説明

育苗方法

【課題】トレイの周囲と中央部の乾燥状態を同程度にすることで、育苗の均一化を図ることができる育苗方法を提供する。
【解決手段】苗Aを植え込んだトレイ1を透水性支持台3上に載置することによって、3次元的に中央部を高くした形状に配置し、トレイ1全体としてポット部2の培地の水分を平均化し、これによって苗Aの生長が均一化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トレイに植え込んだ苗の育成における潅水後の保水性を均一化し、苗の性状を均一にする育苗方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の育苗は、箱やポットに播種、育苗されているが、栽植密度や1粒播種という観点から、近年では、多数のポット部が連なるセルトレイに播種して育苗するようになった。
【0003】
苗の要件としては、苗の寸法や硬さが揃っていて、苗の品質として、移植したときなどの耐環境や生育活性が高いものが必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、その現状は多くのバラツキを伴っている。このバラツキには生物が潜在的にもっている能力から生じるものと、環境の差異から生じるものがある。ここでは、できるだけ均一な育苗の環境を確保することに着目した。
【0005】
均一に潅水するために、通常、目視により植物の上方から、乾いている所は多い目に、湿っているところは控えめにというように、人の熟練技術に頼った方法で行われているが、この方法は、労力を要し、個人差も伴う。
【0006】
また、比較的簡単に均一に、かつ、自動で潅水できる方法として、自動底面潅水法があるが、湛水を利用したものと毛管現象を利用したものがあり、湛水では、セルトレイのエアプルーフからの肥料、培地の脱流を伴い、水位なども均一性に影響する。
【0007】
培地の毛管力により吸い上げる場合は、培地の間隙、即ち構造に支配され、これを均一にすることは困難である。
【0008】
単純な底面潅水装置では、均一に潅水してもその後の乾燥行程で保水性にバラツキが生じ、図7のように、トレイ1に植えた苗Aは、蒲鉾状の成育になってしまう。これは、セルトレイの中央部と周辺部の光と水分の環境差異から生じていると考えられる。
【0009】
一般に水管理は、潅水と乾燥の繰り返しで行われ、これが根系を形成する上で重要となるが、圃場移植を前提とする育苗では、特に乾燥過程が重要となる。
【0010】
潅水を均一化するには、培地の吸水性を理解する必要があり、満水で潅水することにより均一化が可能となることが知られている。また、乾燥を均一化するには、培地の保水性を理解する必要があり、これには、培地の構造や乾燥環境に工夫を加えることが考えられる。
【0011】
更に、潅水回数が増えると、培地が締め固まり、培地構造が変化することも考慮する必要がある。ここでは、保水性の均一化の観点から、吸水時の水分量と乾燥環境に着目した。
【0012】
そこで、この発明の課題は、単純な底面潅水装置では、均一に潅水しても周りが乾きやすいことから給水の水位と空気の抜けを考慮し、トレイの周囲と中央部の乾燥状態を同程度にすることで、育苗の均一化を図ることができる育苗方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記のような課題を解決するため、この発明は、苗を植え込んだトレイを3次元的に中央部を高くした形状に配置し、苗に対する潅水を底面潅水によって行う構成を採用したものである。
【0014】
上記トレイは、乾燥時に3次元的に中央部を高くした形状にし、潅水時は水平にして底面潅水を行うようにすることができる。
【0015】
また、上記トレイは、3次元的に中央部を高くした形状の透水性支持台上に載置することによって中央部を高くした形状に配置することができる。
【0016】
ここで、上記トレイは、例えば、多数のポット部が連なるセルトレイを用い、このトレイが軟質であれば、透水性支持台上に載置するだけで3次元的に中央部を高くした形状が得られ、また、トレイの剛性が高い場合は、ポットの一列ごとに切り離し、同様に透水性支持台上に載置すればよく、一列に切り離したトレイを二次元的に戻すことができるように、クリップや面ファスナー、磁石等の着脱可能な接続治具を用いて接続すればよく、乾燥時の中央部を高くした3次元的な形状と潅水時の2次元的形状の変化が自由になる。
【0017】
また、浮力と重力がバランスされたトレイを用いれば、底面潅水時に周辺部が浮き上がることで周りが中央部と同じ高さ、即ち、水平になり、潅水が終了して水位が下がると中央部は又高くなる。
【0018】
上記透水性支持台は、金属線材を用い、トレイに対応する平面的な大きさを有する矩形のベース枠と、このベース枠の対角位置間に設けた山形等の支持桟によって形成され、トレイは前記支持桟上に載置することで中央部が高くなる3次元的な形状となる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によると、苗を植え込んだトレイを3次元的に中央部を高くした形状に配置し、苗に対する潅水を底面潅水によって行うようにしたので、トレイの中央部は周辺部と比べて底面からの潅水量が少なく、乾燥も多くなることで周囲と中央部が同程度の水分となり、これによって育苗の均一化を図ることができる。
【0020】
また、トレイを2次元的形状に戻して潅水を底面潅水によって行うようにした場合でも、乾燥時に中央部を高くすることにより、中央部の乾燥が多くなるので周囲と中央部が同程度の水分となり、育苗の均一化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0022】
図示のように、この発明の育苗方法は、多数のポット部2が連なるトレイ1を用い、各ポット部2内の培地Bに植え込んだ苗Aを育苗する場合に、潅水を底面潅水によって行うと共に、乾燥時にトレイ1を3次元的に中央部を高くした形状にし、中央部の乾燥が多くなることで周囲と中央部が同程度の水分となるようにし、育苗の均一化を図るようにしている。
【0023】
上記トレイ1は、図1と図5(a)のように、多数のポット部2が縦と横に連なる構造を有し、例えば、セルトレイを用いることができ、このトレイ1を3次元的に中央部を高くした形状にするために載置する透水性支持台3は、図1のように、金属線材を用い、トレイ1に対応する平面的な大きさを有する矩形のベース枠4と、このベース枠4の対角位置間に設けた山形等の支持桟5によって形成され、トレイ1は前記支持桟5上に載置することで中央部が高くなる3次元的な形状となる。
【0024】
上記トレイ1は、特別なものを作る必要はなく、既存のトレイをそのまま使用することができ、このトレイ1が柔軟性を有していれば、上記透水性支持台3の上に置くだけで中央部が高くなる3次元的な形状になる。
【0025】
なお、トレイ1の3次元的に中央部を高くした形状は、図1と図2の曲線的なお椀形だけでなく、図5(b)乃至(d)に例示するように、直線的な山形や台形状、部分的な台形状等を採用でき、中央部を高くするときの傾きや曲率は、培地の特性に合わせて設定すればよい。
【0026】
上記トレイ1の剛性が固い場合は、トレイ全体を3次元的に曲げることは困難である。このようなトレイ1の場合は、ポット部2の一列ごとに切り離し、帯状長尺物の切り離しトレイ1aとすることで柔軟性をもたせ、これを透水性支持台3の上に置いて並べるようにすれば、中央部が高くなる3次元的な形状にすることができる。
【0027】
また、一列の切り離しトレイ1aを2次元的に戻すことができるように、図3(a)と(b)に示すような、二又状でポット部2の間隔でスリット6を設けたクリップ7や面ファスナー、磁石等の着脱可能な接続治具を用い、一列ごとの切り離しトレイ1aを接続すればよく、乾燥時の中央部を高くした3次元的な形状と潅水時の2次元的形状の変化が自由になる。
【0028】
更に、図4のように、一列の切り離しトレイ1aの端部を蝶番8で順次接続し、並列状態と直線状態の変化をクリップでの結合によって可能とするようにしてもよく、トレイ全体を長い一列の形態にすれば、接ぎ木や挿し木等を各ポット部2の培地Bに一本ずつ供給する場合に利便性が高くなる。
【0029】
図6は、上記透水性支持台3の他の例を示し、目の大きな金網構造とし、両側を下向きに折り曲げて自立するようにし、上面の網目面を中央部が高くなるように四角錐形状に折り曲げ加工することにより、その上に載置したトレイを中央部が高くなる3次元的な形状とすることができるようにしている。
【0030】
この発明の育苗方法は、各ポット部2内の培地Bに苗Aを植え込んだトレイ1を透水性支持台3の上に載置し、トレイ1を中央部が高くなる3次元的な形状にして育苗を行う。
【0031】
トレイ1の中央部を高くした状態で、潅水を底面潅水によって行うと、中央部は周辺部と比べて底面からの潅水量が少なく、また、乾燥時は中央部の乾燥が多くなることから、周辺部のポット部2における培地Bと、中央部のポット部2における培地Bが同程度の水分になり、トレイ1全体として培地Bの水分は平均化し、これによって苗Aの生育が均一化する。
【0032】
なお、潅水時は、トレイ1を透水性支持台3から下ろし、水平となる2次元的形態に戻すことで全ポット部2の培地Bに対して均等な底面潅水を行い、この後、トレイ1を3次元的な形状にして乾燥を行っても、中央部の乾燥が多くなることから、周辺部のポット部2における培地Bと、中央部のポット部2における培地Bが同程度の水分になり、トレイ1全体として培地Bの水分は平均化し、これによって苗Aの生長が均一化する。
【0033】
また、トレイ1に浮力と重力がバランスされたものを用いれば、底面潅水時に周辺部が浮き上がることで周りが中央部と同じ高さ、即ち、水平になり、潅水が終了して水位が下がると周辺部が下降して中央部は又高くなることで、上記と同様の水分の平均化によって苗Aの生長が均一化する。
【0034】
なお、ここで提案した育苗方法は、セルトレイに限らず、ポット苗の育苗も同様に行えると共に、上面潅水にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の方法に用いるトレイと透水性支持台の分解斜視図
【図2】(a)は透水性支持台上に載置したトレイの長さ方向に沿う縦断面図、(b)は同幅方向の縦断面図
【図3】(a)は一列の切り離しトレイとこれを結合するクリップの分解斜視図、(b)は一列の切り離しトレイをクリップで結合した状態の斜視図
【図4】一列の切り離しトレイを蝶番で接続した状態の平面図
【図5】(a)は水平状態のトレイを示す縦断面図、(b)乃至(d)は中央部を高くしたトレイの異なった形状を示す縦断面図
【図6】この発明の方法に用いる透水性支持台の他の例を示す斜視図
【図7】従来のトレイを用いた苗の育成において、苗が蒲鉾形に生育した状態を示す正面図
【符号の説明】
【0036】
1 トレイ
2 ポット部
3 透水性支持台
4 ベース枠
5 支持桟
6 スリット
7 クリップ
8 蝶番

【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗を植え込んだトレイを3次元的に中央部を高くした形状に配置し、苗に対する潅水を底面潅水によって行う育苗方法。
【請求項2】
上記トレイは、乾燥時に3次元的に中央部を高くした形状にし、潅水時は水平にして底面潅水を行う請求項1に記載の育苗方法。
【請求項3】
上記トレイは、3次元的に中央部を高くした形状の透水性支持台上に載置することによって中央部を高くした形状に配置する請求項1又は2に記載の育苗方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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