説明

耐酸性電極触媒

【課題】酸性電解質中又は酸性溶液中において、高電位でも化学的に安定で、なおかつ、高い酸素還元能を有する新規なカソード用耐酸性電極触媒を提供する。
【解決手段】窒化物、酸窒化物及び酸化物から選ばれるいずれかの化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されており、所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有する耐酸性電極触媒により、上記課題を解決する。本発明の耐酸性電極触媒として、(1)Sr又はBaを含むと共に価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸窒化物、(2)Laを含むと共に価数の異なるチタン元素を含むチタン酸窒化物、(3)価数の異なるゲルマニウム元素を含むβ−ゲルマニウム窒化物、(4)価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸化物、を好ましく挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒に関し、更に詳しくは、水電解、有機電解、燃料電池等の分野において、酸性電解質中で用いられる電気化学システムの耐酸性電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池が市場に普及する段階にまで至っていない原因のうち、最も深刻な問題は、燃料電池の電極に使用される白金の量である。固体高分子形燃料電池において、白金は高い表面積を有するカーボンに担持され、H→2H+2eの反応が起こるアノードと、O+4e+4H→2HOの反応が起こるカソードの両電極に用いられている。現在のところ、100kW出力の自動車につきおよそ100gの白金が必要であり、特に酸素を水に還元するカソード側は、白金を用いても酸素過電圧が大きく低活性であるため、白金使用量を多くして要求特性を満足させている。
【0003】
こうした状況下において、白金が非常に高価である点や、資源量に限界があるといった点から、白金の使用量の低減化、あるいは、白金を代替する触媒の開発が行われている。例えば特許文献1には、白金の代替材料として、La、Ta、Nb、Ti、Zrからなる群から選択される少なくとも1つの遷移金属を含むオキシナイトライドからなる電極触媒が提案されている。
【0004】
なお、金属オキシナイトライドは、水を可視光で分解する光触媒として開発されてきた(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1を参照。)が、これまで電極触媒としての利用は試みられていなかった。また、一般に、酸性電解質中で電極電位が高い状態では、炭化物を始めとする多くの非白金系化合物は活性溶解し、安定に存在することができないことが報告されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【特許文献1】特開2005−161203号公報
【特許文献2】特開2002−66333号公報
【非特許文献1】M. Hara et al., Catal. Today., 78, 555(2003)
【非特許文献2】米山宏ら、電気化学、41,719(1973)
【非特許文献3】J. Fernandez et al., J. Am. Chem. Soc., 127, 13100 (2005)
【非特許文献4】R. Bashyam and P. Zelenay,Nature, 443, 63 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、白金に代わる各種代替材料の研究が行われており、例えば、パラジウム、鉄、コバルト、ニッケル等からなる合金触媒(例えば、非特許文献3を参照。)や、遷移金属と窒素含有炭素との複合体等が報告されている(例えば、非特許文献4を参照。)。しかしながら、前者の合金触媒においては貴金属を使用することから価格の点で依然として不利であり、また、後者の複合体においては酸性溶液中で溶解し易く、安定性が乏しいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決する新規なカソード用電極触媒の提供を目的とするものであって、酸性電解質中又は酸性溶液中において、高電位でも化学的に安定で、なおかつ、高い酸素還元能を有する耐酸性電極触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、白金に代わる各種代替材料として、例えば水を可視光で分解する光触媒として研究されてきた金属オキシナイトライドに着目して研究を行っている過程で、その化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されているものの中に、酸性電解質中において高い電位で酸素還元能を有することを見出し、その知見に基づいて、新規なカソード用電極触媒である本発明の耐酸性電極触媒を完成させた。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するための本発明の耐酸性電極触媒は、窒化物、酸窒化物及び酸化物から選ばれるいずれかの化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されており、所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有するものであることを特徴とする。
【0009】
上記本発明の耐酸性電極触媒として、(1)Sr又はBaを含むと共に価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸窒化物、(2)Laを含むと共に価数の異なるチタン元素を含むチタン酸窒化物、(3)価数の異なるゲルマニウム元素を含むβ−ゲルマニウム窒化物、(4)価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸化物、を挙げることができる。
【0010】
また、上記本発明の耐酸性電極触媒において、電子伝導性粉末担体上に分散させたものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の耐酸性電極触媒において、燃料電池用電極触媒として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の耐酸性電極触媒によれば、酸性電解質中又は酸性溶液中において、高電位でも化学的に安定で、なおかつ、高い酸素還元能を有するという、白金以外の材料としては従来にない優れた特性を有している。こうした本発明の耐酸性電極触媒をカソード電極触媒として用いれば、固体高分子形燃料電池における電極のコストを格段に低減することができ、具体的には1/100〜1/10程度に低減することができ、その結果、燃料電池自動車等が広く普及することが期待できると共に、今後の世界規模の燃料電池の普及及び実用化を考える上で、極めて有望である。また、安価で埋蔵量も多いゲルマニウム、チタン、ニオブ等の窒化物、酸窒化物、酸化物がカソード電極触媒として実用化されれば、大幅なコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の耐酸性電極触媒について詳しく説明する。
【0014】
(耐酸性電極触媒)
本発明の耐酸性電極触媒は、窒化物、酸窒化物及び酸化物から選ばれるいずれかの化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されており、所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有するものである。
【0015】
好ましい窒化物としては、価数の異なるゲルマニウム元素を含むβ−ゲルマニウム窒化物(β−Ge)を挙げることができ、また、好ましい酸化物としては、価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸化物(NbO)を挙げることができ、また、好ましい酸窒化物としては、Sr又はBaを含むと共に価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸窒化物(BaNbON、SrNbON)、及び、Laを含むと共に価数の異なるチタン元素を含むチタン酸窒化物(LaTiON)を挙げることができる。
【0016】
なお、上記の好ましい化合物は、現時点で確認されたものを列記しているが、上記以外の化合物であっても、窒化物、酸窒化物及び酸化物から選ばれるいずれかの化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されて所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有するものであれば、例えば固体高分子形燃料電池の耐酸性電極触媒として好ましく用いることができる。
【0017】
ここで、「化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されている」とは、上記の具体的な化合物を例にして説明すれば、β−GeにおいてはGe4+の他にその還元種であるGeやGe2+を含むことを意味しており、NbOにおいてはNb5+の他にその還元種であるNb4+を含むことを意味しており、BaNbONにおいてはNb5+の他にその還元種であるNb4+を含むことを意味しており、SrNbONにおいてもNb5+の他にその還元種であるNb4+を含むことを意味しており、LaTiONにおいてはTi4+の他にその還元種であるTi3+を含むことを意味している。なお、NbOはその組成式からはほとんどが還元種であるNb4+であると予想されるが、表面においてはそのほとんどがNb5+である。
【0018】
また、「一部」については特に限定されないが、少なくとも全てが実質的に単一の酸価を有する元素のみで構成されていないことを意味し、また、材料によって最適な範囲は異なり、多すぎる場合においても酸素還元能を低下させる原因となりうる。なお、「実質的」とは、還元種の存在が、耐酸性や酸素還元能に影響を及ぼさない範囲は含まないという意味である。
【0019】
こうした還元種の存在は、XPS(X線光電子分光分析装置:対象物質に軟X線を照射し、飛び出した光電子をスペクトルとして検出し、対象物質の表面分析を行う装置のこと)で測定することによりその存在とその存在割合を評価でき、また、UV−Vis.DRS(紫外可視拡散反射分光装置:対象物質に紫外・可視領域の波長の光を照射し、拡散反射した光を検出し、対象物質のスペクトル分析を行う装置のこと)を用い、どの波長を吸収したかを評価すれば、同様に、その存在を評価できる。
【0020】
本発明の耐酸性電極触媒において、化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されていることと、耐酸性や高電位での酸素還元能との関係については十分には明らかにはなっていないが、還元種を含まないものや全てあるいは多量に還元種を含むものが良好な耐酸性や酸素還元能を示さないことから、現時点では両者には結果として相関があり、好ましい効果が得られていると考えている。
【0021】
上記窒化物、酸窒化物及び酸化物の各化合物の化学量論組成については特に限定されないが、例えばGeとNbOについては、標記の化学量論組成±0.1以内であることが好ましい。一方、ABO型化合物の類型として表すことができるBaNbON、SrNbON、LaTiONについても、標記の化学量論組成±0.1以内であることが好ましい。
【0022】
本発明の耐酸性電極触媒は、所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有しているが、その値(0.8eV)は、さらにドーパントを選択することにより高い値にすることが可能である。ドーパントとしては、B、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、La、Sm、Ce等が挙げられる。
【0023】
酸性電解質は、例えば本発明の耐酸性電極触媒を固体高分子形燃料電池に適用する場合には、その燃料電池で通常使用される強酸性のナフィオン(登録商標)溶液を指しているが、本発明の耐酸性電極触媒の酸素還元能の評価としては、「所定」の酸性電解質中で得られた結果で評価され、その値が標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位となる。したがって、標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位となる酸素還元能の評価に用いる「所定の酸性電解質」としては、後述の実施例に記載のように、0.1M HSO溶液中で評価した結果で表している。さらに、その評価条件としては、酸素雰囲気、室温(約25℃)下で、カウンター電極として白金線を用い、参照電極としてAg/AgCl電極を用いて、サイクリックボルタンメトリー(走査速度:5mV/秒)による酸化還元反応の結果から得ている。Ag/AgCl電極電位基準と標準水素電極電位基準とは0.2V異なっているので、標準水素電極電位基準への換算は、Ag/AgCl電極電位基準での電位に0.2V加えて算出すればよい。また、「標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位となる酸素還元能」における「電位」の特定は、後述の図5〜図9に示すように、酸素雰囲気で酸素還元ピークが立ち上がる電位で特定することができる。
【0024】
なお、電位の上限は電極触媒の安定性の問題で決まり、標準水素電極電位基準でおよそ1.6Vまで使用可能である。電位が標準水素電極電位基準で1.6Vを超えると、本発明の耐酸性電極触媒の表面からの酸素発生と同時に除々に酸化が起こって酸化物になってしまう。なお、標準水素電極電位基準で0.8eV未満では、安定性の観点では特に問題はないが、酸素還元触媒という観点からの有用性は乏しい。
【0025】
また、本発明の耐酸性電極触媒において、電子伝導性粉末担体上に分散させたものであることが好ましい。電子伝導性粉末担体としては、炭素粉末、酸化タングステン粉末、酸化イリジウム粉末等、各種の電子伝導性粉末を用いることができる。本発明の耐酸性電極触媒を燃料電池用電極触媒として用いる場合には、例えば、本発明の耐酸性電極触媒の粉末を炭素粒子に担持させて電極触媒担持炭素粉末とし、その電極触媒担持炭素粉末にナフィオン(登録商標)を加え、触媒ペーストとして利用することができる。
【0026】
(耐酸性電極触媒の製造方法)
次に、本発明の耐酸性電極触媒の製造方法について説明する。本発明の耐酸性電極触媒のうち、酸窒化物又は窒化物を製造するには、原料として金属酸化物を用い、これらの単体又は混合物をアンモニア、アンモニウム塩、ヒドラジン、窒素、金属窒化物、金属アミド、金属アンミン錯体等と反応させることによって合成する。反応は、例えば、原料である金属化合物と含窒素化合物の粉末状混合物を加熱するか、原料である金属板の表面を酸化させて金属酸化物を形成しておき、それを窒素や含窒素化合物により窒化させて表面のみを部分的に窒化する等の方法を適宜採用できる。なお、これらの方法の選択は、得ようとする化合物の種類に応じて行われる。なお、本発明の耐酸性電極触媒のうち、酸化物については原料の金属酸化物をそのまま使用することができる。
【0027】
金属塩や金属錯体を原料として用いる場合には、窒化の前に、例えばアルコール等の有機溶媒に溶解させ、温度650℃、大気中で2時間熱処理する等の方法により、前駆体としての金属酸化物を形成して用いればよい。
【0028】
原料として金属化合物粉末を用いる場合は、得られる化合物微粒子の大きさは原料粉末の大きさでほぼ決まるので、原料粉末の大きさを調整することによって所望の大きさの微粒子を得ることができる。
【0029】
反応温度は400℃以上1200℃以下の範囲であり、温度が400℃よりも低いと反応速度が遅く、反応が進行しにくい。長時間かければ反応が進むが、金属酸化物原料の含窒素化合物と接触しやすい周辺部分の窒化の進行度合いに比べて内側の部分の窒化が進行しにくく、場所的に窒化の度合いが異なってしまい均一に窒化されたものを得難くなる。温度が1200℃よりも高いと分解してしまう。
【0030】
この反応の際、窒化物を得ようとする場合には窒化を完全に進行させればよいが、元素の一部に還元種を含まないと酸素還元触媒能が小さい。また、酸窒化物を得ようとする場合には、原料金属化合物を原料として窒化を進めていく途中において、酸素と窒素を同時に含んだ状態になるようにして反応を停止させることが好ましい。
【0031】
金属酸化物とアンモニアとの反応が本発明の耐酸性電極触媒の合成方法としては有利である。この反応では、窒化の進行とともに酸素がとれるのでアンモニアは還元剤かつ窒化剤となる。アンモニアの供給速度や反応温度を変化させることにより、窒化の程度を制御できる。この反応の際に、アンモニアに加えて水蒸気と窒素の混合気体としてアンモニアの分圧を変化させ、窒化速度を下げることによって、窒化の度合いの場所による差が小さい均一に窒化された酸窒化物を得ることができる。
【実施例】
【0032】
実施例と比較例を挙げて本発明の耐酸性電極触媒を更に具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の耐酸性電極触媒の一例を挙げたものであり、本発明の範囲が以下の実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0033】
(実施例1)
酸化ゲルマニウム(GeO)粉末(関東化学社製、純度99.99%、平均粒径0.2μm)を原料とし、アンモニアガスをよく通すように石英ウールで包んで反応管内に保持した。反応管内にアンモニア(純度99.999%)と水蒸気と窒素の混合気体を導入し、ガスの流れがほぼ定常になるまで待った後(60分程度)、850℃(昇温:10℃/min)で窒化を行い、窒化が完全に進行する前に混合気体の導入を停止して、大きさが300nmの窒化ゲルマニウム(Ge)粉末を作製し、実施例1の電極触媒とした。
【0034】
(実施例2)
チタンテトライソプロポキシド(Ti[OCH(CH)とエチレングリコールHOCHCHOHとを混合し、硝酸ランタン六水和物(La(NO)6HO)を添加して攪拌することにより室温で溶解させた。これに、クエン酸HOOCCHC(OH)(COOH)CHCOOHとメタノールCHOHとを加え、130℃で攪拌しながら溶解させた。さらに、350℃で熱処理を行って炭化させた後、大気中、650℃で2時間熱処理を行い、LaとTiの複合酸化物前駆体を得た。次いで、そのLaとTiの複合酸化物前駆体を原料とし、アンモニアガスをよく通すように石英ウールで包んで反応管内に保持した。反応管内にアンモニア(純度99.999%)と水蒸気と窒素の混合気体を導入し、ガスの流れがほぼ定常になるまで待った後(60分程度)、980℃(昇温:10℃/min)で窒化を行い、大きさが平均粒径5μmのランタンチタン酸窒化物(LaTiON)粉末を作製し、実施例2の電極触媒とした。
【0035】
(実施例3)
酸化ニオブ(Nb)粉末(関東化学社製、純度99.9%、平均粒径0.5μm)と炭酸バリウムBaCO(関東化学社製、純度99.9%)とを混合し、アンモニアガスをよく通すように石英ウールで包んで反応管内に保持した。反応管内にアンモニア(純度99.999%)と水蒸気と窒素の混合気体を導入し、ガスの流れがほぼ定常になるまで待った後(60分程度)、1000℃(昇温:10℃/min)で窒化を行い、大きさが平均粒径500nmのバリウムニオブ酸窒化物(BaNbON)粉末を作製し、実施例3の電極触媒とした。
【0036】
(実施例4)
塩化ニオブNbClとメタノールとを混合して溶解させ、これにエチレングリコールHOCHCHOHとクエン酸HOOCCHC(OH)(COOH)CHCOOHを添加し、室温で溶解させた。次いで、炭酸ストロンチウムSrCOを添加して130℃で攪拌しながら溶解させた。さらに、350℃で熱処理を行って炭化させた後、大気中、650℃で2時間熱処理を行い、SrとNbの複合酸化物前駆体を得た。次いで、そのSrとNbの複合酸化物前駆体を原料とし、アンモニアガスをよく通すように石英ウールで包んで反応管内に保持した。反応管内にアンモニア(純度99.999%)と水蒸気と窒素の混合気体を導入し、ガスの流れがほぼ定常になるまで待った後(60分程度)、850℃(昇温:10℃/min)で窒化を行い、大きさが平均粒径2μmのストロンチウムニオブ酸窒化物(SrNbON)粉末を作製し、実施例4の電極触媒とした。
【0037】
(実施例5)
酸化ニオブ(NbO)粉末(Stream社製、純度99.9%、平均粒径5μm)を用い、実施例5の電極触媒とした。
【0038】
(比較例1)
実施例1において、反応温度950℃として窒化処理を行って、価数の異なるゲルマニウム元素を多く含む窒化ゲルマニウムGeと還元種Geの混合物粉末を作製し、比較例1の電極触媒とした。
【0039】
(比較例2)
実施例2において、反応温度700℃として窒化処理を行って、価数の異なるチタン元素を実質的に含まないランタンチタン酸窒化物(LaTiON)粉末を作製し、比較例2の電極触媒とした。
【0040】
(比較例3)
実施例3において、反応温度700℃として窒化処理を行って、価数の異なるニオブ元素を実質的に含まないバリウムニオブ酸窒化物(BaNbON)粉末を作製し、比較例3の電極触媒とした。
【0041】
(比較例4)
窒化ニオブ(NbN)粉末(和光純薬社製、純度99%、平均粒径10μm)をそのまま用い、比較例4の電極触媒とした。
【0042】
(比較例5)
一酸化ニオブ(NbO)粉末(CBMM社製、純度99%、平均粒径1μm)をそのまま用い、比較例5の電極触媒とした。
【0043】
(還元種の測定)
得られた化合物(窒化物、酸窒化物、酸化物)中に含まれる還元種は、XPS(日本電子社製のX線光電子分光分析装置、型番:JPS−90SX)で測定した。また、UV−Vis.DRS(日本分光社製の紫外可視分光光度計、型番:V−560)でも測定した。その結果、実施例1〜5については還元種の存在が確認され、比較例2,3については確認されず、比較例1,4,5についてはほとんどが還元種であった。これらのうち、還元種の割合を定量化できたものについて百分率で表せば、実施例2では13%、実施例3では9%、実施例4では9%、実施例5では13%であった。
【0044】
XPS測定で得られたデータの具体例として、実施例2の電極触媒について図1に示し、実施例5の電極触媒について図2に示した。図1においては、Tiの2p軌道のXPSデータを測定し、結合エネルギー(B.E)の小さい側から破線で表される4つのピーク(P1〜P4)が得られた。P1とP3はTi4+のピークであり、P2とP4はTi3+のピークであり、還元種であるTi3+の割合(百分率)は、[P4の面積]/[P3の面積+P4の面積]×100=13%として得られた。また、図2においては、Nbの3d軌道のXPSデータを測定し、結合エネルギー(B.E)の小さい側から破線で表される4つのピーク(P1〜P4)が得られた。P1とP3はNb5+のピークであり、P2とP4はNb4+のピークであり、還元種であるNb4+の割合(百分率)は、[P4の面積]/[P3の面積+P4の面積]×100=13%として得られた。こうしたXPS測定を種々の試料について行った結果、本願出願時点での還元種の好ましい範囲としては、その表面組成において、例えば0.0001%程度以上30%程度以下の範囲で異なる酸価が存在していればよいと考えられる。
【0045】
同様に、UV−Vis.DRS測定で得られたデータの例として、実施例2の電極触媒について図3に示し、実施例5の電極触媒について図4に示した。図3において620nm〜800nmの範囲をみると、還元種が存在していない場合には曲線は破線のようになり、還元種が存在している実線のものとは明らかに異なっていることがわかる。また、図4において730nm〜800nmの範囲をみると、還元種が存在していない場合には曲線は破線のようになり、還元種が存在しているものとは明らかに異なっていることがわかる。
【0046】
また、実施例1〜5及び比較例1〜5の電極触媒については、それぞれX線回折測定により同定し、それぞれの結晶形が得られていることを確認している。
【0047】
(測定試料の作製)
実施例1〜5及び比較例1〜5の電極触媒を50mg採取し、その電極触媒と、カーボンブラック(Cabot社製、Vulcan XC−72R)5mgと、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)0.6mlと、アセチルアセトン2.4mlとを混ぜ、超音波で25分間攪拌・懸濁した。得られた懸濁液50μlを、面積1cmに加工したカーボンペーパ(東レグラファイトペーパ、商品名:TGP−H−120)上に均一に塗布した。その後120℃で乾燥して、実施例1〜5及び比較例1〜5の電極触媒それぞれについての測定試料を作製した。
【0048】
(電気化学測定)
0.1M(mol/dm)硫酸溶液に、上記のようにして得られた測定試料を作用電極として浸漬し、室温(約25℃)下、大気圧で実験を行った。ガス雰囲気は、窒素雰囲気及び酸素雰囲気のいずれかとした。カウンター電極として白金線を用い、参照電極としてAg/AgCl電極を用いて、サイクリックボルタンメトリー(走査速度:5mV/秒、サイクル回数:10回)による酸化還元反応を行った。その結果の一部を図5〜図9に示した。なお、図中の横軸の電位は、Ag/AgCl電極基準で表しているが、最終的には、標準水素電極基準に換算して評価した。また、縦軸の電流値は、作用電極として用いた測定試料の面積(1cm)あたりの電流値である。なお、酸素雰囲気下で測定するのは、固体高分子形燃料電池では燃料として酸素ガスが用いられるため、同じ条件となるからである。
【0049】
(結果)
図5〜図9に示すように、本発明に係る実施例1〜5の電極触媒は、酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有することが確認された。現時点での結果では、それぞれの酸素還元電位は、標準水素電極電位基準で、β−Geが0.80eV、LaTiONが0.80eV、BaNbONが0.86eV、SrNbONが0.80eV、NbOが0.83eVであった。一方、比較例1〜3の試料を用いた酸素還元電位は、標準水素電極電位基準で、比較例1では0.2eV、比較例2では0.2eV、比較例3では0.2eVであった。また、比較例4,5では、酸化還元能がなかった。
【0050】
また、本発明に係る実施例1〜5の電極触媒は、電位走査を繰り返しても、いずれも曲線の形状に変化はなく、硫酸溶液中で安定に存在することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の耐酸性電極触媒は、水電解、有機電解、燃料電池等の分野において酸性電解質中で用いられる電気化学システム用の電極触媒として有用であり、特に固体高分子形燃料電池のカソード電極触媒として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例2の電極触媒についてのXPS測定データである。
【図2】実施例5の電極触媒についてのXPS測定データである。
【図3】実施例2の電極触媒についてのUV−Vis.DRS測定データである。
【図4】実施例5の電極触媒についてのUV−Vis.DRS測定データである。
【図5】実施例1の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図6】実施例2の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図7】実施例3の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図8】実施例4の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。
【図9】実施例5の電極触媒についての酸化還元反応の触媒能を評価するサイクリックボルタモグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物、酸窒化物及び酸化物から選ばれるいずれかの化合物を構成する金属元素の一部が部分的に還元されており、所定の酸性電解質中での標準水素電極電位基準で0.8eV以上の電位で酸素還元能を有するものであることを特徴とする耐酸性電極触媒。
【請求項2】
Sr又はBaを含むと共に価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸窒化物である、請求項1に記載の耐酸性電極触媒。
【請求項3】
Laを含むと共に価数の異なるチタン元素を含むチタン酸窒化物である、請求項1に記載の耐酸性電極触媒。
【請求項4】
価数の異なるゲルマニウム元素を含むβ−ゲルマニウム窒化物である、請求項1に記載の耐酸性電極触媒。
【請求項5】
価数の異なるニオブ元素を含むニオブ酸化物である、請求項1に記載の耐酸性電極触媒。
【請求項6】
電子伝導性粉末担体上に分散させた、請求項1〜5のいずれかに記載の耐酸性電極触媒。
【請求項7】
燃料電池用電極触媒として用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の耐酸性電極触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−155111(P2008−155111A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345804(P2006−345804)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】