説明

耕耘爪

【課題】摩耗が進行したときにも、硬化層による有効な耐摩耗性を発揮し、良好な耐性強度を維持すると共に、硬化層の定着性に優れた耕耘爪を提供することを課題とする。
【解決手段】耕耘爪は、回転爪軸に固定され主として縦方向に延伸する縦刃部1と、弯曲しながら主として横方向に延伸する横刃部2とが一体的に連なって構成される。横刃部2の一面に、横刃部2の延伸方向に沿って形成された窪み部3と、前記窪み部3から横刃部2の下縁までを覆うようにして横刃部2の延伸方向に沿って層設された、硬質合金からなる硬化層4と、を具備し、窪み部3は、最大窪み深部から下方へ向って浅くなるように傾斜した、下傾斜面を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌を耕起する耕耘爪に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の耕耘爪として、耐摩耗性能を向上させるべく、摩耗しやすい刃先部の一面に硬質合金を溶着して、硬化層を層設したものがあった(例えば、特許文献1参照)。これは、耕耘爪の横刃の伸びる方向に沿って、断面L字状の切欠き部を、下方の刃先部側へ開放するように形成し、ここへ硬化層を層設するものである。これにより、耕耘刃の肉厚を薄くすることができ、抵抗が少ない状態で耕土中に切り込み、また摩耗時にも硬化層が常に刃縁に露出することで、切れ味を持続するものとされる(従来例を示す図6(2)参照)。また、一般的には断面L字状の切欠き部を形成せずに、硬化層を層設したものが知られている(従来例を示す図6(1)参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来爪は、母材である横刃に断面L字状の切欠き部を形成し、ここへ硬化層を略等厚に乗せたものであるため、下縁から刃面形成部を超えて摩耗が進行したときに、母材に対する硬化層の厚さの割合が、摩耗進行前と比較して小さくなる。よって、摩耗進行時に、硬化層による有効な耐摩耗性を発揮することが出来なかった。これにより、延伸方向位置において耐摩耗性や摩耗の進行が不均一となり、摩耗進行部分への応力集中によって欠損が生じるなど、摩耗時に良好な耐性強度を維持することができなかった。
【0004】
また、硬化層自体は靭性が低いため、使用によって硬化層のクラックや刃部からの剥離が生じる場合があった。特に、母材たる横刃が薄い先端側では硬化層の定着性が良いとはいえず、これら問題が顕著であった。従って上記従来の耕耘爪は、良好な耐性強度を維持するものとはいえなかった。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−85904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、摩耗が進行したときにも、硬化層による有効な耐摩耗性を発揮し、良好な耐性強度を維持すると共に、硬化層の定着性に優れた耕耘爪を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明においては、以下(1)ないし(6)の手段を採用する。
【0008】
(1)すなわち、本発明の耕耘爪は、回転爪軸に固定される固定手段11を有して平板状のまま主として縦方向に延伸する縦刃部1と、この縦刃部1から弯曲開始部6を境として弯曲しながら主として横方向に延伸する横刃部2とが一体的に連なって構成される耕耘爪であって、
横刃部2の一面に、横刃部2の延伸方向に沿って形成された窪み部3と、前記窪み部3から横刃部2の下縁までを覆うようにして横刃部2の延伸方向に沿って層設された、硬質合金からなる硬化層4と、を具備し、
窪み部3は、最大窪み深部3Mから下方へ向って浅くなるように傾斜した、下傾斜面31を有することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、下縁付近の横刃部2の厚さを確保することで優れた靭性を有し、かつ硬化層4の厚みを増すことで耐摩耗性に優れたものとなる。
【0010】
(2)前記窪み部3は、その幅(窪み幅3W)が一定であり、その(窪み幅3Wの)先端(延伸方向先端)が横刃部2の側方先端22まで至るものでも良い。
【0011】
これによって、横刃部2の下縁の摩耗が横刃部2の延伸方向で略均一に進行し、摩耗時の応力集中による欠損を防ぐことができる。また、窪み部3を形成するための金型の加工が容易となる。また、窪み部3を覆う硬化層4が、一定幅のまま少なくとも横刃部2の下縁全体に亘ることが好ましい。
【0012】
(3)前記横刃部2の下縁付近ないし窪み部3中央付近の幅方向位置において、硬化層4は横刃部2と略同厚または横刃部2よりも薄いものとすることが好ましい。
【0013】
このようなものであれば、いずれの幅方向位置においても総厚さに占める硬化層4の厚さの割合を確保するものとなる。よって、摩耗が進行しても常に所定の靱性と耐摩耗性を確保することが出来る。
【0014】
(4)前記いずれかの窪み部3及び硬化層4は、内弯曲面(すなわち、横刃部2の両面のうち、内弯曲面側の面)に形成されてなることが好ましい。
【0015】
このようなものであれば、硬化層4の横刃部2への定着性がより良いものとなる。また、硬化層4の層設後に弯曲加工を施すことによって、硬化層4の密度が増加し、耐久性が良いものとなる。
【0016】
(5)前記いずれかの窪み部3及び硬化層4は、外弯曲面(すなわち、横刃部2の両面のうち、外弯曲面側の面)に形成されてなることが好ましい。
【0017】
このようなものであれば、回転爪軸を覆うロータリーカバーへの付着土による摩耗を抑制することができる。また、母材たる横刃部2は硬化層4の層設面と逆の面から摩耗することとなるため、良好な耕耘性能を維持することができる。
【0018】
(6)前記いずれかの横刃部2は、その下縁に沿う下縁周面21を有することが好ましい。
【0019】
これにより、下縁部での欠損や硬化層4の崩落或いは亀裂の発生、横刃部2との分離を抑制することが出来る。下縁周面21を有するものは特に、硬化層4の厚肉化によっても横刃部2への良好な定着を図ることが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、上述のような構成としたことで、摩耗が進行したときにも、硬化層による有効な耐摩耗性を発揮し、良好な耐性強度を維持すると共に、硬化層の定着性に優れた耕耘爪となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、各実施例として示す図面と共に説明する。図1は、本発明の実施例1の耕耘爪について、正面図及び平面図を示す。図2は図1のA−A断面図である。図3、図4はそれぞれ、本発明の実施例2、実施例3の耕耘爪の正面図及び平面図である。また図5は、実施例1(図5(ロ))をはじめとする本発明の各実施例のA−A断面図例である。
【0022】
各実施例の図面及び以下の説明において、回転爪軸の回転軌道と正対する面、すなわち回転爪軸の回転爪軸線を法線とする面であって、かつ横刃部2が向かって左側に延伸する側の面を正面とする。図1、図3及び図4に、それぞれ実施例1、2及び3の正面図が示される。これら正面図にて、耕耘爪の先端は、向かって手前方向に弯曲してなる。回転爪軸の回転方向は、図1、図3及び図4の太矢印で示すように、いずれも反時計回りである。
【0023】
(耕耘爪の全体構成)
本実施例の耕耘爪は、基本的に、回転爪軸への固定手段11を有してこの固定手段11から主として正面視縦方向に延伸する縦刃部1と、縦刃部1から弯曲開始部6を境として弯曲しながら主として正面視横方向に延伸する横刃部2と、が一体的に連なって構成される。縦刃部1は平面板からなり、横刃部2は弯曲板からなる。
【0024】
耕耘爪全体、縦刃部1、横刃部2のいずれも、延伸方向の両端のうち回転爪軸への固定手段側の端を基端側とし、その反対側の端を先端側とする。耕耘爪全体では、最基端側が、上方を向く上方基端12であり、最先端側が、正面視にて一側方を向く側方先端22である。
【0025】
そして、横刃部2の少なくとも(内弯曲面側或いは外弯曲面側のいずれか)一面には、横刃部2の延伸方向に沿って伸びる窪み部3を具備する。さらに、少なくともこの窪み部3を覆うようにして横刃部2の一面に延伸方向に沿って層設された、硬質合金からなる硬化層4を具備する。また、横刃部2の一面に、横刃部2の下縁に沿って傾斜する刃面5が形成される。以下、各実施例の各構成を説明する。
【0026】
なお本発明は、回転爪軸に固定されて高速回転する耕耘爪であればどのようなサイズ、用途であっても良いが、中でも特に、大型トラクタ用の耕耘爪(例えば、回転爪軸からの最大回転半径245mm以上(さらにいえば250〜290mm程度)のもの)に適用することが、耐摩耗性や強度の点で好ましい。
【実施例1】
【0027】
(正面視刃縁形状)
実施例の耕耘爪の正面視刃縁形状は、縦刃部1の上方基端12から下方へ伸び、横刃部2の側方先端22まで、一側方(図1の向かって左側)に曲がりながら形成される。その両側縁(上縁及び下縁)は、連続的に曲率変化させた、全体として非円弧の曲線からなる。なおこの曲線は、全体として非円弧であれば、複数の円弧曲線が連なってなるものでも良い。
【0028】
(縦刃部1)
縦刃部1は、一基準面内の平面板からなり、上方基端12から鉛直下方に連なって主として縦方向へ伸びる、弯曲開始部6までの領域を言う。また正面視にて曲がる方向の外側(図1の向かって右側)の側縁のうち下方寄りに、刃面5が形成される。縦刃部1の正面視形状は、上方基端12側から主として縦方向へ伸び、これと共に弯曲開始部6に近い先端部は、幅広薄肉となりながら斜め下方向(図1における向かって左方向)へ滑らかに曲がってなる(図1)。
【0029】
縦刃部1は、次述の固定手段11により回転爪軸へ固定され、反時計回り(図1の太矢印の方向)に高速回転する。実施例1、2(図1、3)では後述するように窪み部3及び硬化層4が、内弯曲面に形成されるため、この回転方向により横刃部2の土壌への打ち込み上面側に硬化層4がくることとなる。なお、後述の実施例3(図4)のように、土壌への打ち込みの下面側に硬化層4がくるものとしてもよい。
【0030】
(固定手段11)
縦刃部1の延伸方向のうち上方基端12寄りには、回転爪軸への固定手段11を有する。固定手段11は、実施例1では取付け孔に回転爪軸の固定突部を嵌入し、ボルト固定するものである。固定手段11たる取付け孔は、実施例1では一つ設けられる。
【0031】
(上方基端12)
上方基端12は、上方を向く耕耘爪の基端側の一端である。実施例1では上方基端12は平面からなる。
【0032】
(横刃部2)
横刃部2は、弯曲開始部6から先端までの全領域を言い、平面視にて一方向(図1の平面図にて向って下側)へ連続的に全弯曲した全弯曲板からなる。また、正面視においても先端に向かって一側方(図1の向って左側)に滑らかに曲がる平面弯曲形状である。すなわち、弯曲開始部6を境として縦刃部1と連なり、正面視にて主として横方向へ曲がりながら延伸する(図1、図3、図4)。そして、延伸する両側辺のうち下方の側辺が下縁を構成し、この横刃部2の下縁に沿って、刃面5が形成される。なお刃面5は、縦刃部1の下方一側辺から横刃部2の側方先端22にまで至る。なお側方先端22は、側方を向く耕耘爪の先端22である。
【0033】
(弯曲)
横刃部2の弯曲形状は、弯曲開始部6を境にして、一つまたは複数の弯曲半径が組み合わされてなる(図1、図3、図4の平面図)。実施例では、一つの弯曲半径と直線とで形成される。他に基端側の弯曲半径と先端(側方先端22)側の弯曲半径とが異なる大きさで隣接して、平面視にて両曲線が滑らかに連なるように形成される場合もある。この場合、弯曲半径は、取付け基部(基端)側の方が、横刃部2先端(爪先端)側よりも大きいものとすることが好ましい。
【0034】
(下縁周面21)
更に、横刃部2はその下縁に、横刃部2の下縁全長に沿う下縁周面21を有することが好ましい。この下縁周面21によって、断面視にて尖鋭とならず、三方辺が形成される。これにより、刃先の母材厚さ(横刃部2の下縁厚さt3)を確保することができ、靭性の優れたものとなり、使用による欠損を防ぐことができる。下縁周面21は特に、大型トラクタ用の耕耘爪に適用することが好ましい。
【0035】
(幅方向断面視形状、膨厚部23)
横刃部2は、幅方向断面視(図2)にて、上縁から下縁に向かう厚さが、前記窪み部3によって徐々に薄くなり、その後、窪み部3の中央最大窪み深部3M(窪み中央部厚さt1)を経て窪み部3の下傾斜面31によって徐々に厚くなる(下傾斜部厚さt5)。この窪み部3の下端付近で一旦厚くなる部分を膨厚部23と呼ぶ。このように一旦厚くなった後、下縁への刃面5の形成により、下縁に向かって再び薄くなる(下縁厚さt3)。なお実施例では、次述する窪み部3(の設けられる面)と反対面たる外弯曲面が、比較的小さな傾斜面をもって断面視斜めに削られるようにして刃面5が形成されることで、下縁厚さt3が徐々に薄くなる。
【0036】
具体的には、横刃部2の厚さは、大きい順に傾斜部厚さt5、窪み中央部厚さt1、下縁厚さt3となる。また下縁厚さt3は幅方向下縁に向って徐々に小さくなる。図2に示す実施例1ではさらに、傾斜部厚さt5は膨厚部23にて、幅方向下縁に向って徐々に大きくなる。具体的には例えば、幅方向断面視にて、最大窪み深部3M付近、刃面開始部5S付近及び下縁付近それぞれの横刃部2の厚さは順に、(1.2〜3.5):(1.5〜4):1程度である。実施例1ではそれぞれ5mm、7mm、2.5mmであり、略2:2.8:1となる。このように略2:(2ないし3):1程度であることが、強度の面からも好ましい。
【0037】
膨厚部23は、両縁が傾斜する窪み部3において、「下傾斜面31の上縁である下傾斜面開始縁31S」が、「横刃部2の刃面開始位置5S」よりも上方又は同じ高さにあること(図2)、すなわち図2において、(下傾斜面開始高さ31Sh≧刃面高さ5h)が成り立つことによって形成される。
【0038】
このとき膨厚部23の高さは、
(A)図2のように窪み下端高さ3Lh≧刃面高さ5hの場合、及び、図5(ホ)ないし(チ)のように刃面高さ5h>窪み下端高さ3Lhかつ刃面傾斜角度5θ>下傾斜角度31θの場合には、「下傾斜面開始高さ31Shと刃面高さ5hとの差(下傾斜面開始高さ31Sh−刃面高さ5h)」となる。また、
(B)図示しない刃面高さ5h>窪み下端高さ3Lhかつ下傾斜角度31θ>刃面傾斜角度5θの場合には、「下傾斜面31の高さ」(下傾斜面開始高さ31Sh−窪み下端高さ3Lh)となる。
【0039】
また、上記Aの場合、(下傾斜面開始高さ31Sh≧刃面高さ5h)が成り立つ限り、後述する他の実施例(図5(ホ)ないし(チ))のように、窪み下端高さ3Lh=0としても良い。なお図2に示す実施例1では、窪み部3の下傾斜角度31θが、横刃部2の刃面傾斜角度5θよりも大きい。これにより硬化層4の割合が大きくなるため、耐摩耗性に優れたものとなる。他の実施例として逆に、窪み部3の下傾斜角度31θを緩やか(横刃部2の刃面傾斜角度5θよりも小さいもの)にすることで、摩耗進行時の応力集中をより抑制することが出来る。
【0040】
上記厚さの関係及び膨厚部23により、摩耗進行時に刃面開始縁5Sで十分な靱性と耐久強度を保つことが出来る。また、横刃部2と硬化層4とからなる総肉厚を大きくすることなく所定の(例えば、図6(1)に示すような従来の耕耘爪と同様の)幅方向断面形状に成形することで、土壌への打ち込み抵抗や負荷変動の増加を抑えることが出来る。
【0041】
(窪み部3)
窪み部3は、横刃部2の一面を、横刃部2の延伸方向に沿って所定の窪み幅3Wで窪ませるように形成される。また、窪み部3の延伸方向の先端が横刃部2の側方先端22まで至る。窪み幅3Wは、横刃部2の延伸方向に亘って一定である。
【0042】
ここで窪み部3の上下端のうち窪み下端3Lは、横刃部2の下縁に接するか、横刃部2下縁から所定の窪み下端高さ3Lhを開けて設けられる。所定の窪み下端高さ3Lhとは、刃の形状によって異なるが、望ましくは、横刃部2の刃面5の高さ方向の距離である、刃面高さ5hと同等或いはこれより長い距離である。実施例1ではこの窪み下端高さ3Lhを、横刃部2の延伸方向に亘って一定、かつ刃面5の幅と略同一としている。
【0043】
窪み部3及び後述する硬化層4は、内弯曲面、外弯曲面のいずれに形成しても良いが、実施例1では内弯曲面に形成している。これにより硬化層4の定着性や強度(亀裂発生防止)の面で優れたものとなる。
【0044】
(浅窪み部34)
窪み部3はまた、その基端の弯曲開始部6付近にて、横刃部2の基端方向へ向かって徐々に浅くなる浅窪み部34を具備する(図1)。実施例の浅窪み部34の基端側の一辺は、弯曲開始部6と共通するが、これよりも縦刃部1側にあっても良く、逆に横刃部2側にあっても良い。
【0045】
図に示す実施例の浅窪み部34は略等幅であり、正面視にて、弯曲開始部6を一辺とし、この一辺から一定の微小傾斜角度で傾斜する方形の傾斜面を有する。これにより、弯曲開始部6近傍の強度低下を防ぐことができる。なお実施例1の浅窪み部34は、上隅部34Uを除く大部分が硬化層4に覆われてなる(図1)。
【0046】
(下傾斜面31、上傾斜面33)
窪み部3は具体的には、少なくとも、最大窪み深部3Mから下方および上方にそれぞれ、下傾斜面31、上傾斜面33を有して構成される(図2)。下傾斜面31は、幅方向断面視にて、最大窪み深部3Mから下方へ向って浅くなるように、所定の下傾斜角度31θをもって傾斜した面である。上傾斜面33は、幅方向断面視にて、最大窪み深部3Mから上方へ向って浅くなるように、所定の上傾斜角度33θをもって傾斜した面である。
【0047】
下傾斜面31、上傾斜面33は、図2、及び図5の(ロ)ないし(チ)に示すように、上下端たる幅方向断面視での窪み部3の上下縁が、徐々に浅くなるものであること(すなわち、上傾斜角度33θ、下傾斜角度31θが90°よりも小さいこと)が好ましい。このような窪み部3全体を硬化層4が覆うことで、硬化層4の横刃部2への定着が良好なものとなる。また、上下傾斜面31、33の傾斜角度(上傾斜角度33θ、下傾斜角度31θ)を小さくすることによって、摩耗進行による強度変化ないし耐摩耗性への影響を抑えることができる。特に、下傾斜面31の傾斜角度である下傾斜角度31θを、刃面5の傾斜角度である刃面傾斜角度5θよりも小さくすることによる効果が顕著である。
【0048】
(厚さの比)
横刃部2の下縁付近ないし窪み部3中央付近のいずれの幅方向位置においても、硬化層4の厚さは、常に横刃部2よりも薄いか或いは同程度の厚さであり、横刃部2よりも厚くなることがない。具体的には、横刃部2の下縁付近および窪み部3中央付近の各幅方向位置において、硬化層4の横刃部2に対する厚さの比は硬化層4:横刃部2=1:1よりも硬化層4の厚さの比率が大きくなることが無く、更にいえば、例えば1:(1ないし3)程度であることが好ましい。これにより、硬化層4の所定の厚さ(さらにいえば、横刃部2に対する所定の厚さの割合、換言すれば総厚に占める厚さの割合)を常に確保することが出来るため、摩耗の進行程度に拘らず均一な耐摩耗性を得ることが出来る。
【0049】
(硬化層4)
硬化層4は、合金を硬化させて層化した、横刃部2よりも硬度に優れた層である。前記窪み部3の形成面に窪み部3の少なくとも一部分を覆うように設けられる。実施例1では、硬化層4は、横刃部2の下縁から前記窪み部3までを覆う。すなわち、硬化層下縁は少なくとも横刃部2の下縁と共通する。
【0050】
硬化層上縁4Uは、正面視にて直線、円弧或いはそれらの複合形状に形成され、この形状は、横刃部2の先端への延伸方向に対して上方へ傾斜する(図1では向って左上がりの傾斜)。すなわち、硬化層4の幅は、横刃部2の側方先端22付近で窪み部3の幅全部を覆い、横刃部2の基端に向って幅が小さくなる。そして、正面視では横刃部2の側方先端22の一部を一辺とした略三角形を形成する。これにより、回転爪軸と刃縁までの距離、及び土壌に打ち込まれる横刃部2の延伸長さに応じた範囲にて、耐摩耗性を効率的に発揮することができる。
【0051】
実施例1では、硬化層4は横刃部2および縦刃部1を覆い、窪み部3の浅窪み部34の上隅部34Uが僅かに露出するものとしているが、より良好な耐性強度を持たせる為に全て覆うものとしても良い。
【0052】
任意の延伸位置における硬化層4の厚さ(幅方向断面にて確認しうる硬化層4の厚さ)は、窪み部3中央付近から下縁付近にかけて徐々に或いは急激に、厚いものから薄いものとなる。さらにいえば、窪み部3中央付近(の幅方向位置)における硬化層4の厚さ(窪み中央部厚さt2)は、窪み部3の下傾斜面31付近(の幅方向位置)における硬化層4の厚さ(下傾斜部厚さt6)よりも厚く、かつ、横刃部2の下縁付近(の幅方向位置)における硬化層4の厚さ(下縁厚さt4)よりも、厚いものである。なお、下傾斜部厚さt6は、窪み部3中央付近から下縁付近にかけて薄くなるものであるが、いずれの下傾斜部厚さt6も、下縁厚さt4より厚いものである。
【0053】
硬化層4を構成する硬質合金は、縦刃部1や横刃部2よりも高硬度の金属粉末を、高周波加熱により溶着させて層設される。硬化層4を層設した後に、硬化層4を内弯曲面として弯曲加工を施すことで、良好な定着性と高密度の硬化層4を得ることが出来る。
【0054】
(刃面5)
刃面5は、縦刃部1の外側の側辺下方及び横刃部2の下縁に沿って、下縁を薄くするように設けられる傾斜面である。少なくとも横刃部2の全体で略一定幅のまま形成される。内弯曲面、外弯曲面、或いはこれら両面のいずれに形成するものでも良いが、窪み部3及び硬化層4の形成面と反対面の片面に形成することが望ましい。実施例1では窪み部3及び硬化層4の形成面と反対面である外弯曲面に形成している。また強度、加工性のために、幅方向断面視にて直線を形成してなることが望ましい。刃面傾斜角度5θはいずれでも良いが、中でも5ないし35°、さらにいえば10ないし30°であることが好ましい。
【0055】
(摩耗の進行について)
爪は、耕耘作業に伴って土壌との接触を繰り返すことによって摩耗するが、この摩耗は縦刃部1及び、横刃部2全体が均一に摩耗するのではなく、縦刃部1と横刃部2の弯曲部が偏摩耗し、この側方弯曲部から摩耗が進展する。また、反転性、放擲性が損なわれる場合もある。このために耕耘爪の寿命が短くなり交換回数が増えるとともに交換時期が遅れると先端部が欠落してしまう惧れがあった。
【0056】
本発明は、窪み部3の幅を一定とし、かつ窪み部3の下側縁である窪み下縁3Lに関し、横刃部2の全体厚さに対する厚さの割合(比率)を、前記幅方向断面視による最大窪み深部3M付近、刃面開始部5S付近及び下縁付近それぞれの位置において、所定の範囲内としている。これによって、耐摩耗性及び靭性を両備することができる。
【0057】
また本実施例では、横刃部2の下縁位置から所定間隔をあけて、窪み下縁高さ3Lhを有するように(3Lh>0)設ける(すなわち、横刃部2の下縁位置かやや中央側に寄せる)ことによって、偏摩耗を解消し、本来の耕耘性能を維持した状態で摩耗が進行することになる。特に、刃面傾斜角度5θや下傾斜角度31θによって横刃部2の側面視における形状変化が極端に変わることが無いため、延伸方向で摩耗進行度にずれがある場合でも応力集中を抑制することが出来る。
【実施例2】
【0058】
実施例2では上方基端12は二つの平面が山形に組み合わさってなる。また、固定手段11としての取り付け孔が二つ設けられる。また、実施例2では、硬化層4は横刃部2だけを覆い、硬化層上縁4Uの基端と下縁との交点が、弯曲開始部6に共通するものとしている。また、実施例2の浅窪み部34はその全部が硬化層4に覆われることなく露出してなる(図3)。その他構成は実施例1と同様である。
【実施例3】
【0059】
実施例3では、窪み部3及び硬化層4を、横刃部2の外弯曲面に形成してなる。その他構成は実施例1と同様である。
【0060】
このように窪み部3及び硬化層4を、内弯曲面ではなく外弯曲面に形成してなるものであれば、回転爪軸を覆うロータリーカバーへの付着土による摩耗を抑制することができる。すなわち、ロータリーカバー(図示せず)は、回転爪軸に固定された耕耘爪の周囲を、回転爪軸を中心とした側方ないし上方にかけて覆うものであるが、トラクタの長期使用によって、このロータリーカバーの内側に土が付着し、それが固化する場合がある。高速で回転する耕耘爪がこの付着土に接触すると、刃部に摩耗が生じる。このとき、ロータリーカバーは固定された耕耘爪の外弯曲面側を覆うものである。このため、外弯曲面側の表面に硬化層4が層設されていれば、付着土は横刃部2(硬化層4以外のいわゆる母材部分)ではなく、より高硬度の硬化層4と接触するものとなる。よって、付着土と横刃部2の接触による摩耗の進行を抑制することができる。
【0061】
また、硬化層4の層設によって、母材たる横刃部2はその層設面と逆の面から摩耗することとなるため、外弯曲面に硬化層4を形成することで、土壌との接触角度の大きな内弯曲面側が摩耗するものとなる。よって、より鋭利な刃先のまま摩耗が進行し、適度な馬力抵抗によって良好な耕耘性能を維持することができる。
【0062】
(実施例1〜3及び他の実施例を含む断面視形状例)
図5の(イ)ないし(チ)に、本発明の耕耘爪の実施例1〜3を含む各実施例として、横刃部2の幅方向断面視における窪み部3の形状の例を示す。このうち(ロ)が実施例1(及び実施例2、3)である。図5の(イ)ないし(ニ)の窪み部3は、横刃部2下縁から所定の窪み下端高さ3Lhを開けて設けられる。
【0063】
(イ)ないし(ニ)は、下傾斜面31と上傾斜面33の傾斜角度が共通して上下対称形状であり、(ホ)ないし(チ)は、下傾斜面31が上傾斜面33より緩やかに傾斜して上方寄りで最深となった上下非対称形状である。
【0064】
(イ)及び(ロ)は、平面からなる下傾斜面31と、幅方向中央面32と、平面からなる上傾斜面33とが順に連なって窪み部3を構成する。ここで幅方向中央面32は、横刃部2の面に略平行な面からなり、幅方向中央面32にて窪み部3が最深となる。但し、(イ)は両傾斜面が共に傾斜角度90°の水平傾斜であり、(ロ)は共に(横刃部2の面に対する)傾斜角度45°の斜め傾斜である。これらの傾斜角度は刃面5の傾斜角度(実施例では20°程度)よりも倍以上或いは4倍以上大きいため、特に下傾斜面31及び上傾斜面33によって厚さが(横刃部2が厚く、硬化層4が薄くなる方向へ)急激に変化する。また、幅方向中央面32が窪み部3の全幅の大部分(8割長以上)を占める。(ロ)は図1、図2に示す実施例1と同様の断面形状である。
【0065】
(ハ)及び(ニ)は、互いに上下対称の下傾斜面31と上傾斜面33とが直接、幅方向中央で連なって窪み部3を構成する。傾斜角度が前記(イ)、(ロ)に比べて緩やかな緩斜面であり、この下傾斜面31と上傾斜面33の連接部分にて窪み部3が最深となる。但し、(ハ)は上下傾斜面31、33が傾斜角度10°程度の緩斜平面からなり、(ニ)は上下傾斜面31、33が連なって断面視中心角45°程度の緩円弧を形成した曲面からなる。傾斜角度は幅方向両端付近から中央に行くほど変化し、徐々に小さく(緩やかに)なる。
【0066】
(ホ)ないし(チ)は、下傾斜面31の傾斜角度がいずれも3〜6°であり、上傾斜面33の傾斜角度がそれぞれ10°〜90°及び緩円弧である。
【0067】
下傾斜面31の上端たる下傾斜面開始縁31Sは、横刃部2の刃面開始位置5Sと同じか或いはこれよりも高い位置にある。この位置関係に基づき、横刃部2には、刃面開始部5S付近で(その上下に比べて)厚くなる膨厚部23が形成される。これにより、刃面開始部5Sまで摩耗が進行したときの急激な強度変化や応力集中を防ぐことができる。
【0068】
その他、各部の具体的な構成及び製造方法に関する具体的な工程は、上述した実施例に限定されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
このようにして得られた各実施例の耕耘爪は、回転爪軸に固定され、回転爪軸を構成するロータリパイプの長手方向へ多数枚が並設される。そして、この回転爪軸が高速で回転しながらトラクタ等に牽引されることで、効率的な耕耘が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例1の耕耘爪の平面図及び正面図である。
【図2】図1のA−A幅方向断面図である。
【図3】本発明の実施例2の耕耘爪の平面図及び正面図である。
【図4】本発明の実施例3の耕耘爪の平面図及び正面図である。
【図5】本発明の各実施例の耕耘爪の横刃部の幅方向断面図である。
【図6】本発明の従来例の耕耘爪の横刃部の幅方向断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 縦刃部
11 固定手段
12 上方基端
2 横刃部
21 下縁周面
22 側方先端
23 膨厚部
3 窪み部
31 下傾斜面
31S 下傾斜面開始縁
31Sh 下傾斜面開始高さ
31θ 下傾斜角度
32 幅方向中央面
33 上傾斜面
33θ 上傾斜角度
34 浅窪み部
34U 上隅部
3L 窪み下端
3Lh 窪み下端高さ
3M 最大窪み深部
3W 窪み幅
4 硬化層
4U 硬化層上縁
5 刃面
5h 刃面高さ
5S 刃面開始縁
5θ 刃面傾斜角度
6 弯曲開始部
t1 横刃部2の窪み中央部厚さ
t2 硬化層4の窪み中央部厚さ
t3 横刃部2の下縁厚さ
t4 硬化層4の下縁厚さ
t5 横刃部2の下傾斜部厚さ
t6 硬化層4の下傾斜部厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転爪軸に固定される固定手段11を有して平板状のまま主として縦方向に延伸する縦刃部1と、この縦刃部1から弯曲開始部6を境として弯曲しながら主として横方向に延伸する横刃部2とが一体的に連なって構成される耕耘爪であって、横刃部2の一面に、横刃部2の延伸方向に沿って形成された窪み部3と、前記窪み部3から横刃部2の下縁までを覆うようにして横刃部2の延伸方向に沿って層設された、硬質合金からなる硬化層4と、を具備し、窪み部3は、最大窪み深部3Mから下方へ向って浅くなるように傾斜した、下傾斜面31を有することを特徴とする耕耘爪。
【請求項2】
窪み部3は、その幅3Wが一定であり、その先端が横刃部2の側方先端22まで至る請求項1記載の耕耘爪。
【請求項3】
横刃部2の下縁付近ないし窪み部3中央付近の幅方向位置において、硬化層4は横刃部2と略同厚または横刃部2よりも薄いものとした請求項1または2記載の耕耘爪。
【請求項4】
窪み部3及び硬化層4が、内弯曲面に形成されてなる請求項1、2、または3のいずれか記載の耕耘爪。
【請求項5】
窪み部3及び硬化層4が、外弯曲面に形成されてなる請求項1、2、または3のいずれか記載の耕耘爪。
【請求項6】
横刃部2が、その下縁に沿う下縁周面21を有する請求項1、2、3、4または5のいずれか記載の耕耘爪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−345828(P2006−345828A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−179506(P2005−179506)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000204239)株式会社 太陽 (21)
【Fターム(参考)】