帯電防止剤、離型剤、耐衝撃性改良剤、充填剤及び着色剤(例えば有機、無機又は有機金属性とすることのできる染料及び顔料);その他の添加剤がある。添加剤の具体例には、シリカ、ケイ酸塩、ゼオライト、二酸化チタン、石粉、ガラス繊維もしくは球、炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、リトポン、酸化亜鉛、ケイ酸ジルコニウム、酸化鉄、珪藻土、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、石英粉末、クレー、焼成クレー、タルク、カオリン、アスベスト、セルロース、木粉、コルク、綿及び合成紡織繊維、特に補強繊維、例えばガラス繊維、炭素繊維及び金属繊維があるが、これらに限らない。しばしば2種以上の添加剤を本発明の組成物に配合し、ある実施形態では、あるタイプの添加剤を2種以上配合する。特定の実施形態では、組成物がさらに、着色剤、染料、顔料、滑剤、安定剤、充填剤及びこれらの混合物からなる群から選択された添加剤を含有する。前記物品は、種々の公知のプロセス、例えば異形押出、シート押出、共押出、押出吹込成形、熱成形及び射出成形により製造することができる。
【0032】
これ以上説明しなくても、当業者であれば、以上の説明に基づいて、本発明を十全に利用することができるはずである。以下に実施例を示して、本発明を実施する上でのさらなる指針を当業者に提示する。これらの実施例は、本発明の教示内容に寄与する研究を代表するものに過ぎない。したがって、これらの実施例は特許請求の範囲に規定した本発明をいかなる意味でも限定するものではない。
【実施例】
【0033】
比較例
米国特許出願番号題08/962458号(1997年10月31日出願)に教示された方法のような、普通のグラフト重合法を用いて、比較例を実施した。具体的には、45重量部のポリ(ブチルアクリレート)(PBA)ゴム基幹に、67:33(重量比)スチレン/アクリロニトリルの単量体混合物55重量部をグラフトした。種々の比較例で、スチレン/アクリロニトリルの比を72:28の一定値に保ちながら、スチレン/アクリロニトリル(SAN)の単量体混合物の一部を50重量%まで増加する量のメチルメタクリレート(MMA)で置換した。ゴム基幹は、半バッチ式重合法により、(毛細管流体力学的分別により測定した)平均粒径で100nmから450nmまでの3つの異なるゴム粒径にて製造しておいた。種々のグラフト重合生成物について測定したデータを表1に示す。ゲル含量(重量%)の値はすべて、代表的にはPBAとPBAにグラフトした追加の単量体種とからなる、生成物のアセトン不溶部分を表す。膨潤指数はすべてアセトンを用いて測定した。分子量はすべてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によりテトラヒドロフラン中でポリスチレン標準に対して測定した。下記の表中の分子量はアセトン可溶SANの分子量を表す。
【0034】
【表1】

メチルメタクリレートなしのSANグラフト法では、45%ゴムグラフトに対して65%程度のゲル含量が得られ、これは約20部のSANがPBAゴム基幹に化学的にグラフトしたことを意味する。グラフト単量体原料にSANの代わりにMMAを添加するにつれて、グラフト効率が顕著に低下する。このグラフト効率の低下は、SANグラフト単量体混合物の1/4をMMAに置換しただけで現れる。またゴム粒径が小さくなるとグラフト度が低下するようである。ただし、MMAをグラフト部に組み込んでしまうと、粒径100nmで一定のゲル含量(重量%)を得るのは困難であった。
【0035】
さらに、普通のグラフト重合法を用いて、比較例を実施した。具体的には、45重量部のポリ(ブチルアクリレート)(PBA)ゴム基幹に、種々の比(重量%/重量%/重量%で合計100%)のスチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレートからなる単量体混合物55重量部をグラフトした。ゴム基幹それぞれは、連続法により製造され、広いゴム粒径分布を有した。表2に、各グラフト反応混合物に存在するスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートの量と、得られた生成物の測定データを示す。粘度は、Kayeness毛管レオメーターを用いて260℃溶融温度条件下で種々の剪断速度で測定した。成形品の衝撃強さも示す。
【0036】
【表2】

同じアクリロニトリル含量でスチレンの一部をMMAに置換すると(実験番号3を実験番号2と比較すると)、グラフト効率が著しく低下する。実験番号4から、同等のスチレンレベルで、アクリロニトリルをMMAで置換することによりアクリロニトリルの含量をさらに減らすと、グラフト効率がさらに、しかし僅かだけ減少することが分かる。PBA基幹へのグラフト効率は、MMA含量だけでなく、アクリロニトリル含量にも依存する。例えば、MMAを含有しないが、アクリロニトリルのレベルが低い実験番号2を実験番号1と比較すると、グラフトレベルが低下している。
【0037】
スチレン/アクリロニトリル含有単量体混合物のゴム基幹へのグラフト効率の低下は、成形試験片の衝撃強さに悪影響する。広いゴム粒径分布を有する表2からのグラフト済みゴム基幹59部、硬質スチレン重合体(S:AN比が約72:28である通常の塊状重合したスチレン−アクリロニトリル共重合体)33部及び光沢低減剤として架橋済みSAN重合体(以下「架橋SAN重合体」という)8部を、顔料として二酸化チタン3.2phr(樹脂100部当たりの部数)及び低レベルの普通の滑剤及び安定化添加剤とともに含有する成形試験片を作製した。上記架橋SAN重合体は、例えば米国特許第5580924号及び同第5965665号に記載されている。表2の成形試験片についての衝撃強さの結果から、ゴム基幹へのグラフト効率の低下とともに、ノッチ付アイゾット衝撃強さ及びダイナタップ衝撃強さとも減少することが分かる。
【0038】
グラフト効率の低下とともに衝撃強さも低下することを示す追加のデータを表3に示す。表3の配合物にはすべて、顔料として5phrの二酸化チタン、並びに少量の滑剤、UV安定剤及び酸化防止剤を配合した。表中の実験番号1には、40重量%の塊状重合SAN(S:AN比72:28)及び60重量%のスチレン/アクリロニトリルグラフト済みPBA(約45%のPBAを含有)を含有し、したがって配合物へのPBAゴム充填量が27%である、対照ASA配合物を使用した。対照ASA配合物は、広いPBAゴム粒径分布を有し、2:1(重量比)S:AN単量体混合物がPBAゴム基幹にグラフトしていた(以下ASA−HRGという)。
【0039】
実験番号1は、高いASTMノッチ付アイゾット衝撃強さと延性のあるダイナタップ衝撃挙動を示した。実験番号2は双峰分布のグラフト化PBAシステムを使用した。具体的には、約3:1(重量比)のS:AN単量体混合物を平均粒径100nm及び450nmを有し、75:25の比でブレンドしたPBAゴム基幹にグラフトすることで、2つのASA配合物を製造した。実験番号2のノッチ付アイゾット衝撃強さは、対照配合物、即ち実験番号1のそれと比べて幾分低下しているが、良好なダイナタップ衝撃強さは維持された。この同じ双峰分布のグラフト化PBAシステムが45MMA/40S/15AN(重量%/重量%/重量%)の単量体組成物から誘導されたグラフト共重合体を含有する場合、ノッチ付アイゾット衝撃強さはさらに低下し、一方ダイナタップ衝撃強さも急激に減少した(実験番号3)。
【0040】
【表3】

実施例1〜6及び比較例1〜3
以下の実施例は、単量体を段階的に供給してグラフト化を実施する過程を具体的に示す。212.8部の脱イオン化水及び45部の粒径分布の広いPBAを含有する反応混合物を撹拌し、60℃に加熱した。スチレン及びアクリロニトリル(重量比2:1)からなる単量体混合物を種々の量で各反応に第1段階で供給し、スチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレート(重量比40:25:35)からなる単量体混合物を種々の量で各反応に第2段階で供給した。単量体供給時間は、供給している単量体の相対量にしたがって、全単量体流量を一定に保つように調節し、合計で55部の単量体を90分にわたって連続的に添加した。さらに、0.225部のクメンヒドロペルオキシドと、5部の脱イオン化水、0.0033部の硫酸第二鉄六水和物、0.3部のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及び0.0165部のエチレンジアミン四酢酸の二ナトリウム塩からなる付活剤溶液とを各反応混合物に125分間にわたって連続的に供給した。表4に、各反応混合物に供給した単量体の量(重量部)を示す。
【0041】
【表4】

反応中に各反応混合物からサンプルを取った。サンプルと、硬質熱可塑性樹脂相及びグラフト化ゴム基幹からなる最終生成物とを塩化カルシウム水溶液で凝固させ、流動床乾燥機で70℃で乾燥した。サンプル及び最終生成物を、アセトン処理によりグラフト化レベルを分析し、ゲル含量(重量%)を求めた。
【0042】
図1に、スチレン及びアクリロニトリルからなる単量体混合物でグラフト化する第1段階の終わりの反応混合物から取ったサンプルについて測定したゲル含量(重量%)の値を示す。SAN55部のデータ点は、グラフト化の全体を、メチルメタクリレートを添加せずに、2:1(重量比)S:ANで実施した比較反応を表す。この比較データ点を、グラフト反応から予想される最高効率とみなした。データから、PBAへのグラフト化量が第1グラフト化段階で供給するSANの量と共に増加すること、そしてどの点でも、SAN供給物の約40%がゴム基幹へのグラフト反応を受けることが分かる。
【0043】
図2に、各グラフト反応からの(即ち、両グラフト段階の完了後の)最終生成物について測定したゲル含量(重量%)の値を、第1SANグラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%に対してプロットした。比較のために、グラフト重合体の予想量を第1SAN段階での全グラフト割合(%)の関数として示す理論線を示す。グラフト重合体の予想量は、第1段階での100%SANグラフト化から予想される重合体の比例量(MMAを添加しない第1SAN段階での全グラフト割合100%で示される値のパーセント)を、SANのみの第1段階グラフト化なしでの35/40/25MMA:S:ANグラフト化から予想される重合体の比例量(第1SAN段階での全グラフト割合0%で示される値のパーセント)に加えることにより計算した。データから分かるように、驚くべきことには、得られるグラフト化の量が予想されるグラフト化量の直線的な組合せではなく、第2段階でグラフトされるMMASANの量が、SANの一部を第1段階でグラフトする工程がプロセスに存在することにより増大する。
【0044】
さらに、普通のグラフト重合法を用いて、比較例を実施した。具体的には、45重量部のポリ(ブチルアクリレート)(PBA)ゴム基幹に、2段階で、種々の比(重量%/重量%/重量%で合計100%)のスチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレートからなる単量体混合物55重量部をグラフトした。各例のゴム基幹は、連続法により製造され、広いゴム粒径分布を有した。表5に、各段階の各グラフト反応に使用したスチレン、アクリロニトリル及びメチルメタクリレートの量と、得られた生成物の測定データを示す。粘度は、Kayeness毛管レオメーターを用いて260℃溶融温度条件下で種々の剪断速度で測定した。
【0045】
【表5】

本発明の実施例6のような2段階グラフト化は、生成物中のゲル含量(重量%)で測定したグラフト化レベルが、第1段階で供給する単量体混合物がMMAを含有する比較例のいずれよりも高い。
【0046】
実施例1〜5の生成物59重量部を用いて、36重量部のスチレン−アクリロニトリル−MMA樹脂(スチレン26重量部/アクリロニトリル24重量部/MMA50重量部、懸濁重合法で製造、宇部サイコン社からSR−06Bにて市販)を5重量部の架橋SAN重合体、3.2phrのTiO2及び低レベルの普通の滑剤及び安定化添加剤と共に含有する成形組成物を処方した。図3に、成形試験片について測定したダイナタップ衝撃強さの値を第1SANグラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%の関数として示す。同等の組成であるが、ASA−HRG(即ちグラフトにMMAなし)を含有する対照ブレンドを、第1段階でグラフトされるSANが全グラフト単量体の100%であるデータ点として入れた。同等の組成であるが、MMASANグラフト(グラフト中の割合が35MMA/40スチレン/25アクリロニトリルである)を含有する第2の対照ブレンドを、第1段階でグラフトされるSANが全グラフト単量体の0%であるデータ点として入れた。
【0047】
上記成形試験片には、色測定用MacBeth7000測光器を用いてCIE L*a*b*表色系における色測定も実施した。図4に、b*の値を第1SANグラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%に対してプロットした。Δbの(正の)値が高いほど、黄色への色ずれが顕著であることを示す。ASA−HRG(即ちMMAなし)を含有する類似の組成の対照配合物の成形品を作製した。図4に示すように、MMAなしのグラフト共重合体を含有する対照配合物の成形品は、溶融加工時に黄色を発色し、その結果白色顔料含有配合物のb*値が増大した。驚くべきことには、MMAを含有するグラフト共重合体を含有するサンプルは、第1段階のグラフト反応でSANとして相当量のグラフト共重合体を組み込んだ場合でも、b*値がはるかに低い。
【0048】
実施例7及び比較例4
34.5重量部のSAN(S:AN比72:28)、59重量部のASA−HRG、6.5重量部の架橋SAN重合体、3.2重量部の二酸化チタン及び2.25重量部の添加剤(安定剤、酸化防止剤、滑剤及び界面活性剤)を含有する比較例の成形試験片を作製した。上記組成でASA−HRGの代わりにMMA−SANをPBAにグラフトしたもの(MMA:S:AN比45:40:15)59重量部を使用し、55%のSAN(S:AN比2:1)を第1段階でPBAにグラフトし、次いで残りのMMASAN単量体混合物をグラフトした以外は同じ組成の成形試験片を作製した。図5に、AtlasCi65aキセノンアーク耐候試験器(ウェザロメーター)を用いてSAE J1960試験法にしたがって、これら2つの配合物に促進耐候試験を実施した結果を示す。促進耐候試験の後、試験片に、色測定用MacBeth7000測光器を用いてCIE L*a*b*表色系における色測定を実施した。図5に、Δb*の値を耐候性試験での露光量(kJ/m2)に対してプロットした。データから、PBAにグラフトしたMMA−SANを含有する組成物は、対照ブレンドと比較して、耐発色性が大幅に改良されていることが分かる。
【0049】
実施例8〜13
70%α−メチルスチレン及び30%アクリロニトリルからなる共重合体40phr、MMA−SANの共重合体(40重量部スチレン/25重量部アクリロニトリル/35重量部MMA、塊状重合法で製造)15phr、及びMMA−SANのPBAへの2段階グラフト化から得られる共重合体45phrを含有する組成物を製造した。使用したPBAは平均粒径100nmのPBAと平均粒径500nmのPBAとの比70:30でのブレンドであった。2段階のそれぞれでPBAにグラフトしたMMA−SANの量を表6に示す。各組成物は、2部のカーボンブラック及び低レベルの普通の滑剤及び安定化添加剤も含有した。表6には、これらの組成物から成形した試験片の物性も示す。粘度は、Kayeness毛管レオメーターを用いて260℃溶融温度条件下で種々の剪断速度で測定した。成形した試験片に、MacBeth7000測光器を用いてCIE L*a*b*表色系における色測定を実施した。L*の値は、MacBeth測光器に測定モードDREOLを用いて、正反射成分を排除して、測定した。
【0050】
【表6】

実施例8、9及び10を実施例11、12及び13とそれぞれ比較すると、第1グラフト段階でスチレン対アクリロニトリルの比が2.6:1である組成物(実施例11、12及び13)は、第1グラフト段階でスチレン対アクリロニトリルの比が2:1である組成物(実施例8、9及び10)より、L*値が低く、したがって色特定が良好であることが分かる。
【0051】
以上、本発明を代表的な実施形態について説明し、例示したが、本発明の要旨から逸脱することなく種々の変更や置き換えが可能であるので、本発明はこれらの細部に限定されるものではない。したがって、ここで開示した本発明のさらなる変更や均等物が普通の実験を実施するだけで当業者に想起でき、このような変更や均等物がすべて本発明の範囲内に入ると考えられる。
【0052】
ここに引用した特許及び特許出願はすべて先行技術として援用する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ゴム基幹にグラフトしたSANの量(部)とグラフト重合時に添加したSANの量(部)との関係を示すグラフである。
【図2】ゴム基幹にグラフトした重合体の量(部)の計算値と実測値を第1グラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%の関数として示すグラフである。
【図3】ダイナタップ衝撃強さを第1グラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%の関数として示すグラフである。
【図4】CIE Labのb*値を第1グラフト段階で導入した全グラフト単量体の重量%の関数として示すグラフである。
【図5】本発明の組成からなる配合物で実施した促進耐候試験の結果を、対照配合物と比較して示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質熱可塑性樹脂相に不連続エラストマー相を分散してなるゴム変性熱可塑性樹脂の製造方法であって、硬質熱可塑性樹脂相の少なくとも一部がエラストマー相にグラフトし、エラストマー相が1種以上の(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート単量体から誘導された構造単位を有するポリマーを含んでおり、当該方法が、
(a)第1段階でエラストマー相の存在下で複数の単量体の混合物を重合し、ここで上記単量体の1種以上がビニル芳香族単量体からなる群から選択され、上記単量体の1種以上がモノエチレン性不飽和ニトリル単量体からなる群から選択され、次いで
(b)1以上の後続段階で工程(a)からのエラストマー相の存在下で1種以上の単量体を重合し、ここで上記1種以上の単量体が(C1−C12)アルキル(メタ)アクリレート単量体及びアリール(メタ)アクリレート単量体からなる群から選択される1種以上の単量体を含有する、
工程を含んでなる方法。
【請求項2】
前記エラストマー相が初期に、少なくとも2つの平均粒径分布を有する粒子の混合物であって、粒径が約50nm〜約1000nmの範囲にある広い粒径分布を有する粒子混合物から選択される粒子を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1段階の単量体の混合物がスチレンとアクリロニトリル、又はα−メチルスチレンとアクリロニトリル、又はスチレンとα−メチルスチレンとアクリロニトリルの混合物を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
スチレン、α−メチルスチレン又はその混合物対アクリロニトリルの重量比が約1.5:1〜約4:1の範囲にある、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、単量体がメチルメタクリレートを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、単量体がさらに1種以上のビニル芳香族単量体を含む混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、単量体がさらに1種以上のビニル芳香族単量体及び1種以上のモノエチレン性不飽和ニトリル単量体を含む混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程(b)において、(C1−C12)アルキルもしくはアリール(メタ)アクリレート単量体対ビニル芳香族単量体とモノエチレン性不飽和ニトリル単量体の合計の重量比が約3:1〜約1:3の範囲にある、請求項7記載の方法。
【請求項9】
さらに、ゴム変性熱可塑性樹脂を別の重合工程で製造した硬質熱可塑性樹脂相と混合する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法で製造したゴム変性熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−501892(P2007−501892A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532862(P2006−532862)
【出願日】平成16年5月7日(2004.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2004/014343
【国際公開番号】WO2005/000938
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】