説明

耐食性に優れた亜鉛系合金電気めっき皮膜およびこれを用いためっき金属材

本発明は、環境負荷の大きいクロムを含有することなく、Zn−Cr合金めっきに匹敵する高耐食性を有する亜鉛系合金電気めっき皮膜およびこれを用いためっき金属材を提供することを課題とする。本発明は、(A)亜鉛 30〜96重量%、(B)鉄族金属 2〜20重量%、及び(C)タングステン 2〜50重量%を含有してなることを特徴とする耐食性に優れた亜鉛系合金電気めっき皮膜に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、耐食性に優れた亜鉛系合金電気めっき皮膜およびこれを用いためっき金属材に関するものであり、自動車、家電用、建材等の広い分野で利用できるものである。
【背景技術】
自動車、家電製品、建材等に用いられる金属材に対する高耐食性化の要求に応えて、鉄系材料に亜鉛または亜鉛系合金めっきを被覆した亜鉛系めっき金属材の利用が拡大している。鉄系材料に亜鉛を被覆する方法は種々存在するが、めっきとしては溶融した亜鉛または亜鉛合金に基材を浸漬することによりめっき皮膜を形成する溶融亜鉛めっき、水溶液中に溶解させた金属亜鉛を電解により析出させめっき皮膜を形成する電気亜鉛めっきが知られている。更に電気亜鉛めっきはめっき液の液性により、酸性浴およびアルカリ浴に分類される。酸性浴には硫酸浴、塩化アンモン浴、塩化カリ浴、塩化アンモン・カリ折衷浴等があり、アルカリ浴にはシアン浴、ジンケート浴等が存在し、各々の特徴により使い分けられている。しかしながら自動車、家電、建材等に用いられて厳しい環境下に晒される金属材は、これらのめっき金属材を利用しても、場合によっては十分な耐食性を得ることができず、さらなる耐食性の向上が要求されている。このような事情から、Zn−Fe、Zn−Ni、Zn−Cr等の亜鉛系合金めっき金属材が開発されてきたが、これらのうち、Zn−Cr合金めっきは高い耐食性を有することが開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等参照。)。
Zn−Cr合金めっきは、皮膜中に存在するCrによる腐食の抑制効果が顕著であり、また、皮膜が不動態化に至らず比較的卑な電位を保持することから、いわゆる犠牲防食作用も長期にわたり有効であり、地鉄が露出するような状況下でも耐食性に優れる。
このように、Zn−Cr合金めっきは実用的には優れたものであるが、めっき時に発生する6価クロムミストの問題があり、めっき作業者の健康への障害や大気汚染を引き起こす等の環境問題がクローズアップされている。そこで環境負荷が少なく、高耐食性の代替金属材の開発および実用化が急務となっている。
【特許文献1】特開昭64−55397号公報
【特許文献2】特公平2−51996号公報
【特許文献3】特公平3−240994号公報
【発明の開示】
本発明の目的は、環境負荷の大きいクロムを含有することなく、Zn−Cr合金めっきに匹敵する高耐食性を有する亜鉛系合金電気めっき皮膜およびこれを用いためっき金属材を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、めっき皮膜として、亜鉛を基体とし、鉄族金属及びタングステンを特定量含有せしめることにより耐食性を著しく向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明は、(A)亜鉛 30〜96重量%、
(B)鉄族金属 2〜20重量%、及び
(C)タングステン 2〜50重量%
を含有してなることを特徴とする耐食性に優れた亜鉛系合金電気めっき皮膜に関する。
また、本発明は、上記亜鉛系合金電気めっき皮膜を有するめっき金属材に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の亜鉛系合金電気めっき皮膜は、亜鉛(A)、鉄族金属(B)及びタングステン(C)を必須成分として含有するものである。
めっき皮膜の組成は耐食性の点から、亜鉛(A)30〜96重量%、好ましくは50〜90重量%、鉄族金属(B)2〜20重量%、好ましくは5〜15重量%、及びタングステン(C)2〜50重量%、3〜20重量%の範囲内にあるものである。
ここで鉄族金属(B)とは鉄、コバルト及びニッケルをいう。亜鉛と鉄族金属との合金めっき皮膜は一般に知られているが、ここにさらにタングステンを組み合わせることにより、得られる合金めっき皮膜の耐食性は著しく向上する。特に鉄族金属(B)として鉄を用いることによりその効果は大きく、これを用いるのが好ましいが、鉄にコバルト及び/又はニッケルを併用する系も耐食性が良好である。
本発明の亜鉛系合金電気めっき皮膜は、下記で説明するZnイオン(a)、鉄族金属イオン(b)及びWイオン(c)を含有するめっき液を用いて、鋼帯等の1次成形品には連続電気めっきすることで、またボルト等の小物部品やプレス成形品等を含む2次成形品には回転可能なバレルまたはカゴ等の有孔容器内に収容して電気めっきすることにより形成される。
「Znイオン(a)」
上記めっき液の(a)成分であるZnイオンは、めっき層の主成分を構成するものである。
Znイオンは、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩又は金属単体等の形でめっき浴に添加される。
「鉄族金属イオン(b)」
上記めっき液の(b)成分である鉄族金属イオンは、Niイオン、Coイオン及びFeイオンから選ばれるものである。
鉄族元素イオン(b)は、塩化物、硫酸化物、フッ化物、シアン化物、酸化物、有機酸塩、リン酸塩又は金属単体等の形でめっき浴に添加される。
「Wイオン(c)」
上記めっき液の(c)成分であるWイオンは、タングステン酸系化合物の形でめっき浴に添加される。
タングステン酸系化合物としては、例えばタングステン酸、タングステン酸塩、リンタングステン酸及びリンタングステン酸塩を挙げることができ、塩としては、例えばアンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩等を挙げることができる。これらの中でも特にタングステン酸ナトリウム及びタングステン酸アンモニウムが耐食性の点から好ましい。
「めっき液」
上記めっき液には、上記(a)、(b)及び(c)以外の金属イオン、例えば、Mg、Mn、Ti、Pb、Al、P等を添加してもよい。
また、上記めっき液には、金属イオンをめつき液中で安定に存在させるための錯化剤を添加するのが好ましい。該錯化剤としては、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩等のオキシカルボン酸塩類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール類、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミン類、エチレンジアミン四酢酸塩、ニトロ酢酸塩等のアミノカルボン酸塩、ソルビット、ペンタエリトリトール等の多価アルコール類、及びこれらの混合物より成る群から選択することができる。
本発明においては電気めっき液から不連続粒子として析出することのできる腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子を組み合わせることにより高度な耐食性、塗料密着性等の機能を付与することができる。
上記腐食抑制顔料としては、一般公知のものが使用できるが、好ましいものとしては、例えばリン酸塩、モリブデン酸塩、メタホウ酸塩、珪酸塩等が挙げられる。
また、セラミックス粒子としては、例えばAl、SiO、TiO、ZrO、Y、ThO、CeO、Fe等の酸化物;BC、SiC、WC、ZrC、TiC、黒鉛、弗化黒鉛等の炭化物;BN、SiN、TiN等の窒化物;Cr、ZrB等のホウ化物;2MgO・SiO、MgO・SiO、ZrO・SiO等の珪酸塩等が挙げられる。腐食抑制顔料及び/又はセラミックス粒子のめっき浴への配合量は1リットル当り5〜500gの範囲が望ましい。また粒子の大きさは小さいものほど分散安定性に優れるため1μm以下の超微粒子のものがよい。また、めっきマトリックス中への共析量は、全析出量に対して1〜30重量%、特に1〜10重量%の範囲が望ましい。共析量が少ないと耐食性向上の効果が発現せず、また30重量%を超えるとめっき皮膜が脆くなったり、基材との密着性が低下して問題となる。
めっき浴には耐食性を向上させるため、さらに腐食抑制有機化合物を添加してもよい。好ましい腐食抑制有機化合物としては例えばアルキン類、アルキノール類、アミン類若しくはその塩、チオ化合物、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩、複素環化合物等が挙げられる。
このうちのアルキン類とは、炭素−炭素三重結合を含む有機化合物のことであり、例えばペンチン、ヘキシン、ヘプチン、オクチン等が挙げられる。
アルキノール類とは上記アルキン類に1個以上の水酸基を有する有機化合物のことであり、例えばプロパルギルアルコール、1−ヘキシン−3−オール、1−ヘプチン−3−オール等が挙げられる。
アミン類とは分子中に窒素原子を1個以上含む有機化合物を意味し、脂肪族及び芳香族の何れをも含む。このようなアミン類としては、例えばオクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、セチルアミン等が挙げられる。
チオ化合物とは分子中に硫黄原子を1個以上含む有機化合物を意味するが、このようなチオ化合物としては、例えばデシルメルカプタン、セチルメルカプタン、チオ尿素等が挙げられる。
複素環化合物とは環状の分子において環の構成元素として炭素以外の原子が含まれている有機化合物を意味するが、このような複素環化合物としては、例えばピリジン、ベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、キノリン、インドール等が挙げられる。
また、芳香族カルボン酸化合物としては、例えば安息香酸、サリチル酸、トルイル酸、ナフタレンカルボン酸等が挙げられる。
なお、アミン類及びカルボン酸化合物についてはその塩を用いることも可能であり、この場合でも同等の効果を得ることができる。塩として、アミン類の場合は、硫酸塩、塩酸塩等の酸付加塩、芳香族カルボン酸化合物の場合は、アルカリ金属塩、亜鉛塩等の金属塩やアンモニウム塩を使用できる。
めっき浴中に添加される腐食抑制有機化合物の量は、アルキン類やアルキノール類の場合には0.1〜10重量%に、アミン類若しくはその塩の場合には3〜10重量%に、チオ化合物では0.2〜5重量%に、複素環化合物では1〜10重量%に、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩では3〜8重量%に調整することが望ましい。かかる腐食抑制有機化合物を添加しためっき浴を用いることにより、金属材上に共析量がC(炭素)含有量として0.001〜10重量%のめっき皮膜を形成できるが、めっき皮膜中の炭素量の測定は、燃焼法、例えば、有機物を燃焼させ、生じたCOの赤外吸収帯における吸光度を測定する「C−S分析装置」で測定することで可能である。
また上記めっき液には、高い電流密度でのヤケ、低電流密度でのつき回り性を向上させる目的で通常使われている添加剤を含むことが可能である。これらの例としてはアミンとエピハロヒドリンの反応物、ポリエチレンポリアミン、その他の4級アミンポリマー、尿素、チオ尿素、ゼラチン、ポリビニルアルコール、アルデヒド等が挙げられる。
上記めっき浴組成物は、従来と同様の方法で電気めっきすることにより、耐食性及び塗膜密着性に優れためっき皮膜を形成することができる。
電気めっきする浴条件としては、めっき浴が硫酸浴の場合、pHは1〜3程度、浴温は30〜80℃程度;塩化浴の場合pHは4〜7程度、浴温は10〜50℃程度;アルカリ浴の場合pHは12以上、浴温は10〜50℃程度が好ましく、めっき膜厚としてはいずれも0.5〜10μm程度が適している。
「電気めっき金属材」
本発明の電気めっき金属材は上記電気めっき液組成物を用いて金属素材に電気めっきし、めっき皮膜を形成することにより得られる。金属素材としては、鉄を主成分とする材料、例えば、板、管、継手、クランプ、ボルト、ナット等の形状に加工された、自動車、家電製品あるいは建材用材料が挙げられる。
電気めっき条件は上記した通りである。
また、電気めっき皮膜を形成させた後に、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の酸性水溶液で後処理することによって、更に、本発明の効果を高めることが出来る。上記、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物としては、例えば、これら金属元素の酸化物、水酸化物、フッ化物、錯フッ化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等を用いることができ、具体的には、硝酸コバルト、オキシ硝酸ジルコニウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸、チタンフッ化水素酸アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸アンモニウム等を好ましいものとして挙げることができる。
これらの金属元素を含む化合物の酸性水溶液は、pHが1以上で7未満、好ましくは3以上で6以下の範囲内にあることが好ましく、塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素酸等の酸、又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミン類等のアルカリでpHを調整することができる。酸性水溶液には、さらに必要に応じて、錯化剤、シリカ粒子等を添加してもよい。金属元素を含む化合物の添加量は0.001〜5mol/l、特に0.01〜1mol/l程度が好ましい。
酸性水溶液による後処理は、例えば、浴温20〜80℃、好ましくは30〜60℃の処理液に5秒間以上、好ましくは20〜90秒程度金属材を浸漬するなどして電気めっき皮膜を処理液と接触させることにより行うことができる。
このようにして得られた電気めっき金属材は、通常表面処理が施され、さらに必要に応じて塗料が塗装される。表面処理は通常クロメート系表面処理剤やりん酸塩系表面処理剤により行われる。しかしながら、本発明の電気めっき金属材は耐食性に優れているため、クロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせても優れた耐食性を発揮する。環境負荷低減のためには、クロムフリーの環境対応型表面処理剤と組み合わせるのが好ましい。
本発明の電気めっき金属材に塗装する場合の塗料は、特に限定されるものではなく、常乾型、熱硬化型、活性エネルギー線硬化型等いずれの硬化方式のものも使用することができ、溶剤型塗料、水性塗料、粉体塗料等いずれの種類の塗料を使用してもよい。特に本発明の電気めっき金属材を自動車に適用した場合には、めっき皮膜上にリン酸塩処理を施した後電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料が順次塗装・焼付けされるのが一般的である。
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下、「部」及び「%」はいずれも重量基準によるものとする。
「1.電気メッキ鋼板の作成」
[実施例1〜18および比較例1〜4]
板厚0.8mm、大きさ70mm×150mmの冷延鋼板をアルカリ脱脂し、水洗した後、電気めっき実験装置を使用して、所定の金属イオン、腐食抑制顔料、腐食抑制有機化合物、セラミックス粒子を含有する酸性めっき浴にてめっきを施した。皮膜の組成は、めっき浴中の金属イオン濃度比、電流密度および浴温度を変えることにより調整し、また、めっき膜厚はめっき時間を適宜選択することによりコントロールした。後記表1に検討しためっき層の皮膜組成(wt%)および膜厚を示す。なお、めっき層の皮膜組成および膜厚は、蛍光X線分析装置SEA5200(セイコーインスツルメント社製)で測定した。
なお、試験に用いた各金属イオンは、下記の化合物より供給されたものである。
Zn;ZnSO・7H
Fe;FeSO・7H
Co;CoSO・7H
Ni;NiSO・7H
W ;NaWO・2H

表1における注(*1)〜(*6)の原料は各々下記の内容のものである。
(*1)A1:K−WHITE 840E、テイカ株式会社製、縮合燐酸リン酸アルミニウム系。
(*2)A2:LFボウセイZP−DL、キクチカラー株式会社製、リン酸亜鉛系。
(*3)B1:シリカ微粒子、平均粒子径約0.02μm。
(*4)B2:アルミナ微粒子、平均粒子径約0.01μm。
(*5)C1:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール。
(*6)C2:チオ尿素。
「2.塗装系1」
[実施例19〜36および比較例5〜8]
上記表1で得られた各電気めっき鋼板の表面をアルカリ脱脂した後、表面調整(日本パーカライジング社製「プレパレンZ」を用いたスプレー処理)を行ない、さらにりん酸塩処理(日本パーカライジング社製「パルボンド3118」を用いたスプレー処理)を行なった後、水洗及び乾燥してりん酸亜鉛処理(処理皮膜の付着量は1.5g/mとした)鋼板を得た。
このようにして得られたりん酸亜鉛処理鋼板に「マジクロン1000ホワイト」(関西ペイント社製、アクリル−メラミン樹脂系塗料、白色)を乾燥膜厚が30μmになるよに塗布し、160℃で20分間焼きつけて試験塗板を得た。
得られた各試験塗板について、下記試験方法に基いて各種試験を行った。その結果を後記表2に示す。
(上塗密着性):試験塗板を約98℃の沸騰水中に2時間浸漬し、引き上げて室温に2時間放置後、この塗装板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離は認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(塗装後耐食性):試験塗板に素地に達するクロスカットを入れ、これをJISZ−2371に準じて240時間塩水噴霧試験を行った後、水洗、乾燥させ、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。

「3.塗装系2」
[実施例37〜54、比較例9〜12]
前記表1で得られた各電気めっき鋼板を湯洗 → 脱脂(日本パーカライジング社製アルカリ脱脂剤「ファインL−4460」を使用し、43℃で120秒間スプレー) → 水洗 → 表面調整(日本パーカライジング社製チタンコロイド系表面調整剤「プレパレンZN」を使用し、常温で30秒間スプレー) → りん酸亜鉛系化成処理(日本パーカライジング社製りん酸亜鉛化成処理剤「バルボンドL−3020」を使用し、43℃で120秒間スプレー) → 水洗 → 水きり乾燥させることによりりん酸塩処理を行ない、ついでカチオン電着塗料「エレクロンGT−10」(関西ペイント社製、エポキシポリエステル樹脂系カチオン型電着塗料)を電着塗装し、170℃で30分間焼付し、乾燥膜厚20μmの電着塗装板を得た。この電着塗装面に中塗り塗料「アミラックTP−65グレー」(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系中塗塗料)を乾燥膜厚が30μmになるようにスプレーにて塗装し、140℃で30分間焼きつけた。その後に、上塗塗料ネオアミラック#6000ホワイト(関西ペイント社製、アミノアルキッド樹脂系上塗塗料)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレーにて塗装し、140℃で20分間焼きつけ、各試験塗板を得た。
得られた各試験塗板について、下記試験方法に基いて各種試験を行った。その結果を後記表3に示す。
(耐チッピング性):試験塗板を、飛石試験機JA−400型(スガ試験機社製チッピング試験装置)の試験片保持台に石の噴出し口に対して直角になるようにして固定し、−20℃において0.294MPs(3kgf/cm)の圧縮空気により粒度7号の花崗岩砕石50gを塗面に吹き付け、これにより生じた塗膜キズの発生程度を目視で観察し、下記基準で評価した。
◎:キズの大きさはかなり小さく、上塗塗膜がキズつく程度。
○:キズの大きさは小さく、中塗塗膜が露出している程度。
△:キズの大きさは小さいが、素地の鋼板が露出している。
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の鋼板も大きく露出している。
(耐水2次密着性):試験塗板を40℃の温水に10日間浸漬した後、取り出して乾燥させ、この試験塗板の塗膜面にナイフにて素地に達する縦横各11本の傷を碁盤目状にいれて2mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬間にテープを剥がした際の塗膜の剥離面積を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離が認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(耐食性):試験塗板に素地に達するクロスカットを入れ、これをJIS Z−2371に準じて720時間の塩水噴霧試験を行った後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。
(耐塩水ディップ性):試験塗板に素地まで達するクロスカットを入れ、これを5%の食塩水に50℃で10日間浸漬した後、水洗、風乾させ、一般部のサビ、フクレを下記基準で評価するとともに、クロスカット部にセロハン粘着テープを密着させ瞬時に剥がした時のクロスカット部からの最大剥離幅(片側、mm)を測定した。
○:塗面にサビ、フクレ等の発生が全く認められない。
△:塗面にサビ、フクレ等の発生が僅かに認められる。
×:塗面にサビ、フクレ等の発生が著しく認められる。

「4.塗装系3」
[実施例55〜72、比較例13〜16]
前記表1で得られためっき鋼板の表面をアルカリ脱脂した後、その上に下記処方で作成したチタン系下地処理剤を乾燥膜厚が0.5μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMT(鋼板の最高到達温度)が100℃となる条件にて10秒間加熱して、下地処理板を作成した。ついで、この処理板に「KPカラー8000プライマー」(関西ペイント社製、変性エポキシ樹脂系塗料)を乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMTが210℃となる条件で20秒間加熱して塗膜を形成し、ついでこのプライマー皮膜上に「KPカラー1580ホワイト」(関西ペイント社製、ポリエステル樹脂系塗料)を乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターで塗装し、PMTが215℃となる条件で40秒間加熱して上層塗膜を有する各試験塗板を作成した。
これらの各試験塗板について、塗膜の密着性、耐食性及び耐湿性の試験を行った。その試験結果を表4に示した。各試験は下記の試験方法に従って行った。
<チタン系下地処理剤の処方>
テトラiso−プロポキシチタン10部とiso−プロパノール10部の混合物を30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて攪拌しながら滴下し、その後25℃で2時間熟成することにより2%チタン化合物水溶液を得た。得られた2%チタン化合物水溶液50部に20%ジルコン弗化水素酸5部及び脱イオン水45部を配合することによりチタン系下地処理剤を得た。
(塗膜の密着性):試験塗板の塗膜面にナイフで素地に達する縦横11本の傷を碁盤目状に入れて1mm角の桝目を100個作成した。この碁盤目部にセロハン粘着テープを密着させて瞬時にテープを剥がした際の塗膜の剥離程度を下記基準により評価した。
5:塗膜の剥離が全く認められない。
4:塗膜の剥離は認められるが、剥離面積が10%未満。
3:剥離面積が10%以上で25%未満。
2:剥離面積が25%以上で50%未満。
1:剥離面積が50%以上。
(耐食性):70mm×150mmの大きさに切断した試験塗板の端面部及び裏面部をシールした後、試験塗板の上部に4T折り曲げ部(塗膜面を外側にして0.8mm厚さのスペーサー4枚を挟んで180度折り曲げ加工した部分)を設け、試験塗板の下部にクロスカット部を設けた後、該試験塗板についてJIS Z−2371に規定する塩水噴霧試験を1000時間行なった。試験後の試験塗板における、4T折り曲げ部の白錆の発生程度、クロスカット部のふくれ幅、一般部(加工、カットのない部分)のふくれ発生程度を下記基準で評価した。
一般部:
◎:ふくれの発生が認められない。
○:ふくれの発生が僅かに認められる。
△:ふくれの発生がかなり認められる。
×:ふくれの発生が著しく、一部に塗膜の剥離が認められる。
クロスカット部:
◎:クロスカットからの片面ふくれ幅が1mm未満。、
○:クロスカットからの片面ふくれ幅が1mm以上で2mm未満。
△:クロスカットからの片面ふくれ幅が2mm以上で5mm未満。
×:クロスカットからの片面ふくれ幅が5mm以上。
4T折り曲げ部:
◎:白錆の発生が認められない。
○:白錆の発生が僅かに認められる。
△:白錆の発生がかなり認められる。
×:白錆の発生が著しく、一部に塗膜の剥離が認められる。
(耐湿性):70mm×150mmの大きさに切断した試験塗板の端面部及び裏面部をシールした後、JIS K−5400 9.2.2に準じて試験を行った。耐湿試験機ボックス内の温度が50℃及び相対湿度が95〜100%の条件で試験時間は1000時間とした。試験後の試験塗板における塗膜のふくれ発生程度を下記基準により評価した。
◎:ふくれの発生が認められない。
○:ふくれの発生が僅かに認められる。
△:ふくれの発生がかなり認められる。
×:ふくれの発生が著しく、一部に塗膜の剥離が認められる。

「5.塗装系4」
[実施例73〜90及び比較例17〜20]
鋼製ボルトをアルカリ脱脂し、水洗した後、1%硫酸液に室温で30秒間浸漬して活性化処理を行なった。その後バッチ式バレルめっき装置を使用して、表1に示す所定の金属イオン、腐食抑制顔料、腐食抑制有機化合物及びセラミックス粒子を含有するアルカリ性めっき浴にてめっきを施した。皮膜の組成は、めっき浴中の金属イオン濃度比、電流密度及び浴温度を変えることにより調整し、また、めっき膜厚はめっき時間を適宜選択することによりコントロールした。その後、HNO 5g/l及び(NHZrF 15g/lからなる酸性水溶液に50℃で30秒間浸漬することにより後処理を行なって試験用ボルトを作成し、下記方法で耐食性の評価を行なった。評価結果を表5に記す。
(耐食性):JIS Z2371に準拠して塩水噴霧試験(SST)を実施し、耐食性は、白錆10%および赤錆5%の発生時間により評価した。

本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。
本出願は、2003年12月9日出願の日本特許出願(特願2003−410746)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明の亜鉛系合金電気めっき皮膜は、亜鉛に対し鉄族金属及びタングステンを特定量含有せしめてなるものであり、従来の亜鉛や亜鉛合金めっき皮膜に比べ耐食性が著しく向上したものであり、該亜鉛系合金電気めっき皮膜を有するめっき金属材は、特に自動車用の金属部材として有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)亜鉛 30〜96重量%、
(B)鉄族金属 2〜20重量%、及び
(C)タングステン 2〜50重量%
を含有してなることを特徴とする耐食性に優れた亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項2】
鉄族金属(B)が鉄である請求項1に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項3】
さらに、腐食抑制顔料及び又はセラミックス粒子をめっき皮膜中に1〜30重量%含有してなる請求項1又は2に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項4】
腐食抑制顔料が、リン酸塩、モリブデン酸塩、メタホウ酸塩および珪酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項5】
セラミック粒子が、Al、SiO、TiO、ZrO、Y、ThO、CeO、Fe、BC、SiC、WC、ZrC、TiC、黒鉛、弗化黒鉛、BN、Si、TiN、Cr、ZrB、2MgO・SiO、MgO・SiO、およびZrO・SiOからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子である請求項3に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項6】
さらに、アルキン類、アルキノール類、アミン類若しくはその塩、チオ化合物、芳香族カルボン酸化合物若しくはその塩、及び複素環化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機化合物をめっき皮膜中にC(炭素)含有量として0.001〜10重量%含有してなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜を有することを特徴とするめっき金属材。
【請求項8】
金属素材上に請求項1〜6のいずれか一項に記載の亜鉛系合金電気めっき皮膜が形成された後、コバルト、ニッケル、チタニウム及びジルコニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物の酸性水溶液と接触させてなることを特徴とするめっき金属材。

【国際公開番号】WO2005/056883
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516213(P2005−516213)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018535
【国際出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】