説明

胃腸運動性を評価するための方法およびシステム

身体の腹部領域から発せられる音響学的エネルギー(すなわち、音)に関連する1以上のシグナルを獲得し、該音響学的エネルギーシグナルに基づいて少なくとも1つの胃腸パラメーターを決定するのに効率的に用いることができる胃腸運動性を評価するためのシステムおよび方法が記載される。胃腸パラメーターとしては、胃腸混合、排出、収縮および推進などの胃腸事象、ならびに胃腸通過時間が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、胃腸機能の非侵襲的評価のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過去十年の製薬業界における進歩は、ヒトの寿命および生活の質を延長するのに必須であった。新規化合物に加えて、経口医薬製剤および送達方法における進歩は、用量を最小化し、副作用を減少させながら、効果を改善するのを助けてきた。しかしながら、ヒトの身体の消化管は不均一であり、消化酵素、吸収速度、微生物叢および他の因子における差異は、胃腸管の特定の部位を、特定の医薬の送達にとってより理想的にするか、またはあまり理想的にしない。
【0003】
製薬会社は、標的化された薬剤送達、すなわち、胃腸(「GI」)管内の薬剤送達の位置および速度にかなりの努力を集中させてきた。これらの努力は、基本的な送達設計、例えば、ゲルカプセル対硬質錠剤、コーティング製剤などの形態における変化をもたらし、より最近では、マイクロおよびナノ粒子径を超える進歩した制御をもたらした。これらの進歩は有益であることが証明されているが、ヒトの要因が残存している:GI系は、被験者間および被験者内で、大きく変動する。重要な可変性の胃腸運動性および従って、胃腸(または消化)通過時間は、理想的な標的化薬剤送達の決定を複雑にする。
【0004】
また、胃腸運動性は、多くの例においては、医薬製剤の効力の臨床評価に対する有意な影響を有し得る。実際、当業界でよく知られるように、経口送達される医薬製剤、例えば、医薬製剤を含むゲルカプセルが最適な溶解、および従って、吸収の前に胃腸管を出る場合、該製剤の効力は大きく低下するであろう。さらに、いくつかの例においては、前記カプセルは、長時間(例えば、5時間を超える)に渡って、上部胃腸管(すなわち、上基底部)中に残存し得ることが見出された。
【0005】
胃腸運動性および通過時間を評価するために、様々な方法およびシステムが用いられてきた。一般的に用いられる方法は、γシンチグラフィーを含む。しかしながら、γシンチグラフィーに関連するいくつかの有意な欠点が存在する。1つの欠点は、該方法が、放射性物質の取り扱いおよび装備経費に関連する問題(および制御)に起因して、現在は少数の施設および専門家に限定されていることである。さらなる欠点は、大規模な臨床薬剤試験が実行不可能であることである。
【0006】
胃腸運動性を評価するためのさらなる方法およびシステムとしては、胃腸音の獲得および評価が挙げられる。例えば、米国特許第5,301,679号においては、体表面に配置されるか、または胃腸管に経口的もしくは直腸的に挿入されたマイクロフォンを用いて体音を捕捉することにより、胃腸管の疾患などの様々な疾患に関する診断情報を提供するための方法およびシステムが開示されている。
【0007】
他のシステムはまた、特定の周波数帯域内の胃腸音に対して感受性のマイクロフォンを使用し、Dalleら、「腸音におけるコンピューター分析(Computer Analysis In Bowel Sounds)」、Computers in Biology and Medicine, Vol. 4 (3-4), pp. 247-254 (Feb. 1975); Sugrueら、「コンピューター化腸音検査:新しいシステムの臨床調査(Computerized Phonoenterography: The Clinical Investigation of the New System)」、Journal of Clinical Gastroenterology, Vol. 18, No. 2, pp. 139-144 (1994); Poynardら、「Qu’attendre des systemes experts pour le diagnostic des troubles fonctionnes intestinaux」、Gastroenterology Clinical Biology, pp. 45c-48c (1990)により例示されている。
【0008】
従来の音響学的方法およびシステムに関連する有意な欠点は、記録された音から誘導することができる情報の範囲が限定されていることである。実際、胃腸音と胃腸通過時間との間の関係に関する開示は、たとえあってもわずかである。
【0009】
従って、腹部聴診により胃腸運動性を評価し、胃腸通過時間を決定するための方法およびシステムを提供するのが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0010】
本発明の実施形態は、胃腸運動性を評価するためのシステムおよび方法を提供する。いくつかの実施形態においては、前記システムおよび方法は、胃腸通過時間および他の生理学的パラメーターなどの様々な情報を提供することができる。
【0011】
本発明の一態様に従って、身体の腹部領域から発する音響学的エネルギー(すなわち、音)に関連する1以上のシグナルを獲得し、該音響学的エネルギーシグナルに基づいて少なくとも1つの胃腸パラメーターを決定するのに効率的に用いることができる胃腸運動性を評価するためのシステムおよび方法が提供される。
【0012】
かくして、本発明の一実施形態に従えば、被験者の胃腸運動性をモニターするためのシステムであって、(a)被験者の身体領域上もしくはその中に取付け可能な少なくとも1つのセンサーであって、音響学的エネルギーを感知し、該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成するように適合される前記センサーと、(b)該音響学的エネルギーシグナルを受信するように適合されるプロセッシングユニットであって、該音響学的エネルギーシグナルを処理し、胃腸事象の発生を決定するようにさらに適合される前記プロセッシングユニットとを含む、前記システムが提供される。
【0013】
一実施形態においては、前記センサーは、音響学的エネルギーを表す複数の音響学的エネルギーシグナルを生成し、前記プロセッシングユニットは胃腸事象の発生を決定するための音響学的エネルギーシグナルを受信および処理するように適合される。
【0014】
本発明の一実施形態においては、前記音響学的エネルギーは、胃腸音を含む。
【0015】
別の実施形態に従えば、被験者の胃腸運動性をモニターする方法であって、(a)被験者の胃腸系により生成される音響学的エネルギーを感知する工程、および(b)該音響学的エネルギーを処理して、胃腸パラメーターを決定する工程を含む、前記方法が提供される。
【0016】
一実施形態においては、胃腸パラメーターは、胃腸通過時間を含む。
【0017】
本発明のさらなる実施形態に従えば、被験者から誘導される臨床データを評価するための方法であって、該被験者の胃腸パラメーターを、該被験者への医薬の投与により該被験者において誘導される少なくとも1つの生理学的パラメーターと比較する工程を含む、前記方法が提供される。
【0018】
本発明の別の実施形態に従えば、被験者から誘導される臨床データを評価するための方法であって、(i)該被験者に医薬を経口投与する工程、(ii)被験者の胃腸系により生成される音響学的エネルギーをモニターする工程、(iii)該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成する工程、(iv)該音響学的エネルギーシグナルを処理して、それに関連する胃腸パラメーターを決定する工程、ならびに(v)該胃腸パラメーターを、該被験者への該医薬の投与により該被験者において誘導される少なくとも1つの生理学的パラメーターと比較する工程を含む、前記方法が提供される。
【0019】
本発明の一実施形態においては、前記胃腸パラメーターは、胃腸通過時間を含む。
【0020】
一実施形態においては、前記生理学的パラメーターは、薬物動態(PK)特性を含む。
【0021】
本発明の別の実施形態に従えば、被験者の胃腸運動性を評価するための方法であって、(i)該被験者に摂取可能物質を経口投与する工程、(ii)被験者の胃腸系により生成される音響学的エネルギーをモニターする工程、(iii)該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成させる工程、ならびに(iv)該音響学的エネルギーシグナルを処理して、それに関連する胃腸パラメーターを誘導する工程を含む、前記方法が提供される。
【0022】
本発明の一実施形態においては、胃腸パラメーターは、胃腸通過時間を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】図1Aは、典型的な胃腸管を示すヒト胴体の一部の図解である。
【図1B】図1Bは、ヒトの胃の図解である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に従う、胃腸運動性分析システムの模式図である。
【図3】図3は、図1に示された部分的ヒト胴体のさらなる図解であり、本発明の一実施形態に従う、胃腸音(または音響学的)センサーの配置を示す。
【図4】図4は、分析装置の模式図であり、本発明の一実施形態に従う、サブシステムまたはそのモジュールを示す。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に従う、ヒト胴体の上に配置されたシステムベストを有する、ヒト胴体の一部のさらなる図解である。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態に従う、さらなる生理学的センサーを有する胃腸運動性分析システムの模式図である。
【図7】図7は、胃腸運動性試験の間に獲得されたγシンチグラフィー結果の概要である。
【図8】図8は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図9】図9は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図10】図10は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図11】図11は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図12】図12は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図13】図13は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【図14】図14は、図7にまとめられた胃腸運動性試験の間に獲得された胃腸音を反映する、胃腸音シグナルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を詳細に説明する前に、本発明が特定の例示された構造、装置、システム、材料または方法に限定されず、そのようなものとして、勿論、変化してもよいことが理解されるべきである。かくして、本明細書に記載のものと類似するか、または等価ないくつかの装置、システムおよび方法を本発明の実施において用いることができるが、本発明に係る装置、システムおよび方法の実施形態が本明細書に記載される。
【0025】
また、同様に参照される文字は、一般的には、図面に示される表示を通して同じ部分または要素を指すことも理解されるべきである。
【0026】
特に指摘しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、上記または下記に関わらず、本明細書に引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0027】
最後に、本明細書および添付の特許請求の範囲で用いられる場合、単数形の「a」、「an」、「the」、および「one」は、本文が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。かくして、例えば、「センサー(a sensor)」に対する参照は、2以上のそのようなセンサーを含む;「胃腸事象(a gastrointestinal event)」に対する参照は、2以上のそのような事象などを含む。
【0028】
定義
本明細書で用いられる用語「医薬組成物」は、生物(ヒトまたは動物)に投与された場合、所望の薬理学的および/または生理学的効果を誘導する、任意の化合物または物質の組成物または構成要素の組合せを意味し、それを含むことを意味する。従って、この用語は、活性剤、薬剤、プロドラッグ、および生物活性剤、ならびに生物薬剤(例えば、ペプチド、ホルモン、核酸、遺伝子構築物など)と伝統的に見なされる物質を包含する。
【0029】
本明細書で用いられる用語「医薬」とは、ヒトまたは動物に経口投与した場合、胃腸管から音響学的エネルギーまたは胃腸音(もしくは音)を引き起こす医薬組成物、例えば、限定されるものではないが、硬質錠剤、ゲルカプセル(硬質および軟質)、カプレットおよび他の固形剤形の形態の医薬組成物を意味し、これを含むことを意味する。
【0030】
本明細書で用いられる用語「摂取可能物質」とは、ヒトまたは動物に経口投与された場合、胃腸管から音響学的エネルギーまたは胃腸音(もしくは音)を引き起こす任意の物質またはアイテムを意味し、これを含むことを意味する。かくして、「摂取可能物質」は、医薬組成物、ならびに非医薬組成物、例えば、限定されるものではないが、偽薬などを含んでもよい。
【0031】
本明細書で用いられる用語「胃腸事象」とは、限定されるものではないが、胃腸混合、排出、収縮および推進などの胃腸系に関連する活性または機能を意味し、これを含む。「胃腸事象」はまた、移動運動複合体(MMC)期を含んでもよい。
【0032】
本明細書で用いられる用語「胃腸パラメーター」とは、限定されるものではないが、胃腸事象および胃腸通過時間などの胃腸機能に関連する特徴を意味し、これを含む。
【0033】
本明細書で用いられる用語「胃腸音」とは、胃腸事象により生成される音響学的エネルギー(およびそれに含まれる全てのシグナル)を意味し、これを含む。
【0034】
本明細書で用いられる用語「胃腸通過時間」とは、通過させる材料の組成、胃腸管の状態、生理的ストレス、性別および他の因子により影響され得る胃腸管の1個以上の区域を通る運動時間を意味する。「胃腸通過時間」は、胃腸管の1個以上の区域を通る全体の胃腸通過時間、基底部-直腸通過時間、および様々な他の運動時間を記載するのに用いることができる包括的用語である。
【0035】
本明細書で用いられる用語「全体の胃腸通過時間」とは、その意図される経路(例えば、経口、直腸)を介して投与される地点から、胃腸管の様々な区域を通過し、身体からその出口までの医薬または摂取可能物質の運動時間を意味する。
【0036】
本明細書で用いられる用語「基底部-直腸胃腸通過時間」とは、胃の基底部への進入から、直腸からの排出までの医薬または摂取可能物質の運動時間を意味する(図1Aおよび1Bを参照)。
【0037】
本明細書で用いられる用語「シグナル電圧エンベロープ」とは、複数の音響学的エネルギーシグナル電圧から誘導されるエンベロープを意味する。「シグナル電圧エンベロープ」は、音響学的エネルギーシグナル電圧により定義される上限および下限を有する。
【0038】
本明細書で用いられる用語「シグナル振幅エンベロープ」とは、複数の音響学的エネルギーシグナル振幅から誘導されるエンベロープを意味する。「シグナル振幅エンベロープ」は、音響学的エネルギーシグナル振幅により定義される上限および下限を有する。
【0039】
本明細書で用いられる用語「V閾値」とは、値を有意と考えることができる最小電圧を意味する。本発明に従えば、シグナル電圧エンベロープがV閾値未満である場合、応答が存在しない(すなわち、シグナルは検出器の感度未満である)。シグナル電圧エンベロープが所定量の時間より長い時間に渡って、V閾値より大きい場合、前記値は有意であるとみなされる。
【0040】
本明細書で用いられる用語「被験者」とは、ヒトまたは動物を意味し、これを含む。
【0041】
本発明は、胃腸運動性を評価するためのシステムおよび方法を提供する。本明細書に詳細に説明されるように、本発明の方法およびシステムを効率的に用いて、身体の腹部領域から発する音響学的エネルギー(すなわち、音)に関連する1以上のシグナルを獲得し、音響学的エネルギーシグナルおよび/またはその開始に基づいて少なくとも1つの胃腸パラメーターを決定することができる。
【0042】
本明細書に記載されるように、本発明の実施形態の方法およびシステムの実施は、選択された仕事または工程を、手動で、自動で、またはその組合せで実施するか、または完了することを含んでもよい。本発明のいくつかの実施形態においては、いくつかの選択された工程を、任意のオペレーティングシステム上で、または任意のファームウェア上で、またはその組合せ上で、ハードウェアまたはソフトウェアにより実施することができる。例えば、ハードウェアとしては、本発明の実施形態の選択された工程を、チップまたは回路として実施することができる。ソフトウェアとしては、本発明の実施形態の選択された工程を、任意の好適なオペレーティングシステムを用いるコンピューターにより実行される複数のソフトウェア命令として実施することができる。任意の事例において、本発明の方法およびシステムの選択された工程を、複数の命令を実行するためのコンピュータープラットフォームなどのデータプロセッサーにより実施されるものとして記載することができる。
【0043】
第1に図1Aを参照して、典型的な胃腸管(一般的に、「10」と命名される)の図解を示す。図1に示されるように、胃腸管10は一般的には、食道12、胃13、小腸15および大腸16を含む。大腸は、盲腸17、結腸18および直腸19を含む。
【0044】
図1Bを参照すれば、胃13は、基底領域(または基底部)14aおよび幽門洞(または前庭部)14bを含む。
【0045】
当業界でよく知られるように、胃腸運動性(正常な男性/女性被験者における)は、典型的には、移動運動複合体(MMC)と呼ばれる、3つの異なる期の反復的出現を特徴とする。1期は、収縮しない期間または期を含む。1期の次の2期は、断続的な、可変的振幅の収縮期を含む。2期の次の3期は、反復的に増加する収縮期を含む。移動運動複合体は、80〜150分の平均周期を有する。
【0046】
また、記載の期の各々の間に、異なる音が胃腸管から発せられることも当業界でよく確立されており、知られている。例えば、T. Tomomasaら、「絶食したヒトにおける胃腸音と移動運動複合体(Gastrointestinal Sounds and Migrating Motor Complex In Fasted Humans)」、The American Journal of Gastroenterology, Vol. 94, No. 2, pp. 374-381 (1999); J. Farrarら、「腹部音の研究により示される胃腸運動性(Gastrointestinal Motility as Revealed by Study of Abdominal Sounds)」、Gastroenterology, Vol. 29, No. 5, pp. 789-800 (1955); W.B. Cannon、「胃および腸によりもたらされるリズム音の聴診(Auscultation of the Rhythmic Sounds Produced by the Stomach and Intestines)」、Laboratory of Physiology, VI, pp. 339-353 (1905)を参照されたい。
【0047】
上記に示されるように、胃腸音に関する様々な研究およびそれから得られる刊行物が存在するが、胃腸音と移動運動複合体との関係に関する情報は不足している。また、胃腸音と胃腸通過時間との関係に関する情報も非常に少ない。
【0048】
ここで図2を参照すれば、胃腸運動性分析システム20の一実施形態の模式図が示される。図2に例示されるように、システム20は、複数の音響学的エネルギーセンサー22a、22b、22cおよび少なくとも1個の分析器24を含む。図2に示される実施形態においては、システム20はまた、提示手段26を含む。
【0049】
本発明に従えば、センサー22a、22b、22cは、皮膚表面での、もしくはその近くでの振動および/もしくは音を検出し、これらの振動および/もしくは音を電気シグナルに変換する接触もしくは非接触変換器を独立に含んでもよい。他のセンサーは、鼻-胃管などを用いて患者に導入される、食道内および胃内センサーなどの内部センサーを含んでもよい。
【0050】
例示に過ぎないが、センサー22a、22b、22cは、電子聴診器、接触マイクロフォン、非接触振動センサー、例えば、容量センサーもしくは光学センサー、または任意の他の好適な型のセンサーであってよい。センサー22a、22b、22cを、好ましくは、必須ではないが、皮膚表面の電気抵抗を一致させて、皮膚表面に対して最適な音響結合を提供する音響学的電気抵抗を有するように選択する。さらに、胃音により皮膚表面で、またはその近くで生成される、背景雑音および比較的低い振動もしくは音の振幅に起因して、センサー22a、22b、22cはまた、好ましくは、必須ではないが、高いシグナル対ノイズ比、高い感度および/または良好な周囲雑音シュラウディング(shrouding)能力を提供するように選択される。
【0051】
本発明に従えば、センサー22a、22b、22cは、ワイヤー23、または無線周波数、赤外線などの任意の他の好適な媒体を介して、低レベル(すなわち、低出力)の電気シグナルを、分析器24に送信する。
【0052】
本発明の範囲内で用いることができる好適なセンサーは、米国特許第6,512,830号に開示されている。
【0053】
3つのセンサーを図2に示すが、追加の、もしくはより少ないセンサーを用いて、患者の腹部11上の複数の位置、または目的のものであり、胃腸運動性および/もしくは通過時間の評価において有用であってよい患者の身体上の任意の他の位置で、胃音を検出することができる。例えば、1つのセンサーを患者の身体上に戦略的に配置し、および/または患者の身体上の様々な重要位置に連続的に動かして、胃腸音を検出することができる。
【0054】
以下に詳細に考察するように、分析器24は、増幅器、フィルター、過渡保護ならびにノイズシグナルを減衰させ、および/またはエイリアシングの効果を低下させる、センサー22a、22b、22cにより送られるシグナルを増幅する他の電気回路を含んでもよい。特に、分析器24は、約1100〜1400 Hzの範囲のカットオフ周波数を有する低域通過フィルターを含んでもよい。本発明の一実施形態においては、低域通過フィルターは、約1200〜1300 Hzの範囲のカットオフ周波数を有する。
【0055】
あるいは、またはさらに、高域通過フィルターを、分析器24内に組込むことができる。この高域通過フィルターは、例えば、筋肉ノイズ、呼吸音、心音、非胃性胃腸音などの望ましくないノイズおよび音または任意の他の望ましくない音もしくはノイズが、センサー22a、22b、22cにより送られたシグナルがさらに処理される前に実質的に減衰するか、もしくは排除されるように、約70〜90 Hzの範囲のカットオフ頻度を有してもよい。
【0056】
非胃腸音を破損する可能性が最も高いスペクトルエネルギーは、約20〜250 Hzの周波数帯にあることが多い。しかしながら、センサー22a、22b、22cの考えられる配置により、成人患者については、これらの破損音の振幅を、減少させ、いくつかの場合においては、有意に減少させることができる。
【0057】
ここで図3を参照すれば、本発明の一実施形態に従う、センサー22a、22b、22cの好ましい配置を示す。図3に例示されるように、センサー22aを、胃基底部に近い左上四分円に配置し、センサー22bを、盲腸に近い右下四分円に配置し、およびセンサー22cを小腸に近い、より好ましくは、下行結腸に近い左下四分円に配置するのが好ましい。
【0058】
本発明の実施形態に従えば、センサー22a、22b、22cを、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、図3に具体的に記載されたもの以外の位置に配置することができる。例えば、センサー22aを、正中線の右側に対して、臍と剣状突起の間の距離の約2/3の測線上に配置し、センサー22bを左海岸周辺部(coastal margin)上に配置し、ならびにセンサー22cを臍と恥骨結合との間の距離の約半分の正中線に配置することができる。
【0059】
図4を参照すれば、本発明の一実施形態に従って、分析器24を、以下の機能:(i)センサー(例えば、センサー22a、22b、22c)からの記録された音響学的エネルギー(もしくは胃腸音)シグナルを受信すること30、(ii)記憶媒体32中に該シグナルを保存すること、ならびに(iii)本発明の実施形態に従って、音響学的エネルギーシグナル33を処理して、それに関する少なくとも1つの胃腸パラメーターまたは胃腸事象(および/もしくはその発生)を誘導することを実施するように適合させる。本発明のいくつかの実施形態においては、分析器24を、胃腸パラメーターもしくは事象を、医薬組成物の投与により被験者において誘導される、薬物動態(PK)パラメーターなどの少なくとも1つの生理学的パラメーターと比較するようにさらに適合させる。
【0060】
また、図4に例示されるように、分析器24を、記録された音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの出力シグナル39および/または、本発明のさらに想定される実施形態に従う(以下に考察)、生理学的特性を提供するように適合させる。
【0061】
本発明の実施形態に従って、シグナルプロセッシング33は、(i)シグナルに由来する外来人工物をフィルタリングする工程34、(ii)シグナルに基づいてシグナル振幅エンベロープを決定する工程36、および(iii)シグナルの優位周波数を決定する工程38を含む。
【0062】
本発明に従って、フィルタリング工程34を、ソフトウェア、例えば、コンピュータープログラム、またはハードウェアを用いて実施することができる。かくして、本発明のいくつかの実施形態においては、分析器を、音響学的エネルギーシグナルをフィルタリングし、該シグナルから目的の周波数帯を抽出するようにプログラムする。
【0063】
一実施形態においては、目的の周波数は、約70〜1400 Hzの範囲にある。別の実施形態においては、目的の周波数は、約90〜1200 Hzの範囲にある。
【0064】
本発明に従って、様々な従来のプログラムを本発明の範囲内で用いて、記載のフィルタリング工程34を実施することができる。
【0065】
本発明の他の実施形態においては、フィルタリング工程34を、ハードウェアを介して実施する。一実施形態においては、分析器回路は、シグナルから外来人工物をフィルタリングするように適合された高域および低域通過フィルター34を含む。本発明に従って、様々な高域および低域通過フィルターを本発明の範囲内で用いることができる。一実施形態においては、高域通過フィルターは、80 Hzに設定されたカットオフを有する、Blackmanウィンドウ化された、平衡化401-タップFIRを含み、低域通過フィルターは、1250 Hzに設定されたカットオフを有する、Blackmanウィンドウ化された、平衡化400-タップFIRを含む。
【0066】
一実施形態においては、シグナル振幅エンベロープを、5μ秒ウィンドウを有するスライディングヒルベルト変換を用いて決定する。当業界で公知のように、ヒルベルト変換は、シグナルエンベロープを決定するのに一般的に用いられている。例えば、T. Tomomasaら、「絶食したヒトにおける胃腸音および移動運動複合体(Gastrointestinal Sounds and Migrating Motor Complex In Fasted Humans)」、The American Journal of Gastroenterology, Vol. 94, No. 2, pp. 374-381 (1999); J. Farrarら、「腹部音の研究により示される胃腸運動性(Gastrointestinal Motility as Revealed by Study of Abdominal Sounds)」、Gastroenterology, Vol. 29, No. 5, pp. 789-800 (1955)(参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照されたい。
【0067】
出願人は、ヒルベルト変換が、短い「ポップ」、すなわち、断続的な音響学的エネルギースパイクを平滑化し、双極性音響学的エネルギーシグナルを、上記に定義された、単純なV閾値を用いて容易に分析することができるシグナルに変換したことを見出した。
【0068】
本発明の実施形態に従えば、音響学的エネルギーシグナルの優位周波数を、様々な従来的手段により同様に決定することができる。一実施形態においては、優位周波数を、5μ秒を超える時間についてV閾値を超えるピークを単離することにより決定した。
【0069】
図2に戻って参照すれば、本発明に従う、提示手段26は、記録された音響学的エネルギーシグナル(処理前および処理後)および/または記録された生理学的特性を反映する少なくとも1つの視覚的提示を提供することができる任意の好適な媒体を含んでもよい。一実施形態においては、提示手段26は、コンピューターモニターを含む。
【0070】
本発明の他の実施形態に従えば、提示手段26はまた、可聴式提示を含んでもよい。可聴式提示を、例えば、胃腸事象もしくはMMC期を表す音または音質を提供するように適合させることができる。可聴式提示を、選択的胃腸事象もしくはMMC期またはそれに関する特徴、例えば、期の開始を表す異なる音もしくは音質を提供するようにさらに適合させることができる。
【0071】
提示手段26はまた、記録された音響学的エネルギーシグナル(処理前および処理後)および/または記録された生理学的特徴を表す少なくとも1個の視覚的提示、ならびに少なくとも1つの胃腸事象を表す少なくとも1つの可聴式の音もしくは音質を提供することができる。
【0072】
当業者により理解されるように、提示手段26はまた、分析器24の不可欠な構成要素または特徴であってもよい。
【0073】
当業者により理解されるように、本発明のセンサー22a、22b、22cを、様々な従来手段で被験者の身体に配置することができる。例えば、センサー22a、22b、22cは、被験者の皮膚を一時的にはめ込むように適合された筺体上に接着リングまたは表面を含んでもよい。また、センサー22a、22b、22cを、帯状の医療用テープまたは収縮性包帯を介して被験者の皮膚に付着させることもできる。
【0074】
ここで図5を参照すれば、本発明の一実施形態においては、センサー22a、22b、22cを、ベスト40を介して被験者の身体に対して実質的に静止した位置に配置し、維持する。本発明に従えば、ベスト40は、様々なサイズおよび材料を含んでもよい。
【0075】
一実施形態においては、ベスト40は調節可能であり、軽量のメッシュ材料、例えば、ナイロンまたはライクラを含む。本発明の一実施形態においては、ベスト40は、少なくとも1つのセンサーを受容し、収容するように配置された少なくとも1つのポケットを含む。好ましくは、ベスト40は、複数のセンサーを受容し、位置するように配置された複数のポケットを含む;ポケットは、被験者により着用された場合、被験者の身体上の選択される位置に対応するように配置される。
【0076】
別の想定される実施形態においては、ベスト40およびセンサーは、単純な男性-女性スナップシステムを含む。一実施形態においては、ベスト40はスナップシステムの複数の位置の女性部分を含んでもよく、センサーは受容するベストの女性部分によりベスト40上にはめ込み、従って、その上に固定することができる男性部分を含んでもよい。他の実施形態においては、ベスト40は、スナップシステムの複数の位置の男性部分を含んでもよく、センサーは受容するベストの男性部分によりベスト40上にはめ込み、従って、その上に固定することができる女性部分を含んでもよい。
【0077】
図5に示される実施形態においては、ベスト40は、音響学的エネルギーセンサー22a、22b、22cを受容し、収容するように適合された少なくとも3つのポケット42を含む。ベスト40はまた、好ましくは分析器24を受容するように適合された分析器ポケット44を含む。
【0078】
当業者には容易に明らかとなるであろうが、ベスト40は可動性のシステム20を提供する。
【0079】
本発明のさらに想定される実施形態においては、胃腸運動性分析システム20は、1以上の生理学的特徴を記録するように適合された少なくとも1つ、好ましくは、複数のさらなるセンサーを含む。そのような生理学的特徴としては、限定されるものではないが、ECG、脈拍数、SO2、皮膚温度、中核体温および呼吸が挙げられる。センサー(例えば、3軸加速度計)を用いて、身体の位置および/または運動をモニターすることもできる。
【0080】
ここで図6を参照すれば、多機能センサー22a〜22cおよび51〜58を用いる、本発明に従う胃腸運動性分析システム50の一実施形態の模式図が示される。本発明の一実施形態においては、センサー51は心臓の性能および/もしくは機能をモニターするように適合されたECGセンサーを含み、センサー52は被験者の脈拍数をモニターするように適合された脈拍数センサーを含み、センサー53は被験者の血中酸素レベルをモニターするように適合されたSO2センサーを含み、センサー54は被験者の皮膚温度をモニターするように適合された第1の温度センサーを含み、センサー55は被験者の中核体温をモニターするように適合された第2の温度センサーを含み、センサー56は被験者の呼吸速度および1回換気量をモニターするように適合された呼吸センサーを含み、ならびにセンサー57は被験者の運動および/もしくは位置をモニターするように適合された位置/運動センサーを含む。
【0081】
図6に示されるように、システム50はまた、1つの追加のセンサー58を含む。一実施形態においては、センサー58は咳などの非胃腸関連音響学的エネルギーをモニターするように適合された音響学的センサーを含む。本発明に従えば、音響学的センサーからのシグナルを用いて、音響学的エネルギーセンサー22a、22b、22cにより記録されたものであってよい非胃腸関連シグナルまたは人工物を同定し、抽出することができる。
【0082】
本発明に従えば、追加のセンサー51〜58を、被験者の皮膚に直接的に同様に付着させることができる。センサー51〜58を、ベスト40に組込むこともできる。
【0083】
上記のように、システム50を3つの音響学的エネルギーセンサー22a、22b、22cと共に示したが、システム50は3個未満のセンサー、例えば、センサー22a、またはより多くのそのようなセンサーを含んでもよい。
【0084】
また、システム50を11個のセンサー、すなわち、センサー22a〜22cおよび51〜58と共に示したが、システム50は任意の数のセンサー、例えば、1個のセンサー、3個のセンサー、6個のセンサーなど、ならびに/または少なくとも1つのセンサー22a〜22cおよび0個以上のセンサー51〜58の任意の組合せを含んでもよいことも理解されるべきである。例えば、システム50は、センサー22a、22b、52および57またはセンサー22a、52および56を含んでもよい。
【0085】
当業者には容易に明らかとなるであろうが、本発明の実施形態は、1以上の利点、例えば、
・より良好な評価研究および臨床データに対する、医薬組成物の研究、およびそれに関する臨床試験の間に効率的に用いることができる胃腸運動性をモニターするための方法およびシステムの提供、
・医薬組成物の研究およびそれに関する臨床試験に関連する時間および資金を減少させる能力を有する胃腸運動性をモニターするための方法およびシステムの提供、
・胃腸行動の評価の間の診断補助として医師が容易に用いることができる胃腸運動性をモニターするための方法およびシステムの提供、
を提供することができる。
【0086】
(実施例)
以下の実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施することができるように提供されるものである。それらは本発明の範囲を限定すると考えられるべきではなく、単にその代表例として例示されるに過ぎないと考えられるべきである。
【実施例1】
【0087】
最初に、6人の男性被験者について健康評価を実施した。全ての被験者が最初の健康評価を通過した。次いで、被験者は試験センターで夜を過ごし、試験が開始する前に少なくとも11時間、絶食した(すなわち、水のみ)。
【0088】
3つの音響学的エネルギーセンサーを、それぞれの被験者に配置した。センサー番号1を、患者の右乳首の下4〜6インチのところ、すなわち、胃基底部の近くに置いた。センサー番号2を、右乳首の下11〜11.5インチのところ、すなわち、盲腸の近くに置いた。センサー番号3を、左乳首の下約11インチの左下四分円、すなわち、小腸/下行結腸の最も音量が高い部分の近くに置いた。センサーを、ベスト40などの、軽量でぴったり体に合ったナイロンメッシュベストにより、各被験者の身体に対してしっかりと固定した。
【0089】
センサーは、カスタム改変されたWelch-Allen Master Elite Plus Stethoscopesであった。伝統的な聴診器と違って、これらの圧力に基づくマイクロフォンは、間接的な振動、および従って、周囲雑音に対して感受性が低い技術を用いる。さらに、このセンサーはまた、シグナル対ノイズ比を改善し、伝統的なオーディオシグナル、またはモノライン出力シグナルを送達するシグナル処理回路をも含む。
【0090】
マイクロフォンヘッドまたはシグナル処理エレクトロニクスを邪魔することなく、筺体を除去し、電力およびライン出力シグナルを、患者の運動性を可能にする長い配線を有するカスタムフロントエンドアナログエレクトロニクスに通過させるマイクロフォンを再パッケージングした。さらに、容量を最大に設定し、オンボードフィルタリングを、100〜1200 Hzの範囲の周波数帯を包含する「全通過」に設定した。
【0091】
全てのマイクロフォンチャンネルを増幅し、アナログの2ポール1200 Hz低域通過Besselフィルターを介して低域通過フィルタリングした後、8000 HzでNational Instruments DAQPad-6015上にサンプリングした。データを10分区分で記録し、National Instruments LabVIEW 7.1中に書かれたソフトウェアを介して後処理した。
【0092】
γシンチグラフィーも同時に実施して、胃腸運動性を評価した。放射性マーカー(それぞれ、111InCl3および99mTc-DTPA)を含む溶解性硬質ゼラチンカプセルおよび非分解性錠剤を、各被験者に投与した。水を摂らずに摂取したカプセルは最大で2時間、食道に滞留し得ることが知られているため、錠剤およびカプセルを、グラス1杯の水と共に同時に摂取した。
【0093】
当業界でよく知られているように、放射性ヌクレオチドマーカーは様々な特徴的なエネルギーのガンマ線を放出する。かくして、錠剤およびカプセルの含量を別々に追跡することができた。
【0094】
プラスチック中に包み込まれた111InCl3の小さい点光源を含む除去可能なステッカーを、写真間でガンマカメラ下での被験者の着実な配置を確保するための参照として、各被験者の胸部および臀部に置いた。写真を20秒毎に撮影し、γシンチグラフィーシステムにより1分毎に保存された画像を統合した。胃腸管における錠剤およびカプセルの位置を決定し、その後の分析のために記録した。
【0095】
また、溶解性硬質ゼラチンカプセルおよび非分解性錠剤の摂取の間の胃腸音を記録した。記録された音、すなわち、音ファイルを、本発明の実施形態に従う分析器中に保存した。音ファイルを上記に考察されたように処理した。
【0096】
試験の最初の間に、被験者にγシンチグラフィーカメラの下、背臥位で静かなままでいるように求めた。続いて、いくつかのパラメーターを分析した。個々の音の優位周波数、期間、および強度も、全て算出した。
【0097】
音指数(またはSI)も算出した。本明細書で用いられるSIとは、1分間に検出された全ての音に関する絶対振幅の合計を意味し、mV/分で表される。
【0098】
上記で考察されたように、絶食状態では、上部消化管による消化が、通常、胃から小腸の回腸に向かって進行する移動運動複合体(MMC)と共に開始した胃の最大収縮(すなわち、第3期)と共に4段階の周期パターンで起こることが知られている。MMCの間の期間はよく確立されており、典型的には、約2時間である(しかし、1〜3時間の範囲の時間も珍しくない)。
【0099】
試験の間、明確に同定可能なMMCが、3個全部のセンサーにおいて大きいSIにより同定されたように、多くの被験者(約66.7%)において観察された;センサー番号1および番号2は音が最も大きい。
【0100】
ここで図7を参照すれば、γシンチグラフィー評価の概要が示される。図7に反映されるように、全ての試験(しかし、1つでは、すなわち、「外れ値」)において、γシンチグラフィーにより、錠剤が11〜29分(平均18.88分)で胃から排出されることが決定された。かくして、試験錠剤は胃から液体と共に通過したと推察することができる。
【0101】
興味深いことに、「外れ値」は、錠剤の移動なしにMMCを示した。胃内の錠剤移動は、1時間40分のあたりで、チャンネル1で大きい音およびSIに一致して後に来たに過ぎなかった。完全な錠剤の排出は、試験の全期間、すなわち、5時間51分の間に起こらなかった。この原因は明確ではないが、胃腸通過モニタリングの必要性を強調するものである。
【0102】
ここで図8〜14を参照すれば、センサーにより記録された音、すなわち、分音指数対時間を反映するグラフが示される。図8〜14に反映されるように、6つ全部の試験において、錠剤の胃からの排出がモニタリングの間に起こる場合、有意な腸音およびSIが排出時に記録された。5人の被験者においては、胃音をモニターしたチャンネル番号1(またはセンサー番号1)は、その時点で記録された最も高いSIをもたらした。
【0103】
胃前庭部に着地した錠剤は、筋肉の活動が起こる場合、チャンネル番号1において第1の大きい音に対応して移動した。胃前庭部に着地した錠剤は一般的には、2つまたは3つの大きいSIを取り、基底部への移動に対応して第1または第2のSIと共に移動した。
【0104】
「外れ値」については、腸音は一般的には、シンチグラフィーデータに一致していた。1時間40分あたりにMMCが存在するようであったが(すなわち、3つ全てのチャンネルにおける強いシグナル)、錠剤の移動には影響しなかった。しかしながら、その後、次のかなりのSIが、上基底部の最初の位置から胃前庭部への錠剤の移動と共に起こりやすかった。その後、チャンネル1に記録された断続的な音が存在したが、錠剤の移動はなかった。しかしながら注目すべきことは、他の2個のセンサーにおいては非常に低レベルの音であり、これは胃腸全体の休止を暗示している。
【0105】
この試験の結果は、背臥位で静止した被験者においては、本発明のセンサーにより記録された識別可能な腸音は、γシンチグラフィーにより示されるように、錠剤排出に一致することを反映している。実際、胃における錠剤位置(前庭部または基底部)の移動も、大きい音によりマークされた。全体の静かな音は、胃の錠剤排出を決して経験しなかった患者において検出された。また、MMCは数人の被験者においては明確に同定可能であった。
【0106】
本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者であれば、本発明に対する様々な変更および改変を作製して、それを様々な用途および条件に適合させることができるであろう。そのようなものとして、これらの変更および改変は、適切かつ公平なものであり、また以下の特許請求の範囲の等価性の完全な範囲内にあると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の胃腸運動性をモニターするためのシステムであって、
被験者の身体領域の近くに取付け可能な少なくとも1つのセンサーであって、音響学的エネルギーを感知し、該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成するように適合された前記センサーと、
前記音響学的エネルギーシグナルを受信するように適合されたプロセッシングユニットであって、該音響学的エネルギーシグナルを処理し、そこからの少なくとも1つの胃腸事象の発生を決定するようにさらに適合された前記プロセッシングユニットと、
を含む、前記システム。
【請求項2】
前記胃腸事象が胃腸混合、排出、収縮および推進からなる事象より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記センサーが、前記音響学的エネルギーを表す複数の音響学的エネルギーシグナルを生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッシングユニットが、前記音響学的エネルギーシグナルを受信および処理し、そこからの少なくとも1つの胃腸事象の発生を決定するように適合されたものである、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記音響学的エネルギーが胃腸音を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
被験者の胃腸運動性をモニターする方法であって、
被験者の胃腸系により生成された音響学的エネルギーを感知する工程、および
該音響学的エネルギーを処理して、胃腸パラメーターを誘導する工程、
を含む、前記方法。
【請求項7】
前記胃腸パラメーターが胃腸事象を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記胃腸事象が胃腸混合、排出、収縮および推進からなる事象より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記胃腸パラメーターが胃腸通過時間を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
被験者の胃腸パラメーターを、該被験者への医薬の投与により該被験者において誘導された少なくとも1つの生理学的パラメーターと比較する工程を含む、被験者から誘導された臨床データを評価する方法。
【請求項11】
被験者から誘導された臨床データを評価する方法であって、
医薬組成物を含む医薬を該被験者に経口投与する工程、
該被験者の胃腸系により生成された音響学的エネルギーをモニターする工程、
該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成させる工程、
該音響学的エネルギーシグナルを処理して、それに関連する胃腸パラメーターを誘導する工程、および
該胃腸パラメーターを、前記医薬の前記被験者への投与により該被験者において誘導された少なくとも1つの生理学的パラメーターと比較する工程、
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記胃腸パラメーターが胃腸通過時間を含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記生理学的パラメーターが薬物動態(PK)特性を含む、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
被験者の胃腸運動性を評価する方法であって、
摂取可能物質を該被験者に経口投与する工程、
該被験者の胃腸系により生成された音響学的エネルギーをモニターする工程、
該音響学的エネルギーを表す少なくとも1つの音響学的エネルギーシグナルを生成させる工程、および
該音響学的エネルギーシグナルを処理して、それに関連する胃腸パラメーターを誘導する工程、
を含む、前記方法。
【請求項15】
前記胃腸パラメーターが胃腸通過時間を含む、請求項13に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−509996(P2010−509996A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537288(P2009−537288)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/084378
【国際公開番号】WO2008/063938
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(597173680)スミスクライン ビーチャム コーポレーション (157)
【Fターム(参考)】