説明

胚性幹細胞の成長

【課題】胚性幹細胞をインビトロで成長させる方法、およびそのためのシステムを提供する。
【解決手段】胚性幹細胞(ESC)をインビトロで成長させる方法であって、a)多孔性膜の表面をESCと接触させること;b)固体支持体の表面をフィーダー細胞と接触させること;c)培養培地を前記ESCに供給すること;d)培地を前記フィーダー細胞に供給することを含み、前記多孔性膜は、d)の培地と流体連通している方法。また、マルチウェルプレートを用いる、ESC成長用システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細胞生物学の分野に関する。ある特定の実施形態において、本発明は、幹細胞の成長に関するシステム、キットおよび方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ESC)は、受精後のあらゆる時点での前胚組織、胚組織または胎児組織に由来し得る。様々なタイプの幹細胞の単離および成長が、以前に記載されている。例えば、Robertson,1997,Methods of Cell Biology 75:173;Thompsonら,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844;Thompsonら,1998,Science 282:114;米国特許第5,166,065号、同第5,332,672号、同第5,405,772号、同第5,453,357号、同第5,639,618号、同第5,672,499号、同第5,843,780号、同第5,914,268号、同第5,922,597号、同第5,968,829号、同第6,040,180号、同第6,090,622号、同第6,833,269号、同第6,506,574号、同第6,458,589号、同第6,667,176号、同第7,041,438号;国際特許公開 WO 99/20741参照。
【0003】
適切な条件下で培養した場合、ESCは、インビトロで未分化状態で無限増殖することができ、正常な核型を保持し、ならびに3つすべての胚性胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)の誘導体に分化する能力を保持する。
【0004】
ESCは、広範な応用の可能性を有する。いくつか挙げてみると、創薬の分野および基礎科学研究においてこれらは有用であり得る。医薬品開発過程における早期発見には、ターゲットの同定および確認が必要である。ターゲット確認の1つの要素は、遺伝子修飾動物モデルの使用である。医薬品開発に加えて、発現経路および疾病状態の基本的な解明には、一定の機能喪失(「ノックアウト」)および機能獲得(「ノックイン」)動物モデルが必要である。
【0005】
ヒト幹細胞は、自己免疫疾患、感染性疾患、臓器および組織移植ならびに外傷性損傷および加齢をはじめとする広範な疾病および状態の治療に特に有用であり得る。様々な供給源からのヒトESCの成長および維持は、その後のすべての応用の出発点となる。しかし、ヒト幹細胞を成長させるという課題は、気が遠くなるような課題である。ヒト幹細胞を成長させるための現行のプロトコルは、多くの場合、ヒトESCと直接接触している成長したフィーダー細胞(マウス胚線維芽細胞)の使用を含むか、またはマウス胚線維芽細胞によって馴致された培地の存在下、マトリックス、例えばコラーゲンまたはフィブロネクチンなどを用いてヒトESCを成長させることを含む。
【0006】
ESCは、遺伝子修飾マウスモデルの開発において欠くことのできないツールである。ESCに適用された遺伝子改変が、工学処理されたマウスの遺伝子型に確実に維持されるためには、ESCが、培養操作、増殖およびその後の胚盤胞注入を通して完全な多能性を保持しなければならない。このESCが未分化状態で維持されるという要件は、クローンの単離および増殖中の一般的な課題である。一般に、現在の方法は、2つの細胞タイプが直接接触している共培養でESCとマウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダー層とを共培養することにより、これを達成する。このプロセスは、96ウエル組織培養処理プレートにおいて、現在行われている。
【0007】
作業の流れは複雑であり、96ウエルプレートでのMEFの培養、γ線照射によるMEFの有糸細胞分裂不活性化またはこれらの過剰成長を防止するためのマイトマイシンCでの処理、およびその後、MEFを除去した後の胚盤胞注入のためのESC使用を含む。必要とされる多数の段階に加えて、ESC−MEFの共培養物は、非常に代謝活性であり、その結果、96ウエル形式でのより少ない培地量のために培地を1日2回交換する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、任意の供給源からのESCをインビトロで成長および維持するための条件は、一般に複雑であり、時間がかかり、大きな労力を要し、困難であり、費用がかかる。従って、比較的単純であり、容易に使用でき、人材および財源の最小支出で一貫した結果をもたらす、ESCをインビトロで成長させるために適する方法、システムおよびキットに対する要求がある。本明細書に開示する本発明の一定の実施形態は、これらの要求を満たすものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一定の実施形態において、本発明は、ESCを多孔性膜の表面で成長させることができるという驚くべき発見に関する。この多孔性膜は、フィーダー細胞を含む細胞培養物と流体連通した状態であることができ、この結果、フィーダー細胞層と、もしくは細胞外基質タンパク質を含む基質と、またはこれら両方とESC細胞を直接接触させる必要をなくすことができる。
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、ESCをインビトロで成長させる方法を提供し、この方法は、a)多孔性膜の表面をESCと接触させること;b)固体支持体の表面をフィーダー細胞、例えば胚線維芽細胞、胎児線維芽細胞、と接触させること;c)培地を前記ESCに供給すること;d)培地を前記フィーダー細胞に供給することを含み、前記多孔性膜は、d)の培地と流体連通している。
【0011】
他の実施形態において、本発明は、組織培養プレートにおいてESCを成長させる方法を提供し、このプレートは1つ以上のウエルを含み、これらのウエルの各々は、多孔性膜挿入体とおよびこの多孔性膜挿入体と液体連通する位置に置かれた固体支持体とを含み、この方法は、a)多孔性膜の表面をESCと接触させること;b)前記多孔性膜挿入体の真下に位置する固体支持体の表面をフィーダー細胞と接触させること;c)培地を前記ESCに供給すること;d)培地を前記フィーダー細胞に供給することを含む。
【0012】
さらに他の実施形態において、本発明は、ESCをインビトロで成長させるためのシステムを提供し、このシステムは、固体支持体と、この固体支持体と流体連通している多孔性膜とおよびESCを成長させるために適する培地とを含む。このシステムは、以下のうちの1つ以上をさらに含むことができる。フィーダー細胞(例えば、胚線維芽細胞、胎児線維芽細胞)、胚性幹細胞、培地添加物、哺乳動物血清、必須アミノ酸、抗生物質、ならびに一般に、形質転換株、成長因子および白血病抑制因子(LIF)から遺伝学的に選択される物質。
【0013】
さらに他の実施形態において、本発明は、ESCを成長させるためのシステムを提供し、このシステムは、組織培養プレートとESCを成長させるために適する培地とを含み、この培養プレートは、1つまたはそれ以上のウエルを含み、これらのウエルの各々は、多孔性膜挿入体と、この多孔性膜挿入体と液体連通する位置に置かれた固体支持体とを含む。このシステムは、線維芽細胞、例えば胚線維芽細胞、胎児線維芽細胞および/またはESCをはじめとするフィーダー細胞、培地添加物、哺乳動物血清、必須アミノ酸、抗生物質、形質転換株を遺伝的に選択する薬剤、成長因子および白血病抑制因子(LIF)から選択される物質をさらに含むことができる。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明は、ESCを成長させるためのキットを提供し、このキットは、固体支持体と、この固体支持体と流体連通している多孔性膜と、少なくとも1つの容器とおよびESCを成長させるための説明とを含む。このキットは、以下のうちの1つ以上を場合により含むことができる。ESCの成長に適する培養培地;胚線維芽細胞の成長に適する培地;ESC;フィーダー細胞、例えば胎児線維芽細胞、胚線維芽細胞;1つ以上のバッファまたは洗浄溶液および培地添加物。
【0015】
胚性幹細胞を成長させる方法
一定の実施形態において、本発明は、単純化されており、信頼でき、比較的容易に実行することができる、インビトロでESCを成長させる方法を提供する。細胞を未分化状態で維持することができる。一部の実施形態において、この方法は、ESCとフィーダー細胞を共培養することを含み、フィーダー細胞層とESC層との直接的な物理的接触の必要をなくする。従って、本発明は、フィーダー細胞により馴致された培地をESCが利用できるように、例えば多孔性膜により、ESCとフィーダー細胞層を物理的および空間的に分離することができる、インビトロでESCを成長させる方法を提供する。フィーダー細胞層とESC層を物理的に分離することから、幾つかの潜在的な利点が得られる。フィーダー細胞層の成長を削減する必要がもはやないため、フィーダー細胞の有糸細胞分裂を不活性化する必要ももはやない。従って、マイトマイシンCまたはγ線などの作用因子の使用をなくすることができる。これら両方の作用因子は、潜在的に毒性であり、それ故、フィーダー細胞それら自体のものであるウエルに関する懸念ばかりでなく、マイトマイシンCの場合には、これらの条件下で発生するESCの潜在的下流使用に関する懸念も提起し得る。
【0016】
ESCとフィーダー細胞層の物理的分離は、例えば顕微鏡による、ESCコロニーの観察を容易にし、従って、ESCの成長および状態をより良好にモニターする手段となる。加えて、これら二層の分離は、希釈クローニングまたは下流操作(例えば形質移入、動物もしくは胚盤胞への移植)のためのESCコロニーの単離およびまたは回収を容易にする。
【0017】
他の実施形態において、本発明は、多孔性膜上でESCを成長させる方法を提供する。本発明者らは、多孔性膜の表面が、ESCを成長させるために特によく適しており、それ故、これにより、ヒトESCを成長させるために一般に使用される細胞外基質タンパク質から成る基質が必要なくなり、従って、試薬費用がなくなることで時間も金銭も節約できることを発見した。
【0018】
ESCの接種密度は、培養皿またはウエルのサイズに従って調整することができる。当業者は、接種密度を容易に決定することができる。(例えば、系列希釈により)単個細胞分離株からのクローンを拡張するために、または細胞分割後の確立された株系統の拡張のために、幹細胞を成長させることができる。前のケースでは、分割培養物から通常のな希釈により細胞を拡張して、幹細胞の通常の細胞増殖密度(すなわち、集密度20から80%)を確保し、その後、例えば、所望の密度に依存して1:2、1:4に再び分割することができる。一部の実施形態において、例えばESCがヒト由来のものである場合、全体の培養集密度に関係なく、コロニーが安定なサイズに達するまで細胞を成長させ、その後、分割することができる。一例として、96ウエル膜プレート(図1)に細胞を接種すべき場合、ESCは、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコなどをはじめとする供給源を起源とする接種幹細胞であり得る。1つの実施形態において、前記幹細胞、例えばESCは、マウスESCであってもよい。もう1つの実施形態において、前記幹細胞は、例えばヒトESCであってもよい。
【0019】
幹細胞は、胚外膜、組織および胚自体を形成する能力を有する全能幹細胞であってよい。この幹細胞は、生物の大部分の組織、例えば内胚葉、中胚葉または外胚葉由来の組織を生じさせる能力を有する多能性幹細胞であってよい。前記幹細胞は、複能性幹細胞、例えば造血幹細胞であってよい。
【0020】
幹細胞を培養胚盤胞から単離し、単一祖先に由来するコロニーを選択することができるように、培養で1回またはそれ以上継代させることができる。前記幹細胞を遺伝的に人工処理して、望ましい形質または遺伝子型を発現させることができる。当分野において知られている標準的な技法、例えば、荷電脂質を用いるまたはエレクトロポレーションを用いる形質移入を用いて、遺伝物質を細胞に移入することができる。移入される遺伝物質は、ヒグロマイシン耐性などの選択可能マーカーを含むことができる。
【0021】
一定の実施形態において、ESCを未分化状態で維持することが望ましいであろう。ESCの分化をモニターするために、幾つかのマーカーを利用することができる。一例として、細胞表面タンパク質OCT−3/4およびSSEA−1の高発現レベルは、未分化ESCを示す。同様に、高レベルのアルカリホスファターゼ活性も、未分化ESCを示す。対照的に、ESCの分化は、Oct 3/4、アルカリホスファターゼ発現、SSEA(ヒトもしくはマウス特異的)などのマーカーの喪失、および/または胚葉特異的マーカーの増加により、表される。
【0022】
任意の適するフィーダー細胞を本発明において使用することができる。適するフィーダー細胞は、有意な細胞死または分化を伴わずにESCを成長および継代させることができる。いずれの特定の理論にも拘束されないが、フィーダー細胞が適切な細胞因子を分泌することにより培養中のESCを生きつづけさせ、未分化で保つように機能するということが示唆されており、一方、より最近、フィーダー細胞がスポンジとして機能し、ESCによって生産される成長因子を離隔するという示唆も出されている。ESCの分化を一般に生じさせる因子を離隔することにより、ESCは未分化状態で維持される。前記フィーダー細胞は、線維芽細胞、例えば、胚線維芽細胞、胎児線維芽細胞であり得る。前記線維芽細胞は、臍帯由来であり得る。前記線維芽細胞の起源は、哺乳動物、例えばヒト、マウスなどであり得る。
【0023】
固体支持体および多孔性膜
固体支持体は、本発明の一定の実施形態において、フィーダー細胞を成長させるための基質として使用し得る。本発明の1つの実施形態の1つの例として、マルチウエルプレートをESCの培養に利用することができる。このプレートは、フィーダー細胞を培養するために使用することができるプラスチックなどの適する材料から成る、底トレーから成る。したがって、このトレーの上に位置する多孔性膜から成る挿入体上でESCを培養することができる。前記挿入体は、これらの挿入体を前記底トレーにしっかりと取り付けることができるような取り付けまたは固定手段から成ることができる。加えて、固体支持体は、下で説明するような、多孔性膜のための基礎として使用することができる。例えば、多孔性膜を固体支持体の上に位置づけてもよいし、固体支持体の中、例えば縁の周囲に、部分的に配置してもよい。この固体支持体は、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリマーをはじめとする任意のプラスチック材料から成り、従って、平坦であり得る堅い非展性の表面として形成することができる。
【0024】
一部の実施形態において、固体支持体は、一体的な構造、例えば単一組織培養ウエル、皿、プレート、フラスコなどから成ることができる。一例として、前記固体支持体は、フィーダー細胞を成長させるための単一ウエルを有する基礎と、この基礎の上またはこのウエルの中に位置する挿入体とから成る単一の組織培養皿として形作ることができ、この場合、挿入体は、固体支持体と、ESCを成長させるために適する多孔性膜とから成る。または、固体支持体は、複合装置として形作ることができる。この実施形態において、基礎は、フィーダー細胞を成長させるために適する1つ以上のウエルから成ることができ、一方、挿入体は、固体支持体とESCを成長させるために適する多孔性膜とを含むマルチウエルプレートとして形作ることができる。一般に、固体支持体は、フィーダー細胞がESCの基底外側に位置づけられ、ESC頂端表面が多孔性膜の上面に向くように形作られる。
【0025】
一部の実施形態において、固体支持体は、中空糸バイオリアクターにおいて使用されるセルロースまたは酢酸セルロースチューブのような展性ポリマーから成ることができる。前記チューブが多孔性である場合、これは、固体支持体としても多孔性膜としても役立つことができる。一例として、ESCを前記チューブの片側で成長させ、フィーダー細胞をこのチューブの反対側で成長させることができる。または、フィーダー細胞とESCの両方を、前記チューブの周囲の毛管外空間内の別のチューブで成長させることができる。
【0026】
本発明において使用される多孔性膜は、当分野では公知のあらゆる多孔性材料から成ることができる。適する多孔性材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリマークラッドファイバー(例えば、Millicell(登録商標))(マサチューセッツ州、ビレリカのMillipore Corp.)、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、例えばアガロース、セルロース、多糖類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、フルオロカーボン、例えばポリ(テトラフルオロエチレン−co−過フルオロ(アルキルビニルエーテル))、ポリカーボネート、ポリエチレン、ガラス、セラミック、ナイロンおよび金属が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
システム
本発明の一定の実施形態は、幹細胞をインビトロで成長させるためのシステムを提供する。このシステムは、固体支持体とおよびこの固体支持体と流体連通している多孔性膜とを含むことができる。この固体支持体は、フィーダー細胞(例えば胚線維芽細胞)を成長させるために適切であり得る。このシステムは、以下のうちの1つ以上を含むことができる。ESCを生長させるための培地;フィーダー細胞を成長させるために適する培地;フィーダー細胞、洗浄バッファおよびESCとフィーダー細胞を間接的に共培養するための追加の試薬(例えばLIF、フィブロネクチンまたは他の細胞外基質タンパク質)。
【0028】
キット
本発明は、一部の実施形態において、ESCをインビトロで成長させるために使用することができるキットも提供する。このキットは、固体支持体;この固体支持体と流体連通した状態になるように適切に形作ることができる多孔性膜;少なくとも1つの容器;およびESCを成長させるための説明を含むことができる。場合により、このキットは、ESCおよびMEFを成長させるための1つ以上の異なる細胞培養培地を含むことができる。これらの培地は、液体または粉末形態で提供することができる。このキットは、細胞培養試薬およびサプリメントを含み得、また例えばグルタミンおよび必須アミノ酸なども含むことができる。前記サプリメントも、液体または粉末形態で提供することができる。同様に、このキットは、1つ以上のバッファおよび/または洗浄溶液を含むことができる。前記バッファおよび洗浄溶液も、液体または粉末形態で提供することができる。このキットは、1つ以上の細胞サンプル、例えばESC、フィーダー細胞(例えば、MEF)も含むことができる。これら細胞は、下流の応用のための出発原料として役立つことがあり、または将来の実験のための対照として役立つことがある。これら細胞は、冷凍して、各々、別容器で提供することができる。固体支持体および多孔性膜は、包装された、いつでも使用できる状態の組立て済みの形態で提供することができ、またはまだ組立てられていない部品が場合により別に包装されている未組立て形態で提供することができる。説明は、1つ以上の言語、例えば英語、フランス語、ドイツ語、日本語などで提供することができる。
【実施例1】
【0029】
フィブロネクチン被覆プロトコル
材料
フィブロネクチン 0.1%溶液(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
未処理の一次マウス胚線維芽細胞株 CF−1(MEF)(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon)
MEF培地:DMEM(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
10% ウシ胎仔血清(ユタ州、ローガンのHyclone)
1% Glutamax−1(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% PenStrep(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% 非必須アミノ酸(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
DPBS(ユタ州、ローガンのHyclone)
【0030】
フィブロネクチン(0.1%溶液)(ミズーリ州、セントルイスのSigma)を滅菌し、DPBSで25μg/mLに希釈した。十分な、DPBS中のフィブロネクチン(25μg/mL)を添加して、単一ウエルトレーを被覆した(1トレーにつき約5から10mL)。このトレーを室温で少なくとも45分間インキュベートした。MEFを接種する前に、過剰なフィブロネクチンを除去した。−80℃の冷凍器に保管されていたMEFを解凍した。このMEFバイアルを37℃の水浴中で穏やかに振盪した。予め温めておいた10mLのMEF培地が入っている15mL試験管にこのMEFを移した。細胞を1000rpmで4分間ペレット化した。上清を除去し、予め温めておいた新たなMEF培地に細胞を再懸濁させた。フィブロネクチン被覆単一ウエルフィーダートレーにMEFフィーダー細胞懸濁液を接種した。1つの単一ウエルトレーにつき1.67×10のMEF細胞を接種し、結果として、24時間以内に集密度95%になった。このプレートに蓋をかぶせ、37℃で一晩インキュベートした。
【実施例2】
【0031】
フィーダー細胞と胚性幹細胞の間接的共培養
使用した材料:
Millipore Cell Culture Filter PlatesおよびSingle Well Feeder Trays 24ウエルと0.4μm PCF膜または1.0μm PET膜。
【0032】
96ウエル 0.4μm PCF膜(マサチューセッツ州、ビルリカのMillipore Corp.)
ESC培地:Knock out DMEM(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
20% ES qualified Serum(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% Glutamax−1(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% PenStrep(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% 非必須アミノ酸(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
0.1% ESGRO(登録商標)(LIF)(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon)
0.1% 2−メルカプトエタノール(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
MEF培地:
DMEM(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
10%ウシ胎仔血清(ユタ州、ローガンのHyclone)
1% Glutamax−1(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% PenStrep(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
1% 非必須アミノ酸(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
ゼラチン2%溶液(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
未処理の一次マウス胚線維芽細胞株 CF−1(MEF)(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon)
マイトマイシンC パウダー(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
129/S6 マウス胚性幹細胞(ESC)(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon)
DPBS(ユタ州、ローガンのHyclone)
TrypLE(商標)Select(1X)、液体(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)
アルカリホスファターゼ検出キット(カリフォルニア州、テメキュラのChemicon)
フィブロネクチン0.1%溶液(ミズーリ州、セントルイスのSigma)
【0033】
1日目、T75フラスコをDPBS中0.1%のゼラチン(10mL)で被覆し、少なくとも30分間37℃でインキュベートした。−80℃の冷凍器に保管されていたマウス胚線維芽細胞(MEF)を解凍し、このMEFバイアルを37℃の水浴中で穏やかに振盪した。予め温めておいた10mLのMEF培地が入っている15mL試験管にこのMEFを移した。細胞を1000rpmで4分間ペレット化した。上清を除去し、予め温めておいた新たなMEF培地に細胞を懸濁させた。接種前にフラスコから過剰なゼラチンを除去した。このフラスコにこのMEFフィーダー細胞懸濁液を接種した。細胞を37℃で一晩インキュベートした。T75フラスコ中、25mLのMEF培地当たり3.75から5×10のMEF細胞を使用することにより、結果として、24時間以内に集密度95%になった。
【0034】
2日目、MEFフィーダー細胞をマイトマイシンCで処理して、これらの細胞を有糸細胞分裂不活性にした。このマイトマイシンCは、2mgであった粉末ストックを使用して調製した。この粉末を4mLの滅菌HOに溶解して、500μg/mL溶液を作った。用いた作業濃度は、MEF培地中10μg/mLであった。これらの細胞を37℃で2時間インキュベートした。マイトマイシンCを伴うMEF培地を除去し、予め温めておいたDPBSで細胞を3回洗浄した(T75フラスコ1つの洗浄につき10mL)。新たな胚性幹細胞(ESC)培地を添加し、ESCを接種する準備が整うまで細胞を37℃でインキュベートした。液体窒素タンクの中に保管してあったマウスESCを解凍した。細胞が入っているバイアルを37℃の水浴の中で穏やかに振盪した。予め温めておいた10mLのESC培地が入っている15mL試験管にESCを移した。細胞を1000rpmで4分間ペレット化した。上清を除去し、予め温めておいた新たなESC培地に細胞を再懸濁させた。有糸細胞分裂不活性化MEFフィーダー層とESC培地が入っているフラスコにESC懸濁液を接種し、これには、T75フラスコ中の30mLのESC培地当たり4.5×10のESC細胞を用いた。これらの細胞を37℃で一晩インキュベートした。
【0035】
3日目、MEFフィーダー層上のESCにESC培地を供給した。4日目、必要に応じて、比率1:2で、MEFフィーダー層上のESCにESC培地を供給するか、MEFフィーダー層上のESCを継代させた。一般に、ESCを放置して、集密度20から80%の範囲の密度に成長させ、その後、分割した。5から8日目は、4日目の手順をたどった。ESC解凍後、マルチウエル細胞培養フィルタープレートに接種する前に、一般には2から3継代させた。
【0036】
9日目、MEFフィーダー層上のESCにESC培地を供給した。単一ウエルフィーダートレーをDPBS中のフィブロネクチンで被覆し、45分間室温でインキュベートした。ストック溶液は、0.1%フィブロネクチン(1000μg/mL)であった。用いた作業濃度は、滅菌DPBS中25μg/mLであった。十分な、DPBS中のフィブロネクチン(25μg/mL)を添加して、単一ウエルトレーを被覆し、これには、1トレーあたり約5から10mLを用いた。過剰なフィブロネクチンを除去した。この単一ウエルトレーはすぐに使用できる。
【0037】
−80℃の冷凍器の中に保管されていたMEFを解凍した。この細胞バイアルを37℃の水浴の中で穏やかに振盪した。予め温めておいた10mLのMEF培地が入っている15mL試験管にMEFを移した。これらの細胞を1000rpmで4分間ペレット化した。上清を除去し、予め温めておいた新たなMEF培地にこれらの細胞を懸濁させた。フィブロネクチン被覆単一ウエルフィーダートレーにMEFフィーダー細胞懸濁液を接種した。一般に、単一ウエルトレー1つ当たり1.67×10のMEF細胞を使用すると、結果として、24時間以内に集密度95%になった。このトレーに蓋をかぶせ、37℃で一晩、インキュベートした。
【0038】
10日目、以下のプロトコルに従って、ESCおよびMEFフィーダー細胞をT75フラスコから除去した。予め温めておいたDPBSでフラスコを2回洗浄した(各洗浄につき10mL)。フラスコを洗浄1回ごとに1から2分放置した。DPBSを除去し、フラスコ1つ当たり3mLのTrypLE(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)を添加した。このフラスコを室温で2から3分間インキュベートした。顕微鏡の下でこのフラスコを観察し、細胞が球形になりフラスコから剥がれたたら、ESC培地を添加して、このTrypLE(カリフォルニア州、カールスバッドのInvitrogen)を失活させた。このフラスコを十分に混ぜ、洗浄して、フラスコからすべての細胞を除去した。ESCとMEFフィーダー細胞を次のように分離した。ESC/MEF細胞懸濁液を新たなT75フラスコに移し、37℃で45分間インキュベートした;非付着細胞を除去し、もう1つの新しいT75フラスコに移し、37℃で45分間インキュベートした;非付着細胞を除去し、細胞培養フィルタープレートのウエルにESC懸濁液を接種した。96ウエル細胞培養フィルタープレートについては、100μLのESC培地中、1ウエル当たり200から500の細胞を頂上のウエルに接種した。24ウエル細胞培養フィルタープレートについては、400μLのESC培地中、1ウエル当たり1000から1500の細胞を頂上のウエルに添加した。単一ウエルトレーからMEF培地を除去し、ESC培地で置換した。これには、1トレー当たり32mLのESC培地を使用した。このESC接種細胞培養フィルタープレートをこの単一ウエルトレーに追加し、この組立品を37℃で一晩、インキュベートした。
【0039】
12および14日目、このESCとMEFの間接的共培養物にESC培地を供給した。16日目、キット(Alkaline Phosphatate Detection kit)(ジョージア州、ノルクロスのSerologicals Corporation)をこの製造業者の説明に従って使用してESCをアルカリホスファターゼ活性について分析した。結果は、未分化のままであるフィーダー細胞からの培地と流体連通を有する多孔性膜上でESCが成長したことを実証した(図2および3)。LIF(ESGRO(登録商標))(ジョージア州、ノルクロスのSerologicals Corporation)が培地中に存在した実験では、これを、試験ESCの増殖を通して1000単位/mLの濃度で、および指示のある場合には(初期増殖後)実験的に同じ濃度で使用した。
【0040】
本明細書および特許請求の範囲において用いている、成分の量を表示するすべての数および反応条件などは、すべての場合、用語「約」で修飾されていると理解しなければならない。従って、そうでないと示されていない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に依存して変わり得る近似値である。少なくとも、および本特許請求の範囲と均等説の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは、有効桁数および通常の丸めアプローチに鑑みて解釈しなければならない。
【0041】
当業者には明らかであるように、本発明の精神および範囲を逸脱することなく本発明の多くの変更および変形を行うことができる。本明細書において説明した特定の実施形態は、単に例として提供したものであり、如何様にも限定を意味しない。本明細および実施例は、単に例示的なものと考えられ、本発明の真の範囲および精神は、特許請求の範囲によって示されると解釈する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ESCをインビトロで成長させるために適するマルチウエルプレートを含む、本発明の一定の実施形態における使用に適する組織培養プレートの一例を示す。
【図2a】96ウエルプレートにおいてインビトロで成長させたESC培養物の写真を示す。各ウエルは、フィーダー細胞を含む下方のプラスチックトレーに挿入された上方の0.4μm PCF膜を含む。図2aは、6日後のアルカリホスファターゼ活性を染色した、様々な条件下で成長させたESCコロニーを示す。図2bは、アルカリホスファターゼ活性を染色した、クローン選択のために系列希釈した、様々な条件下で成長させたESCコロニーを示す。
【図2b】96ウエルプレートにおいてインビトロで成長させたESC培養物の写真を示す。各ウエルは、フィーダー細胞を含む下方のプラスチックトレーに挿入された上方の0.4μm PCF膜を含む。図2aは、6日後のアルカリホスファターゼ活性を染色した、様々な条件下で成長させたESCコロニーを示す。図2bは、アルカリホスファターゼ活性を染色した、クローン選択のために系列希釈した、様々な条件下で成長させたESCコロニーを示す。
【図3】96ウエルプレートにおいてインビトロで成長させたESC培養物の写真を示す。このプレートにおける各ウエルは、下方のプラスチックフィーダートレーに挿入された上方の1.0μm PET膜を含む。これらの図は、マイトマイシンCと白血病抑制因子(LIF)またはマイトマイシンC単独で処理したフィーダー細胞層を比較する。
【図4】96ウエルプレートにおいてインビトロで成長させたESC培養物の写真を示す。ウエルは、下方のプラスチックフィーダートレーに挿入された上方の1.0μm PET膜を含む。フィーダートレー内のフィーダーウエルは、マウス胚線維芽細胞(MEF);MEFとLIFまたはLIF単独を含んでいたか;培地を除き何も含んでいなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚性幹細胞(ESC)をインビトロで成長させる方法であって、a)多孔性膜の表面をESCと接触させること;b)固体支持体の表面をフィーダー細胞と接触させること;c)培養培地を前記ESCに供給すること;d)培地を前記フィーダー細胞に供給することを含み、前記多孔性膜は、d)の培地と流体連通している方法。
【請求項2】
前記ESCが、未分化状態で維持されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ESCが、マウス胚性幹細胞およびヒト胚性幹細胞から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィーダー細胞が、線維芽細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記線維芽細胞が、マウスおよびヒト線維芽細胞から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記線維芽細胞が、胚線維芽細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ESC培養培地が、血清を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ESC培養培地が、LIFを場合により含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記多孔性膜および固体支持体が、マルチウエルプレートに備え付けられている、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記マルチウエルプレートが、6、12、48または96ウエルから成るプレートから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記多孔性膜が、ポリマーから成る、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーが、ポリエチレンテレフタレート、ポリマークラッドファイバー、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、アガロース、セルロース、多糖類、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエステル、フッ化ポリビニリデン、ポリプロピレン、フルオロカーボン[例えばポリ(テトラフルオロエチレン−co−過フルオロ(アルキルビニルエーテル))]、ポリカーボネート、ポリエチレン、ガラス、セラミック、ナイロンおよび金属から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
固体支持体と、前記固体支持体と流体連通している多孔性膜とおよび、ESCを成長させるために適する培養培地とを含む、ESCをインビトロで成長させるためのシステム。
【請求項14】
胚線維芽細胞をさらに含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記多孔性膜および固体支持体が、マルチウエルプレートに備え付けられている、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記マルチウエルプレートが、6、12、48または96ウエルから成るプレートから選択される、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
ESCをさらに含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記ESCが、マウスESCおよびヒトESCから選択される、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
固体支持体と、前記固体支持体と流体連通している多孔性膜と、少なくとも1つの容器とおよびESCを成長させるための説明とを含む、ESCを成長させるためのキット。
【請求項20】
前記多孔性膜および固体支持体が、マルチウエルプレートに備え付けられている、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
組織培養プレートにおいてESCを成長させる方法であって、前記プレートは1つまたはそれ以上のウエルを含み、これらのウエルの各々は、多孔性膜挿入体とおよび、前記多孔性膜挿入体と液体連通する位置に置かれた固体支持体とを含み、a)多孔性膜の表面をESCと接触させること;b)前記多孔性膜挿入体の真下に位置する固体支持体の表面を胚線維芽細胞と接触させること;c)培養培地を前記ESCに供給すること;d)培養培地を前記胚線維芽細胞に供給することを含む方法。
【請求項22】
前記培地が、無血清である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−17840(P2008−17840A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−164817(P2007−164817)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(390019585)ミリポア・コーポレイション (212)
【氏名又は名称原語表記】MILLIPORE CORPORATION
【Fターム(参考)】