説明

耐食性電極基材

【課題】電極基材それ自身の耐食性をより向上させるとともに、導電性の保持を完全にして電極の長寿命化をはかるとともに、それを低コストで実現した電極基材並びに該基材を使用した安定で長寿命の電極を提供することを課題とした。
【解決手段】本発明は第一にチタン又はチタン基合金表面に見かけ厚さ1ミクロン以上で、実質的にハロゲンを含まない0.1から20モルパーセントのチタンと残部がタンタルからなる導電性酸化物層を有する耐食性の不溶性金属電極用基体であり、第二に第一の発明の不溶性金属電極用基体上にイリジウムとタンタルからなる複合酸化物からなる電極物質を被覆してなる耐食性不溶性金属電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として腐食雰囲気下で、酸素発生反応等に使用する、不溶性金属電極並びにそれに使用する金属電極基体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸などの腐食性酸雰囲気中で酸素発生を行う不溶性金属電極は電解銅箔製造の対極としてまたいわゆる連続亜鉛メッキラインにおける亜鉛メッキ用不溶性金属陽極としてなど広く使われている。これらの電極は強酸や、これに錯形成物質などの添加物を加え、あるいは金属イオンを含む腐食性雰囲気中で陽分極により酸素発生を主とする陽極反応を行うが、電解温度が上昇したり、使用する電流密度が大きくなったりするとそれにつれて加速度的にその電極寿命が短くなるとされる。この時、電極物質としてイリジウムとタンタルからなる複合酸化物が用いられ、主として耐食性金属であるチタンあるいはチタン合金が基体として用いられる。
【0003】
チタン又はチタン合金はいわゆる弁金属と呼ばれ陽分極によってその表面に耐食性のいわゆる不働体膜を形成することによってチタン自体の腐食を防ぐ。只これでは導電性が保持されないので通常この金属の表面にイリジウムとタンタルの複合酸化物からなる導電性で耐食性の電極物質を被覆して電極として使用する。この電極物質は一般に非常に耐食性があり、電解による消耗は少ないのが普通であるが、しばしば電極物質を残したまま、通電ができなくなるという現象が見られる。通常の電極寿命はこのような条件によることが知られており、この改良の為に多くの検討がなされまた多くの特許出願がされている。
【0004】
すなわち一般にこのような酸素発生用電極が通電不能になった場合、多くは電極物質と基体金属との間に比較的厚い酸化物の層が見られる。つまり電極表面がいわゆる不働体保持以上に腐食してしまい、通電ができなくなることが現象的にわかっている。
このように電極物質それ自身は十分に耐食性であることがわかっているので、電極の改良、長寿命化に当たっては、この基体表面の耐蝕化、通電の保持など種々の工夫が加えられている。
【0005】
たとえば、特許文献1では白金族金属酸化物被覆電極において、チタン基体と電極活性物質の界面にタンタル(Ta)のスパッタ層を中間層として介在させ、該Taをβからαに変化させて界面にチタン(Ti)とTaの合金を形成させることを特徴としている。つまりβ−Taに変化させてTaとTiあるいは電極物質元素との合金化を促すことにより耐食性を付加している。これで強固に基体チタン表面に生成させたβ−Ta金属を中間層としてTaの耐食性とβ−Taの電極物質の親和性によって長寿命化を達成している。
【0006】
特許文献2ではバルブ金属基体上にいわゆるPVD法などによりシリカ(SiO)とタンタル(Ta)との混合物薄膜中間層を設け、その表面に電極物質を被覆している。この中間層はガラス質のシリカ(SiO)と金属タンタル(Ta)からなる導電性の中間層を設けることによって不働体化を防いで、電極物質を有効に使うと共に長寿命化を達成している。形成はPVD法、つまりイオンプレーティング、スパッタリング、蒸着によっている。
【0007】
特許文献3では中間層としてβ−タンタル(Ta)を50%以上含む金属Taの中間層を提案している。この中間層を形成させる方法としてはスパッタリングが提案されている。このようなバルブ金属の被覆は熱分解法などではほとんど不可能であり、スパッタリング法などのPVD法によることが一般的であるし、またそれ以外は実用上困難であることはこれらの特許が皆PVD方法をとっていることでも明らかである。
【0008】
特許文献4ではこのようなタンタル(Ta)又はタンタル合金の薄膜を形成するに当たり基体金属の表面粗度をRaで3−8ミクロン(μm)にするようにして安定化している。つまり厚みがあり、β−タンタル(Ta)でも基体であるチタン(Ti)との整合性が完全ではないことからこの様に基体に比較的大きな粗度を与えることによってより強固に付ける努力をしている。
また合金層の隠蔽率などにも言及している。
【0009】
特許文献5ではチタン表面に金属タンタルの線材溶射層を設けることにより、基体チタンの酸化を防いで、長寿命の電極を得ることが行われている。
【0010】
特許文献6では導電性支持基材と電極活性物質の中間層に酸素不浸透性酸化物層を設けて不働体化を防いでいる。只、ここでは酸素不浸透性としており、それ自身の耐食性が考慮されていない、また中間層自身が電極反応により酸素発生を担うなど、基本特許では有るが、一部問題のある技術である。
【0011】
特許文献7では中間層としてタンタル又はニオブの導電性酸化物中間被覆を有する酸素発生用の電極を開示している。これにより十分に長寿命の電極が得られるようになったが、なおかつ強い腐食性の雰囲気下では特性を十分に成就できなかった。ここで示される導電性酸化物では導電性が不十分な酸化タンタル並びに酸化ニオブを用い、その層を極めて薄く、しかも基体チタンとの複合反応などによりその導電性を保持していると考えられ、その厚みはかなり薄い必要がある。従って酸化タンタル、酸化ニオブそれ自身の耐食性を有効に使っているのではなく、後に示す特許文献8と同じく、導電性の保持のみを優先しており、それ以外の特許文献に示される金属中間層とは異なるメカニズムによる。従って基本的な耐食性はチタンのそれのみによっており、強い腐食雰囲気では寿命はかなり短くなると考えられる。
【0012】
特許文献8では酸化チタン(TiO)及び/又は酸化スズ(SnO)と酸化タンタル(Ta)及び/又は酸化ニオブ(Nb)の複合酸化物からなる薄層の酸化物中間層を設けた電極が示されている。ここではある程度の酸素の攻撃があっても通電が出来ると言う新たなメカニズムによりきわめて安定で長寿命の電極が開発され、この基本原理は現在でも使われている。これについても、この層は非常に薄く、半導体としての導電性のみを活用している。このためチタンそれ自身が強く腐食するような雰囲気下では寿命が短くなるという問題点があった。
【0013】
このほかにもプラズマ溶射層により電極面積を拡大して導電性を保持するなど、あるいは白金を中間に入れて周りが酸化物になっても白金が導電性を保持するなどと言う多くの電極が提案されている。
【0014】
しかしながらこれらの技術を使ってしても銅箔製造などの実質的に硫酸中に銅が溶解している腐食性の溶液中で高温、5000から10000A/mあるいはもっと高い電流密度下で1年以上の寿命を要求される現状では、不十分である。これらの中で最も成功した1つである中間層に半導性の薄膜を形成した系でも長期の使用により、電極物質と基体との間に比較的厚い酸化物の被膜が出来て通電が不能となった。一方耐食性金属であるタンタルやタンタル合金を表面に被覆した系では被覆を高価なスパッタ法で行わなければならず高価な装置と高価な原料を使うために大きなコスト増しの原因になった。また確かにタンタルの耐食性とある程度酸素を吸い込んでも導電性を有する特性から、基体側としては有効であるが、タンタル上に熱分解で酸化物被覆を形成するには基体側のタンタルが酸化タンタルに変化することにより体積が増加して膨れるという欠点を持っている。たとえばイリジウムとタンタルの安定な複合酸化物を形成できる温度である、500℃以上ではタンタルの酸化物の膨れによる被覆の剥離が起こりやすくなるため、温度を上げられず、電極自身の耐食性が失われるという問題があった。このために予めタンタル層を酸化することを試みているケースもあるが、非常に煩雑になり、しかも高価であるので、実用されているとはいえ、尚大きな問題であった。
【0015】
【特許文献1】特開平6−306669 公報
【特許文献2】特開平6−146047 公報
【特許文献3】特開平7−229000 公報
【特許文献4】特開平8−109490 公報
【特許文献5】特開平3−13242 公報
【特許文献6】特公昭51−19429 公報
【特許文献7】特開昭57−192281 公報
【特許文献8】特開昭59−150091 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこれらをふまえて、電極基材それ自身の耐食性をより向上させるとともに、導電性の保持を完全にして電極の長寿命化をはかるとともに、それを低コストで実現した電極基体並びに該基体を使用した安定で長寿命の電極を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は第一にチタン又はチタン基合金表面に見かけ厚さ1ミクロン以上で実質的にハロゲンを含まない0.1から20モルパーセントのチタンと残部がタンタルからなる導電性酸化物層を有する、耐食性の不溶性金属電極用基体であり、第二に第一の発明の不溶性金属電極基体上にイリジウムとタンタル複合酸化物からなる電極物質を被覆してなる耐食性不溶性金属電極である。
つまりこれらにより、半導性酸化物で耐食性の中間層をチタン表面に形成することによって、基体の耐食性を十分に向上させるとともに、その表面の含有塩素根を最小とする酸化イリジウム系の耐食性の電極被覆を形成することにより、従来品より遙かに長寿命を有する電極を完成することができた。
【0018】
従来の熱分解法による半導性の中間層では主として塩化物の塩酸溶液を塗布液として使用している。これによりこの中間層は実質的に基体チタンと一体化してチタン表面の耐食性を向上させ、更に表面が酸化しても半導性を有するために通電が可能であるというメリットを有する。しかし現実にはこの中間層の作成時に塩素イオンが残留して耐食性の劣るいわゆるオキシクロライドを生成してしまい、安定に導電性を保持するが、腐食性の強い雰囲気下ではオキシクロライド部分の酸化が進みやすく、電極物質本来の長寿命を確保することが出来なかった。一方、スパッタによる方法では金属被覆であるために、そのままでは通電が出来なくなる可能性があると共に電極被覆形成条件の制限が有った。その代わり基体としての耐食性は熱分解法より勝ると言うことがわかってきた。本発明はこれらの事実をふまえ、従来技術より数等優れた耐食性を有する長寿命の電極が可能となる電極基体並びにそれを活用した電極コーティングを完成した。
【0019】
つまりここではチタンあるいはチタン合金基材は通常使われる板状、あるいは穴あき板、あるいはエクスパンドメッシュなどどのような形状でも良い。このチタン基材について常法により表面の前処理を行う。つまり、ブラストなどによって表面の粗面化を行い、必要に応じて焼鈍をした後、表面をエッチングして活性化する。このものに所定の組成を有する塗布液を塗布する。塗布液はたとえばタンタルブトキシドとチタンブトキシドを所定割合に混合し、ブチルアルコールやプロピルアルコールあるいはアミルアルコールなどのアルコール溶媒で必要濃度に希釈して作成する。塗布乾燥後、空気中などの酸化性雰囲気下で450℃から550℃で熱分解を行う。この時に塗布液には塩化物の入っていないことが重要であり、これによって基体チタン又はチタン合金と被覆との間は安定な酸化物からなる化学結合を有する被覆層が形成される。塗布・熱分解を繰り返して見かけ厚み1ミクロン以上、あるいはタンタルとして2g/m2以上の厚みの表面酸化物層を形成して電極用の基体とする。タンタルが2g/m2以下では、この後に形成される、電極物質層、つまりイリジウム・タンタルの複合酸化物層で通常使用されるイリジウム原料である塩化イリジウム中の塩素イオンの一部が基体チタン又はチタン合金まで到達し、そこで耐食性の劣るオキシクロライドを形成する可能性が大となるからである。なおこの時の塗布・熱分解の繰り返し数は特には指定されないが最低2回、最高でも10回程度が望ましい。繰り返し数が多くなるとその分製造コストが高くなるという問題点がある。なおここでチタン対タンタル比は半導性の酸化物として十分な導電性を有することが重要であり、そのためにはタンタルが99.9%から60%(モル)であることが望ましい。
【0020】
このような熱分解コーティングの他に比較的容易に表面に酸化物を得る方法として希薄な酸素を含む雰囲気中でタンタルとチタンを蒸着し、あるいはスパッタする反応性蒸着あるいは反応性スパッタを使用することも可能である。もちろんコストは大きくなるが、前記金属膜を形成するよりはるかに有効に、しかも安定して酸化物膜の形成が可能となる。只これによっても膜の厚さは上に被覆する電極物質層からの塩素根の侵入を最小限とするために最低でも1ミクロン程度は必要である。このようにして電極基体を作成する。
【0021】
作成した電極基体の表面に電極物質のコーティングを行う。コーティングはイリジウムとタンタルからなる複合酸化物被膜からなる。この被覆の形成では電極物質としての活性を与えると共に、基体への影響を最小とすることが必要である。そのために、イリジウム原材料としては塩化イリジウムを使用し、これにタンタル成分としてタンタルブトキシドなどの有機タンタル化合物を加えて有機溶媒を使用した塗布液を使用することが望ましい。もちろん塩化タンタルを使うことも可能であるが、できるだけ塩素根が少ない塗布液を使用する。有機タンタル化合物を使う場合、安定化のためにわずかな塩酸の添加は良いが、できるだけ少量としてフリーな塩素あるいは塩酸を極力減らす様にする。これによって塗布液の溶媒は一部基体被覆層を通って、チタンやチタン合金に達する可能性が有るが、塩素根が最小となるのでほとんどオキシクロライドの生成は起こらない。
【0022】
代表的な塗布液としてIrCl(三塩化イリジウム)とTa(CO)(タンタルブトキシド)をn−ブタノールに溶解して作成し、使用する。イリジウムとタンタルの量比はイリジウム:タンタルで90:10から60:40(モル比)であり、これらは用途によって選択する。このような塗布液を本発明の被覆を有する基体表面に塗布し、熱分解温度480℃から550℃とし、空気中など酸化性雰囲気で行う。塗布・熱分解は繰り返し行い、所定の厚みになるようにする。このようにしてまず表面に塩素根を含まない被覆層を有する基体ができ、更にその表面に被覆を形成することで基体であるチタンあるいはチタン基合金部分に残留塩素根が最小となり、界面を特に安定化した電極が製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によってチタンあるいはチタン基合金基材の表面に安定な酸化物層のみからなる被覆を有する電極基体並びにこの電極基体を含む高い耐食性と長寿命を有する電極を低コストと簡単な条件で作成することができるようになった。また電極物質の被覆ではある程度の塩化物を使いながら不安定なオキシクロライドの形成を最小限とすることができ、それによって高負荷でも長寿命を有する電極の製造が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明により、高温の硫酸中のような腐食雰囲気下において、陽極として10000A/m以上の大きな電流密度で使用した場合にも長期にわたり基体あるいは基体と電極物質の界面の腐食は見られず、導電性を失うことは少なく、従来より遙かに長い時間安定な電解が可能となる。以下にこの技術による実施例を示すが、これらの実施例に制限されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0025】
「実施例1」
厚さ3mmの純チタン板についてその表面を鉄グリットによりブラストを行って表面の荒さをRmax=100μm程度とし、これについて塩酸と硫酸の混酸を使用し、90℃でエッチングを行って、残留グリットの除去と表面の活性化を行った。このチタン板表面にモル比でタンタル:チタン=90:10となるようにタンタルブトキシドとチタンブトキシド並びにn−ブチルアルコールを混合して作成した塗布液を塗布し、60℃で乾燥後490℃に保持したマッフル炉で15分間加熱熱分解を行った。更に塗布、加熱熱分解の操作を繰り返した。なお2回目以降は熱分解温度を520℃とした。これによりTaにして4g/m2、見掛け厚み(断面顕微鏡観察)約2μmの被覆層を形成した。対比例として、塗布液を五塩化タンタル、四塩化チタンの10%塩酸水溶液とした以外実施例と同じとして作成した試料を用意した。
【0026】
これらの試料について酸液オートクレーブ中での腐食試験を行った。酸液としてはpH=1.2となる硫酸水溶液にメタノールを0.5%となるように添加した液を使用し、この液中に両試料を浸漬し、120℃で500時間保持した。この前後の被膜を通しての電気伝導度を計測したところ、試験前には両者とも0.3−0.5mΩ/cmであったが本実施例では0.5−0.7mΩ/cmで十分な導電性を保持していた。一方対比例では200mΩ/cm以上となり、一部被覆の剥落が見られた。なお供試前の試料の表面からの蛍光エックス線分析による塩素量の計測では被覆酸化物量に対する塩素量は対比例のものが3.5%程度あった。なお本実施例は当然の事ながらゼロであった。
【0027】
「実施例2」
実施例1で作成した表面にチタン・タンタル複合酸化物を形成した電極基体の表面に、イリジウム80:タンタル20(モル比)からなる複合酸化物被覆を形成した。塗布液は三塩化イリジウムとタンタルブトキシドをn−ブタノールに所定割合に混合して作成した。この塗布液を電極基材表面に塗布し、乾燥後マッフル炉に入れ520℃で熱分解した。塗布・熱分解を10回繰り返して電極とした。対比用として実施例1に示した対比例の電極基体上に同様にしてイリジウム・タンタル複合酸化物被覆を形成して電極とした。この電極を使用して150g/l硫酸水溶液を電解液として80℃で電解試験を行った。電流密度300A/dm2で連続電解を行ったところ、本実施例のものは1000時間の電解後も電圧の変化はなかったが、対比例では600時間で電圧が上昇し、通電が不能となった。これらの電極について電解後コーティング消耗を蛍光エックス線法により計測したところ、通電量に対して実施例では0.2mg/kAh程度の消耗であり、また対比例は0.22mg/kAhでほとんど同じであった。つまり対比例では電極物質を残したまま通電不能となった事がわかった。
【0028】
「実施例3」
組成と熱分解温度を変化させて実施例1と同様にしてチタン上に被覆を形成した。また原材料としてタンタルブトキシドに代わりタンタルエトキシドを使用した試料も合わせて作成した。表1に作成した試料の試料表を示した。またこれらの試料について実施例1と同様にして腐食試験を行った。その結果も合わせて表に示した。なお一部対比例として作成した試料の試験結果も合わせて表1に示した。ここに示したようにタンタル単味では導電性が不十分であることがわかった。これは0.1%以上チタンを加えることで合目的な導電性の結果の得られることがわかった。ただチタン量が多くなると導電性は維持されるが耐食性が不十分となり、タンタル量が60%(モル)より少なくなると耐蝕試験後の抵抗が上昇してしまうことがわかった。またタンタルブトキシドの代わりにタンタルエトキシドを使用しても特に特性の変化は認められずこの種の有機物であれば問題ないと考えられた。
更に熱分解温度は470℃では耐食性が不十分であること、これは恐らく十分な結晶化が進んでいないためと考えられた。また560℃では最初酸化が進みすぎているためか最初から電気抵抗が大きく合目的で無いことがわかった。
【表1】

【0029】
「実施例4」
実施例1と同様にしてチタン表面にタンタル・チタン複合酸化物被覆を形成したがここではその厚みの変化に対する耐久性の差異を検討した。ここでは同じ塗布液を使用し塗布・熱分解回数を変えて作成した。結果は表2に示した。被覆厚み2g−Ta/m以上では安定することが見られた。ただ厚くなるに従ってわずかではあるが電気抵抗の増大することが見られた。なお被覆の組成はタンタル:チタン=85:15(モル)とした。また熱分解温度は520℃であった。塗布・熱分解の回数は最低が2回であり最大が15回であった。
【表2】

【0030】
「実施例5」
実施例1と同様にして処理したチタン基材表面にタンタル・チタン合金ターゲットを用いて90%アルゴンと10%酸素からなる雰囲気ガスを気圧を0.1torrとなるように流したスパッタ装置内でチタン表面に酸化タンタルと酸化チタンの複合酸化物層を形成した。30分間スパッタを行った結果、見掛け厚み1.2μmの被覆を形成することが出来た。このものについて実施例1と同じ条件で腐食試験を行ったところ、初期電気抵抗が0.3mΩ/cmであり、腐食試験後は0.4mΩ/cmで安定に使用できることがわかった。
【0031】
「実施例6」
実施例4で作成した試料番号14と同じに処理した基体表面にイリジウム・タンタルの複合酸化物からなる被覆を被覆組成と温度を変えて作成した。作成した試料は実施例2と同じ条件つまり150g/l硫酸を電解液とし、温度80℃、陽極として電流密度300A/dmで電解試験を行った。結果を表3に示した。表3の結果からイリジウム含有量が95%以上では消耗が大きくて実用的でないこと、またイリジウムが60%より少なくても寿命の短くなることが見られた。更に熱分解温度が480℃未満でも消耗が大きくなることがわかった。更に熱分解温度550℃ではコーティングの剥離が一部起こっていることがわかった。一方組成ではタンタルが45%以上ではイリジウムの消耗速度が大きくなることが見られ、イリジウム55%以下ではある程度の寿命はあるものの消耗が大きすぎて実用上では問題であった。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の電極は需要が逼迫している主として銅箔の電解製造に使用する陽極用あるいは亜鉛メッキ鋼板製造用の陽極として現実に多量に使用されており、その電極としての長寿命化が大きな課題である。このため現在ではスパッタリングとその後の複雑な工程を含む方法で作られているケースもあり、高コストの問題が出ている。これらを一挙に解決するのが本技術であり、既に実用化の作業を行っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン基合金表面に見かけ厚さ1ミクロン以上で、実質的にハロゲンを含まない0.1から20モルパーセントのチタンと残部がタンタルからなる導電性酸化物層を有する耐食性の不溶性金属電極用基体。
【請求項2】
見かけ厚さ1ミクロン以上がタンタル量にして2g/m2以上であることを特徴とする請求項1の耐食性不溶性金属電極用基体。
【請求項3】
実質的にハロゲンを含まない導電性酸化物層は金属アルコキシドの熱分解により形成したものであることを特徴とする請求項1から2の耐食性不溶性金属電極用基体。
【請求項4】
実質的にハロゲンを含まない導電性酸化物層の形成をチタンとタンタルからなるターゲットを使用して酸素含有雰囲気中でスパッタ法により行うことを特徴とする請求項1から2の耐食性不溶性金属電極用基体。
【請求項5】
チタン又はチタン基合金表面に見かけ厚さ1ミクロン以上で、実質的にハロゲンを含まない0.1から20モルパーセントのチタンと残部タンタルからなる導電性酸化物で層を形成してなる基体上にイリジウムとタンタル複合酸化物からなる電極物質を被覆してなる耐食性不溶性金属電極
【請求項6】
基体が請求項1から4に示される耐食性不溶性金属基体であり、該表面に熱分解法により、イリジウムとタンタルからなる複合酸化物層を形成してなることを特徴とする請求項5の耐食性不溶性金属電極
【請求項7】
イリジウムとタンタルの複合酸化物層を塩化イリジウムと有機タンタル化合物を溶解して作成した塗布液を使用して熱分解法により製造することを特徴とする請求項5及び6の耐食性不溶性電極
【請求項8】
複合酸化物層の組成がイリジウムが90から60モルパーセントで、残部がタンタルであることを特徴とする請求項5から7の耐食性不溶性金属電極
【請求項9】
熱分解を温度480℃から550℃で行うことを特徴とする請求項5から8の耐食性不溶性金属電極

【公開番号】特開2009−120933(P2009−120933A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318904(P2007−318904)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(504323238)有限会社シーエス技術研究所 (17)
【Fターム(参考)】