説明

耐食性のすぐれた永久磁石

【課題】 希土類・ボロン・鉄を主成分とする新規な永久磁石の磁石体表面に均一厚みの耐食性樹脂層を設け、永久磁石の耐食性を改善した耐食性のすぐれたFe‐B‐R系永久磁石の提供。
【解決手段】 Fe‐B‐R系永久磁石体表面に生成する酸化物を抑制するため、電着塗装による耐食性樹脂層を施すことによつて、該表面に膜厚が均一で強固かつ安定な耐食性樹脂層を形成することができ、本系磁石体表面の酸化が抑制され、磁気特性が劣化することなくかつ長期にわたって安定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、R(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)、B、Feを主成分とする永久磁石に係り、表面に電着塗装による耐食性樹脂層を設けて永久磁石の耐食性を改善した希土類・ボロン・鉄系永久磁石に関する。
【0002】
【従来の技術】現在の代表的な永久磁石材料は、アルニコ、ハードフェライトおよび希土類コバルト磁石である。近年のコバルトの原料事情の不安定化に伴ない、コバルトを20〜30wt%含むアルニコ磁石の需要は減り、鉄の酸化物を主成分とする安価なハードフェライトが磁石材料の主流を占めるようになった。
【0003】一方、希土類コバルト磁石はコバルトを50〜60wt%も含むうえ、希土類鉱石中にあまり含まれていないSmを使用するため大変高価であるが、他の磁石に比べて磁気特性が格段に高いため、主として小型で付加価値の高い磁気回路に多用されるようになった。
【0004】そこで、本発明者は先に、高価なSmやCoを含有しない新しい高性能永久磁石としてFe‐B‐R系(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)永久磁石を提案(特願昭57−145072号)した。
【0005】この永久磁石は、RとしてNdやPrを中心とする資源的に豊富な軽希土類を用い、Feを主成分として25MGOe以上の極めて高いエネルギー積を示す、すぐれた永久磁石である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のすぐれた磁気特性を有するFe‐B‐R系永久磁石は主成分として、空気中で酸化し易い希土類元素及び鉄を含有するため、該Fe‐B‐R系永久磁石を磁気回路に組込んだ場合に、磁石表面に生成する酸化物により、磁気回路の出力低下及び磁気回路間のばらつきを惹起し、また、表面酸化物の脱落による周辺機器への汚染の問題があった。
【0007】そこで、上記のFe‐B‐R系永久磁石の耐食性の改善のため、磁石体表面にスプレー法あるいは浸漬法によって、耐食性樹脂層を被覆した永久磁石を提案(特願昭58‐171907号)した。
【0008】しかし、スプレー法による樹脂の塗装には方向性があるため、被処理物表面全体に均一な樹脂被膜を施すのに多大の工程、手間を要し、特に形状が複雑な異形磁石体に均一厚みの被膜を施すことは困難であり、また、浸漬法では樹脂被膜厚みが不均一になり、製品寸法精度が悪い問題があった。
【0009】この発明は、希土類・ボロン・鉄を主成分とする新規な永久磁石の磁石体表面に均一厚みの耐食性樹脂層を設け、永久磁石の耐食性を改善し、耐食性のすぐれた永久磁石の提供を目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】この発明は、R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とし、主相が正方晶相からなる永久磁石体表面に電着塗装による耐食性樹脂層を有することを特徴する永久磁石である。
【0011】この発明における耐食性樹脂層を磁石体表面に形成する方法は、永久磁石体を水性塗料中に浸漬し、該永久磁石体を陽極あるいは陰極とし、該永久磁石体と対極間に直流電流を給電し、該永久磁石体全体に電気的に塗装を施し、表面に耐食性樹脂層を形成する電着塗装法であり、被処理磁石体を陽極にしたアニオン電着塗装法あるいは被処理磁石体を陰極にしたカチオン電着塗装法を採用することができる。
【0012】また、この発明の永久磁石用合金は、体積比で1%〜50%の非磁性相(酸化物相を除く)を含むことを特徴とし、焼結磁石の場合には結晶粒径が1〜100μmの範囲にある正方晶系の結晶構造を有する化合物を主相とする。
【0013】したがって、この発明の永久磁石はRとしてNdやPrを中心とする資源的に豊富な軽希土類を主に用い、Fe、B、Rを主成分とすることにより、25MGOe以上の極めて高いエネルギー積並びに高残留磁束密度、高保持力を有し、かつ高い耐食性を有する、すぐれた永久磁石を安価に得ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
永久磁石の限定理由この発明の永久磁石に用いる希土類元素Rは、8原子%〜30原子%のNd、Pr、Dy、Ho、Tbのうち少なくとも1種、あるいはさらに、La、Ce、Gd、Er、Eu、Pm、Tm、Sm、Lu、Yb、Yのうち少なくとも1種を含むものが好ましい。
【0015】又、通例Rのうち1種をもって足りるが、実用上は2種以上の混合物(ミッシュメタル、ジジム等)を入手上の便宜等の理由により用いることができる。なお、このRは純希土類元素でなくてもよく、工業上入手可能な範囲で製造上不可避な不純物を含有するものでも差支えない。
【0016】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)は、新規な上記系永久磁石における必須元素であって、8原子%未満では結晶構造がα−Feと同一構造の立方晶組織となるため、高磁気特性、特に高保磁力が得られず、30原子%を越えるとRリッチな非磁性相が多くなり、残留磁束密度(Br)が低下して、すぐれた特性の永久磁石が得られない。よって、Rは8原子%〜30原子%の範囲とする。
【0017】Bは、新規な上記系永久磁石における必須元素であって、2原子%未満では菱面体組織となり、高い保磁力(iHc)は得られず、28原子%を越えるとBリッチな非磁性相が多くなり、残留磁束密度(Br)が低下するため、すぐれた永久磁石が得られない。よって、Bは2原子%〜28原子%の範囲とする。
【0018】Feは、新規な上記系永久磁石において必須元素であり、42原子%未満では残留磁束密度(Br)が低下し、90原子%を越えると高い保磁力が得られないので、Feは42原子%〜90原子%の含有とする。
【0019】また、この発明による永久磁石用合金において、Feの一部をCoで置換することは、得られる磁石の磁気特性を損うことなく、温度特性を改善することができるが、Co置換量がFeの50%を越えると、逆に磁気特性が劣化するため好ましくない。
【0020】また、この発明による永久磁石は、Fe、B、Rの他、工業的生産上不可避的不純物の存在を許容できるが、Bの一部を4.0原子%以下のC、3.5原子%以下のP、2.5原子%以下のS、3.5原子%以下のCuのうち少なくとも1種、合計量で4.0原子%以下で置換することにより、永久磁石の製造性改善、低価格化が可能である。
【0021】また、下記添加元素のうち少なくとも1種は、Fe‐B‐R系永久磁石に対してその保磁力等を改善あるいは製造性の改善、低価格化に効果があるため添加する。しかし、保磁力改善のための添加に伴ない残留磁束密度(Br)の低下を招来するので、従来のハードフエライト磁石の残留磁束密度と同等以上となる範囲での添加が望ましい。
【0022】9.5原子%以下のAl、4.5原子%以下のTi、9.5原子%以下のV、8.5原子%以下のCr、8.0原子%以下のMn、5原子%以下のBl、12.5原子%以下のNb、10.5原子%以下のTa、9.5原子%以下のMo、9.5原子%以下のW、2.5原子%以下のSb、7原子%以下のGe、3.5原子%以下のSn、5.5原子%以下のZr、5.5原子%以下のHfのうち少なくとも1種を添加含有、但し、2種以上含有する場合は、その最大含有量は当該添加元素のうち最大値を有するものの原子%以下を含有させることにより、永久磁石の高保磁力化が可能になる。
【0023】結晶相は主相が正方晶であることが不可欠であり、すぐれた磁気特性を有する焼結永久磁石を作製するのに効果的である。
【0024】また、この発明の永久磁石は、磁場中プレス成型することにより磁気的異方性磁石が得られ、また、無磁界中でプレス成型することにより、磁気的等方性磁石を得ることができる。
【0025】この発明による永久磁石は、保磁力iHc≧1kOe、残留磁束密度Br>4kG、を示し、最大エネルギー積(BH)maxはハードフェライトと同等以上となり、最も好ましい組成範囲では、(BH)max≧10MGOeを示し、最大値は25MGOe以上に達する。
【0026】また、この発明永久磁石用合金のRの主成分がその50%以上を軽希土類金属が占める場合で、R12原子%〜20原子%、B4原子%〜24原子%、Fe65原子%〜82原子%、を主成分とするとき、焼結磁石の場合に最もすぐれた磁気特性を示し、特に軽希土類金属がNdの場合には、(BH)maxはその最大値が35MGOe以上に達する。
【0027】製造方法この発明の電着塗装法において、アニオン電着塗装に使用される樹脂は、乾性油、ポリエステル、ポリブタジエン、エポキシエステル、ポリアクリル酸エステルなどを骨核としたポリカルボン酸樹脂であり、通常、有機アミンあるいは苛性カリ等の塩基で中和し、水溶液化あるいは水分散化されて負に荷電する。
【0028】また、この発明の電着塗装法において、カチオン電着塗装に使用される樹脂は、主としてエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂などを骨核にしたポリアミノ樹脂で、通常有機酸で中和し、水溶液化あるいは水分散化されて正に荷電する。
【0029】この発明において、永久磁石体表面への電着塗装によつて得られる耐食性樹脂層の厚みは、5μm〜30μmの厚みが好ましい。
【0030】さらに、防錆、塗膜補強改善の目的で、上記の樹脂中に酸化亜鉛、クロム酸亜鉛、クロム酸ストロンチウム、鉛丹などの防錆用顔料を含有していてもよく、あるいはベンゾトリアゾールを含有すものでもよい。
【0031】この発明において、樹脂中に含有される上記の顔料は、樹脂量に対して80%以下でよく、またベンゾトリアゾール量は、樹脂量に対して5%以下の含有でよい。
【0032】
【実施例】
実施例1出発原料として、純度99.9%の電解鉄、B19.4%を含有し残部はFe及びAl、Si、C等の不純物からなるフェロボロン合金、純度99.7%以上のNdを使用し、これらを高周波溶解し、その後水冷銅鋳型に鋳造し、15Nd8B77Fe(原子%)なる組成の鋳塊を得た。
【0033】その後インゴットを、スタンプミルにより粗粉砕し、次にボールミルにより粉砕し、粒度3μmの微粉末を得た。この微粉末を金型に挿入し、12kOeの磁界中で配向し、1.5t/cm2の圧力で成形した。
【0034】得られた成形体を、1100℃、1時間、Ar中の条件で焼結し、その後放冷し、さらにAr中で600℃、2時間の時効処理を施して、永久磁石を作製した。得られた永久磁石から外径20mm×内径10mm×厚み1.5mm寸法に試験片を切り出した。
【0035】カチオン電着塗料として、エポキシ系のエスビアCED、S‐20(神東塗料株式会社製)を使用し、予めトリクレンにて脱脂した上記試験片を陰極とし、SUS316材板を陽極とし、温度28℃、電圧150V、3分の条件で電着塗装を施した。ついで、水洗し、風乾したのち、180℃で30分間保持して、表面に樹脂層を被着したこの発明による永久磁石試料片を作製した。
【0036】この試験片に耐食性試験と耐食性試験後の樹脂層の密着強度試験を行なった。また、樹脂層厚みと耐食性試験前後の磁気特性を測定した。試験結果及び測定結果は表1,表2に示す。
【0037】耐食性試験は、上記試験片を60℃の温度、90%の湿度の雰囲気に200時間放置した場合の試験片の外観状況でもって評価した。また、密着強度試験は、耐食性試験後の上記試験片を、粘着テープで1mm間隔の枡目部分を引張り、樹脂層が剥離するか否か(無剥離桝枡数/全枡目数)で評価した。
【0038】比較例また、比較のため、上記実施例1の試験片に、エポキシ系塗料をスプレー法にて、表裏面に2回に分けて塗装し、さらに、80℃、1時間の乾燥処理を行ない、表面にスプレー法による塗膜を有する比較試験片を得た。この比較試験片に上記の実施例1と同一の試験及び測定を行ない、その結果を同様に表1,表2に示す。
【0039】実施例2出発原料として、純度99.9%の電解鉄、電解コバルト、B19.4%を含有し残部はFe及びAl、Si、C等の不純物からなるフェロボロン合金、純度99.7%以上のNdを使用し、これらを高周波溶解し、その後水冷鋼鋳型に鋳造し、16Nd7B10Co67Fe(原子%)なる組成の鋳塊を得た。
【0040】その後インゴットを、スタンプミルにより粗粉砕し、次にボールミルにより粉砕し、粒度3μmの微粉末を得た。この微粉末を金型に挿入し、12kOeの磁界中で配向し、1.5t/cm2の圧力で成形した。
【0041】得られた成形体を、1100℃、1時間、Ar中の条件で焼結し、その後放冷し、さらにAr中で600℃、2時間の時効処理を施して、永久磁石を作製した。得られた永久磁石から外径20mm×内径10mm×厚み1.5mm寸法に試験片を切り出した。
【0042】アニオン電着塗料として、アクリル系のエスビアED、108‐U(神東塗料株式会社製)を使用し、予めトリクレンにて脱脂した上記試験片を陽極とし、SUS316材板を陰極とし、温度28℃、電圧230V、2分の条件で電着塗装を施した。
【0043】ついで、水洗し、風乾したのち、180℃で30分間保持して、表面に樹脂層を被着したこの発明による永久磁石試料片を作製した。
【0044】この試験片に実施例1の同方法の耐食性試験と耐食性試験後の樹脂層の密着強度試験を行なった。また、樹脂層厚みと耐食性試験前後の磁気特性を測定した。試験結果及び測定結果は表1,表2に示す。
【0045】実施例3出発原料として、純皮99.9%の電解鉄、B19.4%を含有し残部はFe及びAl、Si、C等の不純物からなるフェロボロン合金、純度99.7%以上のNd及びDy金属を使用し、これらを高周波溶解し、その後水冷鋼鋳型に鋳造し、15Nd1.5Dy8B75.5Fe(原子%)なる組成の鋳塊を得た。
【0046】その後インゴットを、スタンプミルにより粗粉砕し、次にボールミルにより粉砕し、粒度3μmの微粉末を得た。この微粉末を金型に挿入し、12kOeの磁界中で配向し、1.5t/cm2の圧力で成形した。
【0047】得られた成形体を、1100℃、1時間、Ar中の条件で焼結し、その後放冷し、さらにAr中で600℃、2時間の時効処理を施して、永久磁石を作製した。得られた永久磁石から外径20mm×内径10mm×厚み1.5mm寸法に試験片を切り出した。
【0048】カチオン電着塗料として、エポキシ系のエスビアCED、S‐20(神東塗料株式会社製)を使用し、上記試験片を陰極とし、SUS316材板を陽極とし、温度28℃、電圧150V、3分の条件で電着塗装を施した。
【0049】ついで、水洗し、風乾したのち、180℃で30分間保持して、表面に樹脂層を被着したこの発明による永久磁石試料片を作製した。
【0050】この試験片に耐食性試験と耐食性試験後の樹脂層の密着強度試験を行なった。また、被膜層厚みと耐食性試験前後の磁気特性を測定した。試験結果及び測定結果は表1,表2に示す。
【0051】
【表1】


【0052】
【表2】


【0053】
【発明の効果】表1,表2の試験及び測定結果に明らかなように、この発明の電着塗装による樹脂層を有する永久磁石は、比較例に対して膜厚が所要厚みで、かつ格段にすぐれた均一度が得られているため、永久磁石表面の酸化が確実に防止されており、磁気特性の劣化がなく、比較例に対して磁気特性が著しく向上する。
【0054】すなわち、この発明は、Fe‐B‐R系永久磁石体表面に生成する酸化物を抑制するため、電着塗装による耐食性樹脂層を施すことによつて、該表面に膜厚が均一で強固かつ安定な耐食性樹脂層を形成することができ、本系磁石体表面の酸化が抑制され、磁気特性が劣化することなくかつ長期にわたって安定する利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 R(但しRはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)8原子%〜30原子%、B2原子%〜28原子%、Fe42原子%〜90原子%を主成分とし、主相が正方晶相からなる永久磁石体表面に均一厚みの電着塗装膜からなる耐食性樹脂層を有することを特徴する耐食性のすぐれた永久磁石。