説明

育苗装置

断熱性壁面で囲まれ完全遮光性とされた閉鎖型構造物(1)の内部に前記閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する少なくとも1つの空調装置(7)を設置し、前記閉鎖型構造物の内部空間に前面が開放している箱形の少なくとも1つの育成モジュール(3)を配置し、前記育成モジュールの内部には複数の育苗棚(12)を上下方向に多段に配置して上下の育苗棚間に育苗空間を形成し、前記各育苗棚には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイ(40)を載置するとともに前記セルトレイ底面から潅水可能な底面潅水装置(30、30′)を設け、前記各育苗棚裏面にはその下方のセルトレイに光を照射する人工照明装置(13)を設け、前記育成モジュールの各育苗棚の背面壁(3b)に少なくとも1つの空気ファン(15)を取り付けてなる育苗装置。かような構成によれば、空調装置により調温調湿された空気を前記育成モジュール開放前面から空気ファンにより吸引して背面壁後方へ送風することにより、閉鎖型構造物内で効果的な調温調湿空気の循環流を生じさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、閉鎖空間型で多段棚式の育苗装置に関する。さらに詳しくは、人工光源、空調装置および自動潅水装置などを装備し、外部環境の影響を受けない安定した植物育苗環境を実現し、均一な生育条件下で、高品質のセル成形苗を効率よく生産することができる育苗装置に関するものである。
【背景技術】
従来、各種植物の苗を育成する方法としては、植物工場に代表される育苗方法がある。この育苗方法は、人工光源、空調装置および自動潅水装置を内部に装備した閉鎖型育苗装置を使用して、育苗空間の光量、温度、湿度、風速、潅水量などを人為的に最適状態に調節し、高品質で均一な苗を安定的に、省力、低コストで育成する方法である。
この種の閉鎖型の育苗装置としては、例えば特許第3026253号公報に記載の人工環境装置が提案されている。この装置は、断熱材からなる箱状の外室の天井壁の内側に空調室を設け、外室の対向する側壁の内側にそれぞれ吹き込み室と吸い込み室を設け、吹き込み室と吸い込み室との間に育苗箱が出し入れ可能に多段に配置されている。装置内の空気は、吹き込み室のハニカム構造の壁から育苗空間に吹き込まれ、吸い込み室の多孔板構造の壁を通って吸い込まれ、空調室内の通風路を通って再度吹き込み室へと送られて循環される。循環空気は、空調室内に設けた空調装置と送風装置により調温調湿され循環される。しかしながらかような装置においては、外室の内側に空調室、吹き込み室および吸い込み室を設けるため、外室内部の育苗空間の利用効率が低下するとともに、吹き込み室から均一に空気を吹き込むための特別な整流手段を設けるため構造も複雑となるという欠点がある。
また、この種の育苗装置に用いられる自動潅水装置としては、1999年日本農業気象学会、生物環境調節学会、植物工場学会3学会合同大会において、「プラグトレイ用噴射式底面潅水装置の開発」と題して報告されているものがある。ここで報告されている自動潅水装置では、セルトレイの底穴からノズルをセルトレイ内に貫入させ、適量の水や培養液を培地へ短時間噴射するもので、噴射した水分がセルトレイの底穴から漏れないので、余剰水、余剰養液を出さないという特徴がある。しかしながら、セルトレイ1枚に数十から数百個あるセルの底壁面に設けた全ての底穴に挿入する多数のノズルを用意し、それらを全ての底穴に機械的に挿入した後、各ノズルから等量の水分を噴射させなければならず、これを実現するには複雑でかつ高価な機構の装置が必要であるという欠点がある。
また別の自動潅水装置として、2000年日本農業気象学会、生物環境調節学会合同大会で、「セル成形苗個体群の蒸発散計測に基づく自動潅水装置の簡易化」と題して報告されているものがある。この自動潅水装置では、セルトレイを上皿ハカリに載置して植物体や培地の蒸発散量をセルトレイ単位の苗個体群重量の増減として計測し、ハカリの指針にスイッチ接点を設け、指針の移動をスイッチ接点が直接関知し、苗個体群への潅水開始の指示を行うものである。この装置は、蒸発散量をもとに潅水を開始し、サブタイマーにより必要最小限量の潅水を行うため、余剰水を出さずに適量の潅水を行うことができるという特徴がある。しかしながら、この指針の動作には抵抗があり、また指針の動きが直接重力の影響を受けるので、動作が不完全であったり、動作精度に問題があったりすることが、同報告により明らかにされている。
さらに特開2001−346450号公報には、閉鎖空間内での多段棚式育苗装置における底面潅水装置が提案されている。この底面潅水装置は、三辺が側壁で囲まれかつ底壁面を有する浅い四角形の箱状を呈し、この箱の側壁のない辺には排水溝が配置され、排水溝に対向する辺の側壁面には吸水パイプが配置され、底壁面には樹脂製多孔質シートを敷き、樹脂製多孔質シートの上にセルトレイを載置する構造となっている。かような構造の底面潅水装置によれば、給水パイプから供給した潅水は、毛管作用により樹脂製多孔質シートに吸収されて箱の底壁面全体に短時間で拡がり、所定の水位のプール状態となり、セルトレイの各セル底面のセル穴から毛管現象によりセル内の培地に均一に潅水される。セル内の培地は毛管現象により短時間で水分飽和状態となるため、プール状態を長時間持続する必要がないが、吐出量の大きいポンプを用いないと底壁面全体に潅水が行き渡らず、プール状態とはならない。潅水停止後に樹脂製多孔質シートに残る水は、排水溝に垂らした樹脂製多孔質シートの一端から排水溝へ排出される。しかしながら、潅水停止後も各セルの底面は樹脂製多孔質シートと接触しているため、セル穴付近が湿潤状態となりやすく、その結果、苗の根がセル穴から外部へ伸長し、苗のセルからの取り出し作業に支障が生じ、根を傷めることにもなる。潅水停止後にセル穴付近を乾燥状態として苗の根がセル穴近傍まで伸長しないようにするために、セル底面に複数の小突起を設けて、セル底面と樹脂製多孔質シートとが直接接触しないようにすることも提案されているが、必ずしも満足するような乾燥状態が得られない。
【発明の開示】
本発明者は、かかる状況に鑑み、閉鎖型育苗装置によって苗を育成する技術分野において存在していた上記のような諸欠点を解消し、均一で高品質の苗を効率よく、低エネルギー、低コストで生産することができる育苗技術を提供すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至ったものである。
本発明の目的は、次の通りである。
(1)閉鎖空間内の空間利用率の高い閉鎖型育苗装置を提供すること。
(2)複雑な整流手段を使用することなく簡単な構造によって、閉鎖空間内の空気の循環を効率よく行うことができ、必要最小限の電力で効果的な調温調湿を可能にした省エネルギー型の育苗装置を提供すること。
(3)育苗するに際して、必要最小限の潅水をすればよく、しかも潅水停止時にセルトレイ底面を効果的に乾燥状態とすることができる底面潅水装置を備えた育苗装置を提供すること。
すなわち本発明の育苗装置は、
断熱性壁面で囲まれ完全遮光性とされた閉鎖型構造物の内部に前記閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する少なくとも1つの空調装置を設置し、
前記閉鎖型構造物の内部空間に、前面が開放している箱形の少なくとも1つの育成モジュールを配置し、
前記育成モジュールの内部には複数の育苗棚を上下方向に多段に配置して上下の育苗棚間に育苗空間を形成し、
前記各育苗棚には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイを載置するとともに前記セルトレイ底面から潅水可能な底面潅水装置を設け、
前記各育苗棚裏面にはその下方のセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け、
前記育成モジュールの各育苗棚の背面壁に少なくとも1つの空気ファンを取り付け、
これによって、前記空調装置により調温調湿された空気を前記育成モジュール開放前面から前記空気ファンにより吸引して前記背面壁後方へ送風し前記閉鎖型構造物内で循環させるようにしたことを特徴とするものである。
育成モジュールは、複数個を開放前面が同方向を向くように1列に配列して前記閉鎖型構造物の内部空間に配列することもできる。
あるいはまた、育成モジュールの複数個を開放前面が同方向を向くように配列した二つの列を、前記開放前面が互いに対向するように配置し、二つの列の間に作業空間兼空気循環路を形成するようにしてもよい。
各育苗棚に設けた前記底面潅水装置は、三辺が側壁で囲まれかつ底壁面を有する浅い四角形の箱状の潅水トレイを備え、前記潅水トレイには潅水を潅水トレイ内に供給する給水管を設けるとともに、前記潅水トレイの側壁のない辺には前記底壁面に連接する排水溝を設け、前記排水溝と前記底壁面とは堰により仕切られ、前記潅水トレイ底壁面に前記セルトレイを載置するに際して前記潅水トレイ底壁面とセルトレイ底面との間に間隙を保持するための間隙保持手段を設ける。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る育苗装置の実施例を示す概略平面図である。
図2は、図1に示した育苗装置の内部空間における空気の流れを示す概略縦断面図である。
図3は、本発明の育苗装置に用いる育苗モジュールの実施例を示す正面図である。
図4は、図3に示した育苗モジュールの側面図である。
図5は、本発明の育苗装置に用いる底面潅水装置の実施例を示す平面図である。
図6は、図6に示した底面潅水装置の斜視図である。
図7は、図5のX−X線に沿う概略縦断面図である。
図8は、本発明の育苗装置に用いる底面潅水装置の別な実施例を示す概略縦断面図である。
図9は、本発明に係る育苗装置の別な実施例を示す概略平面図である。
図10は、本発明に係る育苗装置のさらに別な実施例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1および図2に示す実施例を参照して、本発明の育苗装置の好ましい実施例を説明する。本発明に係る育苗装置は、断熱性壁面で囲まれた完全遮光性とされた閉鎖型構造物1の内部空間に、箱形の複数個(図示の例では4個)の育成モジュール3、4、5、6を配列してなる閉鎖型育苗装置である。本発明において閉鎖型構造物とは、外気温を遮断し、自然光線を遮断する壁面で囲まれて閉鎖された内部空間を有する構造物をいう。代表的な構造物は、鉄筋、スレート板および断熱材を組み合わせた箱形の六面体が挙げられる。構造物の外形は特に箱形に限られるものではなく、蒲鉾形、半円筒形、半球形などであってもよい。
閉鎖型構造物1の内部空間の大きさは、その内部に配置する育成モジュールの個数に応じて適宜の寸法とすればよい。図1に図示した例では、2個の育苗モジュール3、4をそれらの開放前面が同方向を向くように配列して1列とし、2個の育苗モジュール5、6もそれらの開放前面が同方向を向くように配列して1列とし、開放前面が互いに対向するように二つの列を閉鎖型構造物1の内部空間に配置している。また、これら二つの列の間に、一人または複数の作業者が作業できる程度の作業空間を設ける。閉鎖型構造物1の内部空間の面積利用率、空間利用率を高めるために、作業空間はできるだけ小さく、狭くするのが好ましい。閉鎖型構造物1の内部に育成モジュール3〜6を配置する際には、閉鎖型構造物の壁面と育成モジュールの背面との間に、50〜300mm程度の幅の空間を設けて、育成モジュールを通過した空気の通路を形成する。
図1および図2に示した実施例における閉鎖型構造物1の内寸法は幅が3400mm、奥行き2500mm、高さ2200mmであり、入口の開き戸2の内側にエアーカーテンを設置すると、作業者が出入りする際に外気が入らないようにできるので好ましい。
閉鎖型構造物1には、内部空間の空気を調温調湿し、設定条件に調温調湿した空気を循環させる機能を備えた空調装置を装備する。空調装置の室内機7、8、9、10は閉鎖型構造物1の側壁内面上部に取り付け、屋外機(図示せず)は閉鎖型構造物1の外に設置する。空調装置は、閉鎖型構造物の大きさによっては、一基の装置によって内部空間全体を調温調湿することができる。しかしながら、閉鎖型構造物1の内部空間に調温調湿した空気を効果的に循環させるためには、空調装置の室内機を複数の育成モジュールに対応させた数とし、各育成モジュールの背面後方の閉鎖型構造物1側壁内面上部に取り付けるのが望ましい。
閉鎖型構造物1の内部空間に配置される育苗モジュール3は、図3および図4に示したように、側面と背面に側面壁3aと背面壁3bを設け、前面は開放されている箱形の外形を有し、内部は複数の育苗棚12を上下方向に一定間隔で多段に配置されてなり、これにより育苗空間の面積利用効率を高めている。個々の育成モジュール3の高さは、作業者が作業できる程度の高さである2000mm程度とし、育苗棚12の幅は、数十から数百個のセル(小鉢)を格子状に配列させた樹脂製のセルトレイを複数枚並べて載置できるとともに、各棚の温度・湿度を一定に調節できる幅、例えば1000mm〜2000mm程度とし、育苗棚12の奥行きは500mm〜1000mmとするのが好ましい。図示の実施例における育成モジュール3の外寸法は、高さ1650mm、幅1300mm、奥行き650mmとされており、各育苗棚12には4枚のセルトレイ40(図1参照)が載置されている。セルトレイ1枚の寸法は、一般的には幅が300mm、長さが600mm程度である。
育成モジュール3内に多段(図3の実施例では4段)に配置する複数の育苗棚12はほぼ水平とし、各育苗棚12の間に育苗空間が形成される。最下段の育苗棚は、育成モジュールの台座3cに載置され、台座に設けたアジャスター3dによって育苗棚12の水平度を調節できるようになっている。隣り合う育苗棚の間隔を小さくして育苗棚の数を増やすことで、空間利用率を高めることができる。しかし、育苗棚間の間隔が小さすぎるとセルトレイの出し入れなどの作業性が悪くなり、苗の最大長を確保できないなどの欠点があるので、最低300mm程度とするのが好ましい。育苗棚12は、金属板、金属網、金属棒などによって形成するのが好ましい。
各育苗棚12には、後述する底面潅水装置が設られ、複数のセルトレイが載置される。さらに、各育苗棚12の裏面には、人工照明装置13が取り付けられ、すぐ下の育苗棚のセルトレイで生育する植物に光を照射する。最上段の育苗棚は、育苗モジュールの頂壁3e裏面に人工照明装置13を取り付ける。
人工照明装置13の光源としては蛍光灯が好ましく、蛍光灯の燭光、長さなどは、一個の育苗棚12の幅、長さ、育苗棚12相互の間隔などに応じて適宜選ぶことができる。例えば、幅1200mm×長さ600mmの育苗棚で、育苗棚相互の間隔が350mmの場合には、長さが1200mmの32〜45Wの蛍光灯を4〜8本、育苗棚裏面に平行に設置すればよい。
図3からわかるように、育苗棚12の各段背面壁3bには、複数基の空気ファン15が取り付けられている。空気ファン15を稼働させることにより、閉鎖型構造物1の内部空間で図2の矢印で示したような空気の循環流を生じさせることができる。すなわち、空調装置の室内機7〜10によって調温調湿された空気は、育成モジュール3〜6の開放前面側より育苗棚12各段の育苗空間内に吸引され、育苗モジュール背面後方へ排出される。育成モジュール背面後方に排出された空気は、空調装置の室内機7〜10に吸い込まれ、調温調湿されたのち、再び育成モジュール3〜6開放前面側に吹き出される。図1および図2に図示した実施例のように、二列の育苗モジュール3、4と5、6をそれらの間に作業空間が形成されるように配列した場合には、この作業空間が空気の循環路としても機能するため、効果的な循環流をもたらすことができる。
循環流が育成モジュール3〜6の各育苗棚12を通過する際に、潅水装置、培土、植物苗などから蒸発した水蒸気や人工照明装置13から放出される熱が循環流に同伴され、この循環流を空調装置の室内機7〜10によって調温調湿して絶えず循環させることによって、閉鎖型構造物1の内部空間を植物体生育に最適な温度湿度環境に保つことができる。
なお、育苗棚12の幅が狭い場合には、育苗棚各段の背面壁3bに一基の空気ファン15を装備してもよいが、育苗棚12の幅が広い場合には送風ムラが生じるため好ましくない。図3に図示したように育苗棚12各段に複数基(図1および図3の実施例では4枚のセルトレイ1枚毎に1基、合計4基)の空気ファン15を装備することにより、送風ムラを解消して均一な送風、均一な空気の循環が可能となる。複数基の空気ファンを装備する場合には、一基当たりの空気ファンによる空気吸引力は比較的小さくてよい。
底面潅水装置は、育成モジュール3〜6内に多段に配置された複数の育苗棚12の各棚に設けられ、各棚に載置されるセルトレイの底面から潅水を行う方式とする。この潅水装置の実施例を、図5の平面図、図6の斜視図および図7の断面図に示す。図示した底面潅水装置30は、三辺が側壁31a、31b、31cで囲まれかつ底壁面31dを有する浅い四角形の箱状を呈する潅水トレイ31を備えており、潅水トレイ31の側壁のない辺には底壁面31dに連接して排水溝32が設けられており、排水溝32の一端には排水口32aが形成されている。また、潅水(肥料分を含む培養液)を潅水トレイ31内に供給する給水管33も設けられている。給水管33の設置個所は、潅水トレイ31内に潅水を供給できる箇所であれば特に制限はないが、図示の例では、排水溝32に対向する潅水トレイの側壁31aに給水管33が取り付けられており、給水管に設けた複数の小孔33aから潅水が供給されるようになっている。さらに、排水溝32と底壁面31dとは堰34により仕切られ、堰34の一部(図示の例では両端部)には切欠部34aが形成されている。
本発明で用いる底面潅水装置の特徴は、潅水トレイ底壁面にセルトレイを載置するに際して、潅水トレイ底壁面とセルトレイ底面との間に間隙を保持するための間隙保持手段を設ける点である。図5〜図7に示した実施例では、潅水トレイ底壁面31dに設けた複数のリブ35を間隙保持手段としている。複数のリブ35は、排水溝32方向に互いに平行に延びており、これらリブ35の上にセルトレイ40が載置されるようになっている。
潅水トレイ31は金属または合成樹脂製とし、その寸法は育苗モジュール3〜6の各段の育苗棚12と実質的に同じ幅と奥行きとすればよく、深さは30〜50mm程度とする。図示した潅水装置30の実施例の場合には、潅水トレイ31を育苗モジュール3〜6の育苗棚に載置したときに、排水溝32が育苗モジュールの開放前面から突出するような寸法とされている(図4の符号32参照)。排水溝32を育苗モジュール開放前面から突出させることにより、育苗棚12各段に載置した潅水トレイ31の排水溝32の排水口32aから排出される潅水を集めて閉鎖型構造物1外部へ排出しやすくなる。
潅水装置30の給水管33に設けた小穴33aから所定量の潅水を連続的に供給すると、潅水トレイ底壁面31dに拡散しながら、堰34によって堰き止められて所定水位まで溜まりプール状態が形成される。給水管33から潅水を供給している間も、堰34に形成した切欠部34a(例えば幅約10mm程度)からは潅水が少しずつ排水溝32へ流出するが、潅水供給量と切欠部からの流出量を調節することによって、潅水トレイ31内に例えば10〜12mm程度の水位のプール状態が維持されるようにする。この際、切欠部の幅を狭めて流出量を低下させることにより、潅水供給量も少なくてすみ、潅水供給用のポンプも小型のものを使用することができる。この水位のプール状態にあれば、リブ35(例えば平均高さ約7mm)の上に載置されているセルトレイ40の各セル41底面に形成されたセル穴42からセル内の培地へ毛管作用により水が吸い上げられ、短時間ですべてのセル41内の培地が水分飽和状態になる。また、セルトレイ40のすべてのセル41内の培地が均一に水分飽和状態となるため、それ以上の潅水を続けても意味が無く、育苗棚12の各段への潅水量を正確に等量としなくても、各段に載置したセルトレイ40にはすべてのセル41に均一な潅水を行うことができる。
セルトレイのすべてのセル内の培地が水分飽和状態となった後も給水管33から潅水の供給を続けた場合には、余分な潅水は排水溝32へ排出される。潅水の供給を自動停止した後には、短時間内で潅水トレイ31内の水の大部分は堰34に形成した切欠部34aを通って排水溝32へ排出されるが、若干量の水は潅水トレイ底壁面31d上に残留し湿潤状態となっている。しかしながら、セルトレイ40の底面はリブ35により潅水トレイ底壁面31dから浮き上がった状態とされているため、セルトレイ40底面と潅水トレイ底壁面31dとの間に隙間が確保されている。この隙間に調温調湿された空気が流通することにより、セル穴42近傍が短時間で乾燥状態とされる。
セルトレイ40の底面に設けられているセル穴42の近傍が湿潤状態にある場合には、苗の根はその水分を目指して伸長し易いが、セル穴42近傍が乾燥状態にある場合には、苗の根はその乾燥状態にある方向には伸長しない。これはエアプルーニング効果と呼ばれ、空気層を境にして根が剪定(プルーニング)されるような状況を指している。本発明の育苗装置で用いる図5〜図7に図示した底面潅水装置30の実施例によれば、セル穴32近傍を短時間に確実に乾燥状態にすることができ、このエアプルーニング効果を積極的に発生させることができるので、苗の根のセル穴42から外側への伸長を防止することができる。従って、生産した苗を定植する際などに、苗のセル41からの取り出し作業が容易となり、根を傷めることもなくなる。
なお、図示した潅水装置30の実施例では、図7の断面図からわかるように、潅水トレイ31の底壁面31dを排水溝32の方向へ傾斜させている。これにより、潅水停止時に潅水を排水溝32へ短時間で排出させることができる。また、底壁面31dに傾斜をもたせた場合には、リブ35の高さを変化させてリブの頂部35aが水平となるようにすることにより、リブの上に載置したセルトレイ40を水平に保持できることになるため好ましい。
図8は、本発明で用いる底面潅水装置の別な実施例を示すものであり、図5〜図7における部材と同じ部材には、同じ符号を付すことにより説明を省略する。図8の底面潅水装置30′においては、潅水トレイ底壁面31dにセルトレイ40を載置する際に、潅水トレイ底壁面31dとセルトレイ40との間にアンダートレイ50を介在させる。このアンダートレイ50は各セル41内に培地を入れたセルトレイ40を支持し得る程度の剛性を備えており、その底壁面には複数の小孔51が形成されているとともに、その裏面には複数の突起52が形成されている。これらの突起52は、セルトレイ40をアンダートレイ50とともに潅水トレイ内に収容するときに、潅水トレイ底壁面31dとセルトレイ40底面との間に間隙を保持する間隙保持手段として機能する。
図8の底面潅水装置30′においても、給水管33から潅水を供給して所定水位のプール状態となった場合には、アンダートレイ50の小孔51からアンダートレイ50内に潅水が導かれ、セルトレイ40の各セル41底面に形成されたセル穴42からセル内の培地へ毛管作用により水が吸い上げられる。給水管33からの潅水の供給を停止した後は、余分な潅水は排水溝32へ排出され、若干量の水は潅水トレイ底壁面31d上に残留し湿潤状態となっていても、アンダートレイ50裏面の複数の突起52によりセルトレイ40底面と潅水トレイ底壁面31dとの間に隙間が確保され、この隙間に調温調湿された空気が流通することにより、セル穴42近傍が短時間で乾燥状態とされる。
なお、図8の実施例においても、図5〜図7の実施例と同様に、潅水トレイ底壁面31dを排水溝32方向へ傾斜させることにより、潅水停止時に潅水を排水溝32へ短時間で排出させるようにすることもできる。
育苗棚12各段に設置した底面潅水装置30、30′の潅水トレイ31に載置されるセルトレイ40は、前述したように、数十から数百のセル41を格子状に配列させてトレイ形状に一体化したものであり、セルトレイ1枚の寸法は幅が300mm、長さが600mm前後とされており、種々のタイプのセルトレイが市販されているが、一般的には樹脂製シートから差圧成形法により製造されている。セル41の形状は、裁頭逆錐型のものが好ましく使用でき、錐は円錐、角錐のいずれであってもよい。また、1個のセルの大きさは、深さが15〜50mmで、容量が4〜30ミリリットル程度のものが好ましく、セル41の底壁面にセル穴42が設けられていて底面潅水を行えるものを使用する。
図1および図2に示した本発明の育苗装置の実施例では、2個の育苗モジュール3、4の列と2個の育苗モジュール5、6の列の二つの列を、それらの開放前面が対向するようにして合計4個の育苗モジュール3〜6が閉鎖型構造物1の内部空間に配置されている。かような本発明の育苗装置は、閉鎖型構造物の内部空間に育苗モジュールを配置する構造としているため、閉鎖型構造物の大きさとその内部に配置する育苗モジュールの数を適宜選定することにより、規模に応じた育苗装置を自由に構築することが可能である。例えば図9は、2個の育苗モジュール3、4をそれらの開放前面が同方向を向くように配列して、閉鎖型構造物1の内部空間に配置した実施例を示す。また図10は、1個の育苗モジュール3を小型の閉鎖型構造物1の内部空間に配置した実施例を示す。図9および図10において、図1および図2における部材と同じ部材には、同じ符号を付すことにより説明を省略する。
なお、本発明の育苗装置における閉鎖型構造物1内部に設置する空調装置の室内機7〜10の設置場所は、図1および図2に示した実施例におけるように、必ずしも育成モジュール3〜6背面側の閉鎖型構造物1側壁内面上部とする必要はなく、空調装置室内機と育苗モジュール背面壁に取り付けた空気ファン15とによって、閉鎖型構造物内部空間に空気の循環流が形成されるようにすればよい。例えば図10の実施例に示したように、育苗モジュール3の開放前面に対向する閉鎖型構造物1側壁内面に空調装置の室内機7を設置することもできる。
閉鎖型構造物の内部空間は密閉度が高いために、通常の換気条件とした場合には育成中の苗が光合成で消費する炭酸ガスを人為的に供給する必要がある。そのため、図1に示したように、閉鎖型構造物1の外部に液化炭酸ガスボンベ16を設置し、閉鎖型構造物の内部に炭酸ガス濃度計測装置(図示せず)を設ける。炭酸ガス濃度計測装置により計測した閉鎖型構造物内部空間の炭酸ガス濃度が一定濃度以下になった場合、炭酸ガス濃度計測装置からの信号に従い、炭酸ガスボンベ16から炭酸ガスを放出して閉鎖型構造物の内部空間に必要量放出する方式によって、内部空間の炭酸ガス濃度を所定濃度に維持することができる。
本発明に係る育苗装置を使用して閉鎖型構造物の内部空間で苗を育成することによって、苗の生育に好適な光量、温度、湿度、炭酸ガス、水分などの環境条件を自動的に調節することが可能である。また、多段棚式の育苗モジュールの各育苗棚の苗は全て同一環境下で生育することができるので、得られた苗質の均一性を高めることができる。ここで苗質とは、苗の胚軸長、胚軸径、葉色、葉面積などの外見的特徴、花芽形成位置、抽台の有無などの質的特徴などを意味する。
【産業上の利用可能性】
上述したごとき本発明によれば、次のような効果が奏せられる。
(1)閉鎖型構造物の内部空間に設置した空調装置の室内機と育苗モジュール背面壁に取り付けた空気ファンとにより、調温調湿空気の循環流を内部空間で効果的に生じさせることができるため、複雑な整流手段を設ける必要がなく、必要最小限の電力で効率よく閉鎖空間の調温調湿ができる。その結果、省エネルギー、低コストの育苗装置が提供できる。
(2)閉鎖型構造物の内部空間に空調装置の室内機と空気ファンを設置する簡単な構成により効果的な調温調湿空気の循環流を生じさせることができ、内部空間に空調室、吹き込み室、吸い込み室などを特に設ける必要がないため、育苗空間を広くとることができる結果、空間利用率を高めることができる。
(3)潅水トレイの底壁面に堰を形成した底面潅水装置を使用することにより、所定水位の潅水プール状態を容易にもたらすことができ、セルトレイの全てのセル内の培地を底面吸水により短時間で水分飽和状態にできるため、潅水量を必要最小限とすることができる。
(4)底面潅水装置として、潅水トレイ底壁面とセルトレイ底面との間に間隙を保持するための間隙保持手段を設けた底面潅水装置を使用することにより、潅水停止時にセルトレイ底面と潅水トレイ底壁面との間に間隙が確保でき、この隙間に調温調湿された空気が流通することによりセル穴近傍を乾燥状態にさせることができる。その結果、苗の根がセル穴から外側に伸長するのを防止でき、苗のセルからの取り出し作業が容易となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性壁面で囲まれ完全遮光性とされた閉鎖型構造物の内部に前記閉鎖型構造物内の空気を調温調湿する少なくとも1つの空調装置を設置し、
前記閉鎖型構造物の内部空間に、前面が開放している箱形の少なくとも1つの育成モジュールを配置し、
前記育成モジュールの内部には複数の育苗棚を上下方向に多段に配置して上下の育苗棚間に育苗空間を形成し、
前記各育苗棚には植物生育用培地を入れる複数のセルトレイを載置するとともに前記セルトレイ底面から潅水可能な底面潅水装置を設け、
前記各育苗棚裏面にはその下方のセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け、
前記育成モジュールの各育苗棚の背面壁に少なくとも1つの空気ファンを取り付け、
これによって、前記空調装置により調温調湿された空気を前記育成モジュール開放前面から前記空気ファンにより吸引して前記背面壁後方へ送風し前記閉鎖型構造物内で循環させるようにしたことを特徴とする育苗装置。
【請求項2】
前記育成モジュールの複数個を開放前面が同方向を向くように1列に配列して前記閉鎖型構造物の内部空間に配列したことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の育苗装置。
【請求項3】
前記育成モジュールの複数個を開放前面が同方向を向くように配列した二つの列を、前記開放前面が互いに対向するように配置し、二つの列の間に作業空間兼空気循環路を形成したことを特徴とする請求の範囲第1項に記載の育苗装置。
【請求項4】
前記空調装置は、育成モジュール背面壁後方の構造物側壁内面上部に設置したことを特徴とする請求の範囲第1〜3項のいずれか1項に記載の育苗装置。
【請求項5】
炭酸ガス濃度計測装置を前記閉鎖型構造物内部に設置するとともに炭酸ガスボンベを前記閉鎖型構造物外部に設置し、前記炭酸ガス濃度計測装置からの電気信号に従って前記炭酸ガスボンベから所定量の炭酸ガスを前記閉鎖型構造物内部に供給するようにしたことを特徴とする請求の範囲第1〜4項のいずれか1項に記載の育苗装置。
【請求項6】
各育苗棚に設けた前記底面潅水装置は、三辺が側壁で囲まれかつ底壁面を有する浅い四角形の箱状の潅水トレイを備え、前記潅水トレイには潅水を潅水トレイ内に供給する給水管を設けるとともに、前記潅水トレイの側壁のない辺には前記底壁面に連接する排水溝を設け、前記排水溝と前記底壁面とは堰により仕切られ、前記潅水トレイ底壁面に前記セルトレイを載置するに際して前記潅水トレイ底壁面とセルトレイ底面との間に間隙を保持するための間隙保持手段を設けたことを特徴とする請求の範囲第1〜5項のいずれか1項に記載の育苗装置。
【請求項7】
前記間隙保持手段は、前記給水管側から前記排水溝側へ延びるように前記潅水トレイ底壁面に設けられた複数のリブからなることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の育苗装置。
【請求項8】
前記間隙保持手段は、前記潅水トレイ底壁面に前記セルトレイを載置する際に潅水トレイ底壁面とセルトレイとの間に介在させる穴あきアンダートレイの裏面に設けられた複数の突起からなることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の育苗装置。
【請求項9】
前記潅水トレイの堰は、少なくとも一箇所の切欠部が形成されていることを特徴とする請求の範囲第6〜8項のいずれか1項に記載の育苗装置。
【請求項10】
前記潅水トレイの底壁面は、排水溝側が低くなるように緩やかに傾斜していることを特徴とする請求の範囲第6〜9項のいずれか1項に記載の育苗装置。

【国際公開番号】WO2004/026023
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537522(P2004−537522)
【国際出願番号】PCT/JP2002/009678
【国際出願日】平成14年9月20日(2002.9.20)
【出願人】(000204099)太洋興業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】