説明

耐食性と外観色調に優れた表面処理鋼板の製造方法

【課題】 電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成する際に、耐食性を損なうことなく、外観色調に優れた表面処理鋼板を製造できるようにする。
【解決手段】 電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成するに当たって、前記リン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布する前に、縮合リン酸塩を含みかつ、固体粒子濃度を1.0g/L未満とした水溶液にて表面調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電、建材用途に最適な表面処理鋼板の製造方法に関し、製品の加工、組み立て作業者や最終ユーザーへの人体影響あるいは製造時や廃棄時における製品からの有害物質の溶出などの環境汚染問題の解消に適応する、人体、環境に有害な6価クロムを全く含まない環境適応型表面処理鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家電、建材、自動車用鋼板には、従来から亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、耐食性(耐白錆性、耐赤錆性)を向上させる目的で、クロム酸、重クロム酸またはその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理が施された鋼板が幅広く用いられている。このクロメート処理は耐食性に優れ、かつ比較的簡単に行うことができる経済的な処理方法である。
【0003】
クロメート処理は公害規制物質である6価クロムを使用するものであるが、この6価クロムは処理工程においてクローズドシステムで処理されること、また、その上層に形成する有機皮膜によるシーリング作用によってクロメート皮膜中からのクロム溶出もほぼゼロにできることから、実質的には6価クロムによって人体や環境が汚染されることはない。しかしながら、近年の地球環境問題に対する高まりと共に、従来の作業環境や排水処理を重視した法規制だけではなく環境負荷や環境調和を重視した法規制も制定されつつある。また、製造者を環境貢献度で評価する時代となっており、6価クロムを含めた重金属の使用を削減しようとする動きが高まりつつある。
【0004】
このような背景を元に、6価クロムを用いない亜鉛系めっき鋼板の白錆抑制技術としてクロメートフリー技術が数多く提案されている。このうち、無機成分としてリン酸あるいはリン酸塩を含有した処理液を塗布乾燥して皮膜を形成する技術が多数提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2にはAlとリン酸化合物とシリカと水系有機樹脂エマルジョンを含有した表面処理剤およびそれを被覆した金属材料が提案されている。また、特許文献3には多価金属の第一リン酸塩と金属酸化物ゾルの混合水溶液を塗布乾燥した非晶質皮膜を形成後、有機被覆層を形成した亜鉛系めっき鋼板が提案されている。さらに、特許文献4、5には酸化物微粒子とリン酸及び/またはリン酸化合物とMg、Mn、Alから選ばれる1種以上の金属とを含有する複合酸化物皮膜層を下層としその上部に有機皮膜を形成した鋼板が提案されている。
【特許文献1】特開平11-350157号公報
【特許文献2】特開2000-26980号公報
【特許文献3】特開2000-129460号公報
【特許文献4】特開2002-53979号公報
【特許文献5】特開2002-53980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の無機成分としてリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含有した処理液を塗布乾燥して皮膜を形成する方法は、基板上のめっき金属と処理液が反応して難溶性のリン酸塩を形成することにより耐食性や塗料密着性などを発現するものである。
【0006】
しかし、上記皮膜を、亜鉛系めっき製造ラインにおいて形成、すなわちめっき皮膜形成後上記皮膜の形成を連続して行うと、ラインスピード変化等の製造条件の変化により、外観色調、特に白色度が不安定となるという品質上の重大な問題を有していた。
【0007】
本発明は、電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成する際に、耐食性を損なうことなく、外観色調に優れた表面処理鋼板を製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の要旨は次の通りである。
【0009】
第1発明は、電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成するに当たって、前記リン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布する前に、縮合リン酸塩を含みかつ、固体粒子濃度を1.0g/L未満とした水溶液にて表面調整することを特徴とする耐食性と外観色調に優れた表面処理鋼板の製造方法である。
【0010】
第2発明は、第1発明において、前記第一リン酸塩が、Mg塩、Mn塩、Al塩のうちの一種または二種以上の混合液であり、かつ、Mg塩、Mn塩では金属/Pモル比が0.60〜0.98、Al塩では金属/Pモル比が1.02〜1.20であることを特徴とする耐食性と外観色調に優れた表面処理鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気亜鉛系めっき皮膜を形成した後、引き続き電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成するに当たって、電気亜鉛系めっき皮膜と処理液との反応性制御の観点から前処理として特定条件の表面調整を施すこと、またはさらに前記酸性水溶液中のリン酸濃度を特定範囲に規制することにより、従来不可能であった耐食性と外観色調の高度な両立が可能となった。本発明によれば、ラインスピードが変化しても表面外観が劣化することがなく、従来の製造条件に比べて、より広範囲のラインスピードで製造可能となり、大幅な生産能率の向上が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、亜鉛系めっき製造ラインの後処理として、無機成分としてリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含有した処理液を塗布乾燥して非晶質皮膜(難溶性のリン酸塩)を形成したときに発生する外観色調、特に白色度が不安定になる原因について鋭意検討した。その結果、電気亜鉛系めっき皮膜を形成した後、引き続き該電気亜鉛系めっき皮膜表面上にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含有した処理液を塗布した際に、以下の現象が起こり、表面粗さが大きい皮膜となり、表面が黒化することを突き止めた。
(1)めっき皮膜表面に残存するめっき液成分が再溶解して亜鉛めっき皮膜を活性化させ、めっき皮膜と処理液の反応が著しく促進される。
(2)めっき皮膜表面に付着した汚染物が結晶核となって、難溶性のリン酸塩結晶が局部的に成長する。
【0013】
上記原因に鑑み、外観色調改善策として処理液の反応性を低下させる方法が考えられるが、その場合、充分に難溶性のリン酸塩を形成できないため、耐食性が著しく低下し、処理液組成の最適化だけで耐食性と外観色調を両立することは不可能であった。
【0014】
さらに検討を行った結果、電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成するに当たって、電気亜鉛系めっき皮膜と処理液との反応性制御の観点から、前処理として特定の表面調整を施すことにより従来不可能であった耐食性と外観色調の高度な両立が可能となった。本発明はこの知見に基づくものである。
【0015】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0016】
本発明の表面処理鋼板は、電気亜鉛系めっき皮膜表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成した鋼板である。ここで、電気亜鉛系めっき皮膜としては純亜鉛めっきの他、Zn-Ni合金めっき、Zn-Fe合金めっき、Zn-Cr合金めっき、Zn-Mn合金めっき、Zn-Co合金めっき等の合金めっき等が挙げられる。その製造方法は電気めっき法であれば特に限定はないが、めっき浴としては硫酸亜鉛を主成分とした硫酸浴や塩化亜鉛を主成分とした塩化物浴の他、硫酸亜鉛と塩化亜鉛の混合物を主成分とした混合浴が挙げられる。
【0017】
リン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布する前に縮合リン酸塩を含みかつ、固体粒子濃度を1.0g/L未満とした水溶液にて表面調整することにより耐食性と外観色調に優れた電気亜鉛系めっき鋼板を得ることが出来る。ここで縮合リン酸塩としては水溶性となるアルカリ金属塩に限定される。アルカリ金属の縮合リン酸塩水溶液はアルカリ性であるため、表面調整を行うことによりめっき液成分が残存しためっき皮膜表面を中和すると共にめっき皮膜最表層に不活性な亜鉛の水酸化物層を形成する。その結果、たとえ亜鉛系めっき皮膜表面にめっき液成分が残存していても、本表面調整により、反応性を均一に制御されためっき皮膜表面が得られる。なお、アルカリ金属の縮合リン酸塩としては、特に限定はないが、溶解度等の観点から縮合リン酸Na、縮合リン酸Kなどが好ましく、濃度は1.0〜50.0g/Lの範囲が好ましい。1.0g/L未満では表面調整効果に乏しく、50.0g/L超では表面調整液が高pH化し、亜鉛めっき皮膜が溶解する懸念がある。
【0018】
この表面調整液中に固体粒子が存在すると、それが結晶核となって難溶性のリン酸塩結晶が局部的に成長し、表面が黒化する。そのため、表面調整液中の固体粒子濃度を1.0g/L未満とすることが必須である。ここで、固体粒子とは難溶性の物質であれば特に限定はなく、有機高分子、金属塩、酸化物コロイド等が挙げられる。また、その粒径も特に限定はないが、0.1μm以上の固体粒子がめっき皮膜に付着すると外観色調への影響が大きいので、実用的には、0.1μm以上の固体粒子の濃度を1.0g/L未満とすることで表面の黒化を防止する効果を発現できる。なお、水溶液中に存在する固体粒子の粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置等で測定できる。
【0019】
なお、上記の水溶液(表面調整液)にて表面調整するに当たっては、めっき鋼板表面に水溶液を接触させるだけでよく,具体的には水溶液中に1秒間以上浸漬させることが好ましい。
【0020】
電気亜鉛系めっき皮膜表面に塗布するリン酸もしくは第一リン酸に限定はなく、リン酸としてはオルトリン酸、ポリリン酸等が、第一リン酸塩としては第一リン酸Mg、第一リン酸Ca、第一リン酸Ni、第一リン酸Mn、第一リン酸Al等が各々挙げられる。上記第一リン酸塩として、金属/Pモル比が0.60〜0.98である第一リン酸Mg、第一リン酸Mn、あるいは、金属/Pモル比が1.02〜1.20である第一リン酸Alの一種または二種以上の混合液とすることにより、高度の耐食性と外観色調を実現できる。ここで、金属/Pあるいは金属/Pモル比が下限値未満では、その高い反応性のため、めっき皮膜を過度にエッチングして処理液中に沈殿物を形成し処理液安定性が乏しくなるだけでなく、得られる皮膜の外観色調も劣る。一方、金属/Pモル比が上限値超では、その低い反応性故に十分な難溶性塩の皮膜を形成できず、耐食性や塗料密着性が乏しい。
【0021】
なお、本処理液中に耐食性等の性能向上の観点から水溶性あるいは水分散性の有機樹脂を添加することも可能である。有機樹脂としては、特に限定はなく、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が挙げられる。また、必要に応じて防錆添加剤、酸化物ゾル、ワックスを添加することもできる。リン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して形成する非晶質皮膜の膜厚は、0.05μm以上1μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がより好ましい。
【0022】
さらに本皮膜の上層に有機樹脂皮膜層を形成することもできる。その際の膜厚は、0.1μm以上2μm以下が好ましい。
【0023】
本発明によれば、ラインスピードが変化しても表面外観が劣化することがないので、従来の製造条件に比べて、より広範囲のラインスピードで操業可能となり、大幅な生産能率の向上が可能になった。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。
[評価材作製]
(1)電気亜鉛系めっき鋼板
冷延鋼板をオルソケイ酸ソーダ水溶液(40g/l、80℃)中で電解脱脂(カソード電解、10A×10秒)した後、硫酸亜鉛(440g/l)と硫酸Ni(1.6g/l)を含む水溶液(硫酸でpH=1.5に調整、50℃)を流動セル(流速=2m/s)を用いて電気めっき(電流密度=44A/dm)を行い、付着量20g/mのめっき皮膜を形成した。
(2)めっき液浸漬
上記電気亜鉛系めっき鋼板を上記めっき液の希釈液(濃度=100ppm)に1秒間浸漬して、めっき皮膜を汚染させた。
(3)表面調整
上記めっき液浸漬した電気亜鉛系めっき鋼板をめっき液の希釈液から取り出し後、数秒以内に各種表面調整液に3秒間浸漬した。浸漬後、水洗することなくブロワーで水分を除去した。
(4)皮膜形成
上記処理材に各種リン酸もしくは第一リン酸塩を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥(乾燥温度=140℃)し、非晶質皮膜を形成した。一部処理材については、引き続き有機樹脂含有溶液を塗布乾燥(乾燥温度=140℃)し、上層の有機樹脂皮膜を形成した。
【0025】
上記で得た評価材の耐食性と外観色調を次のようにして評価した。
【0026】
[評価方法]
(1)耐食性
端部と裏面をテープシールした評価材をJIS Z 2371の塩水噴霧試験を72時間行った後の白錆発生面積率を測定した。評価基準は以下の通りである。◎、○+、○を耐食性良好と評価した。
◎ : 白錆発生なし
○+: 白錆発生面積率5%未満
○ : 白錆発生面積率5%以上10%未満
○−: 白錆発生面積率10%以上25%未満
△ : 白錆発生面積率25%以上50%未満
× : 白錆発生面積率50%以上
(2)外観色調
評価材のL値を色差計で測定した。評価基準は以下の通りである。○、△を外観色調良好と評価した。
○ : L値66以上
△ : L値63以上66未満
× : L値63未満
表面調整液、非晶質皮膜形成用処理液、有機樹脂皮膜の成分組成、各皮膜厚及び評価結果を表1および表2に記載する。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1および表2に示されるように、実施例の評価材は耐食性と外観色調が良好である。実施例の評価材のうち、第2発明範囲を満足するものは耐食性がより優れる。一方、比較例の評価材は外観色調が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気亜鉛系めっき鋼板表面にリン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布乾燥して非晶質皮膜を形成するに当たって、前記リン酸、第一リン酸塩のうち一種または両者を含んだ酸性水溶液を塗布する前に、縮合リン酸塩を含みかつ、固体粒子濃度を1.0g/L未満とした水溶液にて表面調整することを特徴とする耐食性と外観色調に優れた表面処理鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記第一リン酸塩が、Mg塩、Mn塩、Al塩のうちの一種または二種以上の混合液であり、かつ、Mg塩、Mn塩では金属/Pモル比が0.60〜0.98、Al塩では金属/Pモル比が1.02〜1.20であることを特徴とする請求項1記載の耐食性と外観色調に優れた表面処理鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−257491(P2006−257491A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76263(P2005−76263)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】