説明

肺疾患を診断、モニタリングおよび治療するための方法

本発明は、喘息と閉塞性肺疾患とを区別する方法、肺疾患を治療する方法、咳を治療する方法、閉塞性肺疾患のための治療の有効性を評価する方法、およびP2−プリン受容体(P2R)の活性化を阻害する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺疾患に関し、より特定的には、肺疾患(たとえば咳または閉塞性肺疾患)の治療、さらには喘息や慢性閉塞性肺疾患のような肺疾患の診断、モニタリングおよび治療に関する。
【背景技術】
【0002】
閉塞性肺疾患(OPD)や咳のような肺疾患は、依然として医学的にも経済的にも悲惨な状態にある。たとえば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、現在、米国で第4位の死亡原因であり、2020年には第3位になると予想される。推定で1000万人の米国成人はCOPDを有し、有病率は上昇している。COPDの直接的および間接的な管理費は、毎年320億ドルを超える[Mapel (2004). Manag. Care Interface 17:61-6]。世界保健機関(WHO)は、2000年において全世界で274万人の死亡(2.74 deaths)がCOPDに起因すると推定した[Burney P. (2003) Eur. Respir. J. Suppl. 43:1s-44s]。したがって、COPD、他のOPDおよび咳を診断、モニタリングおよび治療する方法を開発することが急務となっている
【非特許文献1】Mapel (2004). Manag. Care Interface 17:61-6
【非特許文献2】Burney P. (2003) Eur. Respir. J. Suppl. 43:1s-44s
【発明の開示】
【0003】
概要
本発明は、部分的には、(i)アデノシン5’−三リン酸(ATP)および関連化合物が、OPD、OPDの症状、または咳に関連する迷走神経感覚神経末端を活性化すること、ならびに(ii)特定のP2−プリン受容体(P2R)アンタゴニストを用いてそのような活性化を効果的に阻害しうること、を見いだしたことに基づく。これらの知見は、OPDの治療の有効性をモニタリングしたり喘息とCOPDとを区別する試験を行ったりするための基礎となる。そのほかに、本発明は、OPDおよび咳の治療方法を特徴とする。
【0004】
より特定的には、本発明は、診断方法を提供する。この方法は、(a)喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)であることが疑われる被験体を特定すること;(b)被験体に誘発化合物を投与すること;(c)投与の前後での肺機能の変化を測定すること;(d)肺機能の変化が(i)喘息または(ii)COPDの対照被験体における肺機能の変化のどちらとより類似しているかを決定すること;および(e)(1)被験体における肺機能の変化がCOPDの対照被験体における肺機能の変化よりも喘息の対照被験体における肺機能の変化に類似している場合に喘息の可能性があるものとして;または(2)被験体の肺機能の変化が喘息の対照被験体における肺機能の変化よりもCOPDの対照被験体における肺機能の変化に類似している場合にCOPDの可能性があるものとして;被験体を分類すること;を含む。肺機能の変化は、たとえば、努力呼気肺活量(FEV)、比気道コンダクタンス(sGaw)、ボルグスコア、機能的残気量(FRC)、努力呼気流量(FEF)、およびピーク呼気流速(PEFR)における任意に特定された変化を引き起こすために必要とされる誘発化合物の量の関数として、測定可能である。任意に特定された変化は、約10%より大きい低下または増大でありうる。たとえば、FEVにおける任意に特定された低下は、たとえば、約20%の低下でありうる。誘発化合物は、たとえば、アデノシン5’−三リン酸(ATP);またはATPのアナログ、たとえば、α,β−メチレンATP(α,βmATP);β,γ−メチレンATP(β,γmATP);もしくはジアデノシン五リン酸(ApA)などでありうる。ATPのアナログは、誘発物質活性を有する他のアナログを包含する。投与は、たとえば、肺内吸入によるものであるかまたは静脈内ボーラス注射によるものでありうる。
【0005】
他の態様において、本発明は、治療方法を提供する。この治療方法は、(a)上述の診断方法を実施すること;および(b)被験体の喘息またはCOPDを治療すること;を含む。治療は、2型プリン受容体(P2R)アンタゴニスト、たとえば、P2Y受容体アンタゴニストおよび/またはP2X受容体アンタゴニストを被験体に投与することを含みうる。治療は、1種以上のコルチコステロイド、1種以上のβ−アドレナリン受容体アゴニスト、または1種以上の鎮咳薬を被験体に投与することを含みうる。本方法に有用な薬剤としては、たとえば、ピリドキサルリン酸−6−アゾフェニル−2’4’−ジスルホン酸(PPADS);5−{[3”−ジフェニルエーテル(1’,2’,3’,4’−テトラヒドロナフタレン−1−イル)アミノ]カルボニル}ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸;2’,3’−O−(4−ベンゾイルベンゾイル)−ATP(BzATP);テトラメチルピラジン(TMP);および2’,3’−O−2,4,6−トリニトロフェニル−ATP(TNP−ATP)が挙げられる。
【0006】
OPDの治療に有用な薬剤としては、式(I):
【化1】

【0007】
で示される化合物またはその製薬上許容される塩を挙げることができる。式中、AおよびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルより選択されるか;またはAおよびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;Aは、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルより選択され;A、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルより選択され;A、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソより選択され;RおよびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノより選択され;Rは、水素およびアルキルより選択され;Rは、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;RおよびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルより選択され;Lは、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;mは0〜10の整数であり;nは0〜10の整数であり;Rは、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;Lは、不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;pは0〜10の整数であり;qは0〜10の整数であり;かつRは、不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環より選択される。
【0008】
式(I)で示される化合物としては、たとえば、式(II):
【化2】

【0009】
を有する5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)を挙げることができる。
【0010】
同様に本発明により具現化されるのは、喘息またはCOPDの治療の有効性を評価する方法である。この方法は、(a)上述の治療方法を実施すること;(b)被験体に誘発化合物を投与すること;(c)投与の前後での肺機能の変化を測定するかまたは少なくとも1種の症状の変化を検出すること;(d)被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、治療を行う前に測定または検出された該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化に近いかどうかを決定すること;および(e)被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状(at least symptom)の変化が、治療を行う前に測定または検出された該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化に近い場合に、治療を有効であると分類すること;を含む。
【0011】
本発明の他の態様は、閉塞性肺疾患(OPD)の治療の有効性を評価する方法である。この方法は、(a)OPDの治療がなされた被験体を特定すること;(b)被験体に誘発化合物を投与すること;(c)投与の前後での肺機能の変化を測定するかまたは少なくとも1種の症状の変化を検出すること;(d)被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、OPDの治療の前に測定または検出された該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化に近いかどうかを決定すること;および(e)被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、治療の前に測定または検出された該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化に近い場合に、治療を有効であると分類すること;を含む。肺機能の変化の測定、誘発化合物、および誘発化合物の投与経路は、診断方法に関連して上述したとおりでありうる。少なくとも1種の症状の変化は、たとえば、ボルグスコア;咳;胸の圧迫感;喉の圧迫感;喀痰;または喘鳴の変化でありうる。OPDは、たとえば、喘息、COPD、または慢性的な咳でありうる。被験体は、治療方法に関連して先に挙げた治療のいずれかが施されたものでありうる。たとえば、被験体は、式(I)で示される1種以上の化合物、たとえば、式(II)で示される化合物、すなわち、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)などが投与されたものでありうる。被験体は、たとえば、鎮咳薬で治療されたものでありうる。また、少なくとも1種の症状は、咳でありうる。咳の変化は、咳嗽を誘発するのに必要とされる誘発化合物の量の関数として測定可能である。
【0012】
本発明の他の態様は、OPDまたは咳の治療方法である。この方法は、(a)OPDであるか、OPDに関連した1種以上の症状を有するか、または咳をしている哺乳動物被験体を特定するステップ;および式(I)で示される1種以上の化合物を含んでなる治療上有効な用量の医薬組成物を被験体に投与するステップ;を含む。化合物は、たとえば、式(II)で示される化合物、すなわち、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)でありうる。OPDは、咳嗽を包含しうるか、またはたとえばCOPDおよび喘息でありうる。OPDはまた、急性気管支炎、肺気腫、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、および急性喘息を包含しうる。また、症状は、たとえば咳でありうる。式(I)で示される1種以上の化合物、たとえば、式(II)で示される化合物(すなわちA−31749)は、迷走神経求心性神経末端上のP2Rにより媒介される迷走神経活性化を阻害する能力を有しうる。迷走神経求心性神経末端は、たとえば、C線維末端またはA線維末端でありうる。P2Rは、P2X受容体、たとえば、P2XまたはP2X2/3などでありうる。迷走神経活性化は、ATPまたはATPのアナログ、たとえば、α,βmATPもしくはβ,γmATPなどによるものでありうる。1種以上の化合物を含む医薬組成物は、肺内吸入または静脈内ボーラス注射により投与可能である。組成物はまた、次の経路:経口、経皮、直腸内、膣内、鼻内、眼内、胃内、気管内もしくは肺内、皮下、筋内、または腹腔内のいずれかを介して投与することも可能である。
【0013】
本発明の他の態様は、肺迷走神経感覚神経線維上のP2Rの活性化を阻害する方法を包含する。この方法は、迷走神経感覚神経線維を1種以上の化合物(各化合物は式(I)で示される)に接触させることを含む。化合物は、たとえば、式(II)で示される化合物、すなわち、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)でありうる。P2Rの活性化の阻害は、P2Rにより活性化されるカチオン流出入を阻害することを包含しうる。迷走神経感覚神経線維と組成物との接触は、in vitroでまたはたとえばヒトなどの哺乳動物被験体内でin vivoで行われうる。また、哺乳動物被験体に組成物を投与することを含みうる。哺乳動物被験体は、OPDおよび/または咳を有しうる。組成物は、OPDの治療方法に関連して上述したように投与可能である。OPDは、たとえば、COPD、喘息、または咳を包含しうる。OPDはまた、急性気管支炎、肺気腫、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、および急性喘息を包含しうる。迷走神経感覚神経線維は、C線維またはA線維でありうる。P2Rは、P2X受容体、たとえば、P2XまたはP2X2/3などでありうる。迷走神経活性化は、ATPまたはATPのアナログ、たとえば、α,βmATP、β,γmATP、もしくはAp5Aなどに応答するものでありうる。本発明の目的では、ATPのアナログは、誘発物質活性を有する。
【0014】
とくに定義がないかぎり、本明細書中で使用される科学技術用語はすべて、本発明が関係する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同一の意味を有する。矛盾を生じた場合には、定義を含む本文書に従うことになろう。好ましい方法および材料を以下に記載するが、本発明を実施または試験する際、本明細書に記載のものと類似したまたは等価な方法および材料を使用することが可能である。刊行物、特許出願、特許、および本明細書に記載の他の引用文献はすべて、それらの全体が参照により組み入れられるものとする。本明細書に開示される材料、方法、および実施例は、例示的なものにすぎず、それらに限定しようとするものではない。
【0015】
本発明、たとえば、喘息とCOPDとを区別する試験、の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から、図面から、および特許請求の範囲から、自明なものとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
詳細な説明
求心性神経情報を肺から脳に伝達する3つの主要な感覚経路、すなわち、C線維、緩徐適応性受容体(SAR)含有線維、および迅速適応性受容体(RAR)含有線維が存在する。C線維は、刺激されないかぎり静止状態にある無髄緩徐伝導性線維である。それらの末端は、化学的および機械的な刺激に応答する二モード受容体を含有する。SARおよびRARを含有する線維は、各呼吸周期中に活性化される迅速伝導性有髄線維である。複数の内因性および外因性の化合物は、C線維およびRAR含有線維を刺激する。赤トウガラシ中の活性成分カプサイシンは、C線維を刺激するが、RAR含有線維を刺激しない。なぜなら、後者は、カプサイシン受容体(バニロイド(valinoid)受容体、VR−1)が欠如しているからである。
【0017】
アデノシン5’−三リン酸(ATP)は、すべての生細胞に見いだされるプリンヌクレオチドであり、細胞代謝およびエネルギー過程で重要な役割を果たす。ATPは、生理学的および病態生理学的な条件下で細胞から放出され、細胞外ATPは、局所生理学的レギュレーターとして、さらには閉塞性気道疾患の病態生理で機構的役割を果たす内因性メディエーターとして作用する[Pelleg et al. (2002) Am. J. Ther. 9:454-464]。ATPは、樹状細胞、好酸球、およびマスト細胞に対して強力な効果を発揮する。たとえば、それは、ヒト肺マスト細胞からのヒスタミンおよび他のメディエーターのIgE媒介放出を促進する[Schulman et al. (1999) Am. J. Respir. Cell. Mol. Biol. 20:530-537]。細胞外ATPはまた、肺内の迷走神経感覚(求心性)神経末端を刺激してニューロペプチドの放出を刺激することにより、神経原性の気管支収縮および炎症を悪化させる[Pelleg et al. (2002), 上掲; Schulman et al. (1999), 上掲; Katchanov (1998) Drug Dev. Res. 45:342-349]。喘息の患者は、吸入ATPに対して正常者よりも強い応答(すなわち気管支収縮)を呈し、両方のグループの被験体において、ATPは、メタコリンおよびヒスタミンよりも強力であることが明らかにされている[Pellegrino et al. (1996) J. Appl. Physiol. 81: 342-349]。
【0018】
アデノシンは、ATPの酵素的分解の産物であるプリンヌクレオシドである。エアロゾル化アデノシンは、喘息被験体では気管支収縮を引き起こすが、健常被験体では引き起こさない[Cushley et al. (1983) Br. J. Clin. Pharmacol. 15:161-165]。喘息患者において気管支収縮を誘発する能力に関してアデノシンおよびアデノシン5’−一リン酸(AMP)の用量−応答曲線が同一であるので[Mann et al. (1986) J. App. Physiol. 61:1667-1676]、それらは同一の経路により作用すると結論付けられている。AMPの作用は、おそらく、エクト酵素によるAMP分解により産生されるアデノシンにより媒介される。そのほか、AMPは、アデノシンよりもはるかに可溶性であるので、AMPは、臨床の場でアデノシンの代わりに使用されてきた。気道平滑筋細胞に及ぼすAMPおよびアデノシンの効果は、マスト細胞およびこれらの細胞から放出される炎症性メディエーターにより媒介される。
【0019】
細胞外ATPは、P2プリン受容体(P2R)として知られる細胞表面受容体、特定的にはP2XクラスのP2Rを活性化することにより、さまざまな組織および器官で多くの細胞型に影響を及ぼす。P2Rは、アデノシン受容体であるP1プリン受容体(P1R)とは異なる。P2Rは、2つのファミリー、すなわち、リガンド結合性二量体細胞膜貫通カチオンチャネルP2Xおよび七回細胞膜貫通ドメインGタンパク質共役受容体P2Yに分けられる。8種のP2Y(P2Y、P2Y、P2Y、P2Y、P2Y11、P2Y12、P2Y13、およびP2Y14)、7種のホモ二量体P2X受容体サブタイプ(P2X1−7)、ならびに5種のP2Xヘテロ二量体受容体(X1/2、X2/3、X2/6、X1/5、およびX1/6)が同定され、クローニングされている。一般的には、P2Y受容体を刺激すると細胞内シグナル伝達経路が活性化され、その結果、細胞内カルシウム(Ca2+)イオンのレベルが増大する。
【0020】
エアロゾル化ATPは、健常被験体において気管支収縮を引き起こすが、AMP/アデノシンは、引き起こさない。そのほか、ATPは、肺の迷走神経感覚神経末端(C線維さらにはRAR含有線維)を活性化するが、アデノシンは、活性化しない。ATPは、サブクラスのP2X受容体を介してこの活性を刺激する[Pelleg et al (1996) J. Physiol. 490(1):265-275;米国特許第5,874,420号;以下の実施例5および6]。
【0021】
以下の実施例に記載される試験は、ATPに対する哺乳動物肺の応答とAMPに対する応答との定性的な差、ひいてはATPに対する肺の応答とアデノシンに対する応答との差についてのさらなる証拠を提供する。これらの試験はまた、特定的にはATPに応答する迷走神経感覚神経末端上に局在化されたP2Rの活性化を選択的に阻害する化合物を使用することの論拠を提供する。重要なこととして、これらの試験は、哺乳動物被験体が喘息またはCOPDのいずれであるかを確定したり、喘息やCOPDのようなOPDを治療したり、咳を治療したり、OPDの治療の有効性を評価したりする方法の基礎となる。本発明はまた、肺迷走神経感覚神経線維上のP2Rの活性化を阻害する方法を包含する。これらの方法について以下で説明する。
【0022】
診断、治療、および治療の有効性の評価を行う方法
本発明には、(a)喘息とCOPDとを区別する方法;(b)OPDの被験体を治療する方法;および(c)特定の治療法の有効性を評価する方法;が包含される。治療方法および特定の治療の有効性の評価方法は、喘息とCOPDとを区別する1種以上の方法を最初に行うことを併用せずにまたは併用して実施可能である。そのほかに、治療の有効性の評価方法は、以下に記載の1種以上の治療方法または当技術分野で公知の任意の他の治療方法を実施した後で使用可能である。
【0023】
診断方法
診断方法では、喘息またはCOPDであることが既知である被験体に誘発化合物を投与し、被験体における肺機能に及ぼす化合物の効果を測定する。これに関連して、「肺機能の測定」という用語は、好ましくは、肺機能を客観的に評価する試験(たとえば、スパイロメトリーまたはプレチスモグラフィー)を能動的に実施することを包含するものと解釈される。やや好ましい試験は、咳嗽、喀痰、胸の圧迫感、喉の炎症、喘鳴、またはボルグスコアのような肺の症状を検出することを含む。したがって、「肺機能の変化」の測定とは、上述の試験のいずれかにより測定される肺機能の変化を測定することを意味する。
【0024】
有用な誘発化合物としては、ATPおよび関連化合物(アナログ)、たとえば、α,β−メチレン−ATP(α,βmATP);β,γ−メチレン−ATP(β,γmATP);2−メチルチオ−ATP;およびジアデノシン五リン酸(ApA)が挙げられる。誘発化合物は、単独でまたは組み合わせて、たとえば、2、3、4、もしくは5種を組み合わせて、使用可能である。本明細書中で使用する場合、「誘発化合物」とは、哺乳動物被験体(たとえば、ヒト)に投与したときに肺機能の顕著な低下を引き起こす化合物のことである。誘発化合物は、たとえば、肺の迷走神経線維の末端上のP2R(たとえば、P2X2/3受容体)を刺激することにより、作用可能である。「肺機能の顕著な低下」とは、少なくとも5%(たとえば、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%)の機能の低下を意味する。肺機能の低下は、たとえば、気管支収縮、咳嗽、喘鳴、または本明細書に挙げた症状のいずれかにより、実証可能である。
【0025】
被験体は、喘息、COPD、または慢性的な咳のようなOPDに罹患しやすい任意の哺乳動物種、たとえば、ヒト、非ヒト霊長類(たとえば、サル、ゴリラ、およびヒヒ)、ウマ、ウシ属動物(たとえば、雌ウシ、種ウシ、および去勢ウシ)、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ラット、およびマウスでありうる。被験体は、好ましくは、ヒト患者である。
【0026】
誘発化合物の投与経路は、化合物と、被験体の体内の化合物の作用部位(すなわち、肺)との接触を生じる任意の経路でありうる。適切な投与経路はとしては、肺内(たとえば、吸入)、経口、局所、下皮、皮内、皮下、経皮、静脈内(たとえば、静脈内ボーラス)、筋内、および非口腔内の投与方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。投与は、好ましくは、肺内に、たとえば、エアロゾル化肺内パフとして施される。
【0027】
誘発化合物の用量は、約0.1μg〜約100mg/kg(体重)、好ましくは約10μg〜約20mg/kgの範囲内であろうと考えられる。誘発化合物を含有する医薬組成物は、一回用量、複数回用量で、または持続放出により、投与可能である。誘発化合物は、ボーラスとして投与可能である。当業者であれば、本明細書に記載の教示および当業者の個人的知識に基づいて通常の実験により剤形および量を決定できるであろう。
【0028】
投与経路が肺内である場合、1種以上の誘発化合物を含有する組成物は、当技術分野で公知のさまざまな吸入器のいずれか、たとえば、携帯型噴射剤利用吸入器を用いて、投与可能である。他の選択肢として、たとえば、コンプレッサーに結合されたネブライザーにより、微細スプレー状組成物の形態で投与可能である。
【0029】
誘発化合物組成物中で、化合物は、たとえば、溶液または懸濁液の形態で、溶媒中に分散可能である。それらは、適切な生理溶液中、たとえば、生理食塩水中に分散可能である。組成物はまた、1種以上の賦形剤を含有可能である。賦形剤は、当技術分野で周知であり、例としては、緩衝剤(たとえば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、および重炭酸緩衝剤)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(たとえば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、グルコース、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、またはプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールのようなグリコールが挙げられる。溶液または懸濁液は、リポソーム中または生分解性マイクロスフェア中にカプセル化可能である。好適な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチルパラベンもしくはプロピルパラベン、およびクロロブタノールが挙げられる。医薬製剤は、当技術分野で公知である。たとえば、Gennaro Alphonso(編), Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, (1990) Mack Publishing Company, Easton, PAを参照されたい。
【0030】
本発明に係る診断法では、肺機能に及ぼす化合物の効果は、当技術分野で公知のさまざまな方法のいずれかにより測定可能である。肺機能は、誘発化合物の投与前および投与後、任意により投与中に測定される。それは、誘発化合物の投与直後または投与から顕著な時間が経過した後、測定可能である。したがって、肺機能は、必要に応じて、誘発化合物の投与の1もしくは2秒後〜数ヶ月後(たとえば、10秒後、20秒後、30秒後、45秒後、1分後、2分後、5分後、10分後、20分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、3時間後、5時間後、8時間後、10時間後、12時間後、15時間後、18時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、7日後、10日後、2週間後、3週間後、1ヵ月後、2ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後、5ヶ月後、または6ヶ月後)に測定可能である。
【0031】
肺機能の測定は、定量的、半定量的、または定性的でありうる。したがって、それは、たとえば、離散値として測定可能である。他の選択肢として、それは、当技術分野で公知のさまざまな半定量的/定性的システムのいずれかを用いて評価し表現することが可能である。したがって、肺機能は、たとえば、(a)「優」、「良」、「満足」、「不満足」、および/もしくは「劣」の1つ以上;(b)「極高」、「高」、「並」、「低」、および/もしくは「極低」の1つ以上;または(c)「++++」、「+++」、「++」、「+」、「+/−」、および/もしくは「−」の1つ以上;で表現可能である。
【0032】
次に、誘発化合物の作用に基づく被験体における肺機能のレベルの変化は、喘息またはCOPDのいずれかの対照患者集団から得られる肺機能のレベルの平均変化と比較される。被験体における肺機能のレベルの変化が、対照COPD患者における肺機能のレベルの平均変化よりも対照喘息患者における肺機能のレベルの平均変化に近い場合には、被験体は、喘息である可能性がある。一方、被験体における肺機能のレベルの変化が、対照喘息患者における肺機能のレベルの平均変化よりも対照COPD患者における肺機能のレベルの平均変化に近い場合には、被験体は、COPDである可能性がある。
【0033】
したがって、たとえば、1秒間の努力呼気肺活量(FEV;最大吸気後の最大呼気の最初の1秒間で呼出された量)のレベルに及ぼす誘発化合物の効果は、当技術分野で公知の任意の手段により試験可能である。たとえば、肺機能の変化は、FEVの任意に特定された低下を引き起こすのに必要とされる誘発化合物の濃度(または量)として表すことが可能である(たとえば、実施例2参照)。FEVの任意に特定された低下は、たとえば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、または約50%の低下でありうる。これとの関連で使用する場合、「約」とは、FEVの任意に特定された低下が指定のパーセントから1〜4パーセントポイント変動しうることを意味する。したがって、たとえば、約20%の低下は、16%〜24%の低下でありうる。
【0034】
他の選択肢として、たとえば、FEVレベルに及ぼす誘発化合物の一定用量の効果を測定することが可能である。そのほかに、FVC(努力肺活量;努力動作時に呼出しうる最大空気量)のパーセントとしてFEV値を表すことが可能である。
【0035】
肺機能を示す他のパラメーター、たとえば、比気道コンダクタンス(sGaw)、ボルグスコア、機能的残気量(FRC)、努力呼気流量(FEF)、およびピーク呼気流速(PEFR)は、第1の手法(対象のパラメーターのレベルの任意の変化を引き起こすのに必要な誘発化合物の量を測定する)または上述の第2の手法(対象のパラメーターのレベルに及ぼす一定用量の誘発化合物の効果を測定する)のいずれかを用いて、利用可能である。当業者は、これらのパラメーターの測定方法に精通している。変化は、測定されるパラメーターに応じて、低下または増大である。パラメーターの任意に特定された変化は、たとえば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、または約50%の変化でありうる。
【0036】
治療方法
治療方法は、診断方法で列挙された哺乳動物被験体のいずれかにおいて、咳またはOPD、たとえば、喘息、COPD、または慢性的な咳を治療する任意の方法でありうる。有用な治療薬としては、たとえば、経口および/または吸入コルチコステロイド、βアドレナリン受容体アゴニスト、抗コリン作動薬、ロイコトリエンアンタゴニスト、免疫グロブリンE(IgE)に特異的な抗体(たとえば、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、たとえば、ヒト化モノクローナル抗体)、チロシンキナーゼ阻害薬、テオフィリン、または鎮咳薬が挙げられる[Tamul et al. (2004) Crit. Care. Med. 32 (4 Suppl):S137-S145; Frew (2004) Clin. Allergy Immunol. 18:561-566; Allen-Ramey (2004) Ann. Epidemiol. 14:161-167; Wong et al. (2004) Biochim. Biophys. Acta. 1697:53-69; Hansel et al. (2004) Drugs Today (Barc) 40:55-69; Vignola (2003) Drugs.63 (Suppl 2):35-51; Creticoa Drugs 63 (Suppl 2):1-20]。それらはまた、たとえば、咳またはOPD、たとえば、喘息、COPD、または慢性的な咳の被験体にP2−プリン受容体(P2R)アンタゴニストを投与する方法を包含する。
【0037】
本明細書中で使用する場合、「P2Rアンタゴニスト」という用語は、(a)P2Rを発現する細胞のP2Rアゴニストによる活性化を阻害する薬剤、または(b)P2Rを発現する細胞の活動を阻害する薬剤を包含する。そのようなP2Rアンタゴニストは、関連するアゴニストのP2Rでの結合部位に結合することによりP2Rへのアゴニストの結合を完全にまたは実質的に阻害することによって、作用することが可能であるか、またはそれらは、アゴニストのP2Rでの結合部位以外の部位で結合して、P2Rへのアゴニストの結合が完全には阻害されないにしても実質的に阻害されるようにP2Rのコンホメーション変化を引き起こすことによって、アロステリックに作用することが可能である。他の選択肢として、P2Rアンタゴニストは、アゴニスト結合部位または別の部位でP2Rに結合して阻害シグナルを細胞に送達することによって、P2Rを発現する細胞の活動を阻害することが可能である。他の選択肢として、P2Rアンタゴニストは、P2Rにより開始される関連するシグナル伝達の1つ以上の過程を妨害することによって、P2Rの下流の部位で作用することが可能である。
【0038】
本発明に有用なP2Rアンタゴニストとしては、P2X受容体アンタゴニストおよびP2Y受容体アンタゴニストが挙げられる。P2X阻害薬の例としては、たとえば、ピリドキサルリン酸−6−アゾフェニル−2’4’−ジスルホン酸(PPADS);5−{[3”−ジフェニルエーテル(1’,2’,3’,4’−テトラヒドロナフタレン−1−イル)アミノ]カルボニル}ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸;2’,3’−O−(4−ベンゾイルベンゾイル)−ATP(BzATP);テトラメチルピラジン(TMP);2’,3’−O−2,4,6−トリニトロフェニル−ATP(TNP−ATP)が挙げられる。重要なこととして、PPADSは、ATPをイヌに投与することにより誘導される迷走神経活動電位の数を減少させることが明らかにされた(米国特許第5,874,420号(参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい)。
【0039】
P2Y受容体アンタゴニストはまた、喘息、COPD、および/または慢性的な咳を治療するのに有用でありうる。たとえば、N−メチル−2’−デオキシアデノシン3’,5’−二リン酸、β,γ−イミド−ATP、およびジアデノシン−n(4〜6)−リン酸は、P2Yのアンタゴニストである。ATPは、P2Yのアンタゴニストであり、化合物AR−C69931MX(Astra−Zeneca)およびAR−66096(Astra−Zeneca)は、P2Y12受容体の強力なアンタゴニストである[Shaver SR(2001) Curr. Opin. Drug Disc. Dev. 4:665-70]。化合物2,2’−ピリジルイサトゲントシレート(PIT)もまた、P2Y受容体のアンタゴニストおよびアロステリック改変剤である[Spedding (2000) J. Auton. Nerv. Sys. 81:225-7]。IgEにより活性化される肺マスト細胞によるヒスタミン放出を促進するATPの先に挙げた能力は、P2Y受容体により媒介されるので、P2Y受容体アンタゴニストは、喘息の治療にとくに有効である可能性がある。
【0040】
OPDまたは咳を治療するうえで同様に興味深いのは、P2Rの特定の非ヌクレオチドアンタゴニストである。たとえば、P2XおよびP2X2/3受容体をブロッキングするために高い親和性および選択性を有して神経障害性および炎症性の動物疼痛モデルにおいて痛覚を用量依存的に減少させる非ヌクレオチドアンタゴニストのファミリー(たとえば、Jarvis et al. (2002) PNAS. 99(26):17179-17184および米国特許第6,831,193B2号(いずれも参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい)は、とくに興味深い。これらの化合物のうちの1つであるA−317491は、α,βmATPにより活性化されるC線維およびA線維の迷走神経感覚神経応答を阻害するのにきわめて有効であることが確認された(以下の実施例6を参照されたい)。
【0041】
とくに興味深いのは、P2XおよびP2X2/3受容体アンタゴニストである。そのような化合物の例は、米国特許第6,831,193号に記載されるものであり、式(I):
【化3】

【0042】
で示される化合物またはその製薬上許容される塩である。式中、AおよびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルより選択されるか;またはAおよびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;Aは、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルより選択され;A、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルより選択され;A、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソより選択され;RおよびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノより選択され;Rは、水素およびアルキルより選択され;Rは、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;RおよびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルより選択され;Lは、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;mは0〜10の整数であり;nは0〜10の整数であり;Rは、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;Lは、不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;pは0〜10の整数であり;qは0〜10の整数であり;かつRは、不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環より選択される。
【0043】
式(I)で示される化合物に関連して以上で(ならびに本明細書および添付の特許請求の範囲を通して)使用される化学命名法は、米国特許第6,831,193B2号(その全体が本明細書に組み入れられるものとする)で、たとえば、第18欄の第57行〜第24欄の第22行で使用されるものである。
【0044】
式(I)で示される化合物としては、たとえば、式(II)で示される化合物、すなわち、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491):
【化4】

【0045】
が挙げられる。
【0046】
本発明に係るこれらの方法に有用である式(I)で示される追加の化合物は、米国特許第6,831,193B2号(その開示内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)に列挙されている。
【0047】
治療薬は、単独でまたは組み合わせて、たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、18、20、もしくは25種を組み合わせて、投与可能である。被験体、投与経路、および治療方法に使用するための薬剤組成物(たとえば、医薬組成物)の処方は、診断方法(上記参照)のときと同一である。
【0048】
たとえば、医薬組成物は、肺内に(たとえば、吸入により)、経口的に、経直腸的に、非経口的に、膣内に、腹腔内に、局所的に(粉末剤、軟膏剤、もしくは滴剤として)、頬腔内に、または経口スプレーもしくは経鼻スプレーとして、投与可能である。非経口投与としては、静脈内、筋内、腹腔内、胸骨内、皮下、および関節内の注射および注入が挙げられうる。組成物の経口投与は、固体または液体の製剤を含む。組成物の固体投与は、たとえば、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末剤、および顆粒剤を含み、一方、液体投与は、エマルジョン剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤、およびエリキシル剤を含みうる。
【0049】
薬剤を含有する医薬組成物は、粉末剤、スプレー剤、軟膏剤、および吸入剤の形態で投与可能である。医薬組成物の1種以上の薬剤は、製薬上許容される担体および任意の必要とされる保存剤、緩衝剤、または噴射剤と無菌条件下で混合可能である。医薬組成物はまた、1種以上の医薬賦形剤を含有可能である。そのような組成物では、化合物は、たとえば、溶液または懸濁液の形態で、溶媒中に分散可能である。医薬賦形剤は、当技術分野で周知であり、例としては、緩衝剤(たとえば、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、および重炭酸緩衝剤)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質(たとえば、血清アルブミン)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、塩化ナトリウム、リポソーム、グルコース、マンニトール、ソルビトール、グリセロール、またはプロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールのようなグリコールが挙げられる。
【0050】
上述の医薬組成物の「治療上有効な用量」は、特定の被験体で所望の治療応答を達成するのに有効な量の活性化合物が取得されるように投与用量を変化させることにより決定可能である。所望の治療効果は、たとえば、本発明に記述される1種以上の薬剤による治療の施された被験体におけるOPD、OPDに関連する症状、もしくは咳の重症度の低減または完全な根絶でありうる。選択される用量は、特定の化合物の活性、投与経路、治療されるOPDまたは咳の症状の重症度、治療を受ける被験体の状態および既往歴、治療される被験体の年齢、体重、全般的健康状態、性別、および食事、治療の継続期間、利用される特定の化合物と組み合わせてもしくは同時に使用される薬物ならびに医学および獣医学の分野で公知であったものをはじめとするさまざまな因子に依存するであろう。治療方法で使用される治療薬の用量は、約0.1μg〜約100mg/kg(体重)、好ましくは約10μg〜約20mg/kg/日の範囲内であろうと考えられる。状況により、一日用量を、たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、16、17、18、19、20、21、22、23、24回、もしくはそれ以上の回数に分けて投与して送達することが必要になることもある。しかしながら、被験体は必ずしも薬剤を毎日摂取する必要があるとは限らないであろう。2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、1週間に1回、10日に1回、2週間に1回、3週間に1回、または1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、もしくは3ヶ月に1回、さらには6ヶ月に1回だけ薬剤を投与することが必要になることもある。医薬組成物は、一回用量、分割用量で、または持続放出により、投与可能である。当業者であれば、通常の実験により剤形、量、および投与頻度を決定できるであろう。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「治療薬」である薬剤は、疾患の症状の完全な消失または疾患の症状の重症度の減少を引き起こす薬剤である。「防止」とは、疾患(たとえば、COPD、喘息、または咳)の症状が本質的に不在であることを意味する。本明細書中で使用する場合、「予防」とは、疾患の症状の完全な防止、疾患の症状の出現の遅延、または後続的に現れる疾患症状の重症度の減少を意味する。
【0052】
本文書に記載されているすべての治療方法に有用である治療剤は、咳またはOPD、たとえば、喘息、COPD、慢性的な咳、または本明細書中に開示される任意の他の病理学的状態を治療するための医薬の製造に使用可能である。
【0053】
P2Rの活性化を阻害する方法
本発明はまた、肺迷走神経感覚神経線維上のP2Rの活性化を阻害する方法を包含する。この方法は、1種以上の上述のP2Rアンタゴニスト(たとえば、式(I)で示される化合物)に迷走神経感覚神経線維を接触させること(たとえば、P2Rを接触させることによる)を包含する。接触は、哺乳動物被験体中、たとえば、診断方法に関連して上述したいずれかの被験体中で行いうる。そのようなin vivo法では、P2Rアンタゴニストを含有する組成物、そのような組成物の処方、ならびに組成物の投与の経路および頻度は、治療方法に関して上述したものと同一である。迷走神経感覚神経線維を上述の化合物と接触させる哺乳動物被験体は、OPD、OPDに関連する症状、または咳を有しうる。OPDは、たとえば、COPD、喘息、急性気管支炎、肺気腫、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、および急性喘息でありうる。また症状としては、たとえば、咳嗽、息切れ、および喘鳴が挙げられる。P2Rは、本明細書に挙げたいずれか(たとえば、P2X2/3受容体)でありうる。
【0054】
肺迷走神経感覚神経線維上のP2Rの活性化を阻害する方法はまた、in vitro法でありうる。本方法のin vitro適用は、神経の活動、迷走神経活動電位および求心性神経情報伝達の開始の機序、ならびにP2Rの活性化および/またはシグナリングの機序に関する基礎科学研究に有用でありうる。in vitro法はまた、肺迷走神経感覚線維上のP2Rの活性化を阻害する能力に関する他の化合物のin vitroスクリーニングまたは試験における「陽性対照」になりうる。本発明に係るin vitro法では、1種以上の阻害剤を単離された神経線維に直接適用することが可能である。したがって、たとえば、実施例6に記載される標本のように適切な哺乳動物被験体から取得されるin vitro灌流神経・肺標本の気管または肺動脈を介して、たとえば、1種以上の薬剤を注射または注入することが可能である。
【0055】
治療の有効性を評価する方法
OPDの治療の有効性を評価する方法は、定義上、関連するOPDの治療に準拠する。被験体は、本明細書中に列挙されたいずれかでありうる。また、OPDは、任意のOPD、たとえば、喘息、COPD、または慢性的な咳でありうる。そのような治療は、上述のいずれかでありうる。有効性の評価は、治療を施してから1分〜1年以内で、たとえば、治療から1分〜1時間以内、1時間〜24時間以内、1日〜1週間以内、1週間〜1ヶ月以内、1ヶ月〜6ヶ月以内、または6ヶ月〜1年以内で、実施可能である。評価は、1回で行うか、または直前に列挙されたいずれかの時間間隔により隔てられた複数回で行うことが可能である。
【0056】
診断方法に関連して上述したように、1種以上の上述の誘発化合物を被験体に投与する。次に、肺機能(診断方法に関連して述べた)の決定および/あるいは症状(たとえば、ボルグスコア、咳、喀痰、喘鳴、胸の圧迫感、もしくは喉の炎症)または誘発化合物の作用に基づくこれらのいずれかの症状の変化の決定を行う。次に、被験体レベルを複数の適切な対照正常被験体から得られた平均レベルと比較する。本明細書中で使用する場合、「対照正常被験体」とは、被験体と同一生物種でありかつOPDでない被験体のことである。適切な対照正常被験体は、他のいかなる特性をも問わずこの定義に包含される任意の被験体でありうる。他の選択肢として、たとえば、年齢、性別、および喫煙状態のような他の特性に基づいて、対照正常被験体をサブグループに分類することが可能である。したがって、たとえば、被験体が喫煙者である場合、対照正常被験体は、OPDでない喫煙者でありうる。同様に、被験体が非喫煙者である場合、対照正常被験体は、OPDでない非喫煙者でありうる。必要に応じて、対照正常被験体を、たとえば、重度、軽度、長期、および/または短期の喫煙者にさらに細分することが可能である。
【0057】
被験体から取得されたレベルが、関連するOPDの被験体から得られた平均値の方向に平均対照正常レベルから顕著に外れるのであれば、関連する治療によりOPDの症状が除去されなかったことが示唆される。そのような知見から、被験体の予後不良および/または被験体のさらなる治療の必要性を示すことが可能である。一方、被験体から得られたレベルが、治療前に被験体から得られたレベルよりも平均正常対照レベルに近いかまたは平均正常対照レベルとの有意差がみられないのであれば、治療がそれぞれ部分的に有効または完全に有効であったことが示唆されよう。
【0058】
代替的または追加的に、「治療後」レベルと比較される対照レベル(肺機能または咳のような症状の対照レベル)は、治療前の対象となる被験体のレベルでありうる。したがって、たとえば、咳を抑制する薬剤(すなわち、鎮咳薬)で治療された被験体は、咳を引き起こす誘発物質の相対能力に関して治療の前後で試験可能である。そのような試験は、たとえば、実施例2に記載したのと類似の試験でありうる。咳が起こるまで漸増濃度の誘発物質を被験体に投与可能である。治療前よりも治療後のほうが高い濃度の誘発物質が咳の誘発に必要とされるのであれば、治療が有効であったと結論付けることが可能である。一方、治療前と治療後で同一の濃度または治療前よりも治療後のほうが低い濃度の誘発物質が咳の誘発に必要とされるのであれば、治療が有効でなく有害である可能性があると結論付けることが可能である。
【0059】
肺機能の測定および症状の評価は、定量的、半定量的、または定性的でありうる(診断方法の項を参照されたい)。さらに、症状の評価は、関連する症状の「存在」または「不在」に関するものでありうる。
【0060】
以下の実施例を用いて本発明について説明するが、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0061】
材料および方法
実施例2〜4に記載の臨床試験における患者
健常非喫煙者(年齢41±3歳、n=10、男性6名)、間欠性喘息患者(年齢39±3歳、n=10、男性7名)、健常現喫煙者(年齢40±4歳、n=7、男性5名)、COPDを発症するリスクのある喫煙者(年齢50±4歳、n=7、男性4名)、および軽度〜中等度COPD患者(年齢58±4歳、n=7、男性4名、軽度2名、および中等度5名)をこの試験に組み入れた(表1)。
【表1】

【0062】
健常な非喫煙者および喫煙者は、いかなる呼吸器症状の病歴も呼吸器感染の病歴も有しておらず、可逆性(reversibility)のない正常な肺機能を有していた。喫煙被験体は、>10タバコパック・年(すなわち、1日1パック超で10年間)の喫煙歴を有していた。COPDおよびリスク喫煙者の診断は、GOLDガイドライン[Pauwels et al. (2001) Am. J. Respir. Crit Care Med. 163:1256-1276]に準拠した。また、喘息患者を規定するために、GINAガイドライン[Liard et al. (2000) Eur. J. Respir. 16:615-620]を使用した。喘息およびCOPDの患者は、臨床的に安定しており、症状や投薬の変化はなく、気道感染はなく、かつ過去4週間わたりステロイドは使用されなかった。
【0063】
試験は、the Royal Brompton Hospital and Harefield NHS Trust, London, Englandの倫理委員会により承認され、被験体はすべて、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
【0064】
実施例2〜4に記載の臨床試験のデザイン
実施例2〜4に記載の臨床試験は、無作為方式、二重盲検方式、交差方式、かつ比較対照方式とした。各被験体は、検査室に3回通った。初期スクリーニングのための通院時の手順は、試験に関する情報の取得ならびに以下の順序のいくつかの検査:病歴、肺機能、可逆性、および皮膚プリック試験を含んでいた。2〜7日間の間隔の2回目および3回目の通院では、被験体は、無作為方式でATPまたはAMPのいずれかのチャレンジを受け、試験の終了までに各患者が両方の化合物で試験されるようにした。チャレンジの前、直後、および30分後、肺機能と呼吸困難に関するボルグスコアとを測定し、呼吸困難以外の症状を記録した。
【0065】
皮膚プリック試験
実施例2〜4に記載の臨床試験のすべての被験体で、4種の一般的な空中アレルゲン(ハウスダストダニ、花粉、ネコの毛、およびアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)、ならびに陰性対照および陽性対照;SoluprickTM, ALK-Abello A/S, Hoersholm, Denmarkを使用)に対する皮膚感受性を調べた。15分後に膨疹サイズを測定し、陰性対照よりも3mm大きい少なくとも1個の膨疹が存在した場合、陽性反応と記録した。
【0066】
ATP/AMPチャレンジ前の肺機能試験の評価
実施例2〜4に記載の臨床試験において、乾式肺活量計(Vitalograph Ltd., Buckingham, England)を用いて肺活量試験を行い、3回の呼気動作の最良値をリットルおよび予測値に対するパーセントとして表した。次に、スペーサーを介して定量噴霧式吸入器により被験体にサルブタモール(200μg)を投与して、15分後に肺機能測定を反復し;200ml超かつ12%超のFEVの増大は、可逆性であるとみなした[Pauwels et al., 上掲]。
【0067】
ボルグスコア
実施例2〜4に記載の臨床試験において呼吸困難を定量化するために使用した改変ボルグ尺度は、息切れの程度を記述する用語を0〜10の数に割り振ったカテゴリー尺度であった。息切れの間隔を最も適切に記述する用語に対応する数を選択するように被験体に依頼した。チャレンジの前後のボルグスコアの差であるΔBorgとして呼吸困難の変化を表した[Rutgers et al. (2000) Eur. Respir. J. 16:486-490; Burdon et al. (1982) Am. Rev. Respir. Dis. 126:825-828]。ボルグスコアの評価に使用される用語および結び付けられる数は、次のとおりである:0,「まったくなし」;0.5,「きわめてわずか」;1,「非常にわずか」;2,「わずか」;3,「中程度」;4,「いくらかひどい」;5,「ひどい」;7,「非常にひどい」;9,「きわめてひどい」(ほぼ最大);および10,「最大」[Burdon et al. (1982)]。
【0068】
吸入チャレンジ試験
実施例2〜4に記載の試験のために、ATPでは0.227〜929μmol/mlおよびAMPでは0.138〜1152μmol/mlの範囲内の倍加濃度を作製するように、ATPおよびAMP(Sigma, Gillingham, Dorset, England)を通常の生理食塩溶液に新たに溶解させ、ただちに気管支チャレンジに使用した。吸入1回あたり10μlの排出量で呼吸作動式薬量計(Mefar, Bovezzo, Italy)を用いて溶液を投与した[Prieto et al. (2003) Chest 123:993-997]。被験体は、ノーズクリップを着用した状態で、5回の呼吸で通常生理食塩水を吸入し(マウスピースを介して)、続いて、連続倍加濃度のATPまたはAMPを機能的残気量から全肺気量まで吸入した。通常生理食塩水を5回吸入した2分後から、生理食塩水の吸入後に記録された値の20%以上のFEV低下を生じるまで、または最大濃度のATPもしくはAMPのいずれかを吸入するまで、FEVを測定した。対数用量応答曲線を補間することにより、FEVの20%低下を引き起こす誘発用量(PD20)を計算した。
【0069】
統計的手法
実施例2〜4に記載の分析から得られたすべてのデータをソフトウェアパッケージ(GraphPad Prism Software, Inc., USA)で処理した。スチューデントのt検定によりグループ間の差の有意性を評価し、カイ二乗検定によりカテゴリー変数の分析結果を検査した。ピアソン相関係数および線形回帰分析を用いて、FEVの減少パーセントとボルグスコアとの関係を分析した。ATPおよびAMPに対するPD20値を対数変換してそれらの分布を正規化し、幾何平均として表示した。すべての他の数値変数を平均±SEMとして表し、有意性をp<0.05として規定した。
【0070】
イヌ迷走神経活性化実験
実施例5に記載の実験は、基本的には、Pellegら [(1996) J. Physiol. 490(1):265-275]および米国特許第5,874,420号(いずれも参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられるものとする)に記載されているように行った。簡潔に述べると、麻酔(ペントバルビトンナトリウム、30mg・kg−1+3mg・kg−1・h−1、静脈内)の施されたイヌに人工呼吸器で室内空気を人為的に供給しながら行った。米国特許第5,874,420号に記載されているように、動脈血pH、PO2、PCO2、体温を維持した。生理食塩水および維持用量の麻酔薬を投与するために、末梢静脈にカニューレを挿入した。試験溶液を投与するために、大腿静脈および左心耳を介してカテーテルを挿入し、右心房および左心房に配置した。縦方向胸骨切開術により胸部を切開した。皮膚を頸部中央で縦方向に切開して頸筋と結合組織とを注意深く切断することにより、右頸部迷走神経交感神経幹を露出させた。切開された皮膚の縁部を持ち上げて固定することによりトラフを形成し、トラフに温めた(約37℃の)鉱油を充填した。迷走神経交感神経幹の一部を黒色PerspexTM製の小皿上に配置し、顕微手術用具および解剖顕微鏡(Model F212, Jenopik Jena, GmbH, Germany)を用いて注意深く切断することにより、微細分枝を主線維束から分離した。
【0071】
シールドケーブルを介して高インピーダンス第一段差動増幅器(model AC8331, CW, Inc., Ardmore, PA)に接続された2本の白金イリジウム線(1.25cm×0.0125cm)を含有する特注双極電極を用いて、細胞外神経活動電位を記録した。第一段増幅器の出力を第二段差動増幅器(model BMA-831/C, CWE, Inc.)に供給した。単離された線維を1対の白金イリジウム線上に置いた。化学感受性末端を有する迷走神経C線維は、心臓周期や呼吸周期に関係しないまばらな不規則発火を行う。線維タイプの確認は、第1に、カプサイシン(10μg・kg−1、右心房内ボーラス)に対する応答をモニタリングし、第2に、ピンセットで軽く突いて肺を機械的に刺激することおよび一回換気量の2〜3倍に肺を膨張させることに対する応答をモニタリングし、そして第3に、当初の記録部位の遠位に配置された刺激電極を用いて伝導速度を決定することにより行った。肺末端上にRARを有する神経線維は、各呼吸周期中のピーク気管圧力に関連する活動電位の短い(すなわち短時間持続する)ボレイで自発的に発火する。
【0072】
ATP(3μmole・kg−1)およびカプサイシン(10μg・kg−1)を急速ボーラスとして右心房に投与した(5ml試験溶液+5ml生理食塩水フラッシュ)。全身性副作用を回避するために、α,βmATPおよびβ,γmATPを低用量で1回だけ投与した(0.75μmol・kg−1)。体積対照は、5ml+5mlまたは1ml+3mlのいずれかの生理食塩水から構成されるものとした。注射はすべて、同一人物により同一の様式で行った。記録された神経活動中の圧受容体の関与を除外するために、ニトログリセリンのボーラス(1mg;静脈内)の前後で後者をモニタリングした。
【実施例2】
【0073】
FEVの変化として測定されるAMPおよびATPに対する気道応答性
試験された40名の被験体のうちの19名(47.5%)はATPに応答し、13名(32.5%)はAMPに応答した。ATPおよびAMPに対するPD20幾何平均は、それぞれ、気道応答性を有する被験体において72.9(2.9〜808.7)μmol/mlおよび82.9(0.9〜576.0)μmol/mlであった。健常非喫煙者におけるATPまたはAMPのチャレンジのいずれかに対する応答は、陰性であった。すなわち、FEVの変化がみられないか、または20%未満のFEVの低下がみられた。10名(100%)の喘息患者、4名(57%)の健常喫煙者、1名(14%)のリスク喫煙者、および4名(67%)のCOPD患者は、ATPに応答し、一方、9名(90%)の喘息患者、1名(14%)の健常喫煙者、1名(14%)のリスク喫煙者、および2名(33%)のCOPD患者は、AMPに応答した(表2および図1)。19名の喫煙被験体(7名の健常喫煙者、7名のリスク喫煙者、および5名のCOPD患者)において、ATPは、AMPと比べて2倍の患者で気管支収縮を引き起こした。すなわち、それぞれ、42%および21%(p<0.05)。
【0074】
重要なこととして、喘息患者はすべて、低濃度のATPに応答したが、COPD患者のうちの2名は、最高濃度のATPのときでさえも応答しなかった。また、ATPに応答するCOPD患者における平均PD20(178.5μmol/ml)は、喘息患者の場合(48.7μmol/ml)よりも有意に高かった(p<0.05)(図1および表2)。これらの知見は、COPD患者と喘息患者とを区別するための診断試験の基礎となる。
【0075】
COPD患者の大多数(n=5)は、現喫煙者であった。試験された健常非喫煙対照被験体は全員、ATPに応答しなかったが、7名の健常喫煙対照被験体のうちの3名は、応答した(図1および表の2)。したがって、非喫煙COPD患者は、平均的にみて、ATPに対する応答が喫煙COPD患者よりも高くないことは確かであり、おそらくそれよりも少ないと思われる。したがって、ATP応答性の試験により、喘息患者は、喫煙COPD患者および非喫煙COPD患者のいずれとも区別されるであろう。
【表2】

【実施例3】
【0076】
呼吸困難および他の症状に及ぼすATPおよびAMPのチャレンジの効果
ボルグスコアにより評価される呼吸困難の感覚は、喘息患者(0.1→3.3、p<0.001)、健常喫煙者(0→1.3、p<0.03)、リスク喫煙者(0.1→1.9、p<0.01)、およびCOPD患者(0.1→2.7、p<0.01)において、ATPのチャレンジ後、有意に増大した(図2)。これとは対照的に、AMPのチャレンジ後、喘息の患者においてのみ有意な増大がみられた(0.2→2.5、p<0.001)。喘息患者にAMP(PD20)を投与した後のボルグスコアは、COPD患者のときよりも高かったが(それぞれ、ボルグスコア=2.5および0.8、p<0.02)、ATP(PD20)のチャレンジ後の2つの患者グループでは同等であった(それぞれ、ボルグスコア=3.3および2.7、p>0.05)(図3)。
【0077】
ATPおよびAMPのチャレンジ後のボルグスコアの変化(ΔBorg)を比較することにより、ΔBorgは、すべてのグループにおいてATP後のほうが高く、この増大は、喘息患者(ΔBorgATP=3.2、ΔBorgAMP=2.3、p<0.02)およびCOPD患者(ΔBorgATP=2.6、ΔBorgAMP=0.6、p<0.01)において、ATPのチャレンジ後は、有意であることが明らかにされた(図4)。AMP(r=−0.6694、p<0.001)およびATP(r=−0.6521、p<0.001)の両方のチャレンジ(PD20)の後、PD20自体とボルグスコアとの間に負の相関がみられた。
【0078】
36名(90%)の被験体は、ATPのチャレンジ後、咳をしたが、AMPのチャレンジでは、19名(48%)の被験体で咳が誘発された(p<0.01)。また、喉の炎症および喀痰を有する被験体の割合は、AMPのチャレンジ(それぞれ、53%および10%)と比較した場合、ATPの後(それぞれ、75%および28%)のほうが有意に高かった(いずれもp<0.04)(図5)。
【0079】
ATPおよびAMPの非応答者または応答者を切り離して考えた場合、ATPに非応答性である被験体は、AMP非応答者よりも多くの咳および喀痰を有していた(それぞれ、p<0.01およびp<0.01)。また、ATP応答者は、AMP応答者よりも多く咳をし(p<0.03)、ATP非応答者よりも多くの胸の圧迫感および喘鳴を有していた(それぞれ、p<0.001およびp<0.02)。AMPに応答する被験体は、AMP非応答者よりも多くの胸の圧迫感および喀痰を報告した(それぞれ、p<0.04およびp<0.01)。
【実施例4】
【0080】
気道内径に及ぼすATPおよびAMPのチャレンジの効果
ATPにより誘発されるFEVの低下は、ベースラインFEVに対する割合(ΔFEV)で表したとき、すべてのグループにおいてAMPのチャレンジにより引き起こされた低下よりも大きかった。この差は、喘息患者において統計学的に有意であった(ΔFEV1ATP=29%、ΔFEV1AMP=22%、p<0.03)。PD20のATP(r=0.606、p<0.001)およびAMP(r=0.567、p<0.01)のチャレンジ後、ΔFEVとボルグスコアとの間に正の相関がみられた(図6)。
【実施例5】
【0081】
細胞外ATPは、イヌ肺内のC線維だけでなくRAR含有線維をも刺激する
実施例1に記載の手順を用いて、種々の薬剤の投与後、末端上にRARを有するイヌ肺線維の活動電位を測定した。RARの活性化により、ATPの投与後だけでなく投与前にも観測される各呼吸周期に関連する活動電位の短いボレーが生じた(図7)。ATP(6μmol/kg、急速静脈内ボーラス)の投与後、RAR含有線維の活動は、神経活動電位のバーストが呼吸周期間の時間内に伸長する形で延長された。したがって、ATPは、RAR含有線維の活動を変化させ、迅速適応特性を一時的に喪失させる。
【0082】
試験した線維が実際にRAR含有線維であることを確認するために、カプサイシンの静脈内ボーラスの投与の前後で同一標本の記録を行った。図8からわかるように、カプサイシンは、ATPにより活性化される同一RAR含有線維の発火パターンを変化させなかった。このことは、これらの神経末端上のバニロイド(valinoid)受容体(すなわち、カプサイシン受容体、VR−1)が欠如しているためにカプサイシンがRAR含有神経線維末端を刺激することができないという十分に立証された観測結果に一致する。
【0083】
カプサイシンは肺内のC線維神経末端を刺激することが知られているので、カプサイシン、ATP、およびATPのアナログに対するC線維ならびにRAR含有線維の応答を同時にモニターすることは興味深いことであった。図9は、試験化合物の投与前後における2つのタイプの線維の同時記録の例である。予想どおり、ATPは、C線維およびRAR含有線維の両方を刺激したが、カプサイシンは、前者だけを刺激した。そのほか、エクト酵素で容易には分解されないATPの2種のアナログ(α,βmATPおよびβ,γmATP)は、ATPと同じように作用した。この知見から、ATPの作用は、その酵素的分解の産物であるアデノシンにより媒介されないことが示唆された。
【0084】
図9からわかるように、α,βmATPは、ATPよりも効力が高かった。このことから、ATPおよび2種のアナログによるRAR含有線維の活性化が特定のP2X受容体サブタイプにより媒介されることが示唆された。7種のP2XRのうち、P2X、P2X、およびヘテロ二量体P2X2/3だけが、α,βmATPに対して感受性である[Virginio et al. (1998) Mol. Pharmacol. 53:969-973]。P2XおよびP2Xは、アゴニストによる刺激の後、急速に脱感作する。しかしながら、本実験では、ATPおよび同程度に活性なそのアナログの反復投与は、脱感作を伴わなかった。これらの知見から、(a)P2XおよびP2Xは、少なくとも、ATPによるRAR含有線維の活動誘発に関与する排他的またはさらには支配的な受容体ではなく;かつ(b)P2X2/3は、少なくとも、ATPのこの刺激作用を媒介する排他的ではないにしても支配的な受容体サブタイプであることが示唆された。
【0085】
これらのデータから、末端上にRARを有する肺の線維を内因性化合物であるATPがどのように刺激して、これらの線維により媒介されることが知られている中枢性咳反射を引き起こしうるかが示唆される。たとえば、ATPは、RARのP2XR(主にP2X2/3R)を活性化し、それにより中枢性咳反射を引き起こす。
【実施例6】
【0086】
α,βmATPによる肺迷走神経求心性CおよびA神経線維の活性化の阻害
灌流神経・肺標本
モルモット肺に投射する迷走神経感覚ニューロンの活動の細胞外記録法については、既に、Canningら[(2004) J. Physiol. 557:543-545](参照によりその全体が本明細書に組み入れられるものとする)に詳細に記載されている。簡潔に述べると、CO吸入および瀉血により雄ハートレイ系モルモット(100〜200g)を屠殺した。クレブス重炭酸塩溶液(KBS;118mM NaCl、5.4mM KCl、1.0mM NaHPO、1.2mM MgSO、1.9mM CaCl、25.0mM NaHCO、11.1mMデキストロースを含み、pH7.4において95%O−5%COでガス処理されている)をin situ灌流することにより、肺循環血液を洗浄除去した。KBSは、感覚線維活動に及ぼす組織プロスタノイドの間接的影響を低減させるために3μMのインドメタシンを含有させた。たとえば右頸静脈神経節および右節状神経節を含めることにより、インタクトな右側外因性迷走神経支配を有して、気管および右肺を瀉血されたモルモットから摘出し、二区画組織槽中に入れた。右節状神経節および右頸静脈神経節を吻側迷走神経と一緒に組織槽の一方の区画に入れ、肺および気管を組織槽の第2の区画に入れた。2つの区画にKBSを別々に灌流した(6ml・min−1、37℃)。
【0087】
肺動脈および気管にポリエチレン(PE)チューブのカニューレを挿入し、KBSを連続的に灌流した(それぞれ、4ml・min−1および2ml・min−1)。灌流前に26ゲージ針で肺の表面を貫通させて10個の穿刺孔を設けた。したがって、KBSは、肺静脈を介するだけでなくこれらの穿刺孔を介しても、肺から流出可能とした。
【0088】
単一線維活動の分離および伝導速度の算出
記録電極を操作して節状神経節に導入した。非尖鋭端で肺表面に機械的刺激を加えて神経活動電位のバーストを観測することにより(フォンフライ触毛、1800〜3000mN)、機械的刺激感受性受容域を特定した。
【0089】
機械的刺激感受性受容域を特定した後、線維の伝導速度を決定するために、機械的刺激感受性受容域の一領域に配置された小型同心電極により、短い[<1ミリ秒(ms)の]電気的刺激を加えた。活動電位が誘起されるまで、漸増電圧(5Vから開始)の矩形パルス(0.5ms)により受容域を電気的に刺激した。神経の走行に沿った距離を、ショック性アーチファクトと機械的刺激感受性受容域の電気的刺激により誘起された活動電位との間の時間で割り算することにより、伝導速度を算出した。
【0090】
既に報告されているように、気管を介する灌流速度を増大させることにより肺膨張に対する応答を調べた[Canning et al. (2004)]。灌流速度を2倍にしたところ、近似的に、活動電位発火に対する閾値膨張圧を生成した。特定の線維が緩徐適応性または迅速適応性のいずれで応答するか(すなわち、特定の線維がC線維またはA線維のいずれであるか)を確認するために、灌流速度を再び2倍にして5〜10秒間保持した。最初の5秒間にわたる刺激の適応指数が>90%であれば、迅速適応性であるとみなし、対応する線維は、肺の末端上にRARを有する線維、すなわちA線維であるとみなした。<1ms−1の伝導速度を有する神経線維は、迷走神経複合活動電位の伝導速度に関する以前の分析に基づいて、かつ当業者に認知または公知のC線維の特性に従って、C線維であるとみなした。
【0091】
神経・肺標本へのP2X受容体アゴニストα,βmATPおよびP2X/P2X2/3受容体アンタゴニストA−317491の投与
P2X受容体アゴニストであるα,βmATPおよびP2X/P2X2/3受容体アンタゴニストであるA−31749をKBSで別々に希釈した。標本を以下のように順に処理した:
(a)KBSで30分間灌流した後、10μMのα,βmATPの1mlボーラスを灌流溶液中に加え、応答を記録した(図10:「対照」)。
【0092】
(b)1μMのA−31749を含有するKBSで標本を30分間灌流し、10μMのα,βmATPの1mlボーラスを灌流溶液中に加え、応答を記録した(図10;「A31749 1μM」)。
【0093】
(c)10μMのA−31749を含有するKBSで標本を30分間灌流し、10μMのα,βmATPの1mlボーラスを灌流溶液中に加え、応答を記録した(図10;「A31749 10μM」)。
【0094】
(d)KBSで標本を30分間灌流し、10μMのα,βmATPの1mlボーラスを灌流溶液中に加え、応答を記録した(図10;「洗浄」)。
【0095】
α,βmATPおよびA−31749の両方を50μl・s−1の速度で注入した。受容域(肺)に達することをより確実にし、「偽陰性」の観測される可能性を低減させるために、両方の経路を介して(すなわち、気管灌流および肺動脈灌流を介して)、α,βmATPおよびA−317491を注入した。気管だけを介してまたは肺動脈だけを介してエバンスブルー色素を投与した場合、それは投与経路に関係なくすべての組織区画中を迅速に浸入しうるが、一部の場合には、気管経路内または血管経路内のいずれかの障害物により、その分布は妨害された。
【0096】
データ解析
肺内気道および肺を支配する求心性ニューロンの電気生理学的測定では、ほとんどの場合、単一ニューロンの活動を記録した。稀ではあるが、2単位を同時に記録した場合、直接的波形解析ソフトウェア(TheNerveOflt; PHOCIS, Baltimore, MD, USA)を用いて2つのピークを区別した。
【0097】
マイクロピペットプラー(Sutter Instrument Company P-87, Novato, CA, USA)で延伸して作製され、3M塩化ナトリウム(約2MΩの抵抗)で充填されたガラス微小電極を用いて、ニューロン活動を記録した。シグナルを増幅し(Microelectrode AC amplifier 1800; A-M systems, Everett, WA, USA)、フィルターをかけ(低カットオフ、0.3kHz;高カットオフ、1kHz)、オシロスコープ(TDS 340; Tektronix, Beaverton, OR, USA)上およびチャートレコーダー(TA240; Gould, Vallley View, OH, USA)上に表示し、そしてオフライン解析用のMacIntoshコンピューター(TheNerveOflt; PHOCIS, Baltimore, MD, USA)中に記録した(サンプリング周波数33kHz)。気道平滑筋収縮を反映する気管灌流圧を圧力変換器(P23AA; Statham, Hata Rey, PR, USA)により測定し、圧力をチャートレコーダー(TA240)により記録した。
【0098】
所与の濃度のアゴニストにより誘発されたすべての活動を1秒時間域で記録し、オフライン解析した。α,βmATPに対する応答は、活動電位発火が停止したとき、または発火がベースライン観測値の2倍未満であるとき、終了したものとみなした。データは、平均±標準偏差(SD)として表す。スチューデントの対応のあるおよび対応のないt検定を統計解析に使用し、有意性はp<0.05により判定した。n値は、試験された線維の数を表し;灌流神経・肺標本あたり、1本の線維だけを試験した。
【0099】
ATPは肺迷走神経求心性CおよびA線維末端を刺激する
P2X/P2X2/3受容体の強力な選択的アゴニストであるα,βmATPを投与することにより誘発されたC線維(n=4)およびA線維(n=7)の活動電位(AP)を発火数/秒として定量化した。図10からわかるように、α,βmATP(10μM、1mLボーラス)の投与により、灌流神経・肺標本の節状CおよびA線維末端で神経APが誘発された。α,βmATPは、両方のタイプの線維で脱感作を伴わずAPを誘発した。発生したAPの頻度は、C線維では146±29、A線維では1543±285であった。
【0100】
P2X/P2X2/3受容体選択的アンタゴニストA−317491は、α,βmATPによる肺迷走神経求心性CおよびA線維の活性化を阻害する
A−317491(1および10μM、30分間)の存在下でα,βmATP(10μM、1ml、ボーラス)により誘発されるC線維(n=4)およびA線維(n=7)のAPを、先に記載したように測定した。A−317491(10μM)は、α,βmATPに対するC線維およびA線維の応答を、それらの対応する対照と比較して、それぞれ、62±5%(p<0.05)および88±5%(p<0.05)だけ低下させた。1μMにおいて、A−317491は、A線維ではα,βmATPの作用を有意に59±12%阻害したが、C線維に対しては阻害作用を示さなかった。
【0101】
本発明のいくつかの実施形態について説明してきた。しかしながら、当然のことであろうが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の変更を加えることが可能である。したがって、他の実施形態が以下の特許請求の範囲内に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1Aおよび1Bは、AMP(図1A)またはATP(図1B)でチャレンジした後における個々のヒト被験体(x軸上に示される分類に属する)で得られたPD20の値を示す散布図である。水平実線は、幾何平均を示し、破線は、被験体に投与されたAMPまたはATPの最高濃度を示す。AMPまたはATPの最高濃度に反応しない患者のデータは、幾何平均の計算に含めなかった。
【図2】図2Aおよび2Bは、PD20濃度のAMP(図2A)またはATP(図2B)(「PD20」)でチャレンジする前(「B/L」;ベースライン)、チャレンジした直後、およびチャレンジの30分後における個々の被験体(指定の分類に属する)から得られたボルグスコアを示す一連の線グラフである。
【図3】図3Aおよび3Bは、AMP(図3A)またはATP(図3B)でチャレンジした後における喘息患者(「喘息患者」)またはCOPD患者(「COPD」)の平均ボルグスコアを示す1対の棒グラフである。
【図4】図4Aおよび4Bは、AMP(図4A)またはATP(図4B)でチャレンジした後における被験体(x軸上に示される分類に属する)のボルグスコアの平均変化(「ΔBorg」)を示す1対の棒グラフである。
【図5】図5Aおよび5Bは、AMP(図5A)またはATP(図5B)でチャレンジした後におけるx軸上に列挙された症状を有する被験体(線で囲まれた凡例中に列挙された分類に属する)の割合を示す1対の棒グラフである。
【図6】図6Aおよび6Bは、PD20用量のAMP(図6A)またはATP(図6B)が投与された被験体におけるFEVの変化(「FEVの低下%」)とボルグスコア(「PD20でのボルグスコア」)との関係を示す1対の散布図である。
【図7】図7は、イヌをATPに曝露する前および曝露した後におけるイヌ肺迅速適応性受容体(RAR)含有求心性神経線維の活動電位を示すレコーダートレースである。イヌをATPに曝露した時点は、逆三角形上の「ATP」という用語により示される。個々の呼吸周期に基づく活動電位ボレーは、上向き矢印により示される。
【図8】図8は、イヌをカプサイシンに曝露する前および曝露した後におけるイヌRAR含有求心性神経線維の活動電位を示すレコーダートレースである。イヌをカプサイシンに曝露した時間は、逆三角形上の「カプサイシン」という用語により示される。個々の呼吸周期に基づく活動電位ボレーは、上向き矢印により示される。
【図9】図9は、イヌをATP、カプサイシン、β,γmATP、またはα,βmATPに曝露する前および曝露した後におけるイヌRAR含有迷走神経線維および迷走神経C線維の活動電位を示す一連のレコーダートレースである。イヌが種々の誘発化合物に曝露された時点は、逆三角形により示される。個々の呼吸周期に基づく活動電位ボレーは、下向き矢印により示される。RAR関連応答およびC線維応答に対応するトレースの区域は、括弧とそれぞれ「Aδ」および「C」とにより示される。
【図10】図10は、α,βmATP単独(対照)または1μMもしくは10μMの選択的P2X/P2X2/3受容体アンタゴニストA−317491との併用による処理に応答してモルモット灌流神経・肺標本で測定されたA線維(左側グラフ)およびC線維(右側グラフ)の末端の活動電位数を示すグラフである。活動電位は、発火数/秒として定量化され、平均+標準偏差(SD)として表される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
(a) 喘息または慢性閉塞性肺疾患(COPD)であることが疑われる被験体を特定するステップ;
(b) 被験体に対して誘発化合物を投与するステップ;
(c) 前記投与の前後での肺機能の変化を測定するステップ;
(d) 前記肺機能の変化が、(i)喘息または(ii)COPDの対照被験体における肺機能の変化のどちらとより類似しているかを決定するステップ;および
(e) 被験体を以下のものに分類するステップ:(1)被験体における肺機能の変化が、COPDの対照被験体における肺機能の変化よりも、喘息の対照被験体における肺機能の変化により類似している場合に、喘息の可能性があること;または(2)被験体における肺機能の変化が、喘息の対照被験体における肺機能の変化よりも、COPDの対照被験体における肺機能の変化により類似している場合に、COPDの可能性があること
を含む、診断方法。
【請求項2】
前記肺機能の変化を、努力呼気肺活量(FEV)における任意に特定された低下を引き起こすために必要とされる誘発化合物の量の関数として測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記任意に特定された低下が、約20%の低下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記肺機能の変化を、比気道コンダクタンス(sGaw)、ボルグスコア、機能的残気量(FRC)、努力呼気流量(FEF)またはピーク呼気流速(PEFR)における任意に特定された変化を引き起こすために必要とされる誘発化合物の量の関数として測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記任意に特定された変化が約10%より大きい低下または増大である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記誘発化合物がアデノシン5’−三リン酸(ATP)である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記誘発化合物がATPのアナログである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ATPのアナログがα,β−メチレンATP(α,βmATP)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ATPのアナログがβ,γ−メチレンATP(β,γmATP)である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記誘発化合物がジアデノシン五リン酸(ApA)である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が肺内吸入によるものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が静脈内ボーラス注射によるものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
以下のステップ:
(a) 請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を実施するステップ;および
(b) 喘息またはCOPDについて被験体を治療するステップ
を含む、治療方法。
【請求項14】
前記治療が、被験体に対して2型プリン受容体(P2R)アンタゴニストを投与するステップを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記P2RがP2Y受容体である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記P2RがP2X受容体である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記治療が、被験体に対する1種以上のコルチコステロイド、1種以上のβ−アドレナリン受容体アゴニスト、または1種以上の鎮咳薬の投与を含む、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記治療が、以下のもの:ピリドキサルリン酸−6−アゾフェニル−2’4’−ジスルホン酸(PPADS);5−{[3”−ジフェニルエーテル(1’,2’,3’,4’−テトラヒドロナフタレン−1−イル)アミノ]カルボニル}ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸;2’,3’−O−(4−ベンゾイルベンゾイル)−ATP(BzATP);テトラメチルピラジン(TMP);および2’,3’−O−2,4,6−トリニトロフェニル−ATP(TNP−ATP)からなる群より選択される1種以上の薬剤を、被験体に対して投与するステップを含む、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記治療が、被験体に対して1種以上の化合物を投与するステップを含み、各化合物は式(I):
【化1】

であるかまたはその製薬上許容される塩であり、
式中、
およびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択されるか;または
およびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;
はアルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択され;
、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルからなる群より選択され;
、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノからなる群より選択され;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され;
は、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され;
は、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
mは0〜10の整数であり;
nは0〜10の整数であり;
は、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;
は不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
pは0〜10の整数であり;
qは0〜10の整数であり;かつ
は不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択される、
請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物が、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
喘息またはCOPDに対する治療の有効性を評価する方法であって、以下のステップ:
(a) 請求項13〜20のいずれか1項に記載の方法を実施するステップ;
(b) 被験体に対して誘発化合物を投与するステップ;
(c) 前記投与の前後での、肺機能の変化を測定するかまたは少なくとも1種の症状の変化を検出するステップ;
(d) 被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、請求項13〜20のいずれか1項に記載の治療の前に測定したか検出した該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化により近いかどうかを決定するステップ;
(e) 被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、請求項13〜20のいずれか1項に記載の治療の前に測定したか検出した該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化により近い場合に、前記治療を有効であると分類するステップ
を含む、上記方法。
【請求項22】
閉塞性肺疾患(OPD)に対する治療の有効性を評価する方法であって、以下のステップ:
(a) OPDについて治療がなされた被験体を特定するステップ;
(b) 被験体に対して誘発化合物を投与するステップ;
(c) 前記投与の前後での、肺機能の変化を測定するかまたは少なくとも1種の症状の変化を検出するステップ;
(d) 被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、OPDに対する前記治療の前に測定したか検出した該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化により近いかどうかを決定するステップ;
(e) 被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化が、前記治療の前に測定したか検出した該被験体における肺機能の変化または少なくとも1種の症状の変化よりも、対照正常被験体における肺機能の平均変化または少なくとも1種の症状の平均変化により近い場合に、該治療を有効であると分類するステップ
を含む、上記方法。
【請求項23】
前記肺機能の変化を、努力呼気肺活量(FEV)における任意に特定された低下を引き起こすために必要とされる誘発化合物の量の関数として測定する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記肺機能の変化を、比気道コンダクタンス(sGaw)、ボルグスコア、機能的残気量(FRC)、努力呼気流量(FEF)またはピーク呼気流速(PEFR)における任意に特定された変化を引き起こすために必要とされる誘発化合物の量の関数として測定する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記任意に特定された変化が約10%より大きい低下または増大である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記任意に特定された低下が、約20%の低下である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記誘発化合物がATPである、請求項22〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記誘発化合物がATPのアナログである、請求項22〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記ATPのアナログがα,βmATPである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記ATPのアナログがβ,γmATPである、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記誘発化合物がApAである、請求項22〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記誘発物質の投与が肺内吸入によるものである、請求項22〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記投与が静脈内ボーラス注射によるものである、請求項22〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1種の症状の変化がボルグスコアの変化である、請求項22〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1種の症状の変化が、咳、胸の圧迫感、喉の圧迫感、喀痰、および喘鳴からなる群より選択される1種以上の症状の変化である、請求項22〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記OPDが喘息である、請求項22〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記OPDがCOPDである、請求項22〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記OPDが慢性的な咳である、請求項22〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記治療が、被験体に対してP2Rアンタゴニストを投与するステップを含む、請求項22〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記P2RがP2Y受容体である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記P2RがP2X受容体である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記治療が、被験体に対する1種以上の薬剤の投与を含み、該薬剤がコルチコステロイド、β−アドレナリン受容体アゴニスト、および鎮咳薬である、請求項22〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記治療が、以下のもの:ピリドキサルリン酸−6−アゾフェニル−2’4’−ジスルホン酸(PPADS);5−{[3”−ジフェニルエーテル(1’,2’,3’,4’−テトラヒドロナフタレン−1−イル)アミノ]カルボニル}ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸;2’,3’−O−(4−ベンゾイルベンゾイル)−ATP(BzATP);テトラメチルピラジン(TMP);および2’,3’−O−2,4,6−トリニトロフェニル−ATP(TNP−ATP)からなる群より選択される1種以上の薬剤を、被験体に対して投与するステップを含む、請求項22〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記治療が、被験体に対して1種以上の化合物を投与するステップを含み、各化合物は式(I):
【化1】

であるかまたはその製薬上許容される塩であり、
式中、
およびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択されるか;または
およびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;
はアルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択され;
、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルからなる群より選択され;
、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノからなる群より選択され;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され;
は、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され;
は、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
mは0〜10の整数であり;
nは0〜10の整数であり;
は、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;
は不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
pは0〜10の整数であり;
qは0〜10の整数であり;かつ
は不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択される、
請求項22〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記化合物が、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記被験体が鎮咳薬での治療をなされており、かつ前記少なくとも1種の症状が咳である、請求項22〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
咳の変化を、咳を誘発するのに必要とされる誘発化合物の量の関数として測定する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
OPDまたは咳の治療方法であって、以下のステップ:
(a) OPDであるか、OPDに関連した症状を有するか、または咳をしている哺乳動物被験体を特定するステップ;
(b) 1種以上の化合物を含んでなる治療上有効な用量の医薬組成物を被験体に対して投与するステップ、ここで、各化合物は式(I):
【化1】

であるかまたはその製薬上許容される塩であり、
式中、
およびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択されるか;または
およびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;
はアルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択され;
、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルからなる群より選択され;
、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノからなる群より選択され;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され;
は、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され;
は、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
mは0〜10の整数であり;
nは0〜10の整数であり;
は、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;
は不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
pは0〜10の整数であり;
qは0〜10の整数であり;かつ
は不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択されるもの、
を含む、上記方法。
【請求項49】
前記化合物が、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記OPDが慢性閉塞性肺疾患(COPD)である、請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
前記OPDが咳をすることを含む、請求項48〜50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記OPDが喘息である、請求項48、49または51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記OPDが、急性気管支炎、肺気腫、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、および急性喘息からなる群より選択される、請求項48、49または51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記化合物が、迷走神経求心性神経末端上のP2Rにより仲介される迷走神経応答を阻害する能力を有する、請求項48〜53のいずれか1項に記載の方法。
【請求項55】
前記迷走神経求心性神経末端がC線維末端である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記迷走神経求心性神経末端がA線維末端である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記P2RがP2X受容体である、請求項54〜56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記P2X受容体がP2X受容体である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記P2X受容体がP2X2/3受容体である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記迷走神経応答がATPに対するものである、請求項54〜59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記迷走神経応答がATPのアナログに対するものである、請求項54〜59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記ATPのアナログがα,βmATPである、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記ATPのアナログがβ,γmATPである、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
前記迷走神経応答がAp5Aに対するものである、請求項54〜59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記化合物の投与が肺内吸入によるものである、請求項48〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記化合物の投与が静脈内ボーラス注射によるものである、請求項48〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記化合物の投与経路が、経口、経皮、直腸内、膣内、鼻内、胃内、気管内、もしくは肺内、皮下、筋内、または腹腔内からなる群より選択される、請求項48〜64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
1種以上の化合物を迷走神経感覚神経線維末端に接触させるステップを含む、肺迷走神経感覚神経線維末端上のP2Rの活性化を阻害する方法であって、各化合物は式(I):
【化1】

であるかまたはその製薬上許容される塩であり、
式中、
およびAはそれぞれ独立に、アルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、−NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択されるか;または
およびAは、それらが結合する炭素原子と共にイオウ原子を含有する五員複素環を形成しているが、ここで該五員複素環は任意によりメルカプトおよびオキソより選択される1個または2個の置換基で置換されており;
はアルコキシカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、カルボキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、(NR)カルボニル、NRS(O)、−S(O)OH、およびテトラゾリルからなる群より選択され;
、A、AおよびAはそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、シアノ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、ニトロ、−NR、および(NR)カルボニルからなる群より選択され;
、A、A10およびA11はそれぞれ独立に、水素、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルケニル、アルキル、アルキルカルボニル、アルキルカルボニルオキシ、アルキニル、アリール、カルボキシ、ハロアルコキシ、ハロアルキル、ハロゲン、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、−NR、(NR)カルボニル、およびオキソからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、およびシアノからなる群より選択され;
は、水素およびアルキルからなる群より選択され;
は、アルコキシ、アルキル、アリール、アリールアルコキシ、アリールアルキル、ハロアルコキシ、およびハロアルキルからなる群より選択され;
およびRはそれぞれ独立に、水素、アルキル、アルキルカルボニル、ホルミル、およびヒドロキシアルキルからなる群より選択され;
は、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、および−(CHC(O)(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はNに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
mは0〜10の整数であり;
nは0〜10の整数であり;
は、アリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択され;
は不在であるか、または共有結合、アルケニレン、アルキレン、アルキニレン、−(CHO(CH−、−(CHS(CH−、−(CHC(O)(CH−、−(CHC(OH)(CH−、および−(CHCH=NO(CH−からなる群より選択されるが、ここでこの基の左端はRに結合し、かつこの基の右端はRと結合しており;
pは0〜10の整数であり;
qは0〜10の整数であり;かつ
は不在であるか、またはアリール、シクロアルケニル、シクロアルキル、および複素環からなる群より選択される、
上記方法。
【請求項69】
前記化合物が、5−({(3−フェノキシベンジル)[(1S)−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレニル]アミノ}カルボニル)−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(A−317491)である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
P2Rの活性化を阻害するステップが、P2R活性化型カチオン流出入を阻害するステップを含む、請求項68または69に記載の方法。
【請求項71】
前記接触が、哺乳動物被験体体内でのものである、請求項68〜70のいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
前記哺乳動物被験体がヒト被験体である、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記接触が、哺乳動物被験体に対して前記1種以上の化合物を含んでなる組成物を投与するステップを含む、請求項68〜72のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
前記組成物の投与が肺内吸入によるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記組成物の投与が静脈内ボーラス注射によるものである、請求項73に記載の方法。
【請求項76】
前記組成物の投与経路が、経口、経皮、直腸内、膣内、鼻内、胃内、気管内、もしくは肺内、皮下、筋内、または腹腔内からなる群より選択される、請求項73に記載の方法。
【請求項77】
前記哺乳動物被験体がOPDである、請求項71または72に記載の方法。
【請求項78】
前記哺乳動物被験体が咳をしている、請求項71または72に記載の方法。
【請求項79】
前記OPDが咳をすることを含む、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
前記OPDが慢性閉塞性肺疾患(COPD)である、請求項77〜79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
前記OPDが喘息である、請求項77〜79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記OPDが、急性気管支炎、肺気腫、慢性気管支炎、気管支拡張症、嚢胞性線維症、および急性喘息からなる群より選択される、請求項77〜79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
前記接触をin vitroで行う、請求項68〜70のいずれか1項に記載の方法。
【請求項84】
前記肺迷走神経感覚神経線維がC線維である、請求項68〜83のいずれか1項に記載の方法。
【請求項85】
前記肺迷走神経感覚神経線維がA線維である、請求項68〜83のいずれか1項に記載の方法。
【請求項86】
前記P2RがP2X受容体である、請求項68〜85のいずれか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記P2X受容体がP2X受容体である、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記P2X受容体がP2X2/3受容体である、請求項86に記載の方法。
【請求項89】
P2RがATPにより活性化しうるものである、請求項68〜88のいずれか1項に記載の方法。
【請求項90】
P2RがATPのアナログにより活性化しうるものである、請求項68〜88のいずれか1項に記載の方法。
【請求項91】
前記ATPのアナログがα,βmATPである、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記ATPのアナログがβ,γmATPである、請求項90に記載の方法。
【請求項93】
前記P2RがApAにより活性化しうるものである、請求項68〜88のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−507368(P2008−507368A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522850(P2007−522850)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2005/026884
【国際公開番号】WO2006/012639
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(507020060)デュスカ サイエンティフィック カンパニー (1)
【Fターム(参考)】