説明

肉鶏用養鶏飼料、該飼料を用いた養鶏方法および鶏肉の品質向上方法

【課題】肉鶏(食肉とするための鶏)の飼料においては、油脂の含有率が高いため、油脂の品質が飼料効率や生産される鶏肉の品質に影響しかねない点に着目し、肉鶏の飼料効率が良く、しかも良好な品質の鶏肉が得られる肉鶏用養鶏飼料を提供し、ひいては消費者のニーズに即した高品質な鶏肉の生産技術を確立することを課題とする。
【解決手段】油脂が添加されてなる養鶏飼料において、油脂が未使用の植物性油である肉鶏用養鶏飼料、さらに米糠抽出物が添加されてなる肉鶏用養鶏飼料、ならびに該肉鶏用養鶏飼料を用いて肉鶏を飼育する養鶏方法および鶏肉の品質向上方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉鶏の養鶏に関し、詳しくは肉鶏用養鶏飼料、該飼料を用いた養鶏方法および鶏肉の品質向上方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、家禽の飼料に油脂を添加することが行われており、該油脂としては、回収油とも呼ばれる飲食店や食品工場から回収された使用済みの食用油(廃食用油)が用いられている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−348621(請求項3)
【非特許文献1】新潟県上越市ホームページ(環境・ごみ 「使用済みの天ぷら油を回収します(廃食用油再生化事業)」)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
廃食用油は安価なものの品質が高いとはいえず、安全性の面でも疑問がある。特に肉鶏(食肉とするための鶏)として代表的なブロイラーの飼料においては、油脂の含有率が通常4〜5%と他の家畜用飼料等に比べて高いため、油脂の品質が飼料効率や、生産される鶏肉の安全性も含めた品質に影響しかねない。本発明者らの研究によれば、廃食用油は酸化の程度が進んでいるため、これを食した鶏はストレスを感じるためか、健康状態に悪影響を与え、免疫力の低下すら引き起こしかねないこともわかってきた。
【0004】
そこで本発明は、肉鶏の飼料効率が良く、しかも良好な品質の鶏肉が得られる肉鶏用養鶏飼料を提供し、ひいては消費者のニーズに即した高品質な鶏肉の生産技術を確立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究の結果、肉鶏用養鶏飼料に添加する油脂として廃食用油に代えて品質が良く安全性にも問題のない油脂、具体的には未使用の植物性油を使用することにより、飼料効率が向上するとともに良好な肉質が得られることを見出し、さらに米糠抽出物を配合することで肉質がより向上することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち本発明は、
[1] 油脂が添加されてなる養鶏飼料において、油脂が未使用の植物性油である肉鶏用養鶏飼料、
[2] さらに米糠抽出物が添加されてなる請求項1に記載の肉鶏用養鶏飼料、
[3] 前項[1]または[2]に記載の肉鶏用養鶏飼料を用いて肉鶏を飼育する養鶏方法、および
[4] 前項[1]または[2]に記載の肉鶏用養鶏飼料を用いて肉鶏を飼育する鶏肉の品質向上方法
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、肉鶏の養鶏における増体性や飼料効率が向上し、鶏肉の生産効率が向上する効果が得られる。これは、添加する油脂を未使用の植物性油とすることにより、鶏の酸化ストレスが軽減されるためと考えられ、それにより免疫力も向上していると思われる。
また、本発明によれば良好な品質の鶏肉が得られ、未使用の植物性油に加えて米糠抽出物を添加する好ましい態様においては、鶏肉の品質が特に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の肉鶏用養鶏飼料(以下、「本発明の飼料」ということがある。)は、油脂が添加されてなる養鶏飼料である。油脂が添加される基礎飼料としては、特に限定されるものではなく、養鶏用基礎飼料として公知のものが使用でき、市販品を使用してもよい。通常は、穀物(トウモロコシ等)を主原料とし、各種の副原料を配合した配合飼料が基礎飼料として使用される。
【0009】
本発明の飼料においては、添加される油脂が未使用の植物性油であることが重要である。「未使用の植物性油」のうちの「植物性」とは、文字通り植物由来であることを意味し、植物の実や種から絞り取られた各種の植物性の油、例えば大豆油、ナタネ油、コーン油、ごま油、米ヌカ油、米ハイガ油等が公知である。動物性でなく植物性の油を用いる理由は、動物性の油は固形脂であり、飼料を調製する際に均一混合し辛いという不都合があるためである。また、動物性の油はコレステロール含量が高いという問題もある。
【0010】
「未使用の植物性油」のうちの「未使用」とは、新品の油であることを意味し、天ぷら油等として使用された後の廃食用油のようにいったん使用された回収油に対立する概念である。廃食用油等の回収油では油の酸化がすすんでおり、これを添加剤として鶏に与えた場合、鶏の健康状態に悪影響を及ぼす。すなわち、酸化のすすんだ油を継続的に与えられた鶏はストレスを感じるものと考えられ、このことは増体(体重の増加)性において好ましくなく、また、免疫力が低下して病気に感染しやすくなるおそれもあると考えられる。さらに、廃食用油を使用することは、過去の使用や回収の履歴による安全性の面で疑問がある。本発明ではそのような問題を解決するために、飼料に添加する油脂として未使用の植物性油を使用するのである。
【0011】
したがって、本発明の飼料においては、廃食用油等の回収油が含添加されていないことが好ましく、また、回収油、未使用の油を問わず動物性の油が添加されていないことが好ましい。魚油については、魚油は非常に安定性が悪いこともあり、添加されていないことが好ましい。
【0012】
未使用の植物性油としては、新品の植物油であれば特に限定されるものではなく、食用油として公知のものから1種もしくは2種以上を混合して使用できるが、例えば、大豆油、ナタネ油が好ましく、大豆油、ナタネ油、米ヌカ油、米ハイガ油が好ましく、それらの2種以上を混合した混合油も好ましい。
【0013】
未使用の植物性油の添加量としては、少なすぎると必要な栄養分が確保できないおそれがあり、逆に多すぎると栄養バランスが崩れるおそれがあるが、成長の時期に応じた栄養分の確保とバランスを考慮して適宜設定することができる。具体的な添加量としては、前期飼料においては飼料全体の質量に対して2〜4質量%が好ましく、約3%が特に好ましい。一方、後期飼料においては飼料全体の質量に対して4〜6質量%が好ましく、約5%が特に好ましい。
【0014】
さらに、本発明の飼料には、米糠抽出物が添加されていることが好ましい。なお、米糠抽出物中には油脂に該当する成分も含まれうるが、説明の都合上、本発明では米糠抽出物を上記未使用の植物性油とは別のものとして扱う。
【0015】
本発明の飼料に米糠抽出物を添加することにより、上記の未使用の植物性油を添加する効果を何ら阻害することなく、鶏肉の香り、味、多汁性(ジューシーさ)といった品質の向上に効果があることを本発明者らは見出した。
【0016】
本発明における米糠抽出物としては、米糠抽出物による油溶性液体が好ましく、具体的には、米糠から米油を精製する過程での脱臭工程において副生する米油脱臭留出物あるいは該米油脱臭留出物をケン化処理したものが好ましい。米糠抽出物としては、抽出後に合成処理やバイオ処理が施されていないものが好ましい。なお、米糠抽出物としては、米糠以外に米胚芽からの抽出物が含まれていてもよい。
【0017】
米糠抽出物には、植物ステロールが含まれていることが好ましく、さらにビタミンE群(トコフェロール、トコトリエノール等)、スクワレン等が含まれていることが好ましい。それらの好ましい含有量としては、米糠抽出物全体に対して植物ステロールが5〜20 質量%程度、トコフェロールが1〜5質量%程度、トコトリエノールが1〜5質量%程度、スクワレンが1〜10質量%程度である。
【0018】
本発明に使用される米糠抽出物の好適な具体例としては、築野食品工業株式会社製「ライストリエノール」が挙げられ、このものは上記米油脱臭留出物を主成分とする。
【0019】
米糠抽出物の添加量としては、本発明の飼料全体の質量に対して0.3〜1.0質量% が好ましく、特に好ましくは約0.5質量%である。0.3質量%より少ないと、米糠抽出物を添加することによる効果が得られ難い傾向にあるため好ましくなく、一方、1.0質量%を超えると栄養バランスが崩れる傾向にあるため好ましくない。
【0020】
本発明の飼料を与える対象となる鶏としては、肉鶏、すなわち食肉である鶏肉の生産を目的として養鶏される鶏であれば特に限定されないが、本発明によるメリットが大きいのは、効率的な鶏肉の生産を目的とした、生後100日以下、好ましくは60日以下程度で養鶏を終了して解体されるのに適した種類であり、具体的にはブロイラーが好ましい。
【0021】
本発明の飼料を用いて肉鶏を飼育すると、増体性が向上し、さらには飼料効率の向上が期待できる。同じ増体を得るのに必要な飼料の量が少ないほど飼料効率は良い。そのような、本発明の飼料を用いて肉鶏を飼育する養鶏方法もまた、本発明のひとつである。本発明の養鶏方法においては、飼料として本発明の飼料を与えること以外は、従来公知の養鶏方法における種々の方法を適用可能である。
【0022】
また、本発明の飼料を用いて肉鶏を飼育すると、生産物として得られる鶏肉の品質の向上が期待できる。そのような、本発明の飼料を用いて肉鶏を飼育する鶏肉の品質向上方法もまた、本発明のひとつである。特に、本発明の飼料として、上記の米糠抽出物が添加された試料を用いることが、本発明の鶏肉の品質向上方法として好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[実施例1、2および比較例1]
和歌山県内で5月下旬から7月上旬にかけての50日間(0〜49日齢)にわたって食肉用ブロイラー(チャンキー種)の養鶏を行うにあたり、下記表1に示す組成の基礎飼料97.0質量部に対し、油脂として実施例1では未使用の植物性油3.0質量部を、実施例2では未使用の植物性油2.5質量部と米糠抽出物0.5質量部とを、比較例1では廃食用油(植物性油)3.0質量部をそれぞれ添加して、前期飼料(0〜21日齢用)を調製した。同様に、下記表1に示す組成の基礎飼料95.0質量部に対し、実施例1では未使用の植物性油5.0質量部を、実施例2では未使用の植物性油4.5質量部と米糠抽出物0.5質量部とを、比較例1では廃食用油(植物性油)5.0質量部をそれぞれ添加して、後期飼料(22〜49日齢用)を調製した。なお、実施例1および2における未使用の植物性油としては、いずれも大豆油とナタネ油とを2:1の質量比で併用して用い、該未使用の植物性油と比較例1における廃食用油の脂肪酸組成は合わせた。また、実施例2における米糠抽出物としては築野食品工業株式会社製「ライストリエノール」を用いた。
【0024】
【表1】

【0025】
上記飼料を各試験区に分けて(実施例1を試験区1、実施例2を試験区2、比較例1を対照区とする)用いて、1試験区あたり200羽ずつ(オス100羽、メス100羽)、ウインドレス鶏舎にて飼養した。飼育密度は50羽/坪とし、飼料、飲水ともに自由摂取とした。試験解体は50日齢に実施した。
なお、確認の便宜のため、下記表2に各試験区の飼料における油脂添加濃度を示す。
【0026】
【表2】

【0027】
49日齢における生体重の測定結果を下記表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
実施例1(試験区1)および実施例2(試験区2)における生体重が比較例1(対照区)における生体重より有意に高い値となっており、本発明により増体性が向上していることがわかる。
また、飼料要求率の結果を下記表4に示す。飼料要求率は(飼料消費量)÷(増体重)で算出され「体重を1kg増やすのに、何kgの飼料が必要か」ということを表わす数値であり、値が低いほど飼料効率が良いことを示す。
【0030】
【表4】

【0031】
0〜49日齢の飼料要求率は試験区1および試験区2が対照区よりも低く、特に試験後半(22日齢以降)において、試験区1および試験区2の飼料要求率が低くなっており、本発明により飼料効率が向上したことがわかる。
また、性能指数(プロダクションスコア)の算出結果を下記表5に示す。プロダクションスコアとは、次の式で算出される、生産性を総合的に示す数値である。
性能指数 =(増体重(kg)×育成率(%)×100)/(飼料要求率×出荷日齢)
【0032】
【表5】

【0033】
試験区1および試験区2はほぼ同じで、対照区よりも高い値となっており、本発明による生産性の向上が確認された。
さらに、鶏肉の品質試験として、官能評価検査を行った。官能評価検査には上記試験解体後−30℃で60日間冷凍保存したむね肉(浅胸筋)を4℃で24時間解凍したものを使用し、3%食塩水に1時間浸した後ホットプレートで焼いたものを試料とした。一般の消費者パネル45人(男性18人、女性27人)による試食後、鶏肉の香り、味、軟らかさ、多汁性(ジューシーさ)の4項目について、それぞれ6段階(非常に悪い:1点、悪い:2点、やや悪い:3点、やや良い:4点、良い:5点、非常に良い:6点)で評価してもらった。評価点を集計した結果を下記表6に示す。
【0034】
【表6】

【0035】
試験区1の評価点は、香り、味、多汁性の3項目については対照区と同じ水準であったが、軟らかさが対照区より高く、本発明の実施例1では軟らかさにおいて肉質の向上が見られた。試験区2の評価点は、4項目の全てにおいて評価点が高く、本発明の実施例2では肉質が顕著に向上していることがわかる。
なお、実施例2において用いた米糠抽出物「ライストリエノール」中の各種成分の含有率を下記表7に示す。
【0036】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂が添加されてなる養鶏飼料において、油脂が未使用の植物性油である肉鶏用養鶏飼料。
【請求項2】
さらに米糠抽出物が添加されてなる請求項1に記載の肉鶏用養鶏飼料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の肉鶏用養鶏飼料を用いて肉鶏を飼育する養鶏方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の肉鶏用養鶏飼料を用いて肉鶏を飼育する鶏肉の品質向上方法。