説明

肌弾力性改善剤

【課題】皮膚のシワ発生抑制に関与する肌弾力性改善剤を提供する。
【解決手段】肌弾力性改善剤に、平均分子量が5,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩を含有せしめることにより、皮膚のシワ発生抑制に関与する肌弾力性改善剤が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子ヒアルロン酸を有効成分として含有する肌弾力性改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は、相手の年齢を判断する際、目元や口元のシワの量が大きな判断基準となることが知られている。皮膚にシワが多いと、高齢に判断される傾向があり、若々しい外見を保つために、シワの発生を抑えることは非常に重要である。
【0003】
シワが出来るメカニズムは、充分に解明されていないが、紫外線や乾燥、加齢などが要因となり、肌弾力性が低下すると、皮膚が折りたたまれた状態のままもとに戻らなくなりシワが発生すると考えられている。このため、シワ発生を抑制するには、肌弾力性を改善することが重要である。
【0004】
肌質を改善する方法として、ヒアルロン酸を含有する化粧料を使用することによる保湿力の向上効果が知られている。特に、低分子ヒアルロン酸は経皮吸収性に優れており、低分子ヒアルロン酸を皮膚に塗布した場合、低分子ヒアルロン酸が皮膚表面に留まるのみならず、皮膚組織内部に浸透し、保湿効果を維持できることが知られている(特許文献1)。しかしながら、ヒアルロン酸、特に低分子のヒアルロン酸が肌弾力性を改善させる効果は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−297460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、皮膚のシワ発生抑制に関与する肌弾力性改善剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の低分子ヒアルロン酸を有効成分として含有させることで、意外にも、皮膚のシワ発生抑制に関与する肌弾力性改善剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
平均分子量が1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する、肌弾力性改善剤、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の低分子ヒアルロン酸の新たな効果を見出すことで、ヒアルロン酸を含有する化粧品の更なる需要の拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に規定しない限り、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0011】
1.肌弾力性改善剤
本発明の肌弾力性改善剤は平均分子量が1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
1.1.ヒアルロン酸および/またはその塩
「ヒアルロン酸」とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。また、「ヒアルロン酸の塩」としては、特に限定されないが、食品または薬学上許容しうる塩であることが好ましく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0013】
ヒアルロン酸および/またはその塩は、動物等の生体組織(例えば鶏冠、さい帯、皮膚、関節液など)から抽出されたものでもよく、または、微生物もしくは動物細胞を培養して得られたもの(例えばストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法)、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。
【0014】
1.2.分子量
本発明の肌弾力性改善剤の有効成分として含有するヒアルロン酸またはその塩の平均分子量は、1,000〜20,000であり、3,000〜15,000であるのが好ましく、5,000〜10,000であるのがより好ましい。ヒアルロン酸またはその塩の平均分子量が前記値より大きいと、当該ヒアルロン酸および/またはその塩が皮膚組織内部に浸透しないため、肌弾力性改善効果が得られ難いからである。また、ヒアルロン酸またはその塩の平均分子量が前記値より小さいと、ヒアルロン酸またはその塩の工業的生産性が低下し、好ましくない。
【0015】
本発明で規定される平均分子量の測定方法について説明する。
【0016】
本発明で使用するヒアルロン酸の平均分子量は下記の方法に求めた値として定義される。
【0017】
約0.05gのヒアルロン酸を精密に量り、0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液に溶かし、正確に100mLとした溶液およびこの溶液8mL、12mL並びに16mLを正確に量り、それぞれに0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液を加えて正確に20mLとした溶液を試料溶液とする。この試料溶液および0.2mol/L濃度の塩化ナトリウム溶液につき、日本薬局方(第十五改正)一般試験法の粘度測定法(第1法
毛細管粘度計法)により30.0±0.1℃で比粘度を測定し(式(1))、各濃度における還元粘度を算出する(式(2))。還元粘度を縦軸に、本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線と縦軸との交点から極限粘度を求める。ここで求められた極限粘度をLaurentの式(式(3))に代入し、平均分子量を算出する(T.C.
Laurent, M. Ryan, A. Pietruszkiewicz,:B.B.A., 42, 476-485(1960))。
(式1)
比粘度 = {(試料溶液の所要流下秒数)/(0.2mol/L塩化ナトリウム溶液の所要流下秒数)}−1
(式2)
還元粘度(dL/g)= 比粘度/(本品の換算した乾燥物に対する濃度(g/100mL))
(式3)
極限粘度(dL/g)=3.6×10−40.78
M:平均分子量
【0018】
1.3.肌弾力性改善剤の製造
本発明の肌弾力性改善剤の有効成分である平均分子量が1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩(以下、「低分子ヒアルロン酸」ともいう)の代表的な製造方法を以下に述べる。なお、低分子ヒアルロン酸の製造方法は、これに限定するものではない。
【0019】
本発明で用いる低分子ヒアルロン酸の原料であるヒアルロン酸および/またはその塩(以下、「原料ヒアルロン酸」ともいう)は一般に、鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生物組織、あるいはストレプトコッカス属の微生物等のヒアルロン酸生産微生物を培養して得られる培養液等を原料として、これらの原料から抽出(さらに必要に応じて精製)して得られるものである。例えば、鶏冠より抽出される原料ヒアルロン酸および/またはその塩の分子量は通常200万から800万である。
【0020】
得られた原料ヒアルロン酸を低分子化する方法は特に限定するものではなく、原料ヒアルロン酸を、酸またはアルカリで加水分解処理する方法、ヒアルロン酸分解酵素を用いて酵素処理する方法を用いればよいが、日本特許4576583号に記載の方法で低分子化することが好ましい。具体的には、酸性含水媒体中に原料ヒアルロン酸を分散させて、酸性含水媒体を除去して得られた残留物を加熱乾燥することにより製造することができる。
【0021】
本発明の肌弾力性改善剤は、低分子ヒアルロン酸を有効成分として含有することから、上記低分子ヒアルロン酸および/またはその塩をそのまま肌弾力性改善剤として用いるのが好ましいが、精製水等の溶媒、デキストリン等の賦形剤あるいは他の皮膚化粧料の原料を添加してもよい。
【0022】
1.4.肌弾力性改善剤の用途
本発明の肌弾力性改善剤は、各種皮膚化粧料に使用することができる。皮膚用化粧料の例としては、例えば、化粧水、乳液、スキンクリーム、パック、美容液、洗顔剤、クレンジングクリーム、クレンジングフォーム、アフターシェーブローション等が挙げられる。
【0023】
皮膚化粧料への肌弾力性改善剤の含有量は、上記低分子ヒアルロン酸および/またはその塩として、0.001〜5%が好ましく、0.005〜2%がより好ましい。肌弾力性改善剤の含有量が前記範囲より少なくなると、有効成分として含有する低分子ヒアルロン酸および/またはその塩が有する肌弾力性改善効果が現れにくく、商品価値が低くなるため好ましくない。一方、肌弾力性改善剤の含有量が前記範囲より多くなると、含量に相当する効果が得られない場合があり、経済的でない。
【実施例】
【0024】
2.実施例
以下、本発明で用いる平均分子量1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する肌弾力性改善剤について、実施例等に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0025】
2.1.低分子ヒアルロン酸の調製
[調製例1]平均分子量6,000のヒアルロン酸
本調製例では、原料として、鶏冠より抽出、精製したヒアルロン酸ナトリウム(以下、「HANa」ともいう)微粉末を準備した。この原料HANaの平均分子量は約210万、純度97%であった。
【0026】
まず、攪拌機およびジャケットを装備した300L容タンクに、2%塩酸含有73%含水エタノール(酸性含水媒体)110Lを満たし、攪拌しながら液温が50℃となるよう加熱した。この処理液のpHは0.70であった。ここで、73%含水エタノールは、エタノールを73(W/W)%含有し、水を27(W/W)%含有するものであり、2%塩酸含有73%含水エタノールは、塩酸を2(W/W)%含有し、73%含水エタノールを98(W/W)%含有するものである。50℃に達温後、攪拌しながら、準備した原料HANa微粉末6kgをタンクに投入した。塩酸含有含水エタノールの温度を60℃に維持するように加熱を行ないながら、原料HANa微粉末が分散状態となるように攪拌した。
【0027】
次に、15分間攪拌してから静置した後、上澄みの塩酸含有含水エタノールをデカンテーションにより除去することにより、沈殿物を得た。得られた沈殿物に、予め50℃に加熱した2%塩酸含有73%含水エタノール110Lを加え、同様に50℃に加熱しながら攪拌を15分間行ない、この操作を合計3回繰り返した。
【0028】
次いで、塩酸含有含水エタノールを除去した後に得られた沈殿物に73%含水エタノール110Lを加え、塩酸除去の目的で15分間の攪拌を行なった。塩酸の残留がなくなるまでこの操作を繰り返した。
【0029】
さらに、含水エタノールをデカンテーションにより除去して残留物を得た。この残留物について遠心分離処理を行なうことにより含水エタノールをさらに除去した後、真空乾燥機を用いて80℃にて減圧で24時間加熱乾燥した。以上の工程により、白色微粉末のヒアルロン酸5.5kg(収率約92%)を得た。このヒアルロン酸は、極限粘度より換算した平均分子量が6,000であった。
【0030】
2.2.肌弾力性改善効果の評価方法
[試験例1]
本試験例においては、調製例1の低分子ヒアルロン酸をそのまま肌弾力性改善剤とし、当該肌弾力性改善剤を含有した皮膚化粧料(調製例1で得られた低分子ヒアルロン酸の1%水溶液)を使用して、肌弾力性改善効果の評価を行った。
【0031】
表1の処方に準じ、試料1(調製例1で得られた低分子ヒアルロン酸の1%水溶液)および試料2(メチルパラベン水溶液)を得た。なお、試料1および2には、防腐剤としてメチルパラベンを配合し、試料1にはpH調整剤として5mol/L水酸化ナトリウム溶液を配合した。
【0032】
【表1】

【0033】
被験者(8名/群)の右前腕部および右目尻に上記試料1を、左前腕部および左目尻に試料2をスプレー容器で2〜3プッシュし、軽くなじませた。これを1日2回、21日間継続して実施した。
【0034】
弾力測定装置(CUTOMETER MPA580)を使用し、測定部位にプローブを当て、一定陰圧(350mbar)で一気に吸引した後、急激に陰圧を解除する。吸引による変化量に対する吸引開放3秒後の皮膚の戻り率(皮膚回復率)を測定した。測定は1部位につき4回行い、その平均値をデータとした。試験開始日を1.000として測定値を相対値で示した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2より、試料1塗布群は、試料2塗布群と比較して、前腕部および目尻共に、戻り率が高い数値を示した。このことから、平均分子量が1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩は、肌弾力性改善効果を有することが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が1,000〜20,000であるヒアルロン酸および/またはその塩を有効成分として含有する、肌弾力性改善剤。

【公開番号】特開2012−240993(P2012−240993A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115374(P2011−115374)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】