説明

肺及び肺以外の結核を検出するための診断キット

疎水性材料でコーティングされた試験カード「TB Screen」、抗原懸濁、陽性及び陰性対照を含む肺及び肺以外の結核を検出するための診断キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺及び肺以外の結核を検出するための診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
結核を検出する従来の方法は時間と労力を要するAFB染色法であり、感度が低いと考えられている(100X顕微鏡を使用して塗沫標本の陽性結果を得るには、結核菌10,000個/ml痰を必要とする。Todar’s Text Book of Bacteriology Online参照)。ELISA−KP90もまた感度及び特異性の低いことが知られており(カットオフ値>1.0+ve、及び<0.8−ve試験結果)、BCGワクチン接種をした患者において感度及び特異性を欠く過敏性に基づくツベルクリン皮膚試験(Montaux試験)と同様に複雑な設備が必要である(Constantin P.et al.,Inf & Imm 1998;66)。同様に、MYCODOTはHIV関連患者には不都合であり(G.R.Somi et al.,Int J Tubercle and Lung Disease,19999,vol 3参照)、Bactec−460及びRoche molecular system(PCRに基づく製品)は、感度は高いが、非常に高価な装置及び専門的技術を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的:
本発明の目的の一つは、結核を検出するための診断キットを提案することである。
【0004】
本発明のその他の目的は、経済的で取り扱いが容易な診断キットを提案することである。
【0005】
本発明のさらに他の目的は、リポソーム凝集に基づく診断キットを提案することである。
【0006】
本発明の他の目的は、特異的抗原抗体反応に基づいているので、感度が高くそして特異的な診断キットを提案することである。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、結核の速やかな検出に役立つ診断キットを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要約
本発明により、疎水性材料でコーティングされた試験カード「TB Screen」と、抗原懸濁と、陽性及び陰性対照とを含む、肺及び肺以外の結核を検出するための診断キットが提供される。
【0009】
本発明により、陽性対照、陰性対照及び試験検体をそれぞれ円運動しながら疎水性材料によりコーティングされた試験カード上に適用し、該抗原懸濁を陽性、陰性及び試験検体のそれぞれに加えて結果を判定することを含み、ダークブルーの凝集として特異的抗原と抗体の凝集塊が陽性対照及び活動性結核感染を含む試験検体に観察される、キットを使用する結核を検出する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
Mycobacterium tuberculosis H37Rv(ATCC−27294)株を対数期後期まで(2〜3ヶ月)Sauton培地上で増殖し、細胞を4〜10℃で遠心分離して(5,000〜10,000g 10〜20分間)回収し、ペレットをPBS(pH7.2〜7.5)で洗い、TEN緩衝液pH8.0〜8.5(10mM Tris HCl,1mM EDTA,100mM NaCl)に再懸濁し、70〜80℃(水浴)で30〜45分間加熱不活化し、次いで超音波処理した。グリコリピド抗原を文献に記載された方法に従い、若干の修正を加えた方法で抽出した(Reggiardo et al.,1974;Bisen P.S.et al.,2003)。脂肪分解Mycobacteriumの粉末(10〜15g)をガラス試薬壜に入れ、これに100〜150mlのクロロホルム及びメタノールの混合物(2:1)を加えた。これを室温で50〜60分間攪拌し、Whatman濾紙No.1で濾過した。1/5容量の0.7% KCl(20.0ml)を濾液に加え、5〜6回振とうした。この懸濁液を分液ロートに移し、2層がはっきりと分離するまで終夜2〜8℃に維持した。下の有機層を1/5容量の洗浄溶媒(C:M:W:3:48:47)で同様に終夜2〜8℃に維持することにより洗浄した。上の水層を除去し、下の有機層を濾過した後保存した。有機層は、ロータリー溶媒エバポレーター中で40〜50℃において溶媒を蒸発させて乾燥した。水分は、窒素ガスを乾燥混合物に吹き付けて除去した。中性脂肪は、300〜500mlの冷却アセトンを加え、10〜20分間渦巻き攪拌し、Whatman No.1を通して濾過することにより、乾燥混合物から除去した。このステップは、フラスコ内の脂質が白っぽく又は無色になるまで繰り返した。これをWhatman No.1を通して濾過し、濾液を廃棄した。濾紙上に存在する脂質をC:M(2:1)で溶解し、R.Bフラスコに移した。溶媒は、減圧下に40〜50℃においてロータリーエバポレーターで除去した。粗精製調製品は10〜15mlのC:M(2:1)に溶解し、使用まで−20℃で保存した。
【0011】
抗原の精製:
100〜110℃において1〜1.30時間(加熱オーブン)活性化したシリカゲルHを、手操作でガラスカラム(2.5X30cm)に充填し、そして既知量の粗製物質(1g/5ml、保存液)をカラムのいずれか一方の側に装填した。カラムをクロマトグラフジャー(4.5X25cm)の上で、65:25:4(C:M:W)7,8の比の精製用溶媒150〜200ml(移動相)により上方向に室温において展開し、他端に達するまで展開した。カラムをクロマトグラフジャーから取り外し、ヒュームフードに置き、カラムから溶媒を蒸発させた。クリーンな棒を使用して1cmの長さの各フラクションを注意深く掻き出して、個々の分子の移動度と遅延係数(RF)値(46.6、53.4、58.3、67.2及び72.4%)にしたがってシリカゲルに吸着したそれぞれの分子を得た。それぞれのフラクションをそれぞれのフラクション番号を表示したクリーンな乾燥ガラス試験管の中に集めた。10mlの抽出溶媒(クロロホルム:メタノール2:1の混合物)を各試験管に加え、30〜40分間室温に保った。溶出した物質の純度をTLCにより分析し、選択したフラクションをさらにWhatman濾紙No.1を通して濾過して検体からシリカゲルを除去した。純粋なフラクションを集め、通常の方法でこれらの特徴を分析した(TLC上の免疫染色、ELISA及びリポソームにより)。
【0012】
リポソーム抗原の構築方法:
リポソームは、わずかの改良を加えて、以前に記述したように(Bangham A.D et al.1965)調製したが、簡単に記述すると、ホスファチジルコリン100〜150mg;コレステロール450〜500mg(Sigma,USA);抗原の懸濁液(カクテル)10〜20mg;及び色素50〜100μl(1.0%スーダンブラックBのクロロホルム液)を予め乾燥した丸底フラスコに入れた。溶媒をロータリー真空エバポレーターにより減圧下で蒸発させた。乾燥した内容物を40〜50mlの無水アルコール(99.9% Hyman,ドイツ)に溶解し、4〜10℃で1〜1.30時間保持した。スクロース溶液(4〜8ml;150mM)をポリプロピレン遠心試験管(容量35ml)に入れ、渦巻き攪拌しながらそれに予め調製した抗原のアルコール懸濁液4〜5mlを徐々に加えた。試験管を終夜4〜10℃に保ってリポソームを膨張させ、10〜15mlのPBS緩衝液(pH6.5)を加えて渦巻き攪拌し、10,000gにおいて10〜20分間遠心分離した(Beckman,USA)。上清を捨て、ペレットを20〜30mlのB2緩衝液、pH7.2(NaHPO.2HO,10mM;KHPO,10mM;EDTA,10mM;塩化コリン10%及びチオメルゾール0.1%)で再懸濁した。これを次の使用まで4〜10℃で保存し、キットの抗原試薬として使用した。
【0013】
ホスファチジルコリンの調製:
ホスファチジルコリン(PC)は検査のコストを下げるために施設内で調製した。当業者は卵黄からのPCの精製法及びその最終評価法を知っている(Sunamoto,J.et al 1978)。簡単に記述すると、25個の卵からアルブミン部分を除いた。集めた卵黄を750mlのクロロホルム:メタノール(2:1)で30分間攪拌して抽出した。Whatmann No.1を通して濾過した。5分の1容量の0.7%KC1で濾液を脱タンパクした。こうして得られた有機層を3:48:47のクロロホルム:メタノール:水で洗浄した。ベンゼンを使用して水分を除いた。溶媒をロータリー真空エバポレーターにより蒸発させて、脂質の乾燥フィルムを得た。中性脂質は記述したようにアセトンで除去した。空の丸底フラスコの重量を測定した(Wa)。乾燥した脂質フィルムと共にフラスコの重量を測定した。37.5gの粗製脂質が単離された。この粗製製品はさらにシリカゲルHクロマトグラフィーにより精製され、精製PCは薄層クロマトグラフィーにより分析され、PCの評価は先行技術(Sunamoto,J.et al 1978)で知られているように行った。
【0014】
試験の陽性対照の調製:
Sautonの培地中でのMycobacterium増殖物を遠心分離した後に、1mgのMycobacterium tuberculosisのペレットを採取した。このペレットを2回1X PBSで洗い、残る培地を除いた。次いでペレットを4mlの1Xリン酸緩衝食塩液に懸濁した。酸で洗った5mm直径のビーズの4〜8個を上記懸濁液に加えた。この検体を10分間渦巻き攪拌機上で激しく振とうした。得られた懸濁液を等容量のFreundの不完全アジュバントと混合した。この混合物を、必要レベルに達するまで繰り返し22g注射針を通して搾り出した。100μlの懸濁を2〜8ヶ月齢の若いウサギに接種した。多数のウサギに同様に接種した。
【0015】
1ヵ月後にウサギから採血し、血清を得た。血清の反応性は、次のパラグラフに示す試験方法に記述されているように、抗原懸濁でチェックした。反応性力価をチェックした。抗原のブースター投与(50μl)を再度繰り返した。ブースター投与の約7日後に約1:64から1:128の増強された力価が得られた。最良の反応性力価が得られた。この血清は最適の反応性力価に1X PBSで希釈され、含まれるいずれかの汚染物質に対する保存剤として0.1%アジドを加えた。使用/バイアルへの分注まで凍結保存した。
【0016】
4〜6ヶ月齢のウサギを上記抗原で免疫し、周期的に採血して、キットに供給される陽性対照に使用し、一方正常若齢ウサギを陰性対照に使用した。
【0017】
試験方法:
陽性対照、陰性対照、抗原懸濁及び試験する検体などの成分は全て実験を行う前に室温に平衡させた。陽性対照、陰性対照及び試験検体(それぞれ25μl)を、試験カード上に示されているように円運動させながら加えた。これらの試料を別々の棒で充分に結合するように広げ、それに25μlのリポソーム抗原を加え、そしてカードを4分間ゆっくりと渦巻状に動かした。
【0018】
新しく採取したかあるいは凍結した試験血清検体(25μl)を、疎水性材料でコートしたプラスチックスライドの円形の区域の内側に均一に広げた。結果を解釈するために、便宜上、区域1及び2にはそれぞれ、陽性対照(抗ウサギ血清)及び陰性対照(正常ウサギ血清)を広げた。区域1及び2を含む各円形区域に抗原懸濁(25μl)を加え、カードを手で4分間渦巻状に動かした。ダークブルーの凝集として、特異的抗原及び抗体の凝集塊が、陽性対照並びに活動性結核感染によるMycobacteriumグリコリピッドに対する抗体を含む検体において観察された。他方、カード上に凝集塊が無い場合は、陰性の結果を示した。円形区域の縁の乾燥により不明瞭な結果を示した場合には、この標本中に検出できないレベルの抗原濃度をこれらの検体が含んでいるので、15〜30日以内に、さらに確認する必要がある。
【実施例1】
【0019】
血清:
最大の母集団多様性をカバーするために、インドの種々の病院の外来患者部門(OPD)の患者血清をこの試験に登録した。患者は、臨床症状及びX線検査並びに塗沫標本染色及び検体の喀痰培養に基づいて診断された。患者は一人も完全な治療は行われていなかった。肺以外の結核並びに肺結核の両者の血清をこの試験に含めた。合計324検体の結核血清を試験した。
【0020】
この試験の特異性の基準を評価するために、TBの臨床症状の無い健康人の血清を陰性対照として含めた。これらの殆どはBCGワクチンを受けた被検者から得た。この非TB血清は、一般的に健康人か又は結核以外の種々の病気に罹患した患者から得たものである。血清は凍結保存され、採取されてから1年以内に使用された。結核陰性血清511検体もこの試験に含まれた。血清選択に使用された基準の詳細は次の通りである。
・塗沫標本陰性、培養陽性肺結核症例 52
・塗沫標本陽性、培養陽性、肺結核症例 180
・肺以外の培養陽性症例 35
・再発肺結核症例 57
・薬物治療、臨床症状の無い症例 60
・健康な家族接触者 50
・BCGワクチンを受けた子供 15
・B型肝炎陽性検体 15
・TB以外の一般的感染症の血清 27
・正常人血清 344
【実施例2】
【0021】
施設内評価:
一連の324検体の結核血清を使用して総合的感度98.68%が得られ、そのうち血清20検体は不明瞭な結果であった。WHOにより採用されている方法に従って、不明瞭な血清は感度及び特異性の計算に含めなかった。非結核血清511検体を使用して98.78%の総合的特異性が得られた。
【0022】
最近BCGで免疫された子供15例の血清について、この試験とワクチン接種の交差反応性を試験した。陽性結果を示す血清はなかったので、インド人及びその他の国の人のBCGワクチンを受けた母集団にこの試験が適することが示された。
【0023】
15症例のB型肝炎陽性検体が交差反応性について評価された。試験した血清のいずれにおいても反応はなかった。B型肝炎4例の血清をHopkins Research Institute,Bombayにおいてキットを使用して試験したが、無反応であった(施設内試験の表には含めなかった)。
【0024】
他の一般的感染症の血清27検体のうち、25検体は明白な陰性を示したが、残りの2検体は不明瞭な結果であった。結核への進行についてこの被検者を追跡する必要があったが、残念ながらこれを行うことができなかった。決定できない結果は特異性及び感度の計算から除外した。
【0025】
施設内試験の結果を以下の表にまとめた:
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
調査対象の被検者の新鮮血清を使用した場合に優れた結果が得られた。凍結血清は解凍後使用することができるが、検体の凍結解凍の反復は結果に影響を及ぼす可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性材料でコーティングしたカード「TB Screen」と、抗原懸濁液と、陽性対照と、陰性対照とを含む、肺の及び肺以外の結核を検出するための診断キット。
【請求項2】
前記抗原懸濁がリポソーム抗原であり、前記試験カードが好ましくはプラスチックスライドである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記陰性対照が正常若齢ウサギの血液から調製される、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
前記陽性対照が、Mycobacterium抗原で免疫されて周期的に採血される4から6ヶ月齢のウサギから調製される、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
疎水性材料でコーティングした試験カード上に陽性対照、陰性対照及び試験検体をそれぞれ円運動しながら(脱字)し、該抗原懸濁を陽性対照、陰性対照及び試験検体のそれぞれに加えて結果を判定することを含み、ダークブルーの凝集として特異的な抗原と抗体の凝集塊が陽性対照及び活動性結核感染を含む試験検体に観察される、キットを使用して結核を検出する方法。
【請求項6】
前記陽性対照のための脂質抗原が、
Mycobacterium tuberculosis H 37 Rv(ATCC−27294)株をSauton培地上で増殖し、
培地中の細胞を4〜10℃において遠心分離して回収し、
該細胞に超音波処理を行い、
該細胞から抗原を抽出し、
該抗原に攪拌しつつ室温においてクロロホルムとメタノールの混合物(2:1)を加え、
該混合物を濾過のステップにかけ、
こうして得られた懸濁液を分液ロートに移し、二つの異なる層が分離するまで終夜保ち、上の水層を除去し、下の有機層を濾過後保持し、有機層を溶媒を蒸発させることにより乾燥して脂質を得、該脂質をさらに精製のステップに付す、
ことにより調製される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抗原懸濁液を
ホスファチジルコリン、コレステロール、脂質抗原及び色素をフラスコに入れて、溶媒を真空エバポレーター中で蒸発させ、
こうして得られた乾燥した内容物を無水アルコールに溶解し、4〜10℃に1〜2時間保って抗原懸濁液を作成し、
該抗原溶液を攪拌を継続しつつスクロース溶液に加え、該懸濁液を2〜8℃で終夜保持し、
該懸濁液を遠心分離のステップにかけ、上清を廃棄し、
ペレットを緩衝液中に懸濁し、それを4〜10℃で攪拌する、
ことにより調製する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記脂質(抗原)が、さらにカラムクロマトグラフィーを使用して精製される、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記緩衝液が、NaHPO2HO,KHPO,EDTA,塩化コリン及びチオメルゾールを含む請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記色素が、クロロホルム中のスーダンブラックである請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2007−523342(P2007−523342A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553765(P2006−553765)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【国際出願番号】PCT/IN2005/000063
【国際公開番号】WO2005/080987
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(505220114)デパートメント オブ バイオテクノロジー (6)
【出願人】(506282034)マーダヴ インスティチュート オブ テクノロジー アンド サイエンス (1)
【Fターム(参考)】