説明

聴力評価装置

【課題】日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にする上、小型かつ安価で、持ち運びに便利な聴力評価装置を提供する。
【解決手段】(A)音信号記憶手段、(B)記憶情報出力手段、(C)音圧調整手段、(D)タイミング調整手段、及び(E)音再生手段を有する聴力評価装置であって、前記(A)音信号記憶手段が、非純音音声情報を記憶する機構を有すると共に、複数の純音を記憶する機構を有することを特徴とする聴力評価装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は聴力評価装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にする上、小型かつ安価で、持ち運びに便利な聴力評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の耳鼻科の聴覚異常や難聴検査においては、
(1)防音室において、音圧と周波数の異なる正弦波からなる純音を聞かせ、聴力を測定する純音オージオメーター
(2)外耳道圧を連続的に変化させ、鼓膜から跳ね返ってきた音の大きさを測定して、その際の鼓膜のコンプライアンスの変化(ティンパノメトリー)又は大きな音を聞かせるとアブミ骨筋が収縮することによる鼓膜のコンプライアンス減少(アブミ骨筋反射)を検査検出し、難聴の原因を調べるインピーダンスオージオメーター
(3)一般的ではないが、失語症などの脳の障害と回復状況を判定するため、特定の音や言葉を聞かせる語音オージオメーター
などが使用されている。さらに、
(4)生まれてまもない赤ちゃんを対象に、新生児聴覚スクリーニング検査が行われる。聴覚障害は目に見えず、2歳頃までは分からないことが多いため、発見が遅れがちであり、きこえの障害があることに気づかずにいると、言葉の発達が遅れたり、コミュニケーションが取りにくいなどの障害が生じる。したがって、新生児聴覚スクリーニング検査で、きこえの障害を早く見つけ、適切な指導を行い、赤ちゃんの能力を十分に発揮させ言葉の発達を促す。
新生児聴覚スクリーニング検査は、通常赤ちゃんが眠っている間に純音を聞かせてその反応を記録する方法により行われる。
【0003】
しかしながら、前記(1)の純音オージオメーターを使用する場合、聴力が測定できるものの、難聴のメカニズムは分からず、また、聞こえるかどうかの回答もあいまいになりやすい上、整備された防音室において測定する必要があり、現行のものは大掛かりで、日常的に難聴併発患者が多い高齢者をケアーする介護の現場などで検査しにくい。このため、生活の現場での測定には向かないなどの問題がある。
また、前記(2)のインピーダンスオージオメーターを使用する場合、音を伝える機構の状態(伝音難聴)は検査できるが、聴力は測定できないという問題がある。さらに、前記(3)の語音オージオメーターは、生活機能としての聴力の検査ではなく、主に脳の診断として用いられている。また、前記(4)は通常、産科医療機関で行われ、意味のない純音による検査では、必ずしも十分ではないという問題がある。
【0004】
ところで、聴力が落ちると、特に、電話によるコミュニケーションが難しくなり、今日のように携帯電話が一般化した社会では、電話ボックスからの通話ではなく、雑音のあるところからの通話となり、一層難聴者を困惑させている。
従来の聴力診断装置にあっては、聴力診断を受ける患者は、聴力診断装置の備えられた病院等に出向いて検査を受けなければならない。特に聴力低下の顕著な高齢者の場合、補聴器使用のために定期的な聴力検査が必要であるにもかかわらず、病院等に出向くことが大変なため放置されるケースが多く見受けられ、不自由な生活を強いられる結果となっていた。また、聴力低下の自覚がなかったり、聞こえが悪くなったと思っても面倒なのでそのまま放置するケースが多く、医師の診断を受ける時にはかなり悪化している場合が多い。
【0005】
このようなことから、電話機を用いて、難聴の診断情報を流し、補聴器の出力を確認するなどの技術が知られている(特許文献1)。
また、従来技術としてはこのような問題を解決するために、患者がわざわざ聴力検査装置の備わった病院等に出向くことなく、携帯電話等の移動体電話から希望する時に何処からでも聴力の検査・診断を受けることができるモバイル聴力診断システムも開示されている(特許文献2)。
このモバイル聴力診断システムは、携帯電話あるいはパーソナルコンピュータなどのモバイル機器と聴力検査装置とを携帯電話ネットワーク及びインターネット・ネットワークを介して接続し、モバイル機器から聴力検査を受けられるようにした技術であるが、聴力の測定に純音オージオメーターを使用しており、いずれも、標準化された音圧信号、周波数信号を送り、聴力を確認するものであり、しかも、幼児や痴呆傾向のある高齢者の被検者では正確な診断が難しくなる。その上、従来のような大掛かりな測定室での測定は正確性があるが、必要な生活の場での聴力をつかみにくいなどの問題がある。
もちろん、前述のように、耳鼻科では、検査は純音だけではなく、語音など自然音の検査も行われ、純音に加え、語音の検査が行える機能を有するオージオメーターは存在するが(特許文献3)、この技術はオージオメーターで、語音と純音の検査を兼用するにとどまり、検査音として、両方の音情報を使えるようにしたものである。また、検査の自動化や、被験者の聴力のトレーニングの目的で、被験者の応答速度を判断して、音情報の提示タイミングや、提示音圧を調整できるようにしたものである。
また、キーボード、スクリーンなどを持つ、コンピューターに支援されたオージオメーターで、周囲の雑音レベルを感知、マスキング音を調整し、また、グラフィカルな画像を併用していくなど、検査の自動化や、患者フレンドリーな検査を実現するため、システムも提案されている(特許文献4)。
従来の語音検査は、単音節の複数の語音を聞かせ、聞き取りにくい母音や子音を、画面上のマトリクスにより答えさせる、いわゆる、異聴力分析などに用いられていたが、(例えば、特許文献5)本発明のように、聴力の測定の信頼性を高めるために語音など、非純音情報と、純音を併用する機構にはなっていない。
また、純音と非純音を、関連付けて検査に用いる場合、純音、非純音の音圧を測定、平均音圧を調整することが必要であるが、これは、確立されており、一般的な技術を用いることができる(特許文献6)。
本発明では、前記、介護やリハビリ、あるいは、学校等の整備されない環境下で信頼性の高い聴力の判定を行うため、純音と非純音の音圧を合わせ、意味のある非純音、あるいは、その組み合わせを被験者に提示し、その反応から、実用的レベルの真の聴力を有しているか否かを即座に判断することを可能にしたものであり、従来の単なる物理的聴力測定のオージオメーターとは聴力の測定が定性的に異なるものである。
まず、被験者が聞き取れるギリギリの純音の音圧を調べ、被験者の生活背景や記憶と関連した一連の非純音を、この音圧で提示することにより、聞き取ろうとする意欲が誘引され、聴力低下のトレーニングを行うことができる。このためには、純音の音圧を変え、被験者が聴取できる音圧を知るとともに、非純音の平均音圧を評価し、被験者が聞き取れる純音の音圧と同じか、一定の関係音圧に調整し、被験者に提示することが必要となる。
また、聴力が低下すると、認知力の低下が起こりやすいことが、発明者らの臨床的経験で明らかになっているが、逆に、認知力の低下が、一連の非純音の聴力低下の原因となっていることも明らかである。
被験者の生活背景や、生育してきた生活環境、あるいは、聴力が弱くても、被験者の脳に刻み込まれている、物音、擬声語や擬態語、音楽、言葉、よく知られたことわざ、熟語など、非純音を聞かせ、これに応答してもらうと、脳の働きが活性化され、認知力の低下が抑制されることが考えられるが、認知力の低下した被験者では、通常の環境では、これらの応答に抵抗を示す例も多い。そこで、被験者の自尊心を傷つけない、聴力測定という名目で、これを行うことにより、認知力の低下の判定とともに、聴覚から脳神経に刺激を送り、認知力低下の程度の測定と当該測定を認知症の防止の治療指針とすることができる。
この目的では、被験者に聞かせる非純音は、機器に内蔵される記憶容量を超える大きなデーターが必要になる場合が考えられる。このため、機器の外部から脱着自由に取り付けられる、USBメモリー、フラッシュメモリー、CDなど、記憶容量の大きな媒体に記録された非純音や、あるいは、外部から有線で入力される非純音を用いる必要が出てくる場合がある。本発明は、今後必要とされるこのような需要に備えて開発された発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−490号公報
【特許文献2】特開2002−191581号公報
【特許文献3】特開平6−114038号公報
【特許文献4】特表2007−504924号公報
【特許文献5】特開平9−38069号公報
【特許文献6】特開平8−196524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが実務の中で、高齢の難聴患者は認知症など、精神機能の劣化が進みやすいことを実感し、早期の難聴の検出と予防の必要性を痛感し、鋭意検討していた。
本発明は、このような状況下になされたもので、日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にする上、小型かつ安価で、持ち運びに便利な聴力評価装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
多くの患者の観察から、これらの患者での、正確な診断のためには、意味のない純音による検査ではなく、幼児や高齢者など被検者の特性・趣向に合った、意味のある音声情報(以下、非純音音声情報という)を用いて、聞こえを評価する方が積極的な被検者の参加が得られ、その意味を回答させることにより、聞こえの状況が具体的に確認できることに着目した。例えば、視力検査において、「見えましたか、見えませんか」という、Yes、Noの回答では、被検者が予測して不正確な回答をする可能性があるが、択一的に正解を答えさせる方法では、予測回答ができないので正確な測定結果が得られる。
【0009】
このような機能を有する聴力評価装置を探索したが、これまで見出されておらず、さらに検討を重ね、実用的聴力は、全ての音が聞こえなくとも、いくつかのポイントの把握と、脳の働きからなっている可能性が大きく、従来の純音による測定ではなく、意味を有する音声情報を用いることに思い至った。また、現場型である必要があり、従来品に比べ、極めて小型・可搬型の高い簡便なモデルを試作、特定の意味を有す非純音音声情報を聞かせ、その反応と純音オージオメーター機能での評価から、患者の聴力に加えて、認知力の有無を含めて総合的に判定できることが分かり、難聴のスクリーニングが有効に行われることを確認できた。また、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を用い、純音に近似した音圧を有する非純音音声情報と純音を併用することにより、従来の診断の蓄積と比較することができる。
また、認知力低下の程度の測定と当該測定を認知症の防止の治療指針とするために、音信号記憶手段が、大容量の情報の音信号記憶手段又は特定の患者に対して、特定の情報を必要とすることがある。そのために、信号記憶手段に、外部から追加変更可能な大容量のメモリー機構又は外部メモリー機構を装脱着自在な構造にすることができる。
本発明は、この機構によって、純音のみの聴力測定によって、被験者の聴力を測定してその被験者の聞き取り可能な出力を決定して、その出力で、被験者に特有の認知症測定のための非純音音声情報を出力することによって、認知症の進行度を測定する試験を実施することができる聴力評価装置として使用することもできる。この認知症試験は聴力試験として試験するので、被験者の認知症に対する偏見も解消することができる。
本発明者らは、上記の知見に基づいて、本願発明を完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1](A)音信号記憶手段であって、非純音音声情報及び純音を記憶する機構、(B)前記(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)前記(B)手段からの音信号出力を複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段であって、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有するもの、(D)前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段、及び(E)前記(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段を有する聴力評価装置、
[2](A)非純音音声情報を記憶する音信号記憶手段、(G)発振回路により純音を供給する機構、(B)前記(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)前記(B)手段からの音信号出力、並びに、(G)からの純音を、複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段であって、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有するもの、(D)前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段、及び(E)前記(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段を有することを特徴とする聴力評価装置、
[3]非純音音声情報を記憶する機構が、一連の語音、文章を構成する人の音声、合成音、所定のメロディー、及び所定の擬声・擬態音の中から選ばれる少なくとも1種の非純音音声情報を内蔵する記憶素子である、上記[1]又は[2]項に記載の聴力評価装置、
[4](A)〜(D)、あるいは、(A)〜(D)並びに(G)手段を有する音信号出力部材と、(E)音再生手段を有する音再生部材とを有し、これらの部材間を有線又は無線で連結してなる、上記[1]〜[3]項のいずれかに記載の聴力評価装置、
[5]さらに、(F)手段として、(E)音再生手段で再生された情報に対して反応する手段を有する、上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の聴力評価装置、
[6](F)手段が、複数の画像の中から、キーボードにより所定の画像を選択し得る液晶表示機構を有する、上記[5]項に記載の聴力評価装置、
[7](A)音信号記憶手段が装脱着自在、あるいは、外部から追加装着可能である請求項1から上記[6]項に記載の聴力評価装置、及び
[8]認知力低下の程度の測定に用いる上記[1]〜[6]項のいずれかに記載の聴力評価装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にする上、小型かつ安価で、持ち運びに便利な聴力評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で用いた聴力評価装置の正面図である。
【図2】実施例1で用いた聴力評価装置の裏面図である。
【図3】実施例1で用いた聴力評価装置の右側側面図である。
【図4】実施例1で用いた聴力評価装置の左側側面図である。
【図5】実施例1で用いた聴力評価装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】実施例2で製作された聴力評価装置における各手段の関係についての説明図である。
【図7】実施例2で製作された聴力評価装置の被検者側部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の聴力評価装置は、高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を簡便で確実に把握し、日常的に使いやすい聴覚情報の理解力を簡易判定するための装置であって、(A)音信号記憶手段であって、非純音音声情報及び純音を記憶する機構、(B)前記(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)前記(B)手段からの音信号出力を複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段であって、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有するもの、(D)前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段、及び(E)前記(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段を有し、かつ前記(A)音信号記憶手段が、以下に示す非純音音声情報を記憶する機構を有すると共に、複数の純音を記憶する機構を有することを特徴とする。
【0014】
[(A)音信号記憶手段]
本発明の聴力評価装置(以下、本機器と略称することがある。)において、(A)手段として設けられている音信号記憶手段としては、例えば小型マイクロホーンなどによる音信号入力を電気信号に変え、デジタル化し、これを本機器に内蔵する記憶素子に記憶させてもよいし、あるいは、予め上記音信号入力をマイクロSDやUSBメモリーなど、装脱着自在な外部記憶素子に記憶させ、この記憶素子を本機器に装着してもよい。
当該(A)音信号記憶手段は、下記の非純音音声情報を記憶する機構、及び複数の純音を記憶する機構を有している。
【0015】
(非純音音声情報を記憶する機構)
本発明において、前記(A)信号記憶手段における非純音音声情報を記憶する機構とは、一連の語音、文章を構成する人の音声、合成音、所定のメロディー、及び所定の擬声・擬態音の中から選ばれる少なくとも1種の非純音音声情報を記憶する機構を指す。
前記例示の非純音音声情報による聴力検査は、意味をもたない純音による検査とは異なり、例えば幼児や高齢者など、被検者の特性・趣向に合った、意味のある音声情報を用いる検査方法であって、積極的な被検者の参加が得られ、その意味を回答させることにより、聞こえの状況を具体的に確認することができる。例えば、視力検査において、「見えましたか、見えませんか」という、Yes、Noの回答では、被検者が予測して不正確な回答をする可能性があるが、択一的に正解を答えさせる方法では、予測回答ができないので正確な測定結果が得られる。
本発明の聴力評価装置では、単に人の聴覚だけから構成されるものではなく、聴覚から届いた信号の脳での処理能力など、脳神経の働きと関連があるため、正確な測定結果が得られる。本発明の前記非純音音声情報として、例えば早口言葉、なぞなぞ、童謡、犬、猫、小鳥、牛などの擬声音や触感を表現するヌルヌル、ネバネバなどの擬態音、又は視覚を表現するピカピカ、ギラギラなどの擬態音、日常の事物の発する音、患者の記憶と呼応する音信号、楽器などの発するメロディーなどを用いることができる。
【0016】
非純音音声情報を発生する機器として、語音オージオメーターが知られているが、これまでの語音オージオメーターは、その非純音音声情報が極めて簡単な情報であって、本発明における非純音音声情報のように複雑なものではなく、したがって、本発明の聴力評価装置のような用途には、用いられておらず、主として脳の診断に用いられている。
本発明においては、非純音音声情報を記憶する機構としては、被検者一人一人によって異なる非純音音声情報が必要となることから、一連の語音、文章を構成する人の音声、合成音、所定のメロディー、及び所定の擬声・擬態音の中から選ばれる少なくとも1種の非純音音声情報を内蔵する装脱着自在な記憶素子の中から、所定の記憶素子を選び、本機器に装着してなるものが好ましい。該記憶素子としては、前述で説明したように、マイクロSDやUSBメモリーなどを挙げることができる。
【0017】
(複数の純音を記憶する機構)
本発明の聴力評価装置における(A)音信号記憶手段は、前述した非純音音声情報を記憶する機構を有すると共に、複数の純音を記憶する機構を有する。
前記複数の純音を記憶する機構とは、音圧と周波数の異なる正弦波からなる純音を複数記憶する機構を指す。なお、この複数の純音は、本機器に内蔵された、発振回路(G)を用いて、提供してもよいし、前述した記憶素子に内蔵させてもよい。
前記複数の純音を記憶する機構を有することにより、従来の診断の蓄積と比較できることになる。
本発明においては、非純音音声情報を記憶する機構と、複数の純音を記憶する機構を併用することにより、被検者の聴力の評価に加え、認知力の有無の判定が可能となる。
認知症の患者の認知症進行予防、あるいは、聴力低下予防のトレーニング目的で、CDなどより大きな記憶媒体に記憶された非純音音声情報を外部入力して用いることができる。
【0018】
[(B)〜(D)手段]
本発明の聴力評価装置においては、(B)手段として、前述した(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)手段として、前記(B)手段からの音信号出力を複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段、及び(D)手段として、前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段が設けられる。
さらに、前記(B)手段で出力された音信号を、音に再生するための、後述の(E)音再生手段が設けられる。
【0019】
前記(C)音圧調整手段としては、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有することが望ましい。非純音音声情報の音圧は、複数の音圧の集合体であるので、該音圧を所定の水準に調整して、音を所定の高さにするには、非純音音声情報の平均音圧を測定算出し、該平均音圧を所定の水準に調整する方法を用いるのが有利である。
【0020】
[(E)音再生手段]
本発明の聴力評価装置においては、(E)手段として、前述した(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段が設けられる。
この音再生手段としては、小型スピーカー(平板振動子を含む)、イヤホーン、ヘッドホーンなどを挙げることができる。
【0021】
本発明においては、以上説明した、非純音音声情報を記憶する機構を有すると共に、複数の純音を記憶する機構を有する(A)音信号記憶手段、(B)記憶情報出力手段、(C)音圧調整手段、(D)タイミング調整手段及び(E)音再生手段の全てを、一つのコンパクトな装置に内蔵する聴力評価装置を用い、検者と被検者とが対面して、聴力及び認知症などの進行度を検査することができる。
例えば、当該聴力評価装置を用い、スピーカーなどの(E)音再生手段により、まず、複数の純音を発生させて聴力検査を行い、次いで被検者の聴力に合わせたレベルの音圧で、非純音(設問など)をスピーカーなどの(E)音再生手段で被検者に聞かせ、被検者はその反応(答え)を、自分の言葉でもって検者に伝える。検者は、被検者の答え及び表情によって、認知症などの進行度を判断する。
被検者が、耳は聴こえるが、言葉を使えない場合には、当該聴力評価装置に内蔵した液晶機構を有する部材の液晶表示面における複数の画像の中から、答えを選択することにより、検者はその答えと被検者の表情によって、認知症などの進行度を判断する。
【0022】
本発明の聴力評価装置においては、前記(A)〜(D)手段を有する音信号出力部材と、(E)音再生手段を有する音再生部材とを有し、これらの部材間を有線又は無線で連結してなるものが好ましい。無線としては、例えば携帯電話のネットワークなどを利用することができる。
さらに、(F)手段として、前記(E)音再生手段で再生された情報に対して反応する手段(設問に対する回答手段など)を設けることができる。この再生情報に対して反応する手段を有する部材と、親機との間は、有線又は無線で連結することができる。前記(F)手段としては、録音記録機構を設けてもよいし、言葉が使えない被検者に対しては、複数の画像の中から、キーボードにより、所定の画像を選択し得る液晶表示機構を設けてもよい。
前記録音記憶機構は、例えば前記の音再生部材に、内蔵させることができる。また、前記液晶表示機構を有する部材と、親機との間は、有線又は無線で連結することが好ましい。
このように、音信号出力部材と、録音記憶機構を内蔵することができる音再生部材との間、又は親機と、前記液晶表示機構を有する部材との間を、有線又は無線で連結することにより、聴力診断を受けようとする高齢者等の利用者が聴力診断装置を備えた病院あるいは補聴器販売店までわざわざ赴くことなく、入院、入所、さらには在宅と何時でも何処でも聴力診断を受けることができる。
被検者は、前記音再生手段(小型スピーカーやイヤホーンなど)を有する音再生部材からの情報(設問など)に対する反応(回答など)を、録音記憶機構を有する部材を介して行ってもよいし、言葉が使えない場合は、液晶表示機構を有する部材の液晶表示面の複数の画像の中から、指示に従ってキーボードにより、所定の画像を選択することにより、行ってもよい。
このようなシステムを採用することにより、被検者と離れた場所で結果を判定することができる。
【0023】
本発明の聴力評価装置は、下記の効果を奏する。
(1)音声情報が何であるか答えさせることにより、本当に聞こえているかどうか判定できる。
(2)聞こえていても反応しない被検者に対し、被検者の記憶や思い出など、脳神経に働きかける情報を与えることにより、積極的に聴覚を使うよう働きかけることができる。特に、被検者が愛好する音声信号を出力することにより、これが増幅できる。
(3)聞こえる部分、聞こえない部分が混在する場合、記憶をつなぎ合わせる力が働き、音声信号を理解するための脳神経が活動し、聴力や認知力のトレーニングが行える。
本発明の聴力評価装置は、このような効果を発揮することから、日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にすることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によって、なんら限定されるものでない。
実施例1
非純音音声情報を記憶する機構を有すると共に、複数の純音を記憶する機構を有する (A)音信号記憶手段、(B)記憶情報出力手段、(C)音圧調整手段、(D)タイミング調整手段及び(E)音再生手段の全てを、一つのコンパクトな装置に内蔵する聴力評価装置を用い、検者と被検者とが対面して、聴力及び認知症などの進行度を検査した。
聴力評価装置は、前記の各機構を有する、下記の図1〜図4で示される装置を用いた。
本実施例で用いた聴力評価装置の正面図を図1に、裏面図を図2に、右側側面図を図3に、左側側面図を図4に示す。各図において、符号1は電源スイッチ、2はアダプター電源差込口(外部入力時使用)、3は純音音圧切替えスイッチ(35dB、45dB切替)、4はモード選択スイッチ(純音周波数、語音、外部入力切替スイッチ)、5は表示ランプ(35dB、45dBの表示)、6は表示ランプ(1000Hz、4000Hzの表示)、7は語音選択スイッチ(語音の種類を選ぶ)、8は液晶表示部(選んだ語音の番号などを示す液晶表示)、9は語音提示スイッチ(選んだ語音を出力させる)、10は純音提示スイッチ(スイッチを押すと純音が出力され、スイッチを押し続けると連続音になる)、11は語音音量スイッチ(語音の大きさを調整する)、12は外部入力端子(必要に応じ、外部からステレオミニプラグなどで語音入力する端子)、13はスピーカー(純音や語音の出力)、14は電池ボックス(電池電源)、15はSD SLOT(フラッシュメモリーディスク差込口)である。
また、図5に、本実施例で用いた聴力評価装置の動作を説明するためのフローチャートを示す。この図5における符号1、3〜13、及び15は前記と同じである。SD LSI16はフラッシュメモリーディスクで複数の純音や語音などを記憶した素子、CPU17は中央演算素子である。
なお、本発明においては、非純音と語音は同義である。
図1〜図4に示す聴力評価装置を用い、図5に示すフローチャートに基づき、被検者に対する純音による聴力検査及び認知症などの進行度の検査を、下記のようにして行った。
SD SLOT15に差込まれたSD LSI16により、複数の純音及び語音を記憶する機構を有する聴力評価装置を用い、まず、純音音圧切替えスイッチ3により、35dB又は45dBの純音の音圧を選択し、次いで1000Hz又は4000Hzの発振回路、さらに増幅回路を経たのち、純音提示スイッチ10により、スピーカー13から純音を間欠的又は連続的に発生させ、被検者の聴力検査を行う。
次に、語音選択スイッチ7により語音の種類を選択し、該語音をフラッシュメモリーからなる音声LSIを介し、さらに、既に提示した純音の音圧レベルと一定の関係の音圧で提示する目的でフィルタを経たのち、増幅回路により、被検者の聴力に合わせたレベルの音圧に調整し、次いで語音提示スイッチ9により、スピーカー13から語音を発生させ、被検者はこの語音による設問などに対する答えを、自分の言葉で検者に伝える。検者は、被検者の答え及び表情によって、認知症などの進行を判断する。
被検者が、耳は聴こえるが、言葉を使えない場合には、当該聴力評価装置に内蔵した液晶機構を有する部材の液晶表示部8における複数の画像の中から、答えを選択することにより、検者はその答えと被検者の表情によって、認知症などの進行度を判断する。
【0025】
実施例2
聴力評価装置として、下記の(A)〜(F)手段を有する装置を製作した。なお、装置の大きさは、A5ノートサイズよりも小さくした。
(1)(A)音信号記憶手段
小型マイクロホーンによる音信号入力を電気信号に変える音信号記憶手段であり、下記の非純音音声情報を記憶する機構、すなわち、一連の語音、文章を構成する人の音声、合成音、所定のメロディー、及び所定の擬声・擬態音の中から選ばれる少なくとも1種の非純音音声情報を記憶する機構と、複数の純音を記憶する機構を有する。
本実施例では、前記の非純音音声情報及び複数の純音を内蔵する装脱着自在な記憶素子(USBメモリー)を聴力評価装置に装着した。
(2)(B)〜(D)手段
(B)手段として、前記(1)の(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)手段として、前記(B)手段からの音信号出力を複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段、及び(D)手段として、前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段を設けた。
なお、前記(C)音圧調整手段は、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構とを有する。
(3)(E)音再生手段
(E)音再生手段は、前記(2)の(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段であり、本実施例では小型スピーカーを用いた。
また、前記(A)〜(D)手段を有する音信号出力部材と、前記(E)音再生手段を有する音再生部材との間を無線で連結した。
(4)(F)手段
(F)手段として、前記(E)音再生手段で再生された情報に対して反応する手段(設問に対する回答手段)、本実施例では、録音記憶機構及び言葉が使えない被検者に対しては、複数の画像の中から、キーボードにより、所定の画像を選択し得る液晶表示機構を設けた。なお、前記録音記憶機構は、前記の音再生部材に内蔵した。また、前記液晶表示機構を有する部材と、親機との間は無線で連結した。
【0026】
このようにして製作された聴力評価装置における各手段の関係についての説明図を図6に、該聴力評価装置の被検者側部材の斜視図を図7に示す。
図6及び図7において、符号21は親機、22は記憶素子(USBメモリーなど)、23は小型スピーカー、24は液晶表示面、25はキーボード、26は録音記憶機構内蔵部、30は音再生部材、40は液晶表示機構を有する部材を示す。
図7における音再生部材30は、被検者に接するところは折りたたみ携帯のような大きさ、形態で、携帯の液晶部分が、スピーカー部分23となっている構造を有している。親機21から情報(設問)が入ると、被検者は、スピーカー23を耳に当て、聞こえた設問の答えを、録音記憶機構内蔵部26を有する音再生部材30を介して行ってもよく、被検者が言葉を使えない場合、液晶表示機構を有する部材40の液晶表示面24の複数の画像の中から、指示に従ってキーボード25により、所定の画像を選択することで、実用的な聴力を、被検者から離れた場所で診断することができる。
本実施例においては、非純音音声情報を記憶する機構である(A)音信号記憶手段、本体内に具備された発振回路により純音を供給する機構(G)、記憶情報出力手段(B)、音圧調整手段(C)、タイミング調整手段(D)及び音再生手段(E)の全てを、一つのコンパクトな装置に内蔵し、かつ、必要に応じ、大容量の非純音を用いるための、外部入力端子を有する聴力評価装置を用い認知力に問題が疑われる、高齢者の認知力評価を行うことができる。
まず、被験者が聴取できた純音の音圧を確認した。次に、電車や車、飛行機など、乗り物の音、各種童謡の一部、短いなぞなぞ、被験者の性別、年齢、住まいなどを聞く短い質問などを、これより少し高い音圧で被験者に提示し、認知力の確認を行った。非純音の提示は、本機器の外部入力端子を用い、ここから入力した。
本実施例では、(A)音信号記憶手段に記憶された非純音の情報を、外部入端子から入力された情報で書き換えができる構造とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の聴力評価装置は、日常生活や介護の中で、聴力低下を放置することにより、コミュニケーション障害が生じ、認知症が進行して要介護状態に至る高齢者や幼児、患者らの被検者の実用的聴力を、簡便で確実に把握し、聴力低下とこれに気づかないことによる事故や認知力の低下を予防するための早期対応を可能にする上、小型かつ安価で、持ち運びに便利であるなどの特徴を有している。
【符号の説明】
【0028】
1 電源スイッチ
2 アダプター電源差込口
3 純音音圧切替えスイッチ
4 モード選択スイッチ
5、6 表示ランプ
7 語音選択スイッチ
8 液晶表示部
9 語音提示スイッチ
10 純音提示スイッチ
11 語音音量スイッチ
12 外部入力端子
13 スピーカー
14 電池ボックス
15 SD SLOT
16 SD LSI
17 CPU
21 親機
22 記憶素子(USBメモリーなど)
23 小型スピーカー
24 液晶表示面
25 キーボード
26 録音記憶機構内蔵部
30 音再生部材
40 液晶表示機構を有する部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)音信号記憶手段であって、非純音音声情報及び純音を記憶する機構、(B)前記(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)前記(B)手段からの音信号出力を複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段であって、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有するもの、(D)前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段、及び(E)前記(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段を有する聴力評価装置。
【請求項2】
(A)非純音音声情報を記憶する音信号記憶手段、(G)発振回路により純音を供給する機構、(B)前記(A)手段からの記憶情報を音信号で出力するための記憶情報出力手段、(C)前記(B)手段からの音信号出力、並びに、(G)からの純音を、複数の設定音圧に調整するための音圧調整手段であって、非純音音声情報の平均音圧を測定算出する機構と、その平均音圧を所定の水準に調整する機構を有するもの、(D)前記音信号出力のタイミングを調整するためのタイミング調整手段、及び(E)前記(B)手段で出力された音信号を音に再生するための音再生手段を有することを特徴とする聴力評価装置。
【請求項3】
非純音音声情報を記憶する機構が、一連の語音、文章を構成する人の音声、合成音、所定のメロディー、及び所定の擬声・擬態音の中から選ばれる少なくとも1種の非純音音声情報を内蔵する記憶素子である、請求項1又は2に記載の聴力評価装置。
【請求項4】
(A)〜(D)、あるいは、(A)〜(D)並びに(G)手段を有する音信号出力部材と、(E)音再生手段を有する音再生部材とを有し、これらの部材間を有線又は無線で連結してなる、請求項1〜3のいずれかに記載の聴力評価装置。
【請求項5】
さらに、(F)手段として、(E)音再生手段で再生された情報に対して反応する手段を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の聴力評価装置。
【請求項6】
(F)手段が、複数の画像の中から、キーボードにより所定の画像を選択し得る液晶表示機構を有する、請求項5に記載の聴力評価装置。
【請求項7】
(A)音信号記憶手段が装脱着自在、あるいは、外部から追加装着可能である請求項1から請求項6に記載の聴力評価装置。
【請求項8】
認知力低下の程度の測定に用いる請求項1〜6のいずれかに記載の聴力評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−36640(P2011−36640A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25667(P2010−25667)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【特許番号】特許第4579334号(P4579334)
【特許公報発行日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(509203533)ジェービーエレクトロニクス株式会社 (2)
【出願人】(300007501)双葉通信機株式会社 (2)
【Fターム(参考)】