説明

耐震装置

【課題】情報機器や通信機器等が収容される筐体を床に設置する耐震装置において、筐体を床に固定する力が低下せず、筐体を床に固定する力が大きく、耐震性に優れた耐震装置を提供することを課題とする。
【解決手段】
筐体1に取り付けられた1又は連結金具15を用いて一体化された複数の吸盤13と、床3の面上に速乾性のアクリル系樹脂塗料を塗布すること等で形成され、吸盤13が吸着する非通気性層4とから構成された耐震装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報機器や通信機器等が収容される筐体を床に設置する耐震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、情報機器や通信機器等が収容される筐体を床に設置する場合、床と筐体とはアンカボルトを用いて固定している。
しかし、アンカボルトを用いて筐体を床に固定する工法では、床にアンカボルトを挿入する穴を形成する際に、震動や騒音が発生する。又、塵埃も多く発生する。一方、情報機器や通信機器等は、塵埃や震動を嫌う。よって、これらの機器をアンカボルトを用いて床に固定する際には、機器の運用を停止しなければならない。
【0003】
この問題点を解決するために、アンカボルトの代わりに吸盤を用いることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−280195号公報(段落番号0073、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
情報機器や通信機器等が収容される筐体が設置される床は、コンクリート床の場合が多い。コンクリート床は、コンクリート硬化時の化学反応による発熱で水分が水蒸気となって蒸発し、多孔質となっている。
【0005】
よって、特許文献1に記載のように吸盤を床に吸着させても、床がコンクリート床の場合には、吸着力が発生せず、地震等により容易に転倒する問題点がある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、筐体を床に固定する力が低下せず、筐体を床に固定する力が大きく、耐震性に優れた耐震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する請求項1に係る発明は、筐体を床面に固定する耐震装置において、筐体に取り付けられた吸盤と、前記床面上に形成され、前記吸盤が吸着する非通気性層とからなることを特徴とする耐震装置である。
【0007】
筐体に取り付けられた吸盤が、床に形成された非通気層の表面に吸着し、筐体が床に設置される。
請求項2に係る発明は、前記吸盤は、前記床面上に形成された非通気性層に当接し、前記非通気性層との間に大気圧より気圧の低い低気圧室を形成する吸着部を有する吸盤本体と、該吸盤本体に設けられた一方の端部側の開口が開放面となった有底円筒状のシリンダと、該シリンダの開放面となった開口より前記シリンダの内部に嵌合し、移動することにより前記シリンダ内に体積が変化する気密室を形成するピストンと、前記ピストンが前記シリンダの開放面となった開口より突出する方向に付勢する付勢手段と、前記シリンダに形成された気密室と、前記吸盤本体の低気圧室とを接続する管路とを有することを特徴とする請求項1記載の耐震装置である。
【0008】
吸盤本体の低気圧室と、シリンダ、ピストンで形成される気密室とは、接続された管路によって、同じ気圧となる。
吸盤本体の吸着部が床の非通気性層に当接した状態で、ピストンを付勢手段の付勢力に抗して押すと、シリンダ、ピストンで形成される気密室内の空気が圧縮され、吸盤本体の吸着部と、床の非通気性層との間から空気が押し出される。
【0009】
ピストンを付勢手段の付勢力に抗して押す操作を停止すると、付勢手段の反発力により、ピストンは元位置に向かって移動し、気密室の体積が増加し、吸盤本体の低気圧室、シリンダ、ピストンで形成される気密室、管路内の気圧が大気圧より低くなる。よって、吸盤本体と床面上に形成された非通気層との間に吸着力が発生する。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記吸盤、前記管路、前記シリンダのいずれかに、前記低気圧室、前記管路、前記気密室の気密を開放する開放手段を設けたことを特徴とする請求項2記載の耐震装置である。
【0011】
開放手段を駆動すると、吸盤本体の低気圧室、シリンダ、ピストンで形成される気密室、管路内の気圧が大気圧と同じになる。
請求項4に係る発明は、前記吸盤は、前記吸盤を1又は複数保持する連結金具を介して、筐体に取り付けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐震装置である。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記非通気性層は、塗料により形成される層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐震装置である。
塗料としては、例えば、速乾性のアクリル系樹脂塗料があるが限定するものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1−5に係る発明によれば、筐体に取り付けられた吸盤と、前記床面上に形成され、前記吸盤が吸着する非通気性層とからなることにより、吸盤の吸着力が低下せず、筐体を床に固定する力が大きく、耐震性に優れる。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、ピストンを付勢手段の付勢力に抗して移動させるだけで、容易に吸盤本体と床面上に形成された非通気層との間に吸着力を発生させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、前記吸盤、前記管路、前記シリンダのいずれかに、前記低気圧室、前記管路、前記気密室の気密を開放する開放手段を設けたことにより、開放手段を操作することにより、容易に吸盤本体と床面上に形成された非通気層との間の吸着力をなくすことができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、前記吸盤は、前記吸盤を1又は複数保持する連結金具を介して、筐体に取り付けられる。連結金具に保持される吸盤の数を適切に設定することにより、所望の固定力を得ることができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、塗料を塗布するだけで、容易に床の上に非通気性層が形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
最初に、本形態例の耐震装置を用いた筐体の全体構成を図1を用いて説明する。図において、1は情報機器や通信機器等が収容される筐体である。本形態例では、床3から一定の空間を空けて作られたフリーアクセスフロア5上の筐体1は設置されるようになっている。
【0019】
そして、筐体1の底面には、ナット9を用いて、フリーアクセスフロア5を貫通し、床3に向かって延びるずん切りボルト11が設けられている。
床3側には、床3に吸着する吸盤13を複数(本形態例では2つ)保持する連結金具15が設けられている。この連結金具15には、筐体1の底面に向かって延びるボルト16が設けられている。そして、ボルト16の上端部と、ずん切りボルト11の下端部とは、連結ナット18を用いて連結されている。
【0020】
又、吸盤13が吸着する床3の面上には、非通気性層4が形成されている。本形態例では、非通気性層4は、速乾性のアクリル系樹脂塗料を床3上に塗布することで形成した。
次に、図2−図4を用いて吸盤13の説明を行なう。図2は吸盤13を説明する図で(a)図は上面図、(b)図は下面図、(c)図は正面図、図3は図2の開放レバーを説明する図で、(a)図は分解斜視図、(b)図は(a)図の切断線A−A断面図、図4は吸盤13の作動を説明する図である。
【0021】
図2において、吸盤13は、大別して吸盤本体14、シリンダ17、ピストン19からなっている。吸盤本体14には、床3と吸着する吸着部21が形成されている。具体的には、吸着部21の床3と対向する面には、断面形状が三角形の突起23が円状に形成され、この突起23で囲まれた吸着部21の床3と対向する面21aと、突起23と、床3の非通気性層4とで囲まれた空間に、大気圧より気圧の低い低気圧室24を形成するようになっている。
【0022】
吸盤本体14上には、ブラケット31、31’を用いてシリンダ17が設けられている。シリンダ17は一方の端部側の開口17aが開放面となった有底円筒状であり、シリンダ17の開放面となった開口17aよりピストン19が嵌合している。従って、シリンダ17内には、ピストン19が移動することにより体積が変化する気密室33が形成されている。また、ピストン19の先端部側には、シリンダ17の内壁面に密着し、シリンダ17の内部に形成された気密室33の気密を保持するパッキン35が設けられている。尚、本形態例では、パッキン35の材質はニトリルゴムとした。
【0023】
気密室33内には、一端部がシリンダ17の底部に当接し、他端部がピストン19に当接し、ピストン19がシリンダ17の開放面となった開口17aより突出する方向に付勢するスプリング37が設けられている。
【0024】
図2、図3に示すように、ブラケット31には、開放手段としての開放レバー41を回転可能に支持する開放レバーブラケット43が設けられている。
図3に示すように、開放レバーブラケット43には、開放レバー41が配置され、床3に対して略垂直に延びる溝45が形成されている。溝45には、開放レバー41の下部と対向する第1の底部45aと第1の底部45aより深さが深い第2の底部45bとが形成されている。第1の底部45aの両側に形成された立壁部45cには、開放レバー41の側面に設けられたヒンジピン47が嵌合する穴45dが形成されている。
【0025】
吸盤本体14と、開放レバーブラケット43とには、シリンダ17に形成された気密室33と、吸盤本体14の低気圧室24とを接続する管路14aと、管路43aが形成されている。また、管路43aには、管路43aより分岐して溝45の第1の底部45aに開口43cを有する開放管路43bが接続されている。尚、図2(b)に示すように、吸着部21の床3と対向する面21aであって、円状の突起23の内側には、管路14aの開口14bが形成されている。
【0026】
そして、溝45の第2の底部45bと開放レバー41のヒンジピン47より上方にある裏面との間には、開放レバー41の下部の裏面が開放管路43bの開口43cを塞ぐ方向に付勢するスプリング49が設けられている。
【0027】
従って、スプリング49の付勢力に抗して開放レバー41の上部を押すと、開放管路43bの開口43cを塞いでいる開放レバー41の下部が移動し、開放管路43bの開口43cが開放面となることとなる。
【0028】
次に、図4を用いて、吸盤13の作動を説明する。(a)図は、気密室33、管路43a、管路14a、低気圧室24、開放管路43a内の圧力が大気圧と同じ状態である。この状態では、吸盤13の吸着力は発生していない。
【0029】
吸盤本体14の吸着部21が床3の非通気性層4に当接した(a)図の状態から、(b)図に示すように、ピストン19をスプリング(付勢手段)37の付勢力に抗して押すと、シリンダ17、ピストン19で形成される気密室33内の空気が圧縮され、吸盤本体14の吸着部21の突起23と、床3の非通気性層4との間から空気が押し出される。
【0030】
(c)図に示すように、ピストン19をスプリング37の付勢力に抗して押す操作を停止すると、スプリング37の反発力により、ピストン19は元位置に向かって移動し、気密室33の体積が増加し、吸盤本体14の低気圧室24、シリンダ17、ピストン19で形成される気密室33、管路43a、管路14a、開放管路43b内の気圧が大気圧より低くなる。よって、吸盤本体14と床面3上に形成された非通気層4との間に吸着力が発生する。
【0031】
そして、スプリング49の付勢力に抗して開放レバー41の上部を押すと、開放管路43bの開口43cを塞いでいる開放レバー41の下部が移動し、開放管路43bの開口43cが開放面となり、吸盤本体14の低気圧室24、シリンダ17、ピストン19で形成される気密室33、管路43a、管路14a、開放管路43b内の気圧が大気圧と同じとなる(a)図に状態となる。
【0032】
尚、本形態例では、開放レバーを管路43a近傍に設けたが、管路14aやシリンダ17や吸盤本体14に設けてもよい。
次に、図5、図6を用いて連結金具15の説明を行なう。図5は連結金具と吸盤との取り付けを説明する図で、(a)図は上面図、(b)図は正面図、図6は連結金具を説明する図で(a)図は連結金具の背面図、(b)図は上面図、(c)図は正面図、(d)図は(b)図の右側面図である。
【0033】
図5に示すように、連結金具15は、2つの吸盤13を保持するようになっている。
図6に示すように、連結金具15は、板状の本体部15aと本体部15aの一方の面の長手方向中央部に形成され、本体部15aと平行な天面15eを有するボルト支持部15bと、本体部15aの他方の面側の長手方向両側部中央から略90°折曲し、ボルト支持部15bから離れる方向に延出する第1及び第2の補強部15c、15dからなっている。
【0034】
ボルト支持部15bの天面15eには、ボルト16が挿通する穴15fが形成され、本体部15aには、穴15fに対向し、ボルト16が挿通する穴15gが形成されている。そして、図5(b)に示すように、穴15g側からボルト16が挿入され、ボルト支持部15bの天面15eに密着するナット18により、ボルト16は固定されている。
【0035】
本体部15aには、ボルト支持部15bを介して、一方の側に4つの穴15h−15kが形成されている。また、他方の側に4つの穴15l−15oが形成されている。
図5に示すように、連結金具15と一方の吸盤13とは、吸盤13のシリンダ17に係合し連結金具15の穴15h、穴15iを挿通し、ナット51で固定されるUボルト53と、吸盤13のシリンダ17に係合し連結金具15の穴15j、穴15kを挿通し、ナット55で固定されるUボルト57とで固定されている。
【0036】
連結金具15と他方の吸盤13とは、吸盤13のシリンダ17に係合し連結金具15の穴15l、穴15mを挿通し、ナット59で固定されるUボルト61と、吸盤13のシリンダ17に係合し連結金具15の穴15n、穴15oを挿通し、ナット63で固定されるUボルト65とで固定されている。
【0037】
尚、本形態例では、連結金具15は、2つの吸盤13を保持するようにしたが、1つでもよい。また、図7(a)に示すように、2つの吸盤13を保持する連結金具15の第2の補強部15dに、1つの吸盤13を保持する第2の連結金具71を接続するようにすれば、3つの吸盤13を保持することができる。また、図7(b)に示すように、2つの吸盤13を保持する連結金具15、15’の第2の補強部15d、15d’どうしを第3の連結金具73で接続するようにすれば、4つの吸盤13を保持することができる。
【0038】
このような構成によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)筐体1に取り付けられた吸盤13と、床3の面上に形成され、吸盤13が吸着する非通気性層4とからなることにより、吸盤13の吸着力が低下せず、筐体1を床3に固定する力が大きく、耐震性に優れる。
(2)ピストン19をスプリング37の付勢力に抗して移動させるだけで、容易に吸盤本体14と床3の面上に形成された非通気層4との間に吸着力を発生させることができる。
(3)管路43aに、吸盤本体14の低気圧室24、シリンダ17、ピストン19で形成される気密室33、管路43a、管路14a、開放管路43b内の気密を開放する開放手段としての開放レバー41を設けたことにより、開放レバー41を操作することにより、容易に吸盤本体14と床3の面上に形成された非通気層4との間の吸着力をなくすことができる。
(4)吸盤13は、吸盤13を1または複数保持する連結金具を介して、筐体1に取り付けられる。連結金具に保持される吸盤13の数を適切に設定することにより、所望の固定力を得ることができる。
(5)塗料を塗布するだけで、容易に床3の上に非通気性層4が形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】形態例の耐震装置を用いた筐体の全体構成を説明する図である。
【図2】図1の吸盤を説明する図で(a)図は上面図、(b)図は下面図、(c)図は正面図である。
【図3】図3は図2の開放レバーを説明する図で、(a)図は分解斜視図、(b)図は(a)図の切断線A−A断面図である。
【図4】吸盤の作動を説明する図である。
【図5】連結金具と吸盤との取り付けを説明する図で、(a)図は上面図、(b)図は正面図である。
【図6】連結金具を説明する図で(a)図は連結金具の背面図、(b)図は上面図、(c)図は正面図、(d)図は(b)図の右側面図である。
【図7】連結金具の他の形態例を説明する図である。
【符号の説明】
【0040】
1 筐体
3 床
4 非通気性層
13 吸盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を床面に固定する耐震装置において、
筐体に取り付けられた吸盤と、
前記床面上に形成され、前記吸盤が吸着する非通気性層と、
からなることを特徴とする耐震装置。
【請求項2】
前記吸盤は、
前記床面上に形成された非通気性層に当接し、前記非通気性層との間に大気圧より気圧の低い低気圧室を形成する吸着部を有する吸盤本体と、
該吸盤本体に設けられた一方の端部側の開口が開放面となった有底円筒状のシリンダと、
該シリンダの開放面となった開口より前記シリンダの内部に嵌合し、移動することにより前記シリンダ内に体積が変化する気密室を形成するピストンと、
前記ピストンが前記シリンダの開放面となった開口より突出する方向に付勢する付勢手段と、
前記シリンダに形成された気密室と、前記吸盤本体の低気圧室とを接続する管路と、
を有することを特徴とする請求項1記載の耐震装置。
【請求項3】
前記吸盤、前記管路、前記シリンダのいずれかに、前記低気圧室、前記管路、前記気密室の気密を開放する開放手段を設けたことを特徴とする請求項2記載の耐震装置。
【請求項4】
前記吸盤は、前記吸盤を1又は複数保持する連結金具を介して、筐体に取り付けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐震装置。
【請求項5】
前記非通気性層は、塗料により形成される層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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